2日、閣議決定された出入国管理法の改正案では、外国人を受け入れる企業などには、日本語教育を含めた生活支援や日本人と同等以上の賃金水準の確保を実質、義務づけるとしています。こうした取り組みをすでに行っている企業からは、今回の改正案では外国人の受け入れ拡大は厳しいのではないかと指摘する声も上がっています。

首都圏を中心に道路や水道、ガスの工事を施工している東京 世田谷区の建設会社は、3年前からベトナム人の外国人技能実習生を受け入れていて、現在、およそ30人が働いています。

この会社は意欲を持って働く人を確保するため、1年目の月給は日本人と同じ水準の月22万円にボーナスを支給し、2年目は24万円、3年目は2倍の48万円をそれぞれボーナスに加算する仕組みにしています。
建設業に興味を持つことがやる気を引き出し、仕事を早く覚えることにつながるということで、おととしにはベトナムに研修所をつくり、1か月半の間、事前研修を受けてから来日する仕組みに改善しました。
さらに、川崎市内にも研修所を開設し、仕事の進め方や道具の使い方をまとめたベトナム語の冊子を作成したほか、休日には日本語の教育を行うなど、これまで1億円以上を投資してきたということです。

外国人技能実習生の1人で、2年目のグェン・ヴァン・ハイさん(27)は、家族や恋人をベトナムに残して日本で働いていて、会社の寮に暮らしながら月におよそ8万円を母親や弟に仕送りをしています。

外国人技能実習制度は家族を同伴することが認められていないため、ハイさんは5年間、日本で働いたあと、ベトナムに帰ることにしています。

出入国管理法の改正案について、ハイさんは「30歳で結婚しようと思っている。日本で長く働きたいけれども家族と暮らせないのならば、選ばないと思う」と話していました。

建設会社の川端顯善専務は「人手不足のなか、1人でも多くの働き手を確保するため、外国人技能実習生を受け入れ、日本人と同じ水準の給料と福利厚生、日本語教育を行うなど支援してきた。しかし、今、ベトナムでは韓国などと人の取り合いになっていて、労働条件をよくしないと人材が採用できない。会社としては長く勤めてほしいが、ベトナム人は長い期間、家族の同伴ができないことに抵抗感を持っているようなので、政府が考える制度では外国人材は増えないのではないか」と話しています。

■外国との最低賃金の差縮まる

外国人労働者はいつまでも「呼べば来てくれる」存在でいるわけではないと民間のシンクタンクは分析しています。

民間のシンクタンク「第一生命経済研究所」は、外国人労働者が日本に来る大きな動機である賃金の差について、日本の最低賃金と各国の最低賃金をもとに同じ時間労働した場合、自分の国よりもどのくらい多くの賃金が得られるのか調べました。

その結果、おととしの時点で、ベトナムが23.5倍、ネパールが14.1倍、フィリピンが4.1倍、中国が3.9倍となっていて、日本との差が徐々に縮まってきているということです。

その理由について、「第一生命経済研究所」の副主任エコノミストの星野卓也さんは、新興国では経済成長に伴い、日本を上回るペースで賃金が上昇していることが理由だと分析しています。

そのうえで、この傾向が今後も続くものと見込まれることから、「外国人労働者の受け入れの拡大は、企業の人手不足を一定程度解消することになるが、いつまでも同じ状況が続くとは限らない」と話しています。

■外国人の権利保護の改善が必要

外国人労働者の問題に詳しい指宿昭一弁護士は「現在は門戸を開ければ、ある程度の外国人には来てもらえると思うが、何年先も同じ状況だとは言えない。アジアの国や地域では外国人労働者の受け入れに積極的になっているので、日本では賃金が低いとなれば来てくれなくなると思う。日本は今も外国人労働者の権利と人権が守られていない状況があり、まずそこを改善しないといけない。そして、家族と一緒に暮らすのは人間の基本的な権利なので、認めるなど共生社会の実現に向けて必要な時間をかけてしっかり議論をするべきだ」と話しています。

NHKニュース
2018年11月2日 20時20分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181102/k10011696561000.html