■安倍3期目最初の仕事は「カツカレー食い逃げ犯人捜し」? 総裁選論評で異彩を放つ農業新聞

石破茂・元幹事長との一騎打ちに勝利し、自民党総裁3選を果たした安倍晋三首相。予想通りの結果とはいえ、石破氏が党員票で45%の得票率を得たことで「安倍圧勝」の雰囲気は党内にはない。そこで、新聞各紙の論調を読み比べてみよう。

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 21日付の新聞各紙は、勝利した安倍陣営に厳しい指摘が相次いだ。読売新聞は「敵は惰性、おごり、飽き」と題した伊藤俊行政治部長の解説を一面に掲載。「結局、『最後の3年』の成否は、安倍氏の言葉通り『謙虚で丁寧』な政治を推進力にできるかどうかにかかっている」と指摘している。読売と同じく、首相の単独インタビューをたびたび掲載する産経新聞も、社説で「謙虚な政権運営を心がけよ」と注文をつけた。

 さて、当の安倍首相はどう考えているのか。総裁選後の記者会見で人事について問われると「できるだけ幅広い人材に活躍のチャンスを作りたい」と応じ、党内融和に努力する姿勢をみせた。

 ところが、安倍陣営の議員にとってはそう簡単に“ノーサイド”とはいかないようだ。その原因の一つとなっているが、なんと「カツカレーの食い逃げ」だそう。

 朝日によると、投開票直前に安倍陣営が開いた「必勝出陣の会」で、議員に振る舞ったカツカレーは333食あった。それが、いざ投票箱を開けてみると国会議員票は329票。少なくとも4人が“裏切り”をしたことになる。陣営幹部は「一体誰なんだ」と話していたという。

 毎日新聞が掲載したコメントは、もっと激しい。安倍氏支持の派閥から石破氏に投票した人物について「精査する。グレーだった人を調べればいい」と語っていたという。安倍首相の党総裁3期目の初仕事は、カツカレー食い逃げの“犯人捜し”になりそうだ。

 場外乱闘はさておき、各紙のスタンスの違いが明確だったのが、憲法改正問題について書かれた社説。

 産経は「自民党は憲法改正の国民運動も始めるべきだ。党総裁として首相は先頭に立ってほしい」と訴え、読売は「自民党は、衆参両院の憲法審査会で条文案の議論を深め、理解を得る努力を続けるべきだ」としている。

一方、朝日は「自衛隊明記の憲法改正は、明らかに喫緊の課題ではなかろう。(中略)少子高齢化や年金・医療・介護など、国民生活に深くかかわる課題にこそ集中すべきだ」、毎日は「イデオロギー色が強い自らの願望を優先して突き進む姿勢には賛成できない」と反対の姿勢を明確にした。

 では、経済紙の日経新聞はどうか。

 同紙は「自民党が今年の党大会で打ち出した4項目の改憲案は生煮え感がある。野党どころか、連立を組む公明党でさえ賛同していない」と分析。そのうえで、社説の最後は「憲法論議を活発にすることは日本の将来にとって重要ではあるが、政権運営の優先順位をよく考慮すべきだ」と結んだ。日経新聞も、憲法改正を急ぐ安倍首相を懸念している。

 それも当然のことだろう。日経の指摘どおり、公明党の協力がなければ憲法改正の発議に必要となる衆参両院で3分の2以上の賛成は得られない。安倍首相は記者会見で「友党の公明党との調整を行いたい」と述べたが、そもそも公明は憲法問題は国会で議論すべきもので、与党間調整に難色を示している。憲法改正のキーパーソンとなった山口那津男・公明党代表も19日の記者会見で、「憲法改正の優先度が高いとはいえない」との見解を示しており、「安倍一強」の政治状況でも強行突破は難しいのが実情だ。

つづく

AERA.dot
2018.9.21 16:31
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