アベノミクスによる「デフレ脱却」や生産性向上のかけ声のもと、市場や生産現場、職場が呼吸困難な状態に追い込まれている。「時代錯誤の愚かな政策」がさらに続けば日本経済は"窒息死”しかねない。かねて「アホノミクス」の呼称でアベノミクス批判を展開する、同志社大学の浜矩子教授による寄稿をお届けする。

 自民党総裁選が始まったが、多くの人が「安倍三選」になってしまうと、みている。何ともはや、情けないことだ。何でこういうことになるのか。そうなってしまうと、その次に起こることは何か。

 安倍政権が自らの経済政策を言うところの「アベノミクス」を、筆者が「アホノミクス」と命名し替えて久しい。なぜアホノミクスなのか。端的に言えば、安倍政権の経済政策がよこしまな政治的下心に基づいているからだ。

 彼らは「強い御国」を作る自らの政治的野望を達成するために経済政策を手段化して来た。だが不純な動機で経済を弄べば、必ず経済活動の調子は狂う。結果的に強くしたかった経済を弱くしてしまう。こうして下心のある経済政策は不可避的に墓穴を掘る。だが彼らにはそれがわからない。

 ここにアホノミクスのアホたる最大のゆえんがある。

お陰様で、アホノミクスもかなり普及してきた。そのうち、ご本人も口が滑って、思わず「アホノミクスは不滅です」などと、「アホさ」を認めてポロリと発言する日が来ると思っているのだが、「安倍3選」となれば、その日はまだ先のようだ。

 安倍首相を親玉とする「チームアホノミクス」への支持がしぶとく一定水準を維持し続けるのはなぜか。

■敵をはっきりさせる
「偽預言者効果」で支持率を維持

その要因には、2つの側面があると、筆者は考える。

 側面その一が「偽預言者効果」だ。そして側面その二が「振り込め詐欺効果」である。

 偽預言者とは、どのような存在か。偽預言者と真の預言者の違いはどこにあるのか。これまた、要点が2つある。第一に、偽預言者は、人々が聞きたいこと、人々にとって耳心地のいいことを言ってくれる。そして第二に、偽預言者は敵が誰であるかをたちどころに教えてくれる。

 真の預言者が鳴らす警鐘は、人々にとって耳が痛い音を発する。あまり聞きたくない音色だ。だが、その音色は人々を救いへと導く。だが、偽預言者が発する甘い音色は、人々を破滅へといざなうものだ。

 偽預言者はいう。「悪いのはヤツらだ」。それを教えてもらうと、人々は安心する。安心して悪いヤツらの撃退に乗り出して行く。偽預言者は対立をあおる。それに対して、真の預言者は和解を説く。許しを説く。敵に対しても慈愛を示せという。それは難しいことだ。だがその難しさを誰もが克服すれば、真の和平が実現する。

 チームアホノミクスの大将である安倍首相は、名偽預言者だ。「強い日本を取り戻す」と声高に宣言する。「あの時の日本人にできたことが、今の日本人にできないわけがない」と人々を鼓舞する。

 彼が言う「あの時」とは戦後の高度成長期と明治日本の建国の時だ。

「働き方改革」を前面に押し出し、「生産性革命」を起こすといい、「人づくり革命」も敢行するのだという。人とAIが効率的に絡み合う「ソサエティ5.0」なるものに日本の未来があるのだという。

 こうしたえたいの知れないキラキラ言葉群が、甘言への免疫力が弱い若者たちを引き寄せる。厳しい経営環境の中で閉塞感にさいなまれる中小零細企業者たちを惑わせる。

 2017年7月の東京都議選の折、街頭演説に立ったチームアホノミクスの大将は、彼に対して「帰れコール」を浴びせた聴衆について「こんな人たちに、私たちは負けるわけにはいかない」と叫んだ。

 これぞ、偽預言者の犯人名指し・敵指差し行動にほかならない。敵を指し示すことで、人々が自分の側に寄って一致団結するように仕向ける。それが偽預言者のやり方だ。

つづく

ダイヤモンドオンライン
2018.9.14
https://diamond.jp/articles/-/179754