20日の投開票に向けて、自民党総裁選で安倍晋三首相が憲法改正への意欲を繰り返し明らかにしている。10日の演説では、「憲法にしっかりと日本の平和と独立を守ることと自衛隊を書き込んで私たちの使命を果たしていこう」と訴え、当選すれば次の任期中に改憲を実現するための準備を始めるつもりだ。

 一方、行政の長である安倍首相が憲法改正に関する発言を続けていることに、与党内から懸念する声も上がっている。

 自民党の船田元・党憲法改正推進本部長代行は、安倍首相の一連の発言に対してAERA dot.の取材に「自重された方がいい」と苦言を呈した。その理由は、首相が主導して国会で憲法改正案を発議すると、国民投票が安倍首相への信任投票になりかねず、否決されれば「政治責任を問う声が出てくる」(船田氏)からだという。

 秋の臨時国会で憲法改正案の提出を目指している。来年の通常国会での発議を目指す議員もいるが、他党との議論が不足していることから、船田氏は「実現するとは思えない」との認識を示した。

 安倍首相が改憲に前のめりになるほど、与野党を巻き込んだ政局に発展する可能性もある。憲法改正には、どのようなリスクがあるのか。船田氏に聞いた。

──今年5月3日、安倍首相は改憲推進派の集会にビデオメッセージを送り、憲法改正で自衛隊の存在を明記することに意欲を示しました。その後も憲法改正についての発言を繰り返しています。

 安倍首相は5月の集会で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という9条2項を残す形で自衛隊を明記することと、教育無償化の2つを提起しました。自民党としては、このほかに緊急事態における政府や国会の役割や権限を維持すること、参院で都道府県代表の国会議員を位置づけて、合区を解消することの2つを付け加えたものを、党の憲法改正の素案としてまとめました。

──9条については党内に9条2項を削除する案もありましたが、残ったのはなぜですか。

■改正案から「必要最小限度」の文言が消えた経緯

 9条2項の削除について、党内で議論があったことはたしかで、不満も残っています。ただ、現時点で9条2項の削除で国民の理解を得ることは難しい。公明党も「加憲」を主張していて、そこに配慮したこともあります。

 たしかに、石破茂さんに代表されるように、2項削除論は党内で根強いものがあります。しかし、一度の改正で9条を大きく変えるのは難しい。各党が折り合える改正案が必要で、2項の削除問題については、その次の憲法改正の時にあらためて議論すればいい。憲法改正は1回で終わるものではありませんので、党内の人も納得してもらっていると思う。

──当初、自民党の有力案では実力組織である自衛隊の戦力について「必要最小限度」と限定する文言がありましたが、最終案では消えました。

 党内の議論で、「必要最小限度」と憲法で書くことは「自衛隊の能力を縛ることになり、対外的によくない」との意見が多く出て、最終的に細田博之・党憲法改正推進本部長への一任となりました。本部長による検討を経て党に戻ってきたときは「必要最小限度」の文言は削除されていました。

 個人的意見としては「必要最小限度」の文言は残しておいた方が良かったと思っています。ただ、それも今後の議論を進めていくうえで、公明党をはじめ、各党との協議の中で復活する可能性もある。そう考えれば、党の素案としては許容範囲だろうと考えています。

■緊急政令には期限を設けてもいい

──野党は、「必要最小限度」の文言が消えたことで「フルスペックの集団的自衛権が認められることになる」と批判しています。

 集団的自衛権については、フルスペックのものを認めていません。平和安全法制の新三要件に合う等身大のものです。


つづく

AERA.dot
2018/9/14 07:00
https://dot.asahi.com/dot/2018091300030.html