安倍首相が繰り返してきた「われわれの世代で解決する」というのは、こういう意味だったのか。ロシア極東のウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムの全体会合で12日、プーチン大統領が「ここで思いついたんだが、年末までに無条件で平和条約を締結しよう」「冗談で言ったのではない」と言い出し、大騒ぎになっている。つまり、安倍首相が意気込んできた北方領土返還は棚上げになるからだ。

■6月のG20大坂サミットめぐり足元を見られ…

 プーチンの発言が飛び出したのは、全体会合で各国首脳が演説を終えた直後。安倍は演説で北方領土問題の解決を訴え、4島を物流拠点として「日ロ協力の象徴」に転化しようと提案。「今やらないで、いつやるのか。われわれがやらないで、ほかの誰がやるのか」と畳み掛けていた。それを受ける形で司会者から質問に応じたプーチンは、こう言い放った。

「シンゾウはアプローチを変えようと言った。そこで今、思いついた。一切の前提条件を抜きにして、年末までに平和条約を結ぼう。平和条約に基づき、すべての係争中の問題を話し合おう」

 プーチンの発言は4島返還交渉を進めてきたつもりの日本からすれば、ちゃぶ台返しもいいところ。ところが、壇上でプーチンと横並びに座った安倍は「うん、うん、うん」とばかりに何度も首を縦に振り、深くうなずいていた。一体どういうことなのか。筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。

「そもそも、プーチン大統領には北方領土を返還する考えはありません。北方領土を含む極東の軍事強化を進め、ソ連崩壊後、最大規模の軍事演習を極東で実施していることからも明らかです。17日までの演習には中国軍とモンゴル軍が初参加して、周辺国との連携も強めている。安倍首相と首脳会談を重ねているのは、ポーズに過ぎない。領土交渉に応じているフリをすれば、共同経済協力の名の下、日本から資金や技術が転がり込んでくるからです」

 日本政府は一貫して「4島返還」を求めてきたが、プーチンは従来の「2島引き渡し」以上の譲歩を示したことがない。そこで安倍は第2次政権発足4カ月後の2013年4月、プーチンとモスクワで首脳会談。領土交渉再開で合意したが、膠着状態から脱せず、16年5月にソチで行われた首脳会談で安倍はプーチンに「新たなアプローチ」を持ちかけた。その年末にプーチンが来日し、安倍は共同経済活動を申し出たのがこれまでの経緯だ。

 プーチンの発言を巡り、官邸は大慌て。菅官房長官は記者会見で「意図についてコメントすることは控えたい」と逃げ、10日の日ロ首脳会談で「無条件」との発言はなかったと釈明。「北方4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する基本方針の下、引き続き粘り強く交渉する」と火消しに躍起だ。

「日本は来年6月にG20大阪サミットを控えています。自民党総裁選で3選すれば、安倍首相がホストを務める。国際社会に成功をアピールするには、すべての加盟国首脳の出席は必須です。中国の習近平国家主席の首根っこをつかんでいるプーチン大統領は、その足元を見て“不参加”をにおわせ、領土交渉の棚上げを安倍首相にのませていたのではないか。日ロ両政府の説明はこれまでもたびたび食い違いを見せています」(中村逸郎氏=前出)

 それなら、安倍のうなずきも納得だが、このタイミングでプーチンに暴露されたのは大誤算だったのか。総裁選も災害対応もほったらかしで向かった外遊先でコケにされ、これでまた“外交の安倍”の嘘っぱちがハッキリした。

日刊ゲンダイ
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