自民党は7日告示・20日投開票の総裁選をめぐり、「公平・公正」な報道を求める文書を新聞・通信各社に出した。自民党は近年、報道機関に対して同様の「要請」を繰り返しており、専門家からは表現規制につながることを懸念する声などが出ている。

 「総裁選挙に関する取材・記事掲載について」と題する文書は8月28日付で、総裁選挙管理委員長の野田毅衆院議員名で出された。選管委が「すべての面において公平・公正が図れるよう全力を尽くして」いるとしたうえで、@取材は規制しないAインタビュー、取材記事、写真の掲載にあたっては、内容、掲載面積などで各候補者を平等、公平に扱うB候補者によってインタビューなどの掲載日が異なる場合は掲載ごとに全ての候補者の氏名を記し、Aの原則を守る――の3点を留意点として求める。

 自民党側は、過去の総裁選でも同様の文書を出してきたと説明するが、安倍政権下では報道機関への「介入」と受け取れる事案が目立つ。2014年衆院選の際には、NHKや在京民放5局に選挙報道の「公平中立」を求める文書を送付。直前に安倍晋三首相が出演したTBSの番組でアベノミクスの効果が感じられないとの街頭インタビューに対し、「全然声が反映されていない。おかしいじゃないですか」と不快感を示したこともあり、「報道圧力」との批判を浴びた。今回の総裁選はそもそも、一政党の代表を選ぶもので、公正な選挙の実現を目的とする公職選挙法が適用されることもない。

 政治とメディアの関係に詳しい専修大の山田健太教授(言論法)は、自民党が今回出した文書について「強い公益性を有する政権政党が法的根拠もなく表現を規制することは決してやってはいけない。量的な公平を求めるのも、『公平』の解釈に問題がある」と指摘。「『公平・公正』を求めることは政権与党にとっての『偏向報道』を許さないということの裏返しであり、政権批判を許さないという姿勢に近い。結果として自由にものが言えなくなり、社会の分断を後押しすることにつながりかねない」と警鐘を鳴らす。

 一方、名古屋大大学院の日比嘉高准教授(日本近現代文化)は、真実や事実を軽視する「ポスト・トゥルース」(脱・真実)の傾向が強まる世界的風潮のなかで、「何が『公平・公正』であるか、社会的に共有できる軸が失われかけている」と指摘。そうした状況のなかで自民党が報道機関への要請を繰り返すことも、「公平・公正を判断する軸が手前勝手に作られないか注意深く見る必要がある」と話す。

朝日新聞
2018年9月3日19時45分
https://www.asahi.com/articles/ASL9351JSL93UTFK00J.html