政府が成長戦略の一環として推進してきた「クールジャパン戦略」。外国人がクールととらえる日本の魅力(アニメ、マンガ、ゲーム等のコンテンツ、ファッション、食、伝統文化、デザイン、ロボットや環境技術など)を海外に向けて発信し商品やサービスを展開、インバウンドの国内消費の各段階をより効果的に展開し、世界の成長を取り込むことで、日本の経済成長につなげようとする試みだ。
 クールジャパン戦略を統轄しているのが、日本文化の輸出を支援するため2013年に設立された官民ファンド「海外需要開拓支援機構」(クールジャパン機構)なのだが、ここに来て経営が怪しくなってきている。
 発足から丸4年の投資24案件中、決定後1年を超す事業の過半が収益などの計画を達成できていない。

■明らかとなった約44億円の損失

 17年4月時点の出資金は693億円。このうち政府出資が586億円、民間出資が107億円だ。会計検査院は今年4月、ファンドの検査結果を公表。それによると2017年3月末時点で経済産業省所管のクールジャパン機構は17件、310億円の投資で約44億円の損失が生じている。(*下が会計検査院の公表資料。赤い囲みはHUNTER編集部)

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 設立当初、クールジャパン機構を視察した国会関係者は、同機構の将来に懸念を抱いていたと明かす。場所は六本木ヒルズの17階。訪問したのは、第1弾の投資案件の内容を発表した直後だったという。

 この時の機構のスキームは政府が300億円、民間企業が85億円(18社)を出資し、投資対象となる案件を決めた。当時の従業員数は役員を含め約60人。経済産業省からも出向者を送り出していた。

 説明をしてくれたのは経産省出身の総務部長。人の良さは伝わってきたが、「民間企業における収益性や、日本の銀行システムなどについての知識は乏しい」(国会関係者)というのが率直な感想だったという。

 機構が認定した投資対象は『中国におけるジャパン・エンターテイメント型大規模商業施設』(機構の投資金額:最大110億円。エイチ・ツー・オー・リテイリングと杉杉集団有限公司も別途出資)や、『マレーシアにおけるクールジャパン発信の拠点となる商業施設事業への出資』(機構の投資金額:最大9.7億円。三越伊勢丹ホールディングスも同額出資)などだったが、9割以上の日本の商品を扱うという計画に、前出の国会関係者は「これで収益が出るのか疑問に感じた」と振り返る。

 エイチ・ツー・オー・リテイリングも三越伊勢丹ホールディングスも、機構に5億円ずつ出資している投資会社。うがった見方をすれば、少ない投資額で国から多くの投資金を引き出せる魔法のシステムを作り上げたようにも見える。

 もし、これらの事業が失敗したときの責任は誰がとるのか。役人の習性として「事業の失敗は考えない」ことにしているようだが、投資案件には必ず何件かの失敗、回収不能がつきまとう。役人と数十名の社員が巨額の投資案件をまとめ上げて投資を行うというが、機構の社員に大規模投資事案に対応できるだけの能力があるのか疑問だ。

 「地方銀行の協力で事業案件を収集できる」などと説明されてきたが、国内の地方銀行員にそんな能力はない。無担保融資の能力を持つ「バンカー」など育っていないのが現実なのだ。どんなものでも売って収益を上げることが出来るのならともかく、日本に特化した商品だけを扱って経営を成り立たせるのは至難の業で、よほどのスーパーマンでもない限り難しいというのが現状だ。

つづく

ニュースサイトHUNTER
2018年8月22日 08:35
http://hunter-investigate.jp/news/2018/08/-24-413-201731731044-174693586107-20149.html