「本領」となる映像ジャーナリズムの具体例が収められているのが、伊藤さんのウェブサイトだ。

▽伊藤さんのウェブサイト
https://www.shioriito.com/

 この中で紹介されている、アルジャジーラ英語で放送された「コカインの谷のレース」では、伊藤さんはカメラを担当している。これは今年4月、米ニューヨーク・フェスティバルの「世界の最優秀テレビ&映画コンテスト」で、「スポーツ・娯楽」部門で銀賞を受けた。世界50か国以上の映像作品の中から優れた作品を選ぶコンテストだ。

 もう一つ、「社会問題部門」で銀賞を受けたのが、伊藤さんの初監督作品となった「孤独死(Lonely Deaths)」である。シンガポールのテレビ局「チャンネル・ニュース・アジア」が制作した。

 この45分間の長尺の作品は、Youtubeで視聴できる。

https://www.youtube.com/watch?v=TKNnUu1sFdk&;t=122s

 孤独死をした人の部屋を清掃するサービスの人たち、部屋の管理人や遺族の一人にカメラが向けられる。清掃会社に勤める若い女性の働きぶり、なぜ彼女がこのような職に就くことにしたのか、そして、部屋の中の腐敗の様子、遺品の数々が映し出される。

 筆者がこの作品をツイッターで紹介したところ、36万近くのインプレッション、5000を超える「いいね!」がついた。

 高齢化が進む日本で、孤独死が1つの可能性として注目されているせいもあるのだろう。

 筆者自身は、特定の組織や個人を糾弾するようなトーンがないことに気づいた。米映画監督ソフィー・コッポラの映画「ロスト・イン・トランスレーション」を思わせるような静ひつさで、孤独死をめぐる現実が描かれていた。

 この夏、伊藤さんはロンドンでいくつかの公開イベントに出席し、先のBBCの番組について、こんなことを語っている。「BBC側は番組のタイトルに、『セックス』、『レイプ』という言葉を入れたがった」と。一つの例は「レイプ・ネーション・ジャパン」(レイプの国、日本)だったという。伊藤さんは「そういう風にはしないでほしい」と説得した。

 監督としてかかわった「孤独死」は、登場人物の1人として出た「日本の秘められた恥」とはトーンが違う。

 ご関心のある方は、視聴してみていただきたい。

つづく