https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180620-00000016-sasahi-sci

 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。企業がまとめサイト「保守速報」に掲載された広告を取り下げる動きについて解説する。

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 ヘイトスピーチやフェイクニュースなどを発信するウェブサイトに広告が掲載されることが企業イメージを毀損(きそん)させるとして、欧米では企業がそうしたサイトから広告を引き揚げる動きが活発化している。その動きが日本にも波及しつつあるようだ。

 6月初旬、プリンター大手・セイコーエプソンの子会社のエプソン販売は、まとめサイト「保守速報」に広告が掲載されているとの一般ユーザーからの問い合わせに、サイトへの広告配信を停止すると回答した。このユーザーが同社の回答をツイッター上で公開したことで、一躍注目を集めることとなった。

 保守速報は、「嫌中・嫌韓」にもとづく差別的な記事や、左派を中傷する記事を多数投稿する5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)のまとめサイト。多数あるまとめサイトの中でも攻撃的、扇動的で、ヘイトスピーチやデマの温床、拡散元ともなっている。

 昨年11月には、保守速報の記事が在日朝鮮人の女性ライターに対する人種差別や名誉毀損にあたるとして、大阪地裁から賠償命令が下されている。

 このような問題のあるサイトに、自社の広告を掲載したいという企業はほとんどないだろう。しかし実際には、エプソンを始め、多数の1部上場企業の広告が掲載されていた。もちろん、そのほとんどは意図した掲載ではない。背後には、広告テクノロジーが高度化、複雑化したことで、広告主がどの媒体に広告が掲載されるか事前に把握できないという事情がある。

 エプソンの広報担当者は、広告停止の理由を尋ねたJ‐CASTニュースの取材に対して「中立性を維持するという社内規定に反するため」と回答。代理店側が提案する配信先に含まれていたことに気づかずに誤って出稿してしまったという。

 エプソンは「広告の掲載方針を改めて徹底する」としているが、企業ブランドを毀損しうる媒体を提示した代理店の責任も重い。このような倫理なき広告業界の一部が、ヘイトスピーチやフェイクニュース発信サイトの「ビジネス化」を促進させているからだ。

 エプソンの対応については、おおむね好意的な評価を得ているようだ。メディアに批判的に取り上げられ、やむなく対応を迫られたわけではなく、一人のユーザーからの問い合わせに真摯に、そして即座に対応したことに称賛の声が上がっている。

 さらに、保守速報に広告が掲載された別の企業への問い合わせを促す運動も活気づき、複数の企業が広告停止に踏み切っているという。保守速報に掲載される広告は目に見えて減少し、6月12日にはすべての広告が消えた。

 欧米では不適切なサイトやコンテンツに広告が掲載されることで、企業や製品のブランド価値が損なわれるのではないかという「ブランドセーフティー」への懸念が高まっている。広告業界も掲載媒体を限定するホワイトリストや、掲載禁止媒体を設定するブラックリストを提供するなどの対策を進めている。

 こうした動きを対岸の火事と見てきた日本の広告業界も、今後は対応を迫られることは必至。日本でもこの議論や対応が活発化することを期待したい。

※週刊朝日 2018年6月29日号