12日に迫った初の米朝首脳会談を前に急きょ、7日(日本時間8日未明)に行われた日米首脳会談。日本のメディアでは安倍首相がトランプ大統領に拉致問題を取り上げるよう念押しし、トランプもこれを受け入れた――との報道ばかりだが、チョット待て。米朝首脳会談の主役はあくまでトランプであって安倍じゃない。そのトランプが忙しい合間を縫って安倍との会談に応じたのだから「思惑」があると考えるのが普通だろう。会見で、北朝鮮の非核化や朝鮮戦争の終結宣言の可能性に言及したトランプが、最も語気を強めたのが対日貿易赤字の解消だ。狙いは日本の自動車業界だ。

■これ以上の新工場は過剰投資

「我々はミシガン、ペンシルベニア、オハイオの各州で新たな自動車工場が欲しい」――。トランプと安倍の共同会見。日本の自動車工場の米国誘致に強い意欲を示すトランプに対し、安倍は「実現する」と安請け合いしていた。しかし、そもそも、トランプ政権発足後、日本の自動車メーカーは相次いで米国に工場を新設したり、設備投資を増やしたりしてきた。

トヨタ自動車は昨年1月、メキシコ工場の建設計画について、トランプからツイッターで〈米国に建設しろ! さもなければ多額の税金を支払え〉と“口撃”を受け、直後に豊田章男社長が今後5年で1兆円超を米国に投資する計画を公表。一環として米中西部インディアナ州の工場へ655億円、南部ケンタッキー州の工場に1500億円、同テキサス州の北米本社に1200億円を追加投資。今年3月にはマツダと合同で同アラバマ州に1700億円を投じて新工場を建設する計画を公表した。トヨタは米国進出からの60年間で、これまでに延べ2・4兆円も投じていて、米国内の拠点はすでに11カ所に上る。

 ホンダも昨年1月、100億円を投じて米大手自動車ゼネラル・モーターズ(GM)と共同で米中西部ミシガン州に新会社を設立すると公表。燃料電池車(FCV)向けの水素燃料電池システムの開発に乗り出した。日産自動車など他の自動車メーカーも既に米国内で生産や設備投資を進めてきたワケで、いくらトランプが強く求めているとはいえ、これ以上の新工場は過剰投資になりかねない。

■誘致候補地は選挙人も多い

 日本の自動車メーカーは今回のトランプ発言をどう受け止めているのか。各社に聞くと、「今まで通り、計画に基づいて進める」(トヨタ)、「通常通りの業務を行う」(日産)、「何も決まっておらず、コメントはありません」(ホンダ)……と静観の構えだが、一体なぜ、トランプはこれほど日本の自動車メーカー憎しなのか。

「工場には建設費はもちろん、管理運営費、人件費など、莫大なカネが必要になります。たとえ稼働率が悪くても安易に撤退すれば、米国の労働者はデモをしたり、賠償を求めたりする。『新工場を造れ』と言われても、容易に『ハイハイ』と応じられるものではありません。おそらく、トランプ氏の頭の中の『日本観』が1980年代のままなのでしょう。80〜90年代初頭の日本がバブル景気に浮かれていた頃、米国では失業が相次ぎ、日本脅威論が吹き荒れた。その象徴のひとつが日本車でした。トランプ氏が工場の誘致候補地に挙げた、ミシガン、ペンシルベニア、オハイオは、ラストベルト(さびついた工業地帯)で、失業問題を抱えた地域であり、大統領選の選挙人も多い。おそらく中間選挙も意識しているのだと思います」(在米日本自動車メーカー関係者)

立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)が言う。

「トランプ大統領の頭にあるのは中間選挙であり、有権者にアピールできるものなら何でも利用しようと考えている。トランプ大統領にとってみれば『米朝首脳会談で拉致問題を取り上げてやる代わりにオレの言うことを聞け』と自動車工場誘致を求めたのでしょう」

 安倍外交はやることなすこと全て愚策だ。

日刊ゲンダイ
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/230884