◆第44回 安倍政権は「態度の悪さ」で国民的な支持を失った──内田樹の凱風時事問答舘 「これで日本も安心だ」
5/20(日) 18:11配信 2018年3月27日入稿 GQ 内田樹

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180520-00010006-gqjapan-bus_all

■ 「鉄棒曳き」たちが姿を消した

怒りはメディアからも到来しました。政権の「広報機関」だと罵倒されてきたNHKがしばらく前からニュースで政権批判の動きをかなり克明に伝えるようになりました。外部からでは想像するだけですけれど、おそらくニュースをこれまで政権寄りにコントロールしていた人たちがここに来て急激に力を失い、冷や飯を食わされていた人たちが現場を仕切るようになったからだろうと思います。

こういうふうに堤防が決壊するような仕方で「怒り」が噴出してきたら、僕はもう流れは変わらないだろうと思います。答弁の口裏合わせのためのシナリオ執筆も、官僚人事も、メディアコントロールも、手間と暇がかかるからです。今の官邸には一気に増えたこれらの仕事をハンドルできるだけの人的リソースがありません。

誤解している方が多いと思いますけれど、官邸にも行政府にも「国民を監視する」ためだけに割けるほどの人的リソースはありません。少しでも反政府的な言動があれば、見つけ出して「畏(おそ)れながら」とお上に届け出て処罰を加えるという実務を実際に担当しているのは、あらゆる組織に散らばっている「鉄棒曳(かなぼうひ)き」たち─戦時中の「隣組」的なマインドを持つ市民たちです。

でも、こういう「鉄棒曳き」たちは潮目が変わると蜘蛛の子を散らすように姿を消します。それは「ネトウヨ業界界隈」の論客たちのこのところの静まり具合を見ればわかると思います。彼らはもちろん反省しているわけでもないし、自説を撤回したわけでもない。でも、いまのところは「不届き者をお上に訴え出る」という仕事を自粛して、しばらくは様子見をすることにした。もし政権が衰運ということなら、「泥船」と一緒に沈みたくはないので、きょろきょろしている。反政府的言動を網羅的に監視するこの「人的リソース」の供給源がいま一時的に休止している。

こういうことが同時多発的に起きている。それを僕は「潮目の変化」と見立てているわけです。内閣総辞職があるかどうかはまだわかりませんが、「安倍三選」の芽は九分九厘消えたと思います。