モリカケ問題(森友学園・加計学園問題)などの騒動は大きくなるばかりで、官僚たちには疲弊の色が濃い。しかも官邸の覚えがめでたければ重用され、問題が起これば切り捨てられる……そんな状況に、官僚の転職が増えているという。

 安倍首相は2013年、内閣法制局長官に、集団的自衛権の行使容認に積極的な外務省出身者を起用。次長を昇格させる慣例を破った異例の人事とされた。

 全経済産業労働組合副委員長の飯塚盛康さんは昨年3月26日、フェイスブックのメッセンジャーを通して安倍昭恵首相夫人からメッセージを受け取った。

 首相夫人が「公人か私人か」で議論された際、夫人付政府職員の活動が注目された。

 政府が政府職員の個人的な行動だとしたことで、飯塚さんは、ただ一人に責任を負わせたと受け止めた。

「はらわたが煮えくり返る思いだ」とフェイスブックに書き込んでいた。それに対して、昭恵夫人のメッセージは、

「(この政府職員に)責任を追わせようなどということは勿論全く思っていません。こんなことに巻き込むことになってしまい申し訳ないと思っています」(原文ママ)

 返信はしていない。飯塚さんは言う。

「近畿財務局の男性も首相夫人付職員も、キャリアではなくノンキャリアの職員です。弱い立場の人に責任を押し付けるキャリア官僚の姿勢は変わっていない。下の立場の人を見る余裕もなく、みんなヒラメのように上ばかり見上げている」

 霞が関を見限る者もいる。厚労省の若手官僚は「転職者がぐっと増えた」と漏らす。

「20代は引く手あまたですが、30代後半になると好景気とはいえず、転職は断念しました」

 文科省の30代の官僚は昨年、初めて転職を考えた。この官僚によると、モリカケ(森友学園・加計学園)問題が公務員バッシングにも飛び火すると、20代を中心に退職者が多く出たという。

「行政官って何が楽しいのですか?」

 モリカケ対応で忙殺された昨年、この官僚はふと学校教員からそう尋ねられたことを思い出した。この教員が勤める公立学校は激務だが、

「それでも卒業式で教え子の立派な姿を見るなど、やりがいを感じる場面はある」

わが身に当てはめて考えている。官僚のやりがいは何だろうか――。

 ある中央省庁の幹部官僚は「安倍政権は支持しない」と答えた。その理由は明確だ。

「多くのサラリーマンの方の実質賃金も上がっていない。女性の就業率が増加しているといっても、子どもの学費などのために働かざるを得ない人たちも多いのではないか。現状をきちんと分析し、現場の実態に基づき議論を行って、効果のある政策を作るという雰囲気ではない」

 東京生まれ東京育ちで、小学校や中学校から私立学校に通ったという公務員や政治家が増え、弱い人の立場からものごとを考えられるのか、そうした疑問も強く感じている。

 ただ、一番の問題は官僚同士の忖度だと話す。

「政策を作ったり、調整能力が高かったり、仕事上の評価は話題にもならない。上司や省内の有力者に気に入られるように、うまく立ち回る人物が出世する傾向が強い。結果として、政策を考える力が落ちている。政権のせいにするだけでは霞が関の劣化の問題は解決しない」

(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2018年4月30日−5月7日合併号
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