安倍首相が先週、国会会期中だというのに、わざわざ米国を訪問。内政でつまずくたび、昭恵夫人と手をつないで外遊に出るのは恒例行事とはいえ、今回の首脳会談の目的はいただけない。

 歴史的な米朝首脳同士の初会談を控え、トランプ大統領に「拉致被害者を取り戻したい」とぜひ、金正恩委員長に伝えて欲しい――。そう願い出るため、安倍は国会そっちのけで、米国に向かったのだ。どうして、トランプ大統領に「拉致解決」を頼まなければいけないのか。これでは激動の東アジア外交で、日本だけが蚊帳の外に置かれていると自ら認めたようなものだ。

 安倍首相自らが北朝鮮に渡って、金正恩委員長と直談判すれば、事態は大きく動くはずだ。「拉致問題は安倍内閣の最重要課題」と大見えを切るなら、あらゆる外交ルートを模索して日朝首脳会談にこぎつけるのが、筋である。

 小泉元首相が初訪朝し、拉致被害者5人を日本に連れ戻してから、もう16年も経つ。被害者家族の高齢化を考えれば、残された時間は少ない。小泉政権にできたことが、なぜ安倍政権にはできないのか。

 4月初めに米CIAのポンぺオ長官が極秘訪朝。金正恩委員長と直談判し、北にスパイ容疑で拘束された米国人3人の解放を取り付けたのとは、雲泥の差を感じる。そもそも、安倍首相が政権に返り咲いてから5年以上。この間、真剣に拉致問題の解決に取り組んでいれば、何らかの成果を挙げていても、おかしくはない。

 就任からまだ1年3カ月のトランプ大統領に先を越され、自分の頭越しに金正恩との会談を設定された揚げ句、拉致問題を取り上げて欲しいと泣きつくこと自体、非常に情けない話だ。

 トランプ大統領が拉致問題を持ちかけたところで、金正恩委員長に「その問題は解決済み」「約束を破ったのは日本だ」と主張されたら、当事国ではないトランプ大統領は返す言葉もなくなってしまう。

国内政治を見渡せば、公文書改ざん、セクハラと財務省絡みの不祥事ばかり。国民の税金を預かる「国家予算の番人」であるべき役所の足元がガタガタなのに、気にもかけずに安倍首相はお手々つないで夫婦そろって海外旅行とは、その神経を疑う。

 安倍首相は麻生財務相と「盟友」ならば、手をつなぐ相手を間違えている。成果ゼロの米国訪問よりも、麻生財務相と一緒に“最強官庁”を立て直し、官僚を本来の「公僕」の姿へと取り戻させるのが先決だ。むろん、この2人に期待するだけムダではある。

日刊ゲンダイ
2018年4月27日
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