https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180322-00000070-sasahi-sci

 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストで、メディア・アクティビストの津田大介氏。フェイクニュースの拡散メカニズムについて解説する。

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 フェイクニュースは事実に基づく正しいニュースよりも速く、広く拡散する──マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが米科学誌「サイエンス」に発表した研究結果が世界中で話題を集めている。

 MITメディアラボのソルーシュ・ボーソーイ氏ら研究チームは、ツイッター社の協力を得て、2006〜17年の期間に英文で投稿された全ツイートからサンプルを収集し、フェイクニュースの拡散メカニズムの分析を試みた。

 複数のファクトチェックサイトが真偽を検証した2448件の「噂(うわさ)」について調べた。それについて約300万人が、延べ450万回のツイート・リツイートをしており、12万6千件の「情報拡散の流れ」が抽出された。

 分析の結果、正しいニュースの拡散は1千人程度で止まるのに対して、フェイクニュースでは上位1%が1千〜10万人規模で拡散されていた。フェイクニュースが1500人に拡散するまでの時間は正しいニュースに比べ6倍速い。リツイートの連鎖が10層目に到達するまでの時間も、フェイクニュースのほうが20倍も速かった。フェイクニュースがリツイートされる割合は、正しいニュースの1.7倍に及ぶという。

 これまでフェイクニュースの拡散については「ボット」と呼ばれる自動プログラムが、大きく影響しているのではないかと言われてきた。しかし、研究ではボットを除外して分析している。さらにボットのみを分析対象にした場合も、フェイクニュースと正しいニュースの双方を同程度に拡散していたことがわかった。つまり今回の研究によって、「フェイクニュースを速く広く拡散しているのは人間である」ということが明らかになった。

 なぜ「人間」がフェイクニュースを拡散してしまうのか。研究チームはその理由について、「目新しさへの欲求」が原因ではないかと分析している。噂への反応に含まれる感情要素を分析したところ、正しいニュースは「悲しみ」や「予測」「喜び」「信頼」などの反応を引き起こす。一方、フェイクニュースは「驚き」や「恐怖」「嫌悪」といった未知のものへの反応を引き起こしていた。さらにフェイクニュースは正しいニュースに比べ「新奇性」が高かったという。研究チームは、新奇なものに引かれる人間の性質や、他人の知らない情報を知っているというステータスへの欲求が、フェイクニュース拡散の一因ではないかと推測した。

 この研究が公表されると、世界中のメディアが「驚き」の結果を報じたが、一部のジャーナリストや学者からは批判の声も上がっている。今回の検証はファクトチェックサイトが検証した噂に限られており、報道機関のストレートニュースについては検証されていないからだ。

 いずれにせよ、このような結果が明らかになったことは既存メディアにとっても大きな意味がある。人々がどのように情報を受容するのかを理解し、多くの人に伝わるように情報の出し方を工夫していけば、苦境を脱するカギが見えてくるはずだ。