2018年2月23日 朝刊 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201802/CK2018022302000130.html

東京電力福島第一原発事故を理由に韓国が福島など八県産の水産物輸入を禁止している問題で、世界貿易機関(WTO)の紛争処理小委員会(パネル)は二十二日、禁輸は「不当な差別」だと認め、是正を勧告する報告書を公表した。全ての日本産食品への追加検査要求も同様に解除を勧め、一連の規制を巡って提訴した日本の勝訴となった。

 パネルは裁判の「一審」に当たり、不服があれば「二審制」の下で六十日以内に上訴できる。韓国の上訴は濃厚で、審理する上級委員会の判断は早くて夏ごろの見通し。日本政府は「パネルの判断を歓迎し、誠実かつ速やかな是正を求める」と韓国をけん制している。

 問題になったのは青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉八県で水揚げ・加工された全水産物の禁輸。報告書は、WTOの検疫関連協定に反して「必要以上に貿易制限的」とし、日本の主張通りブリやサンマなど計二十八魚種の解除を促した。今回は輸出要望の強い魚に絞って争ったため、栃木、群馬で取れる川魚は含まれていない。

 韓国は全ての日本産食品を対象として、自らの検査で微量でもセシウムやヨウ素が検出された場合、プルトニウムなど他の放射性物質に関する検査証明書の提出を日本の輸出業者に求めている。事実上の貿易障壁となっており、報告書はこの点も不当と結論付けた。

 韓国は二〇一一年の原発事故後、八県の一部水産物の輸入を禁止。一三年九月には汚染水漏れを理由に八県の全水産物に対象を広げ、規制も強化した。突出した対応に日本は科学的根拠がないと反論したが覆らず、一五年八月にWTOへ提訴した。

 パネルは一七年十月に判定を日韓に通知し、両国当局者は日本に有利と明かしたが、報告書は公表されていなかった。

 原発事故後の規制では香港や中国、米国などが東日本を中心とする一部産地の食品輸入を止めている。

<世界貿易機関(WTO)> 貿易ルールの策定や交渉、通商紛争の解決などを担う国際機関。スイス・ジュネーブに本部があり、1995年1月に発足した。高い関税や輸入規制を巡る対立が当事国・地域間の協議で収まらない場合、訴えにより紛争処理小委員会(パネル)が設置され、専門家らが「裁判官」となって審理する。紛争処理は「二審制」でパネルの結論に不服があれば、上級委員会に上訴できる。