自民党は国政選挙並みの総力戦で臨んだ東京都議選で歴史的惨敗を喫した。安倍晋三首相(62)の政権運営に影響を与えるのは必至で、安倍首相は8月にも内閣改造・党役員人事を断行する構えだ。その中で注目の一つが「ポスト安倍」の一人と目される岸田文雄外相(59)の処遇だ。外相在任期間は歴代2位で、岸田氏が会長を務める岸田派(宏池会)内では「そろそろ外相ポストを外れて、次をうかがうべきだ」との声が多い。留任か閣外か。まずは夏の人事がポスト安倍への試金石となりそうだ。

「仮定の質問には答えない」「何も申し上げない」「発言は控える」。6月下旬、岸田氏は都内で開かれた講演会での対談で、ポスト安倍を見据えて「そろそろ外相を外れたいのでは」と何度も問われたが、そっけない答えに終始した。総裁選について「来年と2021年、どっちを見据えているか」と聞かれても「今のところはございません」とけむに巻いた。来年の党総裁選は安倍首相の3選が既定路線とされる。岸田氏にも、安倍首相と対決する来年の総裁選出馬は見送り、次々回の4年後を見据えたいとの思いがあった。周辺にも「焦る必要はない」と漏らしていた。

 ただ、都議選の大敗で総裁選をめぐる政局も流動化する可能性が出てきた。以前から、岸田派内では「安倍後」の総裁を見据えて行動するべきだとの声が根強い一方、若手を中心に次期総裁選出馬への期待があるのも事実だ。岸田氏は対談で安倍首相からの政権の「禅譲」の可能性について問われると「私が判断できない。首相が考えることで、全く念頭にはない」と否定した。憲法改正をめぐっては岸田氏と安倍首相の考えの違いが際立っている。9条を改正して自衛隊の存在を明記するという首相の提案に対し、岸田氏は一昨年に安全保障関連法が成立したことを理由に「今は9条の改正は考えない」と距離を置いている。

 今年創立60周年を迎えた宏池会は党内派閥で最も歴史が長く、創設者の池田勇人氏(1899〜1965)をはじめ大平正芳氏(1910〜1980)、鈴木善幸氏(1911〜2004)、宮沢喜一氏(1919〜2007)と4人の首相を輩出したハト派の名門派閥で、9条改正には慎重な姿勢をとってきた。

 「所得倍増計画」をぶち上げた池田氏は「軽武装・経済成長優先」を掲げ、「在任中は改憲はしない」と明言した。平成5年の衆院選に大敗して下野した自民党の総裁に就いた宏池会出身の河野洋平元衆院議長(80)は、党綱領から「憲法改正」を削除しようと動いたが、さすがに党内の反発で頓挫している。河野氏は最近の講演でも、安倍首相が改憲に意欲を示していることについて「理解のしようもない」「自民党は改憲党ではない」などと猛批判を展開している。

 ただ、安倍首相の今回の9条改正案には、議員引退後も岸田氏の後ろ盾となっている岸田派名誉会長、古賀誠元幹事長(76)も「一定の評価に値する」と前向きにとらえている。岸田氏の発言は、将来に向け安倍首相との対立軸を鮮明にする狙いもうかがえるが、中途半端な対応は孤立を招く可能性もある。

 麻生派と山東派などによる新派閥「志公会(しこうかい)」が3日に正式に合流し、党内第2派閥(59人)に躍り出たことで、岸田派は第4派閥(45人)に転落した(ちなみに最大派閥の細田派は96人、第3派閥の額賀派は55人)。岸田氏は麻生派と合流する「大宏池会」構想に慎重な姿勢を崩していないが、派内には危機感もある。

 最近は若手を中心に第3派閥の額賀派とも会合を重ねており、総裁選を見据えた連携を模索している。会合に出席した岸田派議員は「いざというときのために関係をつくっておくことは大事だ。いきなり協力してくれといっても無理でしょ」と狙いを明かす。

 派閥の合流には参院側の事情も影響する。参院では最大派閥の細田派、額賀派、岸田派で執行部ポストを占めており、3派の結びつきが強い。25年の参院会長選では岸田派の溝手顕正氏(74)と麻生派の鴻池祥肇氏(76)が争った。溝手氏が勝利したとはいえ、麻生派との距離感は微妙だ。

 安倍首相にとって夏の内閣改造・党役員人事は獣医学部新設をめぐる学校法人「加計学園」の問題や都議選の大敗で大きなダメージを負った政権の浮揚を賭けた一手となる。それだけに4年半の外相在任中、慰安婦問題に関する日韓合意やオバマ前米大統領の広島訪問などの実績を挙げ、安定感のある岸田氏に留任を求める可能性もある。

 岸田派のある若手議員は、昨年8月の内閣改造でポスト安倍をうかがう石破茂前地方創生担当相(60)が閣内残留を固辞したことを引き合いに「安倍首相に引き続き頼むといわれてもきっぱり断れるかどうかだ」と語った。(政治部 小沢慶太)

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