東京都議選は、筆者が年始から繰り返し独自世論調査で指摘してきたとおり、都民ファーストの大勝、自民党の大敗に終わった。先週の情勢記事で指摘したとおり、都民ファーストが公明党やその他推薦候補と合わせて過半数を獲得することは確実といえる数字が各社出口調査で出てきている。

先週は在京のほぼ全ての新聞社で都民ファーストと自民党が「横一線」ないし「(僅差で)競り合う」という情勢分析が報道され相場観になっていたが、筆者が代表を務めるJX通信社の調査では上図や過去の記事の通り、傾向が大きく異なっていた。結果はご承知の通りの「大差」だ。都民ファーストはなぜこれほど大勝し、自民党はなぜこれほど大敗したのか、その要因を過去半年の都内世論調査と他地域の事例から分析する。
ボリュームゾーンの「無党派」「自民支持層」をどう取るか?

言うまでもなく、選挙は多数決だ。多数決で勝つには「多数」の人がいる層を特定し、取り込む戦略が必要だ。

2013年以降、日本の選挙では政党支持層のボリュームゾーンが「無党派」と「自民党支持層」しかない、いわゆる「一強多弱」構造が徐々に定着してきた。この結果、政権交代から5年近く経っても未だ自民に代わる政治勢力が出来ないでいる。

東京以外で、それを打破してきた数少ないケースのひとつが大阪維新の会だ。大阪の知事選や市長選、議会選といった地方選挙での強さは言うに及ばず、府内での国政選挙の比例得票数も5年前から首位をキープしている(国政政党である日本維新の会、維新の党、おおさか維新の会として)。維新は府内の大型選挙でほぼ毎回、無党派で最多の支持を得つつ自民支持層も数割獲得し、維新自身の支持層は9割以上をしっかり固めて大量得票という結果を出している。

ただ単に無党派層だけの人気を集めるだけでは自民党に勝てず、ましてや風が少し減速すると大きく負けてしまうということは旧民主党などを例に出すまでもない。維新の大阪での与党化は橋下徹氏の人気という「風」や偶然だけで説明すべきものではなく、無党派の支持を得ながら自民支持層を分断し、自身の支持層に取り込んでいった戦略的な勝利によるものなのだ。

こうした戦略展開が可能だった背景には、維新が自民党から分派する形で誕生した経緯や、橋下氏自身ももとは自公が擁立し自公に支持基盤をもつ知事であったことがある。そして橋下氏や維新がそれを十分に自覚し、意識的に自民支持層を割るための発信を続けてきたこともポイントだ。選挙のたびに橋下氏や松井氏が「安倍政権は頑張っているが大阪の自民党は最悪」と、政権と大阪の自民党を区別する発言を繰り返したり、定期的に安倍首相や菅官房長官と面会等で親しげにコミュニケーションをとるのはその好例だ。

※尤も、今度の東京都議選では、維新のそうした戦略が完全に逆効果となり、同党は東京での足場を失うことになった。

維新は大阪以外の地域からは一時の風頼みの政党、個人の人気頼みの政党と見られがちだが、そうした誤った見方の背景には、こうした強固な支持基盤の構造への理解不足があると言える。

これらを念頭に東京に目を転じると、昨年、小池氏が知事選で勝利したことも、鳥越氏や増田氏の躓きによる「偶然の敵失」が要因ではないことや、自民の都議選での大敗がいわば「既定路線」だったことが見えてくる。
10ヶ月前に定まった自民の「大敗コース」

小池百合子東京都知事は、巷間知られる通り「前職」は自民党の衆議院議員であり、昨年の都知事選にも当初は自民党の推薦を求めながら出馬の意思を示した。

しかし、自民党都連側が「門前払い」する対応を見せると、小池氏は都連にファイティングポーズをとった。現職の党所属代議士として、足場を自民党に置きながら都連、そして都議会を敵役に仕立て、改革が必要な対象として知らしめたのだ。法的には荒唐無稽とも言える「都議会冒頭解散」や、挑戦的な「利権追及チームの設置」といった、小池氏の最初の公約はテレビやその他メディアで大きく取り上げられた。