■東京都議選の結果は金融市場には「中立的」

6月19日のコラム「安倍政権は再び財政拡大策に踏み切るか」では、安倍晋三政権が財政政策拡大に踏み出す可能性をテーマにした。6月18日に通常国会が閉幕したが、政治的には引き続き加計学園問題がメディアで話題となっている。さらに東京都議会議員選挙(7月2日投開票)が国政に及ぼす影響が注目される。

 本原稿執筆時点(6月30日)では東京都議選の世論調査では、小池百合子東京都知事率いる都民ファーストの会と自民党が支持率でほぼ並ぶ激戦となっている。

 都民ファーストや協力勢力が都議会で過半数を上回れば、小池都知事が掲げる政策が議会を通じてスムーズに決定されることになるだろう。また、自民党が議席を大きく失えば、次の国政選挙では東京都の選出の国会議員の得票にも影響が及びそうだ。

 安倍政権に批判的な野党とメディアが一体となり加計学園などの「問題」を材料に「口撃」が続く中で、都議選敗北となれば、安倍政権に一定程度政治的ダメージが及ぶことになる。

 ただ、東京都議選である程度の敗北となっても、金融市場にとってはほとんどニュートラルだとみている。

 国会で安倍政権を批判している民進党などが議席を失うとみられ、党内が揺れ動くのは野党も同じである。また、小池都知事と安倍連立政権が一定の協力関係を保つ可能性もある。さらに、安倍首相は改憲案を早々にまとめ、来年の国会提出、そして国民投票に踏み切る意向を強めていると報じられている。こうしたプロセスが進むまでには時間があり、足元で安倍政権に吹いている逆風が今後どうなるかも流動的である。

 実際に、6月になって内閣支持率は低下しているが、一部メディアとともに安倍政権を批判している野党の支持率は上昇していないに等しい。もちろん、政治の世界では一寸先は闇だが、批判だけの論戦をしかける現在の野党が、国民の信頼を獲得することは難しいとみられる。

2018年と想定される改憲の国民投票を念頭に置いた次の衆議院議員総選挙が、安倍政権の命運を決める戦場となるとみられるが、それまでに、安倍官邸の「巻き返し」を含めて政治の風向きが変わる可能性が十分あると筆者は考えている。

■自民党内の「2つの勢力」に注目

 これまでもコラムで述べているが、最大野党である民進党からは、国民の信頼を得るに足る経済政策などの提言はほとんどみられていない。このため、今後の経済政策の方向を考えるうえでは、やはり自民党内の政策議論がより重要になる。その意味で注目されるのは、5月16日に自民党の議員によって「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」が開催されたことである。これには、野田毅・前自民党税制調査会長、中谷元・前防衛相、野田聖子・元総務会長、村上誠一郎・元行革担当相らの自民党の大物議員が参加している。

 さらにブルームバーグなどの報道によれば、6月15日の2回目の会合では、石破茂元幹事長も出席しており、勉強会では、日銀の金融緩和政策に批判的な経済評論家が講師として呼ばれた。石破氏は、「日本が迎える状況は極めて危機的」「侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が行われるのは当たり前だ」と述べた。

 過去4年以上にわたる日銀の金融緩和政策の効果・恩恵は大きかったと筆者は投資家の立場で考えているが、安倍官邸と距離を置く自民党議員らは、アベノミクスに対して今後批判的なスタンスをあらわにしていく可能性がある。なお、2回目の会合には40人前後の議員が参加したという。

 一方、これと対照的な勉強会も自民党内で行われている。「日本の未来を考える勉強会」で、安藤裕衆議院議員が呼びかけ人となり、2回生の議員が参加者の中心となっている。この勉強会において、「民間投資を補う財政出動を絞れば経済が低迷し、税収減で財政がかえって悪くなる」「財政黒字化目標の代わりに、毎年度の当初予算の増額幅を2兆〜3兆円に抑えることを目安にすべき」「教育費の負担軽減に充てる教育国債の発行も許容される」「消費税については増税凍結だけでなく5%への減税も視野に入れるべき」などの提案がまとまり、27人の議員の賛同が得られたとも報じられている。