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委員会審議を打ち切る“禁じ手”まで用いて強行採決された「共謀罪」法。だが、捜査対象は曖昧なまま。思想弾圧された歴史を背負う日本共産党の論客に聞いた。

 組織的犯罪集団とは何か、一般人は対象にならないのか、内心の自由は侵害されないのか──。そんな懸念が払拭(ふっしょく)されぬまま、「共謀罪」法は7月11日の施行が決まった。

 捜査対象が曖昧(あいまい)なままでは、政府が「危険」と判断した市民団体、労働組合、デモ参加者などが狙い撃ちされかねない。それは、政党も例外ではない。ある政治記者が話す。

「政権批判の急先鋒(きゅうせんぽう)で、痛いところを突く共産党を、捜査対象にするという理屈すら成立してしまう」

●共産党攻撃強める政権

 そう懸念するのは、安倍政権が2016年3月、質問主意書に対して、共産党を「現在も破壊活動防止法(破防法)に基づく調査対象団体である」とする政府答弁書を閣議決定したからだ。暴力革命の方針を継続している団体だから監視が必要との論理で、

「捜査当局が拡大解釈すれば、共産党を捜査対象にする可能性もゼロではないのではないか」(前出の政治記者)

 政権や自民党が共産党攻撃を強める背景には、民進党など野党の保守系議員を刺激し、選挙での野党共闘を阻止するためとの見方がされている。そもそも破防法は東西冷戦下の1952年、共産党を排除する目的でつくられた法律で、最近になって政府見解が変化したわけではない。だが、「共謀罪」法ができた今、この閣議決定はより不気味な色彩を帯びる。同党書記局長の小池晃参院議員は、こう話す。

 荒唐無稽な閣議決定です。公安当局は60年以上ずっと共産党を調査対象団体としてきたが、いくら調べても暴力革命を目指す事実は出てこず、破防法は一度も適用できなかった。党の綱領でも、日本社会の変革は言論と選挙を通じて実現すると明記している。閣議決定時に「撤回せよ」という声明も出したが、今でも放置されているのは許しがたいことです。

公安当局は共産党員の活動に目を光らせているという。先の閣議決定を根拠にして、共謀罪の捜査対象にされかねないという懸念はあるのか。

●国民の怒りは根深い

 ここまで急いで共謀罪を成立させた背景には、反政府運動の高まりへの危機感がある。安保法制論議で、国会を取り巻く市民運動が盛んになり、SEALDsや「安保関連法に反対するママの会」などのムーブメントも生まれた。政府に目障りな活動を抑えつけるために、特定秘密保護法を作り、通信傍受法の対象範囲を拡大し、共謀罪を強行採決した。そうした流れの中で、共産党を含む平和運動や反原発運動団体を政府が恐れ、共謀罪の捜査対象にしていこうと考える可能性はありえます。しかし、万が一そんなことをしたら、共謀罪の危険性を世間に知らしめるようなものです。

 岐阜県の大垣市では、警察が風力発電への反対運動の関係者を調査して、電力会社に情報提供をしていた。16年の参院選では、大分県別府市で野党候補を支援する労働組合の敷地内に警察の監視カメラが設置されていた。街には防犯カメラがあふれ、「犯罪が減るのなら」と、監視されることに抵抗を感じない市民も少なくないが、息苦しさを感じてからでは手遅れになる。国会閉会後は野党が追及する機会は激減する。共謀罪も加計(かけ)学園問題も、政権は「国民は時がたてば忘れる」と思っている節がある。

 今回は、国民の怒りはそう簡単には収まらないはずです。特に加計(かけ)学園問題のような“不公平な政治”に対しては、日本人は非常に敏感です。安倍晋三首相の「お友達」なら、52年ぶりに獣医学部が創設できて、37億円の土地がタダになり、96億円の補助金が入るのかと。年金記録問題もそうでしたが、この「不公平感」への怒りは、国民に当事者意識がある分、根が深いのです。国会閉会中も多くの地方選挙があります。不公正な政治には声を上げて、追いつめなければなりません。

 本来なら国会質疑によって法案の内実が少しずつ明らかになり、肉付けされていくが、それが不十分に終わった「共謀罪」法。市民の心には、政権への不信が澱(おり)のように残ったままだ。