今月二十三日に厚木基地(神奈川県大和市、綾瀬市)の米空母艦載機の移駐受け入れを表明した山口県岩国市は、
かつて住民投票で移駐に反対の意思を示していた。

市長として二〇〇六年、投票を実施した井原勝介(かつすけ)さん(66)は、
首都圏で騒音の原因となってきた艦載機の移駐に「沖縄と同じ。地方への一方的な押し付けだ」と疑問を投げ掛ける。 (井上靖史)

「民意が実現しないのが残念で仕方ない。投票に行ってくれた市民にも申し訳ない」。
潮風が吹き付ける岩国基地ゲート横。滑走路を眺める井原さんは無念そうだった。

艦載機移駐を含む米軍再編計画が浮上したのは〇五年。
翌年の住民投票は、当時の有権者の58%に当たる四万八千人が投票し、うち89%の四万三千人が移駐に反対した。
この結果を基に井原さんは「移駐させる機数も提案しながら国と交渉しようとした」という。
だが防衛省側から「米軍再編の内容は協議しない。受け入れを決めればスケジュールや、段取りの話し合いには応じる」と拒まれた。

国と膠着(こうちゃく)状態が続くと、市庁舎建て替えの国庫補助金四十九億円のうち、残っていた三十五億円が凍結された。
補助金は沖縄からの空中給油機部隊の受け入れの「見返り」として決まっていたものだった。

辞職し、信を問う市長選に出たが、〇八年、移駐容認派の福田良彦・現市長に敗れた。
井原さんは「小さな自治体が国に反対することに市民も不安になったんだと思う」とみる。

凍結されていた補助金は選挙直後に交付された。
その後も国から地域振興策が打ち出され、一七年度だけでも米軍再編交付金など防衛関連の交付金は百十四億円。
市の一般会計の15%に相当し、六十億円のごみ焼却施設整備などに充てられる。

一八年度からは交付金を活用し、小中学校の給食費が無料化される。

基地を巡っては、米軍普天間(ふてんま)飛行場の名護市辺野古(へのこ)への移設に反対する沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事
の就任後、沖縄振興予算が五年ぶりに減額された例もある。

「アメリカを前にして、国には主体的な交渉能力はなかった。金をちらつかせるしかやり方がない」。
井原さんは市長時代の体験を振り返りながら思う。

「沖縄にも岩国にも、これほどの駐留が必要なのか。日米地位協定や基地のあり方といった本体の議論もせず、
反対の声を無視して首都圏から地方へ負担を付け回すだけで防衛の効果があるのか。
地域の声を聞き、全体の政策を考えるのが国の役割ではないか」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201706/CK2017062802000263.html