エマ「相談があるの?」かすみ「先輩にしか頼めなくて。」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
ちょっと不思議な雰囲気の虹ヶ咲ssです!
先程は書くのが遅く落としてしまい申し訳ないです、楽しんで頂けると幸いです。
代行 皆さんこんにちは!エマです!
私は大学進学後民族学や日本の伝統についてを知見を広めるために専攻した結果それに結びつけてちょっとホラーな記事等を書いています!
なんというか、反応がいいんだよね~
あ、偶に果林ちゃんにもしてあげるんだよ?すっごく嫌がるんだけどその日は一緒に寝てくれるからついついしちゃうんだ~
昨年の十一月某日。私は、フリーランスのWebライターをしているかすみちゃんという後輩から「相談したいことがある」とメールを貰いました。
かすみちゃんは可愛い子でね、怪談やホラーばかりを執筆している私とは違って、メイクとか美容みたいな若い女の子に対して有益になる情報なんかを書いてるんだ。
すっごく分かりやすくてかすみちゃん本人も可愛いから人気高いんだよ?まぁちょっとしたアンチもいてよく喧嘩してるんだけどね…
あ、話が逸れたね、そんなかすみちゃんから”相談がある”なんて言われたからビックリしたよ!私でいいの?!って
勿論快く了承したよ。卒業はしてもいつまでも可愛い後輩だからね。 その日が週末に近かった事もあって互いにスケジュールを調整して近所の喫茶店で顔を合わせるまでにそれほどの日数はかかりませんでした。
実は私が各地を飛び回ってるせいで果林ちゃん以外とは中々会えてなかったからすごく楽しみだったんだ!
席について私を待っていたかすみちゃんは、少しばかり疲労の混じったような笑顔を浮かべつつ、軽く右手を上げて私を迎えます。
「すみません、先輩。急に相談なんて、変なこと言って」
普段よりも少しばかり低く、掠れた声を出していたことが、何となく印象に残っています。やや力なく笑う彼女の目の下にはうっすらと隈が出来ているようにも見えました。
体調が悪いのか、もしくは仕事の疲れが溜まっているのかな、と私は思いました。
幾らメンタルが強い人でも嫌な事を言われたら傷ついちゃうし気にしちゃうでしょ?だから同じフリーライターの私に相談なのかなぁって。
席に着き、適当に飲み物を注文しつつ、私は会話に応じます。 「いや、相談は別に構わないよ!構わないんだけど、その、私で大丈夫?ほら、私よりしずくちゃんとかの方が嫌な事言われた時とかの対処法とか知ってそうだし…」
「?私別に嫌な事なんて言われてませんよ…寧ろ、何て言うんだろうな、先輩にしか相談できない、というより先輩しかこういう話って聞いてくれなさそうで。」
困ったような顔でそう言って、彼女はその「相談」の内容を、ぽつぽつと話し始めました。
十一月の上旬、かすみちゃんは知り合いに会う用事で、福岡県の北部にある小さな町を訪れたのだそうです。私も其処には何度か行った事があるのですが、町と言っても殆ど住宅街で、何々マート、みたいな個人商店のスーパーが時々見える程度の、他愛もないところです。
「それで、用事自体はまあ何事もなく終わって、さて帰ろうってなたんですけど。ほら、行きと帰りだと横断歩道とかとの兼ね合いもあって、通る歩道が変わるじゃないですか。反対車線じゃないけど、そういう感じで、行きの時には道路を挟んで向こうに見えてた歩道を、帰りにはひとりでとぼとぼ歩いてたんですよ」 テーブルに置いてあった紙ナプキンを道路に見立てるように指でなぞりながら、彼女は話を続けます。
「そしたら、その帰りに通った側の歩道に面したとこには公民館。公民館が、あったんですよ。多分その町のレクレーションとか、子供会とか、そういうのをやってるんだろうな普段はって感じの。ちっちゃな木造の。分かるでしょ?何となく」
「うん。何となく想像はつくよ。」
「うん。それでさその公民館の入口のところに、こう、私の頭の高さぐらいの掲示板があったんですよ。ほら、よくあるじゃないですか?近くの何々中学校で吹奏楽部が演奏会やるよ、なんとかっていう野球のクラブチームが部員募集中だよ、みたいなポスターを貼ってあるような、銀縁に緑色のやつ。その、掲示板にですね」
少しばかりの逡巡。
やがて、途切れ途切れに、言葉を選ぶように彼女は言います。
「ちょっと変な貼り紙がですね、貼ってあったんですよ」 「行きでは距離も離れてますし。わざわざ、あんまり行った事ない町の公民館の掲示板なんか見ないですから。でも、近くを通ったら、あれはね。何だこれって思いますよ。多分誰でも」
「ごめん、変なって言うのはどういう意味で変なの?」
そう私が問いかけると、彼女はその質問は或る程度予想出来ていたのか、軽く頷いてから話を続けました。
「ああいう類の掲示板って。イタズラとかを防ぐためだと思うんですけど、画鋲とかで紙を貼り付ける、あの緑色の面を覆うみたいにして、透明の板が嵌め込まれてるじゃないですか?でも、あの貼り紙は
その透明な板の上から、セロテープで無理矢理貼られてたんですよね。」
「だから、多分許可とかも取ってないと思うんですよ。鍵かなんかで開けてもらって中に貼るんですよ、ああいうのって普通は。しかも、その内容っていうか、書かれてることも変わっててさ」
恐らく、それを表現する言葉に悩んでいるのでしょう。かすみちゃんの説明は時折ぷつぷつと途切れ、中空に目を向けて何かを考え込むような表情を浮かべていました。 かすみんって意外と理知的な文章書きそう
ライターってのも妙に頷ける 「こう言っちゃなんですけど、すっごい崩れたというか下手な字でして、見た限り殆ど平仮名だったりもしてまして。読みづらかったから全部は読んでないんですけど、なんか、誰かをとにかく責めてるみたいな内容なんですよ。何だったかな、あれを見ようとしないあなたにも原因はあるんです、ずっと知らない振りでいられると思わないでください、みたいな。いや、そういう内容が、もっとすごい癖のある文体で書かれてました。助詞がめちゃくちゃだったりとか、そういう感じの言葉遣いでした
何だろう、やけに言葉足らず……っていうより、幼いって感じって言うんですかね?言葉を習ったばっかの子供みたいな、そんな文章だった、気がします。
あともう一個、気になったところがありまして。その貼り紙、真ん中のあたりに、不自然な空白があったんですよ」
「上半分と下半分にはさっき言ったみたいな文章が書かれてあって、でも真ん中は、変に間が空いてたんです。その貼り紙っていうのが大体、学生用のノート一ページ分ぐらいの大きさだったんですけど──そうですね。横置きの葉書一枚ぐらいなら入るかなってぐらいは、空白がありました。元々何か、それこそ葉書サイズのものが貼ってあったのか、意図的に開けてた空白なのかは、分かんないんですけど」 それで。
彼女はそこで、一層低い調子の声色になって、私の方を見ました。
「まあ正直、気味が悪いなって思いましてね。それに、それをずうっと眺めてるのもおかしい話じゃないですか。だから、一、二分で見るのをやめて、家に帰ったんです。そしたら。」
そこで彼女は一瞬、眉間に皺を寄せ、目を伏せました。
目元にも皺が寄り、薄く刻まれた隈が一層際立ちます。
「変な夢を、見るようになったんです」
”みないことえ それわだめだあよ へえこつきみたよにして” 聞けば、彼女はその日から殆ど毎夜、その夢を見ているのだそうです。
この相談を喫茶店で受けている時点で、少なくとも十日は経っていたでしょう。
彼女は、それから十分ほどの時間をかけて、最近見続けているという夢の内容を説明してくれました。その要旨を纏めると、およそ以下のようになります。
気が付くと、彼女は知らない家のリビングで、ぼうっと椅子に座っているのです。
窓の外はカーテンで遮蔽されているために見ることが出来ず、恐らくは夜であるために外からの光は全く漏れてこない。しかし何故か部屋の電気は消されており、つまりは真っ暗な部屋の中に居るため、部屋の詳しい様子などは自分に近いところが辛うじて判別できるという程度。足に伝わるひんやりとしたフローリングの感触から、ここが洋室であることは何となく判る。
そんな状況で、目の前にはもう一つ、椅子が置かれていて。
そこに、知らない女性が『立っている』のだそうです。
「椅子の上に、立ってるんです。女の人が。いや、座ってる自分の視点では──何だったかな。長ズボン、だっけ。確か黒だか灰色の長ズボン、みたいなのを履いてる足が見えるだけで、見上げても暗くて顔は見えないんですけど」 では何故、それが女性だと判るのか。
彼女が言うには、その声が、若い成人女性のものなのだそうです。
聞き覚えのない、知り合いの誰とも違う声です。
やけに舌足らずな調子だった、と言います。
「ずっと、椅子の上に立ってる女の人から、自分の頭の上のほうから、声を掛けられてるんですよ。なんか妙にくぐもったっていうか、マスクでも付けてるみたいな声なんですけど。どういう内容かって言いますとね、
あの貼り紙のやつとおんなじなんですよ。
あなたにも責任があって、知らない振りではいられないみたいな内容のことを、罪がどうの、精神がどうの、そういう言葉を使って、責めるみたいな口調でずうっと話しかけられてる。かすみんはただ椅子に座って、その足の辺りをぼおっと見ながら、それを聞いてるだけ。」 そんな夢を、見続けているんだと、疲労の滲んだ口調で彼女は言います。
初めは一時的な疲れからくるものだと思っていたが、日数が経つにつれ、段々とそれを不気味に感じるようになったんだと。
しかしそんなことを周囲の身近な人に言えるはずもなく、一番「こういう話を真面目に聞いてくれそう」な人に、意見を仰いでみようと思ったんだと。
そこまで話を聞いて、私は暫し考え込みました。
正直、仕事や何かプライベートの悩みによる心身の疲れが良くない方向に作用しているのではないか、という風に私は考えていました。
話の流れからして、恐らくかすみちゃんは怪異や説明のつかない不条理を通して自身の体験を理由付けようとしているのだろう、ということは予想できます。しかし、例えば発熱している時に決まって同じ夢を見る人がいるように、「何日も同じ夢を見続ける」こと自体は、そこまで珍しい現象ではありません。
ただ、もしここで「それはあなたが疲れているだけですよ」と返答したとしても、恐らく彼女を取り巻く状況は変化しないだろうということも、何となく予想出来ていました。 そこで。
私は、その貼り紙が貼られていた公民館の掲示板へ行ってみます、と彼女に伝えました。多分何の進展も無いでしょうが、そうして彼女の解釈に乗ってみることで、彼女の心理的な負担を少しは減らせるのではないかと考えたのです。
私も調べてみたのですが、特に変わった事は何もありませんでした。だからきっと大丈夫だと思いますよ──この辺りを最終的な落としどころにして、少しでも不安感を拭うことが出来れば、と。
万が一、実際に何か不思議な事が起こっているのだとしても、今のままでは情報源に乏しいという理由もありました。
兎にも角にも、私がその場所へ行ってみることを伝えると、彼女は少し安堵したような表情を浮かべました。
「すみません、手間かけさせちゃって。あんまり色んな人には話しづらくって」
「ううん!それは大丈夫だよ~、ただ正直、何か新しい発見があったり、その夢を見る原因を突き止めるみたいなことは────」
「いや、こんな話、信じてくれるだけでも嬉しいんです。本当にありがとうございます!」
その後、は最近の同好会メンバーの様子を聞いたりなど思い出話に花を咲かせその日は別れました。
ずうと あたまおさがらせたけども 私が実際に件の公民館を訪れたのは、その日から更に三日ほど経った後のことです。
午後五時半ごろ。大まかな所在を聞いていたこともあり、さほど迷わずに向かうことが出来ました。周囲はよくある住宅街という印象で、時間帯が登下校や退勤のそれと近いためか、ちらほらと通行人の姿も見えています。
スマートフォンの地図アプリを見ながら歩を進めると、やがてその建物が見えてきました。
やはり何の変哲もない、小さな公民館です。入口付近には三段ほどの階段とスロープがあり、歩道沿いには半畳程度の植え込みがあります。植え込みと言ってもそれほど大仰なものではなく、雑草と芝生の中間のような草が生えているだけの空間です。草丈も、精々くるぶしの辺りまでのものが殆どでした。春になれば、なずなやたんぽぽなどが幾つか生えてくるのかもしれませんが、肌寒い十一月の気候では、これといった植物も見受けられません。
そんな植え込みに、ぽつりと掲示板が立てられていたのです。
面積で言うと、模造紙を一枚貼れるかどうか、という程度のものでしょうか。その時は、定期演奏会のおしらせ、不審者に注意、そういったよくある貼り紙が数枚、画鋲で固定されていました。
しかし、かすみちゃんが言っていたような張り紙は、何処にもありませんでした。
ただ、当然と言えば当然でしょう。彼女の話では、恐らく無断で掲示されていたとのことでしたので、誰かが気付いて剥がしたという可能性は十分に有り得ます。 そもそもその貼り紙は、掲示板に嵌め込まれたアクリル板の上からセロハンテープで直接貼り付けられていたのですから、風雨にさらされて何処かへ飛ばされたとしてもおかしくありません。彼女がその貼り紙を発見してから私がこの公民館を訪れるまでにかかった十日ほどの日数を考えれば、そんな紙が今も剥がれずに残っているという可能性の方が低いでしょう。
まあ、そうだろうな────そう思いながら、私はその掲示板を何となく見回して。
足元を見たのです。
先ほど書いたように、その掲示板は狭い植え込みの中に建てられています。掲示板のひんやりとした支柱は、ざらざらと乾いた土や雑草の中に続いており、地面に面した所には所々に蟻や小さな羽虫の姿が見えます。
そんな貧相な芝生の中に、私はひときわ大きな石がひとつ、ごろりと転がっているのを見つけました。
丸くて平たい形状の、つまりは円盤や硬貨のようなかたちです。大人が片手で、ぎりぎり握り込めないくらいの大きさだったと思います。
何気なく、私はそれに目を向けます。
「あれ」
私はそこで、その石の不可解な点に気付きました。
勿論、道路沿いの植え込みに石が落ちてあることそれ自体は、全く珍しいことではありません。
しかし。
それには所々、不自然な光沢が見えたのです。
何かが貼り付いているような、自然物では中々見られない、人工的な光沢。 すこしだけ、不思議に思って。
しゃがみこんで、その石をじっと見て、そこで気付きました。
それの周りに何本も、セロハンテープが貼られていたのです。
地面に落ちて、何日も経っていたのでしょう。接着面には土や砂が貼り付いて、ざらざらと薄汚れていました。間隔からして既に半分は剥がれてしまっており、辛うじてくっついている分についても、既に粘着力は殆ど無いのだと思います。
今となってはぐちゃぐちゃに折れ曲がっていましたが、それでも、そのテープが元々どのように貼られていたのかは、何となく類推出来ました。
放射状、といえば良いのでしょうか。テープを帯状に切ったものを何本も用意して、それを石の周りに均等に貼り付けていく。テープの先は何処にも貼り付けずに残しておくような貼り方をするため、元々の完成形はウニや栗のようなシルエットになったでしょう。そんな貼り方がされていました。 しかし、何故そんなことをしたのか。
私はその石を拾い上げて、それを裏返しました。
「────え、なにこれ」
咄嗟にそれを取り落としそうになり、慌てて持ち直します。
その、石のもう片方の面には。
切手よりも一回り大きいくらいのサイズで、恐らくコピー用紙に刷られた一枚の写真が、貼り付けられていました。
これもまたセロハンテープで接着されていたのですが、石そのものに付けられていたそれとは違い、その写真の一辺につき何枚ものテープが、べたべたべたと執拗に貼られています。
何というか、非常に雑に切り抜かれ、画質も縦横比もでたらめになっているために判別は困難だったのですが、恐らくは成人男性の顔を切り抜いている写真だと思われます。少なくとも私の全く知らない人の写真です。更に、それは白黒で印刷されていたこともあり、背景が何であるか──即ち、何処で撮影された写真なのかは全く分かりませんでした。
無表情の、成人男性です。
顔だけが大きくアップになり、縦横比もおかしい白黒の顔写真が、道端に落ちていた平たい石に貼り付けられている。その異様さに、私はただ固まって、混乱することしかできませんでした。
何で、こんなものが落ちているのか。
この写真は誰だ。そもそも何で石にこんなものを貼り付けているのか。
かすみちゃんはこれに気付かなかったのか。ここの掲示板にあったはずの貼り紙は────
そこまで考えて、私はひとつの可能性に思い至りました。
かすみちゃんが言及していた、あの貼り紙の不可解な点。
「真ん中は、変に間が空いてたんです。その貼り紙っていうのが大体、学生用のノート一ページ分ぐらいの大きさだったんですけど──そうですね。横置きの葉書一枚ぐらいなら入るかなってぐらいは、空白がありました。元々何か、それこそ葉書サイズのものが貼ってあったのか、意図的に開けてた空白なのかは、分かんないんですけど」 私は、右手に持っているそれをもう一度見やります。
大人が片手で、ぎりぎり握り込めないくらいの大きさの石。
もし、あの貼り紙の中心部分の空白が、元々は空白でなかったとしたら。
それこそ掲示板を隔てるアクリル板の上から貼り紙を直接貼り付けるように、強引に、平たい石ころをセロハンテープで接着しようとしていたのだとしたら。
当然、テープの粘着力では重みに耐えきれず、石だけは下の茂みに落ちてしまい、その「台紙」とも言うべき貼り紙部分も剥がれて、散逸してしまったのだとしたら。
彼女が毎夜のように夢に見るという、あの女性は、いったい──
「あの、大丈夫ですか?」
そこまで考えていたところで、後ろから突然に声を掛けられました。
思わずびくりと肩を揺らしながら、後ろを振り向きます。
後ろでは、心配そうな表情をした綺麗な女性が、私を見下ろしていました。
左手にはリードが握られており、その先ではピンク色の服を着た小さなブルドッグが、ぽてぽてと女性の周りを歩いています。 私は慌てて立ち上がりました。
右手に持っていた石は咄嗟に、ポケットの中へ突っ込みます。
「ああ、いえいえ。少し考え事をしていて。ごめんなさい」
「あ、そんな。具合が悪かったり、そういうことじゃないんでしたら何よりですよ。このご時世だから色々と心配しちゃって」
話を聞くに、その方は最近この地域に越してきた女性で、飼い犬の散歩中に道端でずっとしゃがみ込んでいる私を見て、気分でも悪いのかと思って声をかけたとのことでした。
いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。そういった曖昧な返答をして、そこからはぽつぽつと雑談をしました。
或る程度取り繕おうとはしたものの、その方も少なくとも、私がこの地域に住んでいない人だということは分かっていたでしょう。先程までの私の挙動を考えても、それなりに怪しまれてはいるのだろうという予想したため、先程の写真についてこの方に直接訊くことはしないでおこう、と思ったのです。
最近、急に寒くなりましたね。わんちゃんは何歳くらいなんですか。そんな取り留めも無い会話を二、三分ほど繋げたとき。
その女性がふと、私の後ろの掲示板に目を留めました。
狭い掲示板の中に、定期演奏会のおしらせ、不審者に注意、そういったよくある貼り紙が数枚、画鋲で固定されています。 「ああ、そうそう。最近はここも物騒になったんですよね。ご存知ですか?一週間かそれよりも少し前ぐらいに、ちょうどこの掲示板の前に変なひとが居たっていうのが、この辺の家の人たちで割と話題に上がってたんですよ」
「変なひと、ですか」
「そう。私は見てないんですけど、確か、二十代ぐらいの女の人だって言ってましたね、見た人は。なんかね、そんなんじゃ貼られてるものも見えないでしょってぐらいに顔近づけて、何するでもなく、掲示板をずうっと見てたんですって」
「ずっと、というのは」
「部活の朝練で朝一に登校した高校生とか、昼に買い物行ったお母さん方とか、いろんな人が言ってたのを合わせると、少なくとも朝の六時半から午後三時ぐらいまでは居たらしいんですよ。
ここって道路沿いだから、あんまり人が出歩かない事もあって、その時はわざわざ通報する人もいなかったらしいんですけど──」
何というか、不気味ですよね。
そこまで聞いたとき、私はただ、言いようのない不安感のようなものを感じていました。
「それは、確かに不気味ですね。あの、その女の人の外見とかって、誰かから聞いてますか?例えば何を着てたか、とか」
そう私が尋ねると、その方は目を瞑り、うーんと首を捻りながら声を出しました。
「服装までは、あんまり詳しくは聞いてないですね。確か、女性にしては短めの茶髪だった、とは聞きましたよ。かなりはねた感じの髪型で────いや、ウルフとかそういうお洒落な感じではなくて、ただお手入れをしてないんだろうな、みたいな。ああ、それと」
突然に思い出したようにその女性は、ぱっと目を開きました。 「やけに大きな、黒いボストンバッグみたいなのを持ってた、らしいですよ。中身は見えなかったんですけど、傍目に見ても重たそうな感じで膨らんでて。あんなの持って立ってるなんて絶対大変でしょ、っていう話はしてました」
ねすにわわからんとゆつて たのは その後も二言三言話した後、その女性は再び犬の散歩に戻るために、その場を去りました。
私もずっと掲示板の前に立っていては流石に怪しまれると思い、彼女らとは逆方向の歩道を歩きだします。
歩いている間もずっと考えているのは、やはり先程の「掲示板の前に立っていたひと」のことでした。
その女性は、何をしようとしていたのか。
近すぎて何も見えないぐらいに掲示板に近付いて、何を見ていたのだろうか。ずっと持っていたという黒く大きなバッグの中には、何が入っていたのだろうか。
かすみちゃんが見た掲示板に貼られていた、誰かを糾弾する貼り紙。夢の中で、それと全く同じ語調でかすみちゃんに話しかけたという、顔の見えない女性。
そして、その掲示板の前で大きなバッグを抱えてただ立っていた、ぼさぼさな茶髪の女性。 これらの話は、何度考えても繋がるようで繋がらず、私の中に違和感だけを残していました。
いつの間にか時間は過ぎ、もう午後六時になるかどうかという時間帯です。退勤し帰宅しようとしているのであろう人々の姿も、先程よりも少しだけ多くなっていました。
取り敢えず、私も帰ろう。
今日聞いた事を、取り敢えずかすみちゃんに連絡してみよう。あの女性のことと、それから─────
そこで、思い出しました。
掲示板下の芝生で拾った石。
確か犬を散歩させていたあの人に会った時、咄嗟にポケットの中に捻じ込んでいたんだった。
私は右ポケットの中に手を入れて、それを再度取り出しました。
放射状にセロハンテープが付けられ、そして片面には誰かの顔写真が貼られている、手の甲よりも少し小さい程度の大きさの石。無造作にポケットの中に入れた拍子に幾つかのテープが外れたのか、石を取り出してもポケットの中には、ぢりぢりとした感触が少し残っていました。 取り敢えず、写真を撮っておこう。
掲示板周辺の写真は後からでも撮影できますが、この石に関してはそういう訳にも行きません。家に帰ってからというのも考えましたが、折角だから現場に近いところで撮っておきたかったのです。
私は近くのバス停にあったベンチに座り、スマートフォンを取り出しました。左手に石を持ち直し、右手でスマートフォンを操作。カメラモードを起動し、撮影の準備を始めます。
比較になる何かと一緒に、ベンチに置いて撮影しようかとも考えましたが、石を持っている手も含めて撮影すれば何となく大きさの感覚は掴めるだろうと思い直し、左手にそれを持ったままの状態で写真を撮ることにしました。
厳密な大きさの検証は、家に帰ってからしっかりとやれば良い。
そして、まず写真が貼られていない方の面を撮影しました。
少し角度を変えつつ、数枚に分けてシャッターボタンをタップします。
ぱしゃぱしゃと鳴るシャッター音を聞きながら、私は何となく、その石に付いたテープを見ました。
先ほど書いたように、その石の周囲には放射状にセロハンテープが貼られています。今では粘着力も殆どありませんが、それでも片面にはざらざらと砂などが付いていることから「どちらがテープの接着面だったのか」は分かります。
そして今。写真が貼り付けられていない方の面を撮影している時点で、接着面は全て撮影者側、つまり私のほうを向いていたのです。 つまり、もし私の予測が正しく、この石が嘗て貼り紙の空白部分に貼られていたのだとしたら。
貼り紙と一緒に掲示された、この石の「表」とも言うべき面は、あの男性の顔写真が貼り付けられている側の面であるということになります。
かすみちゃんによれば、あの貼り紙には「誰かを責めるような」語調の文章が、乱雑かつ奇怪な文体で書かれていたのだといいます。
そんな紙の上から強引に貼り付けるようにして、あの変に引き伸ばされた、切り抜きも印刷も雑な男性の顔は、掲示されていたのでしょうか。
何となく薄ら寒いような気分になりつつも、私は「裏面」の撮影をあらかた済ませて、件の顔写真が貼られた方の面を撮影すべく、石を裏返しました。
左手に持ったそれをカメラで捉え、角度を変えつつシャッターを切っていく。
三、四回目の撮影が終わったあたりだったでしょうか。
「────あれ?」
何となく、スマートフォンの画面越しに見ていた顔写真に、違和感を感じたのです。
最初に見たときと比べたとき、微妙に。 男性の顔つきが、変わっているような気がしました。
勿論その写真は元々の画質も悪く、お世辞にも高品質とは言えない印刷をされていたため、細かいところまで判別することなどは最初から出来ませんでした。
しかし、口を閉じ、茫洋とした目つきでこちらを見た全くの無表情であったことに関しては、しっかりと覚えていた筈なのです。それなのに。
再度見たそれは、うっすらと口角が上がっているように見えました。
私はスマートフォンを操作し、先程撮影したばかりの写真を見返します。
モニタ越しに映った男性の顔も、やはり微妙に口角が上がっていました。
最初から、その表情だったのかな。
まあ、あの茂みで拾い上げたときはだいぶ動揺してたし、じっくり見てたわけではなかったから、その位の見間違えは有り得るか。
そう思い直し、私は再び左手に持った石に目を向けました。
男性は。
歯を見せて笑っていました。
なんで? 私は、こわいとか不可解だとかそういった感情を感じる前に、そう思いました。
ただ、目の前で起きていることが分からず、混乱していたのです。
いえ、起きていることの理解はしていました。短時間のうちに、印刷された顔写真の表情が少しずつ変わっているんだ、ということはその時点で分かっていたのですから。分かったうえで、頭がそれを受け入れようとしなかった、という方が正確です。
だって、そんなことが起こる筈がありません。
というよりも、そんなことが起こってはいけないでしょう。
私はもはや写真を撮ることも出来ず、だからと言って他の行動を取るわけでもなく、ただその男性の明らかな「笑顔」を凝視していました。
にたにたと、にやにやとこちらを馬鹿にするような、とても嫌な笑い方でした。
今でも解せないのは、目元は全く変わっていなかった事です。
ぼうっとした目つきは一切変わらないまま、口元だけが歪んでいました。
その男性は。
ただ無言で石を見つめる私を嘲るように、笑っていたのです。
何秒が経ったでしょうか。
何十秒が、だったかもしれません。
沈黙を破ったのは、私ではありませんでした。
私の左手の中で。
それは、はっきりと口を動かして、
「もうだれでもいいんだろうねえ」
と言いました。 甲高く、いやに耳に残るような声でした。
そこで私は漸く、何とも言えない不快感を覚えて。
その石を半ば本能的に、取り落としてしまったのです。
「あっ」
私の、掠れたような情けない声が、他人事のように聞こえました。
その小さく平たい石は、こつんこつんと足元を転がって、やがてぴたりと止まります。
数秒ほど迷ったのち、それに左手を伸ばして。
拾い上げて、その男性の顔を見ると。
一番最初に見たときの、口を閉ざした無表情に戻っていました。
私はそこで一瞬だけ、先程までの出来事が、すべて気のせいだと思おうとしました。
思おうとはしたのですが。
右手に持ったスマートフォンに映る男性は依然として、
うっすらと口元を歪めていたのでした。
あたなことのであつて 私はその後、すぐにかすみちゃんに電話を掛けました。
終業時間などに縛られることの比較的少ないライターである彼女が、この時間帯にあまり予定などを入れないことは、数年来の付き合いの中で、或る程度知っていたのです。
案の定、数コール後に電話に出て下さった彼女に、私は今から会えないかと相談しました。
前に言っていた通り、あの貼り紙のことについて、実際に掲示板がある場所まで赴いて調べてみた。その結果「色々と」新しいことが分かったのだけれど、どうにも直接会わないと全部を伝えることは難しい。
大体そのような内容のことを伝えたと思います。
彼女は数秒ほど沈黙したあとで、分かった、と私の申し出を了承して下さいました。
その時の彼女は少しばかり、声が低くなっていたような気がします。
「うん、分かった。じゃあ、前に会った喫茶店でいいかな」
一時間ほど後、つまり午後七時ごろ。私はその喫茶店を訪れました。
入って右に進んだところの席でスマートフォンを触っていたかすみちゃんは店のドアを開けた私に気が付くと軽く手を振りました。
「お疲れです。ほんとごめんなさい!わざわざ面倒なことさせちゃって」
「ううん、私が行くって言いだしたんですから。まだ、ええっと、あの夢は見るのかな?」
「はい、流石に毎日ってわけじゃないですけどね。ほら、夢を見てたことも覚えてないって時だってある訳でして、でもそういうのを除いたら、毎回見てるってことになるんですかね。」 かすみちゃんの目の下にこびり付いた隈は、以前よりも濃くなっているように思えました。
「あの。新しい事が分かったって、電話で言ってましたよね」
「うん。実はね────」
私は取り敢えず、ついさっき自分に起こったことを、出来るだけ時系列に沿って説明しました。
その地域に住む方から説明された、掲示板を凝視する女性のことも。その下で拾った石と、それをめぐる一連の現象のことも、覚えている限り全てを話したつもりです。
後者に関しては半信半疑といった様子だったのですが、私がその時に撮影した写真と、再びポケットの中に仕舞っていた石を彼女の目の前に並べると、明らかに彼女の表情は曇っていきました。
正直、特に後者に関しては混乱されるか、或いは私の「仕込み」などを疑われるかなと思っていたのですが、彼女は拍子抜けするほどにすんなりと、それらの話を受け入れました。
私があらかたのことを話し切るまでに、大体十五分ほど掛かったでしょうか。私が彼女に相談を持ち掛ける電話をした場面辺りまで話し終わり、一旦の区切りがついたところで、彼女は目を固く閉じ、考え込むように俯きました。
暫くしてから、彼女はゆっくりと目を開き、おもむろに話を始めたのです。
「先輩の話を聞いてて、話すか話すまいかずっと悩んでたんですけど────」 「ふたつ、かすみんからも話したいことがあるんです」
相変わらず低く掠れた声で、彼女は言いました。
「さっき、今でもあの夢を見てるって言ったじゃないですから、それで、まあこれはかすみんの感覚でしかないから話半分に聞いて欲しいんですけど、暗いリビングの中でぼうっと座ってる夢を何回も何回も見てると、
『目が慣れてくる』んです。
元々それくらい見えてたのに気付いてなかっただけなのかもしれないんですけどね、少しずつ、暗くて見えなかったところがどうなってるのかが、分かるようになってきたんです。」
「え、つまりその、部屋の中のこととか、椅子に立ってる女の人の見た目とかってことかな?」
「はい。部屋はびっくりするぐらい殺風景でした。テーブルとか冷蔵庫とか、そういう主要な家具があるだけで、例えばクッションとか花瓶とか、そういうのは全く無かったです。生活感がないっていうか、安いビジネスホテルの内装みたいな感じって言えばいいんですかねね。とにかく、本当に殺風景な部屋だった。で、かすみんとその女の人は、そんな部屋の真ん中。真ん中で向かい合わせに、椅子を並べてる訳なんですよね。」
彼女の口調は、更に段々と重く、低くなっていきました。 「相変わらず、その人は椅子の上に立ってまして。やけにくぐもった声でよくわかんない事を言って、かすみんを責めてるんですよ。責めてるって言っても、言葉遣いがそんな感じだってだけで、喋り方はとことん無機質で、無感情なんですけど。で、前よりも暗い中でものが見えるようになってきたんだから当然、かすみんもその人のことが気になるんですよね。どんな服を着てて、どんな見た目で、どんな顔なのかって」
それで、椅子に座ったまま、少しずつ、視線をね。
上にずらしていったんですよ。
細かく文節を区切るようにゆっくりとした調子で、彼女は話を続けていきました。
「まず裸足で、灰色の長ズボンを履いてるのが見えました。この辺は前に話した時もちょっと触れましたよね。裸足、とは言ってなかったかもしれませんけど。
黒かな、とも思ってたんだけど、それは多分暗かったからだね。割と黒に近い灰色、っていう色調だったと思う。
その後、上半身を見たんですよ。目が慣れたって言ってもまだまだそれなりに暗いですからね、詳しい模様とかはおぼろげなんですけど、あれはニットかなんかの長袖のカーディガンに近いと思いますよ。色は、どうですかね。ベージュとかあの辺りだと思います。ボタンをぴっちり上まで留めてて、下に何を着てるとかは分かんなかったです。
それで、もっと上に視線をずらして、顔を見ようとしたんですよ。顔と、あと髪型とか。
でも、見ようとしたんだけど、分かんなかったんですよね。 かすみんそこで、ああだからそんなくぐもったみたいな声なんだ、って気付いたんですよ。
その女の人ね、自分の顔に、ノート一冊分ぐらいの大きさの、コピー用紙みたいなのを貼っつけてたんです。
うん。
さっき先輩が切り抜かれた男の人の顔写真が、っていう話してくれたじゃないですか。現物も見せてくれて。
まさにその人でしたよ。その人の顔が。
その紙いっぱいに引き伸ばされて、印刷されてたんですよね。
まあだから、要はお面ですよね。コピー用紙直貼りで、目とか口を通すための穴も雑に開けちゃってるせいで紙に変な皺が寄ってるみたいな、そういうお粗末なお面、
そんな状態だと、顔も髪型も確認できないですよ。
で、誰なんだその写真の人、って、昨日一昨日ぐらいからずっと思ってたんですけど。今先輩の話を聞いて、何となく繋がりました。
多分、先輩予想は正しいと思うんです。この石は、先輩の言う通り、元々その貼り紙についてたやつだと思います。かすみんが見た貼り紙の空白にも、ちゃんと収まるぐらいの大きさですし。 これが、かすみんから話したいことの一つ目。」彼女は、もはや相槌も打てなくなっている私をよそに、そう区切りました。
「二つ目はですね。その前にちょっと確認なんですけど、先輩がその、新しい事が色々分かったから話したいっていう電話をかけてくれたときに、先輩はそのままバス停のベンチにいたんですか?」
「え、うん。そこに座ったまま、電話を掛けたよ」
「その時、一緒に座ってた人とかは居ませんでした?」
「いや、いなかったと思うけど」
「分かりました。じゃあ、もう一つだけ確認させてくださいね。
そのベンチに座ってた時、写真が動いて声を聞いたって言ってましたけど、その声って多分、男の人にしては甲高くて、鼻にかかったみたいな感じじゃありませんでした?」
「え、何で────」
そこで私は口を噤みます。
何かとても、とても嫌な予感がしました。
私は彼女の質問に答えながら、思い出したのです。
彼女に電話をかけ、今から会えないかと提案した時、彼女は数秒ほどの沈黙のあとで、提案を了承してくれました。その時の彼女は「少しばかり、声が低くなっていたような気が」したのです。
それこそ今、私に話しかけている時のような口調でした。
「うん」
私の態度に気付いたのか、彼女は軽く頷いて、
「ずっと笑ってたよ、その人」
とだけ、言いました。 なのでこもみたよなさべりかた で
あのこの石、かすみんが持ってても良いですかね?
いや、持っててもというか、かすみんから誰かしらに相談して、お寺とか神社に持って行こうと思うんです。
元はと言えばかすみんの見た貼り紙から始まったんだし、ここまで来たらかすみんたちだけじゃどうにもならないと思うんですよね。先輩も積極的に持ってたくはないでしょ、こんなの。
そう言って、ほぼ有無を言わせないようなかたちで、彼女はその石を掴みました。
私としても、その時点で拒否する理由は無かったため、最後にもう一度だけ両面の写真を撮らせてもらって(少しばかり緊張したのですが、その際には特に何も起こりませんでした)後、彼女にその石を譲ることになったのです。
私のほうでも色々と調べておくこと、何か進展があれば互いに知らせることを約束して、その日は雑談もそこそこに別れました。
そこから暫く。
彼女にメールを送っても電話を掛けても、返事が来ない状態が続きました。 私も忙しく直接会いに行ったりすることも出来ません。一応しずくちゃんや璃奈ちゃんに聞くと「オンラインのチャットツールにログインしている形跡などはあるから、普通に生活はしているみたい」との連絡は受けていました。そのため心配はしつつも、あまりこの話をしたくないような精神状態なのかな、とも思い、あまり深く詮索することはしないようにしていました。
彼女から新しくメールが届いたのは、十二月の中旬に入ってからのことです。彼女が最初に貼り紙を発見し、夢を見てから、一カ月以上が経っていました。
以下に書くのは、私が彼女と別れてから件のメールを受け取るまでの間、私があれらについて色々と調べた結果の記述です。
それよりも先に「かすみちゃんからどんなメールが送られてきたのか」を読ませてほしい、という方もいるかと思われますが、その前に知っておいた方が良い情報も以下には含まれているため、出来る限りお読み頂ければと思います。
つがつてばかりのわ だめだあよ まず一つ目に調べたのは、「写真の男性は誰なのか」ということです。
あの掲示板のあった地域の周辺で手当たり次第に聞き込みを行い、情報を得ようかとも考えたのですが、不特定多数の方々と対面で会話することは難しいだろうと判断したため、あの地域周辺に住む知り合いにメールやLINEで聞いてみることにしました。
バス停で撮影した際の写真を見せることには何となく抵抗があったため、喫茶店で撮影した写真を出来る限り鮮明に見えるよう加工し、具体的に何があったかは伏せて「この男性を知らないか」と質問してみたのです。
結論から言うと、具体的に誰であるかという特定には至りませんでした。
元々がかなり低画質な画像であったため、正直なところ、それほど期待はしていませんでした。ただし、その調査の過程で少しばかり気になることがあったのです。
この質問には最終的に、二十九名の方が協力して下さいました。私の知り合いに限定されているため、地域だけでなく年代なども多少偏っています。 この男性の写真を見せて、質問をしたとき。
そのうち二十四名の方から「知っているような気がするんだけど、何で知っているのかが思い出せない」という解答を頂いたのです。
いわゆる既視感というものなのでしょうかね。その男性は顔立ちにそれほど特徴があるわけではないため、何かの記憶と混同した結果そういった答えを出した可能性も十分にあります。そもそもの母数も少ないため、有意な推測を出すことは困難かもしれません。ただ、そう答える確率が異様に高いように感じました。
先述の通り、「全く知らない」ではなく「知っている気はするが思い出せない」という方が二十九名中二十四名です。また誰一人として、「その人を何故、どういった経緯で知ったのか」「その人が誰なのか」を思い出すことは出来ませんでした。
二つ目に調べたのは、「あの石にはどんな意味があるのか」ということです。
石に何かのシールを貼り付けたり、描いたりするアート作品はありますが、あれはそういった類の芸術作品には見えません。私には、あれを作成し貼り紙にした個人の文化的背景に基づく、いわば願掛けやまじないなどに近いのではないか、というようにも思えました。 ただ、石に写真を貼り付けるまじないなど、少なくとも私は聞いた事がありません。私の知り合いに民間呪術や信仰などに精通している方で東條さんと言う方がいらっしゃいましたので意見を仰いでみましたが、結果は同様でした。
ただ幾つか、それ以外で興味深い情報は得られました。
私は、事の詳細は伏せて「以前に拾った丸く平たい石の片面に、知らない人の顔写真が貼ってあった」とだけ伝えていたのですが、東條さんはその写真が「丸く平たい石」に貼り付けられていることが気になる、と言います。
「願掛けとかおまじないに石を使うって時、小判型の丸石が使われることって結構多いんよ。赤ちゃんの百日祝いでお膳に並べる歯固め石もそうだし、あと地域によっては誰かがが亡くなったときに、家族の人が河原の丸石をひとつ拾いに行って、それを枕元に置くなんて風習もあるね。人が生まれたり死んだりっていうとこに関わる儀式に、石が使われることは珍しくないんよ。」
「え、つまりあの写真も────」
「いや、必ずしもそうだっていうことじゃないんよ?そういう色んな信仰に根付いてるぐらい、石は文化的にも身近な存在なんだ、っていう話。今のエマちゃんの話だけやとやっぱり情報が少なすぎるし、これはこういうことや、なんて断定はできへんよ。」
「うーん、やっぱりそうですよね。あ、じゃあもう一つ質問なんですけど、『願掛け』……つまり願いを成就させるために何か行動をするっていう意味合いで石を使うとしたら、どういう例がありますかね」 「え、願掛け?そりゃあ色々あるやろうけど、せやねえ。お賽銭みたいな感覚で小石を使うことはあったかもなぁ」
「お賽銭…賽銭に石を、ですか」
「うん。今はほら、小銭を投げ入れて、ちゃりーんって音を鳴らす音がケガレを祓うとか理由付けがされることもあるんよ。でもまあ、硬貨が民間にも普及したのなんて最近のことな訳で────その前はお米だったんよ。勿論呪術的な要素もあるから一概には言えないんやけど、要はお米が財産として意味を持っている時代に、それをばあっと撒くことで、身銭を切ってでも願いを叶えたいんだっていうアピールをしようとしたんやね。
で、これが更に昔になると、その身銭は石になる。
その時の名残なんか、それとももっと根本のところで人間の精神に関わり合ってるのかは分からへんけど、何々して下さいっていうお願いをするときに石を添える信仰は色んな所に残ってるんよ」
「なるほど。何かの願いを叶えるおまじないとして石を使う時は、その石は貨幣的な立ち位置になっている場合もあると」
「まあ、せやね。さっきの身銭の話に限って言うなら、神様に何かをお願いするときの捧げものの代替、みたいに捉えることも出来るよ。石を生命、いわゆる贄に置き換えて、それを奉納する。死後硬直が解けてぐだぐだになった死体が入った棺には丸石を入れたように、石は生命力の象徴として、或いは命そのものとして扱われたりも────」
私が質問をした東條さんは話に段々と熱が入ってきていました。
こういった話をすると中々止まらない性格で、普段はそれに悩まされることも多いのですが、今となってはそれを有難いと思う他はありません。 「あ、そうそう。福岡やと、博多のほうにある大きな橋を渡った先にさ、小っちゃい地蔵尊があるんやけど、知ってる?」
「ああはい、たまにあの辺りは通るので。ちゃんと中を見た事はありませんけど、何となくあれだろうなっていうのは分かります」
「あれにもなぁ、石とか命とかにまつわる伝説が残ってたりするんよ。確か、近くに立て札みたいなのがあって、大体の内容はそこに書いてあったと思うんやけど。」
「うーん、ごめんなさい。読んだ記憶は無いですね。伝説って、どんな内容なんですか?」
「えっとね。平安時代の終わりぐらいに、博多で守護の仕事をしていた加藤さんっていう男の人がおったんやけど、結婚してそれなりの歳になっても、子供が居なかったらしいんよ。それでお宮さんに籠って自分の子供が生まれますようにっていう祈祷をしてたら、神のお告げがあったんやと」
「お告げ、ですか。祈祷が通じたんですかね」
「うん。なんでも、この近くにある川へ行くと、そこで宝石のように美しい石が見つかる。それを持って帰って奥さんに渡せば、必ず男の子が生まれるんだ、っていうお告げだったらしいんよ。それで加藤さんも川に走って、必死に石を探してたら────
その川辺に、お地蔵さんが立ってたんだって」 「へえ、お地蔵さんが」
「それで、つい放心してそれを見つめてたら、ふと自分の左手に何かが握りこめられてる事に気付くんよ。ぱっと左手を開くとそこには、まさに自分が探していた綺麗な丸石があったんやと。これはお地蔵さんが自分に授けて下さったものに違いないと思った加藤さんは、それを持って帰って奥さんに与えた。そしたら間もなくして玉のような男の子が生まれた」
東條さんはここまで話し終えると、少しだけ息をつきました。
「後は、大体わかるよね。その男の子はすくすくと育って、神童と持て囃されるくらいの利発で勇敢な男になりました。これはお地蔵さんの霊験に違いないと思った民衆は、加藤さんとお地蔵さんを称えました。めでたしめでたし」
「なるほど。お告げに従って、不思議な石を持って帰ったことで、新たな命が生まれたと」
「そうやね。さっきの、石が生死とか命を象徴するっていう話だったら、福岡にもそういう話が残ってるよってこと。まあ、ちょっとした零れ話程度にはなるかなって」
「いえいえ、とても参考になりましたよ。ありがとうございます」
後日、私はその地蔵尊がある場所を訪れてみました。
木製の小さな建物の中に石造りの地蔵が一体安置されているという造りのもので、特段変わったところなどは見受けられませんでした。
また、付近にはこの地蔵に纏わる説話などが書かれた掲示板が設置されており、先述した加藤何某という方の逸話が詳細に書かれてあります。
供えられている花なども定期的に換えられている形跡があり、地蔵尊の手入れ自体も行き届いていたことから、地域の人々からそれなりに親しまれているものなんだろうという印象を受けました。丁度この写真を撮影している時に通りがかった男性に訊いてみると、習慣として此処にお参りをする方も多いのだそうです。 「結構人が来るとこだからってことで、ここの町内会で、いついつに誰が掃除をする、みたいなのがしっかり決まっとるとよ。そいで花とかも、持ち寄ってお供えしたりしとるな。もうそろそろ年末年始だから、お餅とか持ってくる人も居るっちゃないかなあ。ああ、そういえば」
自身も地蔵尊の手入れ等に関わっているというその男性は、思い出したように言いました。
「いつやったかな。何週間か前やったか、変なお供え物がされとったって、家内が言うとさ。丸っこい石がみっつぐらい、こう、それこそ鏡餅みたいな要領で積まれとってから。いや、何かが書かれてあるってわけじゃあなかったらしかとけど、とにかく石が積まれとった、って。ほら、神社やったら時々、境内とかに石を積んでったりする人も居るやろ?願いが叶うとか言って。でも、仏さんにっていうのは……しかも、今までそんなの無かったから」
なんか、ぶきみだよなあ。
その男性は私に、そんな話をして下さいました。
以上が二つめの、私があの「石」について重点的に調べた際、得られた情報の一部です。
一部、とあるように、他にも色々と話は聞いていました。では何故、その中でも先述の情報を書こうと思ったのか。その理由は、私が少し前に仄めかした「かすみちゃんから送られてきたメール」の内容に、少しだけ関連しています。
ちあんとみただのに わらってばかりわだめだあよ 全く連絡をしなくなったかすみちゃんのことを心配しながらも、私は先述のような調査を進めていました。そんな中、十二月の下旬(二十日前後)になって、彼女からメールが届きます。
要約すると、このような内容でした。
軽い風邪を引いてしまい暫くの間休養を取っており、連絡を入れられなくて申し訳ないです。
少し遠出をして、高名なお寺で相談をしてみたところ、ひとまず件の石は預かってもらえることになりました。その時に相談に乗って下さった方に意見を伺ったところ、私がその石を見つけたことが不幸中の幸いだったみたいです。
ついては、今回の件に少なからず関わった私に対しても御祈祷を行いたい、という意見で彼女との意見が一致した。場所については案内するから、まずはいつもの喫茶店に来てもらおうと思ってます。行く日の予定を合わせるために、返信のメールで空いている日を教えて欲しいです。
それを読んだときの時刻は、受信日時を見返して判断するに、大体夜の十二時を回ろうかというところでしょうか。ひとまずは連絡が付いたことに安堵しつつも、私は彼女から送られてきたメールを読み進めていました。
しかし。
読んでいくうち、自分の中で言葉に出来ない違和感のようなものが、じゅくじゅくと滲んでくるのを感じました。 修辞が乱れているとか、同じ文を何度も何度も繰り返しているとか、そういったあからさまなものではないんです。そこに表示されているのは、慣れ親しんだ彼の文体、文章なのですが。
何というか、不自然な箇所が多いように感じられたのです。
例えば、風邪を引いたから暫く連絡が出来なかった、という記述。これ自体は別に良いのですが、では「高名なお寺」へ行ったのはいつなのか。風邪を引いたのが寺へ行く前であったとしても後であったとしても、何週間と間が空くものでしょうか。
そもそも、お寺とは何処のお寺で、相談に乗って下さった方は誰なのか。
件の石を預かってもらって、その上で私にも何らかの祈祷をしたい、というのであれば、かすみちゃん自身はもう大丈夫なのだろうか。
ひとつひとつの違和感自体は些細なものだったのですが、何となく、ここで安易に彼女の「案内」を受けてはいけないような気がして、慎重に返信文を打ちました。
取り敢えず、お寺の場所を教えてもらおうと思ったのです。
お誘いは嬉しいんだけど、私もこれからしばらくは所用で忙しくて行けるかどうかは分からないの。仮に行けるとなっても、こっちらで集合に手間取ってかすみちゃんを待たせることがあったら申し訳ないの。だからもし当日に集合が出来ない状態になってもお互い現地で会えるように、私にもそのお寺の場所を教えてくれないかな?
連絡が付いたことを喜ぶ文章や時候の挨拶などを省略すると、大体こんな感じの内容のメールを打ちました。
十分ほど後で、彼女からの返信が届きます。
どこどこの駅を降りて、この国道沿いを道なりに歩いて、といった説明の文章と共に、そこへ行った時に撮ったという外観の写真が添付されていました。 聞いておいてよかったという安堵と、
聞かなければよかったという後悔を両方、感じたことを覚えています。
その文章も、そして添付されてある写真も。
あの小さな地蔵尊の経路と、写真でした。
写真には、あの地蔵尊が正面から写されていて、
彼女はそれを「お寺を外から撮った写真」だと書いていました。
いつもの彼女の、主述も文章表現もしっかりとした文体でした。職業ライターですから、当然と言えば当然です。
せめて、修辞も文体もぐちゃぐちゃな、書き手は普通の状態ではないと一目で判るような文章だったなら、どれだけ良かっただろうと思いました。
あの「お寺」にいた、彼女の相談に乗り、私が石を拾ったことを「不幸中の幸い」だと表現し、私への祈祷を提案した、高名な方とは。
一体、誰だったのでしょうか。
結局、適当な理由を付けて、彼女の提案はお断りさせて頂きました。
先も言った通り多忙なこともあるけど今こっちでは特に変わったことも起こっていないから今は特別な対処については保留しておくよ。何か良くないことが起きたら、その時にまた考えさせてもらいたい────
我ながら苦しい理由付けだとは思っていましたが、その時の私はとにかく早く、その申し出を断りたかったのです。
今でも不思議なのは、彼がそれを早々に受け入れたことです。
正直なところ、色々と手を変え品を変え、私を「案内」しようとするメールを送ってくるのではないかと身構えていた部分もあったのですが、先述の返信を打つと早々に「分かった」と引き下がったのでした。 結局その後は、雑談に近い文章を二、三回程度送り合って、もう夜も遅いからということで、やりとりを終えました。
その会話のなかで、
もう夢は見てないの?そのストレスで寝不足になっていたり、体調を崩していたりしないか心配だよ。そう私が言及すると、彼女はただ一文、
「いや、悪い人ではなさそうだったし」
と答えていました。
やらかかつただのにいしいれてふたして これまで通り、事態に再び何らかの動きがあったらお互い連絡する、ということにはなっていたのですが、私が彼女に対し何らかの連絡を取ることは殆ど無くなっていました。
理由は簡単で、あれに関することを積極的に調べるという行為自体を、私があまり行わなくなっていったからです。
もし何かを調べて、その結果として進展が生まれてしまったら、それを彼女に報告しなければなりません。
但し、それは絶対にしない方が良いということを、私は直感的に感じ取っていました。
先ほども言ったように、何でもないメールを送り合っている限り、彼女はいつもの彼女なのです。あれを話題に出しさえしなければ。
いわば彼女は今、小康状態にあり、現状として何の手立ても無いままにそれを独断で崩すことは憚られました。
その状態を継続することが、継続しようと努力することが、今の私ができる最善の手であると、考えていたのです。
もしかしたら、事態がこれ以上進んでしまうことを、どこかで恐れていたのかもしれません。
これに関わったら、もっと恐ろしいことが判明するのではないかと思い、それを無意識に避けていたのかもしれません。だから、
十二月二十九日、先述の地蔵尊近くの掲示板で不審な女性が立っていたという話を、付近に在住している複数人の知り合いから聞いたときも、
今年の一月二日、福岡県内の或る神社の賽銭箱の上に、奇妙な石が転がっているのを発見したという話を聞いたときも、
一月四日、増えていたときも、
正直なところ、あまり深入りをしようとせずに、半ば「見て見ぬふり」をしてしまった部分は否定できません。
ただ、この時点でどうしても「終わった話である」という結論を出しておきたかったのです。
その理由については、最後に説明させて頂きます。
だめだあよておもうから 以下は、十二月二十八日、つまり地蔵尊付近に現れた不審な女性に関する連絡を聞く直前に、かすみちゃんから送られてきた複数件のメールの抜粋です。公開にあたっては本人の了解を得ています。
[一通目]
突然連絡してごめん。
あの貼り紙とかのことって、今も調べてますか?
[二通目]
いや、もし今も色々と調べるのとか進めてくれてましたら良い情報になるかもしれないことが新しく分かったので。
[三通目]
分かった、とりあえず送りますね。
なんかこれ周りのことってかすみん書くような事でもないので、正直先輩が何かの記事にしてくれたらなって思ったりもしてるんですけど、そういう予定とかってありますか?
[五通目]
なんでかはあんまり分かんないんですけど、かすみんも多分あの貼り紙だと思います。
写真だと大きさが分かりにくいと思うんですけど、大体A4ぐらいのやつ。前見たのと同じくらいの大きさ。
昨日家に帰ったら、それがかすみんの家の玄関ポストに入ってた。 [六通目]
いや、石とかは入ってなかったです。その紙だけ。
[七通目]
写真も無かったですよ。
正直あの子も、その人の容姿とかはどうでも良くなってきてるっぽい。かすみんも何とかして見つけてあげたくて、色んな人の写真から似てそうなとこを探したりしてる。
[八通目]
いや、だって大変そうですし。
[九通目]
多分先輩のことだから、何かの信仰がどうとか儀式がなんだとか調べてたんでしょ?
でも皆が先輩みたいに色々知ってるわけないじゃん。
あの子も分からないなりに頑張ってたんだよ。
石を積むのが神社でも寺でも、それで願いが叶うって聞いてたんだったらどうでもいいじゃないですか。そりゃあ小さいときの記憶だから、多少は雑になっちゃっても仕方ないと思う。
[十通目]
いや、かすみんも書き方が雑でした、ごめんなさい。
通話とかで話が出来ればいいんだけど、今ちょっと声がくぐもってて聞きにくいと思うから。
また機会があれば色々話したいですね。
[十一通目]
はい。
あと別にかすみとの会話とかメールとかを公開する分には良いんですけど、ひとつお願いがあるんですよ。
別にどういう媒体でやってもらっても大丈夫なんですけど、何個か前に送った文章に関しては、もし載せるなら最初のほうに載せてくれませんか。
[十二通目]
いや、これに関してはかすみんからっていうか、殆どあの子からのお願いみたいな感じなんですけど。
色んな人に話してほしいだろうし、あれにも書いてあったから。
多分、あの人がどれだけ悪いかを、分かって欲しいだけだと思うんですよね。
わるいひとておもわればいい 以上が、あの日にかすみちゃんから送られてきたメールの抜粋です。
少なくとも私が考察や調査をすることで理解を深めたり出来るものではないと判断したため、現在はこれらのことに関する積極的な取材は行っていません。
また、かすみちゃんは今も、変わりなく仕事を続けています。
私としても、これらはすべて終わった出来事であることを、祈るばかりです。
私も夢を見ました。
文章 エマ・ヴェルデ ここまで読んで頂きありがとうございました。
後に後日談、というよりオマケみたいなもので少しだけ解説のようなものを入れようと思います。不要であればすみません。 気のせいだったら悪いんだけど、民族ホラー系のSCP-jpの記事とかtale執筆してない? はい。私は朝香と申します。
ええ、どうしてもお願いしたいことがありまして。はい。
ありがとうございます… はい。
分かりました。後日お伺いさせて頂きます。
数ヶ月前から友人の様子がおかしくなった。
彼女は民族学や日本の伝統を主に研究していて、普段から地図にも載っていないような田舎等に出向いていた。
その為会えない事は多くても、連絡が途絶える。なんて事は一切無かった。はずだった。
数ヶ月前から彼女は連絡が取れなくなった。
しずくちゃんによると数ヶ月前かすみちゃんの事を気にかけていた、と聞いたからかすみちゃんに聞いてみたけど「きっと探してるんですよ。」なんて意味のわからない答えしか返ってこなかった。
ただこの話をモデルの先輩でもあり、普段から良くして貰っている絢瀬先輩にした所、エマと繋がりがある東條さんと言う方を紹介してくれた。
東條さんによるとエマは消息を絶つ前にブログを更新しており、その内容が関係あるんじゃないかと教えてくださりました。
はい…ただ私彼女のブログ苦手なんですよ…ホラーや怪談ばかり書いていて…だから普段見ないし多分見ても分からないんですよ。
だから専門知識のある東條さんに手伝って頂く事になりました。
ええ、素敵な方でしたよ「ウチの可愛い後輩でもあるしね、全然協力するよ!」と快く了承して頂きました。 はい。今からその東條さんと神田で待ち合わせなんですよ。
「あ!君が果林ちゃんやね?ウチ、東條希。よろしくな~」
「あ…はい…朝香果林です…よろしくお願いします…」
「うん。エリチからよく聞いてるよ~よろしくな~」
「あの…その御札は?…」
「あーほら、今回って言ったら曰く付きの怪談の謎を紐解いていくやろ?ほんならそこら辺のカフェじゃできひんのよ。
怪談って言うんはな、像を結びつかせるんが一番怖いんよ。
謎を解く事で像が段々鮮明に浮かび上がってくる。そうするとな?その怪異がこっちに来るって言われてるんよ。」
「それと今回のブログに関係が?…」
「うん。1回サラッと読んで見たんやけどね、ちょっと危ないかもしれんのよ。だからちょっとでも嫌な気分になったらすぐ言うてな?」 ホラー物で希、花丸、すみれ辺りが出てくると何か安心する そう言うと東條さんはブログを立ち上げた後そのブログを印刷した資料を元に語りはじめました。
「まぁ一番はじめに気になるんはこの所々に挟まってるよく分からへん文字やんね。まぁ恐らくこれがメールの4通目なんやろうけど。とりあえずウチは古語とかは分からへんけどなんとなく読みといてみたんよ。」
みないことえ それわだめだあよ
へえこつきみたよにして
ずうと あたまおさがらせたけども
ねすにわわからんとゆつて たのは
あたなことのであつて
なのでこもみたよなさべりかた で
つがつてばかりのわ だめだあよ
ちあんとみただのに わらってばかりわだめだあよ
やらかかつただのにいしいれてふたして
だめだあよておもうから
わるいひとておもわればいい
まぁ纏めたらこんな感じやね。多分かすみちゃんが見たって言う幼い字の攻めたてる内容って言うのがこれやろうね。
うん。ウチも私訳してみたのがこれなんやけど、
見ない事へ それは駄目だよ
へえこつきみたいにして
ずっと 頭を下がて謝っていたけど
部外者には分からんと言ってたのは
貴方のほうであって
なので子供みたいな喋り方 で
番って ばかりなのは 駄目だよ
ちゃんと見てたのに 笑ってばかりは駄目だよ
柔らかかったのに石入れて蓋して
駄目だよって思うから
悪い人って思われればいい
……まぁこんな感じやね。うん、正直ウチもこれが限界やな…古文って訳じゃないから専門の人に聞いても分からんやろうし、子供が描いた分やからね。真意はその子にしか分からんのよ。
じゃあ、ちょっと気になるとこだけ話していこか。
まず、見ないことへ それは駄目だよ
これは知らないふりをするのはダメ、そういう意味やと思うんよ。
さぁ、誰に対してなんやろね。
次は、柔らかかったのに石入れて蓋して
これはエマちゃんのブログにも書いてあるけど、ウチが話した賽銭の話関係やな。
まぁ恐らく死後硬直が解けてぐだぐだになった死体が入った棺には丸石を入れたみたいに、石は生命力の象徴として、或いは命そのものとして扱われたりしてた、ってことは埋葬する、死ぬor殺す の隠語やろね。
最後は、悪い人って思われればいい。これは多分他人から恨まれて呪われればいい の婉曲表現ちゃうんかな?
まぁ推測やからね、真に受けんでよ、笑 次はこのお地蔵さんについて話しよか。ウチ、こういう系統には結構強いんよ?
まずあの地蔵の物語、苅萱石堂丸物語について話そか。
まずはエマちゃんのブログでも言及されてた、子宝にご利益のある地蔵ってとこやな
加藤左衛門尉が夢のお告げのとおりに地蔵から霊石を授かり、世継ぎにめぐまれた
子供は石堂丸と名付けられる。成人した石堂丸は加藤左衛門尉繁氏と名乗った
まぁざっくり纏めたらこんな感じやね。
じゃあ、次はブログで言及されへんかった家族の悲話ざっくりを話そか。
繁氏には妻・桂子と側室・千里がいた
ある日繁氏は親しげに囲碁をする桂子と千里の姿から、2匹の蛇が絡み合って戦う影を見る
繁氏は出家し、苅萱道心として修業に入った
残された千里は男児を生み、男児は父の幼名と同じ石堂丸と名付けられる
繁氏を探しに千里と石堂丸が高野山を尋ねる。高野山は女人禁制だったため石堂丸のみが入山する
繁氏を尋ねる石堂丸に、苅萱道心は「探し人は亡くなった」と嘘をつく
石堂丸が下山すると千里は旅に病んで亡くなってしまった
孤独の身になった石堂丸は、道念坊と称して(父とは知らずに)苅萱道心に師事する
一人前になった石堂丸が去ったあと、苅萱道心は自分が親子の絆を断ち切れていなかったことに気がつき、信州善光寺に旅立つ。苅萱道心は長野県の往生寺で没する
後に苅萱道心を訪ねた石堂丸(道念坊)は、苅萱道心が往生寺に残した地蔵菩薩を真似てもう1体を制作した。今では「親子地蔵尊」と呼ばれている
まぁ大体こんなもんやなぁ…じゃあこの話を踏まえて次の話をしよか。 ウチな、石堂丸物語と今回の話、どことなく似てると思うんよ。
まず”その人"を探す"あの子”これは
繁氏(苅萱道心) を探す 石堂丸(or千里) に似てるよね。
“あの子も分からないなりに頑張ってた”
これは全員がエマちゃんのように信仰や伝承に明るいわけではないの意なんやけど、これは”あの子”が親を探してるって意味になるんちゃうかな?
多分な今回の話は(子にとって悪いことをして姿を消した)親を探しているのが核なんよ。
じゃあ、掲示板の前に居た女性は"その人"を探し続けて大人になった"あの子"なんかな?
ボストンバッグの中身は丸石なんかな?
色々疑問が生まれてくるね。 まぁ…ウチに分かる事は以上やな。
うんうん。言いたい事は分かるよ、釈然とせんしエマちゃんの居場所が分かった訳でもない。なんなら今回起こった事についてひとつも説明つかへんもんな。でもな、これ以上はきっと分からんのよ。だからウチができる事はここまでや。すまんね。
ほな、果林ちゃんも一緒に今から神田明神にお祓い行くで!あそこの神主さんとは仲良くてもうアポも取ってるから!
あー、そやな、説明しとこか。
まずな今回のこの一連の騒動やけどな、ひとつ分かった事があるんよ。それはな、首を突っ込んだらアカンって事や。
首を突っ込む。というよりこの騒動について少しでも考えたらアカンのよ。ほら、一番初めの文字、覚えてる?
そうそう
“みないことえ それわだめだあよ”
知らんぷりするのは駄目だよ
これはな、多分途中で調べるのをやめるなって意でもあるんよ。
ほら、エマちゃんは最後の方この問題について進展があっても知らんぷりしてたやろ?だから怒ったんちゃうかな。そう。だから呪われた。
多分なあのブログを読んだ人全員が意味が分からんくて「途中で調べるのをやめる」状態になるんよ。でもそれはダメみたいでね、調べるのをやめたら夢を見るんちゃうかな。
うん!だから今からお祓い行くで!
きっと大丈夫やから。 >>17が前作なら90%以上理解出来たけど今作は10%も理解出来ないわ
国1で辛い 救いは無かったか😭
面白かったです、お疲れ様でした ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています