絵里「違和感」
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鳥の囀りに起こされるのは意外と初めてな気がする。
絵里「もう朝か」
この時間帯はなんだか地球の重力が普段の何倍もある様に感じる程身体が重い。出来る事ならずっと布団の中に居たいと思ったけど、どうにか頑張って身体を起こす。
「お姉ちゃーーん」
妹の大きな声が扉の向こうから聞こえて来た。私は「はーい」と返事をしてベットから下りた。 ドタドタドタと妹が階段を降りる音が鳴り響く。私はパジャマのまま妹を追いかける様に部屋を出て階段を降りる。リビングに顔を出すとジュージューと美味しそうな音と共に母が私に向かって
「おはよう。顔洗って来なさい」
と言った。私は「おはようママ」と返してそのまま洗面所へと向かった。 洗面所では先に妹が顔を洗っていた。バシャバシャと水で顔を洗った後、タオルで水気を拭いながらこちらに振り返る。
「お姉ちゃんおはよう」
私は妹の顔をマジマジと見つめていた。
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「髪、黒に染めたの?」 金髪だった妹の髪色が黒になっていたから私はそう質問した。すると妹は不思議そうな顔をしながら
「ずっと黒だけど。私、髪を染めた事なんて一度もないよ」
と言うのだから私は驚いてしまった。
絵里「亜里沙はずっと生まれた時から金髪じゃない」
妹はキョトンとした後にプッと吹き出して笑った。
「お姉ちゃん寝ぼけてるの?外国人じゃあるまいし」
そう言いながら妹はリビングの方へ向かった。
鏡に写っていた私もしっかりと黒髪だった。 顔を洗った後、鏡に写る自分をジッと見つめる。
絵里「誰…」
知らないうちに私はそう呟いていた。
確かに私だけど私じゃないみたいだった。 顔を洗った後、再びリビングに顔を出す。
「おっ!おはよう絵里」
新聞で隠れて顔は見えないけど父の声がした。
「おはよう、パパ」
私はテーブルの椅子に腰を掛ける。隣に座っている妹が
「お姉ちゃんオレンジジュースでいいの?」
と聞いて来たので私は小さく頷く。 絵里「パパ…どうして居るの?」
私が尋ねると父は新聞を畳んで
「どうしてって。自分だからね」
と笑って言った。
「お姉ちゃんさっきから変な事ばっかり言ってるね」 寝ぼけているのかなんなのか酷く頭が混乱している様だった。どうにか頭の中を整理しようとしていると
「絵里、亜里沙。運ぶの手伝って」
台所で料理している母が私達に手伝う様に促して来た。私と妹は母が作った朝食をそれぞれ運び始めた。 朝食を運こんだ後、妹が元気よく「いただきまーす」と言うと父と母もそれに追従する様に手を合わせる。私もそれに倣って手を合わせた。
パリッとウィンナーを噛む音が響き渡る。私は父と母の顔をマジマジと見つめていた。
「どうしたの絵里?食べないの?」 母が心配そうな顔をしていた。妹はクスクスと笑っている。
「今日の予定は?」
そう尋ねられて私は今日の予定を思い出そうとした。今日は何か予定があったんだっけ?
目を閉じて昨日の事を思い出す。
「明日から新曲の練習をしましょう」
誰かの声が脳内で再生される。 絵里「私は今日は部活が」
私がそう言い掛けると隣の妹が
「お姉ちゃん部活始めたの?」
と聞いて来た。あれ?言ってなかったっけ?
「いつから始めたの?何の部活?」
母も知らない様だった。もちろん父も知らない様で
「部費や道具は大丈夫なのか?」
と聞いて来た。 絵里「部費は大丈夫。道具なんかも特に平気」
「で?何部なの?」
妹は興味津々と言った感じで私の顔を覗き込む。
絵里「スクールアイドルをやってるの」
「スクールアイドル?」
父が怪訝そうな顔をしていた。 どうして私は家族にスクールアイドルの事を言ってなかったのだろう。スクールアイドルの事はなんて説明したものか。
「スクールアイドルってあのアニメのやつだよね?」
妹が私の顔を覗き込んだままそう言った。私は妹が何を言ってるのか分からない。 私が答えられずにいると妹は続けた。
「アニメのやつでしょ?何だっけ?あの…女の子が主役のアニメ…えっと……ラブライブだ!」
そう言い切ってスッキリとした顔をする妹の横で私はなんでかドキッとしていた。 母は意外そうな顔をしている。
「絵里もアニメなんて見るのね」
確かに私は積極的にアニメを見る様な事はなかった。すかさず妹が母に向かって
「今時、アニメなんて普通の趣味だよ」
と言っていた。これは親世代のある種のアニメに対する偏見に対しての言葉だろう。私達の親や特に祖父母の世代なんかはアニメや漫画に対して偏見が強い。
あれ?でも、それってロシアでもそうだっけ?そう言えば、母や父が居るのにどうして祖母はこの家に居ないのだろう。
絵里「ねえ。そう言えばお婆様は」
つい、疑問に思った事を口に出してしまった。それを聞いて妹が
「やだ〜お婆様だなんて。お姉ちゃんはいつからそんな良い所のお嬢様みたいになったの?」
と笑い出した。私は何を笑われているのか分からず、ただただ困惑するだけだった。 食卓で終始噛み合わない会話を繰り広げ、ついには父に具合が悪いなら学校を休む様にと言われてしまった。
私は笑って誤魔化して逃げる様に自室へと向かった。
クローゼットの中には馴染みのない制服がぶら下がっている。それを取り出し着てみると、なんだかやっぱり違和感があった。
恐る恐る部屋に置かれた姿見鏡(これまた馴染みのない)に写ったその姿は想像に反して違和感を感じなかった。
と言うと語弊があって、実際には鏡に写ったその姿がまるで他人の様で、知らない誰かが知らない制服を着ている様に見えたからだ。 「お姉ちゃーーん。先に行ってるよーーー。モタモタしてると遅刻するからねーーー」
下の階から妹が叫んでいた。私は急いで身支度を始める。どこに何があるのかを常に違和感を覚えながらそれでもちゃんと覚えていて、そんなに時間は掛からなかった。
最後に携帯を手に取った妹の言っていた言葉を思い出した。スクールアイドルのアニメ。
私は携帯を開くいて検索サイトに繋ぐと検索ウィンドウにラブライブと打ち込んだ。けれど、これがなかなか次の画面に移行せずイライラしてしまう。 あまりにも遅いので私は部屋にあったノートパソコンを立ち上げてラブライブと検索した。
するといくつかのサイトがヒットしていて、上位には公式サイトが表示されていたので、私はそれをクリックして開いた。
ピンクを基調とした背景にラブライブの文字。その下には一人の少女の絵が描かれていた。
絵里「穂乃果…」
私はそう呟いていた。初めて見たはずだ。でも、私はこの少女の絵を知っている。脳がそれを否定しても私の中の何かがそう訴えかけて来る。 私はサイトを見回し「メンバー紹介」を見つけると、それをクリックしようとしたその時
「いい加減にしないと遅刻するわよ!!!」
母の叫ぶ声が聞こえた。私は急いでパソコンを閉じると部屋を後にした。 「行って来ます」
張りのない声を上げて、家を出ると私は表札を確認した。
「綾瀬」
と書いてある。別におかしな事はない。けれど、ここでも私は違和感を覚えてしまう。それは勿論、表札に対してもそうだし、生まれ育ったこの家自体にも。
原因の分からないこの状況に思わず大きなため息が出てしまう。私はトボトボと歩きだすと、暫くして背後から
「絵里ち!!!!」
と声を掛けられた。不意だったので身体がビクッとしてしまい、それに気付いたのだろう、背後から声の主の笑い声が聞こえて来た。
振り返ると長い髪を二つに束ねた黒髪の少女が立っていた。 「おはよう、絵里ち」
絵里「おはよう希」
彼女の名前は東條希で私の親友。同じ学校に通っていて同じクラスで同じ部活に入っていた、はず。
「はあ。明後日面倒あるじゃん?」
絵里「そう…だっけ?」
「そうだよ。私、今更だけど進路希望変えようと思ってるんだよね」
絵里「そうなの?」
「うん。一緒の大学に行きたかったけどさ〜。大学ってそう言うので決めるものじゃないじゃん?」
絵里「そう…ね」
私達はありきたりな、どこにでもある様な、普通の高校生らしい、いかにも高校三年生らしい、そんな会話をしながら学校へと歩き出した。 絵里「あの…希、喋り方変えたの?」
「へ?」
私が希にそう聞いたのは、希は普段関西弁で喋っていたからだ。けれど、希はキョトンとしている。
絵里「いや、だっていつもみたいに関西弁じゃないから…」
「いやいや。生まれも育ちも東京だし。それなのに関西弁なんて使ってたら将来黒歴史でしょ」
そんな事を言われて、私はなんだか違和感よりもずっと寂しさを覚えてしまった。 >>45
現実の日本には絢瀬って姓の人はいないらしいからな
恐らくわざとだろ それが顔に出てしまった様だった。
「どうしたの?何かあった?」
希が心配そうに顔を覗き込んで来る。私は何でもないとだけ言って直ぐに笑顔を作った。
「ならいいけどさ。あまり心配させないでよ。絵里ちはすぐに無理するだからさ」
そう言って希はまた前を向き直す。私はこれ以上彼女を心配させる様な事は言わない様にしようと思った。
そう決意した矢先に私達の目の前を歩く一人の少女を見つけて希が駆け寄って行った。つられて私も足早になる。
「よっ!おはよう!」
希が声を掛けると少女は足を止めてこちらを振り返る。 「おはようございます。先輩方」
茶色がかったウェーブした髪に気の整った顔立ちをしているが気の強そうな目つきと薄い唇が少し冷たさを漂わせている。制服は私達の物とは違いベージュを基調とした物だった。
「登校中に会うなんて珍しいね」
「そうですね。普段この時間はもう学校に居ますから」
少女は興味がないのか希の目を見る事なく淡々と言葉を返す。ただ、前をジッと見つめて歩く。希が一方的に話し掛けて彼女は言葉少なに答えるだけだった。
「じゃあ、私達はこっちだから」
希が手を振るとやっと私達の顔を見て
「また」
とだけ言って少し笑った。 絵里「さっきの制服って」
私が中途半端に質問をすると希は都合良く解釈してくれたらしく
「制服って真姫ちゃんの?卒業してから会うの初めてだっけ?」
取り敢えず私は頷く。
「そっか。可愛い制服だよね。流石お嬢様学校って感じ?」 「そっか」
とだけ返して私はそれ以上は聞かなかった。そのかわりに私は
「ラブライブって知ってる?」
と希に尋ねた。希は首を横に振った。
「知らない。テレビ番組かなんか?」
私は携帯を取り出してラブライブの公式サイトに繋げようとした。
「絵里ちもスマートフォンにすればいいのに」 なかなか繋がらない私の携帯に痺れを切らしたのか、希は鞄から自分のスマホを取り出してラブライブの公式サイトにアクセスした。
「ふ〜ん。アニメなんだ。珍しいね。絵里ちがアニメの話をするなんて。面白いの?」
絵里「私も見た事ない」
「じゃあ何でそんな話をするの?」
私は希の質問に答えず
絵里「メンバー紹介ってあるでしょ?そのページを開いてみて」
と希に言った。希は私の言った通りにスマホの画面をタップしてメンバー紹介のページを開いてくれた。 そこには9人の女の子の絵が描かれていて、それぞれ名前が振ってある。
「これって偶然?」
希が呟く。掲載されているキャラクターは順番に高坂穂乃果、絢瀬絵里、南ことり、園田海未、星空凛、西木野真姫、東條希、小泉花陽、矢澤にこ。
「このキャラクター私の名前と一緒だね。こっちは絵里ちの名前と似てるしさ。この子は海ちゃんと名前一緒だし、こっちは真姫ちゃん。凄い偶然…いつ見つけたの?」 ラブライブの世界に転生した話は書いた事あるけど
ラブライブのキャラが転生?してきた話は珍しいな 絵里「今朝…妹が教えてくれたの。偶然にしては出来過ぎよね」
希はスマホの画面を見つめたまま。
「世の中不思議な事なんて腐る程あるからね」
そう言って希はスマホを鞄にしまった。
絵里「そうよね」
「そうだよ」
私達は小走りで学校へとむかった。 学校に到着すると、そこは余りにも馴染みのない風貌をしていた。毎日毎日、飽きる程通ったはずのこの校舎をまるで初めて目にする様な感覚で足を踏み入れる。
それが異常な事なんだと私の脳が警報を鳴らす。だって、どう考えてもおかしい。
私は一体どうしてしまったのだろう。頭がおかしくなってしまったのか。
下駄箱で自分の上履きがどこに収納されているのかも曖昧で、言われれば分かるけど、やはりしっくりと来ない感じではある。
それは教室に入ってクラスメイトの顔を見ても同じだった。知ってるはずだけど知らない顔ばかり。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています