【最終回記念】お母様、見てくださっていますか?
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
放課後、理事長に呼び出されました。
なんでも2人が抗議のデモをしたそうで…。
流石に困惑します。
どうしたものか…。
そんなことを考えていると
「いいでしょう、活動を認めます」
え?耳を疑いました。
理事長はお母様を知っているはずでは?
「ですが母は!」
「お母さんはここでは関係ありません」
理事長はきっぱりと言いました。
意味がわかりません。
私は納得できませんでしたが、理事長の許可したものを覆すような権限はありません。
認める他なかったのです。
複雑な思いでした。 彼女たちは代々木フェスで一位を取ることを条件に活動を認められました。
いきなり1位?無理に決まっています。
やはり理事長も何か思うものがあるのでしょうか。
そう思いながらも、なぜか彼女たちの練習をたびたび見ている自分がいました。
「また歌えなかったそうですね」
ある日、澁谷さんたちの練習の近くを通りかかりました。
澁谷さんについての噂をよく耳にします。
音楽科を受験するも、当日歌えずに落ちたこと。
先日歌おうとして、また歌えなかったこと。
本番までにどうにかしなければ、醜態を晒すことになると思いました。 ステージ当日。
気づいたら来てしまっていました。
認めましょう。気になっていたのです。
彼女たちがどれほどの力を持っているのか。
どれほどの思いを持っているのか。
いざ始まってみると、驚きでした。
歌もダンスも、以前見た時より遥かに上達していたのです。
荒削りのパフォーマンスですが、強い意志を感じました。
そして、それを見て私は今まで感じたことのない気分でした。
嬉しい?悲しい?悔しい?どれもしっくりきません。
一体これは…。 それからも私はスタンスを崩すことはしませんでした。
私にとって、彼女たちの実力は大した問題ではなかったからです。
スクールアイドル自体を、正統な音楽と認めていなかったからです。
そして、お母様の実力も、低かろうはずがなかったからです。
お母様は音楽が大好きで、大好きで、大好きでした。
それでも挫折を知ったのなら、誰がどうすることもできません。
どれだけの力であろうと、スクールアイドルである限り、音楽としての栄誉は手に入らなかったのでしょうから。
翌日、理事長に呼び出されました。
あの2人が1位こそ取れなかったものの、新人賞を取ったこと。
それを鑑みて一旦は部ではなく同好会としての活動を承認することにしたこと。
「なぜそれを私に?」
本来私に言う義理はないはずです。なんら関係はないのですから。 「一応、伝えておこうと思って」
理事長はそう言い、続けました。
「それで、学校アイドル部の部室を使わせようと思うのだけど、鍵がないんです。何か知っていませんか?」
私はもちろん知らないと答えようとしました。
写真1枚ないのに部室の鍵など持っているはずが…。
…そういえば家中を探し回った時に妙な鍵がありました。
そんなことあり得るのでしょうか?
いえ…だとすればまだ可能性はあります。
一筋の希望が見えた気がしました。
「心当たりがあります。明日持ってきますね」
「良かったわ。」
理事長はホッとしたようでした。 「では私ではなく、直接澁谷さんに渡してくれる?」
「構いませんが…」
「頼んだわよ」
やはり不可解です。どうして私が?
新たな謎が増えてしまいました。
家に帰って、すぐに鍵を見つけました。
家中を試して回りましたが、やはりどの部屋の鍵でもありません。
「試す価値はありますね」 翌日、私は早朝に登校しました。
もちろん例の鍵を試し、部室内を捜索するためです。
学校アイドル部の記録。
学校にもない。家にもない。とすれば記録や記念の物は学校アイドル部の部室にあるとしか考えられません。
恐る恐る鍵を差し込みました。
ガチャ、という音。ビンゴです。
中に入るとそこは埃だらけの、正直に言ってしまえば汚い部屋でした。
「まずは掃除ですね…」
箒とちりとり、それに雑巾やバケツを借りてきました。
鍵が我が家にあったと言うことは、お母様が最後に入ってからずっと放置されていたのでしょう。
掃除がてら捜索も続けていけば良いでしょうか。
「気合を入れて行きましょう。」 どれだけ経ったでしょう。
部屋が綺麗になった時、私はこの部屋にすら何もないことを知りました。
出てくるのは埃ばかり。紙切れすらありませんでした。
ですがまだ終われません。
鍵は2本あったのです。
私は必死に鍵穴を探しました。
部屋の奥にあるもう一つのドアには鍵がありません。
ではその中か?
中に入ったその時、
予鈴が鳴り響きました。 思っていたより掃除に手間取ってしまったようです。
お母様に私が遅刻するような姿を見せるわけにはいきません。
捜索は切り上げ、急いで部屋から出て行きました。
施錠を忘れたままーーー
そうです。忘れるところでした。
私はこの鍵を澁谷さんに届ける義務がありました。
休み時間に、澁谷さんのいる普通科の教室へと向かいました。
彼女は廊下で唐さん、そして音楽科の嵐千砂都さんと話していました。
鍵を渡すと、澁谷さんはなおも私にスクールアイドルについて訴えかけてきました。
ですが部室にすら何もなかったことは、私の疑念を加速させていました。
もはやこの時には、お母様がスクールアイドルを後悔していたことは私の中で事実に変わっていたのでした。 「スクールアイドルじゃなければ、いくらでも応援してあげられますから」
「残念ですが、今のラブライブであなたたちが勝てるとはとても思えません」
春休みに見たスクールアイドルたちに比べれば、2人のステージはやはりまだ未熟だと思っていました。
…いえ、朝の捜索で何も成果がなかったことに、少しいらだっていたのかもしれません。
私は言いたいことだけ言い捨ててその場を去りました。
そしてこの時もう一つ気がかりなことがありました。
嵐さんはダンスで入学した方です。
その実力は中学時代からよく耳にするほどでした。
音楽科の期待だったのですが…。
澁谷さんと幼馴染だとかで、彼女たちの練習を手伝っているそうなのです。
それが嵐さんのダンスの妨げになってしまったら。
結ヶ丘のエースが失われてしまうことになります。
結ヶ丘の名をあげるためにも頑張って欲しいのですが、心配でした。 7月になっても私はまだ諦めきれず、お母様の記録を探し続けていました。
何を諦められないのか、私にも分かりません。
ただ無心で学校中の倉庫を周っていました。
ここまでくると予想通りですね、何も見つかりませんでした。
普通、どのような部活動でも、大会の出場記録だったり入部届などの資料の類は発生するものです。
それが何もないなら、偶然ではなく人為的なものでしかありません。
ここで私は最終結論を出しました。
お母様は記録を全て抹消した、なぜならスクールアイドルが学校にとって害をなしてしまったから。
以降、2度と捜索をすることはありませんでした。 早いもので、夏休みに入りました。
私はもちろん練習の日々です。いつも通りの時間に学校に来ていました。
人気のない学校というのは、普段通っていてもどこか違ってみえます。
どことなくそわそわして音楽科のレッスン室へ向かいました。
ロッカールームの中には、誰かの荷物がありました。
こんな早い時間に先客とは。
思い出しました、きっと嵐さんでしょう。
休み中に地区大会があると聞いた覚えがあります。
しかし澁谷さんたちもスクールアイドルの練習をするのでは?
最近メンバーが増えたそうで、人気投票までやっていました。
私としては大歓迎ですが、彼女たちから離れていて良いのでしょうか?
まさか喧嘩なんかしたり…。
とにかくレッスン室に行こう。
正直、誰もいないと思っていた学校にクラスメイトがいて、安心していたのでした。 恐る恐るドアを開けると、予想は的中です、嵐さんがいました。
「嵐さん。練習?」
「うん」
「澁谷さんたちとは一緒ではないのですね」
「かのんちゃんたちはイベントがあってこっちにはいないんだ」
こっちとは…。どこでやっているんでしょうかね?
「心配してくれてるんだ!」
な…!
「そういうわけではありませんが…」
いえ。もちろんそういうわけでした。恥ずかしいですが。
「大丈夫、喧嘩したわけじゃないよ」
なんと。こちらの考えはお見通しだったようです。
「あっ」
嵐さんはバッグから何かを取り出そうとし、誤って中身を広げてそしてーーー
「退…?!」
嵐さんのファイルに入っていたのは、退学届だったのです。 「…見た?」
嵐さんの声はいつもより低く、鋭くなっていました。
「い、いえ、何をですか?」
なぜでしょうか、私は咄嗟に嘘をつきました。
それから練習中も、帰宅してからも退学届のことが頭から離れません。
今まで、結ヶ丘の名を広めるためにも、また純粋にクラスメイトとしても嵐さんを応援していました。
そんな彼女が退学?大会を目前にしてなぜ?
口ではああ言っていましたが、やはり澁谷さんたちと何かあったのでしょうか。
音楽科期待の星が退学だなんて。
理由がさっぱり思い当たりません。
よく考えてみれば嵐さんについて知っていることはほとんど無いのです。
往々にして、クラスメイトというのは仲間のようで他人でもあるものですから。
もし嵐さんが悩んでいるのなら、力になってあげたいと思いました。 しかし私は、お恥ずかしいことに友達、というものに慣れていません。
この家に家族で暮らしていた頃は、勉学や習い事で遊びに行くことは少なかったのでした。
悩み事というのは、私が今まさにそうであるように、そう易々と人に話せるものではありません。
なんとか距離感を縮める方法は…。
「そうだ、ダンサーにはダンスで仲を深めよう。まず朝からこうして…」
一通り決めて、その日は考えることをやめました。
翌朝。
今日は先客はいませんでした。
私が一番乗りです。
レオタードに着替えていると、まずい、嵐さんです。
ギリギリだったということですね。
「プラン7に変更です」
急いでレッスン室へ行きました。 奥の方で練習していると嵐さんが着替えを済ませて入ってきました。
なにやら真剣な顔をして髪をまとめています。
まずい、忘れていました。
今日こそが嵐さんの出る大会当日なのです。
話しかけづらく、困りました。
よし、プラン15が使えるでしょう。
私は踊りながら近づくことにしました。
「おはようございます」
出来るだけ笑顔で、落ち着いて。
「わぁ、すごいね!」
嵐さんは褒めてくれました。いけます。 「今日、大会ですよね」
「うん、午後からだけど最後に確認しようと思って」
本当に真面目な方です。どうして退学なんて…。
「澁谷さんたちはやはり…」
ここで澁谷さんの名前を出してみました。
「うん、ライブあるし」
ライブですか。活動を順調に続けているということになりますが、喜べません。
いえ、今はそんなことより退学問題です。
あのバッグの中に入っているのは本当に退学届なのか…。
一体何が理由なのか…。
「どうかした?」
しまった。考え込みすぎました。
「い、いえ、頑張ってください」
仕方ありません。ここは出直すことにしましょう。
そう思いレッスン室を出て…だめです、気になります。
そもそも悩み事なら今日の大会こそ関係してるのでは?
今日を逃してはきっと退学してしまう。そんな気がします。
戻ることにしました。 「あの…」
「何?」
普通に見えますね。悩み事があるようには思えません。
「いえ」
思い過ごしでしょうか。
ですが確かに退学届を持っていました。それは事実です。
「あの…」
「ん?」
不思議そうな顔をしています。元気そうです。
「いえ」
やっぱり思い過ごしでは…?
「ん?」
「いえ」
違います、この目で見たのですから。
今度こそ!
「あの…」
「何?」
ドアの横!嵐さんです。
…流石に不審すぎでした。 ベンチに移って話すことにしました。
「…そっか、見ちゃったのか」
正直に打ち明けると、嵐さんはそうつぶやきました。
「決してわざとでは…」
実際わざとではありませんしね。
「大会で優勝出来なかったら、ここを辞めるつもり」
そこから嵐さんは昔の話を始めました。
小さい頃はいじめられていたこと。
それを救ってくれたのが澁谷さんだったということ。
彼女を支えていくために、ダンスを始めたこと。
そのダンスで優勝出来ないようなら、自信を得るために留学するつもりだということ。
全て理解できたとは言えません。
ただ、強い決意を感じとりました。
なるほど、それでスクールアイドルに入らなかったのですね。
下校しようとする嵐さんの後ろ姿に呼びかけました。
「ダンスで!ダンスで結果が出たら、どうするのですか?」
彼女は立ち止まって振り返り、笑顔で言いました。
「そんなの、決まってるよ!」 どうしてスクールアイドルを始めようとする人は誰も彼も強い意志を持っているのでしょう。
どうして澁谷さんの周りに集まる人は皆、あんなに輝いて見えるのでしょう。
この時の私には、全くもって分かりませんでした。
高校に入ってから分からないことがあまりにも多くなりました。
なぜ?どうして?何を考えているの?
その「分からない」にはいつもスクールアイドルが、澁谷さんたちが絡んでいる。
彼女たちは、なんなのでしょうか。
…考えても仕方ありません。
今の私には、他にやるべきことがありますから。 私も人ばかり気にしているわけにはいきません。
8月の末にバレエの大会があるのです。
嵐さんは宣言通り優勝したそうです。
喜ばしいことでありますし、私も負けていられません。
この大会で私も優勝を飾り、より一層結ヶ丘の名を轟かせる必要がありますから。
大丈夫、ずっと練習をしてきました。
自信はあります。いつも通りやるだけです。
「優勝は、白瀬小雪さんです」
結果は2位でした。
優勝?自信がある?あまりに滑稽です。
私は何をやってきたというのでしょう。
純粋な力不足ほど心を締め付けるものはありませんでした。
とてもお母様に顔向けできません。
私には、何も誇れるものはないのでしょうか…。 またしばらくして、なんとお父様から電話がかかってきました。
ありきたりな社交辞令のあと、お父様は言いました。
「こちらに来る気はないか?」
ひどい話です。
お母様が亡くなった時には電話口のみで帰ってこようともしなかったくせに。
当然、断りました。 暗い夏が明けました。
始業式の日、2つの知らせがありました。
良い知らせと悪い知らせ、というやつです。
悪い知らせというのは、嵐さんが転科した、というものです。
本来そのような仕組みはないのですが、特例で認められたと。
音楽科は入学時にどの道を極めるかを定める必要がありますから、スクールアイドルを始めるには普通科に入るしかない、ということでしょう。
率直にもったいないと思いました。
スクールアイドルはどこまでも立ち塞がるというのですね。
良い知らせとは、生徒会が発足するということです。
これは待ち望んでいたことです。
私がお母様の学校にできることは、もはや1つです。
生徒会長になり、発展を目指すのです。 書類を書き終わった時、不安になりました。
その資格はあるのでしょうか。
今まで私は結ヶ丘のために何もできていません。
私が立候補して良いのでしょうか。
いえ、大切なのはこれからです。
生徒会長として、結ヶ丘を盛り上げるのです。
まさかの、普通科から対抗馬が現れました。
平安名すみれさん。結ヶ丘3人目のスクールアイドルです。
私を生徒会長にさせまいとしているのかもしれませんね。
ですが負けるつもりはありません。覚悟が違います。
おそらく彼女は、私と普通科の不和を突いてくるでしょう。
先手を打つのが良さそうです。
私は公約として音楽科と普通科を等しく結んでいくことを掲げました。
音楽科優先の風潮は事実ありますし、これで不愉快に思っている方たちからの票を集められるでしょう。
音楽科の皆さんの助けもあり、準備は万全でした。 投票の末、私は無事、生徒会長に就任することができました。
平安名さんは賄賂を配っていたそうですが…流石にまずいのでは?
生徒会長という立場について初めて、理事長に聞きたいことがありました。
理事長を尋ねました。
「来年の入学希望者の数を教えてください」
「生徒会長として…いえ」
「創立者の娘として」
私が今一番気にしていたことでした。
新設校は評判が命です。
今実績を残しているのは嵐さんと…スクールアイドル同好会だけです。
これでは人が集まらない可能性がありますが…。
理事長から聞いたのは、想像よりも小さな数字でした。
大幅な増加が見込めなければ、結ヶ丘は存続していけないかもしれません。
初年度はもちろん、2年目3年目の募集でようやく学校として完成するため、とても重要なのですが。
お母様の学校を、私が結果を出せなかったために潰してしまうのか?
そんなこと耐えられません。 理事長室から出ると、澁谷さんがいました。
「ちょっといいかな?」
彼女はいちごミルクとアップルティーのパックを持って、話しかけてきました。
私はなぜか迷わずアップルティーを受け取りました。
自分の気持ちを隠したい気持ちの表れだったのかもしれません。
澁谷さんはなおもスクールアイドルを認めない理由を問いかけてきます。
「別に何もありません」
大アリです。2回目の嘘をつきました。
私が澁谷さんたちのやりたいことを妨害しているのは分かっています。
でも、どうしても認める気にはなれない。
お母様のリベンジを成功させなければならない。
それが私の生きる意味です。
それだけ話して私は勝手に帰りました。
彼女と長く一緒にいたくなかった。 ある日、私は生徒会長としての初仕事がありました。
実はそれを恐れていました。
昨夜決めた、新たな方針をみなさんに伝えることを。
嫌われたって構いません。学校さえ続いていくのなら。
澁谷さんたちにも、普通科の皆さんにも。
「最初の学園祭はーーー」
一度呼吸を整えます。
言うしかない。
「音楽科主体で行うことに決定しました」
皆さんの怒りが、困惑が伝わってきます。
泣き出しそうでした。
でも、もう泣いてはいけない、あの日そう決めたから。
全員から嫌われてでも、私は学校を優先したのです。 この学校の強みは音楽です。
音楽科の紹介を主体におくことこそお母様の後悔を超える最善の手だと思っていました。
それにーーーまだやることがあります。
授業が終わると、急いで下校しました。
荷物を片付けたとき、サヤさんが部屋に入ってきました。
「失礼いたします、実は今ーーー」
「サヤさん、お話があります」
サヤさんは困った顔をしました。
「大切なお話です」
なんでしょう、と言い、心配そうにこちらを見つめています。
「サヤさん、今までありがとうございました」 「っ!」
「暇を出すことになりました」
そう言って僅かな退職金の入った封筒を差し出しました。
サヤさんは驚いているようでも、怒っているようでもありました。
「いいえ受け取れません!」
「来月からは、サヤさんを雇っていくお金もないの」
私1人が生活していくのにやっとの貯蓄しかありませんでした。
葉月家は創立者の家として、株式のような契約を学校と結んでいます。
学校の採算が取れない以上、サヤさんと暮らしていくことは出来ないのです。
「必要ありません!私はこの葉月家に仕えているだけで…」
そういうわけにもいかないのです。
サヤさんのような立派な方を無給で働かせるなんて。 その時、チビが飛び出してきました。
「わっ!!」
声が聞こえます。
「?!誰かいるのですか?」
倒れていたのは…なんと澁谷さんたちでした。
「今の話…ほんと?」
聞かれてしまいましたか…。仕方ありません。
「この家に残っているのは私1人。お金もありません」
全てを白状することにしました。
もう、黙っているのが辛かったのかもしれません。
「学校を続けていくためにはーーー」
「…私が頑張るしかないのです」 全てを話し終わった時、4人とも何も言いませんでした。
翌日、学校に行くのがとても怖くなりました。
澁谷さんたちは黙っていてくれると言ってくれましたが…。
一通り話してみて気付きました。
結局は私の私情でしかなかったのです。
しかしもう後戻りできません。
茨の道を突き進む、他に選択肢は残っていませんでした。
やはり学校の雰囲気は最悪でした。
睨まれるだけならまだ温情のある方です。
明らかに避ける者、何かを囁き合う者など。
署名運動も行われていました。リコールなどでしょう。
それほどのことをしたのはわかっていますが、精神的に辛くなってしまいました。 秘密を打ち明けられたからでしょうか、私はスクールアイドル同好会の部室に自然と向かっていました。
ですがそもそも1番恨んで然るべきは彼女たちです。
ドアの前で立ち往生してしまっていると彼女たちの当惑した声が聞こえました。
「私のせいです」
「…申し訳ありません」
スクールアイドルをやっていた、お母様の話をしました。
ここまで来たら何も隠すつもりはありませんでした。
記録がないこと、後悔したと思うことを全て。
改めて、謝罪もしましたが、許してもらえはしないでしょう。 理事長には明日の集会で説明をすることを命じられました。
誰もいない我が家で、原稿を考えます。
もう、味方は残っていません。
今度こそ、しかも自分の行いによって、全てを失ってしまいました。
翌朝、出来るだけ遅く登校しました。
もう人に会いたい気分ではありませんでした。
演説の準備をしていると、資料室が騒がしいのに気付きました。
なんと、同好会の皆さんが資料を探してくれていたのでした。
ありがたく思いましたが、それが無意味なのはよくわかっています。
今更どうにかなることではないのです。
「全校集会が始まります、行かなくては」
「正直にみんなに話すしかないでしょうね。この学校の現状を。どうなるかは分かりませんが」
私が行こうとすると、急に澁谷さんは何かを思いついたように走り去りました。 体育館の舞台袖で深呼吸します。
話を聞いてくれるでしょうか。
集会が、始まりました。
まずは謝罪します。
「すみませんでした」
「ただ私は学校の良さを知ってもらうために…」
しかし、みなさんに受け止めてもらうことはできませんでした。
「普通科はどうなるんですか!」
「学園祭に参加できるんですか!」
怒号が飛び交います。
やはりダメでした。私の蒔いた種です。どうしたら…。 その時
「待って!」
澁谷さんの声でした。
「私から話したいことがあります」
何を…?
理事長は許可しました。
澁谷さんが壇上に上がります。
そしてその手に持っていたのは…
「スクールアイドル同好会の部室でこのノートを見つけました。この学校が出来る前ここにあった神宮音楽学校の生徒たちが書いたものです」
じん…ぐう…?
「こう書いてあります。”学校でアイドル活動を続けたけれど結局廃校は阻止できなかった”」
…そうです。だからお母様は…。 「”でも私たちは何一つ後悔していない。学校が一つになれたから。この活動を通じて 音楽を通じてみんなが結ばれたから“」
…!
「私はみんなと約束した。”結”と文字を冠した学校を必ずここにもう一度つくる。音楽で結ばれる学校をここにもう一度つくる。それが私の夢」
そんな…。
「スクールアイドルはお母さんにとって、最高の思い出だったんだよ」
その言葉を聞いた時。
何年も忘れていた、お母様の言葉が蘇りました。
『スクールアイドルは、お母さんの最高の思い出』
どうして…どうしてこんな大切なことを忘れていたのでしょう。
私は…今まで私はなんてことを…。
「これもノートと一緒に」
唐さんが差し出したのは、衣装でした。
お母様はスクールアイドルを愛して、学校を愛していたーーー。
ようやくはっきりしました。 「”でも私たちは何一つ後悔していない。学校が一つになれたから。この活動を通じて 音楽を通じてみんなが結ばれたから“」
…!
「私はみんなと約束した。”結”と文字を冠した学校を必ずここにもう一度つくる。音楽で結ばれる学校をここにもう一度つくる。それが私の夢」
そんな…。
「スクールアイドルはお母さんにとって、最高の思い出だったんだよ」
その言葉を聞いた時。
何年も忘れていた、お母様の言葉が蘇りました。
『スクールアイドルは、お母さんの最高の思い出』
どうして…どうしてこんな大切なことを忘れていたのでしょう。
私は…今まで私はなんてことを…。
「これもノートと一緒に」
唐さんが差し出したのは、衣装でした。
お母様はスクールアイドルを愛して、学校を愛していたーーー。
ようやくはっきりしました。 「お母様…!」
この時私は、あの日以来初めて涙を流しました。
集会のあと理事長室に呼ばれました。
澁谷さっと2人で入ると、用意されていたのは
「はい、お母さんたちの記録」
記録…?なかったはずでは?
「理事長は知っていたんですよね、どうして言ってくれなかったんですか?」
そう聞くと理事長は軽い口調で言いました。
「責めないでよ。何も言わないで、あの子が決めるのを見守っていてほしいって」
はぁ、とため息をついています。 「迷惑ったらありゃしない」
…フランクな人なのですね。
「そうだわ、葉月さん、放課後また来てちょうだい」
「わかりました」
「さ!学園祭の準備準備!」
2人して部屋から放り出されてしまいました。
何が何だか…。
「すみません、私のせいでだいぶ遅れてしまいました…」
文化祭の話が出たので、改めて謝罪をと思いました。
すると澁谷さんは
「来て!」 中庭にいくと、みなさんが何か大きなものを作っています。
「これはスクールアイドルの…?」
ステージでした。
学園祭のライブ、と言うことですか。
皆さんが頑張ってくれている。申し訳なく思います。
「葉月さん」
突然、澁谷さんが私の名前を呼びます。
「ううん、恋ちゃん!」
なんでしょうか…。
同好会の皆さんが集まってきました。
「一緒にスクールアイドル、始めませんか?」 耳を疑いました。
まさかそんな…。
ですが、
「ですが今まで妨害をしてきた私にそんな資格は…」
断るしかない。
「私、恋ちゃんと一緒に歌いたい!」
澁谷さんは思いを伝えてくれます。
「大丈夫、できるよ!」
嵐さんは励ましの言葉をかけてくれます。
「全く素直じゃないわね」
平安名さんは私をからかいます。
「可可たちはいつでもファインファインですよ」
唐さんは受け入れてくれます。 なんと素晴らしい人たちに出会えたことでしょうか。
私は元々スクールアイドルがやりたかった。
願ってもないお話ですが、やはり私は…。
優しい風が私の背中を押しました。
応援してくれている、温かい風が。
私は…。私のやりたいことは…。
私は澁谷さんの、いえ、かのんさんの手を取りました。 約束通り理事長室に行きました。
「失礼します」
理事長は笑顔で迎えてくれました。
「何から話したらいいかしらね」
そう言ってから理事長は真相を語ってくれました。
花は自分が長くないってわかってたのよ。でもあなたの受験に支障があると困るから黙ってろって言うのよ?あのメイドさんもきっとそうね。
私は応援する立場だったからずっとあの子の活動を見てきたわ。まぁ浮ついてるとか言う人はいたけどね、素晴らしいスクールアイドルだったと今でも思う。
お母さんの手紙を送ったのも私。自分じゃ出せないから代わりに出してくれですって。タイミングばっちりだったでしょ?
資料は元々あの子が全部保管してたわ。あのノートといい、タイムカプセルみたいな感じよ。
でもやっぱり1番の理由はあなたね。自分の道は自分で切り開いて欲しいんですってよ。
そんなところかしらね。またいつでも聞きに来て構わないわ。 学園祭当日。
お母様と同じ衣装に身を包み、私たちは待機していました。
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
そして、
「5!」
私のスクールアイドルとしての日々が、始まったのです。
お母様、見てくださっていますか?
空に語りかけます。
私はスクールアイドルになりました。
最高の仲間と一緒に。
自慢の娘になれたでしょうか?
風が吹きました。
終 読み返すと設定とか流れとか結構ガバかったです
この時恋ちゃんはこんなこと考えてたのかなぁを文字起こししてみました
ありがとうございました 完結乙
恋ちゃん視点を補完してくれる良いSSでした! アニメではキャラが何考えてるか挟んでる暇ないからね〜
面白かったです!お疲れ様でした! めちゃくちゃよかったわ
恋ちゃんがより可愛く見えるお話 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています