侑「なんてったの?」
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>>1
ありがとうございます
投稿するかだいぶ迷いましたがせっかく書いたので投下します。
説明は一切しないんで行間は各々が自分の感性で補完してください。
第1部「なんてったの」 侑「もう風が秋の心地だね」
歩夢「秋は何して過ごそっか」
侑「美味しいものを食べる!」
歩夢「じゃあ沢山作ってあげるね」
侑「どこか行く!」
歩夢「ふふ、温泉とか行ってみたいな」
侑「あとは美術館でも行ってみようかな?」
歩夢「何展示してるんだろうね」
侑「……うーん、それから読書してみる!」
歩夢「何読みたいの?」
侑「ぶ、文学」
歩夢「ざっくりし過ぎだよ〜」
侑「じゃあ一緒に本屋さんに行って選んでよ」
歩夢「分かった、選んであげるね」
侑「でも本読んでたら眠くなっちゃうかもなあ」
歩夢「膝枕する?」
侑「その時はお願い!」 でも歩夢は膝枕をしてくれなかった。
本屋にも行けなかった。
美術館にも、旅行にも行けなかった。
手料理も振る舞ってくれなかった。
もうあの味は──。 歩夢「侑ちゃん、おはよ」
侑「……歩夢?」
歩夢「どうしたの?」
侑「ううん、何でもない。……何だか長い夢を見てたみたいで、ボケちゃってるんだと思う」
歩夢「ふふ。……ねえ侑ちゃん、窓辺に来てよ。秋風が気持ちいいよ」
侑「うん。……ほんとだ、とっても気持ちいいや」
歩夢「ずっとこうしていたいな」
侑「駄目だよ」
歩夢「え……?」 侑「遅刻しちゃう」
歩夢「あっ……。そ、そうだよね」
侑「また明日続きを楽しも?」
歩夢「うん!」
侑「明日も明後日も明々後日も、来年もずっとこうしていようね」
歩夢「///」
侑「?」
歩夢「侑ちゃん、それって──」
侑「おばあさんになっても一緒にいようって話したでしょ?」
歩夢「そうじゃなくてね、私……!」
侑ちゃん「歩夢……?」
歩夢「侑ちゃん、私ね──」
侑「……ねえ歩夢、今なんて言ったの?」
歩夢「……」
侑「なんてったの?」
歩夢「……」
侑「もう一度聞かせて」
歩夢「……」
侑「もう一回教えてよ」
歩夢「……」
歩夢、今なんて私に言ったの?
なんてったの? 侑ママ「歩夢ちゃん、今日も来てたんだ」
歩夢「ふふ、おばさんだって知ってますよね? もう何年も毎日来てるって」
侑ママ「……ええ」
歩夢「いつかって信じてるんで」
侑ママ「……いつもそうやって手を?」
歩夢「こうやってずっと手を擦ってたら起きるらしいですよ?」
侑ママ「ねえ、歩夢ちゃん」
歩夢「?」
侑ママ「侑のことなんだけどね──」
あっ、朝だ。 歩夢「……仕方ないんだよ、侑ちゃんが起きてくれないんだもん」
侑ママ「侑、ごめんね。……ごめんね」
朝なのに歩夢がいないや。
でもこれ以上待ってたら遅刻しちゃうよ。
歩夢と一緒に行きたかったんだけどなあ。
あの時なんてったのかも訊きたいし。
歩夢「侑ちゃん、好きだよ。……さようなら」
……そうだ、思い出した! 侑ちゃんの意識がないこと、眠っている侑ちゃんの見ている世界なのは想像がついたんだけど
生命維持装置は思い付かんかった 第2部 歩夢「BABY BLUE」
歩夢「……」
分からないや、真っ白くなった侑ちゃんの肩を抱きながら何て言えばいいのか分からない。
歩夢「私も一緒に連れて行ってよ」
……なんて言ってみたり。
歩夢「私ね、この数年で沢山のものを失ったんだ」
友達もいなくなったんだ。
歩夢「同好会のみんなとも疎遠になっちゃった」 だから私には侑ちゃんだけだったんだ。
歩夢「でも侑ちゃんもいなくなっちゃったし、もう一人ぼっちだね」
今のこのままで止まってしまいたいな。
歩夢「でも今日が終われば明日が来るんだもんね」
そこに意味はあるのかな?
歩夢「意味なんかないね、意味なんかない」
侑ちゃんのいない日々なんて儚いだけ。
歩夢「それが長く続いても意味なんかないよ」
私もこのまま一緒に連れて行ってよ。
歩夢「二人だけで落ちて行こう?」
ああ、泣きそうだよ。
歩夢「誰よりも大好きだったよ、侑ちゃん」 第3部 しずく「気分」
しずく「かすみさん、久しぶり」
かすみ「しず子こそ、久しぶりだね」
しずく「髪伸ばしたの?」
かすみ「うん、まあね。……しず子も何か学生気分が抜けた感じするね」
しずく「もうすっかり社会人だもん」
かすみ「えへへ。……あ、部屋まで来てもらって悪いんだけど、これから外に出ない?」
しずく「いいよ、じゃあとりあえず歩こうか」
大人になって、色んなことがあって、こうして二人で歩く夜も変わっちゃったな。 かすみ「ほら、歩夢先輩のこと」
しずく「……もちろんショックだったよ」
かすみ「だよね、私も」
しずく「でもね、私が何より嫌なのは世間は忘れ去るってことだよ」
かすみ「?」
しずく「元スクールアイドルの自殺ってことでちょっと話題になったけど、もうみんな次のニュースに夢中になっちゃってて」
かすみ「……それだけ毎日誰かが死んじゃったり不幸になったりしてるんだよ」
しずく「そう考えるとみんなの気分が移り変わるのも仕方ないことなのかな?」
かすみ「学生気分が抜けるみたいに、悲しい気分も抜けていくんだろうね」
でも私たちだけは同じ傷を背負い続けるんだろうな。
世界の果てが見えたとしても、きっとこの気分は止まらない。
しずく「でも疲れるなあ。この国の気分は変わりすぎて疲れちゃうよ」 第4部 侑「頼りない天使」
侑「ねえあゆむちゃん」
歩夢「どうしたの?」
侑「てんしっているのかな?」
歩夢「あってみたいの?」
侑「うん。きっとこのそらのずっとさきにいるとおもうんだ」
歩夢「このよぞらのさきに?」
侑「あゆむちゃんもそうおもわない?」
歩夢「ゆうちゃんはそうだったらうれしい?」
侑「うれしい!」
歩夢「じゃあきっといるよ! てんしはいるし、ゆうちゃんのところにくる!」
侑「ふふ、ありがとね。……でもそれまではふたりぼっちだ」
あの時歩夢が信じてくれた確かな気持ちが変えたんだろう。
優しい天使がやってきた。
なんて素敵な話だろう。 侑「ふふ、歩夢ありがとね」
歩夢「急にどうしたの?」
侑「ううん、何でもない」
歩夢「……それにしてもここは不思議な場所だね。私たち以外には誰もいない」
侑「怖い?」
歩夢「……うん」
侑「大丈夫だよ、頼りない天使さん。一人ぼっちじゃないんだから」
歩夢「?」
侑「こんな世界の真ん中で、私たち二人ぼっちなんだから」 終わりです。
自分としてはこれでもハッピーエンドに寄せたつもりです。
あと指摘のあったように全部フィッシュマンズからの引用です。
フィッシュマンズの映画が夏に公開されるんでみんな観に行きましょう! 歩夢にとっての死は救済……ってことでいいのかな?
おつ おつでした。あの世で巡りあえたのならハッピーエンドと言えなくもない、のかな?別の世界で生きて幸せになれますように やっぱりフィッシュマンズだったのか
少し前に映画のニュース見て久しぶりに聞いてたわ @cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ...
🌸cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています