歩夢「時物語」
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今日が昨日から続いてるなんてそんな確証はなくて、
今日が明日へ続いてくなんて確証もない訳で。
現実なんて夢の様に曖昧なのに誰も疑問に思わないのかな。
次、私が目覚める時はどこで何をしているのだろう。 昨日の夜は確かに自室で寝たのを覚えている。
歩夢「じゃあ明日も早いからもう切るよ。寝坊しない様にね」
ベットの上で幼馴染と電話していた。
隣に住んでいて窓から身を乗り出せばお互い顔を合わす事が出来るのにわざわざ電波を通しておやすみの挨拶をするのがなんだか可笑しい。
そんな事を考えながら少しスマホでネットニュースを流し見する。今夜ペルセウス座流星群が極大を迎えるそうだ。
歩夢「侑ちゃんに教えてあげようかな」
なんて思いもしたけど早く寝ようと言ったのは私の方だしやめておこう。 スマホを消して完全に暗くなったけど目が慣れている為部屋の隅々までが見える。
私は何故だか
あぁ、ここは私の部屋だなぁ
と思った。
なんでそんな事を思ったのだろう。
ただ、たまに、不意に、なんとなく、意味もなく、そんな事を思う時がある。
それ以上は何も考える事をせず気が付けば私は眠りについてた。 そのはずだったのに次に目を開けた時賑やかな都会の風景が広がっていた。
突然始まる夢の様に自然と私はそこに立っている。しかも着替えた覚えもないのに制服姿。
意味が分からず思考が定まらない。
夢を見ているのだろうか。と言うかここはどこなのだろうか。 ただただ呆然としているとシャキッとしろと言わんばかりに強風が吹き出した。
こんな時でも我ながら流石女子高生と言うべきか咄嗟に両手でスカートを押さえた。さながらマリリンモンローの様。それは言い過ぎかな。
しかし、そうなると両手が塞がっている為他の部分がノーガードとなってしまう。
その為どこからか聞こえた
「それ拾って下さーい」
の声にふと視線をやると何かに顔を覆われた。多分チラシか何かだと思う。
私は思わず
歩夢「へぶっ」
と変な声を出してしまった。きっと顔が真っ赤になっているだろうから隠れてて良かった。 「あ〜良かった」
と聞こえて思わずドキッとしてしまった。さっきの変な声が聞こえてしまっていたかもしれない。
私は顔に被さったチラシを手に取って持ち主の方を見た。
服装からして高校生だろうけどだいぶ幼く見えた。明るい髪色に垢抜けない笑顔が印象に残る。
「あの〜ありがとうございます」
チラシにはニューオープンと書いてあってどうやら新しく開店するメイドカフェの様だった。 メイドカフェ…よく見る街の景色は見た事がある。私はここに来た事がある。
独特な雰囲気、街並み。
秋葉原。そうここは秋葉原だ。
と言う事はこの子もメイドさん?よく見ると胸に大量のチラシを抱えている。
「あっ、このチラシ私のじゃなくて…」
彼女が喋りだした時まるでタイミングを見計らった様にまた強風が吹き荒れる。
私が持っていたチラシは私の手を離れ彼女の腕から離れたチラシと混ざって飛んでいった。 思わずポカンと口を開けてチラシの行方を見届ける彼女とそれを見る私。
ふと我に帰り彼女の視線の方に合わせると大きなモニターが目に入った。
黒の背景にピンクの文字でLOVE LIVEとだけ映し出されている。
LOVE LOVE?どこかで聞いた事がある様な気がする。 どこで聞いたっけ?そんな事を思っているとモニターの画面が切り替わった。
映し出されてのはこれまた私と同い歳くらいの女の子達が歌って踊る映像。制服姿で楽しそうに始まりを、希望を歌っている。
横の彼女もそれに目を奪われている様だった。
私は思わず
歩夢「スクールアイドル…」
と呟いていた。 どうやら彼女にも聞こえていた様で
「もしかして知ってるんですか!!」
と聞いて来た。
歩夢「いや…あのグループを知ってる訳じゃ無いんですけど。多分スクールアイドルだと思います」
彼女は
「スクールアイドル?」
と首を傾げてからスマホでスクールアイドルを検索し始めた。 「え〜部活でアイドル活動なんてするの?知らなかったぁ。私の家の方じゃ誰もやってないもんなぁ」
とスマホを相手に呟いていた。
その間、私はチラシが飛んで散らばったのを思い出し一人で拾っていた。
あっ!と彼女が大きな声を出したのでチラシが散らばったのを思い出しかなと思っていると
「もしかして…もしかしてですけど!あなたもスクールアイドル?」
とチラシを拾いながら聞いて来た。 今さら気が付いたけど続きとは限らないんだね。前回が夢だから今回は時に関係するお話なのかな なかなか鋭い子だなぁ。確かに…何を隠そう私もスクールアイドル活動をしている。
歩夢「うん。私も一応スクールアイドル活動をしてるんです。初めて間もないけど」
彼女は大袈裟に
「やっぱり!可愛くて大人っぽいしなんか詳しい感じだったからそうなんじゃないかなって思ったんだぁ」
と過大評価をしてくれたので思わず顔が熱くなって来た。大人っぽいなんか初めて言われたし。この子にはそう見えてるんだとビックリした。 お返しに感謝の意味を込めてはいるけど社交辞令でも何でもなく
歩夢「興味があるならあなたもやってみたらどうかな?向いてると思うよ」
と彼女に言ってみた。
彼女は嬉しそうな恥ずかしそうなどちらとも言えない顔をして
「え〜そうかなぁ。私もあんな風になれるかなぁ」
とモニターの中で歌う彼女達を見つめた。 歩夢「それはやってみないと分からないけど。少なくとも私は始めて良かったと思ってるかな」
そうだよねと彼女は笑った。その笑顔がアイドルそのものだよと思った。
「あっ!もしかして…えっと…」
歩夢「私は上原歩夢」
そう言えばまだ自己紹介をしていなかった。
「じゃあ歩夢ちゃんって呼んでいい?」
歩夢「もちろん!」
「やった!あのね!私は高海千歌!千歌って呼んで!」
千歌ちゃん。人懐っこくて可愛い子だなぁ。表情もコロコロ変わるし。なんか世話を焼きたくなる感じが誰かに似てる。 千歌「ね!もしかして歩夢ちゃんの名前で検索するとさっきの人達みたいにLIVEの映像が出て来たりするかな?」
はしゃぎながら何を言うのかと思ったらそう言う事か。
歩夢「多分ヒットすると思うよ。ライブの映像とか自己紹介…を同好会でアップしてくれてる筈だから」
私の言葉を受けて彼女は
千歌「じゃあ検索してみよう」
とスマホで私の名前を検索し始めた。 目の前で検索されるのは嬉しい様な少し恥ずかしい様な。
歩夢「どうかな?出て来たかな?」
と尋ねると千歌ちゃんはん〜と難しい顔をして唸り
「同姓同名の人は出て来たけど…もしかして字が違うとかな?」
千歌ちゃんのスマホを覗き込むと確かに私の名前が打ち込まれている。漢字も合っている。
歩夢「あれ?この間は見れたと思ったけど。消えちゃったのかな?」 ネットで上原歩夢と検索すれば確かに動画が見れたはずなのに。
千歌ちゃんのスマホがおかしいなんて事はないと思うけど自分のでも検索してみようと私は自分のスマホを取り出した。
千歌「歩夢ちゃんのスマホ。日付けが間違ってるよ?」
私のスマホを覗き込み千歌ちゃんが呟く。けれど画面を確認すると間違ってはいない。ちゃんと正しい日付が表示されている。
歩夢「間違ってないよ?」
私の返答に千歌ちゃんは再び私のスマホを覗き込み
千歌「え〜間違ってるよ。まだ2020年じゃないし8月でもないじゃん」
と言った。確かに言った。 私が絞り出した言葉は
歩夢「え?」
の一言だけだった。それ以外は何も出てこなかった。
千歌ちゃんも何も言わない。驚いている様な感じだった。
千歌ちゃんの言葉が頭の中をグルグル、グルグルと回っている。
つられて私の目も回る感覚に襲われる。グルグルと。
あれ?違う。本当に目が回ってる。
歩夢「歩夢ちゃん?歩夢ちゃん?」
心配そうに私を見る千歌ちゃんの顔がグニャグニャとして来た。
だんだんと意識が遠のくのが分かる。
そう言えばLOVE LIVEって前にせつ菜ちゃんが言ってたスクールアイドルの甲子園の事だっけ。 気がつくと千歌ちゃんは居なくなっていた。
歩夢「あれ?千歌ちゃん?」
私の意識が朦朧としている間にどこかに行ってしまったのだろうか?
と言うか私は何をしてたんだっけ?そうだ!千歌ちゃんにスマホの日付けがズレているのを指摘されて…そしたら…あれは何だったんだろう?
歩夢「そうだ!私のスマホは?」
手に持っていたはずの私のスマホは地面に落ちていた。意識が遠のいた時に落としたのだろう。壊れてなければいいけど。
私はスマホに手を伸ばすとそのままその場にしゃがみ込んだ。なんだか疲れたから。 そもそも私はどうして秋葉原にいるのだろう。今更ながら再び疑問に思う。私はどの様にしてここまで来たのだろうか。 スマホの画面を見ると相変わらず日付は2020年の8月と表示されている。
私は千歌ちゃんの言葉を思い出していた。タイムトラベルものの映画なんかでよくある。使い古されたシーン。
まさかそんな事。我ながら妄想逞しいな。
小さいため息を吐いて立ち上がろうとした時に後方へとバランスを崩してしまった。なんと踏ん張ろうと両足の踵に力を入れたけど勢いは止まらず倒れ込みそうになってしまった。 一歩、二歩、三歩と後退りしながらいよいよ倒れると言う所で何かに衝突した。何かと言うより誰かに。
けれど勢いを失う事はなく私は尻餅を付いた。
痛っと私が声を上げると後方から
「痛っ」
と木霊の様に聞こえて来た。私に巻き込まれて倒れたのだろう。痛がっている場合ではない。早く相手の元へと駆け寄るべきだ。
私はスッと立ち上がり
歩夢「大丈夫ですか?」
と安否の確認をする。 「あははは。大丈夫ですよ。私頑丈ですから」
どうやら大丈夫な様だ。パッと見た感じ私と同い年くらいの女の子。私は手を差し出した。
私の手を取り立ち上がった彼女を見るとやはり背格好も私と同じくらい。ただ、どこかで出会った事のある様な…。
歩夢「あっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
歩夢「あなた…さっきあそこのモニターに映ってたスクールアイドル!」
そうだ!さっき千歌ちゃんと一緒に見たライブ映像で歌って踊っていた9人組のスクールアイドルグループの一人だ!間違いない。
ただ、目の前の彼女は訝しげな表情をしている。 「あの〜誰かと間違えてませんか?」
あれ?もしかして他人の空似かな?それにしては似過ぎている様な気もするけど。もしかしてせつ菜ちゃんみたいに身バレしたくないとか?なんにせよいきなり失礼だったかもしれない。
歩夢「ごめんなさい。さっき見たスクールアイドルの一人にあまりにもそっくりだったから」
穂乃果「スクールアイドル?」
彼女はスクールアイドルと言う単語にピンと来ていない様だった。惚けている様にも見えなかった。
本当に知らないんだろう。 二人がスクールアイドルを始めるのに、ほんの少し影響を与えてる形になるんだね やっぱり他人の空にだったんだ。
それにしてもスクールアイドルもだいぶ市民権を得て来たって聞いたけどまだまだ知らない人も居るんだなぁ。
まあ、私も詳しくは無かったし。うん。これ以上この場に引き留めるのも悪いだろう。
歩夢「あの…本当にすいませんでした」
と再び彼女に謝罪を告げる。
「いえいえ。気にしないで。私なんてしょっちゅう転んだりしてるから今さら一回増えたくらいなんて事ないんで」
と彼女は言ってくれた。イマイチ理屈は分からないけど明るい人だなぁ。 なんとなくここでお別れかなって雰囲気になった所で彼女が
「あっ!所であなたってもしかしてUTX高校の生徒だったりする?」
と尋ねて来た。
歩夢「UTX高校?」
なんか凄い名前の高校だなぁ。
「その感じは違うよね。ふ 「その感じは違うか〜よく見ると着てる制服も違うもんね。まさにそこの高校なんだけど」
と言って指を差したのはさっき千歌ちゃんとスクールアイドルのライブ映像を見ていたモニターがある建物。
歩夢「ここ…高校だったの?」
知らないうちに人だかりも出来ている。いつの間に集まったのだろう。
「いや〜うちの妹が受験するって言うからどんな高校かな〜って気になって見に来たんだけど。遠目から見てもうちの高校とは規模が違うな〜」
と言いながらパンフレットを見せて来た。
まあ確かに凄いけど規模で言ったらうちの高校も負けてないかな。 「えへへ。これは敵わないなぁ」
彼女は呟いた。その表情はさっきまでのそれとは違って寂しそうに見えた。
歩夢「敵わないって?」
「うちの高校廃校が決まったんです。だから妹もUTXを受けるって。まあ私が在学してる間はまだあるみたいなんだけど」
廃校って学校を閉鎖するって事だよね?聞き馴染みのない言葉に一瞬理解が追いつかなかった。
だってそんな身に置かれた事なんてなかったから。 きっとこの人は自分の学校が大好きなんだろうな。じゃなかったらこんな顔はしない。
「まっ!まだ本決まりって訳でもないし!何か防ぐ方法もあるかもしれないから」
彼女は再び笑顔を見せてくれた後に
「所で今何時だろう?」
と時間を気にしだしたので私はスマホの画面を彼女に見せた。8時54分と表示していた。
「ええ!!?もうそんな時間?おかしいなぁ。早起きしたのにぃ」
と急に慌てだした。この人も本当にコロコロと表情の変わる人だ。
「と言う事で私、遅刻しちゃうから行きます。またどこかで会えたらいいですね!あ〜また遅刻したらどやさらる〜」
と言って走っていってしまった。遅刻の常習犯なんだ…。それにしても世間は夏休み中だと言うのに大変だ。
そう言えば彼女は私のスマホの日付けを見ても何も言わなかったな。 なんて思っているとUTX高校の方が何やら騒がしい事に気が付いた。なに事かと思うくらい騒がしい。
そちらの方に目をやるとモニターに3人組の女の子が映し出された。
『UTX高校へようこそ』
と真ん中の小柄な女の子が言った。ウィンクが印象的な子だった。これはUTX高校のPR動画なのだろうか?
そこで画面が一変した。いきなり音楽が鳴り出し先程の三人が歌って踊っている。
すぐにピンと来た。この人達もスクールアイドルだ!と言う事はUTX高校のスクールアイドルって事になる。まあ、UTX高校で流れているのだから当たり前だけど。
と言う事はさっき千歌ちゃんと見たスクールアイドル達もUTX高校のスクールアイドルなんだろうか? それにしても
歩夢「凄い人気だなぁ」
この光景は何か既視感があるなぁ。
そうだ!
歩夢「せつ菜ちゃんだ」
初めてせつ菜ちゃんを見た時の感覚に似ているんだ。
どうせならもっと近くでしっかりと見たい。私は人混みの方へと向かっていった。
耳に響く歓声が痛い。でもそれも仕方ない。だって彼女達のパフォーマンスはそれに値する。それすら過小評価なくらいだと思う。 歩夢「この人達…なんてグループ名なんだろう?」
思わず口から出た言葉が隣で見ていた人に聞こえた様で
「はあ?あんたA-RISEを知らないの?」
と言われた。面識のない相手になんて口調の荒い人なんだろう。って言うかこの人の格好…サングラスにマスク…夏なのにコートまで着て…怪しい。お陰で心臓がバクバクしている。隣で見ている女の子二人組も怖がっている。
歩夢「あの…有名なんですか?あの人達ってスクールアイドルなんですよね?」
速まる鼓動を抑え付け勇気を出して訪ねてみた。
するとまた大きな声で
「はあ?スクールアイドルを知ってるのにA-RISE知らないっての?」
歩夢「あ〜はい」
信じられないと言った様な表情で、いや実際に言っていたかもしれない。彼女はため息を吐いた。 千歌ちゃん穂乃果ちゃんと来て予想外のにこにーだった 「今注目度No. 1。赤丸急上昇中のスクールアイドルよ」
歩夢「注文度No.1…ですか…」
そうよと言って彼女はまた前を向いてしまった。もう喋りかけるなと言わんばかりに。
それにしても知らなかった。注目度No.1のスクールアイドル、A-RISEか。
あっ!そう言えばもう一つ聞きたい事があったんだ! 歩夢「あの〜…もう一つだけ聞いてもいいですか?」
「なに?まだあるの?」
やっぱり…あまり良い顔はしない。よくよく考えたら先に話しかけて来たのはそっちだった様な気もするけど。
歩夢「すいません」
そう思っていても謝ってしまうのは性格なんだろうか。余り良い事ではないとは自分でも思う。
「で?何よ?」
歩夢「あの…UTX高校ってA-RISEの他にも別のグループが居たりするんですか?」
「別のグループ?聞いた事ないけど。もしかしたら居るかもね。A-RISEに憧れて活動をしてる子達も」 ニジガクについて聞いたらどういう答えが返ってくるんだろう そっか。A-RISEに憧れてか。きっとこの人もそうなんだろうなと思った。
サングラスで見えはしないけどその瞳がそう語っている様な気がする。なんて。
ただ、あの時大々的に、それこそA-RISEの様にあの大画面で歌って踊っていたあのグループは駆け出しのスクールアイドルなのだろうか?
確かに初々しい感じはしたけど。
「で?質問は終わり?」
とぶっきらぼうに呟く。この人、口は悪いけど結構親切だ。 歩夢「あの…じゃあ…9人組の…」
と質問しようとした所で私達の隣にいた二人組の女の子の声に掻き消された。
「かよちん!もう本当に行かないと遅刻するよ〜」
「でも〜」
私の声って小さいんだな…。所でこの子達の着てる制服って…さっきそこでぶつかった子と同じだ。
彼女達の声が聞こえたのか
「何?もうそんな時間なの?」
とスマホを取り出しサングラスをずらしてその画面を見つめた。
「やっば。もう8時45分じゃない」
と騒ぎ出した。え?8時45分?さっき時間を確認した時は8時50分くらいだったと思うけど。あれから少なくとも15分以上は経ってる。
この人の時計ズレてるのかな?
自分のスマホを取り出した確認した所9時20分と表示されていた。
歩夢「あの…もうとっくに9時過ぎてますけど…」
と教えてあげると
「はあ?そんな訳ないでしょう!」
と彼女のスマホを見せて来た。
4月○日。8時46分。確かにそう表情されていた。
4月?また、頭の中がグルグルとして来た。目が回っているのだと気が付いたのはそれからすぐだった。 なぜか秋葉原にいたり日時がずれてることに違和感を覚え始めて、色々動き出すのかな 気がつくと私はベットの上にいた。身体を起こしてゆっくりと辺りを見回す。
ここは私の部屋だ。あれ?私さっきまで秋葉原に居たよね?ちゃんとパジャマを着ている。
って事は…あれは夢?いやそっか。夢だよね。だって秋葉原に出かけた記憶なんてないし。
それにしてはリアルな夢だったけど。まあでも夢に違いない。
私はスマホに手を伸ばし時間を確認した。
9時30分。
歩夢「………9時30分!!?嘘!!?練習…遅刻しちゃう。侑ちゃんは?」
私はそのままスマホの通話履歴を開き高咲侑をタップした。
プルルルと呼び出しコールが鳴るけど中々でない。
だいたい10コールくらいだったかな? 「もしもし?こんな朝早くにどうしたの?」
その声は明らかに寝起きだった。
歩夢「どうしたのってもう9時30分だよ?私も今起きたんだけど…もう遅刻だよ」
と言っても侑ちゃんはのんびりした口調で
「遅刻?あははは…歩夢寝惚けてる?今は夏休み中だよ?」
と言って笑った。寝惚けてるのは侑ちゃんの方じゃない。
歩夢「だって練習があるでしょ?きっともう皆んな集まってるよ」
侑ちゃんは暫く沈黙して
「練習?なんの?皆んなって?」
と普段よりも低い声で言った。
「同好会の皆んなだよ!スクールアイドル同好会!」
「ごめん歩夢。ちょっとなんの事を言ってるのか分からない。同好会?スクールアイドル…って何?」
侑ちゃんは本当に困惑してる様だった。電話越しだけど目の前にいる様に分かる。 前作だと他のみんなの協力で戻ったけど、今作だとどうなるのかな 歩夢「侑ちゃんどうしちゃったの?」
「どうしたのはこっちの台詞だよ」
全然話が通じない。なんか前にもこんな事があった様な気がする。
「取り敢えず今から行くから。待っててよ」
と言って電話が切れた。侑ちゃんが私の部屋に来るらしい。
それなら私も準備をしなければ。いくら幼馴染とは言え流石にパジャマ姿で迎える訳にはいかない。
私はクローゼットの中の制服を取り出した。どうせ学校へ行くのだから。
パジャマのボタンを上から順番に外していると突然部屋の扉がガチャっと開いた。
侑ちゃんがやって来たのだ。それにしても早い。どうやら最低限の事だけをして髪を下ろしたまま部屋着で来た。
侑「歩夢…どうして制服に着替えてるの?」
侑ちゃんは不可解だと言わんばかりに首を傾げた。 侑「さっき言ってた同好会ってのが関係してるの?」
私は一旦手を止めて着替えるのをやめた。侑ちゃんは私のベッドに腰を下ろした。
歩夢「侑ちゃん…さっきスクールアイドルの事…」
侑「それなんだけど…」
侑ちゃんはポンポンとベッドを軽く叩き隣に座る様に促して来た。私が隣に座るとスマホを差し出して何故だかニコッと笑った。
侑「ちょっと気になったから検索してみたんだ。何年か前に流行ってたみたいだね。今はブームが去ったみたいだけどまだやってる人もいるんだね。もしかしてだけど歩夢…アイドルになりたいの?」
侑ちゃんは私を見つめてそう言った。 今までは自分がいた世界の現実とのずれを認識すると意識が飛んでたけど、今回はそうじゃないからここからどうなるのかな 私はなんて答えればいいのか分からなかった。今、自分が置かれている状況を上手く説明出来る自信がない。
だって昨日まで侑ちゃんはスクールアイドル同好会で私と一緒に活動をしていたのだから。
もしそれらが無かったのだとしたら彼女はスクールアイドル上原歩夢をどう思うのだろうか?
歩夢「もし…私がアイドルになりたいって言ったらどうする?」
それを聞く事になんの意味があるのか分からない。
侑「応援するよ。歩夢の夢がアイドルなら私はそれを応援する」
ただ、侑ちゃんが侑ちゃんだと言う事に私は安心したかったのだと思う。 侑ちゃんが侑ちゃんであってくれたら安心できる、そう思えるほどの存在なんだろうな 言葉にしなくたって分かりきっている事なのに私はわざわざそれを言わせて。
歩夢「私って面倒くさいね」
と自嘲気味に小さく笑ってみた。
侑「面倒くさくない人間なんて居ないよ」
私に合わせる様に侑ちゃんも小さく笑った。
歩夢「あのね。私スクールアイドルなんだ」
と言うと流石に侑ちゃんも少し驚いた様だった。
歩夢「同好会で活動しているの。メンバーは10人で侑ちゃんもその内の一人だった」
侑ちゃんは何も言わずに黙って私の話を聞いている。
歩夢「今朝、目が覚めたら秋葉原に居たの。過去の秋葉原に」
暫く黙ったいた侑ちゃんが口を開いた。
侑「過去の秋葉原?ごめん。ちょっと待って。何を言ってるのか…」
やっぱりそんな事をいきなり言われても受け入れられるはずがない。
歩夢「そこで私はスクールアイドルに会ってるの。本来会ってはいけないのに…だから世界が変わってる」
我ながら突拍子もない事を言い出したと思う。
だけど、そうじゃないと
歩夢「夢にしては余りにもリアル過ぎるの。何もかもが」 歩夢はそこまで理解できてるんだな。非現実的すぎて逆に冷静になって客観視できたのか 私はもう少し詳しく侑ちゃんに説明をした。
昨日の夜侑ちゃんと電話してから寝た事。
今朝起きたら秋葉原に居た事。そこで同じ歳くらいの少女に会って9人組のスクールアイドルのライブ映像を見た事。
その少女に私のスマホの日付けがズレている事を指摘された事。
その後意識が朦朧とした事。気がつくと少女が居なくなってた事。
また別の少女と出会った事。その子が先に見たライブ映像のスクールアイドルの一人と瓜二つだった事。
人気急上昇中のA-RISEと言うグループライブ映像を同じ所で見た事。その場がUTX高校と言う場所だった事。
そしてまた気がつくとこの部屋で目が覚めた事。
これらが全て夢とは思えない程リアルだった事。
私は事細かに侑ちゃんに説明した。
侑「A-RISEってこの人達?」
侑ちゃんはスマホを差し出して来た。 そこに写っていたのは数年前の古いネット記事。
『第一回、第二回ラブライブ優勝グループ芸能界デビュー』
の見出しから始まっていた。読み進めて分かった事はA-RISEがスクールアイドルを卒業した後その穴を埋めるグループは現れずラブライブもその後開催される事は無かった。
歩夢「スクールアイドルそのものの歴史が変わってるんだから同好会も無いかもしれない」
他の皆んなはどうなってるんだろうか。
侑「ちょっと待って。歩夢の事を疑う訳じゃないし歩夢が嘘を吐く様な子じゃ無いってのは分かってるけど。頭が追いつかない」
それはそうだろう。私だってすんなりそんな考えを受け入れている自分に驚いているくらいだし。 歩夢「ねえ?優木せつ菜、宮下愛、近江彼方、エマ・ヴェルデ、朝香果林、桜坂しずく、天王寺璃奈、中須かすみ。誰か知ってる?」
侑ちゃんは首を横に振り
侑「知らない。それって歩夢の言う同好会のメンバー?」
私は小さく頷いた。やっぱり知らないか。
歩夢「中川菜々ちゃんは?」
もしかしたらと思いせつ菜ちゃんの本名である中川菜々について聞いてみた。
侑「中川菜々さんってあの生徒会長の?」
やっぱり!と言う事は少なくともせつ菜ちゃんはうちの学校に在籍すると言う事だ。 スクールアイドルの歴史自体がかなり変わってる世界なんだね。最初に千歌ちゃんとラブライブ見てたから、それぞれが別という可能性もあるのかな スクールアイドルそのものが下火なら他のメンバーはともかくエマが危うい 侑「どうして歩夢が生徒会長を?あっ!もしかして」
そのもしかしてだよ。侑ちゃんは話が早くて助かるよ。
歩夢「中川菜々ちゃんは優木せつ菜と言う名前でスクールアイドル活動をしてたの」
侑「名前を変えて?」
歩夢「うん。生徒会長だし夏休みでも学校に居るかもしれない」
そうとなればせつ菜ちゃんに会おう。
歩夢「学校へ行かなきゃ」
私は立ち上がってそう言った。 せつ菜ちゃんに会えばどういう世界になってるかある程度わかるね 侑「学校へ行ってどうするの?」
侑ちゃんの返答は意外なものだった。
歩夢「それは…せつ菜ちゃんに会って」
侑「会って?」
会って…私は何も答えられなかった。
侑「会ってどうにかなるの?」
分からない。会ったからと言って何があるとも思えない。
侑「意地悪な言い方してごめん。歩夢の話がもし本当ならそのせい菜ちゃんって子だって変化があるかもしれないよ?」
確かにそれはあり得るかも…いや、確実に何かしらの変化はあるんだろう。
侑「つまり…私が何を言いたいかと言うと…会って歩夢がショックを受けたりするかもって」
私の事を思っての事だった。やっぱり侑ちゃんは優しいな。 私達は生徒会室の前に居た。
侑「なんか緊張するね」
扉の前で侑ちゃんはそう呟くけど私の知ってる侑ちゃんは結構な頻度で生徒会室を訪れている。
生徒会のメンバー以外ではトップ10に入るくらいの頻度…は言い過ぎかもしれないけど。
侑「それにしても、あの生徒会長がアイドルか。想像つかないな」
生徒会長モードのせつ菜ちゃん。いわゆる中川菜々ちゃんしか知らない人からしたらそう思うのだろう。
これは事前に説明をした方がいいのだろうか。 もしスクールアイドルをしてなかったら、ずっと菜々のままなのかな 侑「歩夢は落ち着いてるね」
私を見て侑ちゃんは呟く。
歩夢「せつ菜ちゃんは友達だから」
そう言う事じゃなくてと侑ちゃんは笑った。
侑「不思議な事が起きてるのにさ。私だったらそんな簡単に受け入れる事も出来ないしパニックなってると思うよ」
別に私だってこの状況をすんなりと受け入れている訳じゃない。
歩夢「逆だよ侑ちゃん。実のところ辻褄が合う様にこじつけてるだけ。考えると訳が分からないから。だから根拠なんて何もないの」 考え過ぎると多分動けなくなってしまうから。考え過ぎないのも問題だとは思うけど。
侑ちゃんはなるほどねと言って
侑「参考にさせて貰うよ。私の身に不思議な事が起きた時の為に」
と続けた。そんなしょっちゅう不思議な事が起きてもそれは困る。
侑「じゃあ行こうか?」
と侑ちゃんは扉をノックした。けれど、中から返事が返って来る事は無かった。
やっぱりいくら生徒会長でも夏休みまで学校には来ないのかもしれない。
と思っていると
侑「歩夢。扉開いてるよ」
と言って生徒会室の扉を押した。 結論から言うと生徒会室内にせつ菜ちゃんは居た。
侑ちゃんが扉を開けた時奇妙なポーズを取るせつ菜ちゃんと目が合った。
我が校の生徒会室は広く出入り口の扉から生徒会長の座席まで割と距離があるのだけれどそれでもしっかりと顔が引き攣っているのが見て分かった。
侑ちゃんは目を丸くして
侑「ノック…したんですけど」
と説明した。せつ菜ちゃんには悪いけど彼女について侑ちゃんに説明する手間が省けたと思った。
きっと侑ちゃんの中でせつ菜ちゃんのイメージが一変しただろう。 せつ菜「違うんです!!!」
暫く固まっていたせつ菜ちゃんがやっと口を開いた。何が違うのか分からないけど。
せつ菜「これはあの…誰も居ないと思ったので…普段からこんな事をしてる訳では」
普段からこんな事してても今更私は驚かないけど。とにかくせつ菜ちゃんは慌てていたので
歩夢「落ち着いてせつ菜ちゃん」
宥めようと私が声を掛ける。すると
せつ菜「今…なんて?」
と驚いた様な表情をした。
歩夢「落ち着いてって…」
と私は返した。 せつ菜「そうじゃなくて。今…せつ菜って?どこでその名を…」
これはもしかするともしかする。スクールアイドル優木せつ菜は存在するのかもしれない。
歩夢「あなたは優木せつ菜ちゃんなんだよね?スクールアイドルの」
私は畳み掛ける様に質問した。
せつ菜「スクールアイドル?」
あれ?スクールアイドルを知らない?
せつ菜「優木せつ菜は私が考えた世を忍ぶ仮の名前で…」
侑「世を忍ぶ仮の名前?」
せつ菜ちゃんは顔を赤らめている。
せつ菜「ただの妄想です。昔からアニメや漫画が……その…大好きで。誰にも言ってないはずなのにどうして…」 自分の妄想を知られてたらちょっと恥ずかしいどころのレベルじゃないな。自分に置き換えると怖すぎるww 今回はどうやって戻るのかな。スクールアイドルじゃないならライブという手段じゃなさそうか スクールアイドルがなくなると、全く繋がりがなくなって手を貸してくれる子も減っちゃうかも 別世界の全く知らない自分のことならともかく、今の自分の秘密もちょっと知られてるかもと思ったら確かにそうかも メガネを外したせつ菜ちゃんは両手で顔を隠して大袈裟に悶えてみせた。
歩夢「私の知ってる優木せつ菜ちゃんは元気いっぱいでとにかく情熱的なスクールアイドルなの」
私が言うと左手の指の隙間から私を見て一瞬息を止めたかと思うと小さく息を吐いて両手を下ろした。
せつ菜「先程もスクールアイドルと言っていましたね?」
先程の慌てぶりが嘘の様に落ち着いた声だった。
せつ菜「以前スクールアイドル同好会を作りたいと言って来た生徒が居ました。同好会を設立するには最低でも5人は必要なので当時は断念しましたがもしかして?」
どうやら私の他にもスクールアイドルを知ってる生徒が居るみたいだった。 歩夢「その生徒の名前って?」
なんとなく検討は付いていたけど聞いてみる事にした。
せつ菜「普通科一年生の中須かすみと言う生徒です。てっきりお仲間なのかと思いましたが」
やっぱりかすみちゃんだ。知名度が低くなっていてもかすみちゃんはスクールアイドルを目指していたんだ。
せつ菜「それで話は戻りますが。なぜ優木せつ菜の事を?」 普通なら違う時間とか世界から来たといっても信じないだろうけど、自分の妄想を知られてるとなれば話は違うだろうね 他のメンバーはとくに絶対に知られるはずがないような秘密って何かあるかな。他の時間から来ましたなんてこと、そういう証拠でもないと信じられなさそう ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています