【SS】ちっちゃなダイヤのおっきな苦悩 〜給食編〜
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給食の時間。空腹にうなされる地獄の四時間目を耐えきった者のみに訪れる、学校の最大の楽しみ。日本中の全小学生がこの時間のために登校してると言っても過言ではない。
ダイヤ「……」
それは成績優秀、才色兼備の彼女にとっても同じである。彼女もまた小学生、四時間目の終了を告げるチャイムを何よりも心待ちにしていた
ダイヤ(早く、早く来ないかなぁ、給食の時間。だって今日は、待ちに待った……)ソワソワ
そう、今日は一学期に一度だけの特別な日、リクエスト給食なのである リクエスト給食とは、事前に児童にアンケートをとり、その結果でメニューを決める給食のことである
要望の多かったメニューは『カレーライス』。今回はそれに加えて各々が自由にデザートを選択することが出来るのだ
先生「じゃあみなさん、好きなデザートを選んで先生に提出してくださいね〜!」
「「「はーい!!!」」」
ペラッ
ダイヤ「……」
二週間前の水曜日、ダイヤのクラスではリクエスト給食のデザートを選ぶアンケートが実施された
提示された選択肢は『ヨーグルトorプリン』。もちろん彼女の中で答えは決まっていた ダイヤ(まあ!今度のリクエスト給食ではプリンがあるのね!ふふっ♪)
ルンルン♪
ダイヤ(こんなの答えは決まっているわ!プリン!プリンに決まっています!ポカポカの教室の中で食べるトロトロのプリン!それを食べたら!きっと午後の授業も夢見ごこちよね……うふふ♡)
彼女は無類のプリン好き。普段は妹の目を気にして食べるのだが、学校でならその心配もない
ダイヤ(決まりっ!名前を書いて、プリンの方にまるをつけて〜……)
だが
ともだちA「ねえねえ給食、どっち選ぶ〜?」
ともだちB「プリン!プリンに決まってるよね!」
ともだちA「だよね!私も〜!」
ダイヤ「!!」ピクッ!
周囲の声がダイヤの選択を戸惑わせる ダイヤ「……」
キョロキョロ
ダイヤ(そ、そうですわよね……やっぱりプリンって人気だもの……)
リクエスト給食では生徒の選択がほぼ100%叶えられる。よってここでプリンを選んでしまえば当日ヨーグルトになってしまう可能性は、ほとんどない
だが、その裏で彼女は子供心にうすうす気づいていたのだ。リクエスト給食に潜む先生方のとてつもない苦労に ダイヤ「……」
給食の発注は事前におおかた完了している。もちろんある程度の幅は持たせてあるのだが、それもある程度の範囲でしかない
その中でもし生徒の希望に偏りが出てしまったらどうなるだろうか?もし、多くの人が、プリンを選択したのなら……
ダイヤ(もし、みんなプリンを選んじゃったら……きっと先生も困るわよね。だってみんな……
ダイヤ(みんな、プリンの方が好きに決まってるもの……)
キョロキョロ
ともだち「~♪」
ダイヤ「……」
ダイヤ(でも、私だってプリン、食べたいですわ。みんなと同じくらい……ううん!それ以上に……)
ダイヤ「……」 ダイヤ「……」キョロキョロ
ともだち「〜♪」キャッキャッ!
ダイヤ「……」
テクテク
ダイヤ「あ、あのっ!」
みなさんは何を選びましたの?ダイヤがそう尋ねかけた、その時
ダイヤ「!!」
ダイヤはすんでのところで立ち止まった。この質問をしてはいけないと気付いたからである
ダイヤ(い、いけませんわ!もし私がみんなにメニューのことを話してしまっては……)
………
… ダイヤ『あ、あのっ!私からみなさんに耳よりな情報がありますのよ!』
『え〜?なになに〜?』
ダイヤ『実は……ここだけの話、ヨーグルトを選べばと〜ってもいいことがあるんですわ!』
『いいこと?』
ダイヤ『はい!あのね、ヨーグルトにはたくさんの乳酸菌が含まれているの。体にす〜っごくいいんですわ!それに牛乳とあわせてカルシウムも……』
『そんなにいいならダイヤちゃんが選びなよ!』
『そうだよ!絶対それがいいよ!』
ダイヤ『……へ?あ、いや、私は、その……』
ダイヤ(……ってなるに決まってるもの!私がプリンを選ぶことはぜぇ〜ったいに気づかれちゃだめなんだから!) ともだちA「ダイヤちゃん、どうしたの?」
ダイヤ「へっ!?あ、いや、その……」
ともだちA「ん〜?」
ダイヤ「あ、えっと…………」
ともだちB「そうだ!ダイヤちゃんは給食のやつ、どっち選んだ?」
ダイヤ「なっ!!?」
ともだちB「プリンかヨーグルト!」
ダイヤ「そ、それは…………」
彼女が迷い、出した結論は
ダイヤ「………………い、今のところ………今のとこだけど、プ、プリンにするつもりですわ」 ともだちB「だよね〜!!私も私も!!ね〜?」
ともだちA「ね〜!」
「私も!」「私もプリンがいい!!」
ガヤガヤガヤガヤ…
ダイヤ「……」
ダイヤ(そっか。プリンの人、多いんだ……やっぱり……) ダイヤ「……」
ダイヤの中で異なる正義どうしが衝突する。ここで素直に自分の選択を貫いていいものなのか
ダイヤ(これだけプリンの人が多いと、きっと先生たちも困る………)
ダイヤ「……」
ダイヤ(けど、私だってプリン食べたいし……)
ダイヤ「……」
ダイヤ(でも……)
ダイヤ「……」
頭の中に浮かぶのは、妹が美味しそうに盗んだプリンを食べてる姿。一つのプリンがこんなにも人を幸せにするということを、ダイヤは誰よりも知っている
ダイヤ「……」 ダイヤ(………ううん、きっと)
大好きなプリンを、誰よりも心待ちにしていたリクエスト給食を
ダイヤ(だって……私はお姉ちゃんだし、学級委員なんだもん。それが私の務めですわ)
諦めてしまえば報われる。みんなが笑顔になれるのだ
ダイヤ「……………ぐすっ」
ポロッ
ダイヤ(だったら、私が……)
ダイヤ「ふぇぅっ……」
ポロポロ
ダイヤ(私は、みんなのために………今回は我慢しないと……だって私は……)
果南「ダイヤ?どしたの?」
ダイヤ「果南さん!?」 果南「あれ?もしかして泣いてた?」
ダイヤ「なっ、泣いてなんかいませんわ!!」フキフキ
果南「ふーん」
ダイヤ「……そっ、そう言えば果南さんはリクエスト給食、どっちにするんですか?」
果南「へ?……ああ、プリンとヨーグルト?」
ダイヤ「はい」
果南「ん〜……今回はヨーグルトって気分かな〜」
ダイヤ「!!」
パァァッ!!
それを聞き、ダイヤの顔は晴れ渡った ダイヤ(まあ!果南さんはヨーグルト!?)
ダイヤ(そしたら……私がプリンを選んでも、バチは当たらない……わよね?)
ダイヤ(だってプリンかヨーグルトってことは、ヨーグルトを選んだ人だけプリンを選べるってことだもの!だったら私の分は果南さんがいてくれることで、バランスがとれてる……)
ダイヤ「……」
果南「……ダイヤ?」
ダイヤ「ううん、なんでもありませんわ!」ニコッ!
ダイヤ(やっぱり、持つべきものは幼馴染よね〜……うふふふふっ♡) そして訪れたリクエスト給食当日
「「「いただきまーす!!!」」」
いつもの挨拶とともに、いつも通りの給食が始まる
ダイヤ「……」
けれど彼女だけは違う。いったいどれほどこの時を楽しみにしていたか
どれほど給食でプリンを食べられるのを、心待ちにしていたことか ダイヤ「……」パクパク
周囲の会話には耳も傾けず、ダイヤは一心不乱にカレーを食べ進めた
ダイヤ(あむっ………あむっ………)
小学校のカレーは低学年用に甘く作られていることが多い。けれども黒澤家のポークカレー(ルビィでも食べられる激甘仕立て)に比べたらほんのりと辛い ダイヤ(ふーっ………ふ〜っ………)
それでもダイヤはスプーンを止めない。ただ黙々と手を動かしていく
ダイヤ「はぁ〜っ……」
口の中がひりひりとし始めた。一度全てをリセットしてしまいたくなる誘惑に駆られる
ダイヤ(でも牛乳…………はダメよ。絶対)
なぜなら牛乳はプリンのために残さなければならないからだ。せっかくの美味しいプリンもカレーの口で食べてしまっては台無しである。牛乳はプリンの前の口直しになんとしても残さなければならない
ダイヤ(がんばれ、がんばれ、私……)
彼女は己と戦い続ける そんなこんなで最後の一口
ダイヤ(これで……おわり!)
パクッ!
ダイヤ(ん〜、おいしかったですわ!ごちそうさまでした!)
小食寄りのダイヤにとって、給食は食べきるだけでもせいいっぱい。それだけに長く苦しい戦いだった
ダイヤ「〜♪」ペリペリ
キュポン♪
そんな強敵を倒し切ったダイヤにとって、ここから先はウイニングラン状態である。意気揚々と牛乳の蓋を開けた
ダイヤ(んくっ、んくっ、んくっ…………ぷはぁ!!ふぅ〜♡)
牛乳でカレーを押し流す。口の中にはかつてない爽快感が広がった
ダイヤ(プリン、プリンですわ〜♪)
全ての準備が完了した。いよいよ待ちに待った、念願のプリンを味わう時が、ついにやってきたのである ダイヤ(プリン〜♪………んなっ!?)
しかしここでダイヤは一つの誤算に気づく
ともだちC「ねえねえ!昨日のテレビみた?」
ともだちD「みたみた!ちょー面白かったよね!」
周囲の友達は、まだカレーを半分も食べ終えていない。それもそのはず、ダイヤは急いでカレーを食べ終えたのだ。大半の人は給食にそこまでの速度を求めないだろう
ましてや小学生にとって、給食は社交の場である。友達との会話に花を咲かせながら、ペースを合わせて食べるのがある種のマナーとなっている
ダイヤ「……」
ダイヤ(困りましたわ……だってもうデザートを食べようとしてるのは私だけなのですもの) ダイヤ「……」
友人がまだご飯を食べているのに自分が食事を終えてしまうというのは、なんとなく気が引けるものである。小学生でもそれは同じ
ダイヤ(それに、私がもし今プリンを食べちゃったら……後でみんながプリンを食べるのを、遠巻きに眺めることになるのよね?それはちょっぴり、寂しいような……)
大好きなプリンだって、みんなと食べれば百倍おいしい
ダイヤ(どうしよう……)
楽しみなことは出来るだけ後にとっておきたい。黒澤ダイヤはそういうタイプである ダイヤ「……」
キョロキョロ
少しの間みんなのことを待っておこうと決めたダイヤは、暇を持て余して周囲を仰いだ
ダイヤ(誰か話し相手とかは……)
果南「ふぃ〜……ごちそうさまでした!」
どこのクラスにも給食を食べるのが早い奴が、必ず一人はいるものである。そいつの目の前で給食を食べれていたことが、彼女の何よりの幸運だったのかもしれない
果南「あれ?ダイヤ、珍しく早くない?」
ダイヤ「果南さん……」 ダイヤ「果南さんは……果南さんはもうデザートまで食べてしまったのですね」
果南「ん、まあね」
他人の目なんて気にしない。松浦果南はそういうタイプである
ダイヤ(果南さんはもう食べてしまったのね………じゃあ)
ダイヤ(じゃあ私も食べていいわよね?今食べたら、果南さんと少しお話しながら、きっとおいしくいただけますし)
ダイヤ(うふふっ♪それに余った時間は果南さんとお話して……そしたら、きっと最高の給食が
果南「あ、ダイヤもしかしてお腹いっぱいだった?じゃあ私がプリン、代わりに食べてあげるね!」
ダイヤ「へ!?」
果南「あ〜むっ!」
ダイヤ「あっ……」
パクッ!
果南「ん〜!うまぁ〜♡♡」
ダイヤ「………」
ダンッ!!
ダイヤ「もうっ!!果南さんのばかぁ!!!」 終わりです。代行&ここまでお読み下さりありがとうございました 果南ちゃんさぁ……
お詫びにプリン作ってくる話が読みたくなりましたね……おつです! かわいそうなのは抜けない!かわいそうなのは抜けない! 給食スレ見ててこういうSS読みたかったのでとても助かりました。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています