穂乃果「プレマ・ジバナ I 」
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「──見なさい、」
「アレが、アイドル戦国時代を象徴する、正に私達の偶像よ。」
少し長めのトレンチコートを羽織り、髪型に釣り合わないサングラスを掛けた小柄な女性が、
そう私に宣っていたらしい事を、後になって本人から教えられた。
しかし、その時私のトピックスは、
UTXの窓ガラスに付いた鼻水のことで持ちきりだったので、彼女のハスキーボイスが一番の雑音だった事しか覚えていない 「凛ちゃん凄いよ!ミュータントガールズがまた偶像に挑むんだって!」
「馬鹿だね〜。先代のリーダーが屋上で磔刑にされたのをまだ妬んでるなんて、愚かだにゃ」
……拭かなければ、一刻も早く
しかし、コンビニに売っている雑巾は3枚入りで¥250くらい、
でも、あの鼻水を拭くためだけに態々自腹を切るだなんて、それこそバカげている。 「A-RISE……今、この世に現存する全てのスクールアイドルの敵であり、象徴でもあるのよ」
「見て見て!アレ、去年の頂上決戦だよ!」
「にゃ〜」
「開始96分のところでね?ミュータントガールズが白燐弾なんて使ったもんだから、人道に反してるって審問会に掛けられちゃったんだって!」
「人殺しに人道も何もないのにねぇ、おかしな話だよ」 ……うるっさいなぁ、
あのトレンチコートの変態と、頭に旭日旗を巻いてる右曲りのせいで上手く考えがまとまらない。
アイドルの話なんてどっか他所でしてくれないかなぁ、私はいま鼻水の事で頭がいっぱいなのにさぁ 「──先ず、リーダーの綺羅ツバサ。」
「奴の本体の約76%は既にこの世には無く、多元宇宙との同化を果たしている」
「次に、サブリーダーの統堂英玲奈。」
「グループ内で実質的な命令系統を司っているのは間違いなく奴よ。」
「最後に、補佐の優木あんじゅ。」
「影の執行者でもあり、これまで数多のアイドル達を血塗られた十字架に吊し上げて来た張本人ね」
「あ、街宣車だ。ちょっと行ってくるね?」
「……そんなかよちんも好きだよ。」 たかが鼻水を拭くためだけに¥250?あり得ない。そんな愚行を私の財布は許さない
でも、このまま放置すれば、あの鼻水は乾燥して必ず跡を残す。
私があそこで、睨めつける様に中を覗き込んだ証拠も
……如何したものか、
あっ 「はむっ」
この一口で
「はむっ」
この一口だけで
「はむっ」
逝ってしまうのだろう 「はーむっ」
だけど、きっと
「もむもむっ♪」
きっとまた、やり直せるから
「……ふぅ。」
まだ進めずとも
貴方なら、大丈夫だから 「もう一個たーべよ♪」
どうか、諦めないで
例えそれが、全てに背く事だとしても
「あーむっ」
私は、忘れない
有りし日の、貴方の姿を。 高坂さんは言いました。
「ファイトファイトって、現実問題で予算が足りてないんだよ!そりゃファイトにも限りはあるよ!」
「なぁーんで分かってくれないかなぁーっ!!」 南さんは言いました。
「実行予算なんか立ててないで早くこの婚姻届にサインしてよっ!!留学するよ!?」
「いいのっ!!?また空港行くからねっ!!?」 園田さんは言いました。
「分かりました。花嫁修行は無しにします。それと、日曜は9時まで寝てて良いです。だから早く園田家に入りなさい」
「おっと、市役所はまだ開いていませんか。」 第三話【私を誘いたいのならば、先ずアヒルボートを持って来なさい】 「……この窓から見える風景も、いつかきっと自然に還る時が来るんだろうね」
そう呟く彼女を尻目に、
星空さんは校内掲示板で爪を研ぎ始めた。
「知ってる?私達が一つ上の次元に行く時、もう一つの自分に気付けるってこと」
左手の小指が、若干だが巻き爪になってる
少しサボるとすぐコレだ。
「──ううん、気付かされるの。」
春の校内戦争の記事を眺めながら、
星空さんはため息混じりにボヤいた。 「おかしな話だよね。ここに居る私こそ、唯一の存在だと確信していた筈なのに」
「その実、観測者たちによって作られた模造品の一つでしかなかっただなんてさ」
いや、待てよ。
確か二日前にも研いだはず、なのにまるで、一週間は放置したかの様な伸び具合だ。
「だとしたら、今のこの私に宿っている精神はなに?コレも模造品?他の私とやらも同じ事を考えて、そしてこの思考に陥ってるの?」 ……まぁいい。どうせまた全部切るんだ
考えたって仕様がない
「滑稽だよ。コレこそまさに、人生の浪費だね。」
「今の私達の生を、人生と呼べるのならば。と言う前提でだけども」
星空さんは物事を深く考えない。
だって、それは精神衛生上あまり宜しくない事だから 「……ほら、彼女たちを見てよ。」
「今の話が覆されない限り、彼女たちの生もまた、無為で滑稽なものにしか映らなくなる」
「創造主は、その生み出した物に対する責任を持つべきなんだ。そして、蔑ろにした報いをこれから私たちが──」
そんな彼女を尻目に、
教室を後にした星空さんは呟いた。
「あの人、誰だっけ?」 園田さんのブレーンバスターで、屋上の金網と一体化してしまった矢澤先輩。
それを気の毒に思った東條先輩は、神田明神の祭神に矢澤先輩の鎮魂を願い出るが、
そもそも今日は定休日だと断られてしまう。
エリーチカ先輩はと言うと、
相も変わらずボルシチに鳩サブレを入れた犯人を探して、今も校内中を金色夜叉の形相で彷徨っている。
今日も今日とて、三年生達は慌ただしい
それはまるで、この日々の終わりを
暗に示しているかの様でもあった
──卒業間近の、たわい無い日常である。 全日本うずくまり選手権を目前にしたトッポギ研究部の部員たち。
興奮し切った小泉さんを宥めるために、星空さんは猫型オートマトンに。
西木野さんは【医師会館】と銘打った段ボールハウスを建てた。
これを見た高坂さんが、遂に完全なるファイトを手に入れた!と、これ見よがしに足の裏を晒してくるので、
激昂した南さんがいつもの如く(・8・)を形骸化しようと躍起になり、園田さんがそれを返り討ちにする。
9人の日々、と言う恒常性を失うまいと
必死にもがく下級生達の姿がそこにあった
和やかな時間が、今日も部室に流れていく。 第七話【ペリメニ!ペリメニ!ペリメニ……?ペリメニ!?】 「──あの白小矮星が消えた時、私達はこの地球の光になれるんだよ!」
そう言い残して、高坂さんは次元の狭間へと消えていった。
後に残ったのは、瓦礫の山と化した音ノ木坂学院と、
そして、理事長室に有ったアレだけだった。 「この涙は、一体誰の為のものなんだろうね……」
小泉さんの言葉の、その本当の意味を知っている人は
もはや、この世界の何処にも存在し得ない高坂さんと、
力の使い過ぎでパースだけになってしまった、東條先輩だけだったのである。
私達の未来は、一体どこにあるのだろうか。 第十一話【ブルーレイのブルーってブルーの事だよね?】 「──私、偶像辞めます。」
間取り的に理事長室だった場所を、嘗てない緊張感が埋め尽くす。
そして、音速で繰り出された五体投地と、
それに伴い発生したソニックブームによって、静寂を破った矢澤先輩が宣う。 「すいません!アレが臭すぎます!」
なんの事はない
つまり、みんな想いは同じだったのだ。
このトッポギ研究部を形作っているもの
それは、仲間たちがそれぞれを思い遣る気持ちと、築いてきた友情
そして、
アレに対する変わらない嫌悪感だけだった。 もはや、部室も廊下も
鍋やカセットコンロすらも無くなってしまったが
それでも、私たちはトッポギを愛している
変わらないものが、此処にあるんだ
今ここに、部の結束は深まる。 第十二話【ちょっと!?コレホールトマトじゃないの!私が言ったのはカットトマト!返品して来てっ!!】 「初めての共同作業は貴方と、そう決めていました」
「ほら、最後まで留学しなかったよ?つまりそう言う事なんだよ?わかるよね?ね!?」
「勝ちたい……でも、欲しがります!だって、私はお米が好きだから!」
「また稼働部が軋んでるにゃ。ねぇ、誰か油刺してくれない?」
目眩く季節、その嵐の中で 「いつだってそう。足りないのは、ほんのちょっとの勇気とリコピンなのよ」
「春夏秋冬にこにこにー!矢澤家の経済状況を鑑みて、もう一回にこにこにー!」
「人と人が支え合ってる……?ハラショー!人って字に人が二人も居るのね!」
「#1──希、ボケる。#2──希、真姫に突っ込む。#3──希、結晶化する。」
アイドル達の鎮魂歌は続く。 ──それは、
束の間の微睡みの中に見た
私たちの、本当の楽園なのかも知れない。
東條先輩が持ってきたスピリチュアルカードによって、小泉さんはネオンライトになってしまった
次に、エリーチカ先輩が施した余計な改造のお陰で、星空さんの周囲は空間異常を起こし、もはや彼女は、過去にも現在にも存在しなくなった
矢澤先輩はと言うと、高坂さんが次元の間に消えた日から、ずっと発狂し続けている園田さんと南さんの為に創生の歌を創った。 ……しかし、彼女らは知らない。
エリーチカ先輩へ設計図を渡したのが、
他ならぬ、星空さん本人であったと言う事
普段は、素知らぬ顔で物事を見送る彼女の
ソレが最も、精神衛生上悪しき事だったと
日課の爪研ぎすらも後回しに
一人、高位次元へと向かった彼女
──その願いとは、
我らがリーダー、高坂さんの救出だった。 「みんな!願いが足りひんよっ!!」
「もっと祈って!!」
ネオンライトとなった小泉さんによって、
文字通りその存在を明るみにした東條先輩。
大アルカナ総出演による、高位次元の彼方から星空さんと高坂さんを呼び戻す為の一大儀式が、今ここに行われている。 「えりち!!余計な事願わんでっ!!一歩間違えればあの二人じゃなく、向こうの旧神たちを呼び込む事になるんやでっ!?」
「もしそうなれば、地球は終わりやっ!!」
幾億にも重なる旧神たちの呼び声を掻き分けて、嘗ての友の手を探る東條先輩
──しかし、その手は不意に阻まれた。 「!?」
「ま、不味い!!捕まった!!」
原因は分かっている。
矢澤先輩が今日の夕飯の献立を決めあぐねて、あろう事か神にその判断を委ねてしまったからだ
今ここに、混沌の坩堝が拡がり始めている。
盟友たちの伸ばす手は、未だ星の瞬く程に遠く離れていると言うのに…… OAD版【ミミズの約80%はタンパク質。同量の牛肉を食べるよりずっとお得よ、覚えておきなさい】 〜夜空に光る九つの星屑たち〜
東條先輩たちの必死の呼びかけにより、
見事、高位次元からの生還を果たした、我らが高坂さんと星空さん
しかし、彼女らの存在の軌跡を辿って
旧支配者たちもまた、現世へと顕現してしまったのである。
蠢くそれらは、やがてこの世界を構成する凡ゆる物との対消滅を繰り返し、今や時を創れない空間が拡がり始めた。
一方、高坂さんが戻った事により正気を取り戻した園田さんと南さんによる、朱の合わせ技"最終小夜啼鳥愛矢射撃" これに、以前矢澤先輩が彼女らの為に創った創生の歌を乗せて放たれた、部内最強の一撃
だが、この一撃ですら旧支配者たちへ届く事は無かった。
エリーチカ先輩は割竹で竹刀を作り始め、矢澤先輩はそろばんを分解して投げ付けた。
小泉さんは旧支配者たちを封じ込めようと、炊飯器を開けて謎の文言を叫んだ
西木野さんは医師免許が無いと言う事で、カウンターショックの使用を諦めた 旧支配者たちの浸食は留まることを知らず、人が認識出来る領域が、刻一刻と狭まる中
ここに来て、永らく高位次元に居た影響のお陰か、顔が若干デフォルメされた高坂さんと星空さんの、無駄とも思えるか細い抵抗が繰り出されたのだが
その、デフォルメされた部分での、極々小さな攻撃のみが
しかして、旧支配者たちを大いに苦しめた
それは、
憔悴仕切った部員たちに一縷の希望を抱かせた。 矢澤先輩がそろばんの玉をトスして、エリーチカ先輩がそれを竹刀で旧支配者たちに打ち込む
小泉さんが炊飯器を旧支配者たちに投げ付け、剥き出しのコンセントに西木野さんが電流を流した
高坂さんと星空さんはとても頭がモフモフしていたし、
園田さんのコスモは激しく爆発し、南さんの拳も真っ赤に燃えた。 だが、やはり大勢は揺るがし難く
つまり、頭突きのし過ぎで、二人の顔の綿が左右に寄れ始めてしまっているのだ
デフォルメされた顔が更にデフォルメされて行く二人を尻目に
東條先輩だけが、この悪夢に対抗でき得る唯一の術を忍ばせていた。
──それは、彼女が持つ最後のスピリチュアルカード。 そのカードを使えば、絶望的なこの状況を打開出来る幾ばくかの可能性はある
しかし、それは同時にメンバー全員との今生の別れを意味していた
つまり【生まれ直す】と言う事なのだ
己が存在を生まれ直してしまえば、
旧支配者たちの現世に留まれる拠りは無くなる
高坂さんと星空さんが残して来た、存在の軌跡が消えるからだ
……でも、 「でも、ウチはまだ……みんなと一緒に居たかった……」
希「……居たかったよ。」
「のぞみ」
希「え?」
絵里「私は、信じてるわよ」
絵里「……私達はまた、出逢えるってね。」 「てゆーか!」
にこ「この銀河ナンバーワンアイドルのにこにーが、一回生まれ変わったところで忘れられるワケないじゃないの」
希「……」
にこ「……だから、信じなさい。」
「そうだよ、希ちゃん」
花陽「私達がこうして出逢えたのは、きっと偶然なんかじゃなくって、必然なんだって」
花陽「だからね?私達は何回だって出逢えるんだよ」 希「──ッ」
「アナタ、やっぱり寂しがり屋ね」
真姫「でも、寂しがり屋の私達はこうして繋がる事が出来た」
真姫「だから、もう少し信じなさい。いつだって一緒に歩いて来たんだから」
真姫「……こんな事言うの、ホントは柄じゃないんだけどっ///」
希「……うんっ、うんっ」 「しょうがないですね。」
海未「私たちは、穂乃果との赤い糸を手繰って必ず出逢って見せます。」
海未「なので、私たちの何方かを見付ければ、またみんな揃いますよ」
「それにねぇ〜?」
ことり「この糸はぁ、どうやったって切れない物で出来てるんだよぉ?」
ことり「だからねぇ、目一杯引っ張って、すぐに逢いにきてね♪」
希「ありがとう……ありがとうっ、」 「凛ね、高位次元に行って分かったんだ」
凛「物質の最小単位が、そのまま凛たちの存在理由なんだって」
凛「つまり、この世の全ての物に、全てが宿ってるんだよ」
凛「それってさ?この星にいる限り、いつでも何処でもみんな一緒だって、」
凛「そう言う事になるんじゃないかな?」
希「うぅ……っ」 「希ちゃん。」
穂乃果「……それに、みんな。」
穂乃果「私たちにはきっと、きっとまた明日の先があるから」
穂乃果「だから、これまでの……これからの願い全てを込めて、私はこう言うよ」
穂乃果「……また、明日ね。」
希「〜っ」 希「……私は、このカードを使う。」
希「みんなとの……全ての出逢いを、最初から無かったことにするんだ」
希「これまでの思い出も、楽しかった毎日も……全部、」
希「……」
希「──でも、」
「それでもみんなを、愛してるよ。」 WEB版【みんなさ、A-RISEって覚えてる?覚えてるよね?……お願いだから覚えてるって言ってっ。】 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています