【SS】歩夢 「開花宣言❁嶺上開花」
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「…ポン!」 「チー…!」
──勝負の世界に魅せられた、少女がいた。
これは、“麻雀”の世界で長く語り継がれることとなった、伝説の女子高生雀士の物語である。 【作中での麻雀関連の表記について】
萬子(マンズ)一二三四五六七八九
索子(ソーズ)123456789
筒子(ピンズ)❶❷❸❹❺❻❼❽❾
字牌(字牌)東南西北白發中
※手牌は基本的に萬子→索子→筒子→字牌→自摸牌の順
例a
一二三九九12233❶❷❸ ツモ:1
平和・自摸・純全帯幺・三色同順・一盃口
【倍満】4000-8000
例b
南二局 0本場 ドラ:❹
高咲侑(西家)配牌
三223467789❶南西中 ツモ:6
侑 (混一色も清一色も狙える手…風牌の種もあるし、欲張っていこう)打:❶
【ルールについて】
特筆してない限り、対局ルールは25000点貸し、30000点返しのウマなし、アリアリとなります。
半荘戦。赤ドラは無しです。 【プロローグ】
歩夢 「侑ちゃーん、そろそろ行かないと授業間に合わないよ?」
玄関扉の前で、インターフォンを鳴らしながら名前を呼ぶ。だが侑は一向に出てくる様子がない。
扉を揺らして気付いてもらおうとドアノブに手をかけると、そのまま開いてしまった。思わず体がよろける。
歩夢 「不用心だなぁ、もう」
歩夢 「お邪魔しまーす。侑ちゃん、起きてる?」
侑はパソコンの前にいた。前のめりになりながら、真剣な表情でマウスを鳴らす。よっぽど集中しているようだ。 侑 「ぬぁーー!!! ダメかぁ!!」
歩夢 「うわぁ!?」
侑 「あれっ、歩夢。いつの間に?」
歩夢 「ずっと呼んでたよ。ピンポンだって鳴らしてたんだから」
侑 「本当に? っていうか今何時…………ヴェァッ!?」
歩夢 「ほら急いで、授業始まっちゃうよ!」
侑 「もっと早く言ってよ〜!」
洗面所へと駆け出す侑。歩夢はやれやれとため息をつき、ふとパソコンの画面に目をやる。
歩夢 「これって……麻雀?」
ーーーーーー
ーーーー
ーー 侑 「本当に凄かったんだから! せつ菜ちゃんの対局!」
登校に使うバスの中。他の乗客などお構い無しの大声で、興奮を隠しきれない侑。
歩夢 「せつ菜ちゃん……プロの人?」
侑 「ううん。でもプロ並に強いと思うよ! 私たちと同い年で、しかも同じ学校!」
歩夢 「ってことは部活かぁ。麻雀部なんてうちの学校にあったんだね」
侑 「部じゃなくて同好会だけどね。もうカッコよくてさぁ。牌(ハイ)をツモるとき、炎が腕にぶわぁぁぁって!」
歩夢 「なにそれ…」
侑 「無いはずの炎が見えるってこと! それくらい熱いんだよ、せつ菜ちゃんの麻雀は!」 歩夢 「それで侑ちゃんも、麻雀を始めようと?」
侑 「早くせつ菜さんと打ちたくて、一晩かけて覚えたんだ!」
歩夢 「す、すごい熱量…」
侑 「せつ菜ちゃんぐらい強くなれるのは、まだまだ先だと思うけどね。昨晩の配信でも圧勝だったもんなぁ!」
侑 「ねぇ、歩夢もやろうよ麻雀!」
歩夢 「……私、麻雀はちょっと」
侑 「えー! 私が何かやろうって言ったら、いつもすぐに『うん』って言ってくれてたじゃん!」
歩夢 「えっと…ほら! 難しそうだし」 侑 「私もそんなイメージだったけど、そんなことないよ。今日同好会に行くつもりだから、一緒に来て見ててよ」
歩夢 「えぇっ!? 私も?」
侑 「うん、一人で行くのは心細いしさ。歩夢が一緒なら安心だし」
歩夢 「……ずるいなぁ、もう」
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ーー 【第1話】『可愛くて、強い』
〜放課後 麻雀同好会 部室〜
侑 「こんにちはー!!!!」
かすみ 「うぁぁっ!!?」
部室の扉を勢いよく開け、侑は今日一番の大声で挨拶をする。中にいた一人の少女が、手に持っていた布巾を驚きのあまり落とす。
歩夢 「ご、ごめんください。侑ちゃん、急に大きな声出したらビックリしちゃうよ」
侑 「ごめんごめん…つい」
かすみ 「えっと、何の用ですか? そのリボンの色、2年生ですよね」
侑 「うん。私、せつ菜ちゃんと麻雀が打ちたくて」
かすみ 「せつ菜先輩と…ですか」 少女の眉がピクっと動く。拾い上げた布巾で全自動卓に並べられた牌を拭きながら、言葉を続ける。
かすみ 「残念ですけど、せつ菜先輩とは打てませんよ」
侑 「えぇっ、どうして?」
かすみ 「せつ菜先輩は大会とか配信とか、そういう公式の場でしか基本的に麻雀を打たないんです」
かすみ 「かすみん含め同好会の部員ですら、せつ菜先輩と対局したことは一回も無いんです」
歩夢 「そうなんだ…。残念だったね、侑ちゃん」
侑 「…どうすれば、打たせてもらえるかな?」
かすみ 「さぁ…。これはかすみんの想像ですけど、相当な雀力(じゃんりょく)があることを証明出来れば、もしかしたら?」 侑 「本当!? どうしたらいい? 私、なんでもやるよ!」
歩夢 「ちょ、ちょっと侑ちゃん! 本気?」
侑 「もちろん! だってほとんどラフプレーで打たないのに、あんなに強いんだよ? ますます興味が湧いてきちゃった!」
かすみ 「乗り気ですね、先輩。分かりました、せつ菜先輩には、かすみんから話しておきます」
侑 「ありがとう! えっと…かすみん、ちゃん?」
かすみ 「おっと、かすみんってば挨拶がまだでしたね。高等部一年、中須かすみです」 侑 「二年の高咲侑です、よろしくね」
歩夢 「えっと、同じクラスの上原歩夢です」
かすみ 「侑先輩と歩夢先輩ですね。それじゃあ、早速やりましょうか!」
歩夢 「えっ、やるって何を?」
かすみ 「何って、麻雀に決まってるじゃないですか! 今回は三麻※でやりましょう」
※三麻(サンマ)・・・麻雀は基本4人で遊ぶゲームだが、三人で打つ三麻というルールもある。
かすみ 「先輩方の雀力を確認するために、まずは同好会の部員と戦ってもらいます」 侑 「部員は何人いるの?」
かすみ 「かすみんと部長のせつ菜先輩、あと三人います。せつ菜先輩以外の四人を倒せば、せつ菜先輩ももしかしたら対局してくれるかもですね」
侑 「本当に!? よーし、頑張るぞー!」
かすみ 「さぁさぁ、おふたりとも、好きな場所に座ってください!」
歩夢 「ちょ、ちょっと待って!」
かすみ 「ほぇ?」
侑 「ごめんね。歩夢、ルールをまだ知らないんだ」
かすみ 「そうなんですか? 仕方ないですねぇ、じゃあかすみんがルールを教えながら打ってあげますよ〜!」 歩夢 「いや、別に私は麻雀をやりたい訳じゃ」
かすみ 「そんなこと言わずに〜! ほらほら、かすみんの後ろに来てください!」
歩夢 「えぇ〜……」
かすみ 「という訳で、今回はアプリを使って対局しましょう。残りの二人はコンピューターでいいですか?」
侑 「もちろん。よろしくね、かすみちゃん」
歩夢 「私抜きで話が進んでいく…」 《対局開始》
東家:かすみ 南家:COM 西家:侑 北家:COM
東一局、かすみの親。ドラは❻
かすみ 配牌(ハイパイ)
三九347❶❶❷❺東東南中 ツモ:❼
かすみ (ムフフ…いきなり東の対子(トイツ)。これが鳴ければダブ東で二飜(ハン))
かすみ (同好会メンバーとしての威厳を見せるには十分な配牌ですね)
かすみ 「いいですか、歩夢先輩。麻雀は四つの面子(メンツ)と、一つの雀頭(じゃんとう)を集めるゲームです」 かすみ 「面子とは主にこんな感じです」
〇順子(シュンツ)・・・同じ種類の数牌を、連続する三つの数字で揃える
例)七八九、456、❶❷❸・・・〇
四❺六、❽❾❶・・・×
〇刻子(コーツ)・・・同じ牌を三つ集める
例)七七七、❷❷❷、東東東・・・〇
❸3❸・・・×
かすみ 「この面子を四つ集めて、あとは雀頭を揃えます。雀頭は同じ牌ふたつペアのことです」
かすみ 「つまり…」
侑 「……えいっ!」 打:9
かすみ 「それです! ロン!」 侑→かすみ ロン
34578❶❶❺❻❼東東東 ロン:9
ダブ東・ドラ1 / 7700
かすみ : 32700(+7700)
COMa : 25000
侑 : 17300(-7700)
COMb : 25000
かすみ 「今のかすみんの手は」
面子・・・345、❺❻❼、東東東
雀頭・・・❶❶
残り・・・78
かすみ 「でした。つまり、あと面子がひとつ出来上がれば“アガり”というわけです」 歩夢 「じゃあ今のは、6か9が来ればよかったんだね」
かすみ 「その通りです! 揃えばなんでもいい訳じゃなくて、役が必要だったりするんですけど…」
かすみ 「まぁそれは、やっていくうちに自然と覚えますよ!」
侑 (あっ、説明めんどくさくなったな)
かすみ 「親はアガると次も親になれます! 誰かにアガられると、右隣の人が親になります。これが二週したらゲーム終了です」
歩夢 「うん、大体わかったよ」 ……数十分後。
東三局一本場、侑の親。ドラは❽
かすみ : 35600
COMa : 22400
侑 : 20300
COMb : 21700
10巡目──。
侑 「リーチ!」 打:二
かすみ 「来ましたね先輩。……おっ」
かすみ 手牌
三四五六345❷❸❹❺❻❼ ツモ:❷ かすみ (手替わりを待って正解でしたね。345の三色。しかも三面待ちですよ〜)
かすみ 「リーチですっ!」 打:六
歩夢 「あっ、それは…」
かすみ 「えっ?」
侑 「来た! ロン!」
かすみ→侑 ロン
四五234❷❸❹❺❻❼❽❽ ロン:六
リーチ・一発・タンヤオ・ピンフ・ドラ2
侑 「裏ドラは…おっと、二つも乗ったよ!」
裏裏 / 倍満 24000は24300
かすみ 「ぎょええぇぇぇ!!!」 かすみ : 11300(-24300)
COMa : 22400
侑 : 44600(+24300)
COMb : 21700
侑 「七→二って切ってるんだから、三 六は超危険牌だよ、かすみちゃん」
かすみ 「わ、分かってます! 教えるのに夢中で、ちょっと見てなかっただけですから!」
侑 「じゃあ私が教えるよ。勝負に支障が出たらまずいからさ」
かすみ 「いいんです! かすみんの方が麻雀強いんですから、かすみんが教えてあげるんです!」
侑 「そ、そっか……。頼もしいね…」 …………更に数十分後。
《対局終了》
かすみ : -3600(トビ)
COMa : 15300
侑 : 73200(勝)
COMb : 15100
かすみ 「か、かすみん……が……トビ……」
プシューという音と共に、かすみの頭から煙が出ている…ように見えた。ふたりには。
侑 「そ、そんなに落ち込まないで! 次はほら、教えながらじゃなくて、ちゃんと一対一で…!」
かすみ 「いいんです……負けは負けですから……」 侑 (律儀なんだなぁ…かすみちゃん)
歩夢 「でもありがとう! かすみちゃんのお陰で、何となくルールも分かったよ!」
かすみ 「本当ですか!? と、当然です。同好会歴では、かすみんの方が先輩ですから!」
歩夢 「そ、そうだね! ありがとう、かすみちゃん」
心の中でグッジョブと歩夢にサインを送る侑。どうやらかすみの機嫌は良くなったようだ。
かすみ 「これだけの実力があれば、しず子にも勝てると思いますよ」
侑 「しず子? 他の部員の子?」
かすみ 「はい。かすみんと同じ学年です。いつもは演劇部で活動してますけど、水曜日なら稽古が休みみたいです」 歩夢 「水曜日だと…明後日だね」
侑 「ありがとう。じゃあ明後日、しず子ちゃんのいる教室に行ってみよ!」
かすみ 「じゃあ水曜日、かすみんはここで待ってますね。歩夢先輩、明後日までにルールを覚えてくださいね」
歩夢 「わ、私も!?」
かすみ 「そうですよ。だってかすみんとしず子、侑先輩だけだと一人足りないじゃないですか」
侑 「たしかに。二対二の方が、真剣勝負感出るもんね。じゃあ歩夢、帰って特訓だ!」
侑は歩夢の腕を掴み、部室から駆け出す。 歩夢 「ちょ、ちょっと待ってよ〜!」
侑 「二日しかないんだもん。ルールは勿論、私ももっと強くならなきゃ!」
歩夢 「待って……! 侑ちゃん、止まって!」
侑 「歩夢……?」
廊下の途中で止まり、歩夢の腕を放す。歩夢の息はあがっていた。夢中になると周りを振り回してしまうのは自分の悪い癖だ、と侑は軽く「ごめん」と歩夢に言う。
歩夢 「……私、麻雀は…」
侑 「…嫌、なの?」
歩夢 「だって……だって……」 歩夢は両手で頭を抱え込んでしまう。侑はその手を、優しく包み込む。
侑 「…お願い。私どうしても、せつ菜ちゃんと麻雀が打ちたいんだ」
歩夢 「侑ちゃん…」
侑 「少しだけ、私の夢に付き合ってよ。ワガママ言ってるのは分かってる。でも、お願い」
侑の真剣な眼差しを目の前にして、歩夢は思う。侑はこうなったら、多分誰が止めても聞かない。それほど自分の気持ちに正直なのを、誰よりも知っているのは歩夢自身だった。
だから── 歩夢 「……うん、分かった。頑張るね、私」
そう答えるしか、なかった。
再び強く、今度は手を繋がれて帰路につく。
侑ちゃんの為に、今は私が出来るサポートをしよう。そう決心して、歩夢は侑の手を強く握り返すのであった。
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ーー 【次回予告】
かすみ 「ねぇ、しず子。>>〇〇で侑先輩が」
侑 『七→二って切ってるんだから、三 六は超危険牌だよ、かすみちゃん』
かすみ 「って言ってたんだけど、これってどういう意味?」
しずく 「分かってなかったんだ、かすみさん…」
かすみ 「いいから、教えてよ〜!」
しずく 「これは“間4軒”っていう、リーチ読みの基本だよ」
かすみ 「アイダヨンケン……?」 >>34
ミスです
訂正)
かすみ 「ねぇ、しず子。>>25 で侑先輩が」 しずく 「例えば…」
捨牌(ステハイ)に
❶ ❻がある→❷ ❺が危険
4 9がある→5 8が危険
しずく 「という風に、間に挟まれた4つの数字の両端が危険になりやすいっていうメカニズムのこと」
かすみ 「どうしてそれが危険になるの?」
しずく 「そうだね、侑先輩の手牌を見てみようか」
6巡目 侑 手牌
二四五七1234❸❹❺❻❽ ツモ:❼
しずく 「これだと、何が要らない?」 かすみ 「うーん…頭待ちになった時に1234が使いやすいから、七が一番要らない?」
しずく 「そうだね。じゃあ侑先輩がリーチした時」
10巡目 侑 手牌
二四五234❷❸❹❺❻❼❽ ツモ:❽
かすみ 「234の三色もあるけど…。ドラも2つあって打点は十分だから、二を捨てて両面待ち!」
しずく 「ここは人によって別れるけど、侑先輩も同じ判断をしたね」
かすみ 「あー! 七→二の順で捨てられてる!」 しずく 「そう。カンチャン待ちから両面待ちに変えようとすると、必然とこうなるんだよ」
かすみ 「これが…間4軒!」
しずく 「次からは気をつけるんだよ、かすみちゃん」
かすみ 「もっと早く教えてよ〜! うぇ〜ん…」
しずく 「はいはい、ごめんね。よしよし」
次回 『あなたを演じた、その先に』
しずく 「さぁ、次回は私が登場ですよ! みなさん、楽しみにしててくださいね」 基本毎日1話ずつ更新していきます
連投規制のため、投下が遅くなってしまい申し訳ありません。次回から対局場面がより濃くなりますので、お楽しみに。それでは! 咲ちょっと読んでたけど麻雀のルールは一つもわからなかったんだよな
ちょっとトランプみたい >>43
大まかなルールくらいならやってみると簡単だよ。今は無料アプリとかもあるし 【第2話】『あなたを演じた、その先に』
〜かすみとの対局から、二日後〜
侑 「しず子ちゃ〜ん! いるー!?」
しずく 「ブフゥッ!?」
国際交流学科、一年生の教室。突然の上級生の訪問に、一年の生徒たちは驚きを隠せない。そんな反応をものともせず、侑は探し人の名前を呼び続ける。
あまりに大きすぎる侑の声に、何やら本を読んでいた少女が、口に含んだばかりのお茶を盛大に吹き出した。
歩夢 「だから侑ちゃん、そんな大声出したらみんなびっくりするって!」 侑 「ごめんごめん。あっ、もしかして、君がしず子ちゃん?」
しずく 「…あなた方ですね。かすみさんの言っていた先輩方って」
侑 「そうだよ。今日しず子ちゃんの予定が空いてるって聞いたから、対局したくって」
しずく 「…分かりました。あと、私の名前は桜坂“しずく”です」
歩夢 「しずく? しず子ちゃんじゃなくて?」
しずく 「そっ…それは、かすみさんが勝手に呼んでる名前といいますか。みなさんの前でその名前で呼ばれるのは、少し恥ずかしくて…」 侑 「そうだったんだ、ごめんね。かすみちゃんがしず子しず子って言うからてっきりそれが本名かと」
しずく 「いえ。紹介したのに、ちゃんとした名前を教えないかすみさんが悪いんです。後でみっちりお説教ですね」
しずくは少しご立腹な様子だったが、対局の約束を取り交わし、放課後に麻雀同好会の部室へ足を運ぶことになったのであった。
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ーー 〜放課後 麻雀同好会 部室〜
かすみ 「うぇぇ〜ん……ごめんなさいぃ〜」
侑 「えぇ…」
同好会の部室に入るや否や、かすみの泣き声が聞こえてきた。しずくの前に正座させられ、何やら怒られている様子だ。さしずめ、あだ名の件だろう。
かすみ 「侑先輩っ! 聞いてください、しず子がいじめるんですぅ〜!」
しずく 「いじめとは何ですか、人聞きの悪い! 元はと言えば、かすみさんが私の名前をちゃんと先輩に伝えないのが悪いんでしょう!?」
かすみ 「いへへ…! ほっへひっふぁらないふぇ〜」
(訳:いてて…! ほっぺ引っ張らないでぇ〜) かすみ 「もうしず子! かすみんの可愛ぃほっぺが真っ赤っかになったらどうするの!?」
しずく 「それも可愛くていいんじゃない? アンパン〇ンみたいで」
かすみ 「全然可愛くない!」
しずく 「やれやれ…。あっ、ごめんなさい先輩。対局ですよね、すぐに準備しますから」
そう言ってしずくは、全自動卓に並べてあった牌から東南西北の牌を一枚ずつ取って、手のひらの中で混ぜる。場決め※だ。
※場決め・・・対局前、座る場所を決めること。東南西北の牌を伏せて置き、そこから一枚引いて、書かれていた場所の席に座るのが一般的な決め方である。 しずく 「先輩方からどうぞ、引いてください」
侑 「ありがと。えっと…北だから北家だね」
そう言って侑は卓の奥側…同好会の出入口の扉から一番遠い席に腰掛ける。
他の三人も場決めを終え、いざ対局開始というその時──。同好会の扉が、静かに開かれた。
かすみ 「あれっ、珍しいですね、せつ菜先輩」
侑 「えっ、せつ菜ちゃん!?」
入ってきたのは、優木せつ菜本人だった。憧れの人物を前に、侑の瞳はキラキラと輝く。一瞬、せつ菜は侑と目を合わせたかと思うと、すぐにかすみに視線を移し替え、話しかける。 せつ菜 「かすみさん、この二人がこの間話していた方達ですか?」
かすみ 「そうです! 侑先輩と、歩夢先輩です」
せつ菜 「…はじめまして。部長の優木せつ菜です」
歩夢 「は、はじめまして」
侑 「はじめまして! あのっ、私せつ菜ちゃんの対局を見て大ファンになって、それで麻雀を始めて!!」
せつ菜 「…! ありがとうございます」
侑 「あのっ、サインとか!」
せつ菜 「もちろんいいですよ。ですがそれより、今は対局が先です」
侑 「あっ…そうだった。ごめんね三人とも、興奮しちゃって」 しずく 「いえ、お気になさらず。…そうだ、ルールについてなんですが、今回は二対二というシステム上、点数はお互いのペアの合計点数で勝敗を決めましょう」
歩夢 「つまり私と侑ちゃんペア、しずくちゃんとかすみちゃんペアの対決ってこと?」
しずく 「はい。これなら仲間内でわざと振り込んだりするメリットもほぼ無くなりますから、公平かと思いまして」
侑 「確かにそうだね。でもまぁ私たち、まだわざと振り込んだりできる技量はないけど」
しずく 「それはかす……こちらも同じですよ。さ、始めましょうか」
かすみ 「あれっ、今さりげなく、かすみん馬鹿にされませんでした?」
せつ菜 「今回私は見学させていただきますね。もちろん、口を挟んだりはしませんので」
侑 「はいっ! よろしくお願いします!」 《対局開始》
東家:かすみ 南家:しずく 西家:歩夢 北家:侑
東一局、かすみの親。ドラは❸
7巡目──。
しずく 「リーチです!」 打:三
侑 (ぐっ、早い! まだ二向聴(リャンシャンテン)…ここは降りるしか)
※向聴・・・あと何牌でテンパイになるか、という単位。二向聴の場合、あと二つ欲しい牌が来ればテンパイという意味である。
歩夢 「……カン!」 [中中中中] しずく (リーチが入ったのにカンですか。役牌なので気持ちはわかりますが、いかにも初心者の動きですね)
歩夢 「…ツモ! 嶺上開花(リンシャンカイホウ)」
※嶺上開花・・・カンをした時にツモる牌(嶺上ツモ)がアガり牌だった時に成立する役。
歩夢 「60符3飜は、2000-3900」
歩夢 ツモ
二三四七八九❶❶❺❻ [中中中中] ツモ:❼
自摸・嶺上開花・中 / 2000-3900 しずく (やられた…運が良いですね)
せつ菜 (……なんでしょう、この違和感)
かすみ : 20100(-4900)
しずく : 23000(-2000)計 43100
歩夢 : 33900(+8900)
侑 : 23000(-2000)計56900
東二局、しずくの親。ドラは發
11巡目──。
侑 手牌
四五六56❹❺❻❼❽❽發發 ツモ:發
侑 (よし、ドラの發が暗刻。高目の4が出れば三色で跳満。ここはダマで十分)打:❼ しずく 「……お返しです。カン!」 [中中中中]
しずく 「ツモ、嶺上開花!!」
しずく ツモ
一二三七八九1179 [中中中中] ツモ:8
自摸・嶺上開花・中・チャンタ / 4000オール
侑 「くぅ〜! やられたぁ!!」
せつ菜 (…お二人はまだ気付かないでしょね。しずくさんの強さの秘密。それが分からなければ、勝機はありませんよ)
かすみ : 16100(-4000)
しずく : 35000(+12000)計 51100
歩夢 : 29900(-4000)
侑 : 19000(-4000)計 48900 東二局一本場、しずくの親。ドラは北
侑 配牌
二二二六七12238❷❹東
侑 (形はいいけど、役がつきそうにない。せめて、この東が重なれば…)
4巡目──。
侑 手牌
二二二六七1238❷❹❻東 ツモ:東
侑 (きた! 後はこれさえ鳴ければ!)打:8 歩夢 「……。」 打:東
侑 (絶好のタイミング!!)
侑 「ポン!」 [東東東]
数巡後──。
かすみ (う〜、イマイチですね)打:八
侑 「ロン!」
かすみ→侑 ロン
二二二六七123❻❻ [東東東] ロン:八
東のみ / 1000は1300
かすみ : 14800(-1300)
しずく : 35000 計 49800
歩夢 : 29900
侑 : 20300(+1300)計 50200 東3局、歩夢の親。ドラは3
1巡目──。
侑 手牌
一一三四六2234東北北白 ツモ:❺
侑 (東は先に切っておこう。あわよくば、歩夢が東を鳴いてダブ東だし)打:東
しずく 「ポンです」 [東東東]
侑 (あっちゃー! ごめん、歩夢!) 数巡後──。
一巡目から早くも場風の牌を手に入れたしずくは、鳴きを多用して侑からアガり牌を討ち取る。
侑→しずく ロン
七八❶❶ [❺❻❼] [243] [東東東] ロン:九
東・ドラ1 / 2000
侑 「くぅ、やり返された!」
侑 (……やり返された? こんな感覚、そういえばさっきも…)
かすみ : 14800
しずく : 37000(+2000)計 51800
歩夢 : 29900
侑 : 18300(-2000)計 48200 東4局、侑の親。ドラは❾
侑 配牌
二三八九69❷❸❺南北白發 ツモ:7
侑 (この形なら、ピンフを目指していこう。親だし、まずは連チャンで点を稼ぐ!)打:北
手牌は順調に進んでいき、9巡目──。
侑の手牌
一二三六七八九67❷❸❺❺ ツモ:❶
侑 (よし…テンパイ!)
侑 「リーチ!」 打:九 親のリーチに、他家※はベタオリ。
※他家(ターチャ)・・・自分以外の三人のこと
3巡後──。
侑 「ツモ!!」
侑 ツモ
一二三六七八67❶❷❸❺❺ ツモ:5
リーチ・ピンフ・自摸 / 1300オール
侑 (でも…私がリーチをしてピンフをアガったということは、次局おそらく…)
かすみ : 13500(-1300)
しずく : 35700(-1300)計 49200
歩夢 : 28600(-1300)
侑 : 22200 (+3900)計 50800 東4局一本場、侑の親。ドラは二
僅か5巡目──。
しずく 「リーチ!」 打:一
侑 (やっぱり来た! しずくちゃんの先制リーチ。ここまでは私の読み通り。そしてアガりの形はおそらく)
2巡後──。
しずく 「ツモ!」 しずく ツモ
二三四七八九345❺❻❽❽ ツモ:❼
リーチ・ピンフ・自摸・ドラ1 / 1400-2700
侑 (ピンフ…! やっぱりそうだ!)
かすみ : 12100(-1400)
しずく : 41200(+5500)計 53300
歩夢 : 27200(-1400)
侑 : 19500(-2700)計 46700
侑は、東一局からの全員のアガり形を思い出す。そしてそこから、しずくの強さの秘密、“アガりの法則”を見つけ出す。
歩夢の嶺上開花 → しずくも嶺上開花 + チャンタ
侑の東のみ → しずくも東 + ドラ1
侑のリーピン → しずくもリーピン + ドラ1 侑 (やっぱり…)
侑 「ねぇ、しずくちゃん。しずくちゃんはさっきから、他の人がアガった役に、何か一つ足した形でアガってるよね?」
せつ菜 (ほう…)
しずく 「ふふっ、凄いですね先輩。東場が終わるまでに気付いたのは、先輩が二人目ですよ」
侑 「わざとそうしてるの? もしかして、私たちを試すために?」
しずく 「試すなんて、とんでもない!」
点棒をしまい終えたしずくは、全自動卓に牌を落としながら、自分の身の上を語り出した。
しずく 「…これは、与えられた“能力”なんです」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
つづく 【次回予告】
かすみ 「ねぇしず子。>>63 で侑先輩が」
侑 (東は先に切っておこう。)
かすみ 「って言ってたけど、なんで役になる可能性のある東を先に切ったの?」
しずく 「じゃあ例をあげながら説明しようか」
東三局、かすみは西家
持っている字牌(東東南白中)
しずく 「今回は、数牌は省略するね。かすみさん、もし字牌を切るとしたら、この中からどれを切る?」 かすみ 「東は対子で、あと一枚で役になるから、絶対切らない。白 中は役になるけど、南は持ってても意味が無いから、南を切るかなぁ」
しずく 「そうだね。大体字牌を切る順番はこうなるね」
重なってる字牌 → 役になる字牌 → 役ナシの字牌
かすみ 「これはかすみんでも分かります!」
しずく 「でも、こうならない時もあるんだ。例えば、相手に鳴かれたくない時」
かすみ 「相手の字牌が重なる前に、切っちゃうってこと?」 しずく 「そういうこと。だから侑先輩はあの時、さっさと東を切ったんだね」
かすみ 「結果的にしず子に鳴かれてましたけど」
しずく 「こればっかりは仕方ないね。プロの対局なんかをみると、安牌の温存や、鳴き対策で字牌をギリギリまで抱える傾向にあるよ」
かすみ 「人それぞれの打ち方があるってことですね」
しずく 「私はかすみさんの素直な打ち方、好きだよ。討ち取りやす…………」
かすみ 「今なんて言おうとしました!?」
次回『演じる、故の縛り』 あけましておめでとうございます
今日も夜から投下しますので、よろしくお願いします 【第3話】『演じる、故の縛り』
侑 「能力?」
しずく 「私が演劇部に所属していることは、ご存知ですか?」
侑 「うん。かすみちゃんから聞いてるよ」
しずく 「役者を志す私にとって、周りの人は全てがお手本であり、そして超えるべき存在なんです」
しずく 「よく観察して、癖とか、動きとか、喋り方を真似て、その人物になりきる。それは役者としての技術を磨くためのものでした」
しずく 「ですが……その生活は役者の技術だけでなく、麻雀の能力も開花させました」
侑 「それが…」 しずく 「はい。『前回相手のアガった役に、何かを足した手役でアガる』という能力です」
歩夢 「そんなことが、本当に?」
しずく 「信じられないかもしれませんが、事実です。…さて、能力も見破られたことですし」
しずくが卓のボタンを押し、牌が上がってくる。
しずく 「続けましょう。南入※です」
※南入(ナンニュウ)・・・南一局に突入すること
侑 「ここからが本番…ってことだね」 南一局、かすみの親。ドラは❷
侑 配牌
一三八八267❶❾東東北白
侑 (能力は見破ったものの、肝心の打開策が思いつかない…)
侑 (アガった手より高くアガられる以上、下手に高い手でアガるのは、むしろ愚策と言える!)
6巡目──。
侑 手牌
一二三八八2367❶❽❾北
侑 (分からない…どうすれば…!) 歩夢 「リーチ!!」 打:八
侑 「…っ、歩夢!」
しずく (侑先輩、悩まれてますね。ですが、悩む必要なんて先輩方にはありませんよ。なぜなら)
しずく 打:❷
歩夢 「えっ…ろ、ロン!」
しずく → 歩夢 ロン
五六七23477❸❹❻❼❽ ロン:❷
リーチ・一発・タンヤオ・ピンフ・ドラ1 / 8000
侑 (やった…!) 歩夢 (…おかしい。しずくちゃんほどの実力者が、リーチに即でドラを切ってくるなんて…)
歩夢 (何か…何かある…!)
かすみ : 12100
しずく : 33200(-8000)計 45300
歩夢 : 35200(+8000)
侑 : 19500 計 54700
南二局、しずくの親。ドラは❺
7巡目──。
侑 手牌
一二三222❶❶❹❹❺❺❼ ツモ:❸ 侑 (❸ ❻待ちのテンパイ! しかもドラドラ!)
侑 「リーチ!」 打:❼
……しかし次巡。
しずく 「リーチです」 打:9
侑 「っ!?」
侑 (何してるんだ私…! さっきアガられたのはリーチ一発タンピンドラ1! てことはこの巡目…!)
侑 ツモ:7
侑 (……ぐぅっ、通ってない牌!)打:7
しずく 「ふふっ、ロン!!」 しずく→侑 ロン
二三四六七八3356❹❺❻ ロン:7
リーチ・一発・タンヤオ・ピンフ・ドラ1
しずく 「裏ドラは……一つ。18000です」
かすみ : 12100
しずく : 52200(+19000)計 64300
歩夢 : 35200
侑 : 500(-19000) 計 35700
侑 「18000…! 親の…跳満……」
侑 (やられた…! わざと歩夢ちゃんのリーチに振り込んだのは、この為!)
侑 (まんまとしてやられた! 点棒が1000点を切った。これじゃあリーチもできない…!) 南2局一本場、しずくの親。ドラは北
侑 配牌
一四八九22❼東南西西發中
侑 (酷い…バラバラだ。前局放銃したから、流れが明らかに途絶えてる)
侑 (ごめん、歩夢……。私のせいで……)
歩夢 「……。」 打:❺
侑 (…歩夢? なに、その眼は)
侑 (まるで、まだ諦めてない…そんな眼) 9巡目 歩夢ツモ番
歩夢 手牌
五五七九345❼❽❾西北 ツモ:2
止まった流れを、再び動かしたのは歩夢だった。ここまで温存してきた西を、切り出す。
歩夢 (…侑ちゃん、お願い!)打:西
侑 「…っ! ポン!」 [西西西]
侑 手牌
四五六八九122❼❾東[西西西]
侑 打:東 さらに次巡──。
歩夢 (これでっ!)打:七
侑 「チー!」
侑 手牌
四五六22❼❾[七八九][西西西]
かすみ 「えいっ…!」 打:❽
侑 「ロン!!」
かすみ → 侑 ロン
四五六22❼❾[七八九][西西西]ロン:❽
西のみ / 1000は1300 侑 (リーチ棒を取り戻した…! でも…)
かすみ : 10800(-1300)
しずく : 52200 計 63000
歩夢 : 35200
侑 : 1800(+1300) 計 37000
侑 (状況は絶望的。それは変わらない)
南三局、歩夢の親。ドラは❹
侑 (後は歩夢と私の親。逆転は可能だけど、マンガンを誰かにツモられればトビ…!)
侑 (どうすれば…どうすれば…!) 歩夢 「………………。」
侑 「……歩夢?」
侑 (何かに気付いて欲しいという眼。私にはわかる。ずっと一緒だったから)
侑 (考えろ、私! 何を伝えたがってる!? 歩夢ちゃんは私に……何を!!)
侑は思考を巡らせる。
しずくの能力は、『前回相手のアガった役に、何かを足した手役でアガる』。
今さっき、自分がアガった役は? 西のみだ。
──つまり次しずくは、西に何か一つ役を足したものでアガってくる。 侑 (……西のみ?)
侑 (今しずくちゃんは、南場の北家。西を集めても役にならないから、アガることは出来ない!)
侑 (確証はない。でも多分……恐らく……)
“この局に限り、しずくは一切アガることが出来なくなっている。”
侑 (そうか…そうだ! そうだよ! ありがとう歩夢。まだ諦めるには早い!)
しずく 「……気付きましたか」
かすみ 「えぇっ、何に? なんか、かすみんだけ置いてけぼりになってませんか?」 12巡目──。
侑 手牌
❶❷❷❷❸❹❹❺❻發發發中 ツモ:❺
侑 「リーチッ!!」打:中
侑 (普段ならこんな重い手、間に合わない!)
侑 (しずくちゃんがアガれない今だからこそできた、この渾身の一手!)
しずく 「…お見事です、侑先輩!」 打:❻
侑 「……!! ロンッ!!!」 しずく → 侑 ロン
❶❷❷❷❸❹❹❺❺❻發發發 ロン:❻
リーチ・發・混一色・一盃口・ドラ2 / 16000
かすみ : 10800
しずく : 36200(-16000)計 47000
歩夢 : 35200
侑 : 17800(+16000) 計 53000
オーラス、侑の親。ドラは❸
……しずくは能力で、先程侑にアガられた手役をコピーしようとする。
しずく 配牌
五八九37❶❷❸❹❹❻發發 しずく (……あまりに、手が重すぎますね)
しずく (手を作らなくてはいけない私に対して、先輩方は一飜でもアガればいい)
侑 「…ポン!」
侑「チー…!」
6巡目 侑 手牌
三四567❽❽[六七八][333]
しずく (……スピードの差は、明白ですね) 数巡後──。
侑 「ツモっ!!」
侑 ツモ
三四567❽❽[333][六七八]ツモ:二
タンヤオのみ 500オール
《対局終了》
かすみ : 10300(-500)
しずく : 35700(-500)計 46000
歩夢 : 34700(-500)
侑 : 19300(+1500) 計 54000(勝)
侑 「〜〜〜〜〜っ!!!!」 歩夢 「はぁ…………」
侑 「勝ったぁぁぁぁぁ!!!!」
パチ…………パチ……
侑 「…? せつ菜ちゃん」
ゆっくりと拍手をしながらせつ菜が歩み寄ってくる。
せつ菜 「見事な連携でした。おふたりにしか出来ない、素晴らしい麻雀です」
侑 「…! ありがとう!」 せつ菜 「ふたりとも、もしよろしければ、麻雀同好会に入りませんか?」
侑 「いいの!? 入る入る!」
歩夢 「えぇっ!? ちょ、ちょっと!」
かすみ 「やりました! 一気に部員が二人も増えましたよ〜」
歩夢 「私、まだ入るとは一言も…」 侑 「いいじゃん、歩夢もやろうよ麻雀! 楽しかったでしょ!?」
歩夢 「それは……その……」
侑 「じゃあ決まり! これからよろしくね、みんな」
歩夢 「あぁ……もう」
しずく 「ではお二人の入部を祝して、歓迎パーティーでもしましょう」
ーーーーーー
ーーーー
ーー 「「「「「カンパーイ!」」」」」
侑 「にしても強かったなぁ、しずくちゃん」
しずく 「いえいえ、そんな…」
かすみ 「かすみんはー? かすみんも強かったですよねー?」
歩夢 「うん、可愛かったよ」
かすみ 「…強かったかどうか聞いてるんですけど。まぁ、ありがとうございます……」
侑 「そういえば、他の部員の子たちは今日休み?」 かすみ 「彼方先輩はバイトです。あとエマ先輩って方がいるんですけど、今一時帰国中なんです」
侑 「そうなんだぁ。いつかその二人とも打ってみたいなぁ」
せつ菜 「お二人とも、ものすごく強いですから、特訓あるのみですね」
侑 「ところで、しずくちゃん達はなんで麻雀を打ち始めたの?」
しずく 「私は役者としての自分を磨くためです。麻雀は、常にプレッシャーや緊張感に置かれるゲームですから、精神力が鍛えられるんです」 かすみ 「かすみんはもちろん、可愛くて強い、そして知的な女の子になるためです! それに、麻雀は昔から好きでしたから」
侑 「そうなんだ。私はもう完全にせつ菜ちゃんの影響。良かったら、せつ菜ちゃんが麻雀を始めた理由も……」
その時、侑の携帯のアラームが鳴った。
侑 「…アラーム? なんのやつだっけ?」
歩夢 「あ…! 侑ちゃん、今日歯医者の日じゃなかった?」
侑 「……あーーー!!! 忘れてた! ごめんみんな、私先に帰るね!」 歩夢 「あぁ、待って侑ちゃん!」
かすみ 「えー! 歩夢先輩も帰っちゃうんですか? せっかくの歓迎パーティーなんですから、主役が二人とも帰るのはナシですよ!」
しずく 「そうですよ。歩夢先輩だけでも、ゆっくりしていってください」
歩夢 「でも…」
侑 「私なら一人で大丈夫だから、歩夢はゆっくりして行きなよ」
そう言って侑は、急いで部室から出ていってしまった。残された歩夢は、渋々とジュースを紙コップに注ぎ足して、一気に飲み干した。 せつ菜 「……ところで、歩夢さん」
せつ菜が突然、歩夢の名前を呼ぶ。それだけなら普通のことだが、表情が先程までとは違う。楽しそうだった笑顔から、真剣な眼差しへと変わっていた。睨みつけている、とも取れるような表情。
歩夢 「な、何かな……」
せつ菜 「どうして先程、初心者のフリをしていたんですか?」
ーーーーーー
ーーーー
ーー 【次回予告】
しずく 「うーん、流石に親っパネをアガった時は勝てたと思ったんだけどなぁ」
かすみ 「親っパネ…あぁ、親の跳満の事ですね。ちゃんと数字で言ってくれないと分かんないよ〜」
しずく 「ごめんね、つい。でもいい機会だから、点数の特殊な言い方を覚えておこうね」
例)
300-500 → 三本五本 500-1000 → ゴットー
2900 → ニッキュー 3900 → ザンク
5800 → ゴッパー 7700 → チッチー
9600 → クンロク 12000 → 親満、マンニセン
18000 → 親っパネ、インパチ
かすみ 「ほぇ〜、色々あるんですね」 しずく 「でも、親満とか親っパネは、相手にとって不親切だから、ちゃんと点数で言おうね」
かすみ 「たしかに。煽られてるように思っちゃいます」
しずく 「逆にクンロクまでのものは、この言い方をした方が分かりやすいから、覚えておいた方がいいよ」
かすみ 「分かりました! ツモ、ゴットー!」
しずく 「うんうん。カッコイイよ、かすみさん」
次回『閉じた蕾、燃ゆる心』 【第4話】『閉じた蕾、燃ゆる心』
歩夢 「ど、どういうこと……かな……?」
せつ菜 「言葉のままの意味ですよ」
いつまでも返答をしない歩夢に、せつ菜は卓上に牌を並べて見せる。
せつ菜 「……この形、覚えていますか?」
二三四七八九❶❶❺❻ [中中中中] ツモ:❼
しずく 「これって確か、一局目で私のリーチに対して歩夢先輩がカンをした時の」 歩夢 「も、もしかして、カンはしない方が良かったかな? リーチも入ってたし。私初心者だから分からなくって…」
せつ菜 「そうではありません。私が気になったのは、アガった直後のことです」
かすみ 「アガった直後? なにか変なことありましたっけ?」
せつ菜 「かすみさん。このアガり、何点になるか分かりますか?」
かすみ 「えぇっ、えっと、中の暗槓が32符。嶺上ツモが……あれれ……」
せつ菜 「和了(アガり)時の符計算。初心者でなくとも、このように時間がかかるものです」 しずく 「私も、たまに自信無い時があります。とくに字牌のカンが入った時とかは…」
せつ菜 「それなのに歩夢さん、あなたは……」
歩夢 『60符3飜は2000-3900です』
せつ菜 「一切迷わず、そう言いました」
歩夢 「…………。」
せつ菜 「おかしいんですよ。麻雀を始めて一週間も経ってないあなたが、この点数を間髪入れずに申告できるなんて」 歩夢 「…頑張って覚えたんです。本当に私、麻雀は数日前に始めたばかりで」
せつ菜 「それだけではありません。西を絶好のタイミングで鳴かせ、その後も的確なアシストで侑さんのアガりのスピードを上げた」
歩夢 「それも偶然で…!」
せつ菜 「偶然かどうかは、すぐに分かります」
そう言ってせつ菜は卓上の牌を真ん中に落とし、ボタンを押す。牌が並べられ、対局の準備が整うと、おもむろに席に腰掛ける。
せつ菜 「もう一戦、お願い出来ますか。歩夢さん」 歩夢 「わ、私と…?」
かすみ 「えぇー!? 公式戦でもないのに、せつ菜先輩が打つんですか?」
せつ菜 「それだけの価値があるということです。歩夢さんは、とんでもないものを秘めている」
かすみとしずくも、卓につく。二人にとっても、フリーの場でせつ菜と同卓するのは初めてのことであった。
歩夢は渋々と、残った席に座る。せつ菜とは向かい合う形だ。 《対局開始》
東家:せつ菜 南家:しずく 西家:歩夢 北家:かすみ
東一局、せつ菜の親。ドラは❷
4巡目──。
せつ菜 「リーチです!」
歩夢 (っ!? はやすぎる、まだ4巡目だよ!?)
親であるせつ菜のリーチに、全員が安牌を連打。
しかし、次巡──。せつ菜のツモ番。
歩夢 「うぁ…っ…熱…っ!?」 歩夢の目前にある山から、牌をツモろうとするせつ菜。その腕には炎が渦巻き、手に取った牌にも輝かしい炎が纏う。
歩夢 (幻覚? いや、でもこの熱さは本物!)
せつ菜 「…ツモ!」
せつ菜 ツモ
三四五六七❷❷❸❹❺❻❼❽ ツモ:五
リーチ・一発・タンヤオ・ピンフ・ツモ・ドラ2 / 6000 オール しずく (これがせつ菜先輩の麻雀。想像を遥かに絶する運、流れ)
かすみ (そしてこの場を支配する熱気。間違いないです、せつ菜先輩、超本気!)
せつ菜 : 43000(+18000)
しずく : 19000(-6000)
歩夢 : 19000(-6000)
かすみ : 19000(-6000) 東一局一本場、せつ菜の親。ドラは北
配牌を見た歩夢は、自分の子どもの頃を思い出していた。父に教えられながら、麻雀を打っていた頃の記憶。
あゆむ 『みてみておとうさん! おんなじのがそろったよ!!』
『歩夢は麻雀が上手いなぁ。そうだ、麻雀はそうやって、同じ牌を集めるゲームだ』
あゆむ 『わたし、まーじゃんだいすき! おとうさん、もういっかいやろ!』
『よーし、お父さんは強いぞ〜?』 歩夢 (…違う、私はもう麻雀なんて)
8巡目──。
せつ菜 「ツモです。4000オールの一本場」
しずく (はやい…っ。私の能力を介入させる隙すらなかった!)
せつ菜 : 55300(+12300)
しずく : 14900(-4100)
歩夢 : 14900(-4100)
かすみ : 14900(-4100) せつ菜 「歩夢さん。私は今、本気です」
歩夢 「…うん」
せつ菜 「ですから、あなたも応えてください! 私に見せてください、あなたの麻雀を!!」
歩夢 「…………でも…」
せつ菜 「ッ!」
東一局二本場、せつ菜の親。ドラは八
せつ菜 (いつまで迷っているんですか。あなたの強さは、腐らせるには勿体ないんです!) せつ菜 (私のこの強さは…“力”によるもの。私は決して、麻雀に愛された訳じゃない)
せつ菜 (麻雀から愛されなかった私は、“力”で強引に、強さを手繰り寄せるしかなかった! でも、あなたは違う)
せつ菜 「歩夢さん。あなたは、麻雀に愛されているでしょう!!?」
歩夢 「麻雀に……愛される?」
せつ菜 「私はあなたが羨ましくて仕方ないんです。麻雀に愛された、あなたの強さが!」 せつ菜が牌をツモると同時に、地響きのようなものを感じる。実際に地が揺れている訳では無いのは、棚に積まれた荷物が微動だにしていないことから分かる。
ただ、そう感じさせるのだ。
辺りは火山口のように燃え盛り、時折吹き上げる激しい炎が、肌をジリジリと焼く。
気がつけば、同卓している全員がシャツの袖をまくっている。
歩夢 (これが……せつ菜ちゃんの言う“力”?)
せつ菜 「リーチ!!」 せつ菜が宣言牌を卓に打ちつけると、歩夢の座る対面にまで届く程火花が舞う。
そんな光景を目の当たりにして、歩夢の口は、本人の意思とは関係なく自然に動いていた。
歩夢 「…………かっこいい」
歩夢はひどく感動していた。絶景を見ているかのようだった。
しずく 「歩夢先輩、番ですよ」
歩夢 「…あっ、ごめん」
歩夢 ツモ:八 ツモったのは八。ドラの八。
歩夢 (せつ菜ちゃんの運、想像を遥かに超える流れ。そこから考えると、多分当たり牌は、八)
歩夢 (でも大丈夫。私がこの八を……)
歩夢がツモった八を手牌に入れようとした時だった。……声が聞こえた。
『麻雀とかオヤジっぽ〜い!!』
『女の子っぽくないね〜!』
歩夢 「……っ!!?」 歩夢の手が震え出す。そして手牌に入れようとした八をそのまま──
歩夢 打:八
捨牌として叩きつけた。
せつ菜 「……分かってて捨てましたね」
歩夢 「…………。」
せつ菜 「残念です、本当に。ロン」
歩夢 → せつ菜 ロン
七九❺❺白白白發發發中中中 ロン:八
大三元 / 48000 は 48200 かすみ 「だ、大三元…! 役満……」
しずく 「まだ東一局なのに…。これで終わり…」
《対局終了》
せつ菜 : 103500(+48200)
しずく : 14900
歩夢 : -33300(-48200)
かすみ : 14900
せつ菜 「…もう十分です」
そう言ってせつ菜は席を立つ。 かすみ 「せつ菜先輩、帰っちゃうんですか?」
歩夢 「…………。」
せつ菜 「……何を悩んでいるんですか。あなたはこんなにも強いのに」
歩夢 「……から」
しずく 「えっ?」
歩夢 「笑われるかも……しれないから」
せつ菜 「…そうですか」
せつ菜 「侑さんを全力でサポートし、勝利へと導いたあなたは、最高にカッコよかったですよ」 それだけ言い残し、せつ菜は部室から出ていってしまった。その間歩夢は一度もせつ菜と目を合わせず、俯くだけだった。
かすみ 「ま、まぁ歩夢先輩! 役満を振ったのは運が悪かっただけですよ! 気にしちゃダメです!」
しずく 「そ、そうですね。せつ菜先輩って、本当に運がいいですから」
歩夢 「運……? 違うよ、あれは」
かすみ 「ちなみに歩夢先輩はどんな手だったんですか…………うぁぁぁぁぁっ!?!?」
しずく 「どうしたのかすみさん、急に大声出して」 かすみ 「見て! 歩夢先輩の手牌!」
歩夢 手牌
八八八2222❸❸❸❸東東
しずく 「なんですか、これ。八が暗刻ってことは、捨てずにカンしていれば…」
かすみ 「せつ菜先輩は八の単騎待ちでしたから、アガれずに負けてたってこと?」
しずく 「それだけじゃないよ。この槓子(カンツ)の集まり方、普通じゃない」
歩夢 「牌が勝手に集まってくるの」
かすみ 「……勝手に?」 歩夢 「また麻雀を打ってほしい…。そう言ってるみたいに集まってくるんだ」
しずく 「本当だったんですね、歩夢先輩が初心者ではないというのは」
歩夢 「ごめんね。騙すつもりなんてなかったの。だけど私……」
かすみ 「嘘をついてたのは確かに許せませんが、なんか事情がありそうですし、大目に見ます。かすみんは心が広いですから」
歩夢 「ありがとう。ごめんね…ごめんね…」
『麻雀とかオヤジっぽ〜い!!』
『女の子っぽくないね〜!』 強くなりたくて一生懸命な子達からしたら、すごく悔しくて歯痒くて仕方ないだろうな …歩夢が小学生の頃に浴びせられた、心無い言葉たち。
父の影響で麻雀を始めた歩夢は、父をも超える勢いで実力を身につけていった。
歩夢は麻雀が大好きだった。
『あゆむちゃん、また麻雀の本読んでる〜!』
『変なの〜!』
歩夢 (…もし侑ちゃんにまで、あんなことを言われたら…)
ーーーーーー
ーーーー
ーー 〜翌日 昼休み〜
侑 「歩夢、学食行こ」
歩夢 「あ…うん。行こっか」
侑 「どーしたのさ歩夢。今日ずっとそんな感じだよ、ぼーっとしちゃって」
歩夢 「な、なんでもないよ。ちょっと寝不足なだけで」
侑 「もしかして歩夢も徹夜で麻雀してたの? 私もなんだよねー」
歩夢 「ちょ、ちょっと侑ちゃん! そういうことあんまり大声で…」 侑 「? 何か問題でもあるの?」
歩夢 「だって、その…」
「侑ー、歩夢ー! 呼ばれてるよー!」
侑 「えっ、私たち?」
歩夢 「同好会の子じゃないかな?」
?? 「やっほ〜。先輩が直々に会いに来てあげたんだぜ〜」 侑 「え、えっと…………」
?? 「あっ、挨拶が遅れたね〜。ごめんごめん」
彼方 「ライフデザイン学科三年、近江彼方ちゃんだよ〜。お嬢ちゃんたち、一局手合わせ願おうか〜」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
つづく 【次回予告】
かすみ 「>>128 でせつ菜先輩、大三元が確定してるのにリーチしてましたね」
しずく 「あれは歩夢先輩に本気を出してもらうためのリーチだったんだよ。せっかくだから、リーチ判断について話しておこうか」
かすみ 「リーチ判断?」
しずく 「たとえばせつ菜先輩の時みたいに、手の内で役満が確定してる時は、基本リーチしないのが正解だよね」
かすみ 「相手に察知されるからだよね! それに危険牌を持ってきた時、捨てる牌を選べるし」
しずく 「でも逆に、敢えてリーチをすることで役満への警戒を薄める戦法もあるよ」 かすみ 「えぇっ、じゃあ何が正解なの?」
しずく 「その時の場況次第だね。リーチはかけるべきかかけないべきか、その都度考えるのが大事だよ」
かすみ 「かすみん、テンパイしたらとりあえずリーチをしちゃってました…」
しずく 「それはそれで間違いってわけじゃないけどね。正解がないのが、麻雀の面白いとこだよ」
次回『牌は堕ちる、夢の世界へ』
しずく 「次から、この次回予告の担当も変わりますよ。お楽しみに」 天性の才を与えられた歩夢
努力で最強となったせつ菜
の対比か、なるほど >>153
同じようで全然違うぞ。ちゃんと虹らしさもあって面白い 嶺上開花とぽむの花をかけてたりと凝ってるから、能力に関しては違和感ないな 【第5話】『牌は堕ちる、夢の世界へ』
〜放課後 麻雀同好会 部室〜
彼方 「せつ菜ちゃんに頼まれたんだ〜。二人と対局して欲しいって」
侑 「せつ菜ちゃんが? どうして」
せつ菜 「まずはいろんな人と対局して、経験を積むのが一番かと思いまして」
歩夢 「どうして私まで…」
彼方 「あれれ〜? せっかくの彼方ちゃんからの誘いなんだから、暗い顔しちゃダメだぞ〜」 かすみ 「そうですよ先輩! 彼方先輩と打てるなんて、そうそうないんですから」
侑 「えっ、そうなの?」
しずく 「まぁ、一日に何回か打ったらすぐ寝ちゃいますからね」
彼方 「そういうこと。彼方ちゃんはレアキャラなのだぜ〜」
かすみ 「ただねぼすけさんなだけじゃないですか」
しずく 「でも実力は確かだから…。私なんかよりもずっと強いし…」
侑 「えっ、しずくちゃんよりも強いの!?」 しずく 「事実私は勝ったこと無いですよ」
彼方 「えへへ〜。ぶいっ」
侑 「トキメキが止まらないよ…! 早くやりましょ、彼方先輩!」
かすみ 「空いた席はかすみんが入ります! ルールはしず子の時と同じ、二人の合計得点でいいですよね?」
侑 「うんっ! よろしくお願いします!」
歩夢 「……よろしく、お願いします」 《対局開始》
東家:かすみ 南家:彼方 西家:歩夢 北家:侑
東一局、かすみの親。ドラは❸
歩夢 配牌
二六22777❷❹❾東東東
歩夢 (まただ…。また寄ってくる)
歩夢 (とりあえず前回と同じ。侑ちゃんをサポートできる牌を残しておこう)
歩夢 (侑ちゃんの捨牌を見て、慎重に…) 1巡目──。
侑 「…………。」 打:❺
歩夢 (一巡目から❺? 染め手※かな…?)
染め手・・・萬子、索子、筒子のどれかと字牌だけを集めた手牌。
その後──。
侑 「…………。」 打:四
侑 「…………。」 打:6
歩夢 (何を考えてるの侑ちゃん!? そんなに満遍なく、真ん中の牌ばかり切って…) 歩夢 (チャンタ…? いや、それにしても捨て方がおかしい。どういうこと…?)
侑 「……く……ま……」 打:5
彼方 「それだ〜。ロンっ!」
歩夢 (あぁっ…! 当然だよ、そんな訳の分からない捨て方してたら…!)
侑→彼方 ロン
四五六七八九34❸❸南南南 ロン:5
南・ドラ2 5200
かすみ : 25000
彼方 : 30200(+5200)計 55200
歩夢 : 25000
侑 : 19800(-5200)計44800 東二局、彼方の親。ドラは二
歩夢 手牌
二二二七八668❹❹❽北白
歩夢 (ドラが暗刻。でも関係ない、侑ちゃんのサポートに……!)
侑 「……。」 打:5
次巡──。
侑 「…………。」 打:5 更に次巡──。
侑 「………………。」 打:5
歩夢 (さ、三連続同じ牌!? さっきからどうしちゃったの、侑ちゃん!)
侑に視線を向ける歩夢。そこで侑の“もうひとつの異変”に、初めて気付く。
歩夢 (…! 目の焦点が、定まってない!) 歩夢 (いや、確実に手牌に目線はいってる。でも、なんだろう……)
歩夢 (『牌を見てるのに見えていない』……そんな感じ)
彼方 「リーチ!」
歩夢 (リーチが入った! 気をつけて、侑ちゃん)
侑 「…………。」 打:❽
歩夢 (あぁっ…! また危険牌を!!) 数巡後──。
侑 「…………!」 打:❸
彼方 「ロンっ!」
侑→彼方 ロン
三四五123❷❷❹❺❻❼❽ ロン:❸
リーチ・ピンフ・裏1 5800
かすみ : 25000
彼方 : 36000(+5800)計 61000
歩夢 : 25000
侑 : 14000(-5800)計39000 歩夢 (どうして…! どうしてなの侑ちゃん、勝ちたくないの!?)
侑 「…………ま………く………ん……」
歩夢 (…? 何か、呟いてる?)
侑 「……こくし……むそ…う…やく…まん……」
歩夢 (……こくしむそう、国士無双※!?)
歩夢 (もしかして役満を狙ってた? でもおかしいよ、だって侑ちゃんはさっきから手出し※をしてた!) ※国士無双・・・下の形を揃える手役。役満。
一九19❶❾東南西北白發中 + その中からもう一枚
※手出し・・・手牌の中から牌を切り出すこと。逆にツモった牌をそのまま切ることを『ツモ切り』と言う。 歩夢 (ということは侑ちゃんの配牌は…)
侑 配牌(歩夢の予想)
二三三四六3468❷❼東北
歩夢 (こんな感じだったはず! ここから国士無双を狙うなんて、まともじゃないよ)
歩夢 (確かに侑ちゃんは初心者だけど、そんな無謀な打ち方をする子じゃない!)
彼方 「いい感じだね〜」
かすみ 「にしし…」
歩夢 「……っ!!」 歩夢 (そっか。能力持ちのしずくちゃんよりも強いんだ。彼方先輩もきっと…!)
歩夢が彼方に目線を向けると、それに気付いた彼方が優しく微笑む。
彼方 「ふふっ、そうだよ〜。これは彼方ちゃんの能力。侑ちゃんは今、夢の世界に連れてかれちゃってるんだ〜」
歩夢 「やっぱり、彼方さんも能力持ちだったんですね…」 彼方 「彼方ちゃんはねぇ、向かい側に座ってる人に、役満の夢を見せられるんだぁ」
かすみ 「えぇっ! 能力教えちゃうんですか!?」
歩夢 「夢…?」
彼方 「今の侑ちゃんはどんな配牌が来ても、国士無双を目指せるって思い込んじゃうんだ〜」
歩夢 「だからさっきから、真ん中の牌ばかり切ってたんだ…」 彼方 「もちろん、見せられる夢は国士無双だけじゃないよ。彼方ちゃんの欲しい牌に合わせて、見せる夢を変えられるんだぁ」
歩夢 「そんなの、対策のしようが……」
かすみ 「秘密にしておけばいいのに、なんでバラしちゃうんですか」
彼方 「いいのいいの。さぁ、次いっくよ〜」
東二局一本場、彼方の親。ドラは1
侑 「国士……国士……」 歩夢 (侑ちゃん、まだ夢を見てる!)
歩夢 (侑ちゃんは役満の可能性があるかぎり、それを追い続けちゃう…)
歩夢 (どうすれば…! 何かないの!? 侑ちゃんを夢から目覚めさせる方法は…!)
歩夢 「…………っ!!!」
歩夢 (……可能性。そうか…そうすれば…!)
せつ菜 (どうやら気付きましたね。彼方さんの能力、その攻略法を) 歩夢 (でもその方法は…! “それ”をやるということはつまり…!)
せつ菜 (…そう。歩夢さん、あなたが全力で麻雀を打つことが絶対条件です)
歩夢 (…嫌だ。侑ちゃんにまで嫌われたら、私は…! 私は……!)
彼方 「リーチっ!」 打:❻
歩夢 (…っ! 7巡も経ってる! いつの間に…) せつ菜 (もうこれ以上、悩む時間はありませんよ、歩夢さん。覚悟を決めるんです、さぁ!!)
歩夢 (もし侑ちゃんが振り込んで、跳満以上ならそこで勝負終了…。それは嫌だ。でも全力を出すのは…もっと……!)
同巡 歩夢 ツモ番
歩夢 「……!」
歩夢はツモった牌を見て、瞳を大きく見開き、そしてそのまま俯いてしまった。 せつ菜 (……ここまでですね。彼方さんと対局させれば、もしかしたらと思いましたが)
歩夢 「…………。」
──遠くから、声が聞こえる。
歩夢の脳裏に映し出されたのは、過去の記憶。
麻雀が大好きだった、あの頃の記憶。
ーーーーーー
ーーーー
ーー 【次回予告】
かすみ 「国士無双って憧れますよね」
彼方 「確かに名前もカッコイイからね〜。役満はなかなか出ないけど、覚えておかないと損することもあるから、この機に何個か覚えておこうか」
〇国士無双
一九19❶❾東南西北白發中 を揃え、その中からもう一枚揃える役満。
〇緑一色(リューイーソウ)
2、3、4、6、8、發 だけを使ってアガる。
緑の牌だけを使うので、緑一色と言う。 〇九蓮宝燈(チュウレンポウトウ)
萬子、索子、筒子いずれかの種類だけで
1112345678999 を揃え、1〜9のうちどれかをもう一枚揃えると出来上がる役満。アガると死ぬ、という逸話もあるほど珍しい役満。
〇清老頭(チンロウトウ)
1、9の暗刻だけで手牌を揃える役満。
例)一一九九九111❶❶❶❾❾❾
かすみ 「色々あるんですね」
彼方 「彼方ちゃんの能力は役満を利用したものだからね〜。役満についてはなんでも聞いてよ」
次回『開花宣言❁嶺上開花』 最後の最後で連投規制かかりました、お待たせしてすいません
また明日、よろしくお願いします 細かいようだけど>>135はカンチャン待ちかな
単騎待ちだと8萬が5枚になってしまう >>181
本当ですね、表記ミスです
失礼しました キャラ付けが能力に上手く噛み合ってて面白いわ期待!
エマはポカポカ繋がりであれかなぁ ここまでトラウマになるのは、ちょっとからかわれた以上に何かあるのかな 【第6話】『開花宣言❁嶺上開花』
歩夢の父は時々、親戚を家に集めては麻雀を打っていた。夜な夜な響く牌の音、大人たちの楽しそうな笑い声。小学生といえど、興味を持つなという方が無理な話だった。
『麻雀をやってみたい?』
あゆむ 『うん! おとーさんたち、いつもたのしそうなんだもん! ずるい!』
『まぁ…頭の運動にもなるし丁度いいか』
歩夢の雀力は、天性のものと言っても過言ではなかった。その才能は、打てば打つほど開花していった。
『いいか歩夢。まずは同じ牌を集めるところからだ。少しずつ覚えていくんだぞ』 あゆむ 『おなじはいを、あつめる……』
あゆむ 手牌
二二二7889❸❸❺東東東
歩夢が望めば、ほぼその通りに牌が寄ってきた。
麻雀に愛されている。そう思わせるほどに。
『もうすっかり敵わないなぁ』
あゆむ 『わたし、つよい?』
『あぁ。誰よりも強いぞ歩夢』
あっという間に、父は歩夢に歯が立たなくなっていた。強くなればなるほど褒めてもらえるので、歩夢は喜んで麻雀を勉強し続けた。 いつしか親戚との麻雀で卓に座るのは歩夢になり、対局の経験を重ねていった。
PTA会長を決める対局。
忘年会の幹事を決める対局。
負ける訳にはいかない対局も増えてきた歩夢は、さらに強くなため、麻雀の戦術本を読み漁るようになる。
小学生で麻雀の本を読み漁る女の子。
クラスメイトは好奇の目で見ていた。
「麻雀なんてオヤジっぽい」
「女の子っぽくない」
あゆむ 『……っ!?』
誰に何を言われても、歩夢は気にもとめなかった。だが…。 ゆう 『麻雀なんて、変だよ、歩夢』
あゆむ 『やめて……やめてぇっ……!!』
もしその言葉を親友である侑に言われたら…。そう考えると、いつの間にか牌に触れることすら出来なくなっていた。
歩夢 (そうだ…。もう麻雀なんて打たない、そう決めたはずなのに)
せつ菜 『歩夢さん。私は今、本気です』
歩夢 (……せつ菜ちゃん)
せつ菜 『ですから、あなたも応えてください! 私に見せてください、あなたの麻雀を!!』 せつ菜ちゃんは違った。私の麻雀を、受け容れようとしてくれた。私の大好きの気持ちを、一度たりとも否定しなかった。
歩夢 (カッコよかったなぁ…せつ菜ちゃん)
幻想を見せるほどに美しい姿、そして圧倒的な強さ。あれはまさに、“完成された麻雀”だった。
歩夢 (あんな麻雀、打ってみたいな…)
歩夢 (でも、いいの。私は麻雀で勝つことより、侑ちゃんとの繋がりの方が大事なんだ)
歩夢 (ごめんね、侑ちゃん。この牌は切るよ)
ツモってきた牌を切ろうとしたその時、頭の中に響いたのは、侑の声だった。 侑 『私、好きだよ』
歩夢 「えっ…?」
──目の前にいたのは、小学生時代の侑。
…クラスの子達に馬鹿にされてた私を、侑ちゃんが助けてくれた時の言葉。
歩夢 「好き……って?」
侑 『歩夢が、大好きなものに夢中になってるところ。すっごく輝いてて、楽しそうなんだもん』
歩夢 「でも、こんなの変だし…」
侑 『変じゃないよ。歩夢が大好きなものなら、私は応援する』
歩夢 「侑ちゃん…」 侑 『まぁでも、麻雀は難しそうだから、一緒にはできないかもだけど』
歩夢 「…っ!!」
歩夢の瞳から、涙が溢れ出る。
そうだ、思い出した。侑ちゃんに嫌われることを恐れて、押し殺してた私の想い。
歩夢 (私は嬉しかった…。侑ちゃんが麻雀に興味を持ってくれたことが)
歩夢 (小学生の頃…。あの日言えなかった言葉。今なら言える…!)
あゆむ 『侑ちゃんも一緒に、麻雀やろうよ!』 歩夢 (そうだ…。私は…私は…っ!!)
──侑ちゃんと一緒に、麻雀が打ちたい!
歩夢 「カンっっっ!!!」
切ろうとした牌を手牌に戻し、高らかに宣言する。倒した4つの牌からは桜吹雪が舞い、自身と侑の体を包み込む。その光景は彼方やかすみ、しずく、そしてせつ菜の瞳にも映っていた。
せつ菜 (……!! きたっ…来ました…! これが歩夢さんの麻雀!)
歩夢 「お願い、目を覚まして!!」
歩夢 カン:[❶❶❶❶] 歩夢がカンをしたのは❶。国士無双を作るのに必須の牌だ。❶が4枚使われたことで、国士無双の可能性は0%になる。
侑 「……っ! 私、何を!?」
歩夢 (彼方先輩の攻略法…! 狙っている役満の可能性を摘み取る!!)
歩夢 「もういっこ、カンっっ!!!」 [北北北北]
歩夢 「新ドラは…❶!」
歩夢 「ツモッ!! 嶺上開花!!」
歩夢 ツモ
七八123南南[北北北北][❶❶❶❶]ツモ:九
ツモ・嶺上開花・チャンタ・ドラ5
4000-8000の一本場
かすみ : 20900(-4100)
彼方 : 26900(-9100)計 47800
歩夢 : 42300(+17300)
侑 : 9900(-4100)計 52200 東三局、歩夢の親。ドラは三
彼方 (やるねぇ、歩夢ちゃん。でも彼方ちゃんのの能力は、毎局使えるんだよ!)
侑 「…ぅ……っ…! ゃ…やく……まん…」
歩夢 「させないっ! カン!!」 [中中中中]
彼方 (中の暗槓! 国士だけじゃない、大三元も潰してきたね…!)
侑 「…っ! ありがとう、歩夢!」 数巡後──。
侑 「ツモっ!」
侑 ツモ
二三四67❷❷❸❹❹❺❺❻ ツモ:8
タンヤオ・ピンフ・ツモ・ドラ1 1300-2600
かすみ : 19600(-1300)
彼方 : 25600(-1300)計 45200
歩夢 : 39700(-2600)
侑 : 15100(+5200)計 54800
東四局、侑の親。ドラは北
彼方 (国士や大三元じゃもう無理だね。こうなったら、奥の手…!)
侑 「…っ…!!? …ぁ……う…」 彼方が見せたのは役満……九蓮宝燈の夢。
彼方 (彼方ちゃんの能力は、見せる役満の難易度が高ければ高いほど負担が大きい)
彼方 (これは彼方ちゃんにとって奥の手…!)
歩夢 「…カン!」 [三三三三]
彼方 「っ!?」
せつ菜 (九蓮宝燈の夢を見せていることを瞬時に察知。そして的確に三の暗槓…)
彼方 (歩夢ちゃんには、何が見えているの…?) 7巡目──。
彼方 手牌
五六23477❷❷❸❻❼❽
彼方 (手はタンピン形。こうなったらもう一度、国士無双の夢を見せる!)
侑 「……。」 打:北
彼方 (…っ!? 堕ちない、どうして!?)
彼方 (まさかもう限界が? いや、彼方ちゃんの体力はまだ残ってる。そんなはずは…!)
2巡後──。
彼方 ツモ:東 彼方 「くっ…!」 打:東
侑 「…………素敵な夢を見せてくれて、ありがとうございます。彼方先輩」
彼方 「…侑ちゃん?」
侑 「でも、そんなに素敵な夢、見るだけなんてもったいないです。叶えないと!!」
彼方 (…! 夢に堕ちなかったのは、それが夢じゃなく、既に現実だったから…!?)
彼方 「まさか…っ!!」
侑 「ロンッ!!! 国士無双!!」
彼方→侑 ロン
一九19❶❶❾南西北白發中
国士無双 48000 《対局終了》
かすみ : 19600
彼方 : -22400(-48000)計 -2800
歩夢 : 39700
侑 : 63100(+48000)計 102800(勝)
歩夢 (勝った…けど…………)
侑 「勝った、勝ったよ! 歩夢のおかげだよ!」
歩夢 「…! 私の、おかげ…?」 侑 「そうだよ、歩夢のおかげ! それに何あの花吹雪! すごいかっこよかったし、素敵だった!」
歩夢 「……! えへへっ……」
せつ菜 (…どうやら、もう心配はいらなそうですね)
ーーーーーー
ーーーー
ーー 侑と歩夢が帰った後。しずくも稽古に戻り、部室には彼方とせつ菜、そしてかすみの三人がいた。
せつ菜 「…すごい勝負でしたね」
彼方 「うん。完敗だったよ〜」
せつ菜 「まさか、あそこで歩夢さんが全力を出してくるとは…」
彼方 「またまた〜。そのために彼方ちゃんと戦わせたんでしょ?」
せつ菜 「分かっていたんですか?」
彼方 「もちろん。歩夢ちゃんの能力は、彼方ちゃんにとって天敵とも言えるし…。だから彼方ちゃんと戦わせれば、歩夢ちゃんが全力を出してくれるって思ったんでしょ?」 せつ菜 「…敵いませんね、彼方さんには」
かすみ 「それでわざと、能力を自分からバラしたんですね」
彼方 「そういうこと〜」
せつ菜 「それにしても珍しいですね。あれだけ能力を使ったのに、まだ起きているなんて」
彼方 「不思議な感覚なんだ。いつもならもうぐっすりさんなはずなのに、全然眠たくなくってさ」
しかしさすがに疲れたのか、「お先に〜」と言って彼方は先に帰ってしまった。せつ菜も忙しいようで、後に続くように部室から出ようとする。
かすみ 「かすみんはまだやることがありますから、先帰っててください」
せつ菜 「そうですか? あまり遅くならないように、気をつけてくださいね」
かすみ 「はい。お疲れ様です」 ……一人になった部室。使い終わった牌を綺麗に布巾で掃除するのが、かすみの日課だ。
かすみ 「はぁ…やっぱり彼方先輩は強いですね。歩夢先輩も、なんだか花が舞ってるように見えてすごく可愛かったですし…」
かすみ 「侑先輩も、あそこで役満をアガるなんて。底知れない強さを感じます」
かすみ 「……かすみんだって……かすみんだって」
かすみ 「……うぅ……ぐすっ……」
せっかく拭いた牌に、涙がこぼれ落ちる。
かすみ 「……また……役にたてなかった……」
かすみ 「……強く、なりたいよ……っ……」
ーーーーーー
ーーーー
ーー 【次回予告】
侑 「歩夢。“新ドラ”って何?」
歩夢 「カンをすると、元々あったドラの横の牌をめくって、新しいドラに出来るんだ」
侑 「それを新ドラ(しんどら)って呼ぶんだね」
歩夢 「ちなみにカンの種類によって、新ドラが乗るタイミングが違うよ」
侑 「カンの種類。明槓※と暗槓だね」
※明槓(ミンカン)・・・手牌に三枚同じ牌があり、誰かがその牌を捨てるとカンをすることが出来る。また、ポンした牌とおなじ牌をツモった場合も、その牌を加えてカンできる。 歩夢 「暗槓の場合は、すぐにドラが増えるけど、明槓の場合は、嶺上牌をツモって、打牌をした後にドラが増えるよ」
侑 「じゃあ明槓で嶺上開花をした時は、新ドラをめくれないんだね」
歩夢 「そういうこと! 私と対局する時は、特によく覚えておいてね」
次回『集いしは、Evergreen』 https://i.imgur.com/dS0gmCAh.jpg
めちゃめちゃ面白くてこういう幻覚が見えた
次回も楽しみに待ってる 俺もEvergreenの能力が欲しい人生だった
かすみが得意げに教えてたのも歩夢が全部知ってたと思うと泣けてくる >>213
イラスト…! めちゃくちゃお上手ですし、私のイメージしてた姿そのもので感動です…
本当にありがとうございます! かすみ回来た!!!!
と思ったらエマ回かな? 焦らすねぇ >>215
そんなに喜んでもらえるとは…光栄です
本当に面白いので完結まで必ず追わせて頂きます! >>218
ss書きとしてはイラスト書いてもらえるなんてこの上ない幸せやろ
上手いし、こっちも楽しみにしてるわ 【第7話】『集いしは、Evergreen』
せつ菜 「…では、次の問題です」
放課後。部室に集まった同好会メンバー。
今日は全員で麻雀の勉強をしていた。
せつ菜 「ドラが❹、あなたはちょうどテンパイをしたところです。形はこう」
手牌
二三78❶❶❷❸❹❺ [中中中] ツモ:四
侑 「❷ か ❺ を切ってテンパイだね」
せつ菜 「そうです。さてこの場合、❷ と ❺ どちらを切るのが正解でしょうか?」 かすみ 「えぇっ、どっちも同じような気がしますけど…」
侑 「うーん、❺の方があたりやすそうだから、❷を切るのが正解…?」
?? 「答えは❺切りだよ〜!」
突然部室に入ってきた少女は、自信満々に答えを言う。大きなキャリーバッグに麦わら帽子。いかにも旅行帰りという出で立ちだ。
せつ菜 「ふふっ。正解です、エマさん」
しずく 「エマさん! 帰国されたんですね!」
エマ 「チャオ〜! あっ、この子たちが新しい部員だね?」 侑 「初めまして。普通学科二年の高咲侑です」
歩夢 「同じクラスの、上原歩夢です」
エマ 「はじめまして! 国際交流学科三年、エマヴェルデだよ。よろしくね」
彼方 「思ったより早かったね〜。2週間くらい?」
エマ 「うん! でもたくさん自然を感じてきたから、もう充電マックスだよ」
せつ菜 「さて、全員揃ったことですし…始めますか!」
侑 「えっ、勉強の続きじゃなくて?」 かすみ 「というかせつ菜先輩、知ってたんですね。エマ先輩が帰国するの…」
せつ菜 「あっ……その……」
彼方 「あの顔は『伝え忘れた』って顔だね」
せつ菜 「そ、それはそれとして! 今日は大事なことを決めなくてはいけないんです!」
歩夢 「大事なこと?」
せつ菜 「はい! 今度行われる大会の、出場者決めです」
侑 「おぉ! 大会だー!」
せつ菜 「今回のは都内の高校が集まる小規模な大会で、どちらかと言うと交流戦に近いものですが」 歩夢 「でも、他校の人と戦えるのは面白そうだね」
せつ菜 「ここで問題になるのが、ひとつの学校から出場できるのが、ペア一組だけということです」
彼方 「ということはこの中から二人だけ?」
かすみ 「よーし、今回こそ出場しますよー!」
しずく 「でも学校代表として出るわけですから、一人はせつ菜先輩で確定でしょうか?」
かすみ 「うぅ…たしかに。悔しいけど、交流戦なら部長が出てこそだし」
エマ 「じゃあせつ菜ちゃん以外の六人から一人を選ぶんだね。どうやって決めようか?」 彼方 「いつも通り対局で決めようよ。歩夢ちゃんと侑ちゃんはシード権ってことで」
侑 「えっ、いいんですか?」
かすみ 「もちろんです! 新入部員なのに一回戦落ちじゃ可愛そうですから」
歩夢 「負けること、前提なんだ…」
かすみ 「いや……だって……」チラッ
エマ 「…?」
かすみ 「ま、まぁとにかく! まずはかすみん、しず子、エマ先輩、彼方先輩の四人でやります!」
彼方 「それで上位二人が侑ちゃんと歩夢ちゃんと対局だね。いいと思うよ〜」 エマ 「じゃあ早速はじめよっか! よろしくね〜」
しずく 「はい。……頑張って二位を目指します」
かすみ 「かすみんも…」
侑 「なんか、二人ともすごい弱気じゃない?」
彼方 「すぐにわかるよ〜…」
歩夢 「……?」 《対局開始》
東家:エマ 南家:かすみ 西家:しずく 北家:彼方
エマ 「それにしても日本は暑いね〜。汗が止まらないよ」
侑 「あ、じゃあ私たち、飲み物買ってくるよ! 歩夢、局が進む前に行ってこよ?」
歩夢 「そうだね、ちょっと行ってきます」
せつ菜 「すいません、よろしくお願いします」
全員から欲しい飲み物を聞き、自販機へと走る。自販機はロビーの方まで向かわないと無かったが、全員分を買って戻るのにそれほど時間はかからなかった。 約十五分後──。
侑 「ただいまー! 買ってきたよー」
エマ 「あっ、ありがと〜。ちょうど終わったところだよ」
歩夢 「終わった……? あぁ、一局目がってこと?」
せつ菜 「いえ、それが……」
《対局終了》
エマ : 121300(勝)
かすみ : -7100
しずく : -7100
彼方 : -7100
侑 「…………へ?」 手に持っていたジュースが、手からするりと落ちる。歩夢が慌てて拾い上げ、机の上に並べる。
侑 (何が起こったの…? まだ二十分も経ってない! なのに、エマさん以外全員がトビ…?)
かすみ 「…………。」プシュー
しずく 「…………。」プシュー
彼方 「…………。」プシュー
歩夢 「さ、三人とも、しっかりして!」
かすみ 「……元々、無理な話だったんです。帰国直後のエマ先輩に勝とうなんて…」
侑 「それって、どういう…」
エマ 「さぁ、次は決勝戦だよ〜」 せつ菜 「…一応、同点の場合は東家に近い場所から順位が決まるので、かすみさんも進出ですね」
かすみ 「なんか不本意です…」
侑はしずくと彼方をソファに座らせ、頭に冷やしタオルを乗せる。買ってきたジュースをかすみが二人の前にお供えし、両手を合わせる。
彼方 「しずくちゃん、仏さんにされてるよ私たち」
しずく 「もうツッコむ元気もありません…」
侑 「あの二人がこんなになるなんて…。エマさん、一体どんな麻雀を?」
エマ 「さ、はじめよっか〜」 《対局開始》
東家:歩夢 南家:かすみ 西家:侑 北家:エマ
東一局、歩夢の親。ドラは三
「〜〜〜♪」
侑 (…? 歌声?)
対局開始と同時に、優しい歌声が響き渡る。澄み渡るような美声。その声の主はエマだった。窓も開いていないのに、強い風が一瞬吹き、目を眩まされる。
閉じた瞳をゆっくり開くと、そこには信じられない景色が広がっていた。
侑 (えっ…ここはどこ? 草原?) 先程まで部室にいたはずなのに、辺り一帯は見渡す限りの草原になっていた。その真ん中に、卓と自分たちだけがポツンと置かれている。
侑 (なんだろう…すごく穏やかな気分になる…)
侑 (緑の香り…。気持ちいい…)
侑 (…っ! ダメダメ、集中集中!)
歩夢 (エマさんを中心に広がってる? この感覚、似てる…せつ菜ちゃんと!)
1巡目──。
歩夢 配牌
二二七七七七55❻❻西西中 ツモ:7 歩夢 (カンは出来るけど…。ここはまだ様子見)
歩夢 (一回戦での圧倒的な点差。まず能力持ちと見て間違いない。問題なのは、その内容)
歩夢 (能力が明らかになってない今、下手に動くのはかえって危険かも)打:中
侑 (…歩夢、様子見だね。私もアガりは目指すけど、まずはエマさんの能力を確かめよう)
侑 (あんなにわずかな時間で決着が着いたってことは、多分早上がり系の能力…)
7巡目──。
エマ 「ツモ!」
歩夢 (…! 早い、やっぱり早上がり系の能力!) 侑 (予想は当たっていた。早上がりされ続けたから、あんなにすぐ対局が終わったんだ!)
歩夢 (問題は点数。わずか7巡で、どんな手を…?)
エマが倒した手牌を見て、二人は血の気が引くのを感じた。
エマ 「緑一色(リューイーソー)。役満だよ〜!」
エマ ツモ
22334466888發發 ツモ:發
緑一色 / 8000-16000
歩夢 「…っ!? 役……満……!?」
侑 「嘘…まだ7巡だよ……?」
歩夢 : 9000(-16000)
かすみ : 17000(-8000)
侑 : 17000(-8000)
エマ : 57000(+32000) 歩夢 (まぐれ…? いや、絶対に違う。一回戦での圧勝が、その証拠)
歩夢 (一回戦でのエマさんの最終的な点数は確か…121300点)
歩夢 (エマさんは東家、親だった。つまり…)
25000 →(+48000)→ 73000 →(+48300)→ 121300
歩夢 (なんで…気がつかなかったんだろう)
歩夢 (エマさんは一回戦、“役満を二連続でアガっていた”んだ!)
歩夢 (つまりエマさんの能力は、役満を早アガりする能力?)
侑 (…多分私と歩夢の予想は同じ。でも問題はその先。アガる役満が、毎回同じなのか否か) 侑 (それによって、対策方法も変わってくる…)
歩夢 (…試しに、集めてみよう。緑の牌、緑一色の種を!)
歩夢 (お願い、来て……!)
東二局、かすみの親。ドラは西
歩夢 配牌
六六六779❽❽❽東東北白
歩夢 (…っ! 来ない、緑の牌が一つも!!)
歩夢 (私がこんなに念じたのに来ないってことは…つまり…) 3巡目──。
侑 手牌
四五1237❶❷❸❻❽南發 ツモ:❺
侑 (歩夢のあの表情…。多分緑一色に使う牌を集めようとしたんだね。でも失敗した)
侑 (よし、一か八か。私も確かめにいこう。エマさんの能力…!)
侑 (…さぁ、どうだっ!?)打:2
エマ 「ふふっ、チー!」 [234]
侑 (…! きたっ!) そして10巡目──。
エマ 「ツモっ! 役満だよ!」
エマ ツモ
23466688發發 [234] ツモ:發
緑一色 / 8000-16000
歩夢 : 1000(-8000)
かすみ : 1000(-16000)
侑 : 9000(-8000)
エマ : 89000(+32000)
侑 (決まりだ…! エマさんの能力)
歩夢 (私が念じても手牌に来ない緑の牌。そして二連続の緑一色!)
侑・歩夢 ((『緑の牌が集まる』能力っ…!)) せつ菜 (二人とも、能力は分かったようですね。ですが大事なのはその先)
侑 (能力は分かった。あとはその攻略法!)
歩夢 (エマさんより早くアガる? いや、ダメ。早アガりを目指せば、点数は安くなる。それだとこの点差を南場だけで逆転するのは不可能!)
侑 (一瞬でも隙を見せれば、また役満をアガられて、トビ……。…………ん?)
侑 (……この草原、こんなに狭かったっけ?)
侑は辺りを見渡す。あれだけ広大に広がっていた草原が、最初の頃に比べて半分ほどに狭まっている。あれだけ感じていた緑の香りも、少し弱まっているようにも思えた。 侑 (…! そうか、もしかしたら…)
侑 「ごめんみんな、ちょっとお手洗い行ってきてもいいかな?」
侑 (…歩夢!)
侑は歩夢にアイコンタクトを送る。
侑がトイレの個室に入り、少しすると隣の個室に人が入ってくる音が聞こえた。
歩夢 「…侑ちゃん?」
侑 「歩夢! よかった、来てくれたんだね」
二人は個室の壁を挟んで作戦会議をする。
歩夢 「なにか思いついたの? 攻略法」 侑 「確証はないけどね。まず、エマさんの能力」
歩夢 「緑の牌を集める能力…だよね」
侑 「よかった、歩夢も同じこと考えてた」
歩夢 「あの2を切った時、確かめにいったでしょ」
侑 「あ、バレてた?」
歩夢 「侑ちゃんの表情で何となくわかったよ。何年一緒にいると思ってるの?」
侑 「えへへ…。っと、それより、攻略法だ」
二人は状況を整理する。 エマは一局目、7巡で面前でアガった。
しかし二局目は、鳴きもしつつ10巡かけてアガっていた。それでも早い方なのだが、明らかにスピードは落ちている。
侑 「歩夢は気付いた? エマさんを中心に広がってた草原。あれがどんどん狭くなっていたの」
歩夢 「言われてみれば…たしかに。最初は部室の面影が無くなるほどだったもんね」
侑 「これは予想なんだけど、あの草原の広さと能力の強さは比例するんじゃないかな」
歩夢 「つまり…あの草原が無くなるか、すごく狭くなるまで耐えるってこと?」 侑 「そう。だからあの草原が消えるまで、早アガりに徹する。勝負はその後だ」
歩夢 「でも、いいのかな…。今までと違ってチーム戦じゃないのに、二人で協力みたいなこと」
侑 「どっちみちこのままじゃ二人とも負けるだけだよ! 私は、何としても勝ちたい…」
歩夢 「……そうだね、分かった。勝ちにいこう」
ーーーーーー
ーーーー
ーー エマ強すぎでしょ…
タイトルからある程度能力の想像はしてたけどそれ以上の強さだった…
絶対対戦したくない… 東三局、侑の親。ドラは❶
歩夢 配牌
二六六七八九九569❺❻中
侑 配牌
二四五七57❷❷❹❻❽❽❽
歩夢 (よし、私はピンフに…)
侑 (私はタンヤオ狙い!)
3巡目──。
侑 「チー!」 [二三四]
せつ菜 (早アガり狙い? 一位は諦めて、二位を狙いにいった……?) 7巡目──。
侑 手牌
五七5❷❷❹❻❽❽❽ [二三四] ツモ:六
侑 (タンヤオ、❺待ちのテンパイ)
侑 (でも、今の親は私。歩夢も配牌はよさそう。なら私が無意味に連チャンする理由はない!)
侑 (お願い、歩夢!)打:❷
せつ菜 (…テンパイを無視しての打:❷。なるほど。侑さん、まだ諦めてませんね)
エマ (普通ここまで点差が開いたら、みんな諦めるか、二位を狙いにいくけど…)
せつ菜 (素晴らしいです、侑さん) そして次巡──。
歩夢 手牌
二三六六七八九九567❺❻ ツモ:一
歩夢 (よし、❹ ❼待ちテンパイ!)打:六
侑 (…! この巡目で打:六ってことは、歩夢、テンパイしたね!)
侑 (多分点数は安い! なら差し込みに回る)
侑 「これか…!?」 打:5
歩夢 「…………。」
侑 「違う! なら…」 次巡──。
侑 「これだ!」 打:❹
歩夢 「ロンっ!」
侑 → 歩夢 ロン
一二三六七八九九567❺❻ ロン:❹
ピンフのみ / 1000
歩夢 : 2000(+1000)
かすみ : 1000
侑 : 8000(-1000)
エマ : 89000 東四局、エマの親。ドラは西
東四局に入った途端──。辺りの草原は一気に範囲を狭め、ついに卓をギリギリ囲えるほどの広さとなる。
侑 (やっぱり、この草原は局が進むと小さくなるんだ!)
エマ 配牌
224466發發發八九❺南西
エマ (私の力の源…草原は残り僅か。でも能力は残っている。なら、終わらせにいっちゃおう!)
エマ 打:❺
緑一色を目指しての 打:❺。
エマが見せた、気の緩み。それを二人は見逃さなかった。 侑 (1巡目から打:❺! つまりエマさんは…)
歩夢 (まだ緑一色を狙っている!)
侑 (この隙、絶対に逃さない!)
侑 (歩夢っ!!)打:❾
歩夢 「カンっ!」 [❾❾❾❾]
エマ 「……?」
侑 (次は、これっ!)打:❽
歩夢 「ポンっ!」 [❽❽❽] せつ菜 (…この二人、まさか)
エマ (そっか、私にツモらせない作戦…!)
侑 (そう、エマさんがツモれず…)
歩夢 (私たちが緑の牌を捨てなければ!)
侑・歩夢 ((緑一色の可能性は、無くなる!))
歩夢 (そして、テンパイした私が待つのは…)
エマ 「……うぅ…」 打:九 歩夢 (緑の牌以外っ!!)
歩夢 「ロン!」
エマ → 歩夢 ロン
九九55 [七七七][❽❽❽][❾❾❾❾] ロン:九
トイトイ / 3200
歩夢 : 5200(+3200)
かすみ : 1000
侑 : 8000
エマ : 85800(-3200)
せつ菜 (…お見事です、二人とも。緑の牌以外で待つことで、エマさんが必然的に切る事になる牌を狙い撃つ)
エマ (…やるね、二人とも) 南一局、歩夢の親。
南入した瞬間、辺りの草原は完全にその姿を消す。そこには、いつもの部室の景色があった。
侑 (やった! エマさんの能力は東場限りのもの! これでやっと高打点を狙いにいける!)
歩夢 (よかった…これでやっと…)
「〜〜〜♪」
侑 「ッ!!?」
部屋中に響く歌声。──エマだ。 侑 (まさか…まさかっ!?)
侑の嫌な予感は的中する。エマが歌うと同時に、せっかく姿を消した草原が、またしても広がる。その広大さは、東一局の時を遥かに凌駕するものだった。
歩夢 「そ、そんな……!」
侑 (ダメだ…この広大さ、多分緑一色のアガりまで5巡もかからない! 間に合わない…)
せつ菜 (…さすがに諦めるでしょう、これでは) エマ (ごめんね二人とも。せっかく頑張ってたけど、私だって勝ちたいんだ)
歩夢 (……こんなの、もう、無理…………)
パァンッッ!!!
せつ菜 「…っ!?」
突如部屋に響く、何かを叩いたような音。
侑 「…………。」ヒリヒリ
歩夢 「侑ちゃん?」
エマ (自分の頬を叩いた……どうして?) 侑 (…諦めるな!)
侑 (諦めるな私ッ!! 絶対に勝つ方法はある! 勝負を放棄するな、勝ちにいくんだ!!)
せつ菜 「……なるほど」
歩夢 「侑ちゃん……そう、だよね」
パァンッッ!!
歩夢 「……私も、勝ちたい!」ヒリヒリ
エマ (……二人とも、やる気だね。)
エマ 「なら私も、全力で────」
せつ菜 「そこまでです!!」 せつ菜がそう声をかけると、草原は再びその姿を消す。エマは背もたれに寄りかかり、大きく息を吐いた。
かすみ 「どうして…まだ南入したばかりですよ」
せつ菜 「あれだけの点差。そして再び能力を使われても諦めなかった、その覚悟が見れただけで十分です」
エマ 「ふぅー…………」
せつ菜 「エマさん、それ以上能力を無駄遣いしないでください。私と同じで、限度がある能力なんですから」
エマ 「えへへ、ごめん。つい…」
侑 「限度……? それって、どういう…」 エマ 「私の能力はね、スイスの大自然を感じることで充電されるの。溜まった充電を放出すると、さっきみたいに草原が広がるんだ」
歩夢 「その間、緑の牌が集まるってことですか?」
せつ菜 「その通りです。そして充電式ということは、当然充電切れもあります」
侑 「…もしかして、一時帰国してたのって」
エマ 「うん、能力を使いすぎちゃって、充電が切れちゃったんだ〜」
かすみ 「だから言ったんです。帰国直後のエマ先輩に勝つ方が無理な話だって…」
せつ菜 「さて、では大会への出場者もこれで決まりですね」 侑 「そうだね、今回は残念だったけど…」
せつ菜 「侑さん、あなたに決まりです」
侑 「えっ……ええええ!? 私!? なんで!?」
かすみ 「一位はエマ先輩でしたよね!?」
エマ 「そうだけど…。そもそもせつ菜ちゃんが出場する時点で、私は出られないんだよ」
侑 「どういうこと?」
エマ 「お互いの能力はぶつかり合うんだよ。共存しやすい能力同士ならいいんだけど…」 せつ菜 「…私の炎、エマさんの草原まで燃やしてしまうんです…」
歩夢 「あぁ……なるほど……」
考えてみれば当然のことだ。あれだけの熱気、そして炎を放つせつ菜の麻雀。エマの大自然と共存できるはずがない。
せつ菜 「というわけで、現時点で二位であり、そして最後まで諦めなかった侑さん、あなたに決めました」
歩夢 「…! おめでとう、侑ちゃん」
侑 「…ありがとう。でも、いいの?」 かすみ 「悔しいですけど、せつ菜先輩の言うことはごもっともですし…」
歩夢 「私も。侑ちゃんが諦めない素振りを見せなかったら、とっくに諦めてたもん」
侑 「……そっか、ありがとう。私頑張るよ」
麻雀同好会、トーナメント戦。
大会の出場者は、せつ菜と侑ペアに決定した。
ーーーーーー
ーーーー
ーー 対局終了後、部室にはせつ菜とかすみだけになっていた。全員で対局したこともあり、時間はいつもより遅くなっていた。
せつ菜 「かすみさん、今日は一緒に帰りましょう。そろそろ暗くなってしまいそうですから」
そう言って荷物をまとめ、せつ菜は部室から出ようとする。そんなせつ菜の袖を、かすみが掴んだ。
かすみ 「…………。」グイッ
せつ菜 「……かすみさん?」
かすみ 「…大事なお話が、あるんです」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
つづく 【次回予告】
しずく 「そういえば、>>222 の問題の解説がまだでしたね」
彼方 「おぉ〜、よろしく頼むよしずくちゃん」
ドラ : ❹
手牌
二三78❶❶❷❸❹❺ [中中中] ツモ:四
しずく 「❷と❺、どちらを切ってテンパイにするかという問題ですね」
彼方 「エマちゃん曰く、答えは❺なんだよね?」
しずく 「はい。肝心なのは、どうして❺なのかです。❺に比べて、相手にロンされにくそうな❷を切ってしまいがちですが…」 ❷を切った場合
二三四78❶❶❸❹❺ [中中中]
しずく 「さて、ここでドラの❹を引いてきました」
彼方 「…あっ、せっかくのドラなのに、使っちゃうとテンパイが崩れちゃうよ〜」
しずく 「そうですね。では、❺を切っていたらどうなるでしょう?」
❺を切った場合
二三四78❶❶❷❸❹ [中中中] ツモ:❹
彼方 「…あ! ❶を切れば…」 手牌
二三四78❶❷❸❹❹ [中中中]
彼方 「ドラを二つ使って、テンパイも維持できたよ〜」
しずく 「はい、その通りです! 何を引いたら得するか、損するか、を考えながら打つのが大事だと分かる問題ですね」
彼方 「……………………すやぁ」
しずく 「人の解説中に寝ないでください!」
次回『天運の炎、心に灯る』 今回も面白かった
最近面白いssが増えてるけどこれが一番の楽しみ 攻略法があるのがすごい面白い。
リューイーといえば、毛沢東も使ってってたっけ? かすみん…
今回も乙でした。麻雀やってない人でも読めてるってのは凄いな 5p切りは1pの暗刻変化か〜なんて勝手に納得してたけどドラ受けか、言われてみればたしかに 対抗戦か。曜や海未あたりが噛ませになる展開が見える なんかもう、ずっと続いて欲しい
ミューズAqoursも見たい 自分は逆にスクフェスキャラ主体で行って欲しいな。もちろん作者の自由だけど 【第8話】『天運の炎、心に灯る』
〜二週間後 大会当日〜
麻雀同好会のメンバーは、今回の大会主催である藤黄学園の正門前に集まっていた。会場は藤黄学園の体育館。既に他校の制服を着た女子高生達が次々と受付を済ませている。
侑 (いよいよ大会当日か…でも…)
せつ菜 「さぁ、行きますよ侑さん!」
かすみ 「せつ菜先輩なら大丈夫です! 侑先輩も、頑張ってくださいね! かすみんの分まで!」
侑 「うん、頑張るよ」
侑 (結局、せつ菜ちゃんとは一度も練習出来なかった。一回くらい、本番前に一緒に打っておきたかったんだけど) 歩夢 「今回の参加校は全部で八校だね」
彼方 「トーナメント形式だから、三回勝てば優勝だね。ふぁいと〜……ふぁぁ」
しずく 「もう、観戦中に寝ないでくださいよ、彼方さん」
侑 「八校か…思ったよりも少ないね」
せつ菜 「高校生にはまだ、麻雀はそれほど広まってない証拠ですね。…もっと麻雀の面白さが広まれば良いのですが」
せつ菜は残念そうに少しうつむく。
侑 「せつ菜ちゃん…」 「ねぇ、あの人ってせつ菜さんじゃない?」
「本当だ本当だ…! サインとかくれるかな…」
せつ菜 「…いけませんね。騒ぎになると藤黄学園さんに迷惑ですから、行っちゃいましょう」
受付を済ませ、体育館へと向かう。出場者はアリーナに設置された全自動の雀卓で麻雀を打つ。それ以外は二階に用意された観客席で応援をする。
二階には幾つかモニターが設置されているので、離れていても対局の内容は鮮明に見られる。
しずく 「私たちはここまでですね。あとは二階で応援しています」
侑 「ありがとう、頑張るよ! せつ菜ちゃん、今日はどんな風に打つ? 作戦とか……」 せつ菜 「…そうですね、特に決めていなかったのですが。強いて言うなら…」
せつ菜 「極力振り込まないようにだけしてもらえれば、何をしても構いませんよ」
侑 「結構大雑把だね…」
かすみ 「まぁせつ菜先輩が出場する以上、ほぼ負けは有り得ないですからね」
侑 「えぇっ? 確かにせつ菜ちゃんは強いけど、あんまり慢心するのは危険というか」
しずく 「…あれ、もしかして侑さん、せつ菜さんのことあまりご存知では…」
侑 「麻雀を始めたきっかけはせつ菜ちゃんだったけど、そこまで詳しくは…」 エマ 「大会に出ればきっと分かるよ〜。ほらほら、時間になっちゃうから行っておいで」
侑 「わぁぁ…っ…押さないでください…! 自分で行きますから…」
歩夢 「侑ちゃん、頑張ってね!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー 〜開会式〜
姫乃 「この度は、藤黄学園主催、都内高校麻雀選手権にご参加いただきまして、誠にありがとうございます」
姫乃 「司会進行は私、綾小路姫乃と」
涼 「相川涼が担当します。よろしくお願いします」
壇上に上がった司会の二人がルールや時間配分について説明をする。参加者はみな二人の方を向いて真剣に話を聞いている。
大会のルールは、しずくや彼方と対局した時と同じ、チーム戦ルールだ。ペアの合計点数で競う形になる。
姫乃 「そしてなんと今回は…あの“現役女子高生最強”である、優木せつ菜さんにもご参加頂いております!」
侑 「えぇっ!!?」 せつ菜は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、周りの歓声に手を振って応える。
侑 「せつ菜ちゃん、何その肩書き…」
せつ菜 「えっと、一応私、全国大会を二連覇してまして…」
侑 「対局を見て、強いなぁとは思ってたけど、まさかそれほどとは…」
せつ菜 「学校のエントランスに、トロフィーも飾ってあるのですが。ご覧になったことは?」
侑 「気にも止めてなかった…。どうせバスケとか野球のだろうなぁと…」
せつ菜 「あはは、まぁそうですよね」
そう言って笑うせつ菜の顔が、侑にはどこか悔しそうにも見えた。
ーーーーーー
ーーーー
ーー 一回戦。
同好会に入部してから約一ヶ月の侑はこの日、初めてせつ菜の対局を生で“感じる”。
侑 (なにこれ……想像以上だ…っ!!)
侑 (動画で見ていた時は、炎が見えるように“感じているだけ” だと思ってた!)
せつ菜 「ツモっ! 4000オール!」
せつ菜 「ロンッ!! 12000!!」
侑 (せつ菜ちゃんがアガる度、吹き出す炎の勢いが増す…!)
侑 (それだけじゃない、アガりの速さがどんどん加速していく!) 侑 (チームとはいえ、私も負けてられない!)
東三局一本場、せつ菜の親。ドラは❽
侑 配牌
二四五1455❸❺❻❼東西
侑 (よし、タンピン系に向かえる好配牌! 10巡もあればテンパイ出来る!)
5巡目──。
せつ菜 「リーチです!」 打:2
宣言牌を叩きつけると、勢いよく火花が散る。
侑 (っ! いくらなんでも早すぎる! あんなに好配牌だった私でさえ、まだ一向聴なのに!) 同巡──。
侑 手牌
四五六4555❸❸❺❺❻❼ ツモ:發
侑 「くっ…!」 打:發
次巡、せつ菜 ツモ番──。
せつ菜が山に手を伸ばすと、炎が腕に渦巻き、ツモ牌にも輝かしい炎が纏う。
侑 (この感覚…まさか…) せつ菜 「一発ツモッ!!!」
せつ菜 「裏ドラが一つで、跳満です!」
侑 (これがせつ菜ちゃんの……いや……)
“現役女子高生最強”、優木せつ菜の麻雀──!
ーーーーーー
ーーーー
ーー 彼方 「流石の強さだね〜」
かすみ 「もうこれ、応援する必要ありますか?」
エマ 「こういうのは応援するっていう気持ちが一番大事なんだよ。頑張れ〜二人とも!」
歩夢 「何度見てもかっこいいなぁ…せつ菜ちゃんの麻雀」
せつ菜がアガる度、観客席で歓声があがる。
しずく 「強いだけじゃないのが、せつ菜さんの魅力なんです」 かすみ 「さっきも1000点アガれば逃げ切りって時に、わざわざ倍満をアガってましたからね」
歩夢 「たしかに…だから魅力的に感じるのかも」
しずく 「観ている人も熱くさせ、楽しませてくれる麻雀。それがせつ菜さんにファンが多い、一つの理由なんです」
ーーーーーー
ーーーー
ーー 〜決勝戦〜
侑 (なんか、あっという間に決勝に来ちゃった)
侑 「私とくに何もしてないや…」
せつ菜 「そんなことありません。ここは二人でたどり着いたステージですよ!」
侑 「そう言ってもらえるとありがたいよ」
姫乃 「やはり決勝に残ったのはお二人でしたね」
侑 「あれっ、確か藤黄学園の…」
涼 「涼と姫乃です。改めてよろしくお願いします」 姫乃 「主催の私たちが決勝進出なんて、なんだか申し訳ないような気もしますが…」
せつ菜 「いえ、お二人ともかなりの打ち手と聞いてましたから。決勝はこの対決になると思ってましたよ」
涼 「あのせつ菜さんに、そこまでの評価を貰えるなんて、嬉しいわ。では、始めましょうか」
侑 「このオーラ…! これは苦戦になる予感…!」
《対局開始》
東家:涼 南家:せつ菜 西家:侑 北家:姫乃
東一局、涼の親。ドラは2 せつ菜 捨牌
51南❸❶12
姫乃 (序盤からピンズ、ソーズの連打。見え見えのマンズ混一色ですね……。ならば!)
涼 「…………。」コクッ
涼 打:2
侑 (…この二人まさか、無言でコミュニケーションを?)
姫乃 (涼さんにはマンズと字牌を抱えてもらいます。そう易々と、高打点はアガらせませんよ!)
涼 (そしてせつ菜さんの手が詰まっているうちに、姫乃にアガらせる…!) 数巡後──。
姫乃 「ツモっ! 3000-6000!」
侑 (うっ…先を越された!)
せつ菜 「……なるほど」
姫乃 ツモ
二三四234❷❸❹❺❻❽❽ ツモ:❹
タンヤオ・ピンフ・ツモ・三色・ドラ1 / 3000-6000
姫乃 : 37000(+12000)
涼 : 19000(-6000)計 56000
せつ菜 : 22000(-3000)
侑 : 22000(-3000)計 44000 東二局、せつ菜の親。ドラは❸
せつ菜 捨牌
三八❷❻❺一
姫乃 (今度はソーズの混一色狙いですか。先を越されたばかりなのに、随分と欲張りですね)
涼 (姫乃、どうする?)
姫乃 (今度は私が字牌とソーズを止めます。アガり役はお願いします)
涼 (了解!)打:8
侑 (すごい、この二人! 無言なのに、完璧にコミュニケーションが取れてる。私と歩夢でさえ、ここまでのコミュニケーションは難しいのに!)
姫乃 (私たちが一緒に打った時間は、優に五百時間を超えます)
涼 (姫乃の考えてることなんて、目線だけで手に取るようにわかるわ!) せつ菜 「…混一色は、もう厳しそうですね」
侑 (…? せつ菜ちゃん?)
次巡──。
せつ菜 打:北
更に次巡──。
せつ菜 打:北
せつ菜 (もっと…もっと高く!)
せつ菜 打:北
姫乃 (北を三連打!? まさか、せつ菜さん…!) 涼 「…やるね。流石は現役女子高生最強…」
侑 (せつ菜ちゃん、混一色を止められたと察知して、諦めるんじゃなく、むしろ逆!)
13巡目──。
せつ菜 手牌
112345567789東 ツモ:5
せつ菜 「私の麻雀に、降りなんて存在しません! リーチ!」 打:東
せつ菜を中心に広がっていた、燃え盛る炎の景色はさらに拡大する。卓はおろか、会場全体を包み込むように、あちこちから炎や溶岩が吹き出す。
その炎たちは竜巻のようにせつ菜の体を包み込む。この場の流れを支配している人物…それは誰が見ても明らかだった。 涼 (おそらく清一色テンパイ! 有り得ない、ソーズは姫乃が抱え込んでるはず!)
姫乃 (ダメです…。配牌以降、ソーズが一つたりとも私の手元に来ませんでした…)
涼 (どういうこと…? 運がいいなんてレベル、遥かに超えている…!)
姫乃 (不思議な感覚。まるでせつ菜さんの欲しがっている牌が全て、炎と共に……)
──せつ菜の手元に、導かれているよう。
せつ菜 「これで…決まりです!」
侑 (また腕に炎の渦が! 一回戦と同じだ、せつ菜ちゃんが待ち牌をツモる時は、絶対に炎が宿る!) 姫乃 (腕に炎……つまり……!)
せつ菜 「一発ツモッ!!!」
せつ菜 ツモ
1123455567789 ツモ:5
リーチ・一発・ツモ・清一色 / 8000オール
姫乃 : 29000(-8000)
涼 : 11000(-8000)計 40000
せつ菜 : 46000(+24000)
侑 : 14000(-8000)計 60000 〜数十分後〜
侑 (最初は苦戦になるかも、と思ってたけど)
南三局 終了時点
姫乃 : 15700
涼 : 1800 計 17500
せつ菜 : 51800
侑 : 30700 計 82500
侑 (一、二回戦と同じ…。圧倒的な点差でもうオーラスか)
侑 (でもオーラスは姫乃さんの親。下手に振り込めば逆転される可能性だってある)
侑 (私かせつ菜ちゃんが1000点でもアガれば終わり。優勝がかかってるんだ、ちゃっちゃとアガって決めにいこう) オーラス、姫乃の親。ドラは9
侑 手牌
二八358❶❷❼❼東北白中
侑 (ぅぐ…。早くアガりたい時に限ってこの配牌。バラバラじゃん…)
侑 (こうなったら頼みはせつ菜ちゃん…)
せつ菜 「…………!!!」
侑 「うぁ…あっつ……」
侑 (何この熱気…!? 東二局で清一色をアガった時の比じゃない!)
せつ菜 (1000点でもアガれば優勝。そんなことは分かっています) せつ菜 (でもダメなんです…! みんなが求めている私の麻雀…“優木せつ菜の麻雀” は…!)
せつ菜 (みんなに、麻雀を好きになってもらうために!!!)
12巡目──。
姫乃 「リーチですっ!」
侑 (来たっ! 絶対に振り込めない親のリーチ!)
侑 (まだ二向聴。ここは降りよう…勝負は次局)
せつ菜 「……!」 打:八
侑 「えぇっ!?」
姫乃 「…逆転されるかもしれないこの局面、一打目に危険牌ですか」 侑 「せつ菜ちゃん…! どうして…!」
せつ菜 「…アタリ、ですか?」
姫乃 「……いえ、通しです」
侑 「ふぅ……」
侑 (なんであんな危険牌を即で…。通ったからいいものを…)
侑 (私は安牌を…)打:❺
ーーーーーー
ーーーー
ーー 〜観客席〜
かすみ 「何回観てもヒヤヒヤします…せつ菜先輩の麻雀は」
彼方 「でも絶対に当たらない。あれはせつ菜ちゃんに与えられた力だからね」
しずく 「力…」
彼方 「そう。せつ菜ちゃんが血も滲むような努力で身につけた力、そして運」
エマ 「それが、観る人を惹き付けるんだよ!」
歩夢 「…………すごい!」
しずく 「そして危険を顧みず進むからこそ…辿り着く。常人ではたどり着けない境地に…!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー 15巡目──。
せつ菜 (来ました…っ!!!)
せつ菜 手牌
一九19❶❾東東南南西白中 ツモ:北
せつ菜 打:南
涼 「…本当に、すごい麻雀を打ちますね。せつ菜さんは」
せつ菜 「これが、私の麻雀ですから」
侑 (…! ここに来て、安牌の南! てことは…)
姫乃 (…たどり着きましたね、せつ菜さん)
侑・姫乃 ((国士無双、テンパイ……!)) せつ菜 (国士無双、發待ち!)
せつ菜 (ですが、發はもう場に三枚捨てられている。つまり、後は山に一枚のみ!)
続く侑は安牌を変わらず連打。姫乃も待ち牌をツモれず、ツモ切り。涼はせつ菜の安牌を切る。
せつ菜 (…感じます。こんなに私の体が熱を帯びたのは、いつ以来でしょう)
侑 「あっつ……! うわぁっ!?」
いつの間にか背後に現れた火山が噴火する。心臓ごと揺さぶられるような振動を感じた侑は、手牌が倒れないよう慌てて両手で抑える。 せつ菜 (見ててください、侑さん、みなさん!)
あちこちから再び炎が吹き出し、せつ菜の体を包み込む。そして腕に渦巻いた炎が、せつ菜の指先を赤く照らす。
侑 (ツモる直前のこの光景! 来た…!)
涼 「…ここまで、ですかね」
せつ菜 (これが私の…優木せつ菜の麻雀です!) …………異常事態は、せつ菜がツモ牌に指を触れた、その時に起こった。
あれほど激しく地を鳴らしていた火山の噴火はピタッとやみ、それだけではなく、せつ菜を中心に広がっていた炎の幻想は見る影もなく消えた。
腕に渦巻いていた炎は、小さな火の粉となり、先程までの熱気が嘘のように、残酷な冷気がせつ菜を襲う。
侑 (……? せつ菜、ちゃん?)
せつ菜 「……! …………っ」
せつ菜は震える手でツモ牌をつまみ、指の腹で牌の図面をなぞる。
そしてそのまま、せつ菜の指は力を失い…………
──捨牌の場所に、ツモ牌を落とした。 侑 (…ツモれなかった? しかもこれは…)
せつ菜 打:一
侑 (まだ…通ってない牌!!)
姫乃 「…………神がかった麻雀も、長くは続かなかったようですね」
侑 「まさか…」
姫乃の手牌は、ゆっくりと。残酷に。
倒され、その全貌を明らかにした。
姫乃 「…ロンです」 せつ菜 → 姫乃 ロン
一二二三三12399❶❷❸ ロン:一
リーチ・ピンフ・一盃口・三色同順・純チャン・ドラ2
侑 (…っ!! でも倍満、24000! まだギリギリ私たちが勝ってる、勝負はまだこれから…)
姫乃 「……裏ドラが」
姫乃が裏ドラを捲ると、姿を現したのは8。
つまり、ドラはまたしても9。 侑 (…裏が乗って親の三倍満。つまり…)
一二二三三12399❶❷❸ ロン:一
リーチ・ピンフ・一盃口・三色同順・純チャン・ドラ2・裏2 / 36000
姫乃 : 51700
涼 : 1800 計 53500(勝)
せつ菜 : 15800
侑 : 30700 計 46500
せつ菜 「…………。」
侑 「私たちの、負け……?」
ーーーーーー
ーーーー
ーー 〜観客席〜
かすみ 「…嘘です」
しずく 「かすみさん…」
かすみ 「嘘です、嘘です嘘です嘘です!! あそこでせつ菜先輩が發をツモれない訳ありません! インチキです、藤黄が何かしたんです!!」
エマ 「かすみちゃん! 落ち着いて!」
かすみ 「せつ菜先輩が負けるはずないんです! だって、だって……!!」
「せつ菜さんの対局、楽しみにしてたけど…」
「最後無駄に放銃して、期待はずれだったね」
かすみ 「ッ!!! 訂正してください! 期待はずれってなんですか!! せつ菜先輩は誰よりも、誰よりも…っ!!!」 彼方 「かすみちゃん、だめっ!」
「えっ…何?」
「せつ菜さんと同じ学校の人だよ。怖っ…行こ」
かすみ 「待ってください! まだ謝罪の言葉を聞いてませんよ!!」
しずく 「かすみさん…」
かすみ 「せつ菜先輩は誰よりも、誰よりも…」
かすみ 「カッコよくて……強いんです……っ…!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー 抑えるべきところは抑えるのも麻雀だからなあ。観戦時はそこを止めるの!?みたいなのも魅力だし 〜休み明け 放課後〜
エマ 「…どう?」
しずく 「ダメです。全然出ません」
彼方 「部室に来ないどころか、電話にも出ないなんて…」
かすみ 「…………。」
エマ 「心配だね……」
侑 「大変だよっ!!」 ガチャッ!
しずく 「侑さん、歩夢さん」
歩夢 「私たち、せつ菜ちゃんを迎えに行こうと思って、あちこち教室をまわってたんだけど…」 侑 「いなかったんだよ…」
彼方 「そっか、学校にも来てなかったか…」
侑 「違うよ! そもそも、優木せつ菜って名前の生徒がいなかったんだよ!!」
しずく 「ど、どういうことですか!?」
歩夢 「言葉のままの意味だよ。どのクラスにも、優木せつ菜ちゃんって子は在籍してなかった」
侑 「それで、エントランスにあるトロフィーを見てきたんだ」
エマ 「トロフィー?」 侑 「せつ菜ちゃんが、高校生大会で全国制覇した時のトロフィー。目立つところに飾られてたのに、賞状は見つけづらいところにあった」
歩夢 「先生に言ったら、貸してくれたんだ。……これ、見て」
賞状には、受賞者の名前が刻まれていた。
彼方 「優勝……中川菜々」
しずく 「たしか、生徒会長の!?」
侑 「正式な大会だから、本名じゃなくちゃいけなかったんだ。つまり、優木せつ菜は偽名で…」
エマ 「なんで…会長さんが? 名前まで変えて…」
かすみ 「そんなことどうでもいいですっ!!」 歩夢 「かすみちゃん…」
かすみ 「じゃあ会長に会いに行きましょう! きっと、生徒会室にいるはずですよね!?」
侑 「だめだよ…かすみちゃん」
かすみ 「どうしてっ…!」
歩夢 「せつ菜ちゃん……菜々ちゃんは、今日から休学になってる。もう学校には、しばらく来ないみたい」
かすみ 「きゅう……がく……?」 彼方 「そんな…彼方ちゃん達、何も聞いてない」
しずく 「せつ菜さん、そんなに責任を感じて…?」
エマ 「…! ねぇ、あれって?」
エマが指さしたのは、せつ菜のロッカー。
扉は閉まっているが、隙間から何かがはみ出ていた。
侑 「これって……」
歩夢 「手紙だ…せつ菜ちゃんからの」
侑 「『麻雀同好会のみなさんへ』。……読んでみよう」 侑が手紙の封を開けようとしたその時、かすみがその手紙を強引に奪い取った。
侑 「!? かすみちゃん…?」
かすみ 「ダメです…読まないでください!」
歩夢 「何を言ってるのかすみちゃん、せつ菜ちゃんが残した手紙なんだよ、読まなくちゃ」
かすみ 「ダメなんです! …どうせ、かすみんへの悪口が書いてあるに決まってるんです!」
侑 「え……? それって、どういう…」
かすみ 「…………からです」
侑 「えっ、なんて…?」 かすみ 「……かすみんの……せいだからです」
歩夢 「かすみちゃん?」
かすみ 「かすみんのせいなんですっ!! こうなったのは…! あの時、せつ菜先輩の炎が消えたのも、全部かすみんのせいなんですっ!!!」
侑 「かすみちゃん!? 待って!」
かすみはそう言って、手紙を持ったまま部室から飛び出してしまった。残された同好会メンバーには、かすみの言葉が理解出来なかった。
侑 「……追いかけよう」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
つづく 明日は投下をお休みさせていただきます
明後日、最終話です。ぜひ最後までお付き合いください。よろしくお願い致します 最終回…!?
愛さん、りなりー、果林先輩はどうすんだよ!
おい、返事しろよ!!! 最終回マジか
寂しいけど読み返しやすいボリュームで嬉しい 【最終話】『強くて、可愛い』
せつ菜 『…大事な話、ですか?』
ほとんど使われてない教室に逃げ込んだかすみが思い出していたのは、大会の出場者を決める対局をした日のこと。
二人きりの部室で、帰ろうとするせつ菜を引き止めたかすみは、涙を瞳に滲ませながらせつ菜に訴えかけていた。
かすみ 「強く、なりたいんです」
せつ菜 「何を言ってるんですか。同好会に入ったばかりの時に比べたら、格段に強く…」
かすみ 「その程度じゃダメなんです!!」 せつ菜 「っ…! かすみさん…?」
かすみ 「最近、分からなくなってきたんです。かすみんが同好会にいる意味ってなんだろうって」
せつ菜 「そんな…。かすみさんがいてくれるおかげで、雰囲気も明るくなってすごく楽しいですよ」
かすみ 「しず子との対局の時だって!!」
せっかく慰めてくれているせつ菜の言葉を半ば遮って、心の内を涙とともにぶちまける。
かすみ 「しず子がアガれないなら、かすみんがさっさとアガればよかった…!」
かすみ 「彼方先輩の時なんて、手も足も出なくて…。何をするにも先を越されて…!」 かすみ 「大会出場の枠まで、新入部員の侑先輩に譲って…!」
かすみ 「不甲斐なくて…っ……情けなくて…!」
かすみ 「かすみんは、強くて可愛い雀士になりたいんですっ!!」
かすみが人前でここまで感情を顕にするのは、珍しいことであった。現にせつ菜も、かすみの秘めていた思いを、ただ黙って受け止めるのに必死だった。
かすみ 「…せつ菜先輩。かすみんに、麻雀を教えてください」
せつ菜 「私が、ですか?」
かすみ 「せつ菜先輩と打ちたいんです…!! 本気のせつ菜先輩と打って、かすみんも誰かの役に立てるくらい、強くなりたいんです!」 せつ菜は少し考えたあと、かすみの眼をまっすぐ見つめて、いつも以上に真剣な表情で話す。
せつ菜 「かすみさん、ごめんなさい。私では…」
かすみ 「…能力に、“限度”があるからですか?」
せつ菜 「あれ…私、言ったことありましたっけ?」
かすみ 「エマ先輩の対局の後、自分で言ってましたよ」
せつ菜 『エマさん、それ以上能力を無駄遣いしないでください。“私と同じで、限度がある”能力なんですから』
せつ菜 「あはは…うっかりしてました…」 かすみ 「かすみんがこれ以上強くなるためには、せつ菜先輩の力が必要なんです!」
せつ菜 「私の力…?」
かすみ 「本気の先輩に本気でぶつかれば、掴める気がするんです! かすみんに足りない何かが!」
せつ菜 「……かすみさんは、どうしてそんなにも強くなりたいと思うんですか?」
かすみ 「…笑わないでくださいよ」
かすみは少し躊躇い、せつ菜から少し目を逸らして言葉を続ける。 かすみ 「…かすみんがアガれなかった時、牌が泣いているように見えるんです」
せつ菜 「牌が泣いている…?」
かすみ 「せっかくかすみんの元に来てくれたのに、かすみんが弱いせいで無駄になって…」
かすみ 「牌の泣き声が聞こえるんです。役に立てなかった、って! 悪いのはかすみんなのに!」
せつ菜 「かすみさん…」
かすみ 「かすみんが弱いせいで、大好きな麻雀に悲しい思いをさせるなんて、もう耐えられないんですっ!!」
せつ菜 「…かすみさんは本当に、麻雀が大好きなんですね」 かすみ 「無理なお願いなのは分かってます! でも…っ、一度でいいんです。お願いします…!」
せつ菜 「無理なお願い……。確かにそうですね」
せつ菜はそう言いながら、麻雀卓の方に歩み寄る。伏せられた牌に手を伸ばすと、その腕に炎が渦巻く。
伏せられたまま牌を十三枚選び抜き、手元に並べる。並べられた牌は眩く輝いていた。
せつ菜 「…私の能力は言うなれば」
──せつ菜が手牌を開く。
せつ菜 手牌
一一一二三四五六七八九九九
せつ菜 「『運の前借り』なんです」 かすみ 「運の前借り…?」
せつ菜 「私は今後の人生に訪れる幸福や、運を前借りして、瞬間的に“今”の自分の運を最大限に高めることができます」
かすみ 「それって、自分の未来を犠牲にしてるってことですか?」
せつ菜 「…そういうことになります」
かすみ 「どうしてですか!? どうしてそこまでして…」
せつ菜 「そうですよね。今後の人生そのものを捧げて麻雀を打っている訳ですから、おかしいと思うのが普通の感覚です」 かすみ 「じゃあなんで!」
せつ菜 「…恩返しなんです、麻雀への」
せつ菜 「私の夢は、麻雀の楽しさを多くの人に知ってもらうことです」
かすみ 「麻雀の楽しさを…?」
せつ菜 「私の人生がこんなにも熱く、輝かしく、そして希望に溢れたものになったのは、麻雀のおかげなんです」
せつ菜 「私の人生をここまで楽しくしてくれた麻雀。私に出来る恩返しは、もっとこの楽しさを、多くの人に広めることだけです」 せつ菜 「この炎は、そんな情熱を現したものなんです。私の心に灯る炎、そのものなんです」
かすみ 「…かすみんでも、強くなれますか?」
せつ菜 「もちろん。熱い気持ちがあれば、絶対に想いは届きますよ」
かすみ 「せつ菜先輩…っ」
せつ菜 「さ、かすみさん。座ってください」
かすみ 「えっ」
せつ菜 「特訓、するんでしょう? 他のみんなには秘密ですよ」 かすみ 「で、でも! せつ菜先輩は自分の未来を犠牲にして…!」
せつ菜 「いいんです。かすみさんのためなら」
かすみ 「かすみんのためなら…?」
せつ菜 「言ったでしょう、これは恩返しだって。私のこの炎が、麻雀を愛してくれる人のために使えるなら、本望です」
かすみ 「でもっ」
せつ菜 「心配しないでください! 私の心の炎は、そう簡単に消えたりしません!」
かすみ 「せつ菜先輩っ…ありがとうございます」 部活が終わった後の、二人だけでの秘密の特訓。
一対一の麻雀、それはツモるのも捨てるのも、通常の二倍。だからこそ考えさせられ、判断の勉強にもなった。
せつ菜は、常に全力だった。
たとえ練習でも、炎を絶やすことは無かった。かすみの全力に応えるため、炎を惜しみなく使い続けた。
──結果、その炎は、最悪のタイミングで尽きることとなった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー 侑 「いた! かすみちゃん!!」
かすみ 「っ!?」
教室の扉を勢いよく開け、かすみの姿を確認した侑は大声で名前を呼びながら駆け寄る。それに続いて、同好会のメンバー全員が教室に入る。みんな、心配そうにかすみを見ている。
侑 「…ねぇ、かすみちゃん。大丈夫?」
かすみ 「大丈夫なわけないです。自分のせいで先輩が休学したんですよ」
歩夢 「かすみちゃん、何か知ってるの? せつ菜ちゃんがああなった理由…」 かすみ 「…せつ菜先輩は、運を使い果たしたんです」
しずく 「使い果たした?」
かすみ 「せつ菜先輩の能力は、運の前借りです。使うのにも限度があるんです」
歩夢 「運の前借り…」
かすみ 「せつ菜先輩は自分の未来の運を使って、自分の運を高めてたんです。あの炎は、その運が形になったものです」
歩夢 「でもちょっと待ってよ! それって、自分を犠牲にして打ってたってことじゃ!?」
侑 「だから公式戦でしか打たなかったんだ。運を浪費しないように…」 かすみ 「そうです。そのはずだったんです。なのにかすみんが無理を言ったせいで…! かすみんが二人だけで特訓したいなんて言ったから!!」
かすみ 「せつ菜先輩は運を使い切ったんです! あのツモの瞬間、せつ菜先輩の運は尽きて、そのまま放銃して…負けて…!」
エマ 「そんな…」
かすみ 「かすみんが特訓に付き合ってなんて言い出さなければ、まだせつ菜先輩の炎は残ってたんです!! 全部全部、かすみんのせいなんです!」
かすみは大声をあげて泣き出した。皆しばらく呆然としていた。せつ菜が自身の未来を犠牲にして打っていたという事実、そしてかすみの自責の念。それらは簡単に受け止めきれるものでは無かった。
侑 「ねぇ、かすみちゃん。まだ入部して日の浅い私が言うのもなんだけどさ」 かすみ 「…なんですか」
侑 「せつ菜ちゃんは、そんなことでかすみちゃんを責めるような人じゃないと思うんだ」
彼方 「そうだよ。せつ菜ちゃんだってきっと分かってた。こうなる可能性もあるって」
かすみ 「でもっ」
侑 「ずっと同好会にいるかすみちゃんなら、分かると思う。せつ菜ちゃんの気持ちの強さ。それに、二人だけで練習もしてたんでしょ?」
かすみ 「せつ菜先輩の気持ち…」
歩夢 「受け止めてあげようよ。せつ菜ちゃんの残した、その想い」 かすみは手紙をしばらく見つめる。涙をポロポロと零しながら、ついに封を開けて中身を取り出し、内容を読み上げていく。
『麻雀同好会のみなさんへ
申し訳ありません。直接会ったら名残惜しくなってしまいそうで、このような形でお別れを言うことにしました。』
かすみ 「…なんでせつ菜先輩が謝るんですか」
手紙には、せつ菜の能力のことが書かれていた。
自分の未来の運を使っていたこと、そしてそれが尽きたこと。そして、そのせいで敗北した事への謝罪。
かすみとの特訓については一切触れず、そしてもちろん、かすみを責めるような文言は一文字もなかった。 『私はしばらく休学しますが、麻雀を辞めたりはしません。再び心の炎を灯して、まだ戦えると証明できるほど強くなって、きっとまた帰ってきます。どうか私の事、忘れないでください』
侑 「忘れるわけ…っ……ないよ…」
『最後に、同好会メンバーひとりひとりに、伝えたいことがあります。まず、彼方さん』
『あなたの麻雀を打っている時の笑顔が大好きでした。本当に楽しそうで、普段の様子からは考えられないほどハキハキしていて。もう、練習中に寝たらダメですよ?』
彼方 「…がんばるよ、えへへ」 『しずくさん。あなたにはいつも苦労ばかりかけていました。彼方さんを起こしたり、かすみさんを叱ったり。厳しくしすぎたと悩んでたことも知っていました。でも、みんなあなたの事が大好きですよ』
しずく 「…っ……ありがとう…ございます……!」
『エマさん。あなたの優しい歌声にいつも癒されていました。でも、能力は無駄遣いしたらダメですよ? それと…“あの人”を一日でも早く、同好会に迎えてあげてください。それがあの人にとって、きっと救いになるはずです』
エマ 「うん…っ、ありがとう。まかせて」 『歩夢さん。あなたの秘めていた強さには驚かされました。きっとあなたは、同好会を更に上のステージへ導いてくれる。そう信じています。だからもう、大好きの気持ちを隠さないでください』
歩夢 「うん……っ……うん…!」
『侑さん。あなたが私を見て麻雀を始めたと言ってくれた時、飛び上がってしまうくらい嬉しかったです。私の大好きが届いた瞬間でした。私のやってきたことは間違いではなかったと、あなたが証明してくれました。これからもあなたの気持ちを、沢山麻雀にぶつけてください。あなたには、底なしの可能性を感じます』
侑 「せつ菜ちゃん…っ……」 『──そして、中洲かすみさん』
かすみ 「っ……」
『かすみさんには、二つお願いがあります。
まず一つ目。
私の代わりに部長になってください。
麻雀を愛する気持ちで、かすみさんの右に出る者はいません。私は知ってました、かすみさんが放課後こっそり、牌や卓の掃除を毎日していてくれたことを。
だからきっと、牌の声が聞こえたんだと思います。麻雀にまっすぐ向き合ったかすみさんだからこそ、牌も応えてくれたんです。
部長には、かすみさんのような人が一番相応しいです』 かすみ 「かすみんが……部長……っ…?」
かすみが視線を向けると、みんな黙って頷いた。異論なんて、あるはずがなかった。
『そして二つ目。
かすみさん、私の想いを継いでください。
麻雀を心から愛するあなたになら出来ます。その大好きな気持ちを麻雀にぶつけて、見る人を魅了してください。そして世界中に、麻雀の楽しさを伝えてください!
かすみさんの心にも、きっと炎は宿っているはずです。その熱い想いが、輝かしい未来に繋がることを、祈っています』
かすみ 「……っ…うぅ……うぁぁ…っ…!」 最後まで読み切る前に、かすみはその場に膝をついて泣き崩れた。手紙に涙が染み込んでいく。
侑はかすみに歩み寄り、そっと頭を優しく撫でた。手紙を拾い上げ、最後の一枚を読み上げる。
侑 「──そして、最後に」
『そして、最後に。
私は、みなさんと一緒に打つことがあまり出来ませんでしたが、同好会での日々が本当に楽しかったです!
もし、また同好会に戻ることが出来たら。
今度はみなさんと一緒に楽しく、何十時間でも何百時間でも、ずっと打っていたいです。
──私は、みなさんの麻雀が、大好きです!』 侑 「…スクールアイドル同好会、優木せつ菜より」
手紙を読み終え、皆その場で涙を流し続けた。
溢れ出る涙を必死に抑え、一番初めに言葉を発したのはかすみだった。
かすみ 「みなさん…」
侑 「かすみ…ちゃん…?」
かすみ 「……一局、打ちませんか?」
その言葉に、みんなの顔が一斉に明るくなる。
彼方 「…じゃあ、早い者勝ちだ〜。いっそげー!」 しずく 「あぁっ、ずるいですよ彼方さん! 私だって!」
かすみ 「あぁっ!? かすみんが言い出したのに! 置いてかないでください!!」
同好会の部室に向かって走り出す。結局、かすみはビリだった。だが、卓の席は一つ空いていた。
かすみ 「…えっ」
侑 「ほら、部長。座って」
かすみ 「…ありがとうございます」
エマ 「対局開始ー! いっくよー!」 《対局開始》
東家:エマ 南家:彼方 西家:かすみ 北家:侑
東一局、エマの親。ドラは❺
「〜〜♪」
エマが歌うと同時に、広大な草原が部室の景色を塗り替える。
かすみ 「…本気、ですね! エマ先輩!」
エマ 「もちろん。かすみちゃんの本気には、私の本気で応えるよ!」
一巡目 かすみ 手牌
三四五六八3533459南 かすみ (エマ先輩のこの圧倒的な力…。侑先輩と歩夢先輩の二人がかりでも勝てそうになかった)
かすみ (そんな先輩にかすみんが勝つには…)
せつ菜 『かすみさんの心にも、きっと炎は宿っているはずです』
かすみ 「…そうですよね。牌はきっと、応えてくれます」
……かすみがツモ牌に手を伸ばす。
その瞬間、明るかったはずの部室が突然暗闇に染まる。そしてかすみの背後に現れたのは──。
侑 「……なに、あれ」 彼方 「鳥…?」
それは、巨大な鳥。羽の一枚一枚全てが赤く燃え盛り、眩い輝きが暗闇を照らす。その姿は伝説上の生物──不死鳥そのものだった。
不死鳥から放たれた炎が、辺り一面に広がっていた草原を赤く塗り替える。そしてツモ山に伸びるかすみの腕に、不死鳥が一体化する。
炎が腕に渦巻き、かすみの手牌、そして触れる牌全てが目を眩ませるほどの輝きを放つ。
かすみ (…聞こえる、牌の声が)
かすみ ツモ番
三四五六八35❸❸❹❺❾南 ツモ:❹ かすみ (もう目を背けない。かすみんの熱い想いを、全部ぶつける!)打:❾
侑 「……これって、もしかして」
辺りに広がっていたのは、まさにせつ菜が支配していたあの空間、そのものだった。
いつの間にか現れた火山から炎が吹き出し、その勢いはかすみがツモる度に強くなる。
エマ ツモ:❼
エマ (っ! 緑の牌が、来ない!)
かすみ 「せつ菜先輩の想いは、絶対にかすみんが受け継いでみせます!」
かすみ 手牌
三四五六八35❸❸❹❹❺南 ツモ:4 かすみ (見ててください、先輩!)打:南
彼方 (すごい迫力…! せつ菜ちゃんと同じ、いやそれ以上…!?)
かすみ 「これがかすみんの、麻雀ですっ!!」
かすみ 手牌
三四五六八345❸❸❹❹❺ ツモ:八
かすみ 「リーチッ!!!」 打:六
宣言牌を叩きつけると、火花が舞い散る。
場はかすみの熱に支配されていた。そしてその気迫に、圧倒されていた。それは、観戦している二人にとっても同じであった。
──かすみがツモ山に手を伸ばす。
腕に渦巻く炎はさらに勢いを増し、辺りを赤く照らす。 かすみ (これはせつ菜先輩、そしてかすみんの)
かすみ 「心の炎ですっ!!!!」
侑 「まさか…!」
彼方 「…!」
エマ 「かすみちゃん…!」
かすみ 「ツモッ!!!!!!」
かすみ ツモ
三四五八八345❸❸❹❹❺ ツモ:❺
リーチ・一発・ツモ・タンヤオ・ピンフ・三色同順・一盃口・ドラ2 かすみ 「…裏ドラは、ふたつ!!」
侑 「さ、三倍満…!? たった4巡で!?」
しずく 「これが、かすみさんの麻雀!」
……かすみの炎は、終局まで途切れることは無かった。
かすみ 「…繋ぎましたよ。せつ菜先輩の心」
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ーーーー
ーー 【エピローグ】
あれから一週間。
彼方 「そういえば今日だね、新生徒会長の発表」
歩夢 「緊急代理とはいえ、学校から直々に指名されるなんてすごいよね。どんな子なんだろう」
エマ 「噂だと、一年生の子みたい」
かすみ 「えぇー!? もしかしてかすみん…」
しずく 「絶対にないです」 せつ菜の休学願は正式に受理された。
優木せつ菜はみんなの前から完全に姿を消したが、彼女の残したものはとても大きかった。
彼女の大好きの気持ちは、これから多くの人々を突き動かすこととなる。
……そう、これはほんの序章。
愛 「その動画、麻雀だ。りなりー好きなの?」
璃奈 「たまたま見て、面白そうって思った」
愛 「ふーん、優木せつ菜か…カッコイイじゃん」
後に“伝説”と称され、麻雀が若い世代に広く知られるきっかけとなった雀士。 『おぉーっと、せつ菜選手! 鮮やかなツモアガりだーー!!!』
果林 「…………。」
エマ 「果林ちゃん、帰ろ?」
果林 「っ! え、えぇ。行きましょ」
エマ 「…何、見てたの?」
果林 「なんでもないわ。ほら、急ぎましょ」
エマ 「果林ちゃん…」
その誕生の第一幕。 ──勝負の世界に魅せられた、少女がいた。
これは、“麻雀”の世界で長く語り継がれることとなった、伝説の女子高生雀士の物語である。
その少女の名は──。
かすみ 「さぁみなさん、始めますよ!」
歩夢 「…よしっ!」
侑 「今日は勝つぞー!」
「「「「「「対局開始!!!!」」」」」」
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ーー 【SS】歩夢 「開花宣言❁嶺上開花」
〜1st Season〜
[完] 涙が止まらない
主人公かすみだったか
ラブライブのアニメで言うと一期的な立ち位置やな これにて 1st Season 完結です
途中でのレスやイラストなど、とても励みになりました。最後までお付き合い、本当にありがとうございました。
これを機に、麻雀の楽しさがもっと広まればと思います。
2nd Season、書き進めてますので今暫くお待ちください。 めっちゃ面白かった。素晴らしいSSをありがとう。せつ菜ちゃんが雀鬼流を極めて帰ってくるのを待ってるね。 めっちゃ面白かった
2nd seasonも楽しみにしてるよ 傑作でした!ありがとうございました!
それから失礼ですが、中国語に訳させてもらえませんか? 2nd seasonありがとう!!!!!
葬儀屋の人だったのか
あれめちゃめちゃ好きだった >>391
私は全然構いませんよ。ありがとうございます
誤字とかあったらすいません 本当にお疲れ様でした
まだ今年始まったばかりだけど、個人的に年内トップ10には入るSS 運の前借りって鬼滅のアザみたいな感じか。かすみんも跡を継いで心を燃やしてるしせつ菜が煉獄さんみたいだね >>399
かすみんとせつ菜ちゃんの関係は『炎』を聴きながら考えてました。結構参考にした部分は多いです >>402
一応三月までを目標に書き進めてます
多分別スレになります。書き上がったら続編だとわかるスレタイで建てますので、その時はまたよろしくお願いします ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています