しずく「かすみさん、>>3」
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しずく「かすみさん、元気ですか?」
かすみ「あ…あっ…あっ」
しずく「こないだ会った時よりも元気そうですね」
かすみ「あっ…あ…」
しずく「私?私はこの通り元気ですよ」
かすみ「あ…あっ…あっ…」
しずく「同好会の皆さんも相変わらずです」
かすみ「あっ…あ…」ニコッ
しずく「かすみさんが帰ってくるのを、皆さん待ってますよ」
しずく「……私も、ずっと待ってます」
かすみ「……あ、あ、あ」
しずく「そんな、謝らないでください」
しずく「かすみさんは何も悪くありませんから」
しずく「何も━━━悪くありませんから」 「桜坂さん、ごめんなさいね。これからかすみちゃん、リハビリのお時間になっちゃうの」
しずく「あっ…そうでしたか。突然押しかける形になって、すいませんでした」
かすみママ「いいのよ、お友達が来てくれてきっとかすみちゃんも喜んでるわ」
かすみママ「久々にかすみちゃんが笑ってるところ、見られたし」
しずく「……」
かすみママ「もし桜坂さんがよければ、またお話に来てくれないかしら?…かすみちゃん、あなたとだったら、もっとお話ししたいはずだから」
しずく「……分かりました」
しずく「私はこれで失礼します。じゃあ、またね。かすみさん」
かすみ「あっ…あ…あっ……」
━━━そして私は、かすみさんの入院している病院を後にしました 【翌日】【スクールアイドル同好会部室】
しずく「お疲れさまです」
侑「あ、しずくちゃん。お疲れさま」
侑「……かすみちゃん、どうだった?」
しずく「……かすみさんの様子は、悪化してはなさそうでした」
しずく「……回復してるわけでもなさそうでしたが」
侑「……そっか」
侑「ごめんね、しずくちゃん。しずくちゃん一人に行かせることになっちゃって」
しずく「そんな、気にしないでください」
しずく「かすみさん本人が、私を呼んだんですから」
侑「……退院の予定とかって、聞いたりしてる?」
しずく「……いえ、今のところは何も」
侑「……そっか」 侑「……病院に行っても、きっと話はできなさそうだよね」
しずく「……難しいと思います。病院側が面会拒絶と言ってましたし」
しずく「…当の本人であるかすみさんも、他の人とは会話どころか、メールすらできない状態…ですし」
侑「……そうだよね…」
侑「……本当は、昨日しずくちゃんじゃなくて、私が会いに行くべきだったんだ」
侑「謝らなきゃいけなったんだ」
しずく「……自分を責めるのはやめてください、侑先輩」
侑「だって!」
侑「言い出しっぺは私なんだから!」
侑「スクールアイドルフェスティバルやりたい、なんて言ったのは!」 『スクールアイドルフェスティバル』
スクールアイドルの、
スクールアイドルによる、
スクールアイドルのための、祭典。
その発案者である侑先輩を中心として、私たち虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、ひいては、私たちを応援してくれている多くの協力者のもと、その祭日をついに迎えることができた。
侑先輩の━━━いや、私たちの夢が叶った。
叶うはずだった。
その夢が、突如として悪い夢と化してしまった。
端的に言ってしまえば、『ライブ失敗』。
振り返ってみると、前日からかすみさんの様子はどこかおかしくて。
きっと、体調が優れていなかったんだろう。
それをかすみさんは、水を差したくなくて、この祭典を盛り上げる一心で、懸命に隠して。
そしてかすみさんのソロ曲を披露する番が回ってきて。
1番のサビを歌い切ったところで━━━かすみさんはステージに倒れた。
曲が流れ続ける中、かすみさんの歌声は断たれた。
━━━そして、かすみさんは声を失ってしまった。 スレタイでビンビンになったのに内容が重すぎて俺も言葉を失ったわ
ちんちんも倒れちゃったよ ━━━『失声症』。
ストレスやトラウマといった心的要因から、脳の言語野や発声器官に障害がないにもかかわらず、会話がままならなくなってしまう、精神疾患のひとつ。
かすみさんがそんな状態に陥ってるなんて、私たちは知る由もなくて。
搬送されたかすみさんの安否を確認するために、病室に駆けつけた私たちを見たかすみさんは━━━
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
耳をつんざくほどに大きな悲鳴をあげ、そこから逃げ去らんとばかりにベッドの上で暴れ回っていた。
そのかすみさんを力づくでも制止せんとする看護士。
一方で、何も出来ずにその場を立ち尽くしていた私たち9人。
その時はまだ、何が起きているのか理解できなかった。
一人の看護士から今すぐ帰るように強く説かれ、逃げるようにその場を後にした。
廊下を走っている最中、さっき見た光景が、聞こえた悲鳴が、何度も何度もリフレインされた。
ただ、その現実を脳は拒絶していた。
「これは悪い夢なんだ」
「私は今、悪夢の中にいるんだ」
「夢なら早く醒めてくれ。解放させてくれ」
そう願って、その場しのぎのように、私たちは出口へと向かったのだった。 >>1
まじでこんな安価想定してなかっただろうに.....
天才!? 侑「あのとき、病室にいるかすみちゃんを前にして、私は何もしてあげられなかった…!」
侑「それが、情けなくて…!悔しくて…!」
侑「こんなことになるなら、スクールアイドルフェスティバルなんて、やるべきじゃなかったって思っちゃうんだよ…!」
侑「部員一人の体調も気遣えないんだから…!」
しずく「……侑先輩、気持ちは分かります」
しずく「フェスティバルのことで頭がいっぱいで、かすみさんの異変に気付けなかったことは、私や皆さんも後悔しています」
しずく「ですが、調子が悪いのを黙ってステージに立ったかすみさんも、きっと自分の無茶な行為を後悔しているはずです」
しずく「全員が後悔していて、全員が反省するべきで、全員が抱えなきゃいけない問題なんです」
侑「しずくちゃん…」
しずく「だから、侑先輩。これだけは何度も言わせていただきます」
しずく「自分だけが悪いだなんて、考えないでください。一人で背負いこむのは、やめてください」
侑「……ありがとう、しずくちゃん。しずくちゃんは優しいね」 ガラガラ
歩夢「あっ……侑ちゃん、しずくちゃん」
せつ菜「お二人とも、ここにいたんですね」
しずく「歩夢さん、せつ菜さん…」
歩夢「しずくちゃん。かすみちゃん、どうだった…?」
しずく「……面会できたのは短い時間でしたが…
━━━━━━━
━━━━━
━━━
歩夢「……そっか。病室、移ったんだね」
しずく「かすみさんのお母さんの話だと、今いる病棟には、三週間前に移ったそうです」
しずく「なんでも、患者さんのリハビリの環境や設備が良く整っているみたいで……。こないだまでは一人で食事もままならなかったのが、今では何とか食べられるようになったそうです」
せつ菜「そうですか…。回復の見込みなし、といった最悪の事態は避けられたようで、そこは一安心ですね」
しずく「はい、ただ…」
歩夢「元通りのかすみちゃんにまで回復するにはまだ時間がかかりそう…ってことだよね?」
しずく「……はい」
歩夢「……そっか」
せつ菜「かすみさん本人がしずくさんを呼んだということは、割りかし早く回復に向かってるのではと思いましたが……話を聞く限り、まだ時間がかかりそうですね」 どうせかす虐かケツコッペとかの変態系のやつだろうと思って開いたらめちゃくちゃ重くて草 せつ菜「…ところでしずくさん、私が個人的に少し気になっている事があるのですが…」
しすく「…? どうしました?」
せつ菜「かすみさんは、何故しずくさんだけを呼んだのでしょうか?」
しずく「…え?」
せつ菜「昨日、かすみさんから呼ばれたと言ってましたよね? 正確には、かすみさんのお母様から」
しずく「はい…突然電話がかかってきて、『かすみさんがメモ紙に私の名前を書いて、この人に会いたがってるから来てほしい』、といったことを言われまして…」
歩夢「それは無理ないよ…。いくらご両親や看護士さんがいるとはいっても、一ヶ月近くもずっと一人で部屋にいたら、寂しくなっちゃうよね……」
せつ菜「確かに、かすみさんとしずくさんの仲が睦まじいことは知ってます。顔が見たい、話したいと思ったのかもしれません。一ヶ月も病室に居れば尚更でしょう」
せつ菜「ですが、かすみさんはしずくさん以外の人とは今でも避けている状態にいます」
せつ菜「しずくさんだけを面会に通した。そこには何か別の目的があったのでは━━━━というのは、考え過ぎでしょうか」
しずく「別の目的……ですか」
しずく(かすみさんが呼んだのが私だった、その理由。せつ菜さんに言われるまで、今まで考えたこともなかった)
しずく(もし、かすみさんは自分のせいでスクールアイドルフェスティバルをぶち壊したと考えてるとしたら、同好会のメンバーに顔向けできないと思ってても不思議じゃない)
しずく(だけど、かすみさんは同好会メンバーに会う必要があった。そして私の名前を挙げた)
しずく(歩夢さんの言うように、話し相手が欲しくなったから……? でも、それだったら私以外でも構わないはず)
しずく(何故、先輩たちや璃奈さんではなく、私だったのか……)
しずく「……すいません、せつ菜さん。昨日のことを思い返してみても、納得のいく答えを出せそうにありません」
せつ菜「……分かりました」 みんながかすみんのこと真剣に考えてくれてるのなんか泣ける それから私は、一週間にニ回は、かすみさんの面会に行くようになった。
面会の回数をもっと増やしたいのは山々だったが、病院の立地や面会時間の制限、また、かすみさんの精神的状況をより安定させるため、致し方ないところだった。
かすみさんの容態は相変わらずで。
搬送された直後よりは回復に向かっていて、人格や記憶に後遺症めいたものはないものの、完全回復は今も尚ほど遠い。
かすみさんと話をしていても、以前のような軽快なレスポンスが返ってこないことに、どこか歯痒さを覚えてしまう。
それでも、かすみさんと面と向かって話ができるこの時間は、私の生活サイクルの中で重きを置くようになっていった。
話す内容は当たり障りのないもので。
最初は学校の話題も出してもいいのか判断に困っていたが、かすみさんが積極的に聞きたがるので話すようになった。
ただし同好会の話題は、なるべく自分からは出さないように決めていた。
あくまでかすみさんが話題に上げたら、それに一言二言を返すくらいで、あまり話し過ぎないように心がけていた。 それから三週間ほど経った頃。
リハビリの成果もあってか、筆談のペースや文の量もレベルアップし、また、ゆっくり途切れ途切れではあるが、かすみさんは声をも取り戻しつつあった。
もうしばらくしたらここを退院し、自宅療養ということで中須家に帰ることができるそう。
順調に回復に進んでいると、確信を持って言える。
ただし。
かすみさんは、未だに私以外の同好会メンバーと会おうとしない。
メールについても音信不通を貫いている。
(侑「あのとき、病室にいるかすみちゃんを前にして、私は何もしてあげられなかった…!」 )
(侑「それが、情けなくて…!悔しくて…!」 )
(侑「こんなことになるなら、スクールアイドルフェスティバルなんて、やるべきじゃなかったって思っちゃうんだよ…!」 )
(侑「部員一人の体調も気遣えないんだから…!」)
あの日以来、侑先輩の心からの笑顔を私は見ていない。
早くこの二人の関係を修繕したいのに、思うようにいかず、ついもどかしく感じてしまう。
そして。
(せつ菜「……ですが、かすみさんはしずくさん以外の人とは今でも避けている状態にいます」 )
(せつ菜「しずくさんだけを面会に通した。そこには何か別の目的があったのでは━━━━というのは、考え過ぎでしょうか」 )
あの時せつ菜さんが投げかけた疑問も、喉に刺さった小骨のように、私の中でつっかかっている。
……そろそろ、切り出してもいいタイミングだろう。
七回目の面会に、私は足を踏み入れる。 一旦ここまでにします
続きは今日の夜に書きたいと思いますが、厳しい場合は随時お知らせします
最後までお付き合いいただけると嬉しいです
軽い気持ちで安価とった結果ドチャクソ重いSSを書くことになったのは初めてです(栞子並感) 多分その経験が初めてじゃない人はそうそういないと思うんですが 安価1つを掘り下げすぎだろ
新しい姿勢で嫌いじゃないけどさw そもそもあの安価をこういう風に捉えたのお前だけだよ 支援
いい話になってきてるから無駄に安価はつけない方がいいと思う とりあえずこれを書ききってもらって、それからまた安価SSやろう >>1の別作品ってある?こんだけ文章うまければ他も良さそうな作品多そう。 【病室】
ガラガラ
しずく「かすみさん、起きてる?」
かすみ「……し、ず、こ」
しずく「調子はどう?」
かすみ「……」カキカキ
『だいぶいい感じ〜』
しずく「そっか、良かった」
しずく「あっ、そうだ」ゴソゴソ
かすみ「?」
しずく「はい、これ。こないだ食べたいって言ってたプリンだよ」
かすみ「…!」パァッ
しずく「ここのお店、かすみさんが言ってた通りの人気だったよ。行くたびにそのプリン売り切れててさ」
かすみ「……」カキカキ
『そうでしょ〜!かすみんのお目は高いんだから〜』
しずく「もうっ」クスクス
しずく「まあ、やっと買えたわけだし、一緒に食べよう?」
かすみ「う、ん」 しずく「美味しいね♫」
かすみ「うん。おい、しい」
しずく「良かったぁ。あの行列を待った甲斐があったよ」
かすみ「あり、が、と、ね。し、ず、こ」
しずく「いえいえ、どういたしまして」
しずく「またかすみさんが退院したら、一緒にお店いこうね」
かすみ「うん」
しずく(……今かな)
しずく「あ、そうだ!せっかくだし、璃奈さんや先輩たちも誘おっか?」
かすみ「……!」ピクッ
しずく「私とかすみさんしか知らないなんて、もったいないよ。皆さんで行った方が、きっと楽しいんじゃないかな?」
かすみ「……し、しず、こ」
しずく「どうしたの?かすみさん」
かすみ「……」
カキカキ
『やめて』
しずく「……」 いかん、彼方ちゃんばりにすやぴしてしまったぜ
今夜また続き書きます
せっかくなので>>57で言及してもらった自分の別作品あげときます
こちらもそこそこ長いのでご拝読いただきながら本編の方を気長にお待ちください
一応しずかすです
http://itest.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1604583097/90-n >>70
山月記の作者だったんか
これも面白かったな しずく「……ねえ、かすみさん」
しずく「どうして同好会の皆さんと会いたくないの?」
しずく「皆さん、かすみさんのこと待ってるんだよ?」
かすみ「……」
しずく「電話も着信拒否してるし、メールも返信してないよね?」
かすみ「……」
しずく「……同好会の皆さんのこと、嫌いになっちゃった?」
しずく「かすみさんが病院に搬送されたとき、かすみさんの気持ちも知らないで全員で病室に押しかけちゃって……、かすみさんに嫌な思い、させちゃったもんね」
かすみ「……!」
カキカキ
『それはちがう』
『あのとき、わたしのあたまの中はまっ白だった』
『わたしがなんでここにいるのか』
『まわりの人がわたしに何て言ってるのか』
『何もかもが分からなくて』
『かんご士さんたちが、宇宙人に見えた』
『私はこわくて、ただこわくて、そこからにげたかった』
『だから』
かすみ「……」カキカキ
『同好会のみんなはぜんぜんワルくないから』
しずく「……そっか」 しずく「…それじゃあ、どうしてかすみさんは、皆さんのこと、避けてるの?」
かすみ「……」
しずく「……ごめんね。私、かすみさんに辛いこと言わせようとしてる」
しずく「それは分かってる。━━━でも」
しずく「かすみさん本人から、理由を聞きたいの」
かすみ「……」
しずく「……」
かすみ「……」スッ
カキカキ
『わたしがメチャクチャにしたから』
『スクールアイドルフェスティバルを』
『ゆうセンパイの夢を』
『みんなの夢を』
『大無しにしたわたしのことを、わたしはゆるせないから』
しずく「……」
しずく(やっぱり、その件が心残りなんだね……) しずく「あのね、かすみさん」
しずく「今日、かすみさんにどうしても伝えたいことがあるの」
しずく「…侑先輩のことなんだけどね」
かすみ「……」
しずく「侑先輩はあの日からずっと、かすみさんのことで気に病んでるの」
しずく「『かすみちゃんに申し訳ない』」
しずく「『かすみちゃんを気遣えてなかった自分が情けない』」
しずく「『かすみちゃんに直接会って謝りたい』って」
かすみ「……」
しずく「自分はマネージャー失格だ」
しずく「かすみさんをこんな目に遭わせたのは、自分のせいなんだ」
しずく「スクールアイドルフェスティバルなんてやらなきゃよかった」
しずく「……そんなことを、侑先輩は私に話してくれたんだ」 しずく「そのときの侑先輩は…本当に苦しそうで…辛そうな顔をしてて……」
しずく「正直、見ていられなかったよ……」
かすみ「……」
しずく「……かすみさん、お願いがあるの」
しずく「侑先輩と会って、お話ししてほしい」
しずく「侑先輩を救ってあげてほしい」
かすみ「……」
しずく「それが今できるのは、かすみさんしかいないの」
しずく「かすみさんだけが、侑先輩を救えるの」
しずく「だから━━━
カキカキ
『ごめん』
しずく「…な、なんで……」
かすみ「……」
『ゆうセンパイには会えない』
『会っちゃいけない』
『もし会ったら、ゆうセンパイのやさしさに、わたしはきっと甘えてしまう』
『あんなことをしておきながら、ゆるされようとするに決まってる』
『そんなのはわたしがゆるせない』
『だから、ごめん』 しずく「どうして…?」
しずく「自分のことを許せないからって、侑先輩たちからも許されたくない」
しずく「かすみさんはそう言ってるんだよ…?」
かすみ「……」
しずく「こんなところで…そんな意地はったって、どうしようもないでしょ…?」
しずく「かすみさんがずっとそうしてれば、侑先輩はずっと苦しんでるままなんだよ…?」
しずく「かすみさんはそれでいいの…?」
かすみ「……」
しずく「…私は、いやだよ」
しずく「侑先輩も苦しんでて、かすみさんも苦しんでて……見てるこっちだって苦しいよ」
しずく「『自分は許されちゃいけない』なんて、自分を責めるような真似、もうやめようよ……」
しずく「胸がつまって、痛くて痛くて、つらいよ……」 自分を責めるなかすみん…一人だけが悪いんじゃないんだ かすみ「……」カキカキ
『わたしだって、ゆうセンパイを苦しめたくない』
『いまのしず子を見てるのだってつらい』
しずく「だったら…」
しずく「こんなところでつまらない意地はるのやめてよ…!」
しずく「今の私には、かすみさんが逃げてるようにしか見えないよ…!」
かすみ「……!」
『にげてなんかない』
しずく「逃げてるじゃんか…!侑先輩からも…!皆さんからも…!」
しずく「なんでそこまでして避けるの…? かすみさんが退院したら、結局は会うんだし、今会ったって大して変わんないよ…!」
かすみ「……」
しずく「だったら早く会った方がいいって…!お互いにこれ以上苦しまずに、つらい思いしないですむじゃん…!」
かすみ「……」
しずく「それとも何? かすみさんはそうやって、一生会わないつもりで━━━
かすみ「…そ、う」
しずく「━━━いるの、……え?」
かすみ「……」
カキカキ
『実はわたしの方も、今日どうしてもしず子に伝えたいことがあるの』 おいちょっと待ってくれ。まさか余命宣告中須概念まで入れてくるつもりじゃないだろうな…?
さすがにそんなん絶望するぞ。 かすみ「……」カキカキ
『ずっと前から、伝えなきゃいけないと思ってた』
『でも、いくら伝えようと思ってても、しず子のかおを見るたんびに、また次にしようって、先のばししちゃってた』
『しず子とずっとこうやって、お話ししていたかったから』
しずく「か、かすみさん…?」
かすみ「……」
カキカキ
『わたし、もうじきで死んじゃうんだ』
しずく「…………え?」
しずく「死………ぬ…………?」
しずく(かすみさんが━━━死ぬ?)
しずく「じ、冗談……だよね? いつものかすみんジョーク……でしょ?」
かすみ「……」
しずく「……何か言ってよ……」
しずく「いつもみたいに、イタズラだってネタバラシしてよ……」 かすみ「……」
カキカキ
『わたしもよく分からないんだけど』
『今のお医者さんでも治せない病気みたいで』
『ここに来たとき、よめいは2か月ってきいた』
しずく「二ヶ月……?」
(歩夢「……そっか。病室、移ったんだね」 )
(しずく「かすみさんのお母さんの話だと、今いる病棟には、三週間前に移ったそうです━━━
(しずく「それから三週間ほど経った頃」)
(しずく「リハビリの成果もあってか、筆談のペースや文の量もレベルアップし、かすみさんは声をも取り戻しつつあった」)
(しずく「もうしばらくしたらここを退院し、自宅療養ということで中須家に帰ることができるそう━━━
しずく「……じゃあ、あと残ってるのは」
しずく「二ヶ月から六週間を減算して━━━約二週間」
しずく(かすみさんは、あと二週間で……)
しずく「……なんで」
しずく「なんで今まで黙ってたの……?」
かすみ「……」 山月記の人なら絶対にバッドエンドにはしないって信じてる 『ごめんなさい』
『早く伝えなきゃとはいつも思ってた』
『でもしず子に伝えるゆう気が出なくて、次こそはかならず伝えようって思ってたら』
『こんなギリギリになっちゃった』
『ほんとうにごめんなさい』
しずく「そんな謝ってほしいわけじゃなくて……」
しずく「…!私が初めてここに来たあの日も━━━」
(━━━しずく「かすみさんが帰ってくるのを、皆さん待ってますよ」 )
(━━━しずく「……私も、ずっと待ってます」)
(━━━かすみ「……あ、あ、あ」 )
(━━━しずく「そんな、謝らないでください」)
しずく「……あのとき私に謝ってきたのは、同好会には復帰できないって分かってたからなんですか…?」
かすみ「……う、ん」
しずく「そんな……」 かすみ「……」スッ
カキカキ
『わたしが死ぬのは、きっとバツなんだと思う』
しずく「バツ…?罰ってこと…?」
『スクールアイドルフェスティバルを大無しにした、そのつみへのバツ』
しずく「そ、それは違うよ…。かすみさんがあのとき倒れちゃったのはその病気のせいなんだから」
しずく「罪も罰も、そんなのないんだよ……」
かすみ「……」カキカキ
『そうかもしれない』
『でも、そういうことにしておかないと、わたしはなっとくできない』
『そうでも思わないと、わたしは死にきれない』
しずく「……だから、侑先輩たちに会いたくない、話したくないってことなの?」
しずく「会っちゃえば、話しちゃえば、あの件のことはきっと許される」
しずく「許されてしまえば、かすみさんが今そうやって自分に言い聞かせている理由が、条理が無くなる」
しずく「理不尽な病が」
しずく「不条理な死が」
しずく「それしか残らないから、そんなんじゃ死に切れないってこと………?」
かすみ「……」
しずく「……死ぬにふさわしいからって、その理由作りで、自分は許されちゃいけない事をしたテイにするだなんて……」
しずく「……その理屈は理解はできても、納得なんかできないよ……」 一旦ここまで
安価の時点で覚悟して書いてたけど…わりぃ…やっぱ辛えわ… 友達が余命宣告された時ってどういう気持ちになるんかな。 >>99
>安価の時点で覚悟して書いてたけど
そんなにキツい安価だったか…? >>5
この時点ではギャグになる予感しかしてなかったんですが >>99
おまえあの安価でここまで思いつくのかよ… よくあの安価でここまで重い話ができたな!
絶対1って重い展開が好きなだけだろ! 安価5のやつって元ネタか何かあるんか?
ぶっちゃけ自分ももなむすと似たような解釈してたわ
…まあこんな重い展開になるのは予想外だったけど 有名なのはHUNTER×HUNTERの脳クチュクチュかや 失声症はまだそうきたかって理解できた、最後はハッピーエンドだろうなと希望もあった。
なぜ余命宣告中須概念まで入れたのだ… かすみ「……」カキカキ
『ごめんなさい』
『わがまま言ってるのは分かってる』
『でも』
『もう決めたから』
しずく「……分かってるよ」
しずく「かすみさん、頑固者だもの」
しずく「分かってるけど……」
かすみ「……」
カキカキ
『しず子を呼んだのは、そのことを話したかったから』
『それが理由の1つ』
しずく「……?」
『しず子を呼んだのは、もう1つ理由があるの』
『それもわたしのわがままになっちゃうんだけど』
『たぶん、しず子へのさいごのおねがい』
『きいてくれる?』
しずく「……ずるいよ、かすみさん」
しずく「そんなお願いされたら、断れるわけないじゃんか…」 『お別れの会ってあるでしょ?』
しずく「……うん、あるよ」
『そのときに、かすみんが歌ってるところをみんなに見てほしいの』
『かすみんの最後の歌を』
しずく「……でも、今のかすみさんは、歌は……」
『かすみんが声を出せるようリハビリしてるのは知ってるでしょ?』
『それは、歌を歌えるようになりたいからなの』
しずく「……」
『このことを知ってるのは、わたしとお医者さんだけ』
『ママも知らない』
『最後のサプライズに、みんなをあっと言わせたいの』
しずく「……それで、私へのお願いって何?」
かすみ「……」カキカキ
『しず子には、その動画をとってもらいたい』
『そして、お別れの会で流すように動いてもらいたい』
しずく「……それは、責任重大だね」 『メイワクばっかりかけちゃってごめん』
『こんなこと頼めるの、しず子しかいなかったから』
しずく「……もう。迷惑だなんて思ってないよ」
しずく「私とかすみさんの仲でしょ?」
かすみ「……!」パァッ
かすみ「あり、がと。し、ず子」
かすみ「まだ、うた、うまく、うた、えない、けど」
かすみ「うたえ、るよう、になっ、て、みせ、る、から」
しずく「……うん、分かった」
━━━そうして私は、かすみさんと約束をした。
かすみさんの状態が整ったら、私に連絡を寄越すこと。
どこかで待ち合わせして、そこで撮影をすること。
没後、かすみさんのご両親に動画の件を伝えて、本人の希望により流してほしいと相談すること。
そのときまでは動画のことは誰にも見せないで、言わないでしておくこと。
……どうやら最後の最後まで、かすみさんのわがままに振り回されるようだ。
それでも、それも悪くないとどこかで感じてしまうのは━━━
しずく(かすみさんのかすみさんらしい所を、やっと見ることができたから、かな) 【電車内】
ゴトンゴトン
しずく「……」
しずく(かすみさんは、あと二週間の命)
しずく(急にそんなこと言われても、すんなりと受け入れられるわけないよ…)
しずく(……きっと、二ヶ月前のかすみさんだってそうだったにちがいない。理不尽だと思うに決まってる)
しずく(……だからかすみさんは、そこに理由を作った)
しずく(『自分はスクールアイドルフェスティバルをメチャクチャにしたから、自分もメチャクチャな目にあってしかるべき』)
しずく(だから、侑先輩たちとの接触をあそこまで拒んだ)
しずく(許されてしまえば、自分はただの不幸者でしかなくなってしまうから)
しずく(……因果関係を正せばそれが間違ってるのは明らかなのに、無理矢理にでも思い込もうとしている)
しずく(あのときの『悪夢』に、今のかすみさんの精神状態は守られている)
しずく(……皮肉すぎるよ)
ゴトンゴトン しずく(中須かすみは、もはや生きることを諦めている)
しずく(回復も、復帰も、和睦も、その全てを投げ出している)
しずく(そう思っていた)
しずく(だけど━━━)
(『かすみんが歌ってるところをみんなに見てほしいの』)
(『かすみんのさいごの歌を』)
しずく(━━━その灯は、完全に消えてはいなかった)
しずく(生への執着は、そこにあった)
しずく(病院に搬送されて、声が出なかった、歌うことができなくなったことは、かすみさんを強いショックを与えたにちがいない)
しずく(だからこそ、余命宣告を受けていながらも、声を取り戻そうと懸命にリハビリを受けていた)
ゴトンゴトン
しずく(私の知っている中須かすみは、まだ生きている)
しずく(嬉しい、なんて言葉は不謹慎かもしれないけど……嬉しかったな)
しずく(ちょっぴりだけど、安心しちゃったよ)
しずく(だって私は━━━)
しずく(単純で、分かりやすくて)
しずく(サプライズが大好きで)
しずく(諦めの悪い頑固者で)
しずく(自分の信念は最後まで決して曲げない)
しずく(そんな中須かすみのことが、今でも大好きだから)
ゴトンゴトン
しずく(……そういえば、どうしてかすみさんは、私を指名したんだろう)
しずく(せつ菜さんも言ってたけど、結局きけなかったな)
しずく(また今度あったら、教えてほしいな━━━
ゴトンゴトン ━━━━━
━━━━
━━━
しずく(……あれ?)
しずく(ここは……部室の前?)
しずく(それにこの扉って…前の部室のやつだよね?)
しずく(私……どうしてここに…?)
『あ!』
しずく(え?)
『えーーっと…ですね…!』
『あなたも、興味あるんですか? スクールアイドル!』
『そこの部室、スクールアイドル同好会ですよね!』
しずく(か、かすみさん…?)
かすみ『……あー…、ごめんなさい、かすみんったらついテンションあがっちゃいまして…えへへ』
かすみ『……あなたも新入生?』
かすみ『やっぱり!じゃあかすみんとタメだね!』
しずく(……そっか、これは夢か)
しずく(たしか、私が同好会の扉の前で入ろうか躊躇してたら、遠くからかすみさんがやって来たんだっけ…)
かすみ『かすみんは中須かすみ!あなたは?』
かすみ『桜坂しずく……ふーん、じゃあ……』
しずく(ここで私はかすみさんと出会って━━━)
かすみ『しず子!しず子って、呼んでもいい?』
しずく(私はかすみさんと一緒に、同好会に入ったんだ━━━) かすみ『しず子って演劇部もやってるの? しず子が演技してるとこ、見てみたいな〜』
しずく(入部してから私たちは)
かすみ『ねえしず子〜前から気になってたんだけど、中須さんって呼ぶのやめてよ〜』
かすみ『敬語も禁止!かすみんとしず子はタメなんだから、タメ口でいいんだよ〜?』
しずく(同好会内で学年が同じなだけあって、すぐに仲良くなった)
かすみ『むむむ…しず子、うた上手い…!』
『まあ、かすみんほどじゃないけど!』
しずく(得意分野も性格も趣味嗜好も考え方もバラバラだったけど)
かすみ『おつかれしず子〜今日は演劇部お休み?帰りどっか寄ってこうよ〜』
しずく(登校中も下校中も休みの日も一緒にいることか多くて)
かすみ『し〜ず子〜?聞いてる〜?』
かすみ『こーんな可愛いかすみんを無視するなんてひどいよぉしず子。今は台本読むんじゃなくて、かすみんとお喋りしようよ〜?』
しずく(かすみさんとなら、ずっと上手くやれるような気がした) しずく(……同好会が変な雰囲気になったときだって)
かすみ『あのイジワル生徒会長〜〜〜!!』
かすみ『こうなったら徹底抗戦だよぉ!しず子ぉ!』
しずく(同好会のメンバーも増えて再始動したときだって)
かすみ『あっれ〜〜しず子ぉ、分かんないんですか〜?』
しずく(……私が一人きりで悩んでたときだって)
かすみ『スマイルだよ!しず子!』
かすみ『しず子が落ち込んでたから、りな子と励ましてあげよーと思って…』
しずく(……あのときも)
かすみ『……見つけた!』
かすみ『目、腫れてるよ』
かすみ『そんな顔で隠そうとしないでよ!私としず子の仲でしょ!?』
かすみ『…な〜に、あまっちょろいこと言ってんだあ〜!!!』
かすみ『もしかしたら!しず子のこと、好きじゃないって言う人もいるかもしれないけど!』
かすみ『私は、桜坂しずくのことが━━━━━』
━━━━━
━━━━
━━━
「お客さん、お客さん」
しずく「……あ」
「終点ですよ、お客さん」
しずく「……やっぱり、こんなのダメだよ、かすみさん」
しずく「……私だって」
「? お客さん?」
しずく「かすみさんのこと、大好きだから」 【病室】
「はい、今日の夕御飯も完食ね。中須さん」
かすみ「ご、ちそう、さま、で、した」
「病院のご飯は味気ないでしょ?」
かすみ「え、へへ」
「友達と食べたプリン、美味しかった?」
かすみ「…!え、えっと」
「ふふふ、心配しないで。プリンくらいで怒ったりしないから」
かすみ「……」ホッ
「そういえば、一緒に食べてた子って、よく面会に来てくれる子よね」
かすみ「……!はい」
「友達思いな子なのね、彼女。中須さんの親友なの?」
かすみ「しん、ゆう…」
かすみ「……そう、かも、です」
「そう、羨ましいわ。友情は若い人の特権だから」
「大人になると、友情ってものが信じられなくなるから」
かすみ「……」
「あぁ、ごめんなさい。もう寝る時間ね」
「それじゃ、おやすみなさい。中須さん」
バタンッ かすみ「……ふぅ」
かすみ(かすみんは、ベッドに体を預けて天井を見上げます)
かすみ(初めのうちは見慣れなかった天井も、今や謎の愛着が湧いてきました)
かすみ(……天井を見上げる、なんて言ったら、またしず子に指摘されるかもしれませんけど)
かすみ(……)
━━━友達思いな子なのね、彼女。中須さんの親友なの?
かすみ(親友…ですか)
かすみ(少なくとも、かすみんはそう思ってます)
かすみ(……しず子は、どう思ってるんでしょう)
━━━羨ましいわ。友情は、若い人の特権だから。
かすみ(……ナースさん、それは誤解です)
かすみ(こんな友情は羨ましがられるような、そんな美しいものじゃありません)
かすみ(だって━━━)
かすみ(かすみんは、しず子との友情を、さんざんに利用してきたんですから) かすみ(ここの病室に移って、かすみんはお医者さんから自分の置かれている状況を聞きました)
かすみ(病気の名前やメカニズムは…かすみんにはちょっと難しすぎましたが)
かすみ(ダイアモンドがどうとかこうとか言ってたような…言ってなかったような……)
かすみ(…まあ、簡潔に言えば、きわめて特殊な『貧血』だそうです)
かすみ(突然その場を倒れたり)
かすみ(目が醒めてしばらくは強い目眩に襲われたり)
かすみ(倦怠感で身体を自由に動かせなかったり)
かすみ(そんな症例があるそうです)
かすみ(……お医者さんが言うには、この病気にかかった他の人と比べても、悪化の進行スピードがきわめて早いようで)
かすみ(これ以上の悪化を遅らせることはできても、悪化した部分を修復することは今も不可能だそうです)
かすみ(…つまり、かすみんが治ることはありません)
かすみ(余命はもって二ヶ月だと、告げられました) かすみ(……絶望のどん底に落とされました)
かすみ(ここの部屋で入院することになった初夜、ママとパパに抱き締めてもらいました)
かすみ(ママもパパもかすみんも涙が止まらなくて、泣き続けて━━━泣き疲れたかすみんは、深く眠りに落ちていました)
かすみ(朝起きて、ご飯を食べて、身体を検査して、身体をキレイにしてもらって、ご飯を食べて、夜眠る)
かすみ(そんな闘病生活を送り始めた中で、かすみんはこんな風に考えるようになりました)
かすみ(これは、神様からのお仕置きなんだ)
かすみ(スクールアイドルフェスティバルを台無しにした、中須かすみへの罰なんだ)
かすみ(そう考えると、自分の中にあった絶望感は不思議と薄れていきました)
かすみ(そのおかげもあってか、かすみんは自分の最後にしたいことについて考える時間が生まれました)
かすみ(かすみんは、ママやパパ、侑先輩をはじめとした同好会のみんなが大好きで)
かすみ(今でもやっぱりスクールアイドルが大好きで)
かすみ(そこで、かすみんが大好きな人たちに、かすみんの歌声を届けようと決めました) かすみ(……ただ、かすみんにはある問題がありました)
かすみ(それは、ステージの上で倒れたあの日以来、声が出なくなってしまったことです)
かすみ(病気が治ることもないように、声が戻ることもない)
かすみ(そんなことも考えながら、ダメもとで、お医者さんに聞いてみました)
『完全には難しいかもしれないが、ある程度ではあれば、声はまた出せるようになる可能性がある』
かすみ(声を失った原因は病気とは別にある)
かすみ(そのお医者さんの言葉を聞き、かすみんの中に希望の光が射し込みました)
かすみ(それからのかすみんは、声を取り戻すべく、毎日毎日リハビリに臨みました)
かすみ(ナースさんは驚異的な回復力と言ってました。リハビリを続けてしばらくすると、声が蘇ってきているのを感じました)
かすみ(声さえ戻ってしまえばこっちのもので)
かすみ(あとはナースさんに撮影してもらい、かすみんのタイムリミットが迫った日に、パパかママに渡してもらう)
かすみ(それでかすみんの計画は無問題。その予定で考えていました)
かすみ(━━━でも、私は、そこで欲を出してしまいました) かすみ(かすみんの最後の歌。その記録係を、ナースさんじゃなく、同好会のメンバーの誰かにお願いしたい)
かすみ(……それは、中須かすみという人物が、できるだけ最後までスクールアイドルで居たかったからです)
かすみ(ママやパパにとっての中須かすみは家族で)
かすみ(お医者さんやナースさんにとっての中須かすみは患者で)
かすみ(ただ、同好会のメンバーにとっての中須かすみは、スクールアイドルとしての仲間でもあり、ライバルでもあって)
かすみ(かすみんは、最後の最後までスクールアイドルで立っていることができる)
かすみ(だからこそかすみんは、同好会のメンバーの誰かに撮ってもらいたいと、考えるようになりました)
かすみ(……それは本当にただのかすみんのワガママでしかなくて)
かすみ(みんなには会うことができない事情を分かってほしい)
かすみ(だけど、かすみんの協力はしてほしい、だなんて)
かすみ(虫が良すぎるというものでしょう。反発されるのも無理ありません)
かすみ(当然それは分かっていました)
かすみ(…………だから私は、しず子を選びました)
かすみ(しず子は、いつも優しくて、責任感があって……、人の頼み事は断れない性格です)
かすみ(私の置かれている状況を汲んだら尚更でしょう。その優しさに付け込むような形で、私はしず子を呼び、そして全てを託しました)
かすみ(友情を、不正使用したのでした)
かすみ(……今も罪悪感でいっぱいです。私の真相を知ったときのしず子の辛そうな顔が忘れられません)
かすみ(きっと裏切られたと思ったでしょう。もっと早く言ってほしかったと思っているでしょう)
かすみ(━━━でもね、しず子。それは無理だったよ)
かすみ(しず子の笑ってる顔を見てたら、その笑顔を奪うような真似なんて、そう簡単にできるわけないじゃんか……) かすみ(それでも、もう約束しちゃった以上、後はなるようになるしかない)
かすみ(どうせやるなら、今のかすみんの最高のパフォーマンスをお披露目したい)
━━━しずく『二ヶ月前から六週間が経ってるんだから……』
━━━しずく『かすみさんの余命は、もう二週間も、ない……?』
かすみ(……あと二週間)
かすみ(この二週間までに、せめて1番だけでも歌える状態にまで仕上げなくちゃいけない)
かすみ(リハビリのおかげで保ってはいるけど、日に日に体力が少しずつ落ちていくのを感じる)
かすみ(……一週間後を目処にしよう)
かすみ(今の回復ペースなら、一週間あれば声も出るだろうし、一週間後なら体力もまだ残ってるはず)
かすみ(……大丈夫。きっと大丈夫)
かすみ(今度こそ成功する。成功してみせる)
かすみ(それに……たとえ失敗したって)
かすみ(また何かを台無しにしてしまうような、そんなことは、もうないのだから)
━━━━━
━━━━
━━━ かすみ(……あれから、三日が経ちました)
かすみ(かすみんは今、お医者さんから特別に許可を得て、病院の外に出ています)
かすみ(二時間という条件付きですが、かすみんには十分です)
かすみ(今日、かすみんは最後の歌を歌います)
かすみ(……本当はあと二日か三日は欲しかったのですが、仕方ありません)
かすみ(しず子と会った日の翌日に、数日後にここを退院して自宅療養になることが知らされました)
かすみ(かすみんの容態を様子を見ながらではですが、このままなら一週間後には家に帰れるとのことでした)
かすみ(……かすみんのお家に帰れて、パパやママにずっと看てもらえることは吉報です)
かすみ(ですが、ママやパパの目を盗んで外に出ることはほぼ不可能に近くなる。そうしたら、かすみんのせっかくの計画も水の泡です)
かすみ(……なので、あの日から四日たった今日を、決行の日としました)
かすみ(……問題は、しず子)
かすみ(待ち合わせの場所に、ちゃんと来てくれるかどうか……)
かすみ(約束の時間になったのに、しず子の姿は見えない……)
かすみ(連絡したらちゃんと返信もあったのに、なんで……)
「━━━お待たせ」
かすみ「……え」
「遅れちゃってごめんね、かすみちゃん」
かすみ「な、なんで…」
「なんで、って。そんな冷たいこと言わないでよ」
侑「かわいい後輩の顔が見たい。それだけだよ」
かすみ「ゆ、侑せん、ぱい…」
侑「……会いたかったよ、かすみちゃん」 かすみ「どう、して……侑せんぱいが…?」
侑「……戸惑うのも無理ないよね」
侑「かすみちゃんにどうしても会いたかったから」
侑「だから、しずくちゃんじゃなくて、私がここに来た」
かすみ「…!し、しず子のことも…」
侑「そう。しずくちゃんから聞いたよ。かすみちゃんのこと」
侑「……病気のことも、余命のことも」
侑「私たちと面会を拒否していた理由も」
侑「そして、かすみちゃんがこれからやろうとしていることも」
かすみ「……秘密って……言ったのに……」
侑「しずくちゃんを責めないであげて、かすみちゃん」
侑「私がしつこく聞いちゃったのがイケないんだから」
かすみ「……」 ━━━(回想)━━━
しずく「……」
しずく(撮影は明日の午後)
しずく(かすみさんよりそう連絡があった……)
侑「あっ、おはよう、しずくちゃん」
しずく(かすみさんと会えるのは、もしかしたら明日が最後かもしれない……)
侑「しずくちゃん?」
しずく「……かすみさん」
侑「おーい、しーずくちゃーん」
しずく「ひゃうっ!?ゆ、侑せんぱい!?」
侑「どうしたの?なにか悩んでるみたいだったけど」
しずく「あ、いえ、その……」
侑「……もしかして、かすみちゃんのこと?」
しずく「……!」
侑「なにか、あったの?」
しずく「……いえ、大丈夫ですよ」ニコッ
しずく「かすみさん、以前会ったときよりも回復に向かってました」
しずく「このままでしたら、もうすぐにでも退院できるみたいです」
侑「そっか!じゃあ、もうちょっと待ってれば、かすみちゃん戻ってこれるってことだね!」
しずく「……っ!」
しずく「は、はい……そう、ですね……」 侑「……しずくちゃん?」
しずく「……はい、どうしました?」
侑「…かすみちゃん、本当に、戻ってくるの?」
しずく「…………」
侑「しずくちゃん。目をそらさないで」
しずく「あっ……」
侑「……ねえ、しずくちゃん。もう一回きくよ」
侑「かすみちゃんのことで、何かあったの?」
しずく「……お願いです」
しずく「まだ他の皆さんには言わないって、秘密にするって、約束してくれますか?」
侑「……うん。約束する」
しずく「……かすみさんは」
しずく「……もうじき、この世を去ります」
侑「……えっ……?」
━━━(回想 終)━━━ シリアスな場面なんだけどかまいたちの「絶対に言わんといてな」のコント思い出して笑っちゃった 侑「……しずくちゃんは私にだけ、かすみちゃんのことを打ち明けてくれた」
侑「他のみんなには伝えてないから、そこは安心してほしい」
かすみ「……あんなに、お願いしたのに」
侑「…かすみちゃん?」
かすみ「侑せんぱいには、ぜったい秘密にしてほしいって、あんなに言ったのに…」
侑「……」
かすみ「しず子の、ばか……ばかバカ馬鹿……」
侑「かすみちゃん」
侑「腹を立てるなら、しずくちゃんじゃなくて、問い質した私にしてほしい」
かすみ「……」
侑「……ねえ、かすみちゃん。少しだけ、話できるかな」
かすみ「……いや、です」
かすみ「帰って、ください。せんぱいに、話すことなんて、ありません」
侑「かすみちゃ━━━
かすみ「帰って…っ!」
侑「━━━━っ…!」 かすみ「かえっ……ぁっ!げほっ…げほっ…」
侑「…!かすみちゃん…!」ダッ
侑「大丈夫…? 無理しちゃだめだよ…」サスリ
かすみ「はぁっ……はぁっ…………、ごめん、なさい」
侑「ちょっと座ろっか。ちょうどあそこで座れるし」
かすみ「……はい」
侑「よいしょっと」
侑「落ち着いた?」
かすみ「……さっき、よりは」
侑「そっか。良かった」
侑「……ねえ、かすみちゃん。私ね、かすみちゃんにどうしても伝えなきゃいけないことがあるの」
かすみ「……!ま、待って━━━
侑「ごめんなさい」
侑「私は、フェスティバルにばかり気を取られていて、周りのことがちゃんと見えてなかった」
侑「かすみちゃんの体調不良を気付くことができなかった」
侑「……本当に、ごめんなさい」
かすみ「……あ」
かすみ「謝らないで、ください。侑せんぱい」
かすみ「頭を、あげてください」
かすみ「悪いのは私で━━━「ちがう」
侑「かすみちゃんは何も悪くない」 しず子は会いたくない事情まで説明したんだろうか..... 侑「かすみちゃんは悪いことなんか何もしていない」
侑「自分の体調が悪いのを隠して無理にステージに上がって倒れた?」
侑「スクールアイドルがステージに立ちたいって思うのは当然じゃんか」
侑「フェスティバルを台無しにした?」
侑「悲しいことに世間的には、トラブルもありつつも成功、で扱われてるよ」
侑「私の夢をメチャクチャにした?」
侑「夢はそう簡単に叶わないから夢なんだよ」
侑「破れたって、引きずって、もがいて、また出直せばいいだけだよ」
かすみ「……」
侑「分かったでしょ? かすみちゃんが責められる理由なんて、どこにもないんだよ」
侑「だから、かすみちゃんは何も悪くなんかないんだよ」
侑「かすみちゃんの言ってることなんて、そんなの、かすみちゃんが作り上げた身勝手な妄想なんだよ」
侑「だから」
侑「そんな妄想に取りつかれて、自分は死ぬべきだなんて考えて、本当は納得いかないけど無理やり自分を納得させる」
侑「そんなのは、もうやめようよ」
侑「自分に素直になってよ、かすみちゃん」
かすみ「……侑せん、ぱい」 侑「私は、かすみちゃんの本音を聞きたいな」
かすみ「………」
かすみ「……たいです」ボソッ
侑「ん?」
かすみ「生き、たいです」
かすみ「……しにたく、なんか、ないです」
かすみ「……なんで、かすみんが、しななきゃ、いけないん、ですか」
かすみ「まだ、やりたいこと、いっぱぃ、あるのに」
かすみ「まだまだ、みんなと、スクールアイドル、やりたい、のに」
かすみ「びょうき、なんかの、せいで」
かすみ「もう、できない」
かすみ「それが、くやしい」
かすみ「どうして、かすみん、なんですか」
かすみ「かすみんだけが、どうして、こんな。つらいめに、あわなきゃ、いけないんですか」
かすみ「どうして……」
侑「……かすみちゃん」 かすみ「助けて」
かすみ「助けてください、侑せんぱい」
かすみ「しぬなんて、いやです」
かすみ「こわいです」
かすみ「おねがいします、せんぱい」
かすみ「わたしを、助けてください」
侑「……ごめんね、かすみちゃん」
侑「私じゃ、かすみちゃんの病気を治せない。ブラックジャックじゃないから」
侑「そもそも私は、そんな大したやつじゃない」
侑「応援したり、相談に乗ったり、時には諌めたり……、そうやってみんなの声を聞いて、サポートすることしかできない」
侑「今こうやって、かすみちゃんの本音を聞くことしか、私はできないよ」
かすみ「……みんなひどい」
かすみ「……じゃあ、かすみんは、だれにおねがいすれば、いいんですか」
かすみ「お医者さんも、侑せんぱいも、ダメだって言って」
かすみ「みんな、かすみんのこと、見放して━━━
「それは違うよ、かすみさん」
かすみ「……え」
「かすみさんを救えるのは、かすみさんだけなんだよ」
かすみ「……この声は、しず子……」
しずく「……もう。侑先輩を困らせちゃダメでしょ、かすみさん」
しずく「遅くなってごめんね」 一旦ここまで
今夜、完結予定です
最後までお付き合いいただけると嬉しいです あの安価からこの発想はいい意味で脳の構造が違うとしか思えない 今立ってるかすみんの「あっあっあっ」のSSと対極だな しずく「……かすみさん。私ね、あれから色々と考えたの」
しずく「かすみさんのために私は何ができるのか。何をするべきなのか」
しずく「私がやろうとしてることは、本当にかすみさんのためになるのか」
しずく「何が正しくて、何が間違っているのか」
しずく「……いくら考えても、答えなんて出なかった」
かすみ「……」
しずく「そりゃそうだよね」
しずく「私はかすみさんに生きてほしいのに、かすみさんはその真逆に向かってる」
しずく「そんなんじゃ、折り合いがつくわけない」
かすみ「……しず子」
しずく「……かすみさんと別れてしばらくは、私が諦めて、かすみさんの選択を尊重しようとした」
しずく「だけどダメだった。私には耐えられなかった」
しずく「演技には自信のある私でも、隠し通すことができなかった」
しずく「侑先輩に問い質されて、真相を告白して、私の思いを打ち明けて━━━ようやく私は気付いた」
しずく「かすみさんが間違っているってことに」
侑「……」
しずく「だから、私は決心したんです」
しずく「かすみさんの方向をこっちに戻してやるって」
しずく「捻じ曲がったかすみさんを矯正してやるって」
しずく「そのためにまず、かすみさんの計画をぶっつぶしてやるって━━━そう決めたの」 かすみ「……だから、かすみんに、侑せんぱいを会わせたの?」
しずく「そうだよ」ニコッ
しずく「だって、かすみさん、言ってたもんね」
しずく「侑先輩には何としても会いたくないって」
かすみ「……なんで? しず子に伝えたこと、忘れちゃったの?」
しずく「ううん。理由もちゃんと覚えてる」
しずく「侑先輩に会っちゃえばかすみさんは許される」
しずく「許されちゃえば、かすみさんが大事そうに抱えてた『罪』なんて失くなる」
しずく「そうすればおのずと『罰』も消える。罰を受ける必要がなくなる」
しずく「かすみさんの死は、無意味になる。残酷で、理不尽で、不条理だけしか残らない」
しずく「だから、会わせた」
しずく「かすみさんの決意を、鈍らせるために」
かすみ「……サイテーだよ、しず子」 しずく「サイテーでもかまわないよ」
しずく「かすみさんの本音が、心が、その声が聞けるなら、私はサイテーでいい」
しずく「『もっと生きたい』」
しずく「『しぬなんてごめんだ』」
しずく「その言葉をかすみさんから聞きたかった」
かすみ「……そんなの、当たり前、じゃんか」
かすみ「生きたいに、決まってるじゃんか」
しずく「……じゃあ、生きようよ」
かすみ「無理だよ…!私は、重病、なんだから…!」
かすみ「余命だって、あとちょっとで……!もう、終わっちゃうんだから…!」
しずく「でも、まだ終わりじゃない」
しずく「何一つ終わってなんかない」
しずく「なのに、かすみさんは諦めるの?」
かすみ「…しず子に、今の私の気持ちなんて、分かるわけない」
しずく「うん。分かりっこない。私はかすみさんじゃないから」
しずく「でも」
しずく「私の知ってる中須かすみは、こんなところでへこたれるような、そんな女じゃない」
かすみ「だったら…!」
かすみ「しず子が、治してよ…!かすみんのこと、助けてよ…!」
しずく「かすみさん、なに甘っちょろいこと言ってるの?」
かすみ「……っ」
しずく「さっきも言ったよ」
しずく「かすみさんを救えるのは、かすみさんだけなんだよ」 かすみ「かすみんが…かすみんを、救う…?」
かすみ「それが、できたら、苦労しないよ…」
しずく「できるよ」
かすみ「なんで、そう言い切れるのさ」
しずく「だって、かすみさんはすごい人だから」
しずく「私知ってるんだよ?かすみさんは、表では調子のいいことばっかり言ってるけど、裏では想像以上に努力してるってこと」
しずく「目指すべき自分になるためだったら、どんな努力を惜しまない頑張り屋さんだってこと」
しずく「虚勢を確信に」
しずく「嘘を真実に」
しずく「夢を現実に」
しずく「そういう力が、かすみさんにはあるってことも」
かすみ「……でも、それとこれは別で」
しずく「別なんかじゃない。だって現に、かすみさんは今日でここまで回復できてるでしょ?」
しずく「今日ここで歌を歌うために、万全の態勢で挑めるように、コンディションを仕上げてきたんでしょ?」
かすみ「それは、そうだけど…」
しずく「看護師さん、言ってたよ。かすみさんの病症を考えると、驚異的な回復力だって」
しずく「それに私も、かすみさんの回復力はすごいって分かってる」
しずく「……ただお話するだけだったけど、それでも三週間、かすみさんとずっと会ってきたんだから」
かすみ「しず子……」 しずく「大丈夫、かすみさん」ギュッ
しずく「かすみさんが生きたいって望むなら、かすみさんはまだ生きていける」
しずく「だから、余命なんかに、病気なんかに、絶望なんかに、負けないで」
かすみ「……かすみん、勝てるかな…?」
しずく「勝てるよ。絶対に勝てる」
しずく「だって、かすみさんは無敵だから」
かすみ「……」
しずく「闘病で苦しむこともあるかもしれない」
しずく「眠れない夜が続くこともあるかもしれない
しずく「でも、私がいるから」
しずく「侑先輩も、同好会の皆さんも、かすみさんのファンもいるから」
しずく「だから、大丈夫」ギュッ
かすみ「……力、つよいよ。しず子」
しずく「あ、ご、ごめんね?」
かすみ「……ふふっ」
かすみ「もう、しず子も、侑せんぱいも、かすみんのこと、大大大好きなんだから」
かすみ「あーあ。やっと今日が、終わったら、家でゆっくり、できると、思ったのに」
かすみ「ほんと、どうして、くれるんですかねぇ」
侑「……かすみちゃん」
かすみ「まあ、別にゆっくりしたい、わけじゃ、ありませんけどね」
かすみ「むしろ、走り回りたい、くらいです」
かすみ「だって、かすみんは━━━」
かすみ「いつだって、元気百倍の、キューティストガール、なんですから」 ━━━━━
━━━━
━━━
しずく(後日談。
あの日のあと、かすみさんは、お医者さんに相談したそうです。
もっと生きたいと。
病気を克服したいと。
お医者さんも最初は否定的でしたが、検査の結果、あることが分かりました。
かすみさんの体を蝕む病の進行スピードが、ここ最近になって急速に収まりつつあることに。
おそらくその鍵を握るのは、退院日が伝えられてからあの面会の日までの、三日間。
「何としてでも歌えるようにならなきゃいけない」
その想いが、精神が、体をも支配したのではないでしょうか。
『思い込み』……その力は存外あなどれません。
死ななければならないと念じればその体はより病んでいき。
生きたいと強く願えばその体はより健やかに。
……直情型のかすみさんのことなら尚更でしょう。
かすみさんは今日、同好会に復帰し、日々の練習に励んでいます。
その姿は眩しくて。
闇夜を照らす月のように。
銀河に燃える星のように。
その命は、黄金色に輝いています。 ……とはいえ、かすみさんを冒す病は完治できてはいません。
今のところは生活に問題ないそうですが、いつ再発するか、悪化するかは、神のみぞ知るところです。
だから、一日でも永く、かすみさんがかすみさんで存りますように。
その笑顔を守るために私は、今日もかすみさんの隣にいます。
……きっと、あのとき私がかすみさんに病室に呼ばれたのは、その使命を与えられたからなんでしょう。
真相は定かではありません。実際の意図とはまるで違うかもしれません。
でも、それでいいんだと思います。
かすみさんには、かすみさんらしく、生きながらえてほしい。
私にとって、その思いは紛れもない真実なのですから)
【朝】【駅入口前】
しずく「……」
タッタッタッタッ
しずく「……!」
かすみ「ごめん、しず子ぉ」
しずく「遅刻だよ、かすみさん」
しずく「……調子、悪い?」
かすみ「心配むよう!いやあ、家を出る前、テレビで、可愛い子猫特集やってて、つい見てたら時間が……あはは」
しずく「あはは、じゃありません。……そっか、それならよかった」
かすみ「ごめんねしず子ぉ、許してにゃんにゃん」
しずく「やめなさい」
しずく「まったくもう。病気と一緒に、遅刻癖も良くなったら、私としても嬉しかったのになあ」
かすみ「えーでもでも、遅刻しないかすみんって、かすみんらしくじゃない。でしょ?」
しずく「屁理屈いわないの」
かすみ「ほらほら、早く行こうよしず子ぉ。練習、遅れちゃうよ〜!」
しずく「あ、待ってよ、かすみさん!」
しずく「……ふふっ。ほんと、調子のいい人なんだから」
完 というわけで完結です
ご拝読いただきありがとうございました よくあの安価でここまで書ききったな…
しずかす2人の心理描写が良かった乙 あとがたり
1です。最後までご拝読いただいた皆さんには改めて感謝申し上げます
テーマ選びも兼ねて軽いノリで安価を取ったらこんなこたになっちゃうから安価ってこえーや
書いてる途中で、アニガサキ13話のしずかすの尋常じゃねえイチャツキっぷりを受け、良心の呵責に苦しみながらも、皆さんの熱い支援のおかげで完結することができました
ぶっちゃけると5の「あ…あっ…あっ」は意図がよく読めず、どちからというと3の「元気ですか?」から構想を広げたので、こんな激重シリアス長編になったのは3のせいだと私は思います(責任転嫁) いやどっちにしろこの展開考えられるの狂気だと思うんですけど(誉め言葉) ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています