侑「アイドル戦争?」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
侑「………………………………………」カタカタ
侑「ふぅぅ、これくらいで切り上げるかぁ〜」
侑「うわっ! 外もう真っ暗じゃん! ちょっと編集作業張り切り過ぎたかな〜?」ガビン
侑「学校、真っ暗だし。もうみんな帰っちゃったよね……なんだか怖いから私も早く帰ろっと」
侑「最近寒くなってきて辛いよぉ〜、さむさむ」 侑「……………?」
ガキン……キンキン……ドドーン……
侑「あれ、なにか聞こえたような?」
侑「うーん……こっちかな?」
ドドォォーン! ドンガラガッシャン!
侑「うわっ! やっぱり聞こえる! ……きっとグラウンドの方だ、行ってみよう!」 侑「はっ、はっ……!」
侑「い、勢いで校舎を飛び出してきちゃったけど本当に大丈夫かな……? 不審者とか……いやそんなわけないか」
侑「よーし。どれどれ、誰が何をしてるのかなっと!」ヒョイ
──ガキンガキン‼ ドジャアッ‼ ヒュドドッ‼‼
侑「え………………」 侑「な、なにあれ? 人が戦ってる? 嘘だぁ、見間違えじゃないよね……」ゴシゴシ
侑「本当に戦ってる。戦い続けて時間経ったかい? どっちかはこのまま戦いで他界、てか! ンフッフッフッwwww」
侑「って言ってる場合じゃないんだよ!」ビシッ
侑「やばいよやばいよやばいよ……絶対見ちゃいけないもの見てるよ……多分このままだとロクなことにならない展開だよ……」 侑「でも見ちゃうんだよね〜、トキメキという名の好奇心に負けて」ソッ…
???「────まさか、こうして貴女と戦うことになるとは思っていませんでした」ガキキン!
???「はっ! でもちょうどいい機会だわ! どっちがスクールアイドルとして優れているのか、ここで一つ決着といこうじゃない!」ガッ!ドガカッ!
侑(戦ってるのはどっちも女の人だ……どっちも黒髪だけど一人はロングで一人はツインテ……うわぁ、二人とも可愛いなぁ……)
侑(双剣と槍を持ってなかったらの話だけど) 侑「はぁ、どうしようかな。少し焦ったけど、な〜んか良い感じに盛り上がってるみたいだし。見なかったことにして帰ろっかなあ」
侑「あ、動画とか撮ってネットに投稿したらバズるかも。よーし、ちょっくらカメラを回しますか!」
侑「んー………………んっ⁉」
侑「えっ、ちょっ、ちょっと待って! 戦ってる黒髪ロングの人の後ろに立ってる子……あれは……⁉」
侑「かすみちゃんっ⁉」ガサッ
???「誰っ⁉」バッ! 侑(しまった! やばいっ、逃げないと!)ダッ
???「こら無視すんな〜っ! 待て〜!」ダッ
侑「ひぃ〜〜〜っ!」
〜学校内・廊下〜
侑「──────はあっ、はあっ、はあっ! なんなの、もー……一体……!」
侑「はぁ、はぁ……」ガクリ
侑「こんなことなら私も鍛えておけばよかった……でも、ここまで来れば安心だよね……」 ???「そんなことでこの矢澤にこから逃げられると思ったの?」
侑「え」ドスッ
侑「…………………………ぁ?」オナカカラヤリカンツウ にこ「安心しなさい。この戦いで命を落とすことはないわ。代わりに一週間くらいお腹を壊してブツが止まらなくなるっていう、アイドルにとってはかなり最悪の結末を迎えることになるけどね」
侑「あ、あ、ああああ、あ、」ゴロゴロ…
侑(おなかいたいおなかいたいおなかいたいおなかいたい⁉)
にこ「でもあんた、スクールアイドルじゃないみたいだし。なんでスクールアイドルしか参加できないこの戦いに部外者が紛れ込めたのか知らないけど…」ズボッ
侑「んほっ⁉」ビクンッ にこ「変なところに顔を突っ込んだ罰よ。高い勉強代になるだろうけど、せいぜいそこで漏らしてのたうちまわってなさい」シュン…
侑「い、意味わかんないし……というか、お腹がやばいっ! これはかつてない苦しみっ! と、トイレ、トイレに行かないと……」ピクピク
侑「うげぇーーーっ無理! 無理だ! こんなの一歩も歩けないぃーっ! たすけて歩夢ーっ‼」
侑「あ、やば」ブビュ
侑「────ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!) 侑「あ、ぁ────……」ガクン
侑(ごめん……ごめんね、みんな……わたし、ここまで、みたいだ……)ブリッ
侑(せめて……スクールアイドルのみんなが……こうならない、ことを……祈って…………)
侑(…………………………)
侑「」プ〜ン かすみ「はあっ、はあっ、はあっ!」
かすみ「さっき……巻き込まれた人が……こっちに……」
かすみ「!!!!!!」ザッ
かすみ「う……うそ、だ……そんな……なんで、先輩が……」
かすみ「いやぁぁ! 先輩! 先輩ぃっ!」ユサユサ
かすみ「くっさ‼‼」プ〜ン ???「仕方がありません、かすみ。アイドル戦争の敗者はこうなる定め。己の身を守る術を持たずこの戦いに踏み込んだ彼女に責任はあります」
かすみ「違うんです、違うんですよおっ。先輩はアイドルじゃなくて、戦えるわけがないんですっ! なのに、なのに、なんで……」グスッ
かすみ「……………………………」
かすみ「……まだ、手はあります」ゴソッ
???「かすみ、それは!」 かすみ「はい。かすみん特性、ウルトラジュエリーコッペパンです。食べても美味しいですし武器にもなりますし、魔術的なパワーで色んなことを出来ます」
???「ですがそれは二つしか用意できなかった虎の子。こんな序盤でその一つを使ってしまうのは得策では……」
かすみ「いいえ、違うんですっ。かすみんは確かに勝ち残りたいですが、同時に先輩のことも大切なんですっ! こんな先輩を放っていったら、きっと後悔が深く残って、それこそ勝てる戦いも勝てなくなっちゃいます!」
???「かすみ……」 かすみ「コッペパンよ私に力を! どうか先輩のお腹を元に戻し、ついでに消臭クリーンもお願いします〜っ!」キラキラキラー
かすみ「────────────」
かすみ「──────」
侑「んんっ……あれ、私……?」 侑「はっ⁉」ガバッ
侑「寝てた……あれは夢……?」
侑「そ、そうだよね。あんなのが現実のはずがないよね、別にお尻もいつも通りだし」
侑「あーあ帰ろ帰ろ、変な夢見た……」トボトボ 〜深夜・侑の自宅〜
侑「ただいまー……ああそうだった、お母さんとお父さんしばらく結婚記念日旅行でいないんだった。いいなぁ」
侑「それにしても疲れてるのかなあ。廊下でぶっ倒れてあんな夢見るなんて」
侑「それにしても、あの二人可愛かったなぁ…」
にこ「へぇ、なかなか見る目があるみたいね」
ガッシャーン!! 侑「な、なにっ⁉ 何事ぉ⁉」
にこ「やり損ねた獲物を仕留めに来たわ。取りこぼしなんて、にこの美学に反するから」
侑「えっ……こ、ここ何階だと思ってるの⁉ というか窓ガラスがーっ⁉」アワアワ
にこ「随分と余裕みたいだけど。あんたこれからどうなるか分かってるのよね? 覚悟は良いかしら。きっちりトドメを刺してあげるにこっ♪」
侑「ひっ……」
侑(に、逃げ場がないっ。いやそもそもこんな人から逃げ切れるわけがないっ! こ、ここまでか……‼)
にこ「──────じゃあねぇっ‼」 ドガァァァァァァァン‼‼
──……その瞬間、侑は信じられないものを目撃していた。
自分の部屋の壁が吹き飛んで、そこから何かが飛び出してきたのだ。目で追えぬほどの凄まじい速度だった。その人影は容赦なく黒髪の少女に躍りかかると、両手をぐんと引いて振り回す。
凄まじい轟音が連続した。黒髪の少女は何かに激突したかのように体を歪ませ、吹き飛び、瞬く間に破壊されたベランダから外へと放り出されていった。
にこ「くっ⁉」ガシャーン 侑「……は、え?」ポカーン
穿たれたベランダから、強烈な風が吹き込んでくる。侑は尻餅をついたまま、呆然とその姿を見上げることしか出来なかった。
あまりのことに言葉が出ない。
自分を救ってくれたもう一人の少女、ずっと一緒に生きてきた幼馴染を前にしても、頭を駆け巡る衝撃に言語機能は役割を果たしてくれない。
そんな侑を見下ろして、彼女は優しく呟いた。
歩夢「侑ちゃん。あなたが私のマスターだったんだね」 侑「へ? マスター………………?」
侑「いやいや待って待ってっ‼ なに⁉ なにしてんの歩夢⁉ ちょっ、わたしの部屋、どうやってこれ」
歩夢「えへへ。ついに繋がっちゃったね、私と侑ちゃんの部屋。明日からは直接起こしてあげられるよ♡」
侑「違うわっ‼ そんなこと言ってるんじゃなくて‼ あの槍持ってる人は誰で、なんで歩夢が、あれ、もう何から聞いたらいいのかわかんないよーっ‼‼」ワタワタ
歩夢「そうだよね、わかんないよね。でも、後で説明してあげるから────」ガシッ 侑「へっ?」
歩夢「いこっ♡」
侑「えっなんでなんでちょっと待っていやーーーッ⁉ なんで私と一緒に飛び降りるのお゛おおおおおおおおーーーーっ‼⁉」ブワッ
ドズン!
歩夢「着地成功〜! いつか二人でバンジージャンプとかやってみたいよね。あっ覚えてる? 貴女が幼稚園の時、高い木に登ったはいいけど降りれなくなっちゃって」
侑「今その話するの⁉ さっきの人いるけど‼ めっちゃ怒ってるみたいだけど‼」
にこ「あんたたち……このにこにーを前にしてコントかますとは良い度胸してんじゃない……‼」ズゴゴ かすみんのマスターが海未ちゃん?
マスターもアイドルなのか 侑「歩夢助けてーっ! よくわかんないけど助けてぇーっ!」ヒエェ
歩夢「もちろん。我が剣は貴女とともにあるんだよ、侑ちゃん♡」
にこ「なるほどね、あんたが「七人目」に選ばれたアイドルってわけ。面白いじゃない」
歩夢「……侑ちゃん、下がってて。あの人を倒すから」
侑「う、うん……」タジッ
侑(二人ともすごい気合……なんというか、オーラ的なものが出てる気がする……歩夢、どうしちゃったの……?) にこ「行くわよッ‼」ドンッ
歩夢「っ‼」バッ
──ガキィィィィンッ‼ ドンドンッ‼ ババッ! ガガァン‼
侑「すご。ていうか歩夢も強っ! あの人と互角に渡り合えてる! いけいけ! がんばれー!」
にこ「見えない武器とは小癪じゃないっ。どういうからくりか知らないけど、鬱陶しいわね‼」ガッドカッ!
歩夢「ふふっ、ありがとうございます。なんだと思います?」ガギンッ!
にこ「抜かしなさい剣使い! あんたみたいな正統派ヒロインっぽい子はねぇ、だいたいセイバーって相場が決まってんのよ!」ズガガッ!! ────ババッ! ザザアッ‼
歩夢(距離を取った?)
にこ「あんた、なかなやるじゃない。元々様子見が目的だったんだけど、いいわ。……これ以上舐めてかかるとやばそうだし、にこも本気を出してあげる」
歩夢「っ⁉」ゾワッ
にこ「この私を本気にさせたことを呪うのね」
歩夢「まさか……ッ⁉」
にこ「いくわよ、宝具────」キュゴッッ…‼
侑「ちょっ、歩夢、なんかやば」
歩夢「だめっ! 侑ちゃん離れてっ‼」バッ! にこ「『刺し穿つ』────『死棘の槍』ッッ‼‼」ギュゴァッッッ‼
その瞬間、あらゆるものが逆転した。
侑「────ばやかんな、むやあ、っょち」
歩夢「ってれなは、んゃちうゆ、っめだ────」
テープを巻き戻すように、時間が遡っていく。放たれた魔槍が因果を逆転させて、「投擲」という行為よりも前に「当たる」という結果を確定させたのだ。
それこそがゲイ・ボルク。使えば必ず心臓を貫く槍。 ────瞬きの後、侑の視界に映ったのは、槍に貫かれて遠く吹き飛ばされる歩夢の姿だった。
ドゴォォ……ン!!
侑「あ、歩夢っ⁉」
歩夢「うあああっ‼」ゴロゴロ
歩夢「……あ、あぐっ……うううっ⁉」ギュゴゴゴゴ……!
侑「あ、歩夢! お腹が…限界が近いんじゃ⁉」
歩夢「ま、まだ大丈夫だよ、侑ちゃん……! まだ私は、戦える……!」フラフラ
侑「で、でもっ!」 にこ「──躱したわね。にこの必殺の一撃を」ギリッ
侑「え………………?」
にこ「あーあ、なんかしらけちゃった。これを使う時はそれで終わらせるって決めてたのに。やる気失せたから、私帰るわ」
歩夢「に……逃げる気ですか……?」
にこ「別に追ってくるのなら構わないわよ? でもその時は、(肛門の)決死の覚悟を抱いて来ることね」ヒュンッ
歩夢「……はぁ、はぁっ。行ったみたい……」ドサッ
侑「歩夢っ!」ガシッ 聖杯戦争ではゲートオブオトノキザカとアイドルオンヘタイロイを使う高坂穂乃花に勝てる気がしない 歩夢「ごめんね侑ちゃん、私の幸運値が低いかったらあのまま心臓を穿たれて負けてたと思う。運任せなんて、私もまだまだだなぁ……」
侑「じょ、状況がよく分からないんだけど、とにかく今は休もう? もうお腹も限界なんじゃないの? ほら、肩貸してあげるからさ!」
歩夢「あ、ありがとう、侑ちゃ────」ハッ
歩夢「……敵が来る」
侑「えっ?」
歩夢「ごめん、侑ちゃん。でも私が、侑ちゃんを守らないと」 侑「ちょ、ちょっと、何言ってるの⁉ 歩夢────」
歩夢「っ‼」ドンッ
侑「な、何考えるの歩夢、まだ戦うだなんて……‼」
ガキンガキンッ…‼
侑「あっちだ!」
侑「歩夢、歩夢っ⁉」ダダッ
侑「え────────」 そこで侑が見たものは、双剣を持つ少女を容易く斬り倒し、そのまま奥に潜む誰かへと肉薄する歩夢の姿だった。
直後、数メートルはあろうかという巨大なコッペパンがどこからともなく現れ、歩夢を押し潰さんと迫る。しかし無意味だった。歩夢が片手を振り払うだけで、巨大コッペパンはゴム毬のように弾んで道路の端へと投げ捨てられた。
侑「なにあのコッペパン」 その奥にいる人影が尻餅をつく。今のコッペパンが精一杯の攻撃だったのか、もう対抗策はないらしい。
それを知ってか、歩夢は片手に持った「何か」をゆらりと振り上げて────、
歩夢「────────じゃあね」ユラッ
侑「いやいや、パンに気を取られてる場合じゃないっ! あれは……よく見えないけど……人っ⁉だめだよ歩夢、止まって……‼」
歩夢「私が──侑ちゃんを──守らないと──」
侑「止まってぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ‼‼」
歩夢「!」ビタッ 歩夢「……なんで止めるの、侑ちゃん」
侑「だめだよっ! 誰か知らないけど、多分それで傷つけたら漏らしちゃんでしょう⁉ うんこを! 私だって経験したんだから分かるんだよ⁉」
歩夢「でも、敵が」
侑「いいからっ……今は、お願い……歩夢」
歩夢「……わかった。侑ちゃんの頼みだもん」スッ
侑「ほっ……話を聞いてくれてよかっ」
???「せ、せんばぁぁぁぁ〜〜〜いっ‼‼」ダッ! 侑「えっ? か、かすみちゃん? かすみちゃんだったの⁉」
かすみ「────先輩っ! 先輩先輩先輩っ! さっきので漏らすかと思いましたぁぁっ‼」ビエーッ
歩夢「あれ、かすみちゃん。かすみちゃんだったんだ」キョトン
かすみ「なんでトドメ刺そうとしてたのに気付いてないんですかぁっ! 怖過ぎですよ! かすみんに敵対の意思はなかったのにいきなり斬りかかってきてぇ!」ガクブル
侑「あ、あはは、もうわけわかんないや………」
歩夢「……とりあえず、おうちに帰ろっか♡」 〜侑の自宅〜
侑「……あ、アイドル戦争っ?」
かすみ「はい。侑先輩は、それに巻き込まれてしまったんです」
侑「ちょ、ちょっと状況が読めないんだけど。えーっと、それがどういうものなのか説明してもらっていい?」
かすみ「はい。アイドル戦争とはその名の通り、不定期に開催されるスクールアイドル達の戦いです」
歩夢「……………………」
かすみ「と、いきなり言っても分かりませんよね……かすみんも一応参加者なんですが、先輩と敵対する気はないので安心してください。というかそんなことをしたら歩夢先輩にどうされるか……」ガタガタ かすみ「そうだ! こういう時、簡潔にルール説明をしてくれる監督役がいるのを思い出しました!」ポン
侑「えっ? そんなスポーツみたいな催しなの、これ?」
かすみ「まあ14人って決まっていたり、ルールもあるので、ある意味スポーツに近いかもしれませんね。負けた時の代償がデカ過ぎますけどぉ……」オシリサワ
かすみ「とにかく、教会に行きましょう! 監督役が先輩にこの戦いについて教えてくれるはずです!」
歩夢「そうだね。侑ちゃんも参加者に選ばれたんだし、監督役への挨拶くらいはしておいた方がいいかも」
侑「うーん、とにかく現状を知りたいのは確かだし。よし、教会とやらに行ってみよう!」オー 〜深夜・教会〜
ラーラーラー…(荘厳なBGM)
しずく「────あら? いらっしゃい、侑さん、歩夢さん、かすみさん」ニコッ
侑「って、監督役はしずくちゃんなの⁉」ガビン
かすみ「はい。監督役もスクールアイドルから選ばれるんですよ」
しずく「スクールアイドルじゃない侑さんも連れてきたってことは……かすみさん、もしかしてイレギュラーな事態が起きてるの?」
かすみ「うん。歩夢先輩のマスターが、なんでか侑先輩になっちゃったみたいで」 しずく「そういうことでしたか。それは確かにルール説明が必要ですね。承りました!」
侑「お願い、しずくちゃん。もうさっきからちんぷんかんぷんで困っちゃって……」ハァ
しずく「では、この虹ヶ咲で勃発したアイドル戦争について、簡単に説明させて頂きます」ホワイトボードドン
しずく「アイドル戦争とは、選ばれしスクールアイドルを決めるためのバトル・ロワイヤル。敗者はアイドルとしての尊厳を失う、過酷な生存競争です」メガネクイッ しずく「参加者は14人、全員がスクールアイドルの中から選ばれます。参加者はそれぞれ「マスター」と「サーヴァント」に振り分けられ、二人一組でタッグを組みます。あとはご存知の通り、他のペアと戦って、最後まで勝ち残った人が勝者となります」
侑「そ、それに勝ったらどうなるの?」
しずく「聖杯。手にした者をスクールアイドルの頂点へと連れていってくれる希望の杯が、勝者には与えられます」
侑「へぇ〜そんな凄いものが……聞いたことなかった……」
かすみ「これはスクールアイドルしか知り得ない、絶対の秘密ですから。かすみんも実は最近知りました」 しずく「……おほん。現状の説明に移りますが、侑さんは何故かアイドル戦争に巻き込まれてしまったみたいなんです。スクールアイドルしか参加資格を有さないはずなのに」
侑「それ言われたよ。あの槍の人が、スクールアイドルでもないのになんで参加してるんだって」
しずく「侑さん、右手を見てもらえますか?」
侑「右手? うわ、なにこれ⁉ 赤いタトゥー⁉変な形!」ギョッ
かすみ「それは令呪といって、「マスター」であることの証明です。また、従える「サーヴァント」への絶対命令権を有する刻印でもあります。3回しか使えないお助けアイテムだと思ってください」
歩夢「私は侑ちゃんの命令ならなんでも聞くのに……」 侑「ぜ、絶対命令権って物騒だなあ。例えば私が歩夢に今すぐ漏らせとか命じたら漏らすの?」
歩夢「侑ちゃん‼‼⁉⁉」ガビン
しずく「漏らします。アイドルが漏らしてしまった場合、それはこの戦いの敗北を意味しますが」
侑「冗談だよ冗談。あんまり有効的な使い方が思いつかないなあ」
しずく「まあ、命令権と言っても、サーヴァントの一時的な強化であったり、通常は不可能な瞬間移動などにも使えます。意外と応用の幅が効きますから、ピンチになったら頼ってください」 侑「わかりましたー。ところで、その「マスター」とか「サーヴァント」っていう単語なんだけど……」
しずく「あ、説明がまだでしたね」
歩夢「それは私が説明するよ」スッ
歩夢「──簡単に言うと、私みたいに戦う役目を担うのが「サーヴァント」。そして、それをサポートするのが「マスター」。侑ちゃんは、サーヴァントである私のマスターに選ばれたの」
侑「へぇ〜。サーヴァントって召使いみたいな意味だよね? 私が主人役ってことかあ」
歩夢「本来なら、どちらもスクールアイドルしか選ばれないんだけどね。多分、私達の絆が常識を破壊してしまうくらいに強過ぎて……」 かすみ「はいはい歩夢先輩に任せると暴走しそうなのでやっぱりしず子に任せてください!」ガタッ
歩夢「むー」プクゥ
かすみ「ちなみに補足すると、私も「マスター」です。自前のスクールアイドル力である程度は戦えますが、それでもサーヴァント役のアイドルには到底敵いません。アイドルじゃない先輩なら尚更です」
侑「ああ、あのコッペパンか……でも、そうだよね……あんなのに混ざるのは無理だよ…」ゾゾゾ 侑「かすみちゃんもマスターなら、サーヴァント……を従えてるんだよね? さっきの人はどこにいっちゃったの?」
かすみ「えと……あの時歩夢先輩にバッサリ斬られて……今ダメージを回復するためにトイレに篭ってます。二、三日は出てこれないかも……」
侑「えっ⁉ た、大変じゃん⁉」
歩夢「てへ♡」 侑「ごめんねかすみちゃん……うちの歩夢が……」
かすみ「いえいえ、不用意に接近したかすみんの落ち度でもありますので……」
歩夢「侑ちゃん? もしかしてサーヴァントのことをペットか何かみたいなものと思ってないかな?」
しずく「話が逸れましたが……今ここにいる侑さん、かすみさん。それ以外にも5人のマスターがこの街のどこかにいます。当然、それぞれが従えるサーヴァントも」
しずく「それら全員を打ち倒し、勝利する。それがこのアイドル戦争の全てになります。侑さん、かすみさん、聖杯を目指して頑張ってください」 侑「なるほどねぇ。と言っても参加者がスクールアイドルだけじゃあ、だいぶ人も限られそうだけどねえ」
しずく「あ、アイドル戦争は人目についてはいけないという暗黙の了解が存在します。だからと言って、昼間の学校で戦ったりはしないでくださいね?」
侑「うん。しずくちゃんもかすみちゃんも、今日のお昼は普通に過ごしてたもんね。私もそれに従うよ」
かすみ「同時に、お昼は「誰がマスターなのか」「誰がサーヴァントなのか」を探り合う頭脳戦でもありますから……侑先輩、気を付けてくださいねぇ?」
侑「えー、もし同好会のみんなが参加者だったら、戦わなくちゃいけないのか……」ユウウツ 歩夢「スクールアイドルの世界は厳しいんだよ、侑ちゃん。それに、見た目は物騒なことをしているようだけど、負けても死ぬわけじゃないから……」
しずく「ご理解いただけたようで何よりです。監督役の私は戦う術を持ちませんが、もしマスターがサーヴァントを失った場合、この教会が敗者を保護するセーフルームとして機能します。その場合はここを訪れて下さい」
侑「うん、ありがとう。二度とあんな思いはしたくないし、歩夢にもさせたくない。こうなった以上は頑張ってみるよ」フリフリ かすみ「さて、これからどうしましょー?」テクテク
歩夢「かすみちゃんは一応敵だから、侑ちゃんが言うなら今すぐここでかすみちゃんを敗退させてもいいけど」
かすみ「ちょっ⁉ あ、歩夢先輩⁉ 冗談ですよね⁉」
侑「うーん……まだ何も分からないことだらけだし、かすみちゃんは信頼できるし、ここは協力したほうがいいんじゃないかな? 別に協力しちゃいけない、なんてルールはないよね?」
かすみ「せんばぁい!」ギューッ
歩夢「そう言うと思った。じゃあかすみちゃんとは共同戦線だね」 かすみ「う……うぅ……歩夢先輩の笑顔が怖い……切り替えが早過ぎて怖い……」
侑「よーし! 聖杯っていうのが何なのかはよくわからないけど、負けるのは怖いし頑張ろう!」
歩夢・かすみ「「おーーーっ!!」」
〜一日目、終了〜 侑「おはよう……」チュンチュン
かすみ「おはようござま゛ぁず……」
侑「ふわぁ……昨日、壁を歩夢がぶち抜いた時はどうしようかと思ったけど……三人で行動するならちょうど良い広さかもね……」フラフラ
かすみ「そうですねぇ……」
歩夢「二人とも遅いよ〜? ほらほら、しゃきっとして! ご飯はできてるからね」
侑・かすみ「顔洗ってきま〜す……」バタン 侑「いやー、なんか普通に朝ごはん食べてるけど。私たち、いま戦争中なんだよね」モグモグ
かすみ「そうですよ侑先輩っ。学校にいようと気は抜けません。同好会の誰が参加しているかは分かりませんが、きっと覚悟を持ってこちらを倒しに来るはずです。隙は見せないようにしましょう」
侑「うん……ちょっと憂鬱だけどね……」
歩夢「私がいるから大丈夫。侑ちゃんはこの身に代えても守り抜くからね」
侑「ありがとう、歩夢。じゃあ今日はそれとなく同好会のみんなを観察して、ちょっと怪しい人を探してみようかな」 〜学校・放課後〜
侑「あれ? 璃奈ちゃん、愛さんは?」
璃奈「おやすみ。なんでも風邪引いちゃったらしい」
侑「えぇ〜っ、大変じゃん! お見舞いに行かないと」
璃奈「それが、私も行こうとしたんだけど。結構ひどい風邪みたいで、うつると悪いから合わない方がいいって」
侑「そっか……せめてメールくらいは送っておこう」
璃奈「うん」 侑「────じゃあ今日の練習はこれまで。みんな、お疲れ様!」
彼方「彼方ちゃん今日も頑張ったよぉ〜」
エマ「えらいねぇ彼方ちゃん。良い子にはなでなでしてあげるからねぇ」
彼方「えへへぇ〜っ」スリスリ
果林「もう。あんまり甘やかし過ぎちゃ駄目よ、エマ?」
彼方「えぇ〜っ果林ちゃんがそれ言うの〜? 毎朝起こしてもらってるくせに〜?」
果林「さ、最近は一人でちゃんと起きるようにしてるわよっ! もう!」ワタワタ しずく「うーん、今日はちょっとお洋服見てから帰ろうかな。最近あんまりいいのが無くて……」
璃奈「わたしもついて行きたい。最近ショッピング行ってないから」璃奈ちゃんボード『オレも行くッ! 行くんだよォ──ッ!』
侑(愛ちゃん以外は……みんな、いつも通りだな……)ウーン
せつ菜「…侑さん、ちょっといいですか?」コソッ
侑「あ、うん。どうしたのせつ菜ちゃん」
せつ菜「少々大事なお話ですので、こちらへ…」 〜生徒会室〜
菜々「侑さん。貴女は昨日、編集作業で夜遅くまで学校に残っていましたね? 監視カメラの映像を確認させて頂きました」
侑「……そ、それが?」
菜々「腹の探り合いはなしにしましょう、今くらい。これを見てください」ペロッ
侑「え、えっ⁉ せ、せつ菜ちゃ、なんで急に服脱いで────///」ドキドキ
侑「っ⁉」 菜々「見えますよね、これ。令呪です。侑さん…貴女と同じく、私もマスターだということです」
侑「せ、せつ菜ちゃんも。でもなんでバレて」
菜々「その右手。肌色の湿布で隠していますけど、そこに令呪がありますね? バレバレです。私の目は甘くありません」
侑「うぐぅーっ!」ギク
菜々「はぁ……侑さん、それにしても」メガネハズシ
侑「な、なに……?」ビクビク せつ菜「──────これって!!!!!! めちゃくちゃ燃える展開じゃないですか!!!!!!!!??????」ゴウッ
侑「いやうるさっ」
せつ菜「こんなのアニメですよアニメ!!!! こんなの!!!!! 夜と共に戦いが始まる!!!! 平穏の裏に潜む戦争の影!!!!!! マスター!!!!! サーヴァント!!!! かっこいいーっ!!!!!!!!!」
侑「あ、あぁそうだった、せつ菜ちゃんはアニメ大好きだもんね……そりゃテンションが壊れるわけだ……」
せつ菜「私嬉しいんですっ!! 人にはこの事を言えませんし!! この大好きを共有できる人ができて嬉しいんですよっ!!」
侑「あ、あはは……一応敵同士なんじゃなかったっけ、これ……まあいっか」 せつ菜「はっ、そうでした。私のペアも紹介しないとですね!」
侑「ペアって……そっか、サーヴァント。私は歩夢だったけど」
果林「せつ菜が使役するサーヴァント役……それは私よ、侑ちゃん」シュンッ
侑「か、果林さん⁉ あれ、いま何もないところから現れたよね⁉」ビックリ
果林「サーヴァント役のアイドルには、色々と能力が与えられるわ。今のもその一つ。姿を消すことができる「霊体化」よ。現れたんじゃなくて、透明になってそこにいただけ。といっても気配でバレるから、あんまり役には立たないけどね」 侑「凄っ。普通に人間やめてるよね、サーヴァント役に選ばれた女の子……」
せつ菜「まあ、戦争が終われば元の私達に戻りますから。期間限定のスーパーパワーですね」
果林「別に私は参加する気なんてなかったんだけどね……聖杯って勝手に参加者を選ぶらしくて、気がついたらこうなってて……」ハァ
せつ菜「私は嬉しいですけどね!!! 逆に選ばれなかったらどうしようかと!!!! まあ欲を言えばサーヴァント役に選ばれてスカーレット・ストームを実現したかったですが!!!!!」
侑「へぇ〜。意外とアバウトに決めるんだね」 侑「で、なんでせつ菜ちゃんは私にその事を話してくれたの? 確か、アイドル戦争に参加していることは秘密にしなきゃなんだよね?」
せつ菜「実は、同盟を組む人を探していまして……侑さんであれば問題ないのではと考えた次第です」
侑「同盟かあ。うーん……」
果林「悪い話じゃないと思うわよ? 情報も共有できるし、集中攻撃されるリスクも減るわ。同盟までは行かずとも、一時停戦という話でも良いのだし」
侑「…………………………」 侑「…………ごめんね、せつ菜ちゃん。果林ちゃん。でも私、そのお話には乗れないや」
せつ菜「えっ!」ガビン
侑「実は、もうかすみちゃんと同盟を組んでるんだ。これ以上組むのは良くないって歩夢にも言われてるし、かすみちゃんも同じ事を言ってた。今二人を呼んでもいいけど……多分、二人とも駄目だって言うと思う」
果林「あら、もうお手つきだったのね。残念」
せつ菜「そうでしたか……うぅ、折角マスター仲間ができると……しょんぼりです」ショボン 侑「ご、ごめんねぇ! でも、嫌いだからとかじゃないから、本当! 正直言えば私は誰とも戦いたくないし!」
せつ菜「いえ、侑さんにも立場がありますから。そうであれば仕方がありませんね。こうなれば同じ立場のライバルとして、正々堂々いつか決着を付けましょう!」
侑「せ、せつ菜ちゃん……!」
せつ菜「────ではまた。何事もなければ明日の学校で、もしくは夜の戦場で会いましょう」
果林「夜道には気をつけなさい? なんて」ウフフ
侑「うん! またねー!」フリフリ
侑「……よし、帰ろっと!」 〜夜・侑宅〜
侑「参ったなー、せつ菜ちゃんと果林ちゃんが参加者とは。二人は正々堂々戦おうって言ってたけど、私はまだ気が引けるよ……」ウーン
かすみ「あはは、そのうち慣れると思いますよ。みんなそこは割り切ってますから」ゴハンモグモグ
侑「そういえば……昨日戦った人とか、かすみちゃんのサーヴァントの人とかは虹ヶ咲のアイドルじゃないよね? どこから来た人なんだろう?」オショウユチョウダイ
歩夢「遠くのアイドルが魔術的パワーで召喚されることも多いみたい。だから、もしかしたら虹ヶ咲で参加している人は案外少ないのかも」
かすみ「かすみんのサーヴァントは、μ'sっていうアイドルグループから時空を超えて来てくれた人で……まあこの話は後々しましょう。問題は今夜どうすべきか、です!」 侑「ええっ? 別にこのまま寝ればいいじゃん」
かすみ「ダメですよ先輩っ。アイドル戦争が行われている以上、一日の本番は昼じゃなく夜です!敵を探して撃破する、サーチアンドデストロイなバトルが始まるんですよーっ!」
歩夢「そうだね。近辺の見回りくらいは済ませて、出来れば今夜中に一騎くらいは減らしたいね」
侑「あ、歩夢まで……」
かすみ「そうと決まれば出発しましょう! 大丈夫です、今日は私も協力しますから!」イキマショー 侑「────うぅう、寒いなあ。とりあえずどこに向かおう?」ザッザッ
かすみ「教会の方とかどうです? あそこは監督役の縄張りですが、同時にアイドル戦争の中心地でもあります。敵を見つけられるかも」
歩夢「いいと思う。任せてね、侑ちゃん」
侑「じゃ、じゃあそれで……怖いからあんまり敵には会いたくないけどね……」
かすみ「そういえば侑先輩、歩夢先輩の「宝具」が何か知ってるんですかぁ?」 侑「え? 宝具って?」
歩夢「宝具っていうのはね。サーヴァント役のアイドルが一つから複数個持つ、超強力な武器のことだよ。必殺技と言い換えてもいいかも」
侑「ああ、そういえば槍の人が使ってた、あれ! あのきゅごごーっ! ってなって歩夢を串刺しにした!」
歩夢「そうそう。簡単に言うと、ああいう強烈な必殺技をサーヴァントは一つ二つ有してるの。どんな宝具になるかは、その人によって決定されるらしいんだけど」
歩夢「ちなみに、私の宝具はね──────」 ???「お話の途中、ごめんね?」
途端、誰もいないと思われた夜の道路に、冷たく凍るような少女の声が響き渡った。
侑を除く二人が即座に戦闘体制を取る。煌々と輝く月が照らす中、張り詰めた緊張感はやけに鋭く肌を刺した。ごくりと唾を飲み込んで、侑は目前の乱入者に目を向ける。
──────そこには。
侑「えっ……」 巨大な影が、横たわっていた。
あり得ない大きさの剣がまず目に映った。刃渡りだけで侑の身長は軽く超えている。だというのに、さも当然とばかりにその人物はその大剣を背負い、こちらに獰猛な視線を向けている。
そしてその前に立つ、対照的に小さな人影。
璃菜「こんばんは、みんな。私だよ」
侑「り、璃菜ちゃんに……愛さんっ⁉」
かすみ「っ、りな子、まさか!」
璃菜「互いに見れば分かるよね。立場も役割も、これから何をすべきなのかも」
璃菜「だから、倒すね」璃菜ちゃんボード『覚悟の準備をしておいて下さい』 侑「ちょちょちょちょっと、待っ」ワタワタ
璃菜「────やっちゃえ、愛さん」
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■────ッッッ‼‼」ビリビリ 歩夢「来る! 二人とも下がって!」
侑「な────どわぁぁっ⁉」
ガッキィィィィン! ズドォォォォーーン!
歩夢「つ゛、ぐぐぐっ、ぁ……‼」ギギギ!
愛「お前か?」ギョロリ
歩夢「なっ」
愛「りなりーをいじめるの、お前か?」ギョロギョロ
歩夢「まさかっ……正気を、失って……⁉」 愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■────ォォッッッ‼‼」ドゴォッ! ドゴンドゴンバゴォンッ!
侑「な、なんで、あれが、愛さん……?」
侑「どうしちゃったの⁉ 全然違うじゃん! あんなの愛さんじゃないじゃん⁉ 怖いよ⁉ なんか身長3メートルくらいあるよ⁉」
かすみ「説明してる暇はありません! 私が援護しますから、侑先輩は安全な場所へ!」ダッ
侑「え、援護って言ったって────」 >>92
訂正です
×侑「な、なんで、あれが、愛さん……?」
○侑「な、なんで、あれが、愛ちゃん……?」
×侑「どうしちゃったの⁉ 全然違うじゃん! あんなの愛さんじゃないじゃん⁉ 怖いよ⁉ なんか身長3メートルくらいあるよ⁉」
○侑「どうしちゃったの⁉ 全然違うじゃん! あんなの愛ちゃんじゃないじゃん⁉ 怖いよ⁉ なんか身長3メートルくらいあるよ⁉」 愛と呼ばれたモノが手にした大剣を振るうたび地面は粉砕され、電柱は叩き折られ、空気がびりびりと振動する。
スクールアイドルとはかけ離れた破壊の嵐がそこにはあった。愛の目には何も見えておらず、ただ眼前の敵を倒すことしか頭にないらしい。侑は自分の膝が震えて、一歩も動けなくなっている事を自覚した。
かすみ「コッペパン! えーい!」
愛「■■■■■■■■■■■■■■■ァッ‼‼」バコン
かすみ「え゛ぇーっ‼ 効いてないぃっ⁉」ガビン
歩夢「がっ、ぐっ、うううっ‼」ズガガガガッ‼
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■────‼」
ドォンズドォンバゴォン! ガガガッ! ズザザ!
コッペパン! ギィン! ドンドンドンッ!ウワァァッ! 侑「歩夢! 歩夢っ!」
侑「う、うごけ、うごけないっ、動かなくちゃ、動かなくちゃ────」ガダガタ
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ‼‼」
侑「ひ……っ」ビクッ
侑(怖い……怖い怖いっ! 死なないって分かってても怖いっ! なんで歩夢は戦えるの……? あんな大きな剣を振り回す愛ちゃんに、なんで立ち向かえるのっ⁉)
侑「わたし──なにも、なにも知らずに──」 歩夢「ううぁぁぁぁぁああああっ‼‼」ガキン‼
歩夢「────はぁ、はァッ! あ、やば……⁉」
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■────────ッッ‼‼」バゴォン!
歩夢「あ──が、ふ……っ」ゴロゴロゴロ…ドサッ
侑「あ、あ……歩夢ーーーーーーっっ‼‼‼」 歩夢「………………」ギュルルル…!
歩夢「は、はぁっ……はぁ、はぁ……お腹が……やばいっ、漏れ……う゛」フラフラ
璃菜「……愛さんには勝てないよ。愛さんはフィジカルで見れば最強のサーヴァント。それに加えて、理性を自ら捨てたことで異常な身体能力を有してる」
歩夢「う゛、ううう……‼」ガクッ
璃菜「終わらせて、愛さん」
愛「お前か? お前か?」ズンズン 侑(ダメだ、歩夢が負けちゃう、歩夢がっ)
侑(なんでまだ戦おうと、逃げなくちゃ、みんなで逃げないと、なんで、なんでまだ立とうと)
────『ごめん、侑ちゃん。でも私が、侑ちゃんを守らないと』
侑「‼」ハッ
侑「まさか……歩夢は……私を守るために……? だからあんなになっても戦おうとするの……? だから、まだ立ち上がれるの……?」
侑「…………………………歩夢っ!」ギュウ 愛「■■■■■■■■■■■■■〜‼‼」ユラッ
侑(……もしそうなんだとしたら。歩夢が私のために戦ってくれているのなら。私はなんだ。震えて何もできない私はなんなんだ! 動けっ、走れっ! 歩夢のところに今すぐ走れっ……‼)
侑「……の、」
侑「こんのおおおおおおおおおおっっ‼‼」ダッ
──────ズバンッッ‼ 歩夢「え、」
かすみ「あ」
璃菜「っ!」
侑「…………………………」
歩夢「侑、ちゃん?」
侑「あ、は……だめだ……歩夢を、かっこよく助けるつもりが……結局、盾にしか、なれな────」フラッ
侑「────」ゴロゴロゴロ…ドサッ… 侑「」ビクビク
歩夢「ゆ、侑ちゃん……?」
侑「」…ブリッ…
歩夢「ゆ、侑ちゃんが、私を、庇って、」
かすみ「────侑せんぱぁいっ‼‼」ダッ 璃菜「………………マスターがサーヴァントを庇うだなんて。普通は逆なのに」アゼン
璃菜「……………………………」
璃菜「もういいよ、愛さん。帰ろう」スッ
愛「■■■■■■■■■■■■■■■……」グルル
璃菜「不本意な決着になっちゃったけど……もう侑さんは脱落だし、マスターを失ったサーヴァントも同様に敗北が決定する。今日のところは終わりにしよう」
璃菜「────かすみちゃん」 かすみ「!」ビク
璃菜「次はサーヴァントを用意しておいて。その時、今度こそあなたを倒すから」
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」ドンッ!
かすみ「い……行っちゃった、りな子」
歩夢「侑ちゃん! 侑ちゃんっ! しっかりして侑ちゃぁんっ!!」ユサユサ
かすみ「はっ……先輩! 侑先輩ーっ‼」
侑「────────────」 〜翌日・侑の自宅〜
侑「……………………」パチッ
侑「あれ、私……」
侑「そうだ。歩夢を助けようとして、愛ちゃんの剣を受けて、そのまま漏らし……ハッ⁉」ガバッ
侑「あ、あれ? 別に漏らしてない……下着もそのままだし、お腹の異常もない。確かにあれは漏らしたと思ったんだけど……」
侑「まあいっか! セーフってことで!」アハハ かすみ「あっ、先輩! 目が覚めました⁉」
侑「かすみちゃん。おはよう〜」フリフリ
かすみ「いやおはようじゃありませんよ! 昨日どうなったか覚えてますよねぇ⁉」
侑「えっと、負けちゃったんだっけ?」
かすみ「そうですよっ! 確実にやられちゃいました! なのに気がついた時には漏れたはずのブツがなくなってて、元通りに……なんでですかねぇ?」
侑「あっ、一回中身出たんだね、やっぱり……けどまだ令呪もあるし、負けたってわけじゃないのかな?」 歩夢「侑ちゃんっ‼⁉」ガタン
侑「おはよう歩夢。ごめん、心配かけて」
歩夢「もうっ! バカっ! バカバカバカっ! もうーっ!」ギューッ
侑「うわ、あ、歩夢」
歩夢「侑ちゃんはマスターなんだよ⁉ 戦うのは私の役目なの! なのに飛び出して、愛ちゃんの剣を受けてっ! 侑ちゃんまで傷つくことはなかったのにっ‼」
侑「ご、ごめん。分かってたんだ、私なんかじゃどうしようもないって。でも……歩夢がピンチなのを見たら、いてもたってもいられなくなって」ショボン かすみ「歩夢先輩の言う通りですっ。あれはとんでもない常識はずれな行動だったと言わざるを得ません」
侑「か、かすみちゃんまで……」
かすみ「いいですか? サーヴァント同士の戦いにおいて、かすみん達マスターにできることなんてほとんどないんです。それを踏まえて、今度からはサーヴァントに突っ込むなんて真似はしないようにしてください」
侑「……はい、反省しました……」セイザ
歩夢「ううん、分かってくれたならいいんだよ。それに、私のためを思って動いてくれたのは嬉しかったし……///」ポッ かすみ「全く、この人達は……」ゲンナリ
歩夢「そうだ。今から急いで出ても遅刻だし、ちょっと遅めの朝ごはんにしよっか」
侑「えっ? うわっ! もう10時過ぎ⁉ 学校行かなくちゃじゃん!」ガビン
かすみ「今日は大事をとってお休みするつもりだったんですけど。侑先輩のお腹、いつ決壊するか分からないんですよ? 家ならまだ被害が抑えられます」
侑「でも行かなきゃ。大丈夫、私はこの通り元気だから! それに同好会の活動だって────」 歩夢「あ、侑ちゃん、それがね。同好会の活動、ちょっとの間休止することになったんだ」
侑「…………………………え゛っ‼‼⁉」ガビン
かすみ「アイドル戦争も本格的に始まってきましたからねー。誰が参加者かはともかく、その存在くらいは皆知ってますから。今集まったところで集中できませんし……」
歩夢「しばらくは戦いに専念しないとね」
侑「そんなぁ。いつ終わるの、これ?」
かすみ「大体一、二週間で決着が付くらしいですよ? 同好会の活動を早く再開するためにも頑張りましょうっ! まあ、敗者はしばらくトイレ生活になるんですけど……」アハハ
侑「笑い事じゃないよ〜……まあ今はとにかく、学校に行くことだけ考えよっか……」ショボン 〜昼休み・学校〜
かすみ「いやー、まさかお昼休みから登校することになるとは。気分は重役出勤ですねぇ♪」
侑「同好会……同好会……」ブツブツ
歩夢「侑ちゃん、別になくなるわけじゃないんだから……ちょっとお休みするだけで。だから元気出して、ね?」ヨシヨシ
かすみ「そうですよ! 気分が沈んだままだと勝てる勝負にも勝てな……」ビクッ
歩夢「!」ピクンッ 侑「あれ、いま、なんか変な感じしなかった?」
歩夢「うん。校門を通った瞬間、何か感じた」
かすみ「これは結界ですね。あ、お尻の決壊のほうじゃありませんよ? 特定の場所を自分の陣地として構築し支配する、魔術的パワーによる産物です」フム
侑「よく分からないけど、アイドル戦争絡みで敵が動いてるってこと?」
かすみ「はい。この学校を陣地にしようとしてるみたいで……容疑者としてはりな子、愛先輩、せつ菜先輩、果林先輩の四名でしょうか?」 歩夢「アイドル戦争の参加者だって分かっているのは、今のところその四人だもんね」
かすみ「ふむふむ……ちょっと面倒ですね。かすみん一人じゃどうしようもないです、これ。貼られてしまった時点で詰み、どうあがいても消去できないタイプというか。なんとか妨害工作してみますけど……」
歩夢「ごめんね、私は剣ばっかりでそういう知識は与えられてないみたい。ちなみに、これはどういった種類の結界なの?」
かすみ「う〜〜ん……複数人、それこそ全校生徒にすら影響を与えられるものみたいなんですけど……ちょっと分かんないです」 侑「け、結界かぁ〜。当たり前のように受け入れてるけど、話がどんどんファンタジーな方向に進んでる気がするよ。もう慣れてきたけど」
キーンコーンカーンコーン…
侑「やばっ。とりあえず今は入っても大丈夫なんだよね、かすみちゃん? 急がないと間に合わないよ!」
歩夢「既にだいぶ遅刻なんだけどね……」アハハ
かすみ「そうですね。とりあえず今は大人しく登校して、夜また家で作戦を練りましょう! いざゆかん!です!」タタッ
せつ菜「…………………………………」ガサッ 彼方「おやぁ〜? 侑ちゃ〜ん、歩夢ちゃ〜ん。こんな時間にラブラブ登校ですかぁ。隅に置けませんな〜?」ツンツン
エマ「そうだよ! もう、生活習慣の弛みは気の緩み! お寝坊さんは許さないからね!」プンスコ
侑「あ、あはは……ちょっと避けられない用事があって……お二人こそ、なんか元気がありませんけど」
彼方「実はねぇ〜、同好会も一時休止になっちゃって、果林ちゃんを探してたんだけど……どこにもいないんだぁ」ショボン
歩夢「え、そうなんですか?」
エマ「その様子じゃ知らないみたいだね。よければ、果林ちゃんを見たら教えてくれると嬉しいな」ジャアネ〜 〜夜・侑の自宅〜
侑「さて、今夜も作戦会議のお時間ですが」
かすみ「はい。今日学校で得た情報と昨晩のりな子と愛先輩のペア、これらを元にどう動くか決めないとですね」
侑「うーん、まずは学校の結界についてだけど」
かすみ「色々と調べて分かった事があります。張り巡らされた結界の流れをどうにか読んでみたんですが、それらは全部、とある場所を起点として構築されていました」
歩夢「というと?」
かすみ「…………『生徒会室』です」 侑「じ、じゃあせつ菜ちゃんと果林さんが⁉」
かすみ「はい。あの二人は活動の中心になりやすい学校を拠点と定めて、誰よりも早く支配権を確立したんだと思います。こうなってしまうと面倒ですよぅ。私達は毎日敵の本拠地に行かざるを得ないわけですから……」
歩夢「なんとか倒せないかな?」
かすみ「それが二人とも姿が見えないんです。結界に乗じてうまく隠れているのか、いくら探しても見つかりません! 向こうが手を出してくるのを待つしかなさそうです」
侑「だから彼方さんが探しても見つからなかったんだ…かすみちゃんがそこまで言うってことは、向こうの出方を待つしかないみたいだね」 かすみ「そうですね。次に、りな子と愛先輩のペアに対してですけど」
侑「あの二人かあ……なんだか、めちゃくちゃ強くなかった?」ゴクリ
歩夢「サーヴァントとしての意見を述べさせてもらうけど、愛ちゃんは確かに最強のサーヴァントだと思う」
かすみ「その意見には賛成ですっ。愛先輩の戦闘能力はずば抜けてました。かすみんも槍の人や歩夢先輩、かすみんのサーヴァントの戦いぶりを見てきましたけど、それらと比べてもあれは次元が違い過ぎます!」
侑「槍の人相手にはわりと戦えてた歩夢ですら、全く歯が立たなかったもんね……」ゾッ かすみ「実際、りな子も最強だって断言してましたし。そう言い切れるだけの強さがあります」
侑「でもどうするの? 璃奈ちゃん達ともいずれは戦わないと、だよね」
かすみ「……かすみんのサーヴァントが復帰した上で、ニ対一の状況に持ち込めれば、勝機が見えるかもしれません。歩夢先輩のダメージも心配ですし」
歩夢「わ、私はまだ戦えるよ! 愛ちゃんは無理でも、他のサーヴァントなら……!」
侑「歩夢、何をそんなに焦ってるの……?」 歩夢「いや……私は、別に焦ってなんか」
侑「落ち着こうよ、歩夢。夜に外出しない限り、向こうから挑んでくることもないんだし。少なくともかすみちゃんのサーヴァントが復帰して、歩夢のダメージが癒えるまでは……無理に戦おうとする必要はないんじゃないかな?」
歩夢「侑ちゃん⁉」ガタッ
侑「だ、だって、負けたら大変だよ? 愛ちゃんを見たよね⁉ 歩夢だって歯が立たなかったじゃん! 今無理を通すのは危険過ぎるよ!」
歩夢「───そう、だけど。確かに私じゃ敵わないかもしれないけどっ。でも、これはスクールアイドルである以上避けて通れない戦いなんだよ!」 侑「ダメって言ったらダメっ。やっぱり歩夢はどこか焦ってるよ! そんな状態で戦わせることなんて出来ない! それでも無理をするって言うなら────」スッ
侑「……これを使うよ、歩夢。令呪を」
歩夢「うっ…………分かった、もう。侑ちゃんの言う事を聞く。今日は戦いに出ない。これでいい?」シブシブ
侑「う…うん、ありがとう歩夢っ! そうだよ、今日くらいは休もう?」パァ
かすみ「はぁ、なんとかなったみたいで何よりです。私も反論はありませんっ。今日くらいは大人しくしておきましょう」 侑「────じゃあ電気消すよ〜?」パチン
かすみ「えへへぇ、戦術的理由とはいえ、先輩のお家にお泊まりは楽しいですねぇ」
歩夢「かすみちゃん、あんまりはしゃぎ過ぎないで? 昨日は大変だったんだから」
かすみ「はぁい。おやすみなさ〜い」ゴロン
侑「うん、おやすみぃ」モゾモゾ
歩夢「おやすみ」
歩夢「………………………………」 歩夢「………………………………」モゾモゾ
歩夢「ごめんね、侑ちゃん……」ガチャン
歩夢「侑ちゃんは優しいから、誰かと戦うなんて難しいよね。でも、この戦いはやらないとやられちゃうんだ。だから私が、侑ちゃんを守ってみせる」タッタッ
歩夢「侑ちゃんからのエネルギー補充は難しい。一昨日の傷も昨日のキズもまだ癒えてない」オナカサスリ
歩夢「でも、やるんだ」
跳躍を繰り返し、疾風の如き速度で歩夢は夜を駆ける。ビルの屋上から別の屋上へ、信号機の上から上へと。人にはなぞれない軌跡を辿って、怪しい場所を探して走る。 歩夢「…………………っ!」キキィ
そうしてどれだけ走り回ったのか。歩夢は、おかしな気配を放つマンションの前で足を止めていた。
歩夢「……強い気配を感じる。このマンションに何かがいる」
歩夢「空気が普通じゃない。綺麗……とても澄んでいて暖かい。立っているだけで心身共に健康になりそうな強烈なオーラが放たれてる。間違いなく、アイドル!」クワ
歩夢「もう私には気付いてるはず……一か八か、ここは正面から踏み込もう」 歩夢「…………………っ⁉」
意気揚々と正面口から侵入した歩夢が目にしたのは、驚くべき光景だった。
広い階段が目の前に続いてる。ただし、その階段は何百段あろうかという途方もない長さを有していた。その両脇には鬱蒼と木々が生い茂り、明らかに建築物の中といった様子ではない。物理法則を無視した空間の広がりに、歩夢はごくりと唾を飲む。
歩夢「辺りは森だし、夜空が見える。空間すら捻じ曲げてしまうくらいの魔力……マンションそのものが学校のものより更に強力な結界で覆われてる?」
一歩一歩階段を上がっていく。幸いにもそれが無限に続いている、と言うようなことはなく、この長い階段を登り切れば内部への侵入を果たせるらしい。
しかし、その前に立つ誰かがいた。
すらりと伸びる大太刀の刃。偽りの月光に照らされて、それはギラギラと獰猛に輝いている。 矢澤とか園田は別次元から時空を超えて参加してるらしいけどこいつら学校どうしてるんだ エマ「──────歩夢ちゃん、こんばんは。ここに来てくれたのは3人目だよ〜?」
歩夢「エマさん……」
エマ「えへへ〜。これ、かっこいいでしょ。私、日本のサムライにちょっと憧れてたんだよね〜」ニコニコ
歩夢「……そこを、どいてもらえませんか」
エマ「ううん。この先に通すわけにはいかないんだ。大人しく帰ってもらえたら、私も戦わないで済むんだけど」
敵意の全くない瞳。それが歩夢にはかえって恐ろしく思えた。
自然体で立っているようでいて、自分がこの先に一歩でも踏み込めば最後、あの太刀は即座に牙を剥く。 歩夢「それは出来ません。私は先に進まないと」
エマ「そっか、そうだよね……いいよ。やろう?歩夢ちゃんの全部、私の剣で受け止めてあげる」
歩夢は迷わなかった。
ただ敵を倒す、その一心だけを体に乗せて、勢いよく階段を駆け上がる。
────月の下、二人の戦いが始まった。 侑「うぅ〜……トイレトイレ……」ゴソゴソ
侑「……あれ? 歩夢がいない。トイレかな」
侑「ここにもいない。どこにもいない。ワイフがいないと、ワイ不甲斐ないと? てか! っwwwwwンヒヒッwwwww」
侑「……っ違うんだよ!」パシーン
侑「歩夢、まさか一人で……⁉ こうしちゃいられないっ、私も行かなくちゃ!」ガチャ 侑「……と勢いよく飛び出したはいいけれど、いったいどこに向かえばいいのやら。念じたら居場所が分かったりしないかな? 歩夢〜歩夢〜っ!」ムムム
侑「……はっ⁉」ピコーン
侑「わ、分かるっ! なんでか知らないけど歩夢の居場所が! 見えないけど感覚だけで理解できる!」
侑「これがマスターとして契約を結んだことの恩恵なんだ! よーし、気合い入れて走るぞ高咲侑っ!」
侑「歩夢、追いついたらきっちり叱ってあげるからね……‼」ダッ 歩夢「はぁっ!」カキンッ!
エマ「とーう!」ギンギンッ!
ガキンッ! ガガガッ! キギィン!
歩夢(ふ……踏み込めないっ! 太刀筋がぐねぐね曲がって全然読みきれない……! そのうえ階段の上と下っていう不利な位置関係もあって、一歩も前に進ませてくれない!)
エマ「見えない武器なんて面白いねぇ。ちょっとやりづらくて困っちゃうよ〜……」ガキンッ! エマ「────ここらへんかな?」ヒョイッ
歩夢「なっ⁉ 避けた⁉」
エマ「うん、見えないけど避けれた避けれた。大体長さは100センチ前後、幅は10センチくらい?何かと思ったら剣だったんだねえ、それ」
歩夢「……ただ斬り合っただけで私の見えない剣を見抜くだなんて。なんて技量……」
エマ「歩夢ちゃんこそすごいパワー! こんなの真正面からぶつかったらすぐに折れちゃうよ〜! なんとか受け流さないとやられちゃう!」 剣を交わし、火花を何度か散らし合って、二人は先程と同じ位置で睨み合う。こうして斬り合ってからどれくらいの時間が経ったのだろうか。一時間かそれ以上か、しかし歩夢の足は一歩として進んでいない。
歩夢「くっ!」
エマ「歩夢ちゃん、なんだかお急ぎだねえ。でも確かにこのままじゃ埒が開かないし……」ムー
エマ「分かった、私も奥の手を出してあげる」
歩夢「………………?」 エマ「こればっかりは本当に奥の手だよ。もし外しちゃったら私は負けるし、防ぎ切られても負けちゃうと思う。出したが最後、それで仕留められないと私はそれで終わり」
歩夢(階段を降りて……私と並んだ? 自分から高低差の理を捨ててまで……何を⁉)
エマ「でもね、歩夢ちゃん」
さっきまで淡々と語っていたエマの声色が、変わる。
エマ「──────構えないと、負けるよ?」
エマが見せたことのない構えをとる。
瞬間、歩夢の全身に鳥肌が立った。負ける。このままでは斬り伏せられてそこで終わる。
────嫌というほどに明確な敗北の予感が、歩夢の体を突き動かした。
エマ「"秘剣"」
歩夢「く……ッ⁉」バッ
エマ「────────────" 燕返し "」 稲妻を思わせる速度でエマの太刀が振われる。
躍動する全身をバネにして、振り下ろされた一撃を辛うじて跳ね返す歩夢。
歩夢(……速い、ギリギリっ!でも大丈夫、防げ)
歩夢「────……な⁉」
眼前。そこには弾いたはずの刃があった。
一本しか存在しないはずの大太刀は何故か二本に増えており、全くの同時、別の角度から振り下ろされていたのだ。
────刹那、歩夢は地面を蹴った。
階段から転がり落ちるのも気にせずに、敗北だけを避けるため、ただただ身を宙空へと放り出した。 歩夢「あっ、ぐっ! っ……!」ズザザ
エマ「──────凄い。まさか私の燕返しを避けられる人がいるとは思わなかったよ」
歩夢「……今のは、何ですか……?」
エマ「うーん、私も原理はよくわからないんだけどね? 一振りの剣を避けられてしまうなら、別の角度から「同時に」斬ればいいと思わない?」
エマ「だから、同時に斬ったの!」ニコッ 歩夢「まさか……本当にコンマ1秒の誤差すらなく、全くの同時に複数の太刀筋を放ったって言うんですか⁉ 一振りの太刀で、そんなのどうやって」
エマ「うん、普通は無理だよねえ。だけど出来るんだ、その普通を破ったから。あの瞬間だけ、私の太刀は二本に"増える"の。ちなみに、さっきのはちょっと失敗。……今度は「三本」をお見せするよ」
歩夢「……そんな、でたらめ……!」
エマ「でたらめだと思うならもう一度見せてあげる。今度は歩夢ちゃんも本気で来てね?」
歩夢「──────────」ゴクリ 歩夢「……わかりました。エマさん、私も全力をもってあなたに挑みます」チャキッ
エマ「うん、そうしてくれなきゃ悲しいもんね。いざ尋常に! ってやつかな、歩夢ちゃん」
歩夢「──────はあっ!」キュゴッ!
エマ「っ⁉」ゴォォッ!
風王結界。歩夢の剣を包み隠し、その姿を捉えることを困難とする空気の断層。
彼女はそれを解き放った。当然、秘められていたエネルギーと空気は秩序を失って荒れ狂い、凄まじい暴風を発生させる。嵐となって流れる大気の向こう、黄金の煌めきがその姿を覗かせた。
エマ「へえ、それが────歩夢ちゃんの────‼」 侑「はぁ、はぁ、着いた……! って何この長い階段は⁉」ガビン
歩夢「────────」ゴォォッ!
侑「あれは……エマさんと……歩夢っ! て、うわ、風強っ……⁉ く……こんなの、一歩も近づけないよーっ⁉」ビュウウウ
侑「歩夢っ……歩夢ーーーーっ‼‼」
────ヒュンッ!ストン!
侑「うわっ⁉ な、何事……どこからかナイフが飛んできたぁっ⁉」
侑「だ、誰かいるの⁉」キョロキョロ
侑「や、やる気かーっ⁉ 私は確かに弱いけど簡単に漏らしたりは……いややっぱりするから手加減してっ!」
侑「あ、あれ……? 風が止んだ……?」シーン… エマ「……ざんねん。歩夢ちゃん、今日は終わりにしよっか。お迎えが来たみたいだし、どこかで誰かが覗いてるみたい」
エマ「仮に決着がついたとしても、私たちにメリットはないよ。漁夫の利だけ取られて終わっちゃう」
歩夢「でも……!」
エマ「ううん、おしまい。帰るのならご自由にしてね。うかうかしてると後ろの侑ちゃん、今もどこかに潜んでる誰かにやられちゃうよ?」
歩夢「ッ!」ギリ 侑「はあっ、歩夢っ! 大丈夫なのっ⁉」ダダッ
歩夢「────────────」
侑「歩夢っ! 聞こえてるなら返事を」
侑「……歩夢?」
歩夢「────────────」グラッ
侑「あ、歩夢っ⁉」ガシッ
侑「し、しっかりしてっ! 歩夢、歩夢っ⁉ 目を開けてよ、歩夢ーーっ‼‼」 〜翌日・侑の自宅〜
チュンチュン…
歩夢「うぅ……朝……?」ムクリ
侑「目が覚めた? 歩夢」
侑「おはよう」
歩夢「あれ……ここ、侑ちゃんのベッド……私、何して……」
侑「歩夢、一人で勝手に戦いに行って、そこで倒れたんだよ。覚えてる?」
歩夢「…………あ、そっか……私」 侑「私が何を言いたいか、分かるよね」プンスコ
歩夢「勝手に戦いに行ったこと……?」
侑「そう。戦いに行かないって言ったのに、歩夢は嘘をついたんだよ。……ひどいよ」
歩夢「それは……ごめんなさい。でも、敵は倒さないといけないと、思って」
侑「ダメ。今回のことで私も怒ってるよ。歩夢には問答無用でしばらく休んでもらうから。今日と明日は学校を休んで、大人しくしておくこと」 歩夢「でも……!」
侑「でももへちまもないっ。歩夢、自分のお腹がどんな感じか分かるよね⁉ 気絶してる間ずっとゴロゴロ鳴ってていつ漏らすか気が気じゃなかったんだよ⁉」
歩夢「う……それは……確かに……///」キューゴロゴロ
侑「それにほら、もう夕方なんだよ? 今更行ってもどうにもならないし、今日は大人しくお休みしよ?」
歩夢「ほ、ほんとだ……私、そんなに寝て……」
歩夢「……ってことは、まさか侑ちゃんまで学校休んだの? 悪いよ!」
侑「いいって別に。歩夢の調子を見るためにも、今日は私もお休みしなきゃ。いまの歩夢でも食べられそうなお昼ご飯作ってくるから、待ってて」バタン
歩夢「うぅぅ……迷惑ばっかりで、ごめんね……」ショボン 歩夢「でも……!」
侑「でももへちまもないっ。歩夢、自分のお腹がどんな感じか分かるよね⁉ 気絶してる間ずっとゴロゴロ鳴ってていつ漏らすか気が気じゃなかったんだよ⁉」
歩夢「う……それは……確かに……///」キューゴロゴロ
侑「それにほら、もう夕方なんだよ? 今更行ってもどうにもならないし、今日は大人しくお休みしよ?」
歩夢「ほ、ほんとだ……私、そんなに寝て……」
歩夢「……ってことは、まさか侑ちゃんまで学校休んだの? 悪いよ!」
侑「いいって別に。歩夢の調子を見るためにも、今日は私もお休みしなきゃ。いまの歩夢でも食べられそうなお昼ご飯作ってくるから、待ってて」バタン
歩夢「うぅぅ……迷惑ばっかりで、ごめんね……」ショボン 歩夢「はぁぁ……」ポスン
歩夢「私、ダメダメなアイドルなのかなぁ……」
歩夢「かすみちゃんのサーヴァントこそうまく不意をついて倒せたけど……槍の人には貫かれるし愛ちゃんには手も足も出ずに負けちゃって……結局エマさんも倒せずじまい……」
歩夢「なんにも良いところがない」タメイキ
歩夢「こんなんじゃ……だめだよ……ごめんね、こんな弱いアイドルで……」 歩夢「侑ちゃんを──私は、守らないといけないのに────」フラッ
歩夢「ううっ、またお腹が……」
歩夢「寝れば多少は回復すると思うけど……侑ちゃんがご飯を作ってくれてるから……おき、起きないと……」
歩夢「……………………すやぁ」グゥ
侑「歩夢ー?」ガチャ 侑「あらら、寝ちゃったか。かすみちゃんが寝れば多少はエネルギーも回復します! とかなんとか言ってたけど」
侑「おかゆ、どうしよう」ウーン
侑「まあいっか、あとで私が食べよ。また起きた時に作ってあげるからね、歩夢」ナデナデ
侑「…………………」
侑「こんなに華奢な身体で頑張って、私を守るために、必死で戦ってくれてるんだよね……」
侑「……私が、少しでも代わってあげられたら……歩夢が傷つくことも、ないのかな……」
侑「……ごめんね、歩夢……」 かすみ「侑せんぱーい。歩夢せんぱーい。帰りましたよー?」バタン
かすみ「あれれ。返事がないですね。折角かすみんがドーナツを買ってきてあげたのに────」
かすみ「!」
歩夢・侑「「すぅ……すぅ……」」
かすみ「なんだ、ちょっと心配して損しました。全くもう、かすみんに見せつけてくれます……」
かすみ「ゆっくり休んでくださいね、先輩」ファサ 〜翌朝・侑の自宅〜
かすみ「じゃーいってきまーす」
侑「歩夢ー、私は学校行くけど歩夢はまだ安静にしなきゃだめだからね? いい?」
歩夢「分かってるよ、もー。いってらっしゃい。無いとは思うけど、もしピンチになったら私を呼んで」
侑「はいはい。いってきまーす」フリフリ 侑「……まったくもー、歩夢も頑固なんだから。私も学校に行く! って言い出してなだめるのに苦労したよ」
かすみ「歩夢先輩は自分が買ってでも無理しようとするところがありますからねぇ。マスターとして、しっかりそこら辺を見てあげて下さいねぇ」
かすみ「侑先輩こそ、本当に大丈夫なんですか?」ジッ
侑「え? 私はほら、この通り!」クルクル
かすみ「いや忘れてませんよねぇ! りな子と愛先輩にやられて、一度は確実に負けかけた時のこと! あんな無茶をしてなんでピンピンしてるのか、侑先輩自身わかってないんでしょー⁉」
侑「あはは……私、ここまで多分三割くらいの理解で突っ走ってきてるからね。うん」 かすみ「はぁ。二度も幸運が続くとは思えませんし、気をつけてくださいよぉ」タメイキ
かすみ「ではかすみんこっちに行きますので」
侑「あれ? 学校は?」
かすみ「今日はちょっとお休みします。かすみんの家に戻って、サーヴァントの調子を確認しないと。多分復調してのんびりしてると思いますが」
侑「そっか。じゃあまた連絡するね」
かすみ「はーい。ではまたー」フリフリ 侑「今日は私一人かぁ。ちょっと新鮮だなあ、いっつも歩むと二人で登校してるし」
侑「ん?」プルルルルル
侑「電話……せつ菜ちゃんからだ」
侑「何の用事だろう?」
侑「はーいもしもし。どうしたのー?」ピッ
せつ菜『侑さん。昨日休まれていたようですが、体の調子は大丈夫ですか?』 侑「あ、うん。ちょっとこっちにも事情があってさ、アイドル戦争絡みの。でも問題ないよ!」
せつ菜『そうですか。今日のご予定は?』
侑「えと、普通に登校するつもりだけど」
せつ菜『……………………そう、ですか』
侑「……せつ菜ちゃん? どうしたの? なんかヘンだよ、雰囲気が」
せつ菜『侑さんは鋭いですね。ええ、ええ。私はいまとってもわくわくしてるんです! わくわくが抑え切れなくて、侑さんが学校に来るか確認してしまうくらいには!』 侑「ちょ、ちょっと? せつ菜ちゃん、なんかいつもよりハイになってない?」
せつ菜『当たり前です! だって今日は』
せつ菜『────『ライブ』をするんですから!』
侑「ら、ライブ⁉ なんでそんな急に⁉」
せつ菜『侑さんは、私のライブが大好きだと言ってくれましたね。必ず、必ず来て下さい。きっとあなたを楽しませてみせますから」プツン
侑「せ、せつ菜ちゃん⁉ せつ菜ちゃん‼」 侑「切れちゃった」
侑「うーん……ライブって、今日は平日で学校もあるのにどういうこと? さっぱりだけど、とにかく学校に行って聞いてみないと始まらないか」
侑「行こう! せつ菜ちゃんに会いに!」ダッ
〜朝・学校〜
侑「はあ、はあ、着いたぞー!」
侑「あと10分で授業が始まる時間だから、校門もウチの生徒で賑わってるね。うーんマンモス高」 侑「ライブとかなんとか言ってたけど、別に普段と変わった様子はないなぁ」キョロキョロ
侑「みんなもいつも通りだし……ま、いっか。まだちょっとだけ時間があるから、生徒会室を覗いていこう」
侑「せつ菜ちゃん、いるかなー?」
侑「おーい……せつ菜ちゃーん……?」
────────ドクン。
侑「っ、あ⁉」ガクッ 侑「な、なに、が」ブルブル
侑「熱、い……熱いっ、体が……!」
侑「まるで……体の中で、何かが燃えている……ような……!」
侑「⁉」ハッ
朦朧と周囲を見渡して、侑は愕然とする。
窓から見える校舎外の景色。さっきまで見ていたはずの当たり前のソレは、今や一変していた。
視界に赤だけが映っている。
校舎を覆い包むほどに巨大な赤のドーム。天幕のように垂れ下がる赤もあれば、稲妻のような模様の赤もあって、世界が「赤」に染め上げられている。 侑「まさ、か」
侑「まさか、これが……かすみちゃんの言ってた『結界』なの……?」
侑「こんな……こんなことが、できるなんて」
────ウオオオオオオオ!!‼ ワアアアアアアアアアア‼‼
侑「歓声っ⁉ そんな、いったいどこから」
侑「これは……中庭っ……‼」ダッ ズキン
侑「令呪が痛い……! これはきっと、敵が近くにいるってことの合図だ……!」
侑「ううん、敵じゃない。これをやったのが誰なのか、私は既に知っている」
侑「そうだよね、せつ菜ちゃん……‼」
侑「放ってはおけない! 行くしかない!」
侑「──────ここかっ!」バタン! 中庭につながる扉を開いた瞬間、奥から吹き込んできた熱気と暴風が、侑の身体をもみくちゃにした。
鼓膜を破らんばかりの大歓声。
その場で圧倒される侑を押しのけるように、背後から歩いてきた生徒が一人、一人と、中庭で熱狂する生徒たちの中へと入っていく。
せつ菜「やっときてくれましたね、侑さん!」
大歓声のコールの中で、彼女の声は脳に直接響くかのように突き刺さった。
侑には見当もつかない、神秘的なエネルギーで構築されたと思われるライブステージの中心で、その少女は待ち構えていた。 侑「せつ菜ちゃん!」
せつ菜「はい! せつ菜オン・ステージです!」
侑「……えっと、これ、どういう状況?」
せつ菜「ライブですよ! ライブ! 果林さんにライブ用の結界を張ってもらって、それを起動したんです! こんなスピリチュアルパワー全開のライブ、現実じゃあできませんよっ!」
侑「その紅いドレスももしかして魔術だかアイドル力だかで作ったの? 可愛い〜!」
せつ菜「えへへ、そうですか? えへへ……」 果林「ちょっと! 貴女たち二人じゃ和んでばっかりで話が進まないじゃないの! せつ菜は次の曲に移って、みんなが待ち侘びてるわよ?」
せつ菜「あ、そうですね! では次の曲、いってみましょーう‼」
ウオオオオオオオオオオオオオ!!! ワアアアアアアアアアア‼‼
侑「あ、果林さん、いたんですね。おはようございます」
果林「はぁ、おはよう。あのね、貴女、今がどういった状況か理解しているの?」
侑「えっと、せつ菜ちゃんがいきいきとライブしてますね。生徒会長が平日朝から授業ボイコットしてライブって凄い状況ですけど」
果林「やっぱり何も分かってないじゃない! もう!」 果林「……説明もせずに始めるのはフェアじゃないから、一応教えてあげる」
果林「「サーヴァント」というのはね、「マスター」のアイドル力を原動力に戦うの。マスターがいかに可愛いか、美しいか、理想のアイドルに近しいか……そういったアイドルとしての煌めきを力に変換して、私たちサーヴァントは戦うの」
侑「え? じゃあ、マスターがアイドルとして優れていればいるほど、そのサーヴァントも強くなれるってことですか?」
果林「そういうこと。サーヴァントがいくら頑張ってアイドルとしての自分に磨きをかけても意味はないの。アイドル戦争で肝心なのはマスターの強さよ、侑ちゃん」 果林「それで、ね。私が学校にわざわざ結界を張った理由はそこに関係してくるの」
ワアアアアアア…… ウオオオオオオオ……
果林「────ここにいる皆を見てみなさい。貴女と同じく、この結界に入ったものは例外なくステージへと吸い寄せられる。そこでせつ菜が歌う。これだけの観衆を楽しませる、それによって生まれるアイドルとしての力は相当のものになるわ」
侑「アイドルとしての力……輝き」
果林「そう。それを求めて、私は今日のステージを作り上げた。途中途中でかすみちゃんが妨害してきて長引いたけど、なんとか今日、不完全ながらもライブまで漕ぎ着けることができたわ」
果林「……それで、私たちはこうして十分なアイドル力を補充できた。ちょっと手段が粗いのは認めるけど、ね。そうして、私たちはどうする気だと思う?」 侑「えーっと……「マスター」の輝きは「サーヴァント」にそのまま供給されて……アイドルとしてのエネルギーが多ければ多いほど、サーヴァントは強くなって」
侑「つまり、果林さんがとても強くなる……」
侑「!」ハッ
果林「そう。そういうことよ、侑。なぜせつ菜がここで歌うのか。それはひとえにアイドル力を集めて、私というサーヴァントを強くするため。そして、貴女たちのような敵を打ち砕くため」
その声色に闘志が籠る。空手だったはずの果林の両手には、いつの間にか鎖とタガーが握られていた。
果林「──────覚悟を決めなさい。貴女はここで仕留めるわ」 せつ菜「次の曲です! ────『CHASE!』!」
ワアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼‼
果林「行くわよ‼」ダッ
侑「うっ⁉ に、逃げ──」
果林「無駄よ! サーヴァントでもアイドルでもない侑じゃ、サーヴァントである私から逃げることなんてできないッ!」
侑「くっ、くそぉっ!」
せつ菜『……足を踏み出す 最初は怖いかも』
せつ菜『でも進みたい その勇気があれば!』
侑(やばいやばいやばいっ。このままじゃ本気で負けるっ! なにか、なにか無いのっ⁉)
侑(……っ、そうだ、令呪! 令呪を使えば) どくん、と侑の心臓が強く跳ねた。
本当にそれでいいのかと自問する。歩夢をこれ以上戦わせることが正しいのかと、自分がここで素直に負ければいいのではないかと考える。
侑(……あゆ、む)
己のサーヴァント。
それ以前に、自分の一番大切なともだち。
侑(……きっと、歩夢も同じ気持ちだよね)
答えはすぐに弾き出された。
負けるのはいい。でも、そうすればきっと歩夢は悲しむ。とても怒る。
戦いに置いていかれた侑自身がそう感じたからこそ、その気持ちは理解できる。
──────だから、頼る! 侑「お願い、来て」
侑「来て────歩夢──────────ッ‼‼」
…………ビカァッ!‼
歩夢「──────侑ちゃんっ!」ヒュンッ!
侑「すごいっ! 何もないところから歩夢が飛び出してきた! 魔法だ! 瞬間移動だー!」 歩夢「話してる場合じゃないよ! 一旦果林さんから距離を取る! ちょっと揺れるから気をつけて!」ガシャーン!
歩夢「────っと! 大丈夫⁉」チャクチ
侑「な、なんとか。それにしても躊躇なく学校の窓ガラス割って飛び出していくあたり、歩夢も変わったねえ」
歩夢「もう! これは一体どういう……⁉」
侑「えーっと、とりあえずせつ菜ちゃんがライブで果林さんが戦って歌が力になって魔力がぶわーでとにかく果林さんが強くてめちゃくちゃなの!分かる⁉」
歩夢「……もちろん。いつから一緒にいると思ってるの?」ザッ 歩夢「学校から出るのは……駄目だね。結界からは逃げられない。果林さんかせつ菜ちゃんを倒さないと」
侑「…………歩夢。そういうことなら、ちょっとだけ試したいことがあるんだ」
侑「歩夢はなんとか果林さんを抑えてくれないかな。その間に私がせつ菜ちゃんを止める」
歩夢「き、危険だよ⁉」
侑「ううん。さっき教えてもらったんだけど、サーヴァントはマスターが輝くほどに強くなる。せつ菜ちゃんがああして歌っている限り、果林さんに隙はなくなる」
侑「だから、私がライブを止める」キッ 歩夢「……………………わかった。くれぐれも気をつけて、せつ菜ちゃんも十分に強いから」
侑「うんっ。大丈夫、頑張ろ!」ハイタッチ
歩夢「いっつも勢いで決めるんだから、もう」
侑「えへへ。でも、大丈夫。歩夢が来てくれてすっごく心強くて、なんだかそんな気がするんだ」
歩夢「…………もうっ。じゃあ、行こう!」ダッ
侑「私は中庭に向かう! 歩夢は────」タッタッ
歩夢「校舎の上! 行ってくる!」ドンッ
侑「ひぇ〜、三階までひとっ飛びじゃん。私も頑張らないと」タッタッ… このSS見てるとなぜか脳が回復してくる
応援してます 侑「────いた! せつ菜ちゃん!」ダダッ
せつ菜「侑さん! あれ、果林さんはどうしました?」
侑「いま歩夢が止めてるよ! だから、」
侑「今度は私がせつ菜ちゃんを止める! こうなったら正々堂々勝負だよっ!」ババン
せつ菜「ふふっ、いいですね! そういう展開もアリですよ私はっ! マイクセット!」 せつ菜がマイクを構える。こうしてやり取りをしているというのに群衆の熱狂は途絶えず、輝く瞳で見入っている。
その人の群れの中心へ、侑は足を踏み入れた!
せつ菜「──────ッ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーー‼‼」
キィィィィィィ…ン!
侑「つ゛っ⁉」
侑「う、う……うるさぁああああっ⁉」 侑「こ……これが、せつ菜ちゃんの魔法だか魔術だかってことか……! かすみちゃんはコッペパンだったけど、せつ菜ちゃんは音……!」ビリビリ
せつ菜「そうですっ!!!!!!! よくありますよね!!!!!!!!! 音波攻撃的なアレ!!!!!!!!!!! 実際音響兵器って存在するらしいですよ!!!!!!!!!!」キーーン
侑「ぐえええええーーー! うるさいうるさいうるさいっ! やめでえ゛えぇーーー!ゴロゴロ
せつ菜「まだまだ!!!!!!ガンガン行きますよー!!!!! すぅぅぅぅうぅうぅ〜〜〜〜〜〜〜…………っ」
侑「こ、の……‼」ヨロヨロ 侑「────おっぱい!!!!!!!!!!」ゴウッ
せつ菜「はえッ⁉///」ガタン
侑「おっぱい! おっぱい! おっぱい! せつ菜ちゃんの小柄なわりに大きなおっぱい!」
せつ菜「ちょちょちょ、あれ? もしかして私が頑張りすぎて頭が壊れちゃったんですか⁉///」
侑「違うよ! でも効果てきめんだねっ!」ダッ! せつ菜「くっ─────、こ、攻撃を!」
侑「お ち ん ち ん !!!!!!!」ゴウッ
せつ菜「は、はうううっ⁉/// こんなに人がいるのになんてこと叫ぶんですかぁっ///」
侑「知ってるよ。知ってるんだ! 私はアイドルじゃないけれど、戦えないかもしれないけど! 代わりにみんなをずっと見てきたんだから! みんなの弱点だってよく知ってる!」
侑「せつ菜ちゃんは! 下ネタが苦手!」グワッ
せつ菜「あ、し、しまっ」ワタワタ ドンガラガッシャーン……!
せつ菜「あいたたたた……⁉」
侑「ふっふっふ。マイクを離したね、せつ菜ちゃん」ウマノリ
せつ菜「はっ⁉」
侑「覚悟してっ。これでもうライブはできない、あとは歩夢がなんとかするまで────」
侑「お っ ぱ い……♡」
せつ菜「ひうううううううううううっ///」
侑「ふっふっふ。こうなったら参っちゃうまで隠語責めにしてあげ────」 果林「──────させないわよっ!」シュタッ
侑「ゲッ⁉ 果林さん⁉」
果林「せつ菜! 色々と目論みが外れたわ、一回退却するわよ!」
歩夢「はぁ、はぁっ。追いついた! 逃げ場なんてないですよ、果林さんっ!」ダダッ
果林「────あら、そうかしら? まだ私は「宝具」を見せてないわよ。それを使えばどこへだってひとっ飛びなんだから」ジャラ
彼女はゆっくりと前傾姿勢を取る。
その途端、血塗られたような色の魔法陣が彼女の前に展開された。 歩夢「────────っ⁉」
踏み出そうとした歩夢が足を止める。
宝具。サーヴァントが有する必殺の武器。歩夢は今までその身で宝具の脅威を味わってきた。
『ゲイボルク』、『燕返し』。あれらと同様、必殺の一撃が来る。そう簡単には踏み込めない。
侑「か、果林さんっ!」
果林「……またね、侑?」
歩夢「侑ちゃん────伏せてぇっ!」 ほとんど何も考えず、言われるがまま地面に伏せる。
────轟音と烈風が吹き荒れた。
目を閉じているのに鼓膜を貫いてくるほどの光、光、光。凄まじい高熱が頭上を駆け抜けていく感覚を嫌というほど感じ取って、ようやく全ての音が消えた。
侑「う………………」
起き上がって、目を剥いた。
先ほどまでステージだったものは、一直線に刻まれた破壊痕を残して消滅し始めていた。果林たちの姿はどこにもない。
「宝具」が有する凄まじい力によって、彼女はどこか遠くへと飛び立ってしまったのだ。 侑「うぅ……なんて力……」
侑「うわ! 一直線に地面が抉れてドロドロに溶けちゃってるよぉ」ヒエェ
歩夢「まだだよ、侑ちゃん」
侑「ま、まだってどういうこと?」
歩夢「追うの。勢い付いてる今が攻勢をかけるチャンスだと思う」
侑「え、ええええっ⁉ 果林さんたちを⁉」 歩夢「うん。さっきの攻撃ならなんとか目で追えた。果林さんはそのまま飛び去ったけど、方角くらいは覚えてるから」
侑「で、でも……大丈夫なの、体調とか」
歩夢「大丈夫! 果林さんにもなんとか対抗できてたし、今日は調子がいいみたいなんだ」ムン
侑「……そう。そうだね、歩夢がいけそうなら攻めてみるのもいいかもしれない」
あたりを見渡すと、平静を取り戻した生徒や教師がざわざわと騒ぎ出している。空を覆っていた結界も消え、平穏が少しづつ戻ってきた。
侑「抜け出すのなら今しかないか……よし、行こう! 果林さんたちを追うんだ!」
歩夢「うんっ! 行こう!」 〜夜 駅前・高層ビル群〜
侑「……勢い勇んで走り出したはいいものの」
歩夢「全然見つからないね……」ハァ
侑「もう夜じゃん! すっかり深夜じゃん! 寝る時間じゃん! もう一日探し回ってへとへとだよー!」
歩夢「近くにいれば分かるはずなんだけど……」
侑「果林さん、どこ行っちゃんだろ……まさか逃げたはいいけどそのまま道に迷って、帰れなくなってるんじゃ……」
歩夢「た、大変だよ! 敵対してる今こんなことをくするのもおかしいけど、一度連絡してみて確認を」アワアワ 果林「そんなわけないでしょうがっ!」ヒュンッ!
歩夢「危ないっ!」ガキィン!
侑「うわ⁉ な、ナイフ降ってきた⁉」
果林「────はっ! し、しまった、つい全力でツッコんでしまったじゃないの!」
侑は弾かれたように視線を上げた。
深夜のオフィス街に人気はなく、黒々としたビル群が立ち並ぶのみ。その中でも一際大きい、高さ100メートルを超える高層ビルの壁面。
そこに張り付くようにしてこちらを睨む人影があった。鎖を鳴らして影に潜むその姿は、まさしく朝香果林のものだ。 歩夢「戦闘開始っ。侑ちゃん、行ってくるよ!」
侑「うん、お願い!」
歩夢「──────はあああっ!」ドンッ
キィィィン! ガキン! バキィィン!
侑「ひえぇ〜……今度は普通にビルの壁を垂直に走りながら戦ってるよ、あの二人……おかしいでしょ」アングリ
侑「って、違う違うっ。歩夢を一人で戦わせるわけにもいかないし、私も行かなくちゃ!」
侑「走れ! 侑ーっ!」ダッ 侑「はひゅっ、ぜぇっ、はひゅっ、おえっ……」
侑「裏口から入れたはいいけど……なんでエレベーターが途中までしか動いてないのーっ⁉」
侑「よ、40階から、階段、どんくらい上がったの……」ゼエゼエ
ドドォ……ン…
侑「……なにか、嫌な予感がする」
侑「はやく……はやく歩夢のところに、行かないとっ!」
侑「見えたっ! あの先が屋上!」
侑「歩夢、歩夢──────っ‼」バン ビルの天辺へと消えた歩夢を追って、屋上に繋がる扉を開けたその瞬間。侑は言葉を失った。
目の前に飛び込んできた光景が、到底信じ難いものだったからだ。
空に、一つの影があった。
月と見まごうような光を放ちながら、その存在は飛翔していた。白く輝く天馬。馬に翼を生やした、通常ならばあり得ない生物がそこにはいて、その背には果林の姿があった。
それが縦横無尽に空を飛び回り、眼下の歩夢を轢き潰さんと攻撃している。
侑「…………ペガ、サス?」
侑「想像上の生き物、だよね、あれ」
歩夢「ゆ、侑ちゃん⁉ だめ、離れて!」
侑「そ、そんなこと言ったって……歩夢を放って逃げるなんてできないよっ!」 せつ菜「ふふふっ! 今か今かと待ってましたよ侑さんっ! 本日二度目です!」
侑「せつ菜ちゃん⁉」
せつ菜「はいっ。さっきは油断してあんなことになりましたが、もう同じ手は通用しません! きっちり決着をつけましょう!」
侑「なんでそんなとこにいるの⁉ 危ないよ!」
せつ菜「ご安心を。果林さんの狙いに狂いはありません。それに、もう逃げ出したくはありませんから。……ここまで来てくれたお二人に見せてあげます、優木せつ菜の! 朝香果林の全力を!」
果林「その通り。私達を超えると言うのなら、そちらの全てを出し切ることね!」
せつ菜「いきます! ────『DIVE!』!」 『そう高く 果てなく 明日へと導くよ』
『私だけの光放ちたい ────DIVE!!!』
侑と歩夢の二人を、打ちつけるような音圧が襲った。彼女が有するアイドルとしての力が伴奏を奏で、ステージの幻影すらも作り出していく。
空気が熱狂に震えている。観客はいない。だというのに、風が吹き荒ぶビルの屋上に在ってなお優木せつ菜の煌めきは本物だった。
果林「はあああああああああああああっ!!!」ゴウッ
歩夢「っ! 侑ちゃん下がって!」ガガガガカッ!
侑「うひゃぁぁぁあっ⁉」ドガガガガガカッ! 『────自信なくして ただ 心に鍵かけて』
『響く自分の声に 耳塞いでた』
歩夢「ぐぅぅぅぅうっ……!」ガガガガッ!
ヒュン……ヒュオオオン……ドガガガガガガガッ!
侑「くぅ……せめて私が、歌うまではいかなくても、何か……何かできれば……!」
侑「まずいよ、このままじゃ……!」ギリッ
『無限に広がる宇宙 迷わず進もう』
『Go! Fly! Yes! So High──────!』 ────ドキュンッ! ガガガガガガガガガッ!
果林「この宝具は目立ちすぎるから、なかなか街中じゃあ使えないけれど! 今この場所なら邪魔なものはないわ! 存分にこの子を駆って、貴女たちをここで倒す!」
果林「次の突撃で、決着を付ける!」ヒュンッ
『もうカラダ中騒いでる 止まらない Heart 強く熱く…!!』
『そう! 高く────果てなく──────!!』
果林の影が瞬時に空へ舞い上がる。高く遠く、高度数千メートルの領域まで到達する。
それはまるで彗星だった。
凄まじいエネルギーを秘めた光の矢が、大きく弧を描いて上昇から下降へと軌道を変える。
────遥か上空、光が一直線に襲い来る! 侑「やばいやばい決める気だよあれ! こうなったら、あの攻撃がくる前にせつ菜ちゃんをなんとかしないと……!」
歩夢「……ううん、大丈夫だよ侑ちゃん」
歩夢「あれは「宝具」。サーヴァントが最低一つは有する必殺の武器。でも、サーヴァントが有するってことは」
歩夢「私にも、それはあるってことなんだ」
……シュゴゥッッ!!!!
その瞬間、歩夢を除く三人全てが目を疑った。 歩夢「この場所なら、邪魔なものはないって言いましたよね」キッ
烈風が巻き起こる。歩夢が有する不可視の剣、それを包んでいた空気の断層が解かれていく。
その奥に、侑は黄金の輝きを見た。
歩夢「同感です。何もないこの場所でなら、私も周りを気にせず全力を振り絞れる……!」ゴオオッ!
侑「あれが……歩夢の…………!」ビュウウウウ
天空の閃光に対抗するように、収束していく黄金の光。それは剣だった。空気の鞘、姿を隠す透明のベールに包まれたその正体は、一振りの聖剣だったのだ。
歩夢が構える。
果林が迫る。
決着の時。永遠に引き延ばされていく一瞬の中で、歩夢はゆっくりと剣を掲げ──────! 果林「『騎英の』────『手綱』──────‼‼」
歩夢「『約束された』────────『勝利の剣』─────────────────‼‼」カッ!‼‼ ────それが、上原歩夢の必殺だった。
侑「つ゛っ……⁉」ビュオオオオオッ!
約束された勝利の剣。エクスカリバー。
その名を謳う叫びと共に放たれた黄金の光。
それは夜空を真昼のように染め上げて、迫る果林を強引に食い破る。そのまま勢いを緩めることなく、光は雲海揺蕩う夜空へと吸い込まれ、
────────キュバァァァァァァァッ!‼‼‼‼‼
昏い夜空を、一直線に両断してみせた。 …ヒュウウウウ…
せつ菜「………………………………」
歩夢「………………………………」
せつ菜「……お見事、です。歩夢さん」ガクッ
果林「────ええ……まさか小細工なしに正面から、私の一撃を止めるなんて……ね……」フラッ…
果林「」ドサッ 侑「や……やった…………」
侑「やったーーっ!! 歩夢が、歩夢が勝ったんだーー!!!」ピョン
侑「すごい! すごいよすごいよすごいよー!」
侑「ねえ! 歩夢! なんなのあれ、金色の光がぶわーってなって、ビームが飛んでいって、一直線に雲を真っ二つにして、」
歩夢「………………………」
侑「……………歩夢?」
歩夢「」フラッ… 歩夢「………………」ドサッ
侑「っ!」
侑「あ、ゆむ……歩夢っ⁉」バッ
歩夢「……っ…………う……」ハァハァ
侑「うそ……目を覚ましてっ、歩夢……!」
侑「歩夢──────────っ!!!」 〜深夜・侑の自宅〜
侑「な……なんとか、おぶって帰ってこれた」ゼェゼェ
侑「歩夢は目を覚さないし……お腹の調子も悪そうだし……果林さんは、せつ菜ちゃんが連れて帰ってくれたけど……」
???「おや」
侑「……え?」
???「────随分と遅いお帰りですね、侑」 侑「あ、あなたは……確か、かすみちゃんの……サーヴァント!」
海未「はい、園田海未と申します。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません……」
侑「いっ、いえいえ! 元はと言えばすれ違いでこっちが傷付けてしまったのが原因だし……!」
侑(校庭で槍の人と戦ってた時も思ったけど、綺麗な人! 落ち着いていて、かっこいい!)
海未「かすみはコンビニに行ってくると言っていました。夜食など買い漁っていなければいいのですが」ハァ
侑「あ、あの……実は歩夢が……!」
海未「……なるほど、寝ているだけではないようですね。ベッドに運んで様子を見ましょう」 侑「うぅ……歩夢ぅ……」
海未「どうやら、単純なエネルギー不足ですね。サーヴァントのエネルギー源となるのは、マスターであるスクールアイドルの輝き。私も、かすみの力で活動を続けている」
海未「いまの歩夢は、飲まず食わずで何日も活動しようとしているに等しいんです。既に何人かのサーヴァントと戦い、歩夢も本格的に限界が近いのでしょう」
侑「私が……アイドルじゃない……から……」
海未「エネルギー供給も無しに戦い続ければ、いつかは自滅する。これはあなたがマスターに選ばれてしまった瞬間から決まっていたことです」
海未「……つらいことを言うようですが、あなたに出来ることは数少ない。覚悟は決めておいた方がいいでしょう」 侑「………歩夢は、負けるんだね。私のせいで」
海未「──────────」
侑「わかった。ありがとう……少しだけ、眠るよ」フラッ
海未「────ひとつだけ、言っておきます」
侑「え……」
海未「歩夢が倒れた最大の理由は、「宝具」を使ったことです」
海未「宝具の使用には膨大なエネルギーを消費する。これを使えば自分は倒れる、それは承知の上だったのでしょう」 侑「……………………それ、は」
海未「それでも歩夢は使ったんです。分かりますか、この意味するところを。歩夢は自分のことよりも、貴女の安全を優先したということ」
侑「……………………」
海未「それを、忘れないで下さいね」
侑「……ありがとう。……おやすみ」パタン
侑「──────────」ギリ… 〜翌日〜
侑「……朝、か…………」ムクリ
侑「あんまり眠れなかったな……」ショボショボ
侑「歩夢は……寝てるかあ。それもそうだよね。まるで死んだみたいにぐっすり……」
侑「このままずっと……眠っていてくれれば……そうしたら、歩夢が危ない目に遭うことも……」
侑「!」ハッ
侑「……なにを、考えてるの……」 侑「ちょっと考え事をしたいから、公園まで出てきたはいいけど……うーん、寒い」テクテク
侑「さて……じゃあ、決めないとね」
侑「これから私と歩夢は、どうするべきなのか」
侑「歩夢はまだ目を覚さない。失ったエネルギーをなんとか睡眠で回復しようとしてるんだ」
侑「でも……そこまで無理をして、続けないといけない戦いなのかな……」
侑「私が負けるのを怖がって、勝負を無駄に引き延ばしているだけで……いたずらに、歩夢を苦しめているんじゃ……」 侑「だとしたら……私が、するべきは……」
『それを、忘れないで下さいね』
侑「っ」ブンブン
侑「違う……違うよ……私が勝手に歩むの知らないところで負けて、それで終わりにするだなんて許されない」
侑「それこそ、身を呈して私を守ってくれた歩夢を、裏切ることになっちゃうんだ」
侑「でも、せめて……なにか、できないのかな」
侑「付け焼き刃じゃどうにもならない。
侑「私は──────」 璃奈「侑さん、こんなところにいた」ザッ
侑「り、璃奈ちゃん⁉」
璃奈「おはよう。なんだか、顔色が良くないね」
侑「お、おはよう。大丈夫なの、こんなにあっさり挨拶なんてして。一応今って、その……」
璃奈「問題ない。万全の備えは常にしてる」
璃奈「……侑さん。なんで、こんなところでぼーっとしてたの?」 侑「……えっと……その、悩みがあって」アハハ
璃奈「歩夢さんが、苦しんでいること?」
侑「っ⁉」
侑「な、なんでそれを知って……⁉」
璃奈「簡単なこと。昨日の夜、私もあのビルにいたから。果林さんとせつ菜さんを倒したあの宝具は見事だった」
璃奈「……でもね、気になることがあるんだ」
璃奈「だから、一緒に来てもらうね?」 侑「へ?」
璃奈「スキあり」璃奈ちゃんボード『噴射』
プシューッ!
侑「ぷわっ⁉」
侑(あれ……なに、これ────意識、が────)
璃奈「わたし特製の睡眠ガス。体に害はないよう作ってあるから安心して」
璃奈「しばらく、おやすみ」
侑「あ……あゆ……………む…………」
侑「」ドサッ 侑「…………ん……んんぅ……………………」
侑「んはっ!!!??」ガバッ
璃奈「おはよう。本日二度目」
侑「…………えっと、あれ……ここは、どこ?」
璃奈「わたしの別荘。東京郊外の山の中にあるから、多分誰も来れない」
侑「は、はは……別荘まで持ってるなんて……流石は璃奈ちゃんだね……」 侑「わ……私に、何かするつもりなの?」ビクビク
璃奈「別に、ひどいことはしないよ。倒すのはサーヴァント役の女の子だけ、って決めてるから。ただ、ちょっと聞いてみたいことがある」
侑「き、聞きたいこと……? 私に?」
璃奈「侑さんもあれを見たよね。空を両断した黄金の剣。果林さんとせつ菜さんの力を合わせた攻撃すら掻き消した、黄金の聖剣」
璃奈「…………"約束された勝利の剣"」
璃奈「……どう考えても、理論が合わないんだ。マスターの侑さんは、アイドルじゃない。だから歩夢さんの出せる出力には限りがある」
璃奈「それなのに、歩夢さんはあの二人を倒すことができた……」
璃奈「その理由が、必ずあるはず」 侑「そ……そんなこと言われても分からないよ」
璃奈「分からないのだとしたら、きっと知らないだけ。侑さんは自分すら知覚していない「何か」を秘めていて、それが歩夢さんに力を与えてる」
璃奈「あれは偶然や奇跡なんかじゃない。何らかの理由に基づいて弾き出された、一つの結果」
侑「よ、よく分からないけど……何かって?」
璃奈「それはこれからじっくり調べる。……ちょっとこれから用事で外に出るけれど、帰ってきたら色々と試してみる。実験は成功のもと」
侑「ひぃーっ!? 酷いことしないんじゃなかったのー!?」
璃奈「別に傷つけたりはしないから。ちょっと副作用があると思うけど多分大丈夫だよ」
侑「多分て! いま多分って言った!」
璃奈「部屋にあるものは好きに使ってくれて構わないけど、鍵は閉めておくから。ごめんね」パタン 侑「ま、まずいよまずいよ。逃げないと」アワアワ
侑「……おっ、冷蔵庫にコーラ入ってるじゃん。璃奈ちゃんも気が利くなぁ」プシュッ
侑「ごくごくごく…………」
侑「うまい!」
侑「……っじゃないんだよ!」パァーン
侑「いつものノリを実践してる場合じゃないんだよ! 璃奈ちゃんはともかく、愛ちゃんの強さは圧倒的なんだから! このままじゃ歩夢も危ないし!」
侑「なんとかここから脱出しないとっ!」
侑「う〜ん! 開けぇ〜!!!」ガチャガチャ 璃奈「しょうがない」ガチャ
侑「うわっ! 璃奈ちゃん!? 戻ってくるの早くない!?」
璃奈「出かけようと思ったけれど、侑さんがガチャガチャ騒がしいから。取引次第では、侑さんを外に出してあげてもいいよ?」
侑「と、取引?」
璃奈「…………とっても簡単。侑さんが、私のサーヴァントとして一緒に戦ってくれればいい」
璃奈「そうしたら外に出してあげる」
侑「!」 侑「……そ、それは」
璃奈「侑さんには、私でも把握しきれない力がある」
璃奈「歩夢さんには悪いけど、そうしてくれれば私もいたずらに敵を倒さなくて済む。その令呪に命じて歩夢さんをこの戦いから降りさせれば、歩夢さんは戦う資格を失う」
璃奈「はっきり言って、ハンデを抱えた歩夢さんがこの先の戦いで勝ち残れるとは思えない」
璃奈「もし他の誰かに負けたら、歩夢さんも侑さんもきっと後悔することになる。そうならないためにも、私と一緒に戦ってほしい」
侑「っ……」 侑(確かに……これ以上歩夢を苦しませたくないのなら、璃奈ちゃんの言葉に従ってしまえば)
侑(歩夢を安全に戦いから遠ざけられるのなら、きっとそれが一番だよ)
侑「…………じゃ、あ……私は、」
侑(そうだ。きっとこれが正しいんだ。私は守られてばかりじゃない、私が、今度こそ歩夢を守るために、)
侑(守る、ために──────)
侑「……………………………」
璃奈「侑さん?」
侑「ううん。ごめんね、璃奈ちゃん」
侑「やっぱり私は、その提案に乗れないよ」 璃奈「!」
侑「もう答えは出したんだ。確かに、私が終わらせてしまうこともできる。それでも、私は何度も歩夢に助けられてきた」
侑「だからこそ、歩夢の頑張りを、私のわがままで無意味なものにはしたくないんだ」
璃奈「……そう。じゃあ、作戦を変える」スッ
璃奈「私が今指をぱちんと鳴らすだけで、ここに愛さんがすっ飛んでくる」
侑「え」
璃奈「意味がわかった? 同じことをもう一度聞くけれど、こんどは「提案」じゃない。暴力に訴えた「脅し」として、侑さんに問う」 璃奈「本当に、味方になるつもりはない?」
侑「それでも、ない」
璃奈「……そう。残念」パチン
侑「っ!」
侑(愛さんが来る! ごめん歩夢、こんな、こんな終わりになっちゃって本当にごめん! でも、私は絶対に、歩夢だけは裏切らないから、それだけは決めたから! だからっ……!)
侑「……………………………」プルプル
侑「……あれ?」
侑「あ、あれ? すぐに愛さんが来るんじゃ」 璃奈「ごめん。あれは、嘘」
侑「え、ええーーーーーっ!?」ガビン
璃奈「最初から可能性は薄いと思っていたけど、一応揺さぶりをかけてみた。でも、やっぱり駄目だね」
璃奈「安心して。前も言ったけれど、私はサーヴァントの女の子以外を自分から攻撃するつもりはない」
侑「な、なんだ……そういう……」
璃奈「でも、侑さんの状況は変わらない。侑さんの身柄は私の手中にある。後できっちり観察させてもらうから、今度は大人しくしていてね」
璃奈「それじゃ」ガチャ
侑(り……璃奈ちゃんが優しい子で……本当によかった……!) 〜数時間後〜
侑「………………参ったなあ」グデン
侑「あれからどれくらい経ったのやら。色々手を試してみたけど窓はないし連絡手段はないし扉は開かないし」
侑「やれることが、ない」
侑「あー……どうしようかなぁ……時間はもう夜だよねぇ……」ゴロゴロ
ガチャッ!
侑「ぴっ⁉」ビクン
侑「ま……まずいまずいまずい!」
侑「璃奈ちゃんが帰って来ちゃった⁉」
侑「上手く出し抜きたいとは思ってたけど、結局なんの対策もできてないし! ダラダラ時間を無駄に過ごしただけじゃん!」
侑「うわーーっ!! 歩夢助けてよーーっ!!」 歩夢「…………………………侑ちゃん?」
侑「あ、あゆむ…………歩夢⁉」
侑「あ、あ、あっ、あゆむーーーーーーっ!!」ダキッ
歩夢「わ、ちょ、ちょっと///」
侑「歩夢っ! 本当に来てくれたんだね歩夢っ!思ったよりも元気そうでなによりで、とってもとっても嬉しいよーっ!」スリスリ
歩夢「こんなこともあろうかと、私のスマホで侑ちゃんの位置情報をGPS確認できるようにしておいたの。役に立って良かった」
侑「うん……助けに来てくれてありがとう……」ギュゥ かすみ「……ほらほら、抱き合ってないではやく離れてくださいっ。すぐに脱出しないとりな子が帰ってきます」
侑「うわっ。かすみちゃん、いたの?」
かすみ「いましたよ! 最初からずっと! かすみんを視界から除外したのは誰だと思ってるんですか!」プンスコ
海未「ちなみに今回は私もいます。侑、ご無事で何よりです」
侑「海未ちゃんも! ありがとう!」 かすみ「……りな子は家の防犯設備をスマホで管理する習性がありますから、今頃大急ぎでこっちに向かってるはずです。猶予はありませんよぉ」
海未「はい。あのサーヴァントの強さは誰もが知るところです。万全の備えも敷けていない今、遭遇しないに越したことはありません」
侑「そうだよね……歩夢は大丈夫なの?」
歩夢「もちろん! しっかり戦えるよ!」
かすみ「嘘をつかないで下さいよぉ。歩夢先輩はとっくの昔にガス欠で、今はついてくるのもやっとだったんですから。大人しくしておいてくださいね?」
歩夢「ちょ、ちょっとかすみちゃんっ! それは言わないって……!」 侑「あーっ! 歩夢、また嘘ついたの⁉」
歩夢「い、いや、ちが……違って、あくまで普通の女の子以上には戦えるよ、ってことで」
海未「見苦しいですよ、歩夢。かすみの言う通りです。無茶を背負い過ぎて倒れる人間には心当たりがありますが、そういった人は得手して視野が狭くなっている。一度冷静になるべきです」
歩夢「は、はい……ごめんなさい……」
侑「もうっ。それならわざわざ家を出なくても」
璃奈「───────もう帰っちゃうの? みんな」 歩夢・海未「!」バッ
四人全員が、声がした方向へと振り返る。
背後にそれは立っていた。
後にしようとしたはずの璃奈の別荘。その大きな玄関扉の前に立ち塞がるようにして、人影が聳え立っていた。
天王寺璃奈。従えたるサーヴァント、宮下愛。
かすみ「……り……………りな、子…………」
侑「う、うそだ……なんで⁉」
璃奈「こんばんは。たくさんお客さんが来てくれて嬉しい」璃奈ちゃんボード『にっこりん』 愛「────────────────」ギロリ
侑(あ、足が……動かない……)ガクガク
侑(前と状況は似ているけれど……色んな戦いを見て、サーヴァントを倒した今ならわかる! あれは……愛ちゃんの強さは、別格だ……!)
侑(歩夢が本調子なら、とかいう次元じゃない!あれは絶対に倒せない……「出会ったしまったこと」そのものが間違いの……最強の、敵!)
侑「……………………っ」ブルッ
かすみ「どういうことっ⁉ りな子が外に出たのを確かに確認したはずなのに!」 璃奈「それは偽物。マスターなら魔術を使うことができるよね。わたしは、それを使っただけ」
璃奈「最初からわたしは動かずに、あなたたちをこうして待っていた」
璃奈「侑さんについて調べると言ったのも、半分はウソ。一日待って来ないようなら調査を始めようと思ってたから、半分は本当だけどね」
璃奈「……侑さんは残す。かすみちゃんも。でも後の二人はここで倒す」
璃奈「おねがい、愛さん」
愛「────────────────ッ‼‼‼」ギン!
愛「ウゥゥオオオオオオオオオオォォォッッァァ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ァァァァァ────ッッッッッ‼‼‼」ビリビリ 海未「なるほど、バーサーカー。……自ら理性を捨てることで枷を外し、あらゆる戦闘能力を向上させたんですね。きっと、あの璃奈という少女を守るために」
海未「宮下愛、といいましたか。大した想いの強さです」
かすみ「海未先輩。わたし、これからひどいことを言います」ギリッ
かすみ「……少しだけでいいんです。どうか、」
海未「いいえ、かすみ。その先を貴女が言う必要はありません」
海未「……私が、貴女達が逃げるまでの時間を稼ぎます。その間に撤退してください」ジャキン! かすみ「ぇ……」
歩夢「そ、そんなの無茶だよっ! かすみちゃんも言ってあげて!? 愛ちゃんを相手に一人で敵うわけがないっ!」
かすみ「……………………いいえ。海未先輩の言う通り、ここはわたし達だけでも逃げるのが賢明です。もたついても全滅するだけですから」
侑「で、でもっ、それは!」
海未「ええ、その通り。かすみ達が逃げてくれれば後で私も離脱できます。知っていますか? こう見えて、単独行動は得意なんですよ?」ザッ 璃奈「作戦会議は終わり?」
海未「ええ。私がお相手仕ります」
かすみ「……………………………っ」ギュゥ
侑(……かすみちゃんの、目。とっても悲しんでる。分かってるんだ。残るっていうことは、つまりここで負けるってことなんだって)
侑(だから敢えて、海未ちゃんは……)
かすみ「…………………海未先輩、わたし、」
海未「かすみ。ひとつだけ確認をして良いでしょうか?」
かすみ「…………なん、ですか」
海未「はい。時間を稼ぐのは良いのですが……」
海未「──────別に、アレを倒してしまっても構わないのでしょう?」ニコッ かすみ「う……海未、先輩……」
かすみ「……はい、はいっ! もちろんですっ!りな子と愛先輩だからって遠慮はいりません! がつんと一発、こらしめてあげてくださいっ!」グスッ
海未「ええ。では、期待に応えるとしましょう」
海未「園田海未! 参りますっ!」
璃奈「…………愛さん。お願い」
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ‼‼」ゴウッ! かすみ「行きますよっ! 脱出します!」ダッ
歩夢「…………っ、うん!」
侑「わ、わかった……!」
海未「──────侑!」
侑「!」ピクン
侑「……は、はいっ!」 海未「いいですか。貴女は戦うものではなく、生み出すものでもありません。輝きに寄り添い立つものです」
海未「余分なことを考える必要はないでしょう。ただ、できることを一つだけ。『勝てないのならば空想の中で勝つ』、それだけを極めなさい」
海未「決して忘れないで下さい。イメージするのは常に「輝いている大切な誰か」。敵味方の区別はありません」
海未「貴女にとって戦う相手とは、自身のイメージ以外に存在しないんです」
────ガキィィィィィン! トゴォォォン!
海未「それを……決して、忘れずに────!!」 〜夜・郊外の森〜
かすみ「はあっ、はあっ! なんだってこんな過疎地に別荘を立てたんでしょうか、りな子の家族は! 歩きで森を抜けるのに三時間はおかしいでしょーっ!」タッタッ
侑「歩夢、大丈夫っ……⁉」
歩夢「だ、大丈夫……まだ、なんとか走れ……」フラッ
歩夢「ぁ────」
侑「うわっと! セーフ!」ボスン 歩夢「ゆ……侑ちゃん……」ゼェゼェ
侑「歩夢、やっぱり無茶してるんだ。ここまで結構な距離を走ってきたし……ここからは私が背負うよ」
歩夢「い、いいよ! 私はサーヴァントなんだから」
侑「いうこと聞くの。マスターとしての命令ってやつ。それでも嫌だって言うなら令呪使うよ」
歩夢「……こ、こんなことで使わせるわけには……もぉっ、侑ちゃんの意地悪!」
侑「えへへぇ。まかせてよ、これまで何度も歩夢を背負ってきたんだから!」ダッ! 侑「と……言ったは……いいものの」ゼェゼェ
侑「森の中って……こんなに……進みにくいんだね……」
侑「はぁ、は────もう、ごめん……足が、動かないよ……」ドサッ
侑「ちょっとだけ……5分も休めば、また走れるはずだから……」アハハ
侑「ふー…………」
歩夢「………………………っ」ギュゥ
歩夢「……侑ちゃん、聞いて?」 歩夢「私をね、置いていってほしいの。璃奈ちゃんはきっとサーヴァントの女の子しか狙わない。このまま一緒に逃げていたら、侑ちゃんまで巻き添えになっちゃうかも」
歩夢「だから、私を置いて行って」
侑「そ、んなこと……そんなことが、出来るわけがないでしょっ!?」
侑「なんでっ……なんでいつもいつも、歩夢は自分を犠牲にしてでも私を守ろうとするのっ⁉」
侑「なんで自分は二の次なのっ……!!」
歩夢「ううん。どうせ……なによりもう、長くは持ちそうにないんだ。お腹の調子も、どんどん悪くなってきたし」ギュルルルル 侑「……やだっ! 絶対に歩夢から離れない!」
侑「私は最後まで歩夢と一緒なんだ!」ギュウウ
歩夢「ゆ、侑ちゃんっ、なんでわかってくれないの!? このままじゃ駄目なんだよ! 私がやられるか、二人揃ってやられるか! どっちが正しいかなんて明らかだよ!」
侑「でもっ……それでもっ……私は……!」
かすみ「はぁ、はぁ……遅れてると思ったら、なんでこんな場所で喧嘩してるんですか?」
歩夢「か、かすみちゃん。侑ちゃんに言ってあげてよ、これ以上は無理なんだって!」 かすみ「まぁ、そうかもしれませんね。歩夢先輩のお腹も、このままじゃもちそうにありません。置いていくのも一つの選択肢です」
かすみ「侑先輩は、どうしたいですか?」
侑「……嫌だ。そんなことをするくらいなら、私はここで一緒にやられる」
かすみ「先輩なら、そう答えると思いました」ニコ
かすみ「……仕方がありません。こうなったら両方解決しましょう。歩夢先輩を助けて、それから三人でこの森を抜ける。今後の方針はそれで決まりです!」
侑「…………………………………は?」キョトン 〜森の廃墟〜
侑「こんなところに、こんな廃墟が……」
かすみ「海未先輩が来るときに見つけてくれたんです。いざというときの隠れ場所にしようって」ギィ…
侑「そこらじゅう木々が這ってて、人がいなくなってからだいぶ年月が経ってるみたいだけど。これ、本当に崩れたりしないよね?」オソルオソル
かすみ「中は……一階は駄目みたいですけど、二階はなんとか原型を保ってますね。ボロですがベッドもあります」
かすみ「…………」ゴクリ
侑「かすみちゃん?」
かすみ「な、なんでもありません。侑先輩、こっちに歩夢先輩を寝かせてあげてください」ポンポン 衛宮「一番の見せ場がエッチシーンに食われたとです」 かすみ「あれから一時間くらい。りな子が追ってくるにしてももう少しはかかると思います。探すのに手間取ってくれれば、夜明けまではいられるでしょうか」
侑「……そ、そういえば、海未ちゃんは……!」
かすみ「…………………………」ギリ
かすみ「令呪が消えたのをさっき確認しました。もうかすみんはマスターではなくなったんです。……足止めだけでいいって、言ったのに」
かすみ「初めて会った人でしたけど、とっても、とっても頼れる先輩でした」
侑「……海未ちゃんは、どんなスクールアイドルだったんだろう。もっと、話してみたかったな」
かすみ「海未先輩、恥ずかしいからって全然自分のこと話してくれなったんですよねぇ」
かすみ「……かすみんが調べようとしても駄目だって言うし。何処かで聞いたことある名前、だったんですけど」
侑「……………………」
かすみ「いつか聞こうって……思ってたのに」 かすみ「今後の話をしましょう。こうなっては、わたし達に愛先輩を倒す以外の道はありません。海未先輩を犠牲にしてまでここまで来たんです」
かすみ「何がなんでも倒さなくちゃ、あの人に叱られちゃいます」
侑「私達だけで、本当に倒せるのかな……」
かすみ「倒せる、倒せないの話じゃないんです。もう逃げ場がないからこそ、ここでりな子達を倒すしかないんですよ」
侑「……そうだよね。歩夢を助けるには、それしかないんだ」
かすみ「幸い、海未先輩のお陰で愛先輩も多少はダメージを受けている筈です。完全無欠のサーヴァントである愛先輩を倒せるとすれば、今しかありません」
侑「問題は、歩夢のエネルギー不足……」 かすみ「侑先輩はスクールアイドルじゃありませんから、確かにエネルギーの供給はできません」
かすみ「でも……一つだけ、方法があるんです。歩夢先輩にエネルギーを送れる方法が」
侑「え、ええっ⁉ そんなの誰も教えてくれなかったよ⁉」ハツミミ
かすみ「あ、当たり前ですっ。これは裏技というか、緊急事態用というか、色々問題があるというかなんというか!」
かすみ「う……うぅぅ……/// いざ言葉にするとなると恥ずかしくなってきましたぁ!」
侑「かすみちゃん、お願い。なんだっていいの。傷ついてる歩夢のためなら、どんなことだってしてみせる。だから、教えてっ!」ガシッ かすみ「うっ……わ、わかりましたょ……///」
侑「ありがとうっ!」パァァ
かすみ「はー、ふー……覚悟は決めました。もうどうなっても知りません。いいですか、侑先輩」
侑「もちろん!」
かすみ「…………………………」
かすみ「─────歩夢先輩を、抱いてください」 侑「は?」
侑「へ?」
侑「……ひ?」
かすみ「抱いてください」
侑「それ、抱きしめるって意味、だよね?」
かすみ「違いますよっ! セックスするって意味ですぅ!」
侑「ええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!????」
侑「ちょっとちょっとちょっとちょっと待っておかしくない!? なにがどうなってその結論になったの! なんで、せ、セッ!?」
かすみ「はい。女同士なのでガッツリはできませんけど、お二人にはこれから出来る限りのレズセをしてもらいます」
侑「」 かすみ「いいですか? サーヴァント役の女の子は、マスターの輝きをエネルギーにして活動します。……が、何も「輝き」というのはアイドル活動によるものに限りません」
かすみ「最も、だからといって素人が歌ったり踊ったりしたところで意味はほとんどありません。アイドルか、そうでないかの違いは契約において非常に重要ですから」
かすみ「ただ、唯一、どんな女の子であれアイドルに負けない輝きを放つことができるのが……」
かすみ「エロなんです」クワ
侑「最低だよ!!!!!!!!」バンッ
侑「見損なったよかすみちゃん!! 本当に最低だよ!!!! あのかすみちゃんがサラッと「セックス」とか言うなんて今世紀最大のショックだよ!!!!!」
かすみ「か、かすみんだって別に好きで言ってるわけじゃないですよ!!!」 かすみ「か、かすみんだってこんなこと言いたくないんですよ! でも契約のシステムが「そう」なってるんです! かすみんのせいじゃありません!」
侑「だっ……だ、だからって……! 弱ってる歩夢に、そんなこと!」
歩夢「…………いいんだよ、侑ちゃん」ムクリ
侑「あ、歩夢、起きてたの⁉」
歩夢「話は聞いてたよ。……ちょっと、恥ずかしいけど。私、侑ちゃんが望むなら……」
歩夢「……いつだって、いいんだよ?」
侑「っ!」ドキッ 侑(……なんで、今、そんなことを言うの)
侑(歩夢の紅く染まった頬……はだけた服……しっとりと汗に濡れた髪……)
侑(あたまが……くらくら、する)
かすみ「なーんだ、気持ち的にはオッケーなんじゃないですか、侑先輩」
侑「ち、ちがう……だ、だめ…………だめだよ、こんなの…………歩夢とは、も、もっとしっかり……ほら、ムードとか色々あるし、その」
かすみ「ああもう、申し訳ないんですけどムードとか作ってる暇はないんです! かすみん、行きます!」
侑「えっ?」グルッ それは、一瞬の出来事だった。
かすみの腕がこちらに伸びたと思った瞬間、右の頬に柔らかい唇が触れていた。
侑「──────────っ!!!????」
頭が真っ白になる。沸騰して熱くなって何も考えられなくなって、侑は呆然と立ち尽くす。
そんな侑をよそに、顔をリンゴのように赤くしたかすみはベッドの歩夢の横に腰掛けて、
かすみ「……その、急で、ごめんなさい」
かすみ「でも、もう退けないんです。海未先輩の犠牲を無駄にすることは出来ないんですっ。かすみんも手伝いますから、無理そうならしばらく見ててください」
歩夢「かすみ……ちゃん……? 何を……」 しゅる、しゅる、という衣擦れの音がやけに耳についた。
かすみの服が脱ぎ捨てられる。月の光が差し込んでくる部屋の中で、その肌色は眩しく瞳を灼いた。いつしか歩夢の服も剥ぎ取られて、二人はもつれるように倒れ込む。
歩夢「や、やぁ…………っ」
かすみ「ふ、ふふふ……もう止まりませんよ……かすみんは……」
侑「ぅ、あ……」
かすみ「ほら……歩夢先輩の……ここ……とっても、妬けちゃうくらい……綺麗です」
歩夢「や、やだぁ……っ……はずかしい……」 歩夢「はぁは、ぁ……………」
かすみ「んちゅ……ぷはっ、はふ…………」
かすみ「……れろ……ここ、大きくなってませんか? もっとちゅーちゅーしてあげます」
歩夢「……だ、駄目、だよぉ…………んっ!」
かすみ「ふ、ふふ、いいんですかぁ? 侑先輩。もたもたしてるとぉ、かすみんが本当に歩夢先輩はじめてをとっちゃいますよぉ?」
歩夢「ぁ……ゆ、侑ちゃ……恥ずかしい……から……そんなにまじまじ、見ないで……」
侑「っ」プツン
侑「…………あゆむ、歩夢……歩夢っ!」バッ
その時初めて、侑の体は理性や意思といったものを無視して動いた。
気がついたときには、倒れ込むように二人が待つベッドへと吸い寄せられていて──────、 チュン…チュン…
侑「はっ!」
かすみ「むにゃむにゃ……」ゼンラ
歩夢「すぅ……すぅ……」ゼンラ
侑「」ゼンラ
侑「や……やってしもうた…………」
侑「────って、頭を抱えてる場合じゃないっ!起きて二人とも! もう空が明るくなり始めてるよ!?」
侑「うううっ! せめてなんでもいいから何か着てよぉー!」メソラシ 〜少し前・璃奈の別荘〜
────はらはらと、人だった輪郭が光となって霧散していく。時と空間を越え呼ばれた少女は、敗北によって元の世界へと帰るのだ。
辺りは、凄まじい様相を呈していた。
地面は抉れ、木々は薙ぎ倒され、別荘の壁には幾つもの傷痕が刻まれている。所々が焼け焦げ、粉砕されて建物としての原型を留めていない箇所すらある。
璃奈「────────────」
破壊痕の中心。
巨大な影が、そこに立っていた。
その正体は言うまでもない。天王寺璃奈のサーヴァントたる少女にして、理性を捨てた狂戦士。
宮下愛。
彼女は、ピクリとも動こうとしなかった。 璃奈「──────────信じられない」
愛の全身を璃奈は凝視する。
戦い自体はとうの昔に決着が付いていた。それでも尚、彼女のマスターらを追跡するのを忘れるほどに、璃奈は衝撃を受けていた。
己が最強と信じるサーヴァントが、こうも「してやられた」現状に。
────愛の全身を、無数の武器が貫いていた。
剣、槍、斧、鎌、矛、刀……ざっと数えただけで数十にも及ぶ武器が愛の身体に突き刺さっている。 璃奈「愛さんの宝具は、最高威力級の攻撃を除いてあらゆる攻撃を無効化できる。そのうえ、一度くらった攻撃は二度と通用しない」
璃奈「考えられる中で最強の護り。それなのに」
璃奈「あの人は、武器を変え戦略を変えあらゆるモノを使い切って、愛さんを「六度も」倒してみせた」
璃奈「一体、どれほどのスクールアイドルだったの? あの人は、どんなところで歌っていたんだろう」
璃奈「確か名前は……園田……」カタカタ
璃奈「っ!」
璃奈「……グループ名、「μ's」。ラブライブを一躍世界に知らしめた伝説のスクールアイドル」
璃奈「サーヴァントとして召喚される女の子に時間と空間の縛りはない。中には過去の人間が呼ばれることもある。でもまさか、あの人が、あのグループの一員だったなんて」
璃奈「……あの伝説を、たった六度負けただけで倒しきれたのは、寧ろ幸運だったのかも」ゴクリ 愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■……」
璃奈「!」
璃奈「まだ、戦い足りないの? あの人の戦いぶりを見て、自分ももっと戦いたいって思った?」
璃奈「……そっか。そう、だよね」
璃奈「じゃあ、いこう。本当はゆっくり傷を癒して、ストックを戻してからがいいのかもしれないけど。でも、愛さんがそれを望むなら」
璃奈「ゴッドハンドの残りは5つ。今の歩夢さんに削り切る手段はない。────ここで、倒す」
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」ビリビリ かすみ「ここなら悪くはないでしょう。さっき考えた作戦で、りな子と愛先輩を迎え撃ちます。名付けて「うしろからコッペパン作戦」です!」ドドン
歩夢「どうせ勝ち残るには愛ちゃんを倒さないといけないもんね。その作戦でいいと思うよ」
侑「私も特に反論は無し。だけど歩夢、一つだけいいかな? 宝具……だっけ。あれは使わないでほしいんだ」
歩夢「うん、わかってる。昨日の……夜の……っ…す……で、多少は回復したって言っても、まだ宝具を使えるほどじゃないからね」メソラシ
侑「ちょ、ちょっと……その話は今は……///」
かすみ「ああもう駄目です駄目です! 昨日のことは森を出るまで禁止だって言ったじゃないですかー!!」 侑「あは、あはは、はは……///」
…ウオオオオオオオオ…‼‼ ズン… ズン…‼
侑「っ!? この声は……!」ゾクッ
歩夢「!」
かすみ「ぞ、ゾワゾワする気配……!」
歩夢「うん。来る、もうかなり近い。かすみちゃん、侑ちゃん、所定の位置について」
歩夢「今度こそ、愛ちゃんを倒そう!」 ズン…‼
璃奈「…………見つけた。二人だけ?」ザッ
侑「かすみちゃんには帰ってもらったよ。サーヴァントを失って、もう戦う理由がないからね」
璃奈「うん……いいと思う。下手にうろちょろされると、間違って愛さんが潰してしまうから」
歩夢「……………………」ゴクリ
侑「一応聞いておくよ。璃奈ちゃん、戦いを避けることはできないの?」
璃奈「できない」キッパリ 璃奈「愛さんを見て」
璃奈「……愛さんを「こうした」のは私なんだ。最初にそれでいいと言ってくれたのは愛さんだけど、最後に手を下したのは私」
璃奈「私には責任がある」
璃奈「愛さんは、たとえ喋れなくなっても、笑えなくなっても、私を守るために強くなれるならいいって言ってくれた。理性すらも捨ててくれた」
璃奈「だからこそ、私には勝ち残る義務がある。勝って、「聖杯」を愛さんに渡して、愛さんを最高に輝くアイドルにする。それが、それだけが、私に出来る最大の恩返し」
璃奈「──────だから、戦う。愛さんの意思を無駄にしないために、あらゆる敵を打ち倒す」キッ 侑「……意思は硬いみたいだね」
歩夢「侑ちゃん下がって。始めるよ」チャキ
璃奈「愛さん……全力でいくよ。二連戦はちょっぴりハードだけど、私の歌と、愛さんの剣があれば大丈夫。わたし達は誰にも負けない」
璃奈「……………」スゥ
璃奈「『ツナガルコネクト』」
『はずむ ココロ! 飛ぶようなテンション!』
『──────さぁ Connect しよ!』
愛「」ギン! 愛「─────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ゥゥゥゥァァァァァァァァァッ!!!!!!!」ドンッ!
歩夢「はあああああああっ!」ダッ!
…ガキィィィィィン!
侑(ついに始まった……! まずは私が、せつ菜ちゃんの時みたいに璃奈ちゃんを止める……!)
侑「いくぞー! うおおおおーっ!」
『つたわんないや、なんでだっけ? どうするんだっけ…… 』
璃奈「──────────」チラッ 愛「■■■■■■■■■■ッ!!!!!!!!」ブォン
侑「ひっ⁉」ズドン!
歩夢「侑ちゃん⁉」
侑「大丈夫っ……あ、あぶ、危な……」
愛「■■■■■■■■■■■■■■ォォォ……」グルル
侑(……い、いまもう一歩踏み出していたら、間違いなく愛さんの攻撃をまともに受けてた!)
侑(愛ちゃん……歩夢を正面から相手にしているのに、まだ「璃奈ちゃんを守る」だけの余裕がある! 簡単には近寄らせてくれないっ!)
侑(理性を捨てて、考えることすらやめたはずなのに! それでも愛ちゃんは璃奈ちゃんを守る!それだけの想いを秘めている!) 愛「■■■■■■■■■■■■■ルルォォォォォォァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」ドゴン!バゴン!
歩夢「くぅっ……ぐ……!!」ズガガガッ!
侑(歩夢が……あの歩夢が、手も足も出ない! そもそも出力の桁が違う! まるでブルドーザーと自転車を比べるくらい、愛ちゃんの次元が違い過ぎる!)
『しっちゃかめっちゃか Thinking ぐるぐる Now Loading……』
侑(あの夜、あの時はあれでもまだ全力じゃなかったんだ! 璃奈ちゃんの歌を背負って、愛ちゃんは更に強くなってる……!)
侑「歩夢……っ!」ギリッ
侑「……また、これだ……歩夢が傷ついているのを見ているだけで……私には、何も……!」 『いいですか。貴女は戦うものではなく、生み出すものでもありません』
侑「!」ハッ
『『勝てないのならば空想の中で勝つ』、それだけを極めなさい』
『貴女にとって戦う相手とは、自身のイメージ以外に存在しないんです』
侑「海未さんが遺してくれた言葉……」
侑「っ」ズキン!
侑「あたまが、痛い……体の中が……熱い」 歩夢「……はああああああああっ!」ダンッ!
侑「歩夢!」ハッ
愛「■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」
歩夢(まだ誰にも見せていない奥の手! 使うなら今しかない! なんとしても隙を作る!)
…ダンッ!
歩夢「吹き飛ばして、『風王鉄槌』!」ゴォォォウッ!
侑「あれは、風の、竜巻!?」
歩夢の聖剣を包み隠す空気の断層。それを彼女は前方に収束させ、愛めがけて解き放った。
あらゆる物体を引き裂く風の刃が、振われる大剣を弾いて逸らす。 かすみ「ナイスです歩夢先輩っ!」バッ
璃奈「……っ!? かすみちゃん!? 隠れていたの!?」
かすみ「ここで終わらせますよー! えーい、超特大コッペパンっ!」
璃奈「まずいっ! 逃げて、愛さん!」
千載一遇のチャンスを待っていたとばかりに、木の上に潜んでいたかすみが飛び降りてくる。
その手には一つのコッペパンが握られていた。
彼女がソレを放り投げるや否や、コッペパンは瞬く間に数メートルを超える巨大質量へと変化を遂げ、愛の身体を強引に押し潰す!
ズドォ……ン‼‼
かすみ「……っ痛!」ズデン
歩夢「かすみちゃん! もう、頑張って木の上から飛び降りたりするから……!」
かすみ「えへ、えへへ……でも見てくださいっ。愛先輩は特大コッペパンの下敷きですよー!」 歩夢「ふぅ……なんとかうまくいったみたい。ここまでされたら、流石に愛ちゃんでも」
璃奈「────────────」
かすみ「ふっふっふ、作戦成功だねしず子ぉ。まさかサーヴァント役じゃないかすみんが本命だとは思わなかったでしょ」ニヤニヤ
かすみ「まあ愛先輩はしばらくお腹を壊すことにはなると思うけど、これも戦ったペナルティとして受け入れ……」
璃奈「かすみちゃん。そこから離れた方がいい」
かすみ「へ?」
かすみ「ちょっとちょっと、もう愛先輩は倒したんですよ? いったい何に気をつけろって、」 歩夢「──────かすみちゃん! 離れてっ!」
かすみ「え」
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■……」ズン
かすみ「う、うそ……なんで、」
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」ビリビリ
かすみ「なんで、まだ立ち上がってるんですかぁっ!?」
侑「…………そ、そんなっ!! 今ので確かに、愛ちゃんは倒したはずだよっ!?」 璃奈「そうだね。かすみちゃんの攻撃はお見事だった。確かに愛さんは一度倒された」
璃奈「でも、一度きりじゃ足りない」
璃奈「宝具。どんなサーヴァントも有する必殺の武器。愛さんの宝具は「身体そのもの」なんだ」
璃奈「どういう理由か、宝具っていうのは色々な形をとるの。それは何も武器に限らない。愛さんに与えられた宝具は、その身体そのものだった」
璃奈「何度倒されても、傷付いても、11回までは蘇生して完全回復する。それが愛さんの宝具」
璃奈「名前を、『十二の試練』」
侑「そんな……デタラメ……!!」 かすみ「そうですよぉっ! た、ただでさえ滅茶苦茶強いのに、その上11回ぶんも倒さないと、なんて……!」
璃奈「これでも愛さんは弱ってるんだよ。かすみちゃん、あなたのサーヴァントに6回もやられちゃったから。残りの残機は5回分しかない」
璃奈「再開しよう、愛さん」
愛「■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!」ガシッ
かすみ「あぐっ! は、離して、くださっ……」
歩夢「かっ……かすみちゃんっ!!」ダッ!
侑「あ……歩夢……かすみちゃん……」 頭の中が、真っ白に漂白されていく。
それはひとえに絶望によるものだった。勝てない。その事実が侑の心を打ちのめし、まともに立っているのか、自分が何をしているのかすら曖昧にさせる。
侑「ぁ……」
歩夢「く……ああああっ……!!」ガキン!
愛「■■■■■■■■■■■……」ドゴン! バゴン!
かすみ「ぁ……ぐ……ぅ!」ギリギリ
振われる聖剣は愛の身体に容易く弾かれ、一向に食い込もうとする気配がない。
歩夢とかすみの区別すらついていないのか、愛は容赦なくかすみの体を吊り上げたまま、歩夢の攻撃をものともせずに唸っている。
侑「みん……な……」 歩夢「──────ッ!」ザザアッ!
歩夢「弾かれる! 愛ちゃんの身体にはもう刃が通らない……こうなったら……!」
歩夢「あれを使うしか、ない!」シュゴオォッ!
侑「────────!!?」
遠くなりかけていた侑の意識が、黄金の輝きによって揺り戻される。
剣を覆う暴風は既に無い。晒された黄金の刀身が美しく輝き、昏い森林の中を染め上げる。
その瞬間。
侑は、倒れる歩夢の姿を幻視した。
侑(……無理だ! あれを使うにはまだまだエネルギーが足りてない! そうなったら……たとえ愛ちゃんを倒せたとしても……歩夢は……!) 侑「……め、」
侑「駄目ぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!!!!!」
…キュィィィン!
歩夢「っ!?」ガクン
歩夢「この、感覚っ……まさか!」
歩夢「令呪!?」バッ
侑「……駄目だよ、歩夢。それを使わせるわけにはいかない。たとえこのピンチを乗り越えられても、それで歩夢まで共倒れじゃ意味ないよ!」
歩夢「だからって……こんな時に貴重な令呪を使ったの、侑ちゃん!? なんでっ……これを使うしか、もう手段は残されてないのにっ!」 侑「…………なら、作ればいい」
歩夢「え……」
侑「私が! 今ここで! 歩夢が愛さんを倒す、最高の武器を作り出すっ!!」
『『勝てないのならば空想の中で勝つ』、それだけを極めなさい』
『貴女にとって戦う相手とは、自身のイメージ以外に存在しないんです』
侑「大事なのはイメージすること。心打たれた輝きを思い描くこと。なら!」
勘違いをしていた。
侑はただひたすらに、自分が他のアイドルのように何かできないのかと苦悩し続けていた。
でも違ったのだ。
他と同じようにする必要はない。
高咲侑には、侑にしか出来ないことがある。 侑「──────────投影、開始!!!!」バッ!
歩夢「侑ちゃんの体が……光った……⁉」
侑「く、ぅぅ……ぁあぁぁぁ……!!」バチバチ
侑(私はずっと歩夢を隣で見てきた……! 他の誰よりも近くで、歩夢がスクールアイドルになった瞬間から、歩夢を応援してきたんだ……!)
侑(積み重ねたその想いだけは、他の誰にも負けやしないっ!)
璃奈「っ!? 愛さん!」
侑(想うだけじゃ足りない! もっと、もっと、歩夢の輝きを誰よりも知っている私だからこそ、それだけは寸分違わず思い描ける!)
侑(空想して! 組み上げた歩夢のイメージを!形と成して握り締めろ!!) 侑が持つ全ての知識と経験と感情を以て。
「上原歩夢」という少女の全てを再現する。
少女の理念を鑑定し、
基本となる情景を思い描き、
唄われる声色を複製し、
輝くに足る技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし────!
侑「……おおああああああああああっ!!!!」カッ!
そうして、光が収束したその果てに。
侑の右手には、歩夢の持つものによく似た剣が握られていた。 侑「っ、は……!! はぁっ、は……!!」
侑「作り上げた……形に、出来たんだ……歩夢の……輝きを……っ!!」
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ォォォォォォ!!!!!!!!!!!」ダッ!
侑「っ!?」
侑(くそ、作った……歩夢の武器を作れた……のに!)
侑(もう、足が……動かない……!)
愛「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!!」ブォン!
侑(ごめん、あゆ──────)
…ガキィィィィィン! 侑「…………、え?」
歩夢「まだ、まだたよ、侑ちゃん……!」ザッ!
歩夢「あなたが剣を振るえないとしても、まだ私がいる! 私はどんな時だって! 侑ちゃんをきっと守り抜く!」
歩夢「──────────侑ちゃん、手を!」バッ!
狂戦士が咆哮する。
今度こそ敵を破壊せんと、手にした大剣を大きく振り上げ、渾身の一撃が落とされる。
その直前。
侑と歩夢は手を重ねるように剣を握り、
「「はあああああああああああああああああああああああーーーーーーっっ!!!!!!!!」」
放たれた黄金の光が、愛の身体を穿ち抜いた。 侑「………………………は、ぁ、は……」
歩夢「はっ…………はっ…………………」
破壊音が響くだけだった深い森に、静寂が訪れた。
言葉を発するものは誰もいない。
ただ、二人分の荒い呼吸だけが、吹き抜ける風に揉まれて消えていく。
愛「…………へえ。それが、歩夢の剣なんだ?」
歩夢「──────────」
歩夢「私が今持っているものとは、少し違うよ。侑ちゃんが作りあげた、「侑ちゃんにとっての私」の剣」
歩夢「もう一振りの、私の輝き」 愛「……でもそれは、ゆうゆが作り上げた幻想に過ぎない。だよね」
愛「ゆうゆは歩夢そのものじゃないから」
愛「だからこそ、どれほど頑張ってもソレはまがい物。それだけは決して変わらない。すぐに消えて、霧散してしまう幻の結晶」
侑「………………………」
愛「ははっ、でも──────」
グラ…
愛「……その想いも、侮れないね。まさかたったの一撃で、愛さんを七度も倒しちゃうだ……なん、て……」
愛「」ドサァッ
冷たい風が吹き抜けていく。
死闘の終わりを告げるように、昇ってきた朝日が彼女達を照らしあげていった。 原作からしてそうだけど1度で何回分も殺すという良く分からない理屈 >>326
HPゲージのオーバーキルみたいなもんだと解釈してる HP100×7つ分の敵に700以上のダメージを与えたらHP全損するって話では オーバー分のダメージを残機分割り振るって都合よすぎないか 彼方ちゃんまだ出てきてないけど、消去法で宗一郎かな キャスターが彼方ちゃん
宗一郎が遥ちゃんと予想
ただセイバールートだとほとんど出番ないな エクスカリバーとカリバーンって結局どっちが強いのかわからんな そっかアニメ時空だったら遥ちゃんもマスターになれるもんな
彼方ちゃんキャスターなんだかえっち エーン… エーン…
歩夢『びえええ! 返してよぉ! わたしのぬいぐるみさん!』
歩夢『うぇっ、えぐっ……うわああああん! いじわるしないでよぉ!』
ヤナコッター トレルモンナラトッテミナー!
歩夢『ふぇっ……うえええええんっ!』
侑『こらーっ! なにやってるんだー!』
ヤベエ! タカサキダ! ニゲロー!
侑『あゆむを泣かせたくせに逃げるなー! そのぬいぐるみかえせーっ!』ダッ 歩夢『えぐ……えぐっ……ぐすっ……』
侑『──────あゆむ!』
歩夢『ゆ、ゆうちゃ……』
歩夢『!』
歩夢『あ、あゆむちゃん、鼻血、鼻血でてるよ! それに、お、おようふくもこんなによごれてっ!』アワアワ
侑『あいつら追っかけてたらころんじゃった。でもね!』
侑『じゃーん!』
歩夢『ぬ、ぬいぐるみさん!』 侑『あゆむは泣き虫さんだから、わたしがずっとまもってあげる』ナデナデ
歩夢『ぐすっ……ぐす……ほんとう……?』
侑『うん、やくそく』
侑『わたしは、どんなときだって、ぜったいに』
侑『あゆむをいじめるやつから、あゆむをまもるよ』
歩夢『う……うえぇんっ、ゆうちゃん!』
侑『だから、あんしんして?』
──────どんな時だって、絶対に。
──────私は、歩夢を守るよ。 侑「ん…………」ムクリ
侑「なんか、夢を見てた気がする……昔の夢……」
侑「朝か。帰ってこれたんだ、私たち」
歩夢「……侑ちゃん、起きてる?」ガチャ
侑「あ、歩夢! おはよう!」
歩夢「うん、おはよう。朝ごはん作ったから、動けそうなら来てね」ニコ
侑「はーい……」フワァ
侑「……んぅ、朝ごはんは食べないとね……」モソモソ 歩夢『ぁ……ゆ、侑ちゃ……恥ずかしい……から……そんなにまじまじ、見ないで……』
侑「!!!」ドキ
侑「そ、そういえば、歩夢は普通に流してたけど……」
侑「私、ついに、歩夢とあんなこと……」
侑「っ」カァァ
侑「……どうしよう、歩夢の顔……ちゃんと、見れないかも……」
侑「まいったなあ」ハァ かすみ「……う゛ぇェ、おはようございまず」ヨロヨロ
璃奈「みんな、おはよう」
歩夢「かすみちゃん、璃奈ちゃん、おはよう。ご飯出来てるからね」
璃奈「美味しそう」
かすみ「……あれ? りな子? なんでいるの!?」
璃奈「まだ寝ぼけてるの? あのあと、愛さんをしずくちゃんに預けて、私は行くところがなくなった」
璃奈「まあ、普通に家に帰れば良いんだけど……」
璃奈「せっかくだから、聖杯戦争中だけでもウチに泊まって行かないかって、侑さんが」
かすみ「あ、あ〜、そうだっけ? あはは」
璃奈「むぅ」 侑「あ、璃奈ちゃん、かすみちゃん、おはよ〜」フリフリ
侑「えーっと、今日何曜日だっけ……」
かすみ「流石に今日は休んでいいんじゃないでしょうか……森の中を歩いて歩いて、もう流石に動けませんよぉ」クタクタ
歩夢「そうだね。こんな時なんだから、休んだってバチは当たらないと思うよ」
侑「あ、歩夢。そっ、そうだよね」ワタワタ
璃奈「?」
かすみ「あはは……///」
璃奈「とりあえず、私はしばらくしたら愛さんのお見舞いに行ってくる。聖杯戦争に敗れた人は、監督役が責任をもって保護してくれるけど、それでも心配」 かすみ「かすみんはぁ……今日はお昼寝してぐーたらしよっかなあ」
侑「随分だらっとしたね、かすみちゃん」
かすみ「あんなことがあってやっと緊張の糸が切れたんですよぉ! それにどうせ勝ちは決まったようなものですし!」
歩夢「えー、そうかなぁ?」
かすみ「そうですよ。最強のサーヴァントだった愛先輩も倒して、エネルギー不足も解決して、あとはもう勝つだけじゃないですか!」
かすみ「歩夢先輩は自己評価が低いですけど、エネルギーの問題さえ解決すればサーヴァントの中じゃ滅茶苦茶に強いんですよ? かすみんの見立てじゃ、今の歩夢先輩が負けることはまずないと思います!」
歩夢「うん……そうだね。確かに、今はもう前までとは違う。しばらくは存分に戦える」
璃奈「残るサーヴァントは三人。エマさんと、一度歩夢さんが戦った槍の人。あと一人は未だに不明」
侑「槍の人やエマさんの戦い方は割れてる。強くなった歩夢なら遅れを取ることもない、よね」
かすみ「そうそう、そういうことです。といっても、かすみんもあそこまでした以上お二人に優勝してもらいたいですし、最後まで付き合いますよ」
璃奈「あそこまで?」
かすみ「!」ギクリ 璃奈「……昨日は、色々と不可解な点があった。ほとんど戦えなかったはずの歩夢さんがエネルギーを取り戻し、スクールアイドルじゃない侑さんが歩夢さんの剣を作り上げた」
璃奈「私はこの疑問を解き明かしたい」グイィ
かすみ「うわー、理系ですー! そんなの細かいことはいいんだよ論で流してくださいよー!」
璃奈「やだ。おしえて。昨日、どうして愛さんを倒すことができたの? なんで?」
かすみ「かすみんに聞かれてもわかりませんよぉー! う゛ええーーー! 先輩も助けてくださぁい!」
侑「……ごちそうさま! じゃ、そういうことで!」
かすみ「あ! 逃げた!」 〜侑の自室〜
侑「……ふう、歩夢が部屋の壁に大穴開けたせいで、なんだか自分の部屋に戻っても落ち着かないよねえ」
侑「ま、そこお陰で広くなったんだけど!」
侑「寝て過ごすのも悪くないけど……お休みなら久々にピアノの練習でもしよっかな♪」ポロン
侑「最近は忙しくて触れなかったからね。鈍ってないといいんだけど」
侑「……もうちょっとで、完成するんだ。新曲」
ポロン… ポロン… 侑「〜〜♪ 〜♪ 〜〜〜〜〜〜♪♪」
侑「うーん。やっぱり曲の終盤、最後のピースが埋まらない……ここさえしっくりくれば凄い曲になると思うんだけど……」
侑「こんな感じで……」ポロロロン
侑「〜〜〜〜♪♪ へいへぇい! 〜〜〜♪♪ はいはいはいっ! でででーーーん♪♪」
侑「いや流石に違うなあ。盛り上げすぎた」
侑「作曲って、やっぱり難しいなあ」
歩夢「侑ちゃん? ピアノの練習?」ガチャ 侑「あ、歩夢!」ワタワタ
歩夢「やっぱり。ほら、お茶淹れたよ」
侑「あっ、ありがと」
侑(うぅ……やっぱりあんなことしちゃったばっかりで、直視できないよ……)
歩夢「今はどんな感じなの?」ヒョイ
侑「わっ!? ちょ、ち、近いよっ!」
歩夢「え? いつもこんな感じだよね?」
侑「そっ……そう、かもしれないけど、とにかくダメなの! 今は集中してるからっ!」 歩夢「そ、そっか。ごめんね、邪魔しちゃった」
歩夢「お茶は置いておくけど、あまり無茶はしないようにね? かすみちゃんが話したいことがあるから、お昼ごろリビングに来てって」
歩夢「それじゃ、ね」パタン
侑「ぁ、う……」
侑(つ、つい強く言い過ぎちゃった……集中なんて、朝から歩夢のことばっかり考えて全然出来てないのに)
侑(はぁ……私、どうしちゃったんだろう)
侑(やけに頭がぐるぐるする。勝手に歩夢のことばっかり浮かんできて…………)
侑「!」ハッ
侑(まさか……まさか、私……)
侑「っ、だめだめ! 煩悩退散、煩悩退散!」
侑「うおお! こうなったらバリバリ練習だー!」ポロロロンロロンポロロロロン かすみ「もー! 遅いですよぅ、侑先輩!」
侑「ごめんね。思いのほか、練習に熱が入っちゃって……お昼過ぎになっちゃった」
かすみ「まあいいですけどっ。侑先輩、昨日の……いえ、正確には今朝のこと、まだ覚えていますよね?」
侑「ええと、うん。璃奈ちゃんと愛ちゃんを倒した時のことだよね」
かすみ「なら当然、あの愛先輩を"どうやって"倒したかも覚えているはずです」
かすみ「あの時、あの瞬間、何が起きたのか?」
かすみ「のんびりしていたいのは山々ですが、あれを放置して昼寝するほどかすみんものんびりさんじゃありません」
侑「……………………………」ゴクリ かすみ「侑先輩は、あの時……魔術と呼ばれる力を使って、歩夢先輩の剣を投影しましたよね」
侑「とう、えい? 映画作ってる会社の?」
かすみ「その東映じゃありません! 投影というのは、物の影を映し出すこと……転じて、脳内で空想したモノを現実の物体として作り出すことを指します」
かすみ「常識に囚われない力……スクールアイドルにしか許さないはずの、れっきとした「魔術」です」
侑「……魔術……!」
かすみ「大前提が崩れたんですよ。侑先輩はスクールアイドルではない。だからエネルギーの供給も行えないし、魔術も使えない」
かすみ「でも侑先輩は、魔術を使った。それも、愛先輩を7度も倒してしまう強力な魔術を」 かすみ「アレはもう魔術の範囲を超えてますっ!かすみんびっくりですよ、ほんとー!」
侑「いやぁ、必死になったから出来た偶然で、多分もう一回やろうとしても無理だと思う」
かすみ「当たり前です。あんなのをポンポンできるなんて話、あり得ませんよ」
侑「うん。本当にあの時は必死で、とにかく歩夢を勝たせなくちゃ! って思いで、気が付いたら剣を握ってたんだ」
侑「……自分がやった事は、分かるよ」
侑「かすみちゃんは「投影』って言ったよね。その通りだと思う。私は脳内でイメージ……思い描いた歩夢の輝きを、そのままカタチにしたんだ」 かすみ「相当ぶっとんだこと言ってますよ……」
侑「だよね。要は、頭の中の空想を実際に作っちゃったワケだから。でも、きっと、なんだってカタチにできるワケじゃないと思うんだ」
侑「私が完璧にカタチに出来るのは歩夢の輝きだけ。頭の中で想像するって言っても、ソレについて深く知らないとイメージなんて出来ない」
侑「例えば私がかすみちゃんの輝きをカタチにしようとしても、多分失敗すると思う」
侑「……歩夢はさ、特別なんだ。私達はずっとずっと一緒にいて、一緒に歩いて、一緒に育ってきた。歩夢のことならなんだって知ってる」
侑「だからこそ、私は歩夢の全てを完璧に再現できるんだと思う」 かすみ「なんだ、結局のろけですかぁ?」ハァ
侑「なっ、ち、違うよ! ただ、そうじゃないかなっていう予測っていうか、自分でもなんで出来たのか全然理解してないし!」
かすみ「少しでもそう思ってる時点でのろけなんですよ!」
かすみ「……でも、注意して下さい」
侑「え、何に?」
かすみ「その魔術を使うことに、です!」
かすみ「いいですか。当たり前のことですけど、無から有を作るなんてこと、出来るはずがないんです」
かすみ「未だに原理が分かってもいない力。そんなの、下手に触れば吹き飛ぶ爆薬と同じです。知識も無しに頼るにはあまりに未知数で、危険すぎますから」 侑「……そっか。そうだよね」
侑「かすみちゃんは優しいね。こんな私でも心配してくれて、ありがとう」
かすみ「はぅっ/// い、いや、別にかすみんそういうつもりじゃなくて、ただ侑先輩が危ないのは嫌で、」
侑「やっぱり良い子だねぇ」ヨシヨシ
かすみ「あーーーっ! ちがう、これは違うんですぅーーーっ!!」
侑「大丈夫、かすみちゃんの心配は受け止めたから。今日はたくさんなでなでしてあげようねぇ」 璃奈「ただいま。しずくちゃんのところで、愛さん達の様子を見てきたよ」ガチャ
かすみ「りな子!」
侑「璃奈ちゃん! 愛ちゃんはどうだった?」
璃奈「やっぱりずっとトイレに篭ってる。愛さんゾンビみたいな顔してた。お腹がずっとグギュルゴロゴロ鳴ってて、申し訳なかった」
璃奈「果林さんも同じ状況。しずくちゃんがいなかったら大変なことになってた」
かすみ「ひえ……牡蠣にあたった時とどっちが辛いんでしょうか……」ブルブル 侑「思ったんだけど……これ、何のために戦ってるんだっけ……わからなくなってきたよ」
かすみ「わ、忘れないでください! 聖杯ですよ聖杯!」
璃奈「ソレを掴んだものを最高のスクールアイドルへと導くとされる、聖なる杯。優勝景品」璃奈ちゃんボード『wktk』
侑「あぁ、そうだよね。負けるのが嫌で戦ってきたけど、一応そういうゴールがあるわけだ」
侑(じゃあ、もし私たちが勝ち残ったら……私は歩夢にその聖杯を使うのかな?)
侑(聖杯を使って、歩夢を最高のスクールアイドルにする。誰にも負けない、無敵の輝きを放つ絶対のアイドルにする。それで戦いは終わって、歩夢の夢は、)
侑(…………なんで、こんなにモヤモヤするんだろう。きっと、正しいことの筈なのに) 歩夢「みんな〜、お昼ご飯だよ〜」ガチャ
かすみ「わぁ! 歩夢先輩、ありがとうございます〜!」
璃奈「美味しそう」
侑「そっか、話し込んじゃったけどもうお昼だもんね」
歩夢「侑ちゃんにはこれ、だし醤油。これが大好きだったよね?」
侑「わーい! さっすが歩夢ー!」
イタダキマース モグモグモグガツガツガツ‼
侑(まあ、今はいいや。聖杯を使ってどうするべきなのか、私たちは何処を目指すべきなのか)
侑(きっといつか分かる。そんな気がするから) 〜夜・侑の自宅 ベランダ〜
侑「うー、さむさむ……」ガラガラ
侑「でも、気になる事は確かめておかなくちゃ」
侑「それに、もし"コレ"を使いこなせるようになれば、今度こそ私が歩夢を守れる」
侑「かすみちゃんには悪いけど、こんなに美味しい話、放っておけないよ」
侑「…………"投影開始"」バリッ
侑(やり方はもう覚えた。ピアノと違って、一度覚えてしまったらあとは簡単だ。この熱が冷めないうちに、もう一度くらいは復習しておきたい) 侑「…………"少女理念、鑑定"」
侑(身体の中を、血管とは別に何かが駆け巡っていく。かすみちゃんの言う「エネルギー」なのかな)
侑「…………"基本情景、想定"」
侑(問題は、それが何を燃料にして生まれたモノなのか。この熱量は何処から湧き上がってきたものなのか)
侑「くぅ……く、」バチバチ
侑(あたま、痛っ……)ズキズキ
侑(確かに、この力は度を過ぎているのかも。サーヴァントならともかく、マスターの身でこれだけの力を使おうとしたら、いつかきっと……)
侑「!」ピクン
侑「………………………"仮定終了"」フゥ
侑「どうしたの、歩夢?」クル 歩夢「あっ……ごめんね、邪魔しちゃった? 何してるのかなって」ヒョイ
侑「ううん、全然。というか、部屋が繋がってるんだからこっちのベランダに来ればいいじゃん」
歩夢「こうして仕切り越しに話した方が、私たちらしいと思わない?」
侑「うーん、まあそれもそっか」
歩夢「……もしかして、「魔術」の練習?」
侑「う。す、鋭いね、歩夢は」
歩夢「だって、汗でびっしょりだよ、侑ちゃん」 侑「あの剣を作った時、何かが掴めた気がしたんだ」
歩夢「何か?」
侑「うん、それを掴めれば、私は先に進める。大きな一歩を踏み出せる気がする」
侑「それにさ!」クルッ
侑「あの力があれば、私が歩夢を守れるよね!」
歩夢「」ピクン
歩夢「……守る? 侑ちゃんが、私を?」 侑「うん、だって私は歩夢を助けたいのに何も出来なかった! でも、でもね、今度からは見ているだけじゃない!」
侑「まだ未熟で、あの力を使えたのは偶然だったんだろうけど、それでも練習すればきっと使えるように」
歩夢「やめてよっ!」バン
侑「っ」ビクッ
侑「……あ、あゆ、……む?」
歩夢「もう、やめてよ。……侑ちゃん」
侑「な、なんで」 歩夢「……侑ちゃん、覚えてる?」
『わたしは、どんなときだって、ぜったいに』
『あゆむをいじめるやつから、あゆむをまもるよ』
歩夢「侑ちゃんは……まだ、あの時から変わってないんだね。何もかも変わって、成長しても、そこだけは頑固に変えようとしない」
侑「何を……言って、」
歩夢「でもね、侑ちゃん。もう、私は……」
ドォォォォォォ……ン‼‼‼‼
歩夢「!?」ハッ 侑「いまの、何の音っ!?」
かすみ「爆発ですかっ!」ヒョコ
璃奈「多分、敵襲。愛さんがいなくなったから仕掛けてきた」ヒョコ
侑「うわぁ! 視界の外からタケノコみたいに生えてこないでよ二人とも!」
歩夢「サーヴァントの気配がする。戦おう」
侑「よし、歩夢、急いで下に降りよう! ここじゃ思い切り戦えないし!」ダッ
かすみ「かすみんもついて行きますよー!」ガチャ かすみが玄関への扉を開けた瞬間、そこにはいるはずのないものがいた。
────────羊、だ。
リビングから玄関まで、ぎっしりと何匹もの羊がたむろして、我が物顔で辺りを見渡している。
侑「は?」キョトン
かすみ「えっ、え? 幻覚ですか? さっきまでこんなのいませんでしたよねぇ!?」
璃奈「みんなかわいい。もふもふしてる」
歩夢「……っ!? まずい、みんな羊さんから視線を外してっ!」
かすみ「え」キュイン
歩夢の警告は遅かった。
叫んだと時には既に、かすみと璃奈は羊と視線を合わせてしまっていた。
温厚そうな瞳が彼女の目を捉えた瞬間、かくんと二人の体が地に落ちる。
かすみ「すやぁ」ドサ
璃奈「くぴぃ」ドサ 侑「ふ、二人とも、どうし……ぷわっ!? 歩夢!? なんで目隠しするの!?」
歩夢「見ちゃダメ! この羊、ただの羊じゃないみたい。目を合わせただけで眠らされる!」
侑「う、ウソ、あんなにいっぱい居るのに!?」
メェー メェー… グゥグゥ… スヤスヤ…
歩夢「くっ。すごい数……玄関の奥までぎっしり羊さんが詰まってて、無理に突破しようとしたら眠らされちゃう」
歩夢「といっても、ベランダ奥にはサーヴァントの気配。このまま飛び出しても、誘いに真正面から乗る形になっちゃうけど……」
侑「ううん、多分いまの歩夢なら大丈夫。歩夢自身、そう感じてるんじゃない?」
歩夢「……そう、だね。こういう回りくどいやり方は、逆に正面きっての戦いに自信がないってことでもあるはず。やってみよう」
歩夢「飛び降りる! 侑ちゃん、捕まって!」ダンッ 歩夢「着地っ」ドサァッ!
侑「ありがとう、歩夢」
歩夢「……侑ちゃん、後ろに。居たよ」チャキ
月の下、マンション前に二つの影があった。
一人は普通の人影ながら、もう一人は浮いている。
大きな杖を携えて、羽織った掛け布団をローブのようにはためかせながら、少女はこちらを眺めていた。
彼方「こんばんはぁ〜。おひさだねぇ〜」
遥「夜分遅くに失礼します、侑さん、歩夢さん」
侑「彼方さんに……遥ちゃん!? 彼方さんが7人目、最後のサーヴァント!」
彼方「そゆこと。マスターは遥ちゃんなんだぁ。遥ちゃんがマスター役でとっても嬉しいよ〜」 遥「驚きました。ずっと遠くから戦いの様子を伺っていましたが、本当に侑さんがマスターなんですね」
侑「私自身、驚きの連続だよ」
侑(投影は……流石にまだ無理っぽいか……)グッ
歩夢「彼方さん、念のため聞きますが、ここに来た目的は何ですか。話し合いか……それとも、戦うためか」
彼方「う〜ん、見たでしょ? 彼方ちゃんの羊さん。邪魔な子を眠らせたのは、当然戦うためだよねぇ」
彼方「悪いけど、聖杯は遥ちゃんに使ってあげたいんだぁ。だから、彼方ちゃん頑張るよ」ムン
遥「………………えっ!? 聖杯はお姉ちゃんに使うって決めたじゃん!」
彼方「あっ、あ、ええ〜っと……その、冗談だよぉ。本当は遥ちゃんに使う気だなんてこれっぽっちも思ってないからぁ」
遥「うそ! お姉ちゃん嘘ついてたんだ! 聖杯は私じゃなくてお姉ちゃんに使ってって言ったのに! またそうやって私を優先して!」プンスコ
彼方「あ、あわわ……遥ちゃん、落ち着いて」 侑「こんな時も二人は変わらないみたいで、ちょっと安心したよ」ホッ
侑(……安心したはずなのに、何か嫌な予感がする。彼方さんのエネルギー量は愛さんに比べれば大したことない。多分これなら歩夢は勝てる)
侑(それなのに、背筋の不安が離れてくれない!)
侑「……歩夢、ちょっと……」
彼方「む、むぅっ! そうだった、今はケンカしてる場合じゃないよ! いざ尋常に勝負だー!」
遥「後で説明してよ! お姉ちゃん、お願い!」 歩夢「いきます!」ダッ
侑「あっ、歩夢! ちよっと待って!」
彼方「────────"あとらす"」
彼方が四文字の言葉を紡いだ瞬間。
閃光が炸裂して、夜の闇が引き裂かれた。
歩夢「!」
紫色の閃光が雨のように射出される。
歩夢から外れたソレはアスファルトを焼き、街灯を穿って、戦略兵器の如き破壊を撒き散らす。当然ながら、その数倍の数が歩夢へと牙を剥き、
歩夢「効かないッ!」バチンッ
しかしそれは、歩夢に直撃した途端に掻き消えた。 侑「は……弾いた!?」
彼方「嘘ぉ!? なんでぇ!?」
遥「そっか……対魔力! 剣を操るサーヴァントの子は、魔術に対して強力な耐性を持つとか!」
遥「でも、お姉ちゃんの魔術は最高クラス! それすらも無効化するだなんて……!」
彼方「くぅ……このぉー!」ビシュビシュビシュン!
ドドドドォォォン‼ ズゴゴゴゴゴ…‼‼
歩夢「はあああああああああ!!!」 侑(すごい、凄い! エネルギーを得た歩夢は強いってかすみちゃんは言ってたけど、本当だ! 彼方さんの攻撃にびくともしない!)
侑(あのまま簡単に斬り伏せられる! 勝てる!)
歩夢「彼方さん、覚悟っ!」
さっきから燻っていた嫌な予感は、より大きなものとなっていた。
歩夢が勝利に近づけば近づくほど、歩夢を止めなければという危機感が強くなる。
そう、これはまるで。
最初から全てを計算した上で、あえて歩夢を自らの近くへと誘導しているような──────、
侑「……まさか、彼方さんは、」
侑「ッ!! だめ、歩夢ーーーっ!!」ダッ
侑が走り出したその瞬間。
彼方は、その「本命」を取り出した。 歩夢「なっ!?」
彼方が取り出したのは、奇妙に折れ曲がった短剣だった。
明らかに人を殺傷する為の形状ではない。
だというのに、歩夢の本能が警鐘を鳴らす。アレを受けたが最後、敗北は絶対のものになると。
彼方「ふっふっ。まんまと近づいてくれたねぇ」
彼方「でも────これで!」ヒュンッ
歩夢(まずいっ! あの短剣は避けないと、)
羊たち「」メェー
歩夢(う、うしろに羊さん!? いつの間に背後に、まずいっ、退路を塞がれ)
……ドスッ!! 歩夢「────────……………え」
遥「っ!?」
彼方「……嘘ぉ」
三人に衝撃が走る。
振り下ろされ、直撃したと思われた短刀。
しかしそれは、割って入った侑の背中に突き刺さっていた。
侑「づっ……………………かッ、は、」
歩夢「……ぁ、侑、ちゃん?」
侑「ひゅ、く……あゆ、む……大丈、夫……?」
歩夢「ゆう……侑ちゃんっ!!」ガシッ 歩夢「っ! 侑ちゃん、一旦跳ぶよ!」ダンッ
彼方「ちぇ……チャンスだったのに、外しちゃったぁ」
歩夢「侑ちゃん、侑ちゃん! しっかりして!」
侑「か……っ、だ、大丈夫……だから……」ハァハァ
侑「ギリギリ……セーフ……いまは……彼方、さんを……」
歩夢「うん……うん。分かった」バッ
遥「まさか、侑さんが身を呈して守るとは思いませんでした。途中までは上手くいったのに」
歩夢「…………それが、彼方さんの宝具ですか」 彼方「そ。名前はぁ……『破戒すべき全ての符』だったかなぁ?」
彼方「サーヴァントどころかマスターも一撃で倒せない、弱っちい宝具だよ。でも、そのぶん効果は凄いんだぜ〜?」
彼方「"ルールブレイカー"の読み通り、この剣をサーヴァントの女の子に突き刺せば、そこに敷かれていた契約……ルールそのものを破壊する」
彼方「つまりー、歩夢ちゃんは侑ちゃんのサーヴァントじゃなくなって、私のものになっちゃうってこと」
歩夢「契約殺し! サーヴァントとマスターの契りを断つ、魔術破りの短剣……!?」
侑「でも……その力のタネは割れたよ……! こうなったら、歩夢に隙はもうない……!奇襲でソレを刺すなんてことは、できない!」グググ… 遥「残念ですが、そうはいきません」
歩夢「……!」
彼方「そうだねぇ。彼方ちゃん、サーヴァントとしては弱っちい方だからさ〜、正面から戦っても負けちゃうだけなんだよねえ」
彼方「だから、ちょいと卑怯な手でいかせてもらうよ〜?」
メェー… メェー…‼‼ メェェェェェェ‼‼‼
歩夢「羊さんが……たくさん、取り囲んで……」
遥「侑さん、あなたはもうそこから動けない。歩夢さんがお姉ちゃんを倒そうとした瞬間、羊の群れが侑さんにトドメを刺します」
侑「っ……!」 彼方「ごめんねぇ、こんなやり方で。でも彼方ちゃん、もうじっとしておくのはやめたから……」
彼方「だから、倒すよ」ブォン
歩夢(まずい! 広範囲爆撃の連発で侑ちゃんごと吹き飛ばす気だ! 私が無事でも、侑ちゃんが倒される……!)
侑「……つ゛っ、あ…………あゆ、む……!」
遥「令呪をもって命じるよ。お姉ちゃん、二人をここで倒して」キィン!
彼方「よーし、いっくぞー!」キュイイイイン…
歩夢(エクスカリバーは使えない! こんな場所でアレを撃ったら、辺りのマンションが壊滅しちゃう!)
彼方「かなた式・まきあ・へかてぃっく────」
……ヒュンッ! ドンドンドンドンドンドンドン!!!! 瞬間。
彼方による攻撃が歩夢たちを灼き尽くすよりもなお早く、凄まじい攻撃の雨が降り注いだ。
歩夢「っ!!?」
しかしそれは、歩夢達を傷付けることなく、周囲を取り囲んでいた羊達を薙ぎ倒していく。
三秒とかからなかった。100匹をゆうに超える数の羊達は、呆気なく全てがズタボロに引きちぎられた。
彼方「な……だ、誰ぇ!?」
照明で輝くマンションの階段上。
全員が呆然とソレを見上げていた。
???「──────────────」
そこには、少女がいた。
オレンジ色のシャツにプリントされた「ほ」の文字が、風を受けてたなびいている。 穂乃果「サーヴァントとマスターのみんな、だよね?」
侑「な…………ぁ、」
遥「さ、サーヴァント……!? そんな筈ない、サーヴァントは七人すべて出揃ったんだよ! もう新しいサーヴァントなんているはずが、」
穂乃果「うぅん、そうだよねぇ。私もよく分かってないんだけど」
すぅ、と少女の目が細められて、呆然とする侑の顔を見やる。
穂乃果「………ふふ。多分、あなたのせいだよ、そこの人」
侑「え……わた、し?」 彼方「っ! 遥ちゃん、下がって!」キュウウン!
穂乃果「戦うつもり? もしかして、本当に?」
彼方「……歩夢ちゃんも強いけど、あなたは比べ物にならないね。そんなの、警戒するなって方がどうかしてる。彼方ちゃんすっかり目が覚めちゃったよ」
彼方「あなたは、誰?」
穂乃果「そっか、自己紹介を忘れてた!」テヘ
穂乃果「私はね、高坂穂乃果。今が何年後の未来かは知らないけど、とりあえず高校2年生。スクールアイドル「μ's」のリーダーで……」
穂乃果「────前回のアイドル戦争の、優勝者」
全員「「「「!!!!」」」」 侑「み……μ'sって、まさか……あの!?」
歩夢「それに、前回の勝者……!?」
穂乃果「うーんとね、私は音ノ木坂で行われたアイドル戦争にサーヴァントとして参加して、全てのサーヴァントを倒して勝利した」
穂乃果「でもね、聖杯が貰える! っていうのに疲れきってたせいで寝坊しちゃって、結局貰えなかったんだ〜」
穂乃果「それで、残念だなー、悔しいなーって思ったんだけど」
穂乃果「なんとびっくり! どうしてか、穂乃果だけが「八人目」のサーヴァントとして呼び出されちゃったんだ!」
穂乃果「ともかく、そういうことで。八人目のサーヴァントとして頑張るから、よろしくね?」 全員は、凍りついたようにその場から動けなかった。
高坂穂乃果。そう名乗った少女は、軽やかに、歌うように明るく話してはいるものの、その全身から尋常ならざる圧力を放っている。
絶対強者。
ただ姿を見せただけで、彼女はこの戦場を支配していた。
穂乃果「さてと、じゃあまずは」
穂乃果「勝つために、サーヴァントの数を減らさなきゃね?」
歩夢・彼方「「っ!」」
穂乃果「えーっと、さっきエマさんとかいう人を倒したし、他の三人はもう倒されていて……」
彼方「な」
彼方「……い、ま。……エマって、言ったの?」 穂乃果「うん。色々探してたら、マンションを守ってる可愛い女の子がいてね。サーヴァントだって言うから……えっと、マスターの子は綾小路さん、だっけ?」
穂乃果「二人とも、私を倒そうと向かってきたよ」
穂乃果「────────だから、倒した」
遥「そん、な……!?」
彼方「……う、うそ……エマちゃんが、エマちゃんと姫乃ちゃんは……私たちと一緒に戦うって……私たちのお家を、留守のあいだ守ってくれて……ずっと、」
穂乃果「あれはあなた達のお家? そっか、だからここは通さない〜って、門番みたいに待ち構えてたんだ。クラスは……「アサシン」かな?」
歩夢「そうか……エマさんはあそこで、彼方さん達を守っていたんだ! それなのに、あのエマさんを……そんなに、あっさり……!?」
侑「それに、「クラス」って……!?」
穂乃果「クラスを知らないの? もー、それくらい知っとかないとダメだよ〜? 穂乃果も、海未ちゃんに言われて頑張って勉強したんだから」
彼方「ッ!!!」
彼方「あなた……許さないっ!!」キュオオオオオッ! 魔力が爆ぜる。無形の力が嵐のようにうねり、歩夢に放ったもの、その何倍にも膨れ上がった閃光が、少女を消し去らんと放たれる。
しかし、それは。
穂乃果「──────────『王の財宝』」パチン
穂乃果が指を鳴らした瞬間、木端のように吹き散らされた。
全員が目を疑う。
少女の背後に無数の武器が展開され、それらが一斉に、機関銃じみた勢いで乱射されたのだ。
──────ドンドンドンドンドンドンッッッ‼‼
彼方「な──────っ、"あるごす"!」
閃光を食い破り、殺到する凶器の雨。
それらを止めんと、彼方は詠唱を口ずさみ、宙空に透明の盾を展開する。
穂乃果「…………キャスターじゃ、穂乃果には勝てないよ」 しかしそれは、たったの一撃すら止めることが出来なかった。
弾丸のように放たれた槍は盾を貫き、輝く破片を撒き散らしながら、彼方の胸に突き刺さる。
彼方「が、つ゛っ!?」
遥「おっ……お姉ちゃんっっ!!!」
容赦はなかった。
胸を貫いた槍は始まりに過ぎず、射出された何十もの武器凶器が、彼方の身体を串刺しにした。
歩夢「ぁ…………、ぁ」
剣が、槍が、矢が、斧が、絶え間なく降り注ぐありとあらゆる武器の雨が、彼方の身体を切り裂いていく。
声など出なかった。
ただ、あの「処刑」が未だ自分に向けられていないという事実に胸を撫で下ろすことしか、歩夢と侑には許されていなかった。 遥「おねがい……やめてぇっ! もう……やめてえーーっ!!」バッ
侑「あ、ま、待っ……!!」
……ズドン‼ ズバババババッ‼‼ ドガガガァッ‼‼
無意識に体が動いたのか。今なお切り刻まれ続ける姉を庇って遥が飛び出していき、呆気なく、放たれる刃の豪雨に粉砕された。
穂乃果「……マスターのくせにサーヴァントを庇おうとするのは、あの二人と同じだね。あなたまで倒されることはなかったのに」
攻撃が止まる。
百を超える武器の数々を叩き込まれた地面は粉々に砕け散り、破壊に破壊を重ねた惨状を呈し。
その上に、姉妹二人はぴくりとも動かず、重なるように倒れ伏していた。
侑「…………………………あ、あああ……!」 穂乃果「開いた砲門は12丁。使った武器は132」
穂乃果「呆気ないなぁ。音ノ木坂の戦いは、これよりもーっと激しかったんだよ? せめて500……ううん、300くらいは使いたいな」
歩夢「…………………!!」ブルリ
穂乃果「そうだ。あなたは、どれくらい────」
穂乃果「!」グゥ
穂乃果「……うぅ、久しぶりに戦ったらお腹減ってきちゃった。こんな時間に食べたら海未ちゃんに怒られるかなぁ……ま、いっか!」
侑「……はぁ、はっ……はっ……」ドッドッ
穂乃果「ごめんねえ、二人とも! ちょっとお腹減っちゃったから、また今度にする」
穂乃果「そこのあなた、名前、なんていうの?」 侑「……た、かさき……高咲、侑…………」
穂乃果「ふぅん。スクールアイドルじゃない、よね。それなのに、何故かスクールアイドルみたいにキラキラしてる」
穂乃果「その目に、何かを秘めている」
侑「っ……はぁっ……は……はっ……」ドッドッ
穂乃果「そんなにぶるぶる怯えないでよ。これでも私、笑顔を届けるスクールアイドルなんだけどなー」
穂乃果「はぁ。だから、"これ"は嫌い」ボソッ
穂乃果「……よし! 次に会った時は、もっとあなたのことを教えてね。それじゃあ、また!」
そう言い残すと、少女は空気に溶けるようにその姿を消した。
浮かべていた笑顔とは裏腹に────大いなる破壊の痕跡だけが、その場所には残されていた。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています