せつ菜「仮面の落とし物」
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しずく「せつ菜さーん?」
せつ菜「はい!あ、しずくさん」
しずく「せつ菜さんがまだ練習から戻ってこなかったので呼びに来ました。どうしたんですか?」
せつ菜「すみません、すこし振り付けの見直しがしたくて」
しずく「そうだったんですか。ふふ、みんな待ってますよ」
せつ菜「ちょうど終わった所なので今行きます!」
しずく「分かりました。そう伝えておきますね」 せつ菜「そういえば…」
せつ菜「しずくさん、何か変わりました?」
しずく「へ?私ですか?」
せつ菜「ええ。何か前とは違うような感じが」
しずく「何か……あ、最近確かに髪が伸びたかもしれません」
せつ菜「ふふっ。いえ、見た目ではなくて中身といいますか、雰囲気がちょっと前までのしずくさんとは違うなと思いまして」 しずく「あ、実は今日果林さんにも同じことを言われたんです」
せつ菜「やっぱり!」
しずく「ふふ、なんだか成長した感じがして嬉しいです」
しずく(…前の私と違うことは自覚してる)
しずく(主役を演じたあの日以降、私は自分を曝け出せる様になれた) ───
──
─
次の日
「うーん、これはうちのじゃ無いなぁ」
菜々「そうですか…」
「服飾同好会じゃこういう仮面の衣装は扱ってないんだ。ごめんね」
菜々「いえ、ご協力ありがとうございました」
ガララ
菜々「服飾同好会でもないとなると、後は演劇部でしょうか…」テクテク
〜〜〜〜〜〜〜
数分前
菜々「では、今日の生徒会の会議は終了します。お疲れ様でした」
「「お疲れ様でした」」
菜々(さて、同好会の練習に行くとしましょう)
生徒会員「あの、会長」
菜々「はい、なんでしょう?」 生徒会員「今日クラスの子が外で落とし物を拾ったそうなんです」
菜々「落とし物?」
生徒会員「目に付ける仮面のような?物なんですけど」スッ
菜々「これは……おそらく服飾同好会か演劇部ので物でしょうか」
生徒会員「はい…あとは特撮同好会や漫画研究部とか…」
菜々「ふむ、ではこちらは私が預かっておきます。報告ありがとうございました」
生徒会員「よろしくお願いします会長」
菜々「はい。では、お疲れ様です」
生徒会員「お疲れ様でした」ペコッ
菜々(同好会に行く前に部などを回って見ましょうか)
〜〜〜〜〜〜〜
菜々「しかしこの仮面、よく見るとかっこいいですね」
テクテク 演劇部部室
ガチャ
菜々「失礼します。生徒会長の中川菜々です」
部長「ん?生徒会長?」
菜々「あの、今お時間いただいてよろしいでしょうか」
部長「はい、いいですよ」
部長「みんなーちょっと用事あるから先に外に出てて」
「「はい!」」
部長「演劇部に何か用事?」 菜々「はい。落とし物が生徒会に届いたのですが、演劇部の物かと思いまして持ってきました」
部長「うちの落とし物?」
菜々「こちらなんですが」スッ
部長「これは、仮面か…」
菜々「どうでしょうか?」
部長「……」
菜々「……」
部長「……」
菜々「あの…」 部長「……いや、これはうちのじゃないよ」
菜々「そうですか……はぁ…」
菜々(仕方ないですね、この後職員室に持っていきましょう)
部長「でも、その仮面の持ち主は知ってるよ」
菜々「えっ?」
部長「これは……しずくの仮面だよ」
菜々「桜坂さんの?」
部長「でも今日はスクールアイドルの方に行く日だからここには居ないんだ」
部長「悪いけどスクールアイドル同好会の部室まで届けてくれないかな?」 部長「私、今から走り込みしに行かなきゃいけないからさ」
菜々「はい、分かりました…」
菜々「ご協力ありがとうございました」ペコッ
部長「うん、よろしくね」
菜々「では、失礼しました」
バタン
菜々「なるほど、しずくさんの私物でしたか」
菜々「なら部室で渡すとしましょうか」 テクテク テクテク
しずく「あ、せつ菜さん」
菜々「しずくさん」
しずく「これから同好会ですか?」
菜々「そうです。しずくさんもですか?」
しずく「はい、今日は日直でしたので遅くなってしまいました」
菜々「なるほど、そうでしたか」
菜々「でしたらちょうど良かったです」
しずく「?」 菜々「しずくさんに渡す物がありまして…」
しずく「私にですか?」
菜々「これってしずくさんの物ですか?」スッ
しずく「仮面……?」
しずく「……っ!」
菜々「どうですか?」
しずく「あの…!これをどこで……?」
菜々「今日生徒会の人が落ちてたって言って持ってきてくれたんですよ」
しずく「お、落ちてた……?」 菜々「先ほど演劇部に行ったら……」
しずく「……」ポロポロ
菜々「!?」
しずく「っ……」ギュウ
菜々「えっえっ?泣いて…?」
菜々「しずくさん?ど、どうしたんですか?」アタフタ
しずく「ご、ごめん…なさい……あれ…涙が……っ…」
しずく「っ…うぅ……っ」
菜々「しずくさんここは廊下なので…こっちに!」
しずく「っ……っ…」ポロポロ 菜々(空き教室があったので入りましたが……いきなりどうしたのでしょう)
しずく「ぐすっ…うっ……」
菜々(なにか泣くほどの理由が…)
しずく「せつ菜さん…この仮面は、私の物です……」
菜々「そうでしたか、よかったです…」
しずく「うぅ……っ」
菜々「しずくさん……その仮面は…」
菜々「……」
菜々「その仮面は大切な物なんですか?」
しずく「……はい」 しずく「この仮面は……」
しずく「……私の不安…迷い…過去…葛藤…恐怖…悩みを抑え込んだ仮面なんです…」
菜々「抑え込んだ…?」
しずく「いつも心の隅にいて…いつも心の中で私に……話しかけてくれました…グスッ…」
しずく「この仮面を被って…心の中の私が……いつもいつも…訴えかけてくれました…」
菜々「……」
しずく「……けど」
しずく「私は演じることを身に付けることで……心の中の私から背を向け…距離を取り…」
しずく「心の隅に抑え込んでいました──」 ー
ーー
ーーー
幼稚園
ワイワイ
ガヤガヤ
「しずくちゃんの読んでる本おもしろくなさそー」
しずく「え、そうかな…」
「しずくちゃんの本なのに絵がないんだよ」
「えー、変なのー」
しずく「……っ」
「あ、みのちゃん、この間わたしが貸してあげたの読んだー?」
「読んだよ!すごい可愛かった!」
ワイワイ しずく「……」ペラッ
しずく「……」
しずく「おもしろいんだけどなぁ…」ボソ
母「しずく、今日はお買い物手伝ってくれたから本買ってあげようか?」
しずく「……」
しずく「ううん、いらない…」
母「え?いいの?」 小学校
しずく「ということで、これが私の好きな映画です」
先生「桜坂さんは昔の映画が好きなのねぇ」
しずく「はい!」
「しずくちゃんの発表なんか難しかった」
「私この映画知らなーい」
「面白くなさそー」
しずく「…」
先生「こーら!桜坂さんがせっかく発表してくれたのにいけませんよ!」
「はーい」 先生「桜坂さん、戻っていいわよ」
しずく「あ、はい」
先生「じゃあー、次は加藤さんの発表を…」
しずく「……」
しずく(おかしいのかな……私の好きなもの……確かにみんなと比べると古いのかもしれないけれど)
しずく(発表してた時、みんなつまらなそうな顔してた……気がする…)
しずく(私の大好きなものだと…みんなから変な子って思われる……思われたくない…)
しずく(私、変なのかな…) 中学校
しずく「演劇部に入りました。1年の桜坂しずくです!よろしくお願いします!」
パチパチパチパチ
「よろしくー」
「よろしくねー」
「頑張ろうね!」
しずく「はい!頑張ります!」
しずく(中学で演劇部に入部した)
しずく(演劇は楽しかった。違う自分を演じられて。演じてる時は自分から離れられる──楽になれた)
しずく(好きだった昔の映画や小説は心の奥にしまった。それ以外に周りと違うものは全てしまいこんだ) しずく(もう好きなもので不安を抱えたくない、もう怯えることもない)
しずく(これが私なんだ)
『怖いの?本当の自分を見せることが』
しずく「っ!?」
『これからも怖くなったら心の奥にしまうの?』
しずく「桜坂しずくを忘れてしまえばいい、隠してしまえばいい……」
しずく「そうしたら迷いがあったって楽になれる」 『……』
しずく「……」
しずく(演じることを始めてから、仮面を被った私が現れるようになった)
しずく(仮面の私の姿をしたこの子は、きっと私の心の奥、本心、もう1人の私)
しずく(そんなもう1人の私に私は向き合うことはきっと来ない……) 虹ヶ咲学園
しずく(高校生になってからスクールアイドルを始めた。理由は演劇とスクールアイドルが似ていると思ったから)
しずく(ステージの上で理想のスクールアイドルになりきることは演劇と通ずると感じた)
『まだ、自分を隠し通すつもり?自分を偽ってる人が誰かの心に届けられるわけがない』
しずく「……」
『スクールアイドルも演劇だって、自分を見せることは同じことじゃない?』
しずく「同じことだよ。これまで演劇でそうやって来れたんだからスクールアイドルだって同じことだよ」
『それは自分を見せてると言わないでしょう』
しずく「……自分を見せる必要なんてないよ…」 しずく「こ、降板ですか!?」
部長「今回の役はしずくとはちょっと違ったみたいだから」
しずく「駄目なところがあれば言ってください。私、頑張りますから!」
部長「…この役は自分を曝け出す感じで演じて欲しかったの」
しずく「曝け出す…?」
部長「役柄も歌手って設定だし、スクールアイドルのしずくなら適任かなって思ったんだけど」
しずく「……っ」
しずく「もう一度チャンスをください!」 しずく(曝け出す…?どうして?演じてるだけじゃだめなの?)
しずく(私は……演じてる時の私は……)
しずく(……空っぽ?)
しずく(表現なんて出来るわけない。本当の私の本心なんて……)
『やっぱり怖いんだ。本当の自分を見せることが』
しずく「だって!」
『嫌われたくない。そうでしょう?自分を曝け出さなきゃ…』
『受け入れて…』
しずく「……」 しずく(いつからいたのかな、もう1人の私……中学の時演劇部に入ってから?…違う)
しずく(周りの子達に変だと思われてると感じてしまった時から?…分からない)
しずく(ずっと前からいたと思う。ずっと背を向けていた。向き合えなかった)
しずく(本当はあなたが私で、私は私じゃないんじゃないのかって)
しずく(…でも、桜坂しずくが自分を曝け出す為にはあなたが必要だから)
しずく(だから私は怖くても、嫌われようともあなたと向き合わなくちゃいけないんだ)
しずく(舞台は必ず成功させたいから、そしてこれからも) しずく「今度の舞台のお話、なんだか私達と似てるね」
『……』
しずく「自分を偽っていた女の子がみんなの前で自分を曝け出して歌うんだって」
『……』
しずく「怖く…ないのかな……」
『…私は怖くない』
しずく「……わかった」 「そんなに怖いの?本当の自分を見せることが」
『そんなに怖いの?本当の自分を見せることが』
しずく「……」
「待って」
「私それでも歌いたいよ!」
しずく「ずっとあなたから目を逸らしていた。でも歌いたいその気持ちだけはきっと真実!」
しずく「今までごめんなさい!これが私!逃れようの無い本当の私!」
「嫌われるかもしれない」
『嫌われるかもしれない』 しずく「でも好きだって言ってくれる人もいた」
『……!』
「「だからこの小さなステージで、もう一度始めよう!」」
しずく(この公演が終わった後、仮面を付けたもう1人の私の姿は、さっぱり姿を現さなくなっていた)
しずく(同時に空っぽだった私もいなくなっていた)
しずく(そっか、私は本当の私になれたんだ……) ーーー
ーー
ー
しずく「ありがとう…ぐすっ…あなたが居てくれたから私はここにいるよ……っ」
しずく「辛かったね…苦しかったね…っ…怖かったこと全部閉じ込めて…ごめんね…」ギュウ
菜々「……」
しずく「…うぅっ……っ」
菜々「……眼鏡を取るとまるで違う景色が視界に飛び込んできます」
カチャ
せつ菜「優木せつ菜が、こうして活動出来るのはせつ菜の力だけじゃありません」 せつ菜「中川菜々が守ってきたからです。生徒会で、家で毎日」
せつ菜「放課後の大好きなスクールアイドルの為にいつも頑張ったからです」
せつ菜「しずくさんは違いますか?」
しずく「私は…」
せつ菜「今のしずくさんがいるのは、その仮面を付けていたしずくさんがずっと大好きなものを守り続けていたからではないでしょうか」
せつ菜「…大好きは、真っ直ぐでピュアで、切ないくらい愛おしい……。彼女は辛くも苦しくもない筈ですよ」
せつ菜「だって、いつか向き合ってくれると信じて待っていたんですから。そうでしょう?」
しずく「……っ」 しずく「信じてくれていた……あんな私を……」
せつ菜「きっと、そうだと思いますよ」
しずく「そっか……あなただけは変わらないでいてくれて……ありがとう」ギュウ
『これだけは忘れないで、あなたは桜坂しずく。どんな日もいかなる時も桜坂しずく』
しずく「…!」
『進むべき道を今度はあなたが照らして歩んで行くと信じてるから』
しずく「あなた…仮面が…」 『……もう、その仮面はいらないの。あなたはもう隠す必要なんてないからね』
しずく「……っ」
しずく「私が一緒に持って行くから!あなたが大事に守っていたものを!もう偽ったりなんかしない!」
しずく「訴え続けてくれたことも!待っていてくれたことも!忘れない!」
しずく「約束するから!私だけの想いを失わないようにするって!あなたが託してくれた想いをこの先も絶対に離さないってことを!!」
『ありがとう』ニコッ
しずく「……」
菜々「部室に行くとしましょうか」
菜々「皆さんが待っていますよ」
しずく「はい」 面白かった
この二人やってることは似てるけど
結果は自分を解放するか抑え込むかで変わってきてるのが対照的 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています