歩夢「死に至る病」
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侑「はぁ…はぁ…」
歩夢「……」
侑「…はぁ…わ…私…」
歩夢「…あ…」
侑「あ、歩夢…歩夢…私…」
歩夢「ゆ…侑ちゃん…」
侑「私…私…!」 人を殺した。
知らない男だ。
顔も名前も、それまで生きてきた人生の有り様も。
だけど、いや、だからこそ殺せたのだ。
侑「歩夢、歩夢、歩夢…大丈夫?ねえ…」
歩夢「わ、わた…私は…だ、大丈夫…」 侑「よかった…歩夢…歩夢…」
歩夢「…侑ちゃん…」
侑「…はぁ…はぁ…」
歩夢「……そ…」
歩夢「…その人…」
侑「……」 歩夢「……血が…ねえ、ゆ、侑ちゃん…」
歩夢「その人…血が、…すごいよ…」
歩夢「…血が…」
歩夢「……救急車…呼ばなきゃ」
歩夢「……ねえ…侑ちゃん…」 侑「……歩夢」
歩夢「……」
侑「行こう…早く」
歩夢「何言ってるの…ダメだよ…だって」
侑「行くよ、歩夢、ほら」
歩夢「ダメだよ…ダメ…その人、し、死んじゃうよ」
侑「もう死んでるよ!」
歩夢「……」
侑「……行こう…早く…は、…離れなきゃ…」 歩夢「……」
侑「……」
歩夢「……」
侑「……」
歩夢「…私、」
侑「歩夢は悪くない」
歩夢「……」
侑「…私が…やったんだから」 歩夢「…で、でもっ!侑ちゃんは私を…!」
侑「歩夢は関係ない」
歩夢「……え?」
侑「…わ、私が…勝手にやったんだよ。だから…歩夢は関係ない。何も知らない」
歩夢「…どういう意味?」
侑「……」 侑「……」
歩夢「……待ってよ、」
侑「私、…自首する」
歩夢「待って、待ってよ!侑ちゃん!」
侑「だって他にどうしようもないじゃん!」
歩夢「お願い、だって、そんな…嫌だよ!私のせいで…私のせいなのに!」
侑「歩夢は関係ないんだってば!私が勝手にやっただけなんだよ!」 歩夢「わ…私も行く…侑ちゃんと一緒に」
侑「……お願いだよ、やめてよ…それじゃ…意味ないんだよ…」
歩夢「だって、わた、私のせいで…侑ちゃ…侑ちゃんがぁ…ぐすっ…」
侑「…泣かないでよ…歩夢…」
歩夢「…う…うぅ…ひぐっ…うぇぇ…」
侑「歩夢、泣かないで…ねぇ…」 その夜、私と侑ちゃんは眠れないまま、ふたりでずっと一緒にいました。
私は泣きじゃくって、出ていこうとする侑ちゃんに必死にすがりついて、謝って…侑ちゃんはそんな私のそばにいてくれました。
やがて夜が明けて、学校に行かなくちゃいけなくなりました。
私たちは連れ立って家を出たけど、とても普通に登校できる気はしません。
結局、ありったけの貯金を下ろして安いホテルに駆け込んで、カーテンの閉まった暗い部屋で、ずっと過ごすことにしました。 親には友達の家に泊まると嘘をつきました。
「何日持つかな…」と侑ちゃんが零します。
それは嘘のことなのか、お金のことなのか、それとも…私は何も訊けなくて、ただ侑ちゃんの腕を強く抱くことしかできませんでした。
私たちの人生でもっとも長くて、恐ろしくて、無駄で、憂鬱で、退屈で、近くて遠くて…
もっとも刺激的な三日間が、そうして過ぎていきました。 <死に至る病><わたしにとっての真理>……僕らをひとことで殺す文句だ 侑「明日、学校に行かない?」
歩夢「…え?」
侑「こんな生活、いつまで続けられるかわからないし…嘘ももう限界だと思うんだ」
歩夢「…で、でも…」
侑「三日!三日もなんともなかったんだよ?もう大丈夫なんじゃないかなぁ」
歩夢「……」 侑「ニュースは見てないけど…あんなの、たいして話題にもならないよ」
歩夢「…そうかな…」
侑「ほら、深夜だけど買い物だってできてる。これ食べなよ、歩夢。おいしいよ」
歩夢「…侑ちゃんこそ、全然食べてないよね…?」
侑「えぇ?そんなことないよ」
歩夢「……」
侑「…あぁ…うん…そうかも…そうだね」 侑「……」
歩夢「……」
侑「…正直に言うね。…はぁ…限界なのは、私、なんだ。怖くて…怖いんだよ…」
侑「ぜんぶバレてるんじゃないかって…みんなぜんぶ知ってる…親も、学校のみんなも…コンビニの店員も。…バカみたいでしょ」
侑「みんなに見られてる気がするんだ。そんなわけないのにね。バレたらそこで捕まるんだから。でも、頭ではわかってても、そう思えないんだよ」
侑「…くっ…く、狂っちゃいそうになるんだ…怖…くて…私…」 侑「…歩夢、歩夢…ごめんね、歩夢…」
歩夢「なんで…謝らないでよ…ぐすっ…」
侑「私が、私の…せいで…守ってあげられなくて…」
歩夢「そんなことないよ、守って…くれたんだよ…」
侑「…歩夢…」 侑「…だから…楽になりたいんだ…」
侑「明日、学校に行って…なにもなかったら…きっと、それで安心できる…」
侑「ダメだったら…ダメだったで、…はは…しょうがないもんね」
歩夢「…侑ちゃん…」
侑「……許してくれる?」
歩夢「……うん…わかった…」 歩夢「…でも、約束して」
侑「…なに?」
歩夢「たとえどうなっても、私も…侑ちゃんと一緒にいる」
侑「……それ、約束っていうか…宣言だよ」
歩夢「…そうだね。これは宣言。私が侑ちゃんにする約束」
侑「………わかった。…ありがとう、歩夢」
歩夢「…大丈夫。…知ってるのは、私たちだけだよ」 そう、私たちふたりだけ。
ふたりだけの秘密、内緒の約束。
ああ、いつ以来かな、なんて考えてしまう、のんきな私がどこかにいます。
私だけ、私だけが、侑ちゃんの秘密を知っているんです。
この世界で、ただひとり、私だけが。 その翌日、数日ぶりの私たちの登校日は、なんともあっけなく終わりました。
何事もなく、変わりなく。
先生たちは疑うそぶりもなく「体調はもういいのか?」なんて言ってくれました。
友達や同好会のみんなもだいたい似たようなもので、不思議に思う様子もありません。
「普段からくっついてるから一緒に風邪引いちゃうんですよ〜?」なんてからかわれたくらい。
この三日間のことなど、私たち以外に誰も知らないかのように。 いえ、本当に誰も知らないのでしょう。
私たち以外の誰もにとって、何も起きておらず、隠すべき真実も、暴くべき暗闇も、告白すべき恐怖もないのでしょう。
私たちはそれでも震える手を繋いで帰り、気がつけばホテルではなく、自分たちの家の前にいました。
少しのあいだふたりで見つめ合って、黙ってお互いをぎゅっと抱いて、しばらくしてから、ほっとしたように笑いました。
ずいぶん久しぶりに、きちんと笑えたような気がしました。 その夜、三日ぶりにお母さんの料理を食べました。
安心して泣いてしまうかもと思っていたけど、むしろあまり実感のないような心地がして、いつもと変わらないふうに過ごしていました。
お父さんがニュースを点けたときにはびくっとしたけど、私たちのことはおろか、そんな事件は一言も出てきません。
私の中で、急にあの出来事が現実味を失っていくのがわかりました。
この三日間、長い夢を見ていたような、そんな気持ちがしています。 そうして私たちの日常が戻って、さらに三日が経ちました。 テロリロリン テロリロリン
テロリロリン テロリロリン
歩夢(侑ちゃん、出ないな…寝坊かな)
ピンポーン
歩夢「おはようございます、上原です。侑ちゃんは…」
歩夢「え、そうなんですか?…わかりました、ありがとうございます。はい、行ってきます」 あゆむ『おはよう』
あゆむ『体調大丈夫?』
あゆむ『もうお昼だよ〜』
あゆむ『調子はどう?』
あゆむ『ゆうちゃん?』
侑『大丈夫』
侑『ごめんね』 あゆむ『今日もまだ具合悪いの?』
あゆむ『お薬は飲んでる?』
あゆむ(不在着信)
あゆむ(不在着信)
侑『私は大丈夫』 歩夢「お邪魔します。…それで、侑ちゃんは」
歩夢「…お薬とかは…?」
歩夢「…え…そうなんですか」
歩夢「わかりました…話してみますね」
歩夢「はい…い、いえ、そんな!」
歩夢「大事な幼馴染みですから…」 歩夢「…侑ちゃん?大丈夫?」
歩夢「…入れてくれない?…」
ガチャ
歩夢「あ、侑ちゃ…ん……」
侑「…入っていいよ」
歩夢「…………」
侑「…歩夢?」
歩夢「……うん…ありがとう」 侑「……」
歩夢「…何も食べてないってほんと?」
侑「…まあ…うん」
歩夢「これ、おばさんが…」
侑「…いらない…」
歩夢「食べたほうがいいよ、そんな…」
侑「……」
歩夢「…侑ちゃん…」 侑「……ごめんね、迷惑かけて」
歩夢「迷惑なんて思ってないよ…」
侑「……」
歩夢「…熱は何度くらい?…お薬、ちゃんと飲まなきゃダメだよ」
侑「……」
歩夢「……病気じゃ、ないの…?」
侑「……」
歩夢「……やっぱり、あのこと
侑「やめて!!」
歩夢「…っ」 侑「お願い、…やめて」
歩夢「…うん、ごめん」
侑「……歩夢」
歩夢「なに?」
侑「…わ、…わたし…」
侑「…もう、だめかも…」
歩夢「……え?」
侑「怖いの!…怖いんだよ、怖くて怖くて怖くて怖くてどうにかなりそうなの…!もうやだ…!やだよ…!」
歩夢「ゆ、侑ちゃん…大丈夫だよ、大丈夫…!」 侑「…歩夢…歩夢…助けてよ、歩夢…!私…こ、こっ、怖いよ…!」
歩夢「……」
侑「…こんな…もう…いやだよ…歩夢…」
歩夢「……侑ちゃん、」
歩夢「…逃げようか。また…ふたりだけで」 侑ちゃんが食べたいものがあると言うから買ってきてほしいと伝えたら、おばさんは慌てて出かけていきました。
そのあいだに、私たちは家を飛び出しました。
大きなかばんに詰め込めるだけ詰めて、前よりいくらか周到に、前よりずっとあてどなく。
そもそもどこへ?
逃げるって、何から?
いつまで?
先のことは何もわからなかったけど、あんなに弱ってしまった侑ちゃんを放っておくことなんてできませんでした。 本当なら電車に飛び乗ってどこかへ行ってしまいたかったけど、侑ちゃんにはそんな気力も体力もなさそうでした。
念のため前とは違うホテルを取って、とにかくそこで一泊することにします。
家を出てからホテルの部屋に入るまで、侑ちゃんはずっと小さくなって、私にしがみついていました。
今度は私が守ってあげるんだ。
努めて純粋にそう思おうとしていました。 侑ちゃんはまるで子供のようで、お手洗いにしてもお風呂にしても私に一緒にいてほしいとねだりました。
「もう大丈夫だよ」と言っても聞かず、心底不安そうに「怖い」と訴えます。
結局、その日は一時も離れることなくふたりで眠りました。
私は最初の逃避行を思い出しながら、不思議と以前より前向きな気持ちでいました。
いつかなんとかなるはず。
いつか、ふたりで幸せになれるはず。 侑「…歩夢…」
歩夢「どうしたの?」
侑「…………」
侑「…………」
侑「…………」
歩夢「侑ちゃん?」
侑「…ごめんね…」
歩夢「…なんにも謝らなくていいんだよ」 二度目の脱出から三日。
私たちが人を殺してから、九日が経ちました。 バタン
歩夢「…あれ、侑ちゃん?」
歩夢「侑ちゃん?」
歩夢(…部屋の鍵はかかってるから、どこかへ行っちゃってはいない…)
歩夢「侑ちゃーん。お風呂場にいるの?」
歩夢「あ、侑ちゃ
侑「ごめんね」 二度目の逃走から三日。
私が人を殺してから、九日が経った。 侑「はぁ…はぁ…」
歩夢「……」
侑「…はぁ…わ…私…」
歩夢「…あ…」
侑「あ、歩夢…歩夢…私…」
歩夢「ゆ…侑ちゃん…」
侑「私…私…!」 人を殺した。
よく知った女の子だ。
顔も名前も、それまで生きてきた人生の有り様も。
何が好きで、何が嫌いで、ふだん何を考えていて。
私にとってどれだけ大切で、私をどれだけ大切に思ってくれているか。
この世界で一番、いちばん、私がよくわかっている。
だけど、殺してしまった。 侑「…ごめんね…ごめん…許して…」
侑「…わた、私…歩夢…歩夢…」
侑「…あ…あああ……!」
怖かった。
誰も彼もが私の犯した罪を知っている気がした。
私を注意深く観察し、同じようにして殺してやろうと思っている気がした。
安心が欲しかった。
そんなものあるわけがないと知っていた。
知っていたけど、頭ではわかっていても、そう思えなかった。
私に取り憑いたその妄想は、私を支配し、蝕んだ。 この世界でいちばん私のことをわかってくれている人。
だけど、いや、だからこそ、殺してしまった。
ひょっとしたら、私の秘密を知っているのはこの世界でただひとり、彼女だけで。
彼女さえいなくなれば、それで私は安心できるのではないかと。
もうこんな恐怖からは解放されるのではないかと。
そんな、妄想、妄想だ!そんなまったく根拠のない幻想が、私をとらえてしまった。 眼下をゆっくりと侵食する血溜まりと、
私が殺した、私の世界でいちばん大切な人とを眺めながら、
ああ、取り返しのつかないことをしたと間抜けな思考を巡らせた。
呼吸がうまくできず、涙が勝手に頬を流れていく。
とどまるところを知らず、溢れ、あふれて。
このまますべてを拭い去れればいいのにと思う。
叶うことがないと知っている。
この後悔も、恐怖も、絶望も。
けっして埋まることのない喪失も。
もし私がこの先も、恥知らずにも、私を生きてゆくのなら、
この病は最期まで、私を犯し続けるだろう。
「死に至る病」 おわり え? 終わり?
細部はどうでも良くてこのオチ書きたかったから書いたの? しずく「おふたりとも!完璧です!お疲れ様でした!」
歩夢「おつかれさま…」
侑「しずくちゃんお疲れ様!いや〜、演劇ってやっぱり大変だね」
しずく「いやいや、素晴らしい演技でしたよ!どうですか、先輩方も兼部とか…」
歩夢「ううん、遠慮しておくね…」グス
しずく「な、泣いてます?」
歩夢「だ…だってぇ〜!」
侑「歩夢!大丈夫だよ!お芝居だから!今日はお泊りしようね!」グスッ
歩夢「うん、うん…」グスグス
しずく「あはは…」
おわり
耐え難い鬱ssだ お前誰だこんなものをお前 なるほど二段構えで座長オチかぁ
それなら二人以外の登場人物が出てきてないのも納得だしすっきりするかも
乙でした こう言うリアルな錯乱と葛藤、ストレスみたいなの書いてるやつ好き 最初の殺人は歩夢を暴漢から守る為だったのかなと思うけど
歩夢を殺す動機がよく分からないな
統合失調症みたいな感じ? 今まで見たおじ埋めで一番好きかもしれない
あと座長の存在はありがたいね本当に @cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ……
@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ♡ >>74
侑ちゃんは嫌でも一生歩夢のことを忘れられない、つまりゆうぽむなんだよね@ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています