上京した津島善子ちゃんの帰省中にばったり遭遇した俺くん!2人の会話とその"結末"に涙が止まらない…
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
沼津駅を降りて、バス乗り場へ向かう。
俺くん「……」
バス待ちの老人たちの列に紛れながら、携帯を取り出した。
携帯の画面は暗く何も見えない。
太陽の光が反射しているのだ。
俺くん「……」
恨めしい空を見上げれば、真っ昼間の太陽光が網膜を焼き付ける。
直視できずに、すぐに目を背けた。
俺くん「……」
灰色の空。
灰色の空だというのに。
昔見た空は、もっと青く鮮やかだったのだろうか。
いつからか見上げることのなくなった空には、くすんだ灰色がどこまでも続いていた。 俺くん「……」
俺くん「!」
俺くん「……」
改札から、地方都市には似つかわしくない、お洒落で気品に溢れた女性がすたすたと歩いてきた。
悪い癖だ。
似ている髪型、小さな顔、細身でスラっとした体型の女を見ると、いつもあの娘を思い出してしまう。
通学先のど田舎キャンパスの駅でも、いるはずのない普段の帰りのバス停でも、……高校の制服を着ていたとしても。
俺くん「……」
いるわけがない。いつもならそうやってすぐに打ち切っていた想いのはずだった。
あの娘かもしれない。
女が近くに歩いてくるにつれ、確信へと変わる。間違いない。
俺くん「……」
俺くん「……」
俺くん「津島……?」
善子「?」
善子「あ」 善子「久しぶり〜!」
善子「俺くんじゃん〜! え〜、一瞬誰かわからなかった!」
俺くん「お、おう」
俺は……すぐにわかったよ。
髪の色や髪型が少し変わっていても、すぐにお前だってわかる。
忘れるわけがない。
善子「え〜、元気にしてた?」 俺くん「まあ、ぼちぼちかな……」
善子「大学生? だよね? どこ行ってるんだっけ」
俺くん「○○大」
善子「ふーん、A子やB太も行ってたよね」
俺「ああ、うん……会ったことほとんどないけど」
○○大。
ど田舎にある、しょうもない単科大学だ。
学力もなければ努力もしなかった、どうしようもなくダメなやつばかりが進学するところさ。
入ってからも勉強してるやつなんかいない。毎晩遊び回ってるやつか暴れまわってるやつか、それとも何点差でどこぞの公立大学に落ちただとかマウントを取り合ってるやつ。
そんな連中ばかりが通う大学さ。 俺「そっちはどう?」
俺「つか、今日とかさ。 明日とか、授業ないの?」
善子「まとまった休みがあってね〜、ちょっとだけだけど、試験明けに休みあるの」
善子「旅行行ってもよかったんだけど……、ちょっと実家に用があって」
俺「そっか」
津島は、東京の私大に進学した。
有名な私大だ。俺なんかよりずっと良い。
高校の頃とか、俺と揃って赤点とったりしてたのにな。
勉強頑張ってたもんな。
念願叶って東京で一人暮らし。毎日充実してるみたいだ。 俺「東京、楽しそうだな」
善子「めっちゃ楽しいよ、もう毎日遊んでる」
善子「今日もぶっちゃけ寝てないし」
俺「徹夜か、何してたの」
善子「ん、友達と飲んでた」
俺「……」
"友達"か。
男か女かわからないけどさ。羨ましいな。お前と夜通しで遊べる友達が。
俺「そんなんで、授業ちゃんと出てるのか?」
善子「私授業はちゃんと出てるよ、秋学期とかたぶんそれぞれ一回くらいしかさぼってないし」
そういえば、俺は講義をサボったことない。
だけど講義室では、授業も聞かないで、ずっと携帯をいじってばかりいる。 俺「偉いな〜w 俺は授業ほとんどブッチして……」
善子「バス」
俺「?」
善子「バス、行っちゃうけどいいの?」
俺「あ……」
忘れていた。
ここはバス停で、俺はバスを待っていたんだ。
そしていつの間にかバスは真横に停車していて、列の老人たちは迷惑そうに俺を避けてバスに乗り込んでいった。
俺「……」
俺「まあいいや」
善子「えっ?」
俺は少し浮かれていたんだろう。
退屈と後悔で埋もれてしまった日常。
そこから俺を解き放ってくれる、ただ一つの存在。
こんな機会を俺は、ずっと待ち望んでいたんだ。
俺「その……せっかくだし、もう少し話さないか?」
善子「え……まあ、私は別にいいけど」
俺は浮かれている。
俺が○大だということは、すでに話したことがあるはずだ。
俺は津島のことが好きなのだ。
高1で初めて会ったそのときから、今に至るまで5年近く、俺はずっと彼女に恋い焦がれているのだ。
そしてその気持ちは薄まるどころか、日に日に増していくばかりだった。 俺と津島は、ゲームを通して仲良くなった。
高校一年生の頃、駅近くのゲームセンターで津島をよく見かけた。
席がたまたま隣になり、意を決して話しかけてみた高校二年生の頃、筐体だったり家庭用だったりソシャゲなどなど、ゲームの話をよくするようになった。
三年生ではクラスが離れてしまったが、その代わりSNSで繋がるようになった。
そのSNSを利用して、オンラインで一緒に遊んだこともある。
彼女のそのアカウント(高校用らしい)は、今ではもうほとんど動いていない。
俺「……の新譜がさァ! ……の新イベがクソでさァ!」ペラペラ
善子「……」
善子「あ、ごめん……聞いてなかった」
俺「……」
早口でまくし立てる俺の横を、津島は携帯の画面を眺めながら歩く。 善子「てかこれどこ向かって歩いてんの?」
俺「え? ゲーセン……とか」
善子「えっ……そ、そうなんだ」
俺「その、嫌だったら他のとこにするけど」
善子「や、嫌ってわけじゃないけど……」
俺「……」
俺「あの、ほら、お前あれ上手かったじゃん」
俺「久々にやりたくね? 俺最近また練習しててさ〜でも上手くできないから津島のやってるとこ見て勉強……」
善子「あー……ごめん、ネイル割れちゃうから私やらないと思う……」
善子「てかそれならYoutube見ればいいじゃん……」
俺「……」 言われて初めて津島の指を見る。
細くて美しい指の爪は、たしかに薄い青で塗られており、指によっては模様がついていた。
俺「そ、そのネイルお洒落だね」
善子「でしょ?」
俺「なんか、大人っぽくて、……自分でやったの?」
善子「ううん、青山のねー、サロンでねー、やってもらった、5000円くらい?」
青山、サロン。東京の、なんかお洒落そうな街のなにかだ。
俺には一生縁がない。
爪に5000円。ラーメン6杯分。 俺「髪とかさ……パーマ?」
善子「これ? いや、ただ巻いてるだけだよ」
俺「? そうなんだ」
色々とわからないから、この話ではこれ以上会話を繋げられない。
女はいつお洒落を覚えるんだろう。津島だって2年前まではメイクもせず、同じ制服で毎日過ごしていたのに。
そうするのが、向こうの制服なのか?
俺「……」
なにもしなくたって、お前はそのままでも綺麗なのに。
俺「……」
……耳に穴なんて開けなくても、津島は十分可愛いのに。 そうこうしているうちに、俺と津島はゲーセンへ到着した。
大音量の店内を歩き、俺のやらないUFOキャッチャー、メダルゲームのエリアを歩く。
そして音ゲー筐体のエリア。
俺は今でも授業後によく寄る場所だ。
昔、お前を見かけた場所だ。
善子「うわなっつ〜……」
俺「津島、ここへ来ること無さそうだもんなあ」
善子「ほんと、まるまる2年ぶりかな」
善子「ゲーセン自体全然行かなくなったから」
俺「……」
善子「で、俺くん何やるの?」
俺「えっ」
善子「?」
俺「いや、何しようかな……」 善子「?」
善子「やりたいのあって来た訳じゃないの?」
善子「さっき新譜がどうとか言ってたじゃん」
俺「いや、そうなんだけど」
俺「津島やらないって言うし、俺1人でやるのもなんだかなって」
津島「いまさら……いいよ、私見てるだけでも」
津島「やりたいならやればいいじゃん」
俺「うん……」 1人虚しくプレイした数曲のリザルトはどれも散々なものだった。
俺「……」
不慣れだったのもあるが、空回りする自分と、津島への申し訳なさ、恥ずかしさでいっぱいで、何も面白くないし、いますぐに止めたい。
帰省途中に、冴えない男に出くわし。
ゲーセンまで付き合わされ。
画面を必死に叩く男を後ろからただ眺める羽目になって、津島は一体どんな気持ちなんだろうか。
俺「……」
善子「……」
津島は携帯の画面を見ていた。
たぶん今も、曲が終わったことなど、気づいていない。 俺「……どうかな」
津島「ん、おつかれ。 いいんじゃない?」
俺「なんか、こうした方がいいとか」
津島「やー特に。 それにもう、私より俺くんの方が上手いでしょ」
俺「……」
津島「ん、 もういいの?」
俺「うん……もういいわ、今日は調子出ない日だ」
津島「そ」 善子「他のはもうやんなくていいの?」
俺「うん……もともと今日は寄る予定なかったし」
善子「あ〜そう……なんか、ごめんね」
俺「いや……」
俺「……」
俺「津島はさ……最近ゲームとかもう、やんないの?」
善子「家でならたまにやるけど……」
善子「それも高校の時みたいに、ずっとゲーム! ってわけじゃないからさ」 俺「じゃあさ、普段何してるの」
善子「何って……別に俺くんと変わんないと思うけど」
善子「大学行って……サークル行って……バイト行って……」
善子「友達と飲みに行ったり……遊びに行ったり……」
俺「……」 普通の善子になったらただの顔が良いだけの女の子だな ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています