果南「寒いのも悪くない」
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鞠莉が留学して早いもので一年と少しが経った
季節はもう12月に差し掛かろうとしている
家業のダイビングショップもこの季節は客足も少なく、私は暇を持て余すことが多い
なので、冬はあまり好きじゃない、なにより寒いし
放課後になっても何となく帰る気がしなくて、頬杖を付きながら窓の外を眺めていたら教室の扉が開いてーーー ダイヤ「あら…果南さん?」
果南「ん?あぁ、ダイヤか」
ダイヤ「まだ残っていらしたんですのね」
果南「まぁね、ダイヤは生徒会?」
ダイヤ「えぇ、まぁ」
果南「お疲れ様、生徒会長も大変だね」
ダイヤ「他の役員は部活で忙しいですからね……でもやりがいもありますのよ?」 果南「やりがいかぁ…」
ダイヤ「果南さんも入ってみますか?生徒会」
果南「うーん…やめとく、私は動いてるほうが好きだし」
ダイヤ「ふふっ…その割には珍しく大人しいようですけれど」
果南「ムッ…珍しくって、私だって物思いに耽ることくらいあるよ」
ダイヤ「はいはい、すみません」クスクス
果南「もぅ…」 ダイヤ「ところで…こんな時間まで教室で何をしていたんですか?」
果南「別に…家に帰っても暇だし、外寒いし、帰るの面倒くさいなって思ってただけだよ」
ダイヤ「もうすぐ最終下校時刻ですわよ?」
果南「えー、もうそんな時間かぁ、帰る気起きないなぁ」
ダイヤ「では…残って勉強でもしますか?夜は真っ暗になりますけど…」クスッ
果南「そ、そんなに長くいるわけ無いでしょ!もー!」 なんて、こうやって話をするのも久しぶりな気がする。
ダイヤはこの秋から生徒会長になり、何かと忙しくなってしまった上、私自身も…
ダイヤ「最近…よく一年の子と遊んでいることが多いですね」
果南「あの二人も幼馴染だからね、特に片方は受験で頑張った分の反動がすごいんだよ」
果南「今度ダイヤにも紹介するね」
ダイヤ「落第など無いとは思いますが…気をつけさせてくださいね」
果南「ははっ、生徒会長にマークされちゃった」
ダイヤ「果南さんもですわよ?」
果南「うっ…が、頑張ります…」 そう、千歌や曜が浦女に入学してからは、二人に連れ回されることが増えたからだ
疎遠…というほどではないが、明らかにダイヤ話す機会は減ってしまっていることに、寂しさは感じていた
果南「ところで、今日はもう帰るの?」
ダイヤ「ええ、根を詰めすぎるのも良くないですからね…外も暗くなるのが早くなってきましたし」
チラッと時計を見てみると、もう5時を回っていた、外は夕日が沈み始めている
果南「私も帰ろうかな…」
ダイヤ「では、行きましょうか」
果南「うん」スクッ 軽く伸びをしてダイヤと共に教室の外へ出る、教室の外に一歩出るとすでに肌寒さを感じる
ダイヤ「こうして一緒に帰るのも久しぶりですわね」
果南「ふふっ、どうせなら毎日一緒に帰ってあげようか?」
ダイヤ「遠慮しておきますわ…私は大抵帰りが遅くなりますし」
果南「そっか」
果南(別にいいんだけどなぁ)
ダイヤ「それに…後輩の二人にも申し訳ないでしょう?」
果南「どうせあの二人は私がいなくても元気に遊んでるよ」
果南「わざわざ一緒に帰らなくても別にいつでも会えるしね」
ダイヤ「そうですか」クスクス そんな他愛もない話をしていると、あっという間に玄関についてしまった、外はすでに冬のように寒く、防寒着を持ってきていない私は身震いする
果南「うぅ…寒い…」
ダイヤ「もぅ…何で対策をしてこないんですか」
果南「朝は暖かったから…大丈夫かなって」ブルッ
ダイヤ「はぁ…ほら、使ってください」ファサッ
そう言って、ダイヤは自分の使っていたマフラーを私の首に掛ける、ダイヤの香りがして何となく落ち着く… 果南「ありがと…でも、ダイヤが寒いじゃん…」
ダイヤ「凍えて風邪をひかれるよりはましですわ」
果南「うーん…じゃ、こうしようか」フワッ
ダイヤ「?」
長めのマフラーだったので、片方をダイヤに、もう片方を私の首に巻く、所謂恋人巻きと言うやつだ
ダイヤ「ちょっと…恥ずかしいですわ」
果南「いいじゃん、くっついて歩くから暖かいし」 ダイヤ「でも…」
果南「誰も見てないって、ダイヤも寒くないでしょ?」
ダイヤ「もぅ…今日だけですわよ?」
果南「やった♪じゃ、行こうか」
ダイヤ「ちゃんと歩幅を合わせてくださいね?」
果南「どうしよっかな〜♪」
ダイヤ「やっぱり外しますわ」
果南「えへへ…ごめんごめん」 何てやり取りをしながら、私達はようやく帰路に着く、しばらくして、何故かダイヤが俯いていることに気がついた
ダイヤ「」ハァ…
果南「どうしたの?溜息なんかついて」
ダイヤ「あ、いえ?何もないですわ」
果南「何?気になるじゃん」
ダイヤ「………」 ダイヤ「……果南さんは、聞いていますか?統廃合の話を…」
果南「……うん」
統廃合ーーー私達が一年の頃から既にあった話だが、最近、統合に向けて本格的に動き始めているらしいとは聞いたことがある
ダイヤ「理事長、今年度で辞めてしまうそうです…おそらく来年度から統合を円滑に進める為の新理事長が就任されるからでしょうね…」
果南「このまま…無くなっちゃうのかな」
ダイヤ「私達にはもう、どうしようもないことですから」
果南「そうだけど…」 ダイヤ「鞠莉さんなら…こういう時でも諦めずに前を向くんでしょうね…」
果南「鞠莉かぁ…今何してるんだろ」
ダイヤ「そういえば、なぜ鞠莉さんと連絡を取っていないのですか?」
果南「う…だ、だって、何か気まずくて…」
ダイヤ「喜ぶと思いますよ?鞠莉さんも果南さんから全然連絡してこないとよくぼやいてますし」
果南「うぅ…だ、ダイヤが鞠莉とそんなに頻繁に連絡取ってたなんて私知らなかったよ!」 果南「というか鞠莉から連絡してくれたら私だって…」
ダイヤ「果南さん、携帯を水没させてから鞠莉さんに新しい連絡先教えていないでしょう」
果南「ギクッ…」
ダイヤ「はぁ、まったく、いつまで気にしてるんですの、もう一年以上経つと言うのに…」
果南「…そっかぁ、もうそんなに経ったんだよね」
果南「廃校になるなら、せめて一緒に卒業したかったなぁ」
ダイヤ「後悔してるんですの?鞠莉さんの事…」
果南「……いや、鞠莉の為にはああするしか無かったんだし、しょうがないよ」
ダイヤ「まぁ、鞠莉さんもあちらで楽しくしているみたいですし、私達は間違ってはいなかったと思いましょう」
果南「うん…」 果南「ねぇ…ダイヤ」
ダイヤ「はい?」
果南「手冷たくて、ちょっと繋いでいい?」
ダイヤ「ふふっ…果南さんがそんなことを言うなんて、明日は雪でも降りそうですわね」
果南「からかわないでよ、ほんとに寒いんだから…」
ダイヤ「はいはい」スッ
果南「んっ」ギュ
ダイヤ「これに懲りたら、明日からは油断せずにちゃんと着込んできてくださいね」
果南「ん…そうする…」 そうやって話をしているうちに、ダイヤの家の前まで到着してしまった
果南「じゃ、マフラー外すね」
ダイヤ「いいですわ、果南さんの家までまだ距離があるでしょう、使ってください」
果南「んー…ありがと、ダイヤ」ニコッ
果南「今度返すから」
ダイヤ「果南さんのことですからね…期待せずに待ってますわ」クスッ
果南「ちゃんと返すってば!」 ダイヤ「ふふっ…では、ごきげんよう」
果南「うん、また一緒に帰ろうね」
ダイヤ「ええ、ぜひ」
果南「じゃ、バイバイ、ダイヤ」
果南「」スタスタ
果南「寒いなぁ…」
その数日後、お父さんが事故で足を骨折してしまって…私は家業を手伝うために休学することにした それからしばらくして…鞠莉が浦女に戻ってきたり、またスクールアイドルを始めることになったりして、以前よりも慌ただしくも楽しい日常が戻ってきた
そして…また季節が12月に差し掛かろうとしていた…
果南「うぅ、今日も寒いなぁ…マフラー付けていこ…ん?」
果南「あー…去年ダイヤに借りたマフラー、返すの忘れてた…」
果南「今日持っていって返そう…」
果南「………!せっかくだし」 LINE
果南:ダイヤ、今日マフラー付けて来ないでね!
ダイヤ:はぁ…?どういうことですか?
果南:いいから、今日だけ、ね?
ダイヤ:もう、仕方ないですわね…わかりましたわ
果南「ふふっ…」
果南「寒いのも悪くないね」
完 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています