内浦妖魔學園記
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0001名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:45:59.92ID:rXFdQwJA
CHAPTER0
『浦の星女学院の転入生』

 この物語の主人公の名前は桜内梨子。
 今日から浦の星女学院に通うことになった、高校2年生。
 しかし彼女には、もう一つの顔がある。
 それはーー

梨子「桜内梨子です。仕事の関係で色々な所を回っていますが、ここでも素敵な出会いがあればいいなと思います。皆さん、よろしくお願いします」

 自己紹介を済ませ、深々と頭を下げる。
 ここでいう『仕事』とは、親の仕事ではなく。
 彼女自身の生業を指している。

千歌「私、高海千歌! よろしくね♪」

曜「渡辺曜だよ。全速前進、ヨーソロー!」

 クラスメイトの高海千歌と渡辺曜。
 気さくな二人に学院内を案内してもらい、一緒にお昼を食べて。

千歌「最近ね? この内浦で怪しい影を見た人がいるんだって」

梨子「怪しい影?」

曜「知ってる知ってる! 水泳の先輩が話してた! 確か着ぐるみみたいに大きいんだよね?」

千歌「そうなの? でもこの辺で着ぐるみって言ったらうちっちーだよね?」

曜「あたし、この前バイトで中に入った事あるよ」

梨子「うちっちー?」

 地元のゆるキャラの噂話などで盛り上がって。
 学校が終わり、二人と別れて。

梨子「ふぅ……行こう」
0008名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:51:33.01ID:rXFdQwJA
曜「うわわ!? なにあれ!?」

千歌「魚!? なんかブルブルしてるよ!?」

梨子「二人とも下がって!」

 慌てふためく二人を他所に、梨子は装備していた武器を構える。
 相手は三体。落ち着いて、各個撃破すればいい。
 装備はハンドガンと日本刀。弾は十二分にある。

梨子「フッ!」

 まずは一番近い一体にハンドガンを一発撃ち込む。
 げぎゃ、みたいな奇声をあげて怯む化け物。

千歌「きゃあ!?」

曜「ひやっ!?」

 突然の銃声で驚かせたが、今は気にしている場合ではない。
 身を翻して、二人に迫る化け物の一体へ刀を振るう。
 斬り上げた後も休まず、遠い敵に弾丸を。
 一発。二発。三発。四発。
 斬られた魚人は、液体になってドロドロに溶けてしまった。
 弾丸を浴びた異形も、同じ末路を辿る。

曜「梨子ちゃん!」

 後ろから迫ってきた最初の魚人に向かって、曜がバットを思い切り振り下ろした。
 嫌な感触だったのだろう。彼女の表情があからさまに険しくなる。
 グシャリと潰れて倒れ、化け物はやはり溶けてしまった。
 三体全て消えたのを見て、ようやく息を吐いた。

千歌「だ、大丈夫?」

梨子「ええ。平気……」

曜「なんだろ、あの化け物……」

 確かに、あんな化け物は梨子にとって想定外だ。
 命の危険は、あくまで遺跡の罠や、稀にだが同業者との対立による物を想定していた。
0009名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:52:05.70ID:rXFdQwJA
千歌「あ、あの化け物が出てきたとこ! あれ同じ玉じゃない?」

 見ると確かに同じ物が転がっている。
 これで仕掛けを解除出来ると思いセットすると、軽く遺跡が揺れ出し、何かが開く音がした。
 恐らく、扉の鍵が解除されたのだろう。

曜「行こう!」

梨子「ええ」

 扉を開き、細い道の先に進んでいくと、今度は大きく開けた場所。

千歌「広ーい」

 千歌の声がエコーになるほどの広さ。

曜「凄いね。なんかでっかい化け物とか用に作ったみたいな」

梨子「それ、笑えないよ……」

 部屋の真ん中辺りまで来た所で。

舌足らずな声
「何か、御用ですか?」

 どこかで聞いた、舌足らずな声が響く。
0010名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:52:41.99ID:rXFdQwJA
梨子「あなた、確か……」

ルビィ「黒澤ルビィ、です」

千歌「可愛い!」

曜「いや、そんな事言ってる場合じゃあ……」

 人見知りもどこへやら、ハキハキと三人に話し掛けてくる。

ルビィ「何しに、来たんですか?」

梨子「貴女こそ、こんな所に一人で何を」

ルビィ「答えて」

 強気な言葉に、思わず後ずさる。
 昼休みに見た姿からは想像出来ない、強硬な態度。
 協会から支給されたタブレットから、警告メッセージとアラームが鳴り響く。
 特殊な電磁波を感知し、持ち主に知らせる機能が教えてくれた。
 この子は、危険だ。

梨子「私達は、ここの調査に来たの」

ルビィ「ここは、余所者が入っていい場所じゃないんですーー消えて!」

 叫ぶと同時に、突風が梨子達を襲った。

梨子(なに、今の? ひょっとしてあの子が?)

 分からない。けれど、今はあの子を止めるのが先決。
0011名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:53:17.53ID:rXFdQwJA
 銃を構える。威嚇。撃つ気はなく、直接当てるつもりはない。

千歌「り、梨子ちゃん!?」

ルビィ「わっ!!」

 咆哮。反射。衝撃波。
 構えていた銃が、衝撃を受けて吹っ飛ばされてしまう。

千歌「うそぉっ!?」

曜「ど、どうするの!?」

梨子「……」

 正直、これは予想しろという方が無理がある話。
 いくらなんでも、超常の力を使う人が出て来るなんて。
0012名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:53:53.00ID:rXFdQwJA
おっとりした声
「ルビィ、ちゃん?」

 しかし、そこに。
 さらなる想定外の出来事が待ち受けていた。

ルビィ「は、花丸ちゃん?」

花丸「どういう事、ルビィちゃん? オラ、分からない事だらけずら」

 図書委員の花丸が現れたのだ。

花丸「ごめんなさい。三人の姿が見えたから付いてきたんです。ルビィちゃん、昼に貴女のこと、じっと見てたのが気になって」

梨子「そんな、いくら友達の為でも危険よ!」

花丸「でも! 最近のルビィちゃん、いつも何かに怯えてるみたいで……オラの事も避けてるみたいで」

ルビィ「そ、それは……それは!」

 花丸の登場に、今度はルビィが動揺している。
0013名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:54:34.80ID:rXFdQwJA
ルビィ「守らなきゃ、いけないの。この街の、この内浦の神様を」

梨子「神様? 水神様の事?」

曜「守る……それって、小原家が行ってる土地開発の事?」

 今内浦で問題になっている、小原家による土地開発。
 現在内浦にリゾートホテルの建設が予定されているらしく。
 それを反対する地元住民との間で問題となっている。
 その地元住民の筆頭がーー黒澤家。

ルビィ「神様が怒ると、みんな不幸になる。だからルビィは、追い出さなきゃいけないんです!」

花丸「……本当に、そう思ってる?」

ルビィ「……止めて」

花丸「オラ知ってるよ。ルビィちゃんは、優しい子だって」

ルビィ「止めてよ……!」

花丸「何か事情があってやってるんだよね? 良かったらマルに話してーー」

ルビィ「やめてえええええええええ!!」

 放たれた、一際大きな声は。
 部屋全体に反響し、反復し、増幅し。
 花丸目掛けて襲いかかる。

梨子「危ない!」

花丸「ずら!?」

 梨子が咄嗟に飛び付いて庇う。
 その直後に、一箇所でぶつかり合った衝撃波が破裂し、空間を際限なく揺らす。

千歌「うわぁあぁあぁあぁっ!?」

曜「ひぃいいいっ!?」

 震える世界。
 しかし収まる前に、梨子は走り出した。
0014名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:55:18.40ID:rXFdQwJA
梨子(あの子は衝撃波が出せても、その衝撃そのものは緩和できないはず!)

 大きく揺れているこの空間に、ルビィ自身も動く事が出来ないと判断しての特攻。
 そしてその予想は、当たっていた。

ルビィ「ピギィッ!?」

梨子「捕まえたわよ、ルビィさん」

 背後に回って腕を取り、動きを止める。
 これなら声による攻撃はされない。

梨子「お願い。悪いようにはしないから。アナタの知ってる事を教えて?」

ルビィ「……あ、あああ」

 出来る限り優しく問い掛けてみたが、何か様子がおかしい。

ルビィ「だめ……逃げて……あああ!」

 震えると同時に、身体から泡が。
 ブクブク、ブクブクと湧き出して来る。

ルビィ「ピギャあああああああああっ!!」
0015名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:56:05.55ID:rXFdQwJA
 泡は空中で集まり、少しずつ形を変えて。
 やがて、化物の姿へと成り果てる。

梨子「これは……!?」

千歌「バケモンだー!?」

曜「バケモンだー!?」

 曜と千歌が同時に叫ぶ。
 上半身は人の様だが、下半身は蛇の尻尾のように。
 左右にゆらゆらと動かしている。

花丸「ルビィちゃん! しっかりして! ルビィちゃん!」

 その化物の狙いは。
 倒れた宿主に必死に呼びかける、花丸。

梨子「化物! こっちを見なさい!」

 移動しながら、拾ったハンドガンで化物に発砲する。
 しかしダメージが無いのか、食らってもこちらに見向きもしない。
0016名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:56:49.65ID:rXFdQwJA
 その時だった。

曜「ヨーソロー!」

 野球ボールが、化物の顔面に直撃する。

梨子「何やってるのー!?」

 梨子は焦るが、狙いはルビィからこちらへと変わったらしい。
 そして化物が身体を後ろに大きく反らす。

梨子(マズイ!)

 咄嗟に大きく横へ飛ぶ。
 それと同時に、化け物が口から衝撃波を放った。
 ルビィと同じ能力。しかし威力は桁違いだ。
 ぶつかった壁が、削れている。あれは一発でも食らったら命は無いだろう。
 どうする?
 梨子は思考する。冷静さを無くせば、本当に死ぬ。
 今いるのは五人。ルビィは気絶し、花丸はルビィの側を離れない。
 千歌と曜は戦えるが、この化物相手には下手に動いて的になるのは避けたい。
 現在の装備。
 ハンドガンに日本刀、さっきは狭かったから使わなかったグレネードが数個。
 恐らくあの化物にも弱点はあるはず。その箇所にグレネードで爆破すれば。
0017名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:57:18.39ID:rXFdQwJA
千歌「いくよ、曜ちゃん!」

曜「行っけー!」

 そんな思考の横で。
 千歌と曜が野球を始めていた。
 どうやら千歌の投げたボールを。
 曜が化物に向かって打ち込んでいる。

梨子「止めなさいバカ! 死にたいの!?」

千歌「え? だって効いてるっぽいし……それ!」

曜「これが一番威力あるかなって……ねっ!」

 確かに打球は顔面を揺らし、ダメージを与えているように見える。
 弾丸の方がダメージが大きいと思っていたが。
 小さい弾より、大きなボールの方が当たる面積が広く。
 ぶつかる衝撃でダメージを与えられるのか、と取り敢えず納得する。

梨子「というか、曜ちゃんよく当てれるわね?」

曜「え、だってあんまり動いてないし」

 だからといって、投げられたボールを狙った場所へ。
 狙って打てる物でもないのでは?
0018名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:57:53.97ID:rXFdQwJA
 そう思った時に、閃いた。
 否、閃いたというより、ふと尋ねてみたくなったのだ。

梨子「ねえ、曜ちゃん。これ、頭に当てる自信ある?」

曜「え、これ? どうだろな〜? やってみないと……」

梨子「じゃあよろしく。タイミングはまた伝えるから」

 曜の運動センスを信じて、梨子は化物の前へと踊り出る。

梨子「こっちよ、化物!」

 化物が梨子に向かって行く。
 梨子はゆっくりと、タイミングを見ながら引き寄せる。
 そして化物が、身体を後ろに大きく反らした瞬間。

梨子(今っ!)

 梨子は全力で、化物の懐へと突っ込んでいく。
 そして衝撃波と同時に飛び込み前転。
 化物の放った衝撃波は梨子の真上を通過し。
 梨子は立ち上がって化物とすれ違うように後ろへ回る。
0019名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:00:16.55ID:itLpvc0G
梨子「曜ちゃん!」

曜「オッケー!」

 梨子はグレネードを曜へと放る。
 放物線を描いて落ちてきたグレネードを。

曜「全速前進……ヨーソロー!」

 曜がバットで、打ち返す。
 振り向いた化物の、顔面目掛けて。
 グレネードは真っ直ぐに、開きっぱなしの化物の口の中へ入り込む所ヘ。

梨子「伏せて!」

 ハンドガンで、撃ち抜く。
 轟音。

曜「うわぁっ!?」

千歌「ひぃっ!?」

花丸「ずらぁっ!?」

 爆発した化物の身体が、ゆっくりと倒れていき。
 泡となって、空へと消えていく。

千歌「……やったぁっ!」

曜「やったね千歌ちゃん!」

梨子「上手く行ったわね。ありがとう、二人とも」

 梨子は無事を確認すると、二人に歩み寄る。

千歌「いやぁ、私何にもしてないけど」

梨子「そんな事ないわ。花丸さんと一緒にルビィさんを抱えて避難してたでしょ?」

 動揺している花丸を必死に落ち着かせ、ルビィを部屋の入り口へと抱えて移動しているのを見ていたから。
 梨子は自身の作戦に集中出来た。

梨子「ありがとう。二人とも」

 だから、もう一度。
 梨子は感謝を述べた。
0020名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:00:51.64ID:itLpvc0G
梨子「さぁ! 急いで戻りましょう。結構時間経ってるし」

曜「そうだね。あの二人は」

梨子「もちろん一緒に戻るわよ。花丸さん。大丈夫?」

花丸「は、はい!」

 ルビィを背中に抱えて、遺跡から外に出る。

曜「うわっ、朝日が出そうになってる……」

千歌「もうそんな時間なんだ……」

花丸「桜内さん、凄いずら。ルビィちゃん抱えて上まで登れるなんて……」

 梨子にしてみればこの位の能力は有って当たり前なのだが。
 花丸は目をキラキラさせながら、梨子を見つめる。

花丸「さ、桜内さん!」

梨子「え、な、なに?」

花丸「オラ、国木田花丸って言います! オラ、力は無いけど知識ならお役に立てると思います! オラも手伝わせて下さい!」

 その力強い請願に、梨子達は顔を見合わせて。
 一斉に笑い出す。

花丸「え、あ、あの……?」

梨子「ご、ごめんなさい! なんだか可笑しくて……私の方こそ、よろしくね。花丸さん」

花丸「あ……は、はい! オラ、精一杯頑張るずら!」

 民間人の協力者は、今更断る理由もない。
 力を貸してくれるなら、喜んで受け取ろう。
0021名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:01:23.33ID:itLpvc0G
 そして。

教師「たく、高海千歌! おーい、起きろー!」

千歌「ぐがー、ぐがー……」

 残念ながら、高海千歌は授業中に限界が来た模様。

梨子「やれやれね」

曜「千歌ちゃん……」
0022名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:02:12.57ID:itLpvc0G
生徒会室ーー

のんびりとした声
「どうするの? このままだと、かなりマズイ事になるんじゃあ」

凛とした声
「分かっていますわ。なんとしてもあの侵入者には、ご退場願いませんと」

のんびりとした声
「アタシがやろうか?」

凛とした声
「必要ありませんわ。まだ……手はありますから」
0023名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:03:26.09ID:itLpvc0G
CHAPTER2
『堕天使ヨハネ』

団子結びの少女
「はぁ……どうしよう」

 夜の校舎の、校門前で。
 一人の少女が、立ち尽くしていた。
 その出で立ちは明らかに怪しく。
 長く黒いローブを纏って、頭の団子には黒い鳥の羽が刺さっている。
 あからさまに、怪しい格好の少女。
 そんな少女の元に、近寄る影が一つ。
 今この空間は、限りなく妖しく、怪しい。

影「やぁ、お嬢さん」

 影は優しく、少女に声を掛ける。

団子結びの少女
「ひっ!? あ、な、何よ!?」

影「君、どうしたんだい? こんな時間にこんな場所で」

団子結びの少女
「あ、アンタには関係無いでしょ!?」

影「そんな事はないよ。私には力がある。特別な力がね」

団子結びの少女
「はぁ?」

影「すぅー……はぁっ!」

 影の腕が天を衝く。
 それと同時に、空気が突き動かされる。
 風となり、竜巻となり、天へと登る。
 強烈な風を感じながら、団子結びの少女は怯え、叫ぶ。

団子結びの少女
「きゃああああっ! な、何よ今の!?」

 団子結びの先に刺さっていた羽が舞い上がり、ゆっくりと影の手の中へと舞い降りた。

影「この位は簡単にできる。君は、また違う力を手に入れると思うけどね」

 黒羽を差し出しながら、影は何事もなかったかのように語り続ける。

団子結びの少女
「な、なによ? 違う力? さっきから何言ってんのよアンタ!」

 混乱している少女に対して、決定的な言葉が。
 影の中から放たれる。

影「特別に、なりたくない?」
0024名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:04:02.46ID:itLpvc0G
 地下遺跡での戦いから、数日後。
 完全に回復した黒澤ルビィと共に。
 昼休みの屋上でお弁当を食べていた。

千歌「梨子ちゃん、それもしかして手作り?」

梨子「ええ。調理スキルはサバイバルに欠かせないし」

曜「じゃあさじゃあさ! 何か普段食べないようなの食べた経験ある?」

梨子「まぁ、色々あるけれど……一度セイウチを食べた事があるわ」

花丸「セイウチずら!? 凄いずら……未来ずら〜!」

梨子「いや、未来関係無いんじゃあ」

ルビィ「あのぉ……」

梨子「あ、ごめんなさい」
0025名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:04:37.08ID:itLpvc0G
 座談会になりそうな空気を振り払い、梨子はルビィから話を聞くことにした。
 ルビィも聞いた話なので、そうなのだろうという予想だが。
 あの遺跡は水神様の怒りを鎮める為に作られた祠で。
 毎年そこで、巫女に選ばれた者が鎮魂の舞を踊る。
 巫女には水神様の力を授かる代わりに、この土地を守り続ける宿命を背負う事になる。
 ルビィが行使した衝撃波も、水神様の加護によって得た力なのだという。

ルビィ「ごめんなさい。ルビィもあまり詳しくは知らなくて……ルビィが知ってるのは、そのくらいなんです」

梨子「そうなんだ。もう少し、水神様について調べないといけないわね」
0026名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:05:14.17ID:itLpvc0G
 土地柄の事を図書館で調べられる程度しか知らない梨子は。
 しばらく情報収集に力を注ぐつもりでいた。
 もちろん、遺跡の調査も怠らないが。
 情報は多いに越した事はない。

梨子「一番気になるのは、当時この地に住んでた人達がなぜ水神様の怒りを買ったのか、ってところなんだけど……」

ルビィ「ごめんなさい。その辺りはルビィも分からなくて……」

梨子「そんなに気に病まないで。でもそっか。もっと古い文献があればいいんだけど……」

 そう言って、梨子は花丸を見やる。
 本に関する事は、花丸の方が詳しいかもしれない。
 そう思った梨子の視線を読み取り、花丸が答える。

花丸「オラの家にある蔵なら、それっぽいのがあるかもしれないけど……」

梨子「けど?」

花丸「全然片付いてないし、埃だらけで掃除から始めるようになるずら」
0027名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:05:52.25ID:itLpvc0G
 倉庫とは、得てしてそんなものである。
 しかし何か手掛かりになる資料があるやも、と。
 放課後、件の蔵へと案内してもらった。

梨子「えほ、おほ……!?」

 早速中に入るが、予想以上の埃具合で思わずむせる。
 花丸は慣れているのか、構わず明かりを点けて探し始めていた。

花丸「内浦の昔の資料はここになければ、後は黒澤家くらいしかないと思うずら」

梨子「でしょうね……それにしても」

 蔵の使用法など家によって様々とはいえ。
 ここは、書物で溢れ返っている。
 箱の中身は古い小説、地図、歴史資料。
 しかし肝心の、水神様に関する資料が見当たらない。

花丸「ごめんなさい。お役に立てなくて」

梨子「何言ってるのよ。私こそ、こんなに手伝ってくれて、感謝してるの。だから、そんな事言わないで?」

 落ち込んだと思えば、梨子の言葉に照れてはにかむ。
 梨子はそんな花丸を、羨ましい、と思った。
0028名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:06:23.34ID:itLpvc0G
梨子(私の仕事は人間の嫌な部分を、否応なしに見せつけてくる)

 まだ齢17にして、人間同士の裏切りや敵対を目の当たりにしてきた。
 だからこそ、梨子は自分に関わる人間を増やしたくない。
 自分のように、誰も信じられなくなってしまわないように。

梨子(でも、この街は……この街の人達は、温かい)

 だから、だろうか。
 護りたい、と思ってしまうのは。
 手段は冷たく、鋭く。傷付ける事しか出来なくても。
 梨子は、必ず護ると再び誓った。
0029名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:06:52.32ID:itLpvc0G
 翌日。
 校門を越えると人だかりが出来ているのに気付く。
 皆が見上げるのに倣って視線を上げると。
 屋上に誰かがいた。
 あのタイの色は一年生だろうか。
 団子結びに黒羽を刺して、黒いマントを羽織った少女が。

団子結びの少女
「我が名は、堕天使ヨハネ! 強大な力と美しさに嫉妬した神が、堕天へと貶めした……この穢らわしい地へと!」

 ちょっと何言ってるかわかりません。

団子結びの少女
「だが我は赦さぬ。この地を我が堕天の力で染め上げ、必ずや報復してくれよう! 今日から貴様らは、このヨハネの所有物。契約を交わし、リトルデーモンとなるのよ!」

 ちょっと何言ってるか分かりません。
 名前も知らない(堕天使とかはスルー)少女が屋上で叫ぶ様は、あまり気分の良い物ではない。
 ましてや内容がハチャメチャならば尚更、である。
 そして当然ながら、この事態を治めるべく教師が首根っこを掴んでいったのであった。

梨子「なんだったのかしら……?」
0030名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:07:36.78ID:itLpvc0G
花丸「あ〜……それ、善子ちゃんだと思うずら」

 昼休みになってから、図書室で花丸に朝の事を尋ねると。
 呆れたような、困ったような、要するに嬉しくない様子で答えた。

花丸「津島善子っていって、幼稚園が一緒だったんです。その頃から、ああいった事を言ってました」


『わたし、ほんとうはてんしなの!』


花丸「多分、善子ちゃん、普通が嫌だったんじゃないかなって。何か特別な存在に、なりたかったんじゃないかって、今なら思うんですけど……」

 言い終わって、顔を伏せる。
 デリケートな問題のようなので、梨子はそれ以上を知ろうとはしなかった。
 その代わりに、何故この時期になってあんな行動を取ったのかが気になる。
 特別な存在。水神様の加護。

梨子「ルビィちゃんに聞いてみないといけないわね」
0031名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:08:11.96ID:itLpvc0G
 夜。梨子は二人のバディを連れて遺跡を訪れていた。
 国木田花丸と、黒澤ルビィ。
 千歌は補習を強制され、曜は水泳部に向かった。

ルビィ「本当に、善子ちゃんがここにいるんですか?」

梨子「恐らく。水神様の加護があの子に与えられているなら」

 ルビィに確認したのは。
 水神様の加護は、誰にでも与えられるものなのか。
 その答えは、イエス。
 水神様の加護を受けるのに特別な素養など必要なく、受け入れれば誰でも得る事が出来るのだ。
 そして与える事が出来るのは、巫女に選ばれた者のみ。
 そして今年の巫女に選ばれたのは、黒澤ダイヤ。ルビィの姉。

花丸「でも、どうして善子ちゃんが選ばれたずら? 接点なんて何もーー」

梨子「必要無いのかもしれないわね。とにかく、私を排除出来るなら」

 その為だけに、津島善子を利用した。
 あくまで推測だが、彼女の性格なら受け入れる可能性は高い。
 特別な存在になりたいと願う『堕天使ヨハネ』なら、超常なる力を欲するはず。

花丸「そんな、そんなのって……!」
0032名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:08:45.03ID:itLpvc0G
ルビィ「花丸ちゃん……」

梨子「……ごめんなさい」

 悲しませるつもりはなかった。ただ、その可能性を示さずに行けば。
 いざ対峙した時に、より深い悲しみを背負うことになる。
 梨子にとって、先に伝えるべきだという判断ではあれど。
 梨子は自分を情けなく思った。

花丸「気にしないでください。オラは、大丈夫ですから」

ルビィ「花丸ちゃん……」

花丸「むしろ本当にいたら、目を覚まさせてみせますから!」

 気丈に、振る舞っている。
 理解しつつも、それ以上は言わず。
 ありがとうと言って。
 遺跡の探索を始める前に。

梨子「扉が、光ってる?」

 以前は開かなかった扉の一つが、光を放っていた。
 手を掛けてみると、呆気なく開く。
 ここを進め、という事だろうか。

梨子「二人共、私から離れないでね?」

花丸「了解です! しっかりしがみつきます!」

梨子「あの、そこまでしなくていいから。それだと私動けないから」

 花丸の小ボケを捌いてから、細い道を進んでいく。
0033名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:09:12.03ID:itLpvc0G
 以前と違い、入り組んだ道だ。方向感覚が狂いそうなほど。
 次の扉を開くと、真っ暗な部屋だった。
 梨子は暗視ゴーグルを装着して、周囲を確認する。
 今までの道より少し広く、一本道の先に扉が見える。
 ただ暗いだけ、とは思えない。

梨子「二人共、ゆっくり進むわよ」

ルビィ「はい!」

花丸「了解です」

 一歩、また一歩と。
 確かめるように足を動かしていく。
 そして、梨子の予感は的中した。
 壁のあちらこちらが崩れ、前回見た化物が姿を見せる。

化物「ゲギャギャギャギャ!」

梨子「っ!! 二人とも、伏せていて!」
0034名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:09:39.91ID:itLpvc0G
 梨子はハンドガンを構え、正面に現れた化物達を攻撃する。
 以前出て来たモノと同じ。ならばこれで対抗できる。
 後方確認。全部で二体。迷い無くこちらに来る。

梨子「はぁっ!」

 身を翻し、勢いのままに。
 抜いた右手の刀で頭を飛ばす。
 ハンドガンを構えるが、二体目は既に目の前。
 ならばと一発撃ち込みながら、ハンドガンの上に刀の背を乗せて。
 思い切り踏み込み、滑らせるように頭を突き刺した。
 化物は前と同じように、ドロドロになって消えていく。
0035名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:10:22.00ID:itLpvc0G
梨子「ふぅ〜……!」

 全て撃退して、息を吐く。
 今まで、護衛を伴うミッションは幾度か請け負ったが。
 やはり恐ろしい。すぐ目の前に脅威が迫るというのは。
 梨子は二人に終わった事を告げて、先を進む。

花丸「やっぱり梨子さんは凄いずら! カッコイイずら〜……」

ルビィ「花丸ちゃん、見えてたの?」

花丸「全然。だけど銃とか剣とか、オラなんかじゃとても無理ずら」

 気恥ずかしい会話を背に受けて、再び暗い部屋が現れる。
 今度は細く、敵が現われれば、戦わなければならないほどの道幅。
 再び暗視ゴーグルを装備する。

梨子「ゆっくり行きましょう」

花丸ルビィ
『了解です』

 声が揃った。恐らく顔を見合わせたんじゃないか。
 二人がクスクス笑っているのを聞いて想像しながら、梨子は足を進める。
0036名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:10:59.48ID:itLpvc0G
 コの字に曲がった先で、3つの柱が右手に並んでいる。
 壁に半分埋まった状態の柱には絵が刻まれていて、上にも似たような絵がある。
 上にある絵は外せるようだ。つまりこれは、正しい絵に合わせて入れると先に進める類いの仕掛けだろう。
 梨子はまず、他に絵が刻まれた石版が無いか探してみる。
 ただでさえ暗く、周りが見えない二人を連れた状態。
 あまり時間を掛けてはいられない。

梨子「これは……石碑?」

 一度暗視ゴーグルを外してタブレットを起動。記録して、二人にも見てもらう。

花丸「神の怒りは、天を貫き、地を砕き、海を穿つ。民は恐れ、大地に血と涙が流れた」

ルビィ「これって、何かのヒントなのかな?」

花丸「多分、この柱の絵を合わせる為の物だと思うよ」

 だから、と言って。
 タブレットの明かりを頼りに、花丸が石版を外した瞬間。
 激しい振動が、部屋全体を揺らす。
 否。部屋そのものが、揺れている。
0037名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:11:47.43ID:itLpvc0G
梨子「いけない! 急いで!」

 梨子が叫ぶと同時に、どこからともなく水が流れ込んできた。
 暗い上に足元が水でどんどん満たされていく。

花丸「は、はい! えっと、この絵が真ん中に、真ん中ひゃあっ!?」

梨子「あっ!?」

ルビィ「花丸ちゃん!?」

 花丸が水に足を取られて転ぶ。
 その際に石版が手から離れ、暗い水の中に落ちる。

梨子「他のを合わせて! 私が探してーー」

ルビィ「ふぅうううう〜……!!」

 梨子が踏み出したと同時に、ルビィが息を吹き出した。
 ルビィの能力は空気を圧縮して放つ力。流れて来る水を押し返し、水が増えないように押さえてくれている。
 そのおかげで、見つけるのは容易になった。

梨子「花丸ちゃん!」

 拾った石版を水面上に滑らせて渡す。

花丸「はい! え、これ……」

梨子「急いで! ルビィちゃんがもたない!」

花丸「は、はい!」

 最後の所にはめ込むと、再び部屋が揺れて、水が抜けていく。
 どこに溜めてあったのか分からないが、危ない所だった。
 この二人でなければ、特にルビィが水を押さえてくれていなければ、全滅もあり得た。

梨子「ルビィちゃん、大丈夫? 本当にありがとう!」

ルビィ「だ、大丈夫です……ルビィ、いっぱい、迷惑掛けたから、これくらい、しないと……」

 へたり込んでいるルビィ。身体も水に濡れている上に、消耗も激しい。
 花丸に声を掛けようとして、ようやく居なくなっているのに気付いた。
0038名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:12:30.05ID:itLpvc0G
梨子(流された!?)

 いや、最後に仕掛けを解除したから、すぐに助けを呼べたはず。

梨子(まさか、一人で先に進んでしまったの?)

 タブレットは花丸に渡したまま。しかしルビィはかなり体力を奪われている。
 花丸を見つけて、出来るなら一度体勢を立て直したい。

梨子「ルビィちゃん、ごめんなさい。まだ進まなきゃいけなくなったわ」

ルビィ「花丸ちゃん、ですよね? ルビィは、平気です……」

 肩を貸しながら、扉を開けて先に進む。
 危険が無いか十分に確認しつつ、先へ進むと。
 前回と似たような、広い空間に出た。
0039名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:12:57.38ID:itLpvc0G
痛々しい声
「よく来たわね、リトルデーモン。私の邪眼には、貴女がここまで来るのが見えていたわ」

花丸「善子ちゃん、いつまでそんな事やってるずら?」

痛々しい声
「ヨハネよ!」

 緊張感のない空気に、少しだけ気持ちが緩む。

ヨハネ「だいたいずら丸! アンタこそ何やってるのよ! 侵略者なんかと一緒に!」

梨子「侵略者?」

 梨子の疑問に、そうよと返す自称堕天使。

ヨハネ「その通り。アナタがやっている事は、この内浦の地を穢すの。だからこそ、私に堕天の力が舞い降りたの」

花丸「侵略者を追い払う堕天使って、もう設定ムチャクチャずら」

ヨハネ「設定言うな!」
0040名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:13:30.69ID:itLpvc0G
 ああ、そんな真正面からハッキリと。
 思っていても、ハッキリ言っては行けない事もあるだろうに。
 そう思っていた梨子に、矛先が向く。

ヨハネ「なによ!? アンタも言いたい事あるならハッキリ言いなさいよ!」

梨子「恥ずかしくないの?」

ヨハネ「うわあああああん!」

 しまった、泣かせてしまった。
 なんだかもう、どうしていいか分からなくなってきた梨子だが。
 仕切り直す為に、ヨハネと会話を試みる。

梨子「アナタのその力、誰に与えられたものなの?」

ヨハネ「フッ……我が堕天の力が恐ろしいか?」

梨子「撃つわよ?」

ヨハネ「ヒィッ!? ちょ、やめなさいよ!」

 拳銃をちらつかせると、途端にビビり始める堕天使。
0041名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:14:05.91ID:itLpvc0G
梨子(やっぱり、力を手にしても一般人なのね)

 そう簡単に人は強くならない。
 人は【凶器】によって【狂気】を得る。
 梨子の先輩が、かつて教えた言葉。
 どれだけの武器を持とうと、奇跡の如き神秘を手にしようと。
 結局は使う人間次第なのだと、つまりそういう事である。
 そして津島善子は、やはり人間なのだ。

梨子「その力は、使い方を間違えれば取り返しのつかない事になるわ」

ヨハネ「だったら、どうだというの? 私は間違えない。この堕天の力は、完全に我が物となっている!」

梨子「力に溺れては駄目よ!」

ヨハネ「ならばアナタは何なの? その手の武器、装備は、何の為にあるというの?」

梨子「これは、守るため……大切な物を傷付かないようにするためのものよ」

ヨハネ「ならば守って見せなさい。この堕天使ヨハネから、大切な物を!」

 叫び、背中から黒い翼が展開する。

梨子「だったら、こういうのはどう?」

 梨子は刀を構え、善子と向き合う。

ヨハネ「フッ……この堕天の翼を甘く見ないことね。はぁっ!」

 翼がはためく。
 巻き起こる風に乗せて、羽根が。
 黒い刃と化して、梨子を襲う。
0042名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:14:58.51ID:itLpvc0G
梨子「くっ!?」

ヨハネ「ほら、どうしたの? そんななまくらじゃあ、ヨハネの翼に傷一つ付かないわ」

花丸「善子ちゃん、やめるずら!」

ヨハネ「なによ。そうやって言うだけで何も出来ない癖に」

花丸「善子ちゃん……?」

ヨハネ「アタシは堕天使ヨハネ! 特別な存在なの!」


善子(私はいつも、一人だった)

善子(私の身にはいつも、不幸ばかり起きてた)

善子(悲しくて、苦しくて、毎日泣きそうだった)

善子(こんなに辛い思いをするのは、私が普通じゃないからだって)

善子(特別な存在なんだって、思いたかった。そうじゃなきゃ、やってられなかった)

善子(そして、やっと。やっと本当に特別になれた!)


 善子の羽根は鋭く、重い。
 刀で弾くのも難しく、避けるしかない。

梨子「さすがに、ずっとそれだと近づけないわね」

ヨハネ「そうよ! 誰も私には勝てない! さぁ、平伏すがいいわ!」
0043名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:15:33.04ID:itLpvc0G
花丸「……下らない」

ルビィ「は、花丸ちゃん?」

 ただならぬ様子を感じ取ったのか、ルビィの声が震えていた。
 そして、花丸は真っ直ぐ善子に向かって歩き出す。

ヨハネ「なっ!? こ、こっちに来ないでよ!」

花丸「いやずら」

ヨハネ「そ、それ以上近づくなら撃つわよ!?」

花丸「やってみるずら」

ヨハネ「ほ、本当に撃ち込むわよ!?」

花丸「やってみなよ!」

ヨハネ「ッッ!?」

 善子が、完全に気圧されていた。
 善子だけでなく。
 ルビィも、梨子すらも動けずにいた。

花丸「オラは、梨子さんの役に立ちたくて、一緒にいるずら。何の役にもまだ立ってないけど、これはオラがやりたい事」

ヨハネ「こ、来ないでよ!」

花丸「善子ちゃんは、その力で何をしたいの? どうしたら満足するの?」

ヨハネ「わ、私は……」

花丸「善子ちゃん!」

ヨハネ「わたし、わたし、は……」

 堕天使ヨハネの身体が、力を失ったようにその場でへたり込む。

善子「認めて、欲しかった。私が、私である事を。自分の居場所が、欲しかった」

花丸「だったら、もう大丈夫ずら」

善子「えっ……あ」

花丸「今度からは、オラがそばにいるずら。善子ちゃんの居場所になるずら。だから、ね?」

 そっと、優しく。
 まるで我が子を慈しむ母のように。
 その腕は優しく、善子を受け入れていた。
0044名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:16:03.09ID:itLpvc0G
善子「ずら丸……あ、ああ、あああああ……!」

ルビィ「はっ!? 梨子さん!」

梨子「ええ。多分そうだろうと思ってたわ」

 善子の身体から、泡が。
 ルビィの時と同じように泡が溢れ出し、上空へと集まる。

善子「いやあああ……!!?」

 現れたのは、腕が巨大な翼となった、コウモリのような身体に。
 頭は烏を思わせる、黒い鳥頭。
 大きな身体の、さらに大きく羽ばたく翼。

梨子(まずい!)

 梨子は咄嗟に真横へ飛び込んだ。
 化物鳥の翼が、凶器と化して襲い掛かる。
 善子の羽根も重かったが、今度は当たった箇所が。
 粉々になった地面のように弾け飛ぶだろう。

梨子「二人はその子を連れて下がって!」

 指示を出し、化物鳥と対峙する。

梨子(思い出せ。先輩から教わったことを。生き残る為に、必要な事)

梨子「まずは観察ね……そんな暇があればだけど!」
0045名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:16:33.52ID:itLpvc0G
 化物の正面を避けるために移動。
 羽を揺らし、自らの足で追いかけて来る化物。
 飛べるほどの高さもないため、そうやって追ってくるしかない。
 翼をはためかせるのは、攻撃の合図。
 羽根を飛ばして攻撃してくる。狙いは粗いが威力は高い。
 足が止まるため、狙うならそのタイミングがベスト。ただし飛び道具は届かないだろう。
 前回のようなグレネードも、翼の起こす強風で防がれる可能性がある。

梨子「近寄って斬るしかないか」

 二人は無事に逃げれただろうか?
 せめて安全な場所に行くまでは、こちらが注意をーー

化物鳥『ーーーーー!!』
0046名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:17:07.51ID:itLpvc0G
 銃声。しかし梨子のものではない。
 化物が叫ぶ。翼ごと胴体を撃ち抜かれ、暴れ狂う。
 更に一発。二発。三発。
 撃ち抜かれる度に、化物が怯み、叫び、のたうち回る。

梨子「だ、誰!?」

場違いに明るい声
「シャイニー! 今の内にアナタも!」

 確かに今がチャンスだが、第一声はどういう意味なのか。
 ツッコみたい思いは尽きないが、とにかく手榴弾を投げ込む。
 炸裂。衝撃。
 しかし、まだ倒れない。

梨子「くっ! もう一発」

場違いに明るい声
「必要なさそうよ?」

梨子「えっ?」

 見ると、化物の身体が砂のように細かくなっていく。
 なんとか、今回も勝つことがで来た。
 そして梨子はようやく、突然現れた女性に声を掛ける。
0047名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:17:43.99ID:itLpvc0G
梨子「アナタはどちら様ですか? そんなスナイパーライフルなんて持って」

場違いに明るい声
「私? 私はただの依頼人よ。可愛いトレジャーハンターさん♪」

 スナイパーライフルを担ぎ直し、ウインクしてみせるこの女性が。

梨子「依頼人? 確か、今回の依頼人の名前はーー小原鞠莉」
鞠莉「YES I am!」

 大手企業の社長令嬢、とは聞かされていたが。
 それが本当ならば、水神様の祠の調査を依頼した張本人が、なぜここに。

鞠莉「ま、当然の疑問よね? あ、三人娘は避難させといたから」

梨子「そうですか。それはありがとうございます。しかしそれなら、何故わざわざここに来たのですか? アナタには調査報告が届いているはずですよ?」

鞠莉「それを読んだから来たのよ。超常なる存在のせいで、何もかも悪い方にばかり進んでるんだもの」

梨子「つまり、小原グループの土地開発を進める為に?」

鞠莉「いいえ。親友の為よ」
0048名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:18:14.81ID:itLpvc0G
 意外。
 そのあまりにも素朴な理由に、意表を突かれてしまった。
 親友の為。

鞠莉「水神様がどーこーって、街の人達が騒ぎ立てるせいでどこにいても居心地悪いし、ダイヤも果南も話をしてくれないし」

梨子「ダイヤ? もしかして、黒澤家の?」

鞠莉「YES! 小さい頃からのBest friendsなの!」

梨子「はぁ……」

鞠莉「だけどホテル建設は街中が反対だって、二人もロクに口聞いてくれなくなるし……」

 それは、仕方のないことではないのか?
 そんな疑問に。

鞠莉「私達の友情には一切関係アリマセーン!」

 どうやら憤っておられるようだ。
 とどのつまり、この依頼人は。
 友情を取り戻す為に、依頼してきたということか。

梨子「呆れた……」

鞠莉「ところで、そろそろ戻らない? まだアナタとは話したい事もあるし」

梨子「私はありません。報告は届いているはずです」

鞠莉「あら、そんなこと言ったら、学校生活大変になるかもシレマセーン!」                                                                             

梨子「どういう事ですか?」

鞠莉「だって私、理事長だから」

梨子「………………………はぁ?」
0049名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:18:47.66ID:itLpvc0G
鞠莉「シャイニー! 理事長室へようこそ。歓迎するわ♪」

梨子「結構です」

鞠莉「冷たいわねぇ?」

 翌日。
 梨子は真実を確かめるべく、理事長室を訪れていた。
 更にいえば、警告。勝手な真似をしないように呼び掛ける為だ。

梨子「貴女が理事長だというのは理解しました。ですが、それなら尚の事、一人で遺跡を探索しようなんて真似はしないでください」

鞠莉「それはつまり、貴女と一緒ならNo problemってわけね?」

梨子「私は許可しません」

鞠莉「なら貴女を【わが校の女子生徒二人を夜中無理やり連れ出して悪さをしていた】ということにするわ?」

梨子「………………………」
0050名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:19:11.16ID:itLpvc0G
 面倒くさい。
 梨子の中で最も。17という短い人生において、最も面倒くさい輩だ。
 余計な言葉があるお陰で、遅々として進まない。
 全くもって、時間の無駄だ。

鞠莉「私はね? 別にあなたと喧嘩したい訳じゃないわ。協力して欲しいだけ」

梨子「なら最初からそう言えば……何に協力すれば?」

鞠莉「根本的な解決よ。水神様の事も、土地開発の事も。その為には、貴女の力が必要なの」

梨子「分かりました」

鞠莉「え?」

梨子「それならば、私達の利害は一致しますから。こちらこそ、よろしくお願いします」

 キョトン、という表現は誰が最初に使ったのかは知らないが。
 今の鞠莉の表情はまさしくそれだと、梨子は感じた。

鞠莉「いいの? 私に、協力してくれるの?」

梨子「もちろんですよ?」

鞠莉「でも、個人的な事だし、依頼内容と関係がーー」

梨子「本当に面倒くさい人ですね。追加と言うことでいいじゃないですか。私は構わないと言ってるんですから」

 梨子は窓から、中庭の様子を眺める。
 そこには、三人の女子が。
 あーだこーだと騒ぎながらも、楽しそうに過ごしている。

梨子「あの子達の為に、私も何かしたいんですから」

鞠莉「……ありがとう」

 一言のお礼と共に、鞠莉が勢い良く立ち上がる。

鞠莉「なら早速、ティータイムの始まりデース! 紅茶はお好きかしら?」

梨子「はい。ありがとうございます」

 少しだけ。今は、もう少しだけ。
 この温かな時間を、噛み締めて置く事にした。
0051名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 00:19:35.93ID:itLpvc0G
今日はここまでにします。
0057名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 20:55:11.09ID:jTR4Ld4u
九龍妖魔學園記は、すどりんが出た回が一番笑った思い出。

それでは、続きを始めます。
0058名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 20:55:23.98ID:jTR4Ld4u
CHAPTER3
『凶兆 前編』

果南「ねえ、ダイヤ」

ダイヤ「どうしました? 果南さん」

 二人きりの生徒会室。
 生徒会の書類整理をしているダイヤに、果南は話しかける。

果南「あの転校生、鞠莉と接触したみたいだよ?」

ダイヤ「こちらでも把握しています。むしろ今までしてこなかったのが不思議なくらいですわ」

果南「いいの? このままじゃ、余計にやられ放題になるよ? ルビィだってーー」

ダイヤ「分かってます!」

 机を叩く。苛立ちを露わにする。
 果南は分かってはいたものの、そこまで怒るとは思っていなかった。

ダイヤ「いたた……」

 自分でやっておきながら、叩いた拳をヒラヒラさせて痛みを振り払う。

果南「ビックリした……」

ダイヤ「アナタが挑発してきたのでしょう!?」

果南「いや、挑発じゃなくて……私はただ、その、なんていうか?」

ダイヤ「……申し訳ありません。ですがもう、一刻の猶予もないのですわ」

果南「やっぱり、私もーー」

 果南の言葉に、掌を突き出して止める。

ダイヤ「ご心配には及びませんわ。私にも考えがあります。むしろ、あの二人が手を組んだのは好機ですわ」

果南「ダイヤ、どうするつもり?」

ダイヤ「彼女達は必ず、祠を訪れるでしょう。ならば、私は万全で迎えるのみ」

果南「いいの? 鞠莉を敵にするんだよ?」

ダイヤ「……最初から、覚悟してますわ」
0059名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 20:55:57.28ID:jTR4Ld4u
善子「ヨハネ、復活!」

花丸「善子ちゃん、やめるずら」

善子「なによ!?」

花丸「その前に言うべき事があると思うよ?」

善子「うう……この度はご迷惑おかけして申し訳ございませんでした」

 津島善子が回復し、登校するようになった日の昼休み。
 もはやお馴染みとなった屋上の一時は、コントから始まった。

梨子「身体はもう大丈夫?」

善子「はい。おかげさまで。能力も問題なく使えますし」

千歌「じゃあまだ堕天使続けられるね!」

曜「千歌ちゃん、それはちょっと酷だと思うよ……」

 千歌の言葉に苦笑いの堕天使。
 その力で梨子達と戦った手前、バツが悪いのだろう。
 梨子自身は気にしていないのだが。

ルビィ「あの祠の扉は、また開放されてるんでしょうか?」

 ルビィが言ったのは、先日新たに開放された扉の事だろう。
 善子との戦いを経て、また新たな扉が開くようになっているかもしれない。
 どういう理屈かは分からないが、謎を解く方向に進んでいると梨子は信じている。

梨子「恐らくは、そうね。それと花丸ちゃん」

花丸「は、はい!」

梨子「昨日、勝手に居なくなったのは駄目よ。本気で心配したんだから」

花丸「ご、ごめんなさい……」
0060名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 20:56:30.19ID:jTR4Ld4u
 叱られて落ち込む花丸。
 あの時は流されたのではなく、迷惑ばかりで活躍出来なかった不甲斐無さからの無謀。
 梨子にとっては予想外だったが、彼女なりに力になりたい一心からという事で。
 無茶はしないように、と釘を刺すだけに留めた。

梨子「それじゃあ改めて聞くけど、貴女にその力を与えたのは誰なの?」

善子「えっと……覆面で、マント羽織って、パンチで頭上の雲をふっ飛ばす力を持ってて……」

花丸「そんな人いるずら?」

善子「ホントなんだってば!」

 この期に及んで嘘はつかないだろう。ならば本当に、そんな怪しい奴がいるというのか。
 そういえば、内浦の怪しい噂に似たような物があった気がする。

梨子「内浦を徘徊する怪しい影……」

千歌「あ、それ。聞いたことある!」

曜「千歌ちゃん、あのね……」

千歌「なに〜?」

 千歌達経由の話題だと説明している間も、梨子は思考を巡らせる。
 怪しい影が善子と接触した存在なら、目的は何か。
 確か地元のゆるキャラの着ぐるみが徘徊するという噂もあったか。

梨子(でもさすがにゆるキャラではないでしょうね。同一人物かもしれないけど、使い分ける必要性が分からないし)
0061名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 20:57:03.09ID:jTR4Ld4u
ルビィ「あ、あの……」

 恐る恐る、という言葉を完璧に表現したルビィが。
 これから先、梨子に協力が出来ない事を告げた。

ルビィ「ルビィは、やっぱり梨子さんより、お姉ちゃんの方が心配なので」

梨子「そうね。ありがとう。ちゃんと伝えてくれて」

 余所者よりも、姉を選ぶ。
 その選択肢に間違いは無い。血の繋がった姉妹ならば。
 大好きな姉に、敵対させるのが酷というものだ。

善子「まぁぶっちゃけ、どっちが悪とか正義とか、アタシには分からないし? ルビィがしたいようにすればいいと思うわよ」

花丸「なんで善子ちゃんが良い風に言ってるずら」

善子「アンタは嫌でしょ? ルビィと対立するのは。嫌われ役はアタシに任せなさいよ」

曜「それを自分で言うんだ……」

千歌「善子ちゃん!」

善子「ひゃあぁあっ!?」

 突然千歌に抱き着かれ、素っ頓狂な悲鳴を上げる。

千歌「善子ちゃん良い子だね! 感動した!」

善子「い、いいから離しなさいよ!」

 そんな光景に、場がワッと盛り上がる。
 そんな中で梨子は、心から楽しんでいた。
0062名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 20:57:41.39ID:jTR4Ld4u
梨子「ユメーノトービーラ〜♪ ずっと探し続けた〜♪」

 どこかで耳にした歌を流しながら、夜の街を歩く梨子。
 今日は最低限、目立たない服装での散歩である。
 目的は無い。強いて言えば、例の怪しい影が彷徨いているかもしれないから。
 出会えたならよし、会えなくても気分転換が主なので、別に構わない。

梨子「あれは確か、ホテルオハラの工事現場だったはず……」

 小原鞠莉の父親が経営するホテルチェーン。
 今はまだ工事中で、カバーで覆い隠されている。
 ふと、梨子に疑問が浮かぶ。
 なぜたかだかホテル如きで、町が滅ぶ等という話が持ち上がったのだろう?
 そんな事を考えていた時。

くたびれた男性の声
「お嬢さん。こんな時間にこんな場所で、何をしているんだい?」

梨子「!?」

 突然、声を掛けられた。
0063名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 20:58:19.22ID:jTR4Ld4u
くたびれた男性の声
「ああ、驚かせてすまない。最近は怪しい噂が多いから、心配になってね」

 慌てて自身を擁護する言葉を並べる男性は、日本人では無かった。
 金髪碧眼、典型的な白人男性。
 日本語は流暢で、佇まいは紳士的。
 しかし梨子は瞬間。

梨子(この人は、危険……!)

 その男に恐怖を感じていた。

くたびれた声の男
「どうか、したのかな?」

 その恐怖は、何度も味わってきた恐怖。
 嘘を吐いている。
 この男は【嘘】で出来ている。

くたびれた声の男
「ああ、そうか。私もその怪しい輩に思われるか。私は小原総一郎。オハラグループの代表だよ」

 ホテルの建設現場を指差しながら、名乗る男。

梨子
「小原……もしかして、鞠莉さんのお父さん?」

小原「鞠莉を知っているのかい? ならその通りだよ」

 丁寧で柔らかい笑顔を向けてくる。
 最初に感じた恐怖もどこへやら、梨子が感じ取った恐怖は。
 既に和らいでいた。気のせいだったとでも言わんばかりに。

梨子(でも……)

 一度湧き上がった感情は、そう簡単には消えない。
 故に、警戒心は消さずに話を続けた。
0064名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 20:58:50.41ID:jTR4Ld4u
梨子「すみません。心配していただいたのに、失礼な思いをさせてしまって……」

小原「気にしなくてもいいよ。こんな夜だ。不審に思われても仕方ない」

梨子「はぁ……」

小原「しかし、この町に来てからトラブルだらけで参ってしまうよ。工事は進まない、鞠莉は何やら怪しい動きをしているようだし」

梨子「そうなんですか。大変ですね……」

小原「まぁね。ところで君は、なんでこんなところにいるのかな?」

梨子「その、気分転換にちょっと……」

小原「そうなのか。それにしてはちょっと無防備な気がするなぁ。さっきも言ったけど、最近物騒なんだから」

梨子「それは、すみません……最近引っ越して来たばかりなので」

小原「あ、そうだったのか。でも夜道に女の子一人は危ない。悪い事は言わないから、早く帰った方がいい」

梨子「そう、ですね。そうします」

小原「良ければ、送ってあげようか?」

梨子「大丈夫です。ここから近いので」
0065名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 20:59:17.53ID:jTR4Ld4u
 梨子は好意を丁重に断り、踵を返してゆっくりと歩き出す。
 姿が見えなくなってから、小原は耳に指を当てて話し始める。
 インカムが差し込んであり、部下に命令する為の装備を使う。

小原「私だ。桜内梨子を追跡しろ。家を突き止めるだけでいい」

 それだけ告げると、連絡を切る。

小原「経験豊富なようだが、まだまだ子供だな。私の気配にあからさまに反応するとはね」

 直接会った甲斐があった、と呟いて家に戻る。
0066名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 20:59:48.31ID:jTR4Ld4u
千歌「昨日はビックリしたよ〜! 急に家に止まりたいって言うんだもん」

梨子「ごめんね、どうしても眠れなくて」

千歌「いいよいいよ。私も色々お話聞けたからさ!」

 翌朝。
 梨子は昨晩、尾行を警戒して千歌の民宿に泊まることにした。
 向こうもさすがに、千歌の民宿のすぐ隣の家に住んでいるとは思わないだろう。

梨子「ところで千歌ちゃん。今日は補習は無いよね?」

千歌「無いよ! 無いよね?」

梨子「私に聞かないでよ……私が聞いてるんだから」

 二人で学校に入り、着席する。

千歌「今日は行くの?」

梨子「そうね。一応その予定だけど」

千歌「じゃあ今日は一緒に行ってもいい?」

梨子「ええ。もちろん」

千歌「やったぁ!」

 無邪気に笑う千歌に呆れつつも、安心感を覚える梨子。
 まだこの町の伝説、水神様の真実を見つけられない不安。
 それを忘れさせてくれるだけの眩しさに、頼もしささえ感じてしまう。

梨子(流石に、染まりすぎたかな……)

 今までの自分ならば、考えられなかっただろう。

梨子(でも、ここにいる間だけは)

 この温かさの中にいたい。
 それを壊すものは、絶対に許さない。
 改めて心に刻む梨子だった。
0067名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:01:17.58ID:jTR4Ld4u
CHAPTER4
『凶兆 後編』

善子「いざ、堕天の盟約に従い、ヨハネ、召喚!」

梨子「静かにして」

善子「あ、はい」

 そして、夜。
 津島善子と高海千歌を連れて、遺跡に向かう。

梨子「やっぱり、開いてる」

 以前とは違う扉が光を放っており、開くようになっていた。
 入ると、上り坂に加えて梯子を登っていく道のりになっている。

千歌「ここって、どの辺りなんだろね?」

善子「クックック……我が堕天レーダーによると、かなり高い位置にあるみたいよ」

梨子「それは登ってるんだからそうでしょ」

善子「なによ!」
0068名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:02:00.44ID:jTR4Ld4u
 軽口を交わしつつ、今度は下り坂の通路が出てきた。

梨子「……まさかね」

千歌「どうしたの?」

梨子「いえ、何でもないわ」

 梨子の中に、一抹の不安が過る。
 映画のトレジャーハンターは、こういう場所で。
 後ろから巨大な岩が転がってくるのを走って逃げる、という定番の絵面。
 まさかとは思いつつ足を進めていくと。
 ゴトン、という音が後ろから鳴り響いた。

千歌「へ?」

善子「……ねぇ、私嫌な予感するんだけど」

梨子「奇遇ね。私もよ」

千歌「え、なになに?」

 察した善子に、同意する梨子。分かってない千歌。
 しかし何か大きい物が転がる音がした瞬間。

『走れぇえええええっ!!』

 一目散に走り出した。
0069名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:02:52.64ID:jTR4Ld4u
善子「ちょっと! いくら何でもベタ過ぎでしょ!?」

千歌「うわわわわ!? 怖い怖い怖い!」

梨子「急いで! 速く!」

 懸命に走るが、少しずつ音が大きくなっていく。

千歌「扉だ!」

善子「ちょ、穴空いてるわよ!?」

梨子「っ! 千歌ちゃん、これ掴んで! 放さないで!」

千歌「え? え?」

 扉の少し手前の足場に、大きな穴が空いている。
 自分は飛び越えられるが、他の二人は分からない。
 咄嗟にワイヤーガンを扉の上に撃ち込み、千歌に持たせて。
 一気に引き寄せた。

千歌「ひゃわぁっ!?」

梨子「善子ちゃん!」

善子「ヨハネよ!」
0070名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:03:32.48ID:jTR4Ld4u
 すぐ後ろに迫る大きな岩が。
 穴まで転がって、落ちていく。
 否。穴に嵌って、その上を通れるようになった。

千歌「梨子ちゃん! 善子ちゃん!」

 向こう側を見るが、誰もいない。

千歌「うそ、梨子、ちゃん……」

梨子「千歌ちゃん、こっち」

千歌「え!? 梨子ちゃん!」

 声に振り返ると、背中に羽が生えた善子に抱えられる梨子の姿。
 二人で飛んで、善子が空中に持ち上げた事で事なきを得たのだ。

梨子「助かったわ、善子ちゃん」

善子「いえ、私も二人は抱えられないしどうしようかと思ってたから……」

千歌「梨子ちゃん!」

 無事な二人を見て、思い切り抱き着く千歌。

千歌「良かったよぉ……心配したよぉ……」

梨子「千歌ちゃん……ごめんね」

善子「クックック……! この堕天使ヨハネに感謝なさい」

梨子「調子に乗らないの」

 危機を抜けたからか、互いに軽口を叩けるようになる。
0071名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:04:19.21ID:jTR4Ld4u
 ともあれ、先に進む。
 扉の先には、短いながら幅の広い川が流れている。
 開けた場所になっていた。

千歌「川だ! ちっちゃいけど川がある!」

善子「クックック……これはこの世とあの世を分ける三途の川」

梨子「三途の川は既に亡くなった方が着く場所よ」

 ツッコミを入れて、川を見る。
 深さは分からないが、流れている以上入るのは危険に見える。
 上流は隙間から滝のように真っ直ぐ降り注いでおり、滝の向こうに扉が見える。

梨子「つまり、この滝を止めれば先に行けるって事ね」

千歌「なるほど〜!」

善子「でもどこで止めるのよ?」

梨子「うーん……ここは善子ちゃんの出番ね」

 まず周囲を確認。川の向こう側を、飛行可能な善子が渡ってチェックする。
0072名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:04:57.28ID:jTR4Ld4u
梨子「こっちには何もないわね」

善子「こっちにも何もないわよ? どうするの?」

 しかし滝を止める装置は見当たらない。

梨子「……壁を調べて見て? 他と違う物があるかもしれない」

善子「壁ねぇ……」

 全員で壁を叩き、反応を見る。
 しかしどこも変わりはない。

千歌「え? じゃあここで終わり? え〜!?」

善子「クックック……! ここはおそらく、次元の狭間に取り残された隔離空間」

梨子「じゃあ滝はどこから来てどこに流れーー」

 言いかけて、一つの可能性に思い至る。
 川に顔を突っ込んで奥を見る。
 川の流れる先は遠いが、微かに光が差しているように見える。
0073名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:05:22.99ID:jTR4Ld4u
梨子「ちょっと行ってくるわ」

千歌「え、まさか、中に入るの!?」

善子「流されて、溺れたらどうするのよ!?」

梨子「でも、ほかに道がないなら、この先にあるとしか思えないわ」

 梨子は必要な装備だけ持って、川に飛び込む。

善子「ちょ、せめて命綱とか! 気が早すぎ!」

千歌「梨子ちゃん!」

 気泡が消え、川の流れる音だけが響く。

善子「ちょ、ホントに行くとか信じらんない!」

千歌「梨子ちゃん……ん?」

 動揺する二人の後ろに、何者かの影がのしかかる。
0074名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:06:03.34ID:jTR4Ld4u
 流れに乗って、一気に突き進んでいく梨子。
 しばらく進んだ先に、上がる事が出来る場所にたどり着いた。

梨子「ぷはぁ! はぁ、はぁ……!」

 なんとか身体を川から出して、一息ついた。
 梨子の思った通り、たどり着いた小部屋にはスイッチがあった。
 これを押せば、水が止まるはず。
 そう思ってボタンを押すと、予想通り。
 けたたましい音と共に、少しずつ川の水が減っていく。

梨子「よし! やっぱり予想した通りーー」
0075名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:06:45.43ID:jTR4Ld4u
??「きゃああああああ!?」

梨子「!? 千歌ちゃん!? 善子ちゃん!?」

 遠くで聞こえた悲鳴。二人に何かあったのかもしれない。
 川の水はまだ腰の辺りまで残っている。
 しかし待っている余裕は無い。
 飛び込んで流れに逆らいながら進んでいく。
 何が起きたのか。二人は無事なのか。
 焦る気持ちを必死に抑えて、懸命に走り抜けると。

梨子「千歌ちゃん! 善子ちゃん!」

千歌「うちっちーだ! うちっちーがいる!」

善子「……いや、ホラーでしょこんなの」

 茶色い着ぐるみに千歌が抱き着いていた。
 善子は訝しげにそれを見つめている。

梨子「えっと、何? これは」

善子「あ、リリー! すぐに飛び込むんだから、心配したわよ!」

梨子「ご、ごめんなさい。それで、これは一体、どういう事?」

善子「私に聞かないでよ……」
0076名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:07:24.29ID:jTR4Ld4u
 とにかく。
 二人に危険が無いことを安堵する。
 しかしこの着ぐるみが謎すぎる。

梨子「一体どこから来たんだろう……」

善子「ホントよね……」

 しばらくすると、うちっちーが短い手足を使って。
 滝の裏にあった扉を開ける。
 先に進もう、と言っているのだろうか。

善子「どうすんの?」

梨子「そうね……」

 流石に謎すぎる状況の為に、一緒に行くのは気が引けてしまう善子と梨子。

千歌「行かないの? うちっちーも呼んでるよ?」

 短い腕を振って梨子達を誘う。

梨子「行くしか、ないわね」

善子「何か起きたら、その時は」

梨子「うちっちーを撃ち抜く」

善子「うちっちーを撃ちっちー、って事ね」

梨子「冗談は善子さんよ」

善子「ヨハネ!」

 結局、追い掛ける形になる三人。
 うちっちーは走ってどんどん先へと進んでいく。
0077名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:08:04.16ID:jTR4Ld4u
千歌「ちょ、はやいようちっちー!」

善子「どうする? さすがに怖いんだけど」

梨子「慌てずに行きましょう。何が起こるか分からないし」

 あえてゆっくりと足を進める。
 うちっちーが敵か味方かも分からない今は、それが最適。
 進んでいくと、いつものように。
 開けた場所にたどり着いた。

善子「決戦の地ね、リリー」

梨子「ねぇ、今更だけどリリーって何?」

善子「リトルデーモンリリー。かっこいいでしょ?」

梨子「却下」

 不満を漏らす善子を尻目に、奥へ進む。
0078名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:08:38.69ID:jTR4Ld4u
千歌「うちっちー?」

梨子「一本道なのに、いなくなった?」

はつらつとした声
「アタシならここだよ」

 声が響く。
 聞いたことのない声。
 うちっちーの頭を外した人物が、奥に立っていた。

千歌「果南ちゃん!?」

果南「やぁ、千歌。それとはじめましてだね、転校生さん。私は松浦果南。浦の星女学院の三年生だよ」

凛々しい声
「やはり来ましたわね、桜内梨子さん。私は生徒会長、黒澤ダイヤ」

 更にその影から、別の女性が現れる。
 梨子達が来るのを予測していたようだ。
0079名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:09:12.13ID:jTR4Ld4u
ダイヤ「あなたの事情は知りませんが、これ以上この内浦を穢す振る舞いをするのならば……鞠莉さん共々、ここで成敗いたしますわ!」

梨子「……」

善子「……」

千歌「……」

果南「ダイヤ、ダイヤ。鞠莉いないよ?」

ダイヤ「へ?」

 果南の言葉に見回して。
 鞠莉がいない事を確認して。

ダイヤ「どうして先に言わないんですの!?」

 キレた。

果南「いや、私は転校生が来たって言っただけで」

ダイヤ「その時に鞠莉さんがいない事も伝えれば良いでしょう!?」

果南「いや、名前出すと思わないし」

ダイヤ「お、おホン! と、とにかく! ですわ!」

 なんとか仕切り直そうと声を張るが。
 既に残念な印象は拭えない。
0080名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:09:50.22ID:jTR4Ld4u
善子「アタシが言うのも何だけど、大丈夫なのこの生徒会長で」

千歌「さぁ……一応黒澤家は名家だから、お嬢様なんだとは思うけど」

ダイヤ「そこ! こそこそ話をするんじゃありません!」

 完全にぐだぐだな空気になってしまった。
 しかし梨子は、落ち着いて話を切り出す。

梨子「私はこの遺跡の調査、ならびに秘宝の管理状況を把握する為に来ました」

ダイヤ「……それはつまり、自分は戦う意志は無いと?」

梨子「はい。私は敵対するためではなく、問題の解決を第一に考えています。この遺跡を守護するアナタには分かってもらえないかもしれませんが」

ダイヤ「ええ。ここは遺跡ではなく祠。魂を鎮める為に作られた聖域なのです」

梨子「そこが知りたい所なんです。どうして水神様は人々を苦しめる事をしたのか。そこさえ分かれば」

ダイヤ「その答えを知りたいならば、私を倒してみなさいな」
0081名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:10:26.61ID:jTR4Ld4u
 その言葉を皮切りに。
 果南が後ろに下がるのと同時に。
 大気中の水分が、ダイヤの元に集まる。

ダイヤ「水神様の巫女として、あなたを排除します」

梨子「……話し合って、解決したかったのだけど」

 構える梨子。
 既にダイヤを取り囲むように水が蠢いている。
 ダイヤの手が、横薙ぎに振るわれる。
 その軌道に合わせて水弾が梨子を襲った。

梨子「くっ!」

善子「リリー!」

梨子「二人は下がってて!」

 指示を出しつつ、前転で避ける。
 どうにかして接近したいが、縦横無尽に襲い掛かる水の動きに。
 蛇のように追い掛けてくる水を回避するだけで精一杯。

ダイヤ「どうしました? 避けてばかりでは私には勝てませんわよ!」

梨子「くっ……」

 懸命に動きながら、反撃の道筋を模索する。
0082名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:11:09.92ID:jTR4Ld4u
果南「ダイヤ!」

ダイヤ「っ!?」

 梨子の動きに何かを感じ取った果南が叫ぶ。
 前転の際に何かを、ダイヤに向けて滑らせていた。
 ダイヤも果南の声で気付き、床にあったソレを。
 水の蛇が飲み込んだ。

梨子「っ!」

ダイヤ「私としたことが、危ない所でしたわ。そして、これで詰みですわ」

 梨子を、全方位から水が飛びかかる。
 逃げ場はない。
 しかし梨子は落ち着いて。
 狙いを定めて、発砲。

ダイヤ「きゃあっ!?」

果南「うお、まぶし!?」

 梨子が滑らせたのは、閃光弾。強烈な光を放つ手榴弾である。
 撃ち抜く事で、目の前で炸裂した閃光に怯むダイヤ。
 その隙を梨子は逃さず、一気に詰め寄ると。
 腕を取って後ろに回し、床に押さえつけた。
0083名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:11:42.89ID:jTR4Ld4u
梨子「ふう……これで、水は操れないですよね」

ダイヤ「な、なぜそれを!?」

梨子「さっきの閃光弾。一歩も動く事なく水で包みましたよね? 普通爆発物を見れば、少しでも距離を離したくなるものなのに」

ダイヤ「……」

梨子「逆に言えば、動けない理由があった。例えば、足が地に着いていないと上手く操れないとか」

ダイヤ「……完敗、ですわね。お好きになさい」

 完全に負けを認めたダイヤ。
 それを見て、拘束を解除して立ち上がる。

梨子「それじゃあ、教えて下さい。この町の水神様の話を。それと、善子ちゃんを巻き込んだ事を」

ダイヤ「……何の事ですの?」

梨子「とぼけないで。善子ちゃんに水神様の加護を授けたでしょう?」

果南「それはないよ」

 梨子の問いに、果南が答えた。
0084名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:12:37.22ID:jTR4Ld4u
果南「だってダイヤは、私にも授けようとはしなかった。それなのにその子に授けるなんてありえない」

ダイヤ「それに水神様の加護を授かるということは、贄に選ばれるという事。それを私が良しとするとでも?」

梨子「贄……? じゃあ、善子ちゃんに力を与えたのは一体?」

 梨子の疑問に対して答える者はなく。
 しかし突然、善子が苦しみだした。

善子「ぐぁっ!? う、ぁああ……!」

千歌「善子ちゃん!? 大丈夫!? 善子ちゃん!」

善子?「フフフ……感謝スルゾ、異邦人ヨ」

 その声は、善子の物ではなく。
 悍ましさを叩きつけてくる。

善子?「貴様ノオ陰デ、我ガ封印モアト少シデ全テ解カレル」

ダイヤ「まさか、ミズチ……!?」

梨子「ミズチ?」

 聞きなれない単語。
 しかしそれを聞いてほう、と。
 少しばかり驚いてみせる。

善子?「妾ノ名ヲ知ルトハ、貴様ガ巫女カ。オノレ忌々シイ……ダガココマデ来レバ、完全復活モ夢デハナイ」

ダイヤ「やはり、こうなってしまいましたか……」

梨子「あなたの目的は何なの?」

 梨子の問いに知れたこと、と。

ミズチ「水神ト巫女ノ血ヲ引ク奴等ヲ皆殺シニスルノダ! 我ガ怒リト憎シミヲ雪グニハソレ以外アルマイテ」

 内浦ノ民を殺すと、言ってのけた。
0085名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:13:04.64ID:jTR4Ld4u
梨子「水神様と巫女の? 神と人が交わったの?」

ミズチ「黙レェエエエエエッッ!!」

 梨子のたどり着いた答えに、強烈な反応を見せる。
 善子の顔とは思えぬ怒りの形相。
 どれほど憎んでいるのかは想像に難くない。

ミズチ「妾ノ悲願モアト少シダ……フフフ、ハハハハハ……!!」

 高らかに笑い終えると、善子の身体が膝をつく。

千歌「善子ちゃん! 大丈夫?」

善子「はぁ……はぁ……!」

 身体が震えている。顔色も真っ青だ。一刻も早く休ませなければ。

ダイヤ「話は、翌日。黒澤家の屋敷にてお話いたしますわ」

果南「ダイヤ、平気なの?」

ダイヤ「ええ。事態は急を要します。全力でミズチを再封印しなければ」

千歌「このままだと、みんな死んじゃうの?」

 千歌に質問に、ダイヤは何も言わなかった。
 言えなかったのかもしれない。
 誰だって、平常心ではいられない。

梨子(私がやって来た事は、間違っていた?)

 疑問に答えはなく。されど止まるわけには行かず。
 何よりも、決意は変わらない。

梨子(守ってみせる。必ず!)
0086名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/19(月) 21:14:28.12ID:jTR4Ld4u
今日はここまでにします。

オリジナルキャラが出る事を、先に言えば良かった……

苦手な方いたらすみません。
0087名無しで叶える物語(SIM)
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2020/10/19(月) 22:00:55.13ID:hpdkKJ0H
超力作乙 九龍好きだしめちゃくちゃ楽しい
ジュヴナイルものとラブライブの相性いいな
0090名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:38:55.26ID:8s9P7YSm
知ってる方いて嬉しい。

しかしドロップアイテムの回収法や入れ替えを知らないまま真里野の章まで進めた阿呆は私くらいだと思う。

それでは、続きを始めます
0091名無しで叶える物語(やわらか銀行)
垢版 |
2020/10/21(水) 00:39:39.75ID:8s9P7YSm
CHAPTER5

【誰が為に引き金を 前編】

 黒澤家の屋敷に案内された梨子。
 客間には既にダイヤとルビィが並んで座っていた。

ルビィ「お茶どうぞ」

梨子「ありがとう、ルビィちゃん」

 出してもらったお茶を一口いただいてから、話を切り出す。

梨子「説明して、いただけるんですね?」

ダイヤ「はい。私の知る限り全てを」

 向かい合い、姿勢を正す。
 お茶を一口啜ってから、ダイヤは語り始める。
 古より、内浦に続く因習を。

ダイヤ「ミズチとは、水神様の番……要は妻の名前ですわ」

梨子「妻……夫婦の神様なんですか?」

ダイヤ「ええ。ミズチはこの土地で生まれた豊穣の神であり……水神様と共にこの町の民を守り、慈しむ存在でした。しかしある時」

 選ばれた巫女は、余命幾ばくも無い少女。
 美しく、儚く散ってしまいそうなほど。
 その少女が死に引き込まれていくのを哀れんだ水神様は。
 己の血を、巫女に与えた。

ダイヤ「文献には様々な描写がありますが……ともあれ水神様は巫女と交わった。本来神が人間と交わる事は禁忌とされています」

梨子「それにミズチは怒りを?」

ダイヤ「ええ。この土地に生きる者全てを根絶やしにしようと……しかし巫女と水神様は、力を合わせて封印を施した。そしてその怒りを鎮める為に、巫女は鎮魂祭を開き舞うのです」

梨子「それが何故贄に?」

ダイヤ「……飢饉や伝染病がミズチの怒りによるものだという声により、巫女を生贄に捧げることもあったと聞いています」

 つまり現在の土地開発は、それ程の声が上がる事態だというのか。
0092名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:40:20.17ID:8s9P7YSm
 梨子は更に踏み込む。

梨子「今の状況は、本当にそこまで切迫しているのですか?」

ダイヤ「分かりません。しかしオハラグループが来てから、この内浦に良くない気の巡りが漂うようになりました」

ルビィ「お姉ちゃんは、巫女の血を強く受け継いでるから分かるんだよ」

 その言葉に、なるほど、と頷く。
 そして確かに、あの小原総一朗という男は。
 恐ろしい人だと、全身で感じ取った。

ダイヤ「私は封印を守る為に、あなた達を止めようと思っていたのですが……もしかすると、ミズチはこの機会を狙っていたかもしれませんね」

 トレジャーハンターとしてロゼッタ協会から派遣された梨子。
 善子に与えられた力、暗躍する影。
 そしてオハラグループ。
 少しずつ、ミズチが関係しているとみて間違いないだろう。

梨子「これから、どうしますか?」

ダイヤ「恐らくミズチは、オハラグループも利用するはず。鞠莉さんにもしっかり伝えておいていただければ」

梨子「ダイヤさんが直接ーー」

ダイヤ「それは出来ません。私達は黒澤家として、対立の姿勢を崩せないのです」

梨子「そう、ですか……」

 水神様の物語は把握出来た。
 しかしだからといって、ミズチをどうすれば止められるのかは分かっていない。
 ダイヤもどのような方法かまでは、知らないという。
0093名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:40:59.37ID:8s9P7YSm
梨子「ふぅ……」

 黒澤邸を後にして、商店街を歩く。
 所々シャッターが降りたままの店もあるが。
 買い物客はそこそこ多い。
 人混みと呼ぶには物足りないかもしれないが。
 間違いなくここには、生活がある。

梨子(傲慢ね……守りたい、なんて)

 それでも、と思う。この街を好きになったのだから。
0094名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:41:27.35ID:8s9P7YSm
 携帯電話が震える。
 ダイヤからのコール。

梨子「どうしました?」

ダイヤ『ルビィの事、伝え忘れていましたので。助けていただき、本当にありがとうございました』

 律儀だなぁ、などと思いながら。
 一言返して、電話を終える。

梨子(守らなきゃ……なんとしても)

 ミズチ復活を阻止するために、決意を新たにする。
0095名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:41:56.55ID:8s9P7YSm
 翌日。
 いつも通りに学校に着くと。

鞠莉『シャイニー、エブリワン! 緊急集会を開くから、体育館にカモン!』

 唐突な、全校集会。

千歌「どうしたんだろね?」

曜「最近物騒だし、注意喚起とかかな?」

梨子「それなら、先生方からでも問題無いと思うけど」

 疑問は尽きないまま、体育館に生徒達が集まる。

ダイヤ「鞠莉さん! 突然集会を開くなんて、何を考えているのですか!?」

 どうやら聞かされていなかったのだろう。
 ダイヤが鞠莉に詰め寄ろうとして。

鞠莉「全員、動くな」

 拳銃を、突き付けた。
0096名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:42:36.92ID:8s9P7YSm
ダイヤ「なん、で、悪い冗談はーー」

高圧的な男の声
「冗談ではない」

 奥から現れる、男性の声。
 それは梨子が、恐怖と嫌悪を抱いた声。

小原「君達は全員人質だ」

 言い終わると同時に、武装した集団が。
 銃を構えて生徒達を取り囲む。
 当然恐怖で悲鳴を上げる生徒達。
 一人ずつその場に座らせて行くと、静かになった所で切り出した。

小原「さて、静かになった所で……桜内梨子」

 一人の少女の名を、呼びつける。

小原「桜内梨子。いるんだろう? 立て。五秒数えるまでに」

ダイヤ「何を!」

小原「出てこなければこの女を撃ち殺す。五、四、三ーー」

 一人、立ち上がる。
 それは当然、桜内梨子。
 覚悟はしていたが、このような暴挙に出るとは。
 自分の甘さを恨む事になる。
0097名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:43:14.93ID:8s9P7YSm
梨子「私です。お久しぶりですね」

小原「やぁ、久しぶりだね。君のお陰でこの土地は我々の物だ」

梨子「それを、街の人たちが……水神様が許すと?」

小原「ふむ。君は知らないのか。それとも惚けているのか……どちらでもいい。撃て」

 桜内梨子に、鞠莉の銃口が向けられる。

梨子「たった一人の女の子相手にここまでしますか?」

小原「一人で任せられる程の実力者なのだろう? トレジャーハンター君?」

梨子「……」

小原「やれ」

 もう駄目か、諦めかけたその時。
 運命は、天秤を少女に傾けた。
 今までの不幸を、帳消しにせんが為に。
0098名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:43:47.59ID:8s9P7YSm
荘厳さを全面に押し出した声
「ハーッハッハッハ!」

小原「?」

荘厳さを全面に押し出した声
「堕天、降臨!」

 叫び、豪風と共に梨子の前に舞い降りたのは。
 漆黒の翼持つ堕天使。

善子「堕天使ヨハネ、召喚!」

梨子「善子ちゃん!?」

善子「ヨハネよ! それよりも、この窮地を脱するわよ! リトルデーモン!」

 指を鳴らすと、かつて遺跡で戦った化物鳥が姿を現す。
 羽ばたいて激しい風を巻き起こし。
 戦闘員達が手に持っている武器を全て外へと吹き飛ばした。

善子「さぁ、我が堕天の力にひれ伏すがいいわ!」
0099名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:44:22.36ID:8s9P7YSm
戦闘員
「この!」

 戦闘員達が、懐から新たな銃器を取り出そうとする。

ルビィ「ピギィいいいいいいいっ!!」

 体育館全体が、上下に揺れる。
 ルビィが放つ超音波が、体育館を乱反射し。
 立っている人間は、姿勢をまともに保てなくなってしまう。

ダイヤ「今ですわ!」

梨子「ふっ!」

鞠莉「っ!?」

小原「くそっ! 来い、マリー!」

 隙を突いて、鞠莉の拳銃を蹴り飛ばす。
 よろめきながらも、小原は娘を連れて体育館を抜け出した。
 行き先は、もはや言うまでもなし。

梨子「善子ちゃん!」

善子「だからヨハネだっての!」

ダイヤ「こちらは問題ありません」

 協力してもらおうと声を掛けた時には。
 ダイヤの水を操る力によって、全ての戦闘員が拘束されていた。
0100名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:45:12.94ID:8s9P7YSm
ダイヤ「とにかく今は、校内の安全を確保しましょう」

果南「無理したら駄目だよ?」

ダイヤ「ご安心を。既に黒澤家に連絡はしてありますからすぐに済みますわ。それより」

 ダイヤは改めて梨子を見やる。

ダイヤ「鞠莉さんの事は、梨子さんにお願いします」

梨子「ダイヤさん……」

善子「わたしもついてるし、大丈夫よ」

 当然だと言わんばかりの善子。 
 もちろん、心強い仲間ではあるが。

善子「今更、危険だからとか言うんじゃないわよ? 一人で行かせる方が心配だし」
0101名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:45:41.65ID:8s9P7YSm
ルビィ「ルビィも、一緒に行きます! ルビィの力、役立てて下さい!」

 今度はルビィが自分から立候補をする。

ダイヤ「ルビィ!? 危険ですのよ!?」

ルビィ「この町の皆を守る。それが、巫女の役目なんだよね? だったら、ルビィも守りたい!」

ダイヤ「ルビィ〜!」

 感動のあまり泣き出すダイヤ。
 少し茶番じみたやり取りになりつつも。
 梨子は善子とルビィを連れて。
 遺跡へと向かった。

梨子「この先には、おそらくさっきの戦闘員もいるはずよ」

善子「我が堕天の力があれば、恐れるに足りんわ!」

ルビィ「頑張るビィ!」
0102名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:46:35.69ID:8s9P7YSm
CHAPTER6
【誰が為に引き金を 後編】

 遺跡に入ると、最後に残っていた扉が光を帯びて。
 手を掛けると、ゆっくりと開いた。

梨子「最後の扉ね……」

善子「ファイナルラグナロクの時は近い」

ルビィ「今はやめよ?」

 辛辣な抑止の言葉に、恐怖する仲間を連れて。
 梨子は遺跡を突き進んでいく。
 前回と全く逆方向。ひたすら下へと進んで行く。
 そして、途中から感じていた違和感の正体が判明した。

梨子「これは……熱を発してる?」

善子「まさか、地獄の業火……! ヘルインフェルノだというの!?」

 赤く燃えているような壁は、手をかざすと熱を発しているのが分かる。

ルビィ「インフェルノは煉獄だから、意味がダブってるんじゃ……」

善子「……」

梨子「……熔岩、ではなさそうね。触るのは絶対に危険だけど」

 ひとまず、ツッコミどころは置いておくとして。
 梨子は妙な暑苦しさの正体に納得し、先を急ぐ。
0103名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:47:23.12ID:8s9P7YSm
梨子「これは……」

 扉の先には、両脇に二体ずつ並べられた女性の像が。
 向かい合うように設置されていた。

善子「踊り子?」

ルビィ「巫女だよ。この内浦を治める役目を負った、水神の巫女の像」

 ルビィの説明が終わった所で。

梨子「ふっ!」

戦闘員「ぐはっ!?」

 ルビィの背後目掛けて発砲。
 ライフルを構えた戦闘員が、アタマを撃ち抜かれて倒れた。

梨子「大丈夫?」

ルビィ「は、はい……」

善子「し、死んだの……?」

梨子「そうよ。私が殺した。そうしないと、二人が殺されると思ったから」

 突然の出来事に、思考が追い付かない二人をよそに。
 淡々と告げて、先に進む。
0104名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:47:58.83ID:8s9P7YSm
善子「……」

ルビィ「……」

 二人も、ショックから立ち直れずに黙り込む。
 それでも帰ることはせずに、次の部屋に足を進めた。

ルビィ「あれ? ここにも、巫女の像がある」

 開けた場所の中心に、小さな祠があり。
 奥には八体の巫女の像が、こちらに向かって一列に並んでいる。
 巫女の像は全て同じ姿形をしており。
 姿勢を正しているように見える。
 そして。

善子「ひぃ!?」

ルビィ「た、倒れてる!?」

 床に体を投げ出している、戦闘員の姿を確認した。
 銃を構えて警戒しながら、仰向けに転がす。

梨子「干上がってる……?」

 まるで、全身の血を抜き取られたような乾き切った状態の死体。
 確認したのを待っていたかのように、扉からガチャリ、と。
 ひときわ大きく音が鳴る。
0105名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:48:42.26ID:8s9P7YSm
善子「え!? うそ、開かない!」

ルビィ「ピギィ! ルビィ達、閉じ込められたの!?」

梨子「落ち着いて! まずは何かヒントになる物を探して!」

 急いで周囲を捜索。
 八体の巫女の像。そして隅に置かれた石碑に、この部屋から脱出する為のヒントと思しき言葉が刻まれていた。

梨子「鎮魂の儀を行いし巫女。されど怒りは収まらず、その身を贄として捧げられる……」

善子「ダイヤが言ってた贄って、私達の事!?」

梨子「いいえ。ここで言う贄として捧げられるのは、この八体の像の事よ」

 しかし、ここからどうすればいいのか。
 ひとまず像を調べてみる。

梨子「この像、回転させる事が出来るみたいね」

善子「ホント? よいしょおわぁっ!?」

ルビィ「ピギィ!? ぞ、像が動いたよぉ!」

 八体の像は四方向に向きを変えられ、そしてスライドさせる事が出来ると判明した。
 そして部屋の中心に鎮座する祠。

梨子「多分、祠を中心に囲むように配置すればいいと思うんだけど……」

善子「じゃあ早くしましょ。なんか暑くなってきたし」

ルビィ「そういえば……なんだかさっきより暑いような」

梨子「っ!? 急いで! 早く並べるのよ!」

善子「な、なによ突然!?」

梨子「さっきの死体は、部屋が限界まで暑くなったから出来た死体よ!」
0106名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:49:31.16ID:8s9P7YSm
 室温が人間の耐えられる温度を超えた為に、全身の水分が干上がってしまった。
 ここに来るまでに見た熱された壁。
 おそらく中に入った者を、熱で殺す為の罠。

梨子「奥からドンドン移動させて!」

ルビィ「わ、分かりました!」

善子「何なのよもう!」

 祠を囲むように巫女の像を動かしていく。
 床に所々、固定させるためにあるのだろう。
 窪みのようなモノが八ヶ所見受けられる。
 先に運んだ像が邪魔にならぬ様に、急いで八ヶ所全てに配置する。

善子「何も起きないわよ!?」

梨子「祠に身体を向けて!」

 既に汗が止まらない温度に上昇する中。
 四方から祠を見るように向きを変える。
0107名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/21(水) 00:50:03.71ID:8s9P7YSm
ルビィ「何も変わってない……!?」

善子「話が違うわよ! えほ、おほ……!」

梨子「落ち着いて! 方向を変えて見ましょう!」

 熱で喉が乾いてくる。
 それでも動きを止めず、汗だくになりながら。
 全ての像を、祠を背にするように向きを変えた瞬間。

梨子「くっ!?」

善子「ひゃあっ!?」

ルビィ「ピギィ!?」

 像が爆発。轟音と共に破壊される。
 そして強い風の音が、熱風を外へと逃していく。

梨子「……部屋の温度が下がってるわね」

善子「た、助かった……!」

ルビィ「あ! 祠の中に!」

 いつの間に現れたのか。
 祠の中にある台座の上には。
 美しい装飾が施された、小さな鏡が置かれていた。

善子「綺麗……」

梨子「これは、大事な物ね」

 丁寧に仕舞うと、先に続く扉へ向かう。
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