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内浦妖魔學園記
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0001名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:45:59.92ID:rXFdQwJA
CHAPTER0
『浦の星女学院の転入生』

 この物語の主人公の名前は桜内梨子。
 今日から浦の星女学院に通うことになった、高校2年生。
 しかし彼女には、もう一つの顔がある。
 それはーー

梨子「桜内梨子です。仕事の関係で色々な所を回っていますが、ここでも素敵な出会いがあればいいなと思います。皆さん、よろしくお願いします」

 自己紹介を済ませ、深々と頭を下げる。
 ここでいう『仕事』とは、親の仕事ではなく。
 彼女自身の生業を指している。

千歌「私、高海千歌! よろしくね♪」

曜「渡辺曜だよ。全速前進、ヨーソロー!」

 クラスメイトの高海千歌と渡辺曜。
 気さくな二人に学院内を案内してもらい、一緒にお昼を食べて。

千歌「最近ね? この内浦で怪しい影を見た人がいるんだって」

梨子「怪しい影?」

曜「知ってる知ってる! 水泳の先輩が話してた! 確か着ぐるみみたいに大きいんだよね?」

千歌「そうなの? でもこの辺で着ぐるみって言ったらうちっちーだよね?」

曜「あたし、この前バイトで中に入った事あるよ」

梨子「うちっちー?」

 地元のゆるキャラの噂話などで盛り上がって。
 学校が終わり、二人と別れて。

梨子「ふぅ……行こう」
0002名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:47:25.79ID:rXFdQwJA
 夜の内浦の街を、彼女は駆け抜けていく。
 風が、不安を煽るようにざわつく。
 そのざわつきも、もう慣れてしまっていた。

梨子「よし。着いた」

 そこは、今日から通い始めた場所。
 浦の星女学院。
 既に調査報告を受けていた、校舎裏の山へと入っていく。

梨子「確か、この辺りに反応があったはず……」

聞き覚えのある少女の声
「何してんの?」

梨子「!?」

 突然話し掛けられて、梨子は思わず身構えた。
 そこにいたのは、千歌ちゃんーー高海千歌だった。
 いつからそこにいたのか。
 探す事に夢中で、尾行されている事に気付かなかった。
 完全に、梨子のミス。

千歌「なんか、凄い装備してるけど……何か探してるの?」

梨子「えっと、これはーーきゃあ!?」

千歌「うわわわわっ!? じ、地震!?」

 どう説明すればいいのか。そう思った矢先に起きた地震。
 少しの間とはいえ、立つことすらままならない程の大きな揺れ。
 完全に治まったのを確認してから、辺りを見回す。

千歌「うわっ!? 何アレ!?」

 千歌が叫ぶ声で振り向くと、そこには大きな裂け目が。
 奥深くまで続く、入り口が姿を見せていた。

梨子「これって……!」
0003名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:48:03.92ID:rXFdQwJA
 恐らくこれが、梨子が探していた物だ。
 周囲の木の中から、一番太くて丈夫な幹にロープを括り付けて、ゆっくりと降りていく。
 何があるか分からないが、何かがある。
 期待を込めて降り立った場所には。
 広い空間。照明によって視界に入ってきたのは、間違い無く遺跡だった。

梨子「ここね。調査対象は……」

千歌「ひゃわぁっ!? あいてっ!」

梨子「え、ち、千歌ちゃん!?」

 素っ頓狂な声と共に、お尻で着地した千歌。

梨子(完全に存在を忘れていた……!)

 どうしよう、と再び閉口した。
 本来なら誰にも秘密にしなければならないはずなのに。
 遺跡の存在まで知られてしまうとは。

千歌「あいたたた……うわ〜、凄いねここ! 私全然知らなかったよ!」

梨子「……」

千歌「梨子ちゃん梨子ちゃん! 梨子ちゃんって何者なの!? なんかロープ結ぶのも早いしスルスル降りてくし!」

 しかし、これはもう。
 隠す事は不可能だろう。

梨子「千歌ちゃん、よく聞いてね?」

千歌「うん」

梨子「私、実はーートレジャーハンターなの」

 これは【ロゼッタ協会】に所属するトレジャーハンター、桜内梨子の。
 内浦の遺跡を巡る物語だ。
0004名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:49:11.69ID:rXFdQwJA
CHAPTER1
『事実は小説よりも奇なり』

曜「ねぇ梨子ちゃん。梨子ちゃんって、トレジャーハンターなんだって?」

 朝のホームルームの、開口一番。
 隣の席からの声に、桜内梨子はずっこける事になった。

梨子「な、な、なんで……!?」

曜「いや〜、千歌ちゃんが朝からな〜んか言いたくて言いたくてたまらないって顔してたからさ。あ、モチロン誰にも言わないよ? ただぁ、アタシも連れてって欲しいなー、なんて」

 昨夜、自身の正体を千歌に明かした後。
 誰にも言わないようにと釘を差したにも関わらず、この始末である。
 本人は現在、眠っていた所を教師に叱られていた。
 そして今、梨子に睨め付けられている。

梨子「千〜歌〜ちゃ〜ん?」

千歌「ご、ごめんごめん。どうしても曜ちゃんには話したくて、つい……」

 まぁ、知られてしまったものはしょうがない。いや、よくないが。
 心の中でそう独りごちた後の、昼休み。
 梨子は一人、遺跡の情報を調べる為に図書室を訪れた。
 図書委員の子に、地元の歴史に関する書物がどこにあるか尋ねる。

おっとりした図書委員
「それなら、一番奥の隅っこになります」

梨子「ありがとうございます」

おっとりした図書委員
「いえ、これがオラの仕事なので」

梨子「おら?」

おっとりした図書委員
「はうっ!?」

 梨子が聞き返すと、頭を抱え出す。

梨子(ひょっとして、地元訛りが出たのを気にしているのかな?)
0005名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:49:42.44ID:rXFdQwJA
オドオドした少女
「花丸ちゃん。あ、あの……」

おっとりした図書委員
「ルビィちゃん? どうかしたの?」

 髪を左右に結わえた小柄な子が、図書委員に話し掛けた。
 図書委員は花丸、という名前らしい。
 そして小柄な子は……梨子の聞き間違いでなければルビィという名前のよう。
 ルビィは梨子をジッと見て、酷く怯えているようだ。
 困った顔に見えたのか、花丸が梨子に向かって話し掛ける。

花丸「すみません。ルビィちゃん、人見知りなので」

ルビィ「ご、ごめんなさい……」

 何も悪い事はしていないのに、謝られてしまった。
 梨子はいえいえ、とだけ言って目的の書物を読むことにした。
 この内浦には豊穣をもたらす土地神ーー水神様がいるらしく。
 あらゆる災厄、特に水難事故から人々を救ったとされている。
 しかし一度、その神の怒りにより壊滅の危機に瀕した事もあるとか。
 そのため毎年夏は、海で祭りが行われているようだ。
 海の神様を奉り、鎮める為。

ルビィ「………………………」

花丸「ルビィちゃん?」
0006名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:50:21.25ID:rXFdQwJA
 夜。千歌と曜の二人を引き連れて遺跡へと向かう。
 しかし二人はちょっと出掛けるような感覚でいる為、改めて忠告する事にした。

梨子「二人とも。悪いけど、この先は命に関わるの。本当に危険なのよ?」

千歌「大丈夫! ほら、ボールいっぱい持ってきたし!」

曜「アタシはバット! 体力にも自信があるよ!」

梨子「……命を、落とすかもしれないの」

 梨子は本気で、二人に告げた。
 保障が無い事を。誰にも知られずに、終わりを迎える可能性を。

梨子「私は二人の命を守れるほど強くないし、責任を負えないの。だから……」

千歌「そんな場所に、一人で行こうとしてるんだよね?」

梨子「え、ええ。それが私の仕事だから」

千歌「ダメだよ」

 それは梨子自身の言葉よりも、強く、強く響いた。

千歌「誰にも知られずに死んじゃうなんて、辛いよ? 悲しいよ? でも、それを当たり前にするなんてもっと悲しいよ。危険だからこそ、誰かがいないとダメなんだよ」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「私は梨子ちゃんと知り合えて、本当に嬉しかった。だから、梨子ちゃんの事を見て見ぬふりなんて出来ないよ」

 その言葉に、千歌を見た。
 彼女の瞳は、逸らしたくなる位に真っ直ぐ向いている。

千歌「必ず一緒に、生きて戻る。それを一番に考えようよ」

曜「そうだね。アタシもそう思うよ」

 二人を見ると、全員で頷いた。
 覚悟は、二人とも。
 とっくに出来ていたのだ。
 行こう。遺跡へ。この内浦の秘宝を見つけ出すために。
0007名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2020/10/18(日) 23:50:59.04ID:rXFdQwJA
 決意を新たに、梨子達は遺跡探索を開始した。

曜「おお〜……壮観だなぁ」

千歌「凄いよね〜……」

 降りてから、のんきに辺りを見回す二人を尻目に、扉を調べていく。
 全部で四つ。一つだけが、入る事が出来る。

梨子「行くわよ、二人とも」

千歌「うん!」

曜「了解であります!」

 扉の先の細い通路を抜けると、大きな男性の像が立つ開けた場所に出た。
 おそらく、この像が水神様なのだろう。
 部屋の四隅には、像より小さな。
 胸の辺りまでの高さの台が設けられている。

千歌「なんだろこれ?」

梨子「不用意に触らないでね? 何が起こるか分からないから」

曜「取り敢えず調べてみようよ」

 四隅の台は、何かを置く為の窪みがある。
 真ん中の像は恐らく、この地を守る神様だろう。
 腰の辺りに、丸い玉が三つ。
 四つの台に、窪みに入りそうな3つの玉。

曜「どっかに隠れてるのかな?」

梨子「四つから選んで置く可能性もあるわね」

千歌「取り敢えず取ってみようよ」

 ぽんぽんぽんと、玉を取り出す千歌。
 すると突然、左右の壁が崩れ出し。
 魚人を思わせる謎の化け物が姿を現した。
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