果林「君を知りたい午後七時」
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・かなかり(彼方×果林)
・地の文
・元ネタは10/6のにじよん『果林とイメージ3,4』
よろしければ 「ふーっ……」
日課のストレッチを終えて、一息つく。椅子の背もたれに掛けていたタオルをとって、そのまま腰をおろした。思い起こされるのは、今日の放課後での一幕。
かっこよくて、ミステリアスで、セクシーでいて、美しい。自分で言うことではないけれど、いわゆるクールビューティーという部類。
そういう私の、『朝香果林』のイメージに反して、パンダ……可愛いものが好きなんだ、とみんなにバレてしまった。 ただ、バレたといっても、エマにもあの子にも知られていたことだし……まあ、時間の問題だったでしょうね。あるいは──ベッドの上から笑い声と歓声が聞こえてくる。
「えへへえ。やっぱりパンダはいいね〜かわいいよぉ〜……!」
──あるいは今、でれでれと表情をゆがませながらパンダの写真集を眺めている(私もこんな風にだらしなくなってるのかしら?)彼方なんかは、知っていた上で黙っていてくれたのかも。足をぱたぱたと動かしているのが、いつものお姉さんって感じと違って可愛いらしいわね。
……ところで。 「ねえ、彼方」
「んー?」
幸せそうな表情のまま、視線はパンダの雑誌に釘付けのままで返事をしてページをめくる。あ、そろそろ赤ちゃんパンダのお昼寝シーンね。個人的にはあの雑誌の中で一番……こほん。
「ええと、『寮のライフデザイン科の友達に用事があるから、少し暇潰しさせてほしい』って言ってたわよね?」
「あぁ、言ったねえ〜」
ぺら。
「部屋についたのがだいたい6時で、いまが……45分、だけど。約束は何時なの?」
ぺらり。 「……彼方?」
「んー……」
話を聞いているのか、いないのか。パンダの可愛さに心を奪われてしまう気持ちはわかるんだけど……。家では遥ちゃんが待ってるだろうし、お友達に迷惑がかかるのもよくないわ。雑誌なんて後でいくらでも見れるんだから、ここははっきり言ってあげないと。
少しばかり汗を吸ったタオルを洗濯かごに放って、寝転がる彼方の横に座って。顔の前に手を出して、ふりふりと振ってみる。
「ちょっと。彼方ってば」
さすがに鬱陶しかったのか、少し眉をひそめながらもようやく顔がこっちを向いた。
「んぅ……なにー?」
「なにー、じゃないでしょ。その雑誌持って帰っていいから、早く用事済ませちゃいなさい」 「……」
少しの沈黙のあと、ぱたり、と雑誌が閉じられる。
「うん……」
もぞもぞと体を一度丸めるみたいにしてから、ベッドの上に座り直す彼方を見て。
……もしかして機嫌悪い?いや、悲しんでる……?
楽しげに雑誌を眺めていたときとは明らかに様子が違っていて、私何か地雷踏んじゃったのかしら、と今日の自分を反芻する。
朝練、は彼方とは違うパートだから問題なし。お昼は会ってなくて、放課後にパンダの雑誌のことでひと悶着あって、それで……。
考えを精一杯巡らせてみるけど、頭を使うのはもともと得意じゃないし、普段のつかみどころのなさも相まって、何がいけなかったのか全然わからない。 そのまま、あっという間に制限時間が来てしまう。つまり、枕をしまって帰る準備を終え、ベッドから降りて鞄を持ち上げてしまった。
「……じゃあ、果林ちゃん。また明日」
やっぱりどこか暗い雰囲気のままで、彼方は力なく手を振る。
だ、だめよ朝香果林!このまま帰したらなにかいけない気がするの。
「あ、ま、待って彼方!ええと……」 「?……ああ。また今度、ゆっくりパンダの鑑賞会させてね」
「え?ああ、それはもちろん、いつでも……って、そうじゃないの!」
それじゃおやすみー、なんてふらっと歩き始める彼方の手をひっつかむ。唐突だったせいか、肩がびく、と跳ねる。
「驚かせてごめんなさい。その……」
何て続ければいい?ひとまず謝って……いや、何も分からないのに形だけの謝罪なんて一番イヤでしょ。だったらいっそ、みっともないけど── 「果林ちゃん?」
手首をつかんだきり、押し黙る私を不思議に思ってか首をかしげる。こちらも、迷って下げていた顔を上げて、視線を真っ向で受ける。いっそ直球で、勝負だ。
──みっともないけど、そんなこと昼間に経験済みなのよ。
「彼方の元気がない理由を……ううん。彼方を元気づけられる方法を、教えて」
「……え」 手首から手のひらへ、そして指先へつかむ位置をスライド。彼方の左手の指を両の手で包む。どうかここから私の気持ちが伝わってくれと願いながら。
「たぶんだけど、私が何かしちゃったから落ち込んでる……のよね?でも、ちょっと心当たりがなくて」
ぎゅう、ともう少し強く握る。
「……だけど、わからないままで終わらせたくないの。彼方のこと、教えてほしい」
きみのことが、知りたい。 「「……」」
無言でじっと見つめあう。数十秒ほど何も起こらなくて、少し心が折れかかった、そのとき。先に目を逸らしたのは彼方。
「……はぁ。ずるいなあ」
「え?」
ため息のあと、ぼそっとこぼした言葉をつかまえそこねて聞き返す。彼方はどこか諦めたみたいな顔で小さく笑って、握られている手を見下ろす。 肩に掛けていた鞄を降ろして、もう一度。
「ずるい、って言った……のっ!」
「ず、ずる──んぐっ!?」
衝撃。
言葉の途中でとびついてくる彼方……いや、これ、最早タックルよっ!
「!?……!??」
えっ……なんで!?意気消沈してたんじゃなかったの!?
って今は安全を確保しないと……!倒れる……! 幸い後ろはベッド。危ないものはないし、衝撃は吸収してくれる。下手に手をついてひねらないように、頭だけ壁にぶつけないように、それからひっついてるこの暴れ羊は──!
ぼふん。
「っ!」 ……。
なんとも、ない……?
ひとつ息を吐いてから、痛みに備えてつぶっていた目をひらく。すくめていた首をのばす。強ばらせていた体を──
「もが……むぐ、うぎゅ〜……!」
「……」
──もとに戻すのは、知らず強く胸に押し付けてしまっていた彼方が、もう少し苦しんでからでもいいかもしれない、なんて。 「……で?危ないじゃない。どうしたのよ急に」
抱き留めていたのを解放してもなぜかくっついたままで、ベッドと彼方にサンドイッチされた状態が継続中。一向に離れる気が感じられなかったから、そのまま話しかけることにした。
冗談っていうか、じゃれつきの勢いと威力じゃなかったわよ、本当。不意打ちだし、体幹鍛えてる私が受け止められなかったんだから。 「か、彼方ちゃんも、さっきは息苦しくて結構危なかったんだけど……」
「おばか。自業自得よ、もう」
「あうっ」
大袈裟にはぁはぁと荒い息をしていたのが収まったかと思えば、そんな恨み言。おしおきとして、乱れた前髪から覗くおでこを指で弾く。 「とにかく。お互い怪我もないみたいだし、流してあげるわ。ほら、それよりもさっきの続きよ」
「……彼方ちゃんはいまデコピンで可愛いおでこを怪我し「話の続きって言ってるでしょっ!」……む〜」
暴力はんたーい、とブーイングを飛ばしてくる。どの口が。そうやってずっとのらりくらりでかわすつもりなら、それなら次は……。 「わ、わかったって!喋るからこわい顔はやめて……夢に出てきそう……」
「そ、そこまで怖くないわよ」
「いいえ、それは果林ちゃんが決めることではないのです。果林ちゃんはこわいの〜」
なにを、と言い返しかけて、口をつぐむ。いけない、落ち着いて。ここで張り合うから話が進まないのよ。
かぶりをふって深呼吸しだした私を見て、彼方のほうはひとつため息。そしてようやく、ぽつりと口を開いた。 「……今日。パンダの写真集が果林ちゃんのだーって知って。とっても可愛いなって思った。隠すことないのに、って」
「かわ……つ、つづけて頂戴?」
「でも。部長はともかく、エマちゃんも知ってた。それが、なんか……」
そこから先は聞かれたくないのか、それとも私の心に直接届けたいのか、はたまた胸枕の魅力に敗北したのか。……最後のは半分冗談だけど。
言葉を切って、頭を私の胸に押し付ける。ぐり、ぐり。 くぐもった声で続けられる。
「なんか……さみしいなぁ、って……」
「彼方ちゃんは知らないのに、エマちゃんは知ってることがある。それもたぶん、ひとつやふたつじゃないんでしょ?」
「きっと他にも色んな約束があるんだ。二人だけの内緒があって。秘密の思い出もある」
「……そう思ったら、さ。胸がおもたーい気持ちになってさ」
顔を上げて、視線がかち合う。下がった眉に、少し潤んだ弱々しい瞳だった。
「……か、なた」
「果林ちゃんのこと、もっと知りたくなったの」 一度目を伏せて呼吸を整えると、彼方は全て打ち明けてくれた。
最初に話したライフデザイン科の友達とは、実は私のことで。
用事というのは、寮での私の過ごし方を観察すること。丁度、エマが私の寮生活を知っているみたいに。
途中でしょげていたのは、まだ何もわかっていないのに帰れと言われてしまったから。
急に元気になってタックルをしてきたのは……。
「あー……えへ。果林ちゃんが、彼方ちゃんのことを知りたい、って真剣に言ってくれたのがね。おんなじだーって、嬉しくなって」
勢いつけすぎちゃってごめんね、と照れながら笑う。まったく……。 そこまで言うと、彼方はもう一度胸に吸い込まれていった。
「だからね、もう大丈夫。もうおもたい気持ち、なくなったよ」
「……」
すっかり柔らかくなった声に安心して。私も彼方から視線を外して、天井を見上げる。 今の話を総合すると、つまり……。
「やきもち、かしら」
自分なりに導きだした言葉を口にしてみた。ぴくり、と彼方の動きが止まる。どうやら、そのおもたい気持ちとやらにつけた名前はしっくりきたみたいで。
「あー……。そっか……ぅん、そうかも」
「そう。……ふふ」
なんだか、少しくすぐったいような気分になって笑ってしまった。 恥ずかしいと言わんばかりに、小さくうなるような声と、もぞもぞという動きがダイレクトに伝わってくる。
「いつも彼方には敵わないことばっかりだから……こういうのも悪くないわね」
「ぅ〜〜……!」
からかわないで、と言われた気がするので、お詫びとして左手を腰にまわし、右手で髪をいじりつつ頭を撫でてやる。腕の中の体から、力が抜けたように感じた。 すっかり機嫌を直して、胸に、手にすりついてくるのを見て、いつだったか、キャッチコピーをみんなで考えたときのことを思い出す。今はマイペース系スクールアイドルだけど、その前は。
「あまえんぼうお姉さん系スクールアイドル……」
「……んぇ?ごめん。ちょっとうとうとしてて聞いてなかった」
「ふふふ、なんでもないから気にしないで。それより、このあとどうするの?このまますやぴ……ふあ……しちゃう?」
どこを触っても柔らかくて暖かい感触のせいか、私も眠気に襲われてきた。時間が時間だから、本当に寝てしまったらお互いに色々とまずいのはそうなんだけど……。 「ええ……んー、どうしよ……」
「まあ、私は彼方が退いてくれないとどうしようもないから」
「なにおう。彼方ちゃんだって、果林ちゃんにぎゅーってされて動けないもん」
「「……」」
「っく、」
「んふふ」 適当を言いあって、二人してくすくす笑う。さっきまでは、相手のことがわからなくて、知りたくて。まだまだ通じ合うことは難しい。でも少なくとも今は、同じ事を考えている。同じ気持ちでここにいる。
──どうか、もう少しこのままで。
心地よい温もりに包まれて、時計はいま、午後七時を過ぎた。 以上。誤字脱字の報告、質問疑問感想乙など、なんでも構いませんので気軽に反応くれたら嬉しいです。レスをくれ
なんか返事したほうがよさそうなものには返事します。おやすみなさい 素晴らしいかなかりをありがとう
アニメで絡みがあることを毎回祈りながら見てます!もっと絡んでくれ(願望) 3年生いいなあ。
かなかりはどっちが甘えてどっちがお姉さんやっても最高なので2回楽しめる。 まずこの2人はビジュアルの相性良過ぎるよね
それでいてお互い甘えるのも世話焼くのも出来るっていう相互補完感が素晴らしい ごめん、一番大事なことを書き忘れたけど作品も凄く良かったです ふたりの絶妙な関係のわかる雰囲気、丁寧に追われる心情も心地良かった。
pixivも前にフォローしたからこれからも頑張ってくれ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています