ことり「空中に漂う」
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空を見上げる。
太陽の日差しが眩く、目を細める。
睫毛が視界に映る。
空を見上げ続ける。
少しずつ少しずつ、空は近付いて来ている。
空が落ちて来ている。
この街も、この世界も空に染まりそうだ。
私はこの世界で。
空中に漂う。 Chapter.1
暗い世界が微かに光を帯びる。
口元に何か柔らかな感触。
後に甘い匂いが続いて香る。
じりりりりりりりり。
今、私が最も嫌いな音は何か?と聞かれたらこの音だ。
この音から全ては始まり、私を現実へと強引に引き込むんだ。
私が嫌いな音の正体。
それは目覚まし時計の音だ。
目を開けると、カーテンの隙間から差し込む光が眩くもう一度目を瞑る。 眠い目を擦りながら、寝相を変え光から逃れるともう一度目を開いた。
海未「ことり、起きてますか?」
ことり「・・・」
海未「あさですよ」
ことり「・・・んんーっ!」
布団の中で大きく背伸びをする。
10時間休んだあちこちの骨が今日も一日頑張るぞと言わんばかりにパキパキ鳴る。
そんな骨を余所に私の脳はまだもう少し寝たいと考えている。
海未「もう、ことり。今日は朝ご飯当番はあなたでしょう?」
ことり「そうだっけ?」
海未「そうですよ。自分の当番ぐらい把握しておいて下さい」 私とは海未ちゃんは高校を卒業した後、一緒に住む事になった。
私はファッションデザインの専門学校に、海未ちゃんは大学に。
たまたま、通う学校が近く負担も半分で済むし一緒に住もう。
そんな感じで、二人で済む事になった。
ことり「んしょ」
ベッドから降り、次は立った状態で背伸びをする。
背骨がぽきぽきと鳴る。
ことり「海未ちゃん今の聞こえた?」
海未「背骨ですか?聞こえましたよ。ぽきぽきって」
ことり「えへへ。なんか恥ずかしいね」
海未「そうですか?」
ことり「うん。なんか・・・ちょっとだけ。朝ご飯作るねー」
海未「はい。納豆お願いします」
ことり「わかった〜」
ボサボサの髪をヘアゴムで無理矢理纏めて台所へ向かう。 朝ご飯だし、納豆ご飯にお味噌汁あとは・・・。
何にするかは冷蔵庫を見て決めようと思い開き冷気が身を包む。
ことり「えーと」
卵に鮭の切り身。
あとは・・・色々ある。
普通に卵焼きでいっか、卵二個手に取ると切り身のラベルが目に入る。
賞味期限が昨日で終わってる。
卵を戻し切り身を取り冷蔵庫を閉める。
今食べとかないと更に悪くなる・・・昨日切れたんだしまだ大丈夫。
コンロに火をつけてフライパンを温め、切り身を調理する事にした。 海未「それじゃあ行ってきます」
ことり「うん。行ってらっしゃい」
朝食を食べ終え皿を洗っていると、身支度を終えた海未ちゃんが大学へと行った。
私は今日は休みだ。
海未ちゃんが帰ってくるまで、ずっと暇だ。
何をしようか迷っているが未だ答えが出ないままテレビを付ける。
占いをやっている所だった。
乙女座は4位だった。
まぁまぁな順位だ。 海未ちゃんは大学で友達出来たのだろうか・・・。
最近の悩み事と言えばこれしかない。
人見知りだから自分から話かけれずに一人ぼっちでいる海未ちゃんを想像するとやっぱり同じ大学に行っておけばよかったと悩んでしまう。
穂乃果ちゃんも違う大学だし、一人でせっかくのキャンパスライフを過ごすのはあまりにも勿体ない気もする。
かと言って海未ちゃんは可愛いから変な男が寄ってくるのも嫌だ。
まるで子を心配する母親のようだなと思いテレビの司会者の話に耳を傾ける。
貼り付いたような笑顔が少し不気味だ。 この時間帯はどれも同じような番組が多い。
今のチャンネルで事故のニュースを見て別のチャンネルを見るとまた同じ事故のニュースをやっている。
ことり「海未ちゃんいないと暇だなぁ〜」
ザザッ。
テレビに一瞬ノイズが走る。
ザザッ。
また、ノイズ。
次にテレビの司会者の顔がぐにゃりと歪む。
美術の教科書で見たムンクの叫びを連想させた。
ことり「な、なにこれ?」
リモコンのボタンを押しても画面は変わらない。 司会者の顔は歪みに歪んで、顔の中心から渦巻いていきもう原型がない。
肌色の渦がスーツを着ている。
これは放送事故?
だったら、チャンネルが変わる筈。
だとしたら、もう一つ考えられる事がある。
怪奇現象。
突如襲ったテレビの歪みはそうじゃないと説明が出来ないぐらい異様だ。
電源ボタンを押しても消えない。
ことり「な、何で消えないの!?」
恐怖が脳に押し寄せる。
ぐるぐるぐるぐると画面は渦巻く。
司会者の顔だけじゃない。
画面全体が渦巻いていく。
もう元が何だか分からないぐらいに。 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
テレビから逃げる為に外へ飛び出す。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
ことり「え?」
アパートの真向かいには一軒家がある。
ドアを開ければ真っ先に目に映るのはその一軒家だ。
違和感を感じる所ではない、私が毎日見た一軒家は原型がない。
屋根も玄関も何もかも。
誰かが粘土で家を作って失敗したからまた作り直す為に丸める。
この一軒家も渦を巻いているんだと確信した。 ことり「な、なんで・・・」
有り得ない光景だ。
私は夢を見ているのだろうか・・・。
あのテレビの現象ならまだ怪奇現象で説明が出来る。
いや、出来ないが説明しろと言われたらそれで解決する。
でも・・・私が見ているこの光景はあまりにも怪奇現象で片付けるには違う気もする。
目を閉じて、強く閉じて念じる。
夢なら早く覚めて。
夢なら早く覚めて。
でも、これはどうやら夢ではないらしく。
近くで聞こえる犬の鳴き声で目を開けてしまった。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています