黒澤ダイヤと三年間

1名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/26(金) 11:58:19.89ID:FMFLgL/Y
私が浦の星女学院に通おうと決めたのは幼少期から隣人である幼馴染がきっかけだった。
どの高校にするべきか、それなりに近いし静真でいっか。などと軽視していた私をよそに、
浦の星女学院、略称では<浦女>の情報を見ていた幼馴染は、唐突に言ったのである。

「私、浦女にするね」

確かに近所の高校ではあるので、別に中学生の浅はかな怠惰さにおける進路希望としては間違いじゃない。
しかし彼女は「記念になりそうだからさ」と明確な理由があるように言う

そしてそれはもう大層嬉しそうに「ここは廃校になるね。間違いなく」と断言して「ここに行く」と言ったのだ

卒業後か、在学中か
とにかく廃校になって世界から消えてしまった高校の生徒という肩書に魅力を感じるお年頃なのだそう。

正直、私にその気持ちは理解できなかったけれど、
幼馴染とは幼稚園から今日にいたるまでクラスも同じという運命の根強さもあって
この子がそこにするならという軽い気持ちで考えていた。
私は実に、浅はかだったのだ。

とはいえ私立。
入学金もその他もろもろも公立とはまるで変ってくるので、
理由はしっかりと<お母さん達と同じ高校に通ってみたいの>なんて情に訴えた。
そうした経緯もあって、
それなりに勉強をして受験をした私と幼馴染は難なく浦の星女学院への入学が決まって。

彼女――黒澤ダイヤと出会ったのは、その記念すべき入学式の日だった。

59名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 09:33:27.92ID:0c7WZQNC
先日、幼馴染が身勝手にも要求した時に黒澤さんは事前に話があれば。と言うようなことを言っていた。
今日はそれがなくても問題なかったとして、
わざわざ私を家に誘う必要は別になかったはず。

私がもし、彼女に「いや〜家では集中できんのですよ。あははっ」などと宣っていたのなら、
気を利かせて図書館よりも人出が少なくそれなりに厳粛な黒澤邸へ招いてくれた――と言うのも悪くない
しかし、私はそんな幼馴染のような言い訳で逃げる気はないし、あったとしても黒澤さんには話していない。

黒澤さんは手を止めると、からんっと氷の揺れるコップに口をつける
潤いを与えられた薄い唇は、ちょっぴり妖艶な雰囲気があった

「同じ生徒会の役員であり級友であり、友人でもあるから――なんて」

黒澤さんの視線が私から流れる
ぽたりとコップから滴った水滴が彼女のノートを濡らす。
なんだからしくないな――と、知りもせずに思った。

「言い訳だわ。ただ――あなたともう少しお近づきになりたかった」

「黒澤さんは冗談が嫌いかと思ってたけど」

「嫌いではないわ――今は、それの必要はないと思うけれど」

黒澤家のご令嬢である黒澤ダイヤ
彼女は本当に、私なんかとお近づきになりたいと思っているのだろうか。

――思っているのだろう。
そう、失笑したくなるほどには、彼女の瞳は本気の色をしている。
心を冗談と言われたら――それは、確かに苛立つものだよね

60名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 10:14:05.61ID:0c7WZQNC
「気持ちを嘲るようなことを言ったことはごめん。でも、私と近づきたい理由がわからないんだよ」

幼馴染と近づきたいっていうなら、私は渋面で理解できなくもないよ。と言えた。
彼女は自由奔放で手を付けられない面倒事の多い子供ではあるけれど、
だからこそ、彼女が気になるという人も少なくはない

よく言えばムードメーカーである彼女の傍は、
これもまたよく言えば賑やかで、明るい雰囲気を好むのであれば、
ぜひとも、その隣を歩きたいと思うものだろうから。

けれど――けれど。私は。
私はまるでそんなことはない。
周りを明るくしようだなんて思っていないし、そもそも人と関わるのだって必要最低限で構わないと思っている。
特に、これ以降の将来で格差的に離れ離れになるであろう黒澤さんとなんて、
単なる級友、役員仲間、友人の友人としての軽い付き合いで良かった。

「正直に言って、黒澤さんに意味のある付き合いではないと思う」

「それはわたくしが決めることではなくて?」

即答だった。
黒澤さんは私の言葉に立腹してか、目を細めて鋭くする

「この際だから正直に言うけれど――わたくしとしては、気に入っているのよ」

61名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 11:08:24.21ID:0c7WZQNC
気に入ってるって? 黒澤さんが、私を?
あんなごきげんよう。の一言で?
お嬢様からしてみれば、愉快な人間だったのだろうか
ううん、それなら私じゃなくて幼馴染で良いはずだ

「真面目な人間が好きなタイプ?」

「不真面目な人よりは、断然」

黒澤さんはくすりと笑う。
さっきまでのほんのりひりつく空気感はなかった

「生徒会に誘ったのだって、あなたなら――そう、思ったから」

役員の先輩方が後継を見つけられなかったこと
誰もやりたいという人がいなかったこと
そんな経緯はあったものの、黒澤さん個人としては私を選びたかったと言う

煽てられても困る。
それで喜べるほど単純ならいいのかもしれないけれど、
私はそれを、買い被られているように感じてしまう。

62名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 11:18:15.37ID:0c7WZQNC
「だからもう少し――そう、あと一歩くらい、仲良くなれると嬉しいわ」

照れくさそうに笑うでもなく、黒澤さんは真面目にそう言った。
それだけ、本気で考えているのかもしれない。
まだたった約三ヶ月の付き合いなのに。

けれどちょっとだけ。
胸の内に沸く違和感を感じて、冷たいお茶を一口通して体を震わせる。
嬉しい――なんて、ありえない。

「努力はする」

「ええ――ありがとう」

黒澤さんは微笑む
嬉しそうに感じるのは、きっと気のせいじゃないと思う。

袖振り合うも多生の縁っていうし、
原因は間違いなく幼馴染だけど、
断れた生徒会を断らないと決めたのは私だから。少しくらいは近づいて良いのかもしれない。

63名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 15:31:41.10ID:0c7WZQNC
 
努力はする――とは言ったものの
じゃぁさっそくこうします。なんていうのは聊か難しい話だと思う。
私が幼馴染のような性格であれば「へい黒っち!」なんてことも言えるかもしれないし
黒澤さんが幼馴染のような人だったら「そういえば意外に厳かな雰囲気の部屋だね」と言えた。

当然、私はそんなザルのような脳みそしていないし、
黒澤さんの雰囲気はこの部屋に見事にマッチしている。

私は元来、自分のことをコミュニケーション能力に乏しいと思ったことはない。
クラスメイトに話しかけることは出来るし、そこから友人に発展させるのも普通にできる。
小学校中学校と、私はそれでごくありふれた学生かくあるべしという生き方で乗り切った。

ではなぜ黒澤さんにかける言葉も見つけられないのか。
彼女がお嬢様という明らかに格上なのもそうだけれど――。

「――どうかしたの?」

「え」

とても間抜けな声だったと思う。
さぼっているときにドアを叩かれたような、不意に鼓膜を震わされた動揺感
じっと見てくる瞳が気まずくて目を逸らしてしまう。

「ど、どうもしてない」

「その割には、さっきから進んでいないわ」

あぁごもっとも。
私の手は電源が切れたように動いていないかった。
ぽっきりと折れたシャーペンの芯が<自己の無意識>を象徴する。
とはいえ。

――意識して仲良くなるってなんか普通じゃない。と、思ってるとは言えない。

64名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 15:45:31.37ID:0c7WZQNC
「ちょっと考えごとしてて」

「そう――話せる?」

黒澤さんは真面目に聞こうというつもりなのか、
ノートを黒染めにしていく手を止めて、声をかけてくれる。

その姿勢はやはり黒澤さんと言うべきか、
もう一歩近づきたいと言ってくれた彼女らしいと思う。
けれど「仲良くなる方法について悩んでます」なんていうのは滑稽ではないだろうか。

逡巡した私は、そういえば。と、頷く

「黒澤さんに、妹さんがいたんだなって」

「あぁ――ルビィね。迷惑をかけてしまったわね」

「それは良いけど、あの子も習い事してるの?」

そう訊ねた途端、黒澤さんの目が細くなる
私の失言かと思えば、その目に見えているのは私ではない何かのように感じて、口を閉じる。
私の失言なら謝るべきだ。でも――違うのなら。

「ルビィは――もうそういったことはしていないの。察しはつくでしょう?」

65名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 16:15:57.02ID:0c7WZQNC
あの衝突には私の不注意もある。
けれど、そのあとの様子を見ても黒澤さんの沈んだ声色には頷けてしまう。

黒澤さんの妹――ルビィ、ちゃん? は、簡単に言えばおっちょこちょいなのではと思う。
気もそんなに強い方ではなさそうに見えた。
ともすれば、あの子が習い事から身を引いたことも理解できる。

いや、そうでなくても張り合い続けるにはそれ相応の胆力が必要だったかもしれない。
私から見ても、黒澤さんはとても良くできたお嬢様だ。
その妹だとしたら、幼馴染も大嫌いな期待が付きまとっていただろう――なんて、
何も知らずに空想して、頷く。

「大変だよね、家柄が良すぎるって言うのも」

「簡単に言わないで――と、言いたくなるけれど」

黒澤さんはそこで言葉を切る。
氷の溶けたコップからは、もう余計な音はしなかった。

「あなたは、その言葉の意味を理解しているような気がする」

「まさか。私は普通の一般家庭だよ」

父がいて、母がいて――私がいる。ただ、それだけ。
家名を背負わなければならない黒澤さんと私が同列なんて――
私が地に額をこすりつけるべき酷い言い草ではないだろうか。

66名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 16:48:45.35ID:0c7WZQNC
「もし、黒澤さんが私にその点でシンパシーを感じて近づきたいと思ったのなら、謝るしかない」

「そんな理由ではないわ――ほんとうよ」

黒澤さんの表情が罪悪感に揺れる。
悪いのはどっちだろう――なんて愚問も良い所だと思う。
悪いのは私、余計な一言だった。
大変だね――なんて、知りもせずに。

私も黒澤さんも何も言えなくなって、気まずくなる
それから数分経って――おもむろに時間を確認する

もうすでに夕暮れ時で、
気付かないうちに、窓辺から差し込んでいる陽の光は色濃く傾いていた。

幸い、黒澤さんの家から私の家まで遠く離れていないから、
まだまだ大丈夫ではあるけれど――。

「ごめんね、黒澤さん。今日はもう帰ろうと思う」

「わたくしこそ、押しつけがましくて――」

「ううん、大丈夫」

申し訳なさそうな黒澤さんに首を振って、遮る。
前言撤回するべきだ。
私は――コミュニケーション能力に乏しい。と。

67名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 17:19:20.00ID:0c7WZQNC
そして翌朝の教室でのことだった――
案の定、幼馴染は探りを入れるように顔を近づけて。

「あんたさー黒っちとなんかやらかした?」

「そう見えたならそうなのかもね」

黒澤さんは普通に「おはようございます」だったはずだし、
私も同じように「おはよう、黒澤さん」と返したはずだった。
なのに、幼馴染はそのたった一言交わしただけで違和感を覚えたのだから、
私の知らない癖か何かがあるのかもしれないと思うと、少し怖いとさえ感じてしまう

「私って、コミュニケーション能力に乏しい?」

「少なくとも良いとは言えないと思うけどね。ほら、あんたって基本上辺だけの付き合いしかしないから」

「むぅ」

「そんなこと言うってことは、黒っちに突っ込んでってやらかしたんだ」

にやにやと笑う幼馴染の顔は叩きたくて仕方がないけれど、
そうする気分でもなく、机に伏せって視界を真っ暗にする
まぁ――図星だった。

68名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 17:42:38.89ID:0c7WZQNC
「でも、黒っちの反応見る限りだと怒ってはなかったけどねー」

「怒らせたわけじゃないから」

「ふ〜ん。まぁ何でもいいけどさー」

幼馴染はそう言うと、黒澤さんを一瞥する。
周りがまだ始まらないHRまでの時間を潰す中で、彼女はきっと一限目の確認をしているのだろう。
そして幼馴染は「別にさ」と、口を開いた。

「あんたの全部とか、黒っちの全部を理解し合う必要なんてないんだし、気楽に付き合いなよ」

「そのつもりだし、今までもそうしてきた」

「黒っちは今までとは違うタイプでしょ。だから、あんたはやらかしたわけだし」

黒澤さんは今までと違う。
多分、それは的を射ているんだと思う。
黒澤家のご令嬢、なかなかのお嬢様な彼女は、
私が今まで上辺だけの付き合いで済ませてきた友人とは視力が違う。

私のこともある程度は見透かしているから――あんなことを言ってきた。
そんなこと、今までなかったのに。

69名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 18:05:31.85ID:0c7WZQNC
「まぁ、燻った火は早めに蹴散らすのが良いよ。協力したげる」

「は、余計なことしないでよ?」

机から顔を上げると、もう足早に自席へと向かった後で
今すぐどうこうするわけではないのか。と、ちょっぴり安堵する。
でもやっぱり、合間の休みにでもお断りを連呼しよう。
そう決めて体を伸ばすと――ちょうど、担任がやってきた。

黒澤さんは私にシンパシーを感じたのだろうか。
だから近づきたいわけではないと言っていたけれど――

私のかくあれという生き方が、黒澤家とは――という生き方に似ていると思ったのだろうか。
黒澤さんのそれは、私とは比べものにならないだろうに。

「私って、黒澤さんのなにになるんだろう」

近づきたいとか、気に入っているだとか、
黒澤さんのあの言葉は本心だった――と、そう信じている。
あれはただの身から出た錆で、普通に今まで通りで良いのだろうか。

HRを聞き流しながら、私はずっと――彼女のことだけを考えていた。

70名無しで叶える物語(らっかせい)2020/06/29(月) 18:26:56.90ID:0c7WZQNC
合間合間に時間が出来るたびに、私は幼馴染に余計なことはしないように頼んだ
懇願したと言ってもいいくらいにお願いしたと思う。
とはいえ、彼女が終始大丈夫と笑っていたので、きっとダメだろうなと思ってもいた。
そうしたらやっぱり――余計なことをしてくれていた。

もっとも、ほかのみんなは居るけれど
松浦さんと幼馴染だけいない、黒澤さんと向かい合わせの昼食――という程度なのだから、
彼女の本領発揮した余計な事よりは確かに、大丈夫かもしれないけれど。

「すみません、あの人が余計なことして」

「ううん、それはいいけれど――」

黒澤さんは口にこそ出していないけれど、少しばかりは気まずそうな雰囲気を感じさせる
昨日のあんな別れ方の後で、
何事もなく向かい合えというのは、難しいと思う

普段は力強さを感じられる瞳が、今日は弱弱しく感じられる。
罪悪感を感じさせてしまっているとしたら、それは私の失態だろう。

71名無しで叶える物語(茸)2020/06/29(月) 23:06:42.87ID:0hrFrf8k
他の誰も見ていなくても私は見てますよ!
安心して続けてくださいね!
ただ一つ言うとしたらこれは果南か鞠莉ではダメだったのでしょうか?

地の文多めのせいでもあると思いますが一番はオリキャラが主人公だから見て貰えて居ないんだと思いますよ!
でもとりあえず続き待ってますね!

72名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/30(火) 09:18:23.44ID:owNcgcen
 
「黒澤さんは何も悪くない。私が余計なこと言っただけだよ」

「わたくしも、知ったようなことを言ってしまったわ」

黒澤さんは私が悪くないと庇うように首を振る。
私の余計な一言、それに対して言った自分の言葉こそが悪いと。

黒澤の後継として日々生きている彼女は、常日頃から他者の目には大変そうに見えていて、
彼女にとって、私の<大変だね>なんていう言葉はよく言われることなのだろう。

73名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/30(火) 09:20:06.83ID:owNcgcen
 
だから、私が大変だね。なんて言うのは仕方がないことだし、
黒澤さんはそれに対して適当に相槌を打っておけばよかったと思っているのかもしれない。

なんて言えば良いのだろう。と、考える。
まだ広げる途中の弁当箱を見下ろして、溢れる食欲をそそらせる匂いに、息を吐く

私は彼女曰く知ったような言葉に対してどう思ったのか。
怒ってはいない、申し訳なく思った。
黒澤さんがそこに近しいものを感じてしまったのかもしれないと思って。

私は、ただ――怠慢なだけなのに。と。

74名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/30(火) 09:32:38.47ID:owNcgcen
「私――人付き合いがあんまりうまくないんだ」

幼馴染と話して、笑いながら言われたことを思い返しながら、切り出す。
自分の欠点を欠点として認めて、
先んじて伝えておくのがいいのではないだろうか。と、信じて。
だって、その方が余計な取り違いも起こり辛い

幼馴染が自由奔放で面倒くさい人だと知らなければ、厄介だと嫌悪感も湧くかもしれなが、
そんな人だと知っておけば、あれはああいう<モノ>だとしてそれなりに諦めがつくように。

私がコミュニケーション能力に乏しいだめな奴だと思っておいてもらえればそれなりに何とかなると思うのだ。

「だから、その――黒澤さんは悪くないんだよ」

「ねぇ――」

絞り出した私の解に、彼女は声を被せてきた。
私が自虐すること。
それに対して難色を示すその表情に、私は思わず目を開いてしまう

「どちらも考えが足りなかった。互いを気遣えなかった――それでは、駄目かしら」

75名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/30(火) 09:33:57.99ID:lu9RUtcD
見てるよ

76名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/30(火) 09:36:27.27ID:owNcgcen
これはたぶん、黒澤さんなりの妥協案なんだろうと思った
私が悪いと思っていても黒澤さんも自分に非があると思っていて
そんな責任の引っ張りあいが起きているから――妥協する

相手が自分の非としているのに
好き好んで自分が悪いという辺り、やっぱり黒澤さんは特別なのだろうか。

これに喧嘩両成敗は過言だろうか。

なんにせよ、黒澤さんだけが悪いというなら認めるわけにはいかないけれど
私達が悪い――というのなら落としどころだろうか
私としては、彼女は悪くないとしたいけれど。

「分かった――そうする。そうしよう」

ここで「ありがとう」は不適切かな。なんて考えていると
黒澤さんは「ありがとう」と、溢した。

77名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/30(火) 09:47:37.16ID:owNcgcen
それからの私達は特別、距離を詰めるようなことはしなかったし
気まずさから距離をおくなんてこともしなかった。

今までのように幼馴染や松浦さん達を挟んでの付き合いや
生徒会の仕事や生徒会室での勉強をするだけだった。

そんな折、私は小原鞠莉と出会うことになった。

いつものように過ごした学校の帰り道、島の方へと向かうボートが出る船着場のところに彼女は居た。

桟橋に制服のまま腰かけていて、
夕陽の黄金色を織り混ぜたブロンドヘアを潮風で苛める彼女の耳から垂れるイヤホンのコード

黄昏を感じさせるその姿に立ち止まったのは失敗だったと――思う。
ふと吹いた風に靡く髪を手で抑える彼女が振り返ってしまったから。

78名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/30(火) 10:43:44.67ID:UAn66WUj
最近あった果林の隣の部屋の子の話とか鞠莉と百合婚とかそういう系の話でしょ
モブ視点でこそ描けるキャラの一面もあるだろうし、楽しく読んでますよ

79名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/30(火) 12:26:03.93ID:owNcgcen
 
こんなとき、慌てて目を剃らして足早に立ち去れるのも――勇気の一種かもしれない。
私はそれが出来なかった。
ただ、見つめ返してくる視線を受けて<テンプレート>を探していた。

幸い、私も女学生だから問題にはならない。はず
そう割りきって笑って誤魔化して立ち去るのが正解だろうか
それとも、あえて近付くべきか。

彼女の不信感を育まずにいられるのは後者しかないと思って――
私は声が届く距離まで近付いた。

「ごめんなさい、とても映えて見えたから」

そう言うと、彼女は困ったように笑う。
言葉選びを――誤っただろうか。

80名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/30(火) 12:38:51.63ID:owNcgcen
「つまりその、見惚れたの」

より直接的な言葉を使ったものの、
彼女は首をかしげると――気付いたように耳に手を当てる
垂れていたコードが揺れ、騒音にも似た激しい音が波の音を押し返していく。

「sorry――聞いてなかったわ」

「あ、うん。だよね」

イヤホンをしているのは分かっていたはずなのに
聞こえない可能性を考慮していなかった私の失敗だ。
聞こえないのに一人弁解していたとは――なんともはや。と、ため息をついて

「邪魔してごめんなさい。見惚れちゃって」

81名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/30(火) 12:57:08.61ID:owNcgcen
見るからに外国の血が流れているであろう黄昏乙女は、
塗り替えた違和感のない金色の髪を揺らしながら、薄く笑みを作る。
黒澤さんとは別に、綺麗な人だと思った。

純粋な島国の民としての憧れで割り増しされているのかもしれないけれど、
気品を感じさせる微笑みは――お嬢様めいている。

「ありがとう」

「いや、その――」

「no、problem。知ってるわ」

彼女はそう言って「果南のお友達でしょ」と笑った。
私は知らないのに彼女は知っている。
その不平さを感じてか、彼女はそのまま私を見て

「小原鞠莉。同じ浦の星女学院の一年生よ」

隣のクラスね。と、優しい小原さんから目をそらす。
以前から<小原さん>や<鞠莉(ちゃん)>などと小耳に挟んでいたけれど
私の無関心さも極まっているんじゃないかと流石に危機感を覚えそうだった。

三十八人だから一応、二組ある一年生
来年は纏めてくれたら良いのに――なんて思ってしまう

82名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/01(水) 08:06:22.23ID:TyDnBpmT
 
もう知っているみたいだけど。と、前置きしたうえで軽い自己紹介。
小原さんは私と松浦さんだけでなく、黒澤さんと幼馴染のことも知っているようで、
いつも賑やかだから。と、囁くような声で言う。
なんとなく――その騒がしさを避けたがっているように感じた。

「あなたの幼馴染は、初日に会いに来たのに」

「そうなんだ」

「――その様子だと、知らないのね」

小原さんは独り言のような小さな声で言うと、
耳から外したイヤホンに繋がっていた端末の電源を切る。
薄く広がるような騒々しい音が途絶え、彼女の穏やかな声がはっきりと聞こえた。

「一応、転入生だったりするのよ。本当はもう少しあとの予定だったんだけど――」

「え――あ」

「ふふっ」

そういえば、聞いた覚えがあるような。
思い返し、声を上げてしまった私を見て彼女は微笑む

83名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/01(水) 08:30:32.44ID:TyDnBpmT
「最初の頃――といっても最近だけど、結構popularだった。と、思うんだけど」

「私にそれを求められても困っちゃうかな」
小原さんには悪いけれど、
幼馴染と違って、特別盛り上がるような性格ではなかった。
転入生、転校生が来た。
そう言われても「そっかー」で済ませるのが、私だから。

「なのに、声をかけてきたの?」

「見てるのがバレたから」

「見惚れてくれたのよね」

「――まぁ」

そこは事実なので否定はしないけれど、
面と向かって、その相手から言われてしまうと照れくさくもなってしまう。
尻すぼみする声はみっともないと感じて、気丈に彼女を見る。

84名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/01(水) 09:12:47.80ID:TyDnBpmT
 
「あなたなら――別に、一緒に居てくれてもいいかも」

「置物っぽいからね」

「そうは――思ってないけど」

幼馴染ならそう評する。
引用して口にしてみれば、小原さんは声なく笑みを浮かべて首を振る。
騒がしくなく、いても苦にならない。といった感じなら、似たようなもののような気もするけれど、
流石に、置物というのは失礼だと思ったのかもしれない。
もしくは、置物も時には障害物となり得るからか。

小原さんは顔を上げると「もうタイムリミットね」と、立ち上がってスカートの裾を軽く叩く。
島の方からゆっくりと近づいてくる船が見えたからだろう。

「基本的にここにいるから、気が向いたら――また、ね」

あの船に乗って、彼女は向こうに行くのだろうか。
だとすれば、松浦さんと知り合いなのも頷けるかもしれない。
彼女の「気が向いたら」には「気が向いたらね」と繰り返すように答えておいた。

85名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/01(水) 09:57:38.39ID:TyDnBpmT
 
そうした出会いもあった中、7月になって期末テストが行われるのだった。

黒澤さんは「あなたには抜かれたくないわ」と対抗心を感じさせることを言っていたけれど
それはたぶん、私こそが言うべきことだろうと思う。

かたやただの学生、かたや名家のご息女
日々得られる自由度に大差あるはずの私が、どうしてそうでない人に遅れをとれるだろうか。
中間テストだってその通りの結果だった。
黒澤さんだって順位一桁の成績だったし、悪いわけじゃない。

そもそも――たった三十八人での順位争いは寂しくならないのかな。
などと言ったら

「何事も、やると決めたらとことんやるべきでしょう?」

と、言っていた。
切磋琢磨するとも言うし、河原の丸石のように削り合う相手が居なければ洗練もされないということ――か
その相手を私にするのはどうなんだろう。
そこはかとなく――もやもやとした。

86名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/01(水) 12:54:26.27ID:TyDnBpmT
期末テストは三日間に分けて行われる
水木金の曜日で実施し、
クラスの少なさとそもそもの生徒数から
土日を挟んで月曜日にはもう返却されるようになっている

その試験最終日、やはりお疲れ様といきたがったのは幼馴染だった。
期待たっぷりに黒澤さんを見つめる姿は
端からみてもうざかった――のだから
文句言わずに頷いてくれた黒澤さんには頭が下がる

「試験に答え合わせでもする?」

「黒っち〜それは有り得ないよね」

「また勉強しなかったの?」

「私の人生はね。勉強に浪費は出来ないんですよ」

呆れ顔の松浦さんに、幼馴染は堂々と語る
授業は勉強と等しくないので、
しっかりと受ける――という考えを持っているのが救いだろう。

87名無しで叶える物語(SIM)2020/07/02(木) 03:54:51.62ID:zysnXIqy
保守

88名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/02(木) 18:35:30.06ID:AYUN6fAM
黒澤さんの家につくと、以前とは違って客間へと案内される。
客間も十分に広いけれど、
彼女の私室を知っていると、ほんの少し手狭に感じてしまう。

「黒っちの家って感じがするねぇ〜」

部屋の雰囲気にまったく見合わず胡坐をかいて座る幼馴染は、
背中を伸ばすようにしながら間の抜けた声を黒澤さんへと投げる

彼女は彼女で、そう? と、困惑気味なものの、
奔放な幼馴染についてはもう完全に諦めているようで、
特に注意をするわけでもないようだった。

「畳の匂いってやつだね」

「そうそう。<ザ・和>って感じ」

「畳の匂い――?」

自分の制服の袖の匂いを嗅いで確かめる黒澤さんは、
なんだかちょっぴり可愛らしく思えてしまう。
普段は奇麗な人だけれど、ちょっとしたところが愛らしく思える。

「そういう意味じゃないと思うよ」

「なら、どういう――意味なの?」

雰囲気的なもの――なんて、曖昧な答えを返してみると、
意外に「なるほど」と、受け入れて貰えてしまった。

89名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/03(金) 08:24:05.68ID:Pw0GZmzl
「高校生になってさぁ?
 もう半年経ったわけでしょ? 浮いた話の一つでもないの?」

そう切り出したのは、言わずもがな幼馴染だった。
お茶菓子を手に取り口に含みながら
なんの気もない様子で、口にしたのだ。

黒澤さんの家には幼馴染が期待しているような浮わついた遊び心がない
その手持ち無沙汰な感覚から言い出したのかもしれないけれど
どうせ無いだろうけど。と、期待していないのは火を見るより明らかで。

「高校生って言っても女子校だし」

困ったように言う松浦さんは「あーでも」と少し考えて。

「ダイビングショップに来――」

「あーはいはいお世辞ねお世辞」

「流石に酷くない!?」

幼馴染は手をひらひらと振る。
お店に来るお客さんが「綺麗な子だか可愛い子だか言ってくれるよ」松浦さんが言おうとしたのはこの辺りだと思う。

どちらかと言えばお世辞に感じるかもしれないけれど
なかには、表現が正しいかわからないけれど
ナンパ――という線もあるんじゃないかと思わなくもない。
松浦さんは松浦さんで、スタイルが良いから。

90名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/03(金) 08:38:13.87ID:Pw0GZmzl
幼馴染と松浦さんのやり取りを、私はたぶんその場にいない第三者として聞いていたと思う。
頭の中ではあれこれ考え、こうじゃないか。なんて思ったりもしていたくせに――
私の目は、黒澤さんに向いていたから。

だからきっと、二人の会話が途切れたとき
奪われていた思考力が戻った反動を受けてしまったのだろう。

「黒澤さんはどうなの?」

「えっ?」

すっとんきょうな私、間の抜けた黒澤さん。
数瞬見つめあって、ハッとする

「あっ――いや、そのっ」

「おやマイベスフレは黒っちにご乱心かな?」

とりあえず、幼馴染の二の腕をつねった

91名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/03(金) 08:47:35.52ID:Pw0GZmzl
乱心はしていない。
執心でもない――たぶんきっと。

ただ、名家黒澤の長女という存在には
婚約者がいたりするかもしれないとか
日々縁談の申し出があるかもしれないとか。
迷信とか幻想とか小説とかのように身勝手に考えていた。

――もしかしたら。なんて

黒澤さんは私の焦りに、薄く笑う。

「わたくしには――なにも」

ちょっとだけ困ったように感じる眉
残念そうにも見えるのに、なぜかそうではないよう気もしてしまう。

92名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/03(金) 09:37:22.68ID:Pw0GZmzl
「黒っちにもないとなるともうダメだねこりゃ」

残るのは私と幼馴染の二人。
幼馴染は先んじて「私にそんな気はまったく無いからね」と自嘲する。

浮わついた話を切り出しておきながら、
自分には恋をする気がないと白状する彼女は
自分ではなく他人のそれが気になるタイプなのだ

「で、どうせなんにもないでしょ?」

幼馴染の一方的な言い方に、少しムッとする
なんにもないのは事実なので
それ事態に怒りはないのだけれど――
黒澤さんにでさえないものがある。そう言ったらどうなるのか。
少しそれが気になったし、多少なり見栄を張ってしまうのが子供らしいのでは。と、思って。

「6月末に、会った人がいるよ」

平然と、言ってみるのだった。

93名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/03(金) 09:58:36.40ID:Pw0GZmzl
6月末――? と、訝しげな幼馴染は
本当に会ったのかと馬鹿正直に訊ねてくる。

黒澤さんや松浦さん、その他友人知人ではないのは真実だけれど
まるで浮わついた話ではない。
それどころか、この場のみんなが知っているであろう――女子生徒の話だ

「ほんとほんと。たまたま一人で帰ったときに、その人が一人でいるのを見かけたんだよね」

「ふーん?」

「それでそれで?」

怪しむ幼馴染、興味津々な松浦さん
黙って聞いている黒澤さん
三人を見渡して、一息いれる。

「格好いい人だなーってつい見ちゃってさ。声、かけられたんだ」

格好いい人じゃなくて綺麗な人
声をかけられたのではなく、かけた。
唯一、見ちゃったことだけが真実である

94名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/04(土) 06:25:53.21ID:gBB53d/B
ほぅ

95名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/04(土) 11:27:24.80ID:tppTr3p3
「別にナンパとかじゃなかったんだけど、ちょっとはにかみながら、なにか? って」

「――それで?」

「それがまた素敵で――制服から自分たちが学生だって分かったから。あの高校だよね。って話が出来てね」

その日はちょっとした自己紹介くらいしかできなかったけれど、
それからも見かけたときには声をかけて――話をするようになった。

「よく音楽を聴いてるって言うから、どんな音楽が好きなのかとか、こういうのは好きじゃないのかとか」

話していること自体は嘘じゃないからだろう
幼馴染もみんなもそれを嘘だ。なんて言ったりはしなかった。
どんな音楽なのかという質問には、普通なら私が興味を持たない小原さんの好む音楽を答える。

アーティストと言うべきか、バンドと言うべきか。
そういった本当の情報を答えているので、
幼馴染が疑って端末で調べているけれど、それがまた信憑性を上げてくれる

「まだ数回しか会ってないから、このくらいの付き合いだけどね」

「このくらいっていうけど――結構すごいと思うよ」

96名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/04(土) 12:57:16.41ID:tppTr3p3
松浦さんはそう言うと、しみじみと頷く。
同じ学生だとは言え、異性に声をかけられ話をし、距離を縮めている。
それが出来ているのが凄いと思ってくれているんだと思う。

でも、純真にそんな褒め方をされると――ちょっぴり申し訳ない。

私が関わっているのは、同じ高校で同じ学年の小原鞠莉。
彼女はみんなを知っているし、
松浦さんなんて特に知人であるというのだから、酷い話である。

「まさか――まさかまさかまさかっ!?」

「その人とは――連絡先を?」

「ううん、そこまではしてないんだよね」

発狂寸前の幼馴染をよそに、黒澤さんに首を振る。
恋が云々に興味があるのか、私という友人のことを気にしているのか。
興味を持っている黒澤さんは少し、眉を顰めた

「では、普段はどうやって?」

「ん〜――なんていうか、私もその人も別に示し合わせてまで付き合いたいって思ってないんだと思う」

会いたい。話したい。そうして関わっていくのではなく、
いつもの繰り返しの中で、偶然にでも出会った時に――少しだけ言葉を交わす。
波の音、潮風、曇天の闇、晴天の夕日。
彼女の鈴とした声を聞くこともあるが、黙ってそれらに浸っていることもある。

「それはつまり、運命感じたいんだーってやつ?」

「運命――なのかなぁ?」

友人としての関係にも、運命と言うものは存在しているのだろうか?
少なくとも、この出会いに関しては恋愛における運命は介在していないと断言できる。
なにせ――互いに女の子なのだから。

97名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/04(土) 14:12:28.48ID:tppTr3p3
「なら、付き合ったりしないの?」

「勿体ないよ! せっかく仲良くなれたんなら――」

「待って果南。互いに、そうやって強要されたような付き合いは好んでないって言っていたでしょう?」

嬉しそうな松浦さんとは対照的に、黒澤さんは穏やかだった。
私の交友関係が広がっているのを喜んでくれてはいるのだけれど、
私の言った<示し合わせた付き合い>を重く感じているのだろうか。

「交際をすると言うことは、多少――縛られてしまう。きっと、それを望まないわ」

「そうだね。そういうの、望まないよ」

そもそも女の子だし。と、内心で思いながら異性のことを考えてみる。
彼女もそうだけれど、私も黒澤さんが言うように縛られてしまうのを好まない。
だからこそ彼女は一人であの場所にいて、私はその姿に共感してしまった。

「早い話、私は付き合うとかできないと思うんだよね」

「でもさー? 女の子も男の子も。学生のうちに一回くらいは恋愛するのが普通だと思うんだよねぇ?」

「それが普通だとしたら、私達って普通じゃなくない?」

「恋愛なんて、するもしないも自由ではなくて? するのが普通と言うのは――いささか納得しかねるわね」

98名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/04(土) 19:44:17.91ID:tppTr3p3
「ほほぅ」

幼馴染の瞳が好奇に輝く。
黒澤さんの人となりを少しは知っているであろう幼馴染は、しかし遠慮を知らない。
黒澤さんが交際に対してあまりいい印象を持っていないと感じたからこそのその雰囲気は、
やはり、無遠慮だ。

「黒っちは、男嫌いだったりするわけ?」

「嫌い――と言うほどでは」

「でもさー交際、黒っちは否定的に見えるんだよね〜」

そこでなぜか、彼女は私を見る
ニヤリとした口元が<今から私余計なことしますね! テヘッ>と語っているのが何とも憎たらしい。
咳ばらいを一つして、下品にコップの音を立てる

「男の子が嫌いじゃなくたってさ、恋愛なんてどうなるか分かったもんじゃないでしょ」

簡単に言えば、未知である。

誰かに恋をしたとき、自分と言う存在はどれほどまでに歪んでしまうのか。
その何者かの為に、過去に律してきた自分を裏切ることになるのではないか。
少なくとも不変ではあれないであろう未知なる現象には――正直、私は畏怖を覚える

99名無しで叶える物語(光)2020/07/05(日) 13:31:31.66ID:dkrgj/B0
読み物としてとても素敵だと思います。
楽しみにしてます

100名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/05(日) 15:14:37.41ID:ATPry6Dw
「それに、あんたはどうなの? 男の子が嫌いだから興味ないわけ?」

「興味はあるけどね、なんかさ――まるで想像できないんだよねー」

幼馴染はそう笑いながら頬をポリポリと掻く
小学校も中学校も、彼女は女友達よりは男友達と言う快活さを見せていた。
クラスメイトの女の子たちが次第におしゃれに興味を持ち始めていた時期もそう。
彼女は、男の子と遊んでいることの方が目立った。

それなのに、彼女は自分が男の子と付き合う想像が出来ないと言う。
照れくさいというより、本当に困ったと感じる幼馴染の歪んだ眉を見つめていると、
幼馴染は「遊びと交際は違うと思うんだよ」と言った

「男子と遊ぶことは出来るけどじゃぁ恋愛しよう。ってなると私は何にもできなくなると思う」

「手を繋ぐとかも?」

「遊びならいくらでもやるよ。中学の演劇部の手伝いで抱き着いたことだってある」

えっ。と、黒澤さんの驚いた声が上がって松浦さんの顔が険しくなる
流石に中学生ではまずいんじゃないか。と考えているのが仲良くなくても分かってしまう
いくら演劇部だと言っても、プロではないし、手伝い程度でそこまでするのだろうか。と。
私へと向けられた二人の視線には、頷いておく。

残念ながら、嘘ではない。

101名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/05(日) 16:08:41.41ID:ATPry6Dw
「けどさ、それって別に好きでも何でもないから出来るんだと思うわけだよ。私」

「え〜? 普通逆じゃない?」

「そう? だとしたら、私は女の子としての普通からは外れてるのかもしれないね」

やや無関心気味に、幼馴染はそう言った。
私は恋愛を未知ゆえに畏怖している。
けれど幼馴染は、恋愛を考える気がないのかもしれない。
なるようになるだろう――なんて、考えているように感じる。

「まぁ、そうやって異性と付き合ってきたわけだけれど、私は別に恋してるなぁ――とは、一度も思わなかった」

「興味持たないからじゃないの?」

「友達の恋愛に興味はあるんだけどね」

たとえば、私が誰か男の子に恋をしたとする。
幼馴染はそれに興味を持つわけだけれど、
その矛先が向いているのは、あくまで私であって恋ではないのだ

「小中で、友達が○○くんかっこいとか、好きとか、付き合ってるとか。そう言うの聞いてて、へぇ〜凄いじゃんって思ってたのになぁ」

「自分もしてみたいとは――思わなかったと?」

「有名人を見てすごーいって湧きたってたからって、そうなりたいと思うわけじゃないんだよ」

そう言うと、幼馴染は少し切なげな顔をする。
彼女にとっては珍しい、でも、決してしないわけではない憂いを帯びて

「違う。蚊帳の外だったんだ」

彼女は首を振る。
そこで言葉を切って、まだ冷えている麦茶に口をつける。
続きがあると解ってるからか、誰も口を挟まない
幼馴染にしては――そう、彼女にしては、それは酷く真面目な空気を感じさせていた。

「他人だったんだよ結局――幸せそうにしている友達を見て、私は今の自分以上に幸せになれるだなんて思えなかったんだ」

102名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/05(日) 16:21:22.76ID:ATPry6Dw
「友達の恋愛に興味があるのは、それが幸せに見えるから。自分のそれに興味がないのは、それで幸せになれると思えないから」

幼馴染はそう言うと、
多分きっと、私はそういう風に考えてるからなんじゃないかなぁ。と、
砕けた語尾で、和ませるかのように呟く。

「そう――いう、考え方もあると思うわ」

「難しい話は良く分からないけど、今満足してるなら別に恋愛とかしなくても良いんじゃない?」

黒澤さんと松浦さんの仲裁するような言葉が聞こえる。
幼馴染はそれを笑いながら聞いて「そうだねぇ〜」とにこやかに言うのだ。
彼女は、それ以上に幸せになれると思えないと言った。
それは嘘じゃない――と思う。

けれど――本当は、幸せではなくなってしまう。そう、思っているように私は感じた。
今のまま、幸せなままでいたいから、恋愛を避けているのだと、
そう言っているように感じた。

誰かに恋をすると言うことは、心がその人に縛り付けられてしまうことになると、考えられなくもない。
彼女はそう考えて、自分の<自由>が損なわれることに嫌悪感を抱いてさえいるのかもしれない。
ゆえに――無関心になる。

「でも、恋をするのが普通なんだろうなぁ」

幼馴染のささやかな呟き
縁側の方から吹き込む風が、風鈴を揺らす音が聞こえる。
誰一人として幼馴染の言葉に同意はしなかった。

103名無しで叶える物語(茸)2020/07/06(月) 00:20:56.10ID:NnUsOpxZ
チャラいけど頭の中は高一じゃないなこの幼馴染
やっぱりラ板で無駄遣いする内容じゃないって
普通に渋にでもあげた方がいい

104名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/06(月) 07:58:12.76ID:AnyzvNje
期末テストが終わって数日、返された結果は想定通りだった。
お疲れ様会の後に行った見直し通りの点数で、順位的にもトップの成績
松浦さんも決して悪くはないし、
流石に幼馴染は三〇台の順位ではあるものの、赤点はなかったので問題なく部活が可能だと喜んでいた。

黒澤さんと小原さんも私と変わらない順位なのは流石だと思ったのだけれど、
やっぱり――黒澤さんは不服さを感じさせた。

「前にも言ったけど、黒澤さんは私と違って自由な時間少ないんだから当然だと思うんだけど」

「それはそれ、これはこれです」

「でも、妥協はしてくれないと」

黒澤さんが私を追い抜くには、学年一の成績にならなければならないわけで
それを取るためには、黒澤さんは今まで以上に勉強しなければいけないと思う。

お稽古と生徒会――そして、勉強
全てを両立してトップレベルである現状でも無理しているのではと思うのに、
今以上だなんて、あまり認められたものじゃない――なんて。

「いや――ごめん。まぁ、黒澤さんはそうだよね」

これは過干渉だ
普通の友人らしくない――まるで、私らしくない。

105名無しで叶える物語(えびふりゃー)2020/07/07(火) 00:51:27.06ID:c3sUVbuW
>>104
期待保守

106名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/07(火) 07:30:44.68ID:3q+BeAx9
私が少し手を抜けば、黒澤さんは満足するだろうか。
きっと満足しないし喜ばないだろうし。
手を抜いたことがバレるリスクを考えると――それは駄目だろう。

「頑張ったって、黒澤さんは私に勝てないよ」

「次学期は後れを取らないつもりよ」

「今でも十分ついてきてるって思うけどね」

私と同じことをしていて、
それ以外に私がしていないことをたくさんしているのに
黒澤さんの成績は私にとても近い。
それで満足したらいいのにと、思って。

「まぁ、無理はしないようにね。私と違って黒澤家としての責務もあるんだろうから」

「心配、してくれているの?」

「ん――」

ちょっぴり驚く黒澤さんを一瞥する。
心配――かな? 心配かもしれない。
一応、友人ではあるから――頑張りすぎていることを気遣う

「色々ありそうだから」

どんなことがあるのかは分からないけれど、
妹さんと黒澤さん
その家の大きさを見ていれば、何となくありそうに感じる。

107名無しで叶える物語(らっかせい)2020/07/07(火) 07:30:44.69ID:3q+BeAx9
私が少し手を抜けば、黒澤さんは満足するだろうか。
きっと満足しないし喜ばないだろうし。
手を抜いたことがバレるリスクを考えると――それは駄目だろう。

「頑張ったって、黒澤さんは私に勝てないよ」

「次学期は後れを取らないつもりよ」

「今でも十分ついてきてるって思うけどね」

私と同じことをしていて、
それ以外に私がしていないことをたくさんしているのに
黒澤さんの成績は私にとても近い。
それで満足したらいいのにと、思って。

「まぁ、無理はしないようにね。私と違って黒澤家としての責務もあるんだろうから」

「心配、してくれているの?」

「ん――」

ちょっぴり驚く黒澤さんを一瞥する。
心配――かな? 心配かもしれない。
一応、友人ではあるから――頑張りすぎていることを気遣う

「色々ありそうだから」

どんなことがあるのかは分からないけれど、
妹さんと黒澤さん
その家の大きさを見ていれば、何となくありそうに感じる。

108名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/07(火) 08:16:56.02ID:gsnH9oo6
色々あると考えておいて
いえいえなにもありませんよ。となったら笑い話になるだろう。
黒澤さんが「そんなお貴族様じゃないわ」と笑いながら扇でも振ってみせてくれたらなお愉快かもしれない。

でも黒澤さんは、微かな笑みを浮かべるばかりで
肯定も否定もせずに口を閉じた。
余計なことを言ってしまったかなと目を向ければ
そんなことはなかったようで。

「ありがとう――体調にも気を付けるわ」

「そうしてくれると助かる」

感情を擽るような彼女の声に、私は目を背ける

「じゃないと――生徒会の仕事押し付けられちゃうからね」

109名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/07/07(火) 09:27:00.69ID:KpRu7QV2
「書記ももう一人いるから――大丈夫」

書記も会計も二人ずついる。
だから問題はないとする黒澤さんは
それでも、迷惑をかけることになるだろうからと、気をつけてくれると言う。

その嬉しそうな表情が向けられているのが――なんだかもやっとする。
嫌なわけではないけれど、
今までの自分はここまで関わらなかったはずだからかもしれない。

「次も勝つよ、私」

「では次は体育祭――」

「敗けでいいや」

あと数日後に控えた私の嫌いな一日
黒澤さんの持ち出したその勝負事からは――逃げ出す。
黒澤さんのちょっとした笑い声が聞こえる
そんなこと言わずにと引き留める声がする
でも、運動だけは駄目なのだと――受け付けなかった

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