海未「Sky Blue」
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彼女の青い髪が夕暮れの赤を青空に変える。
海未「穂乃果、こんな所にいたんですか。何してるんですか?」
砂浜に寝転んで、空を見ていた私を海未ちゃんが上から覗き込む。
風は彼女の髪を靡かせ、日の光の反射で一本一本キラキラと輝いてる。
穂乃果「空見てた」
合宿での練習が終わり、休憩がてら私は砂浜に寝転んでいた。
そうしたら、あまりに空があまりにも綺麗だからこの場を動けずにいた。
海未「みんな探していましたよ。さぁ別荘に戻りましょう」
穂乃果「う、うん」
私は身を起こし、服に着いた砂を払うと海未ちゃんと一緒に別荘に戻る事にした。 Prologue.
もう大学生なんだし、家の手伝いの他に何か社会経験を積んでおいた方がいいんじゃない?
お母さんのそんなアドバイスを受けて、私は更に大人になるべくアルバイトの面接を受けに行った。
手には、履歴書。
向かう場所は近くのコンビニ。
時間がギリギリだったので、私は慌てて家を出た。
面接は第一印象が大切。
お母さんの一言を思い出し、走りながら髪の乱れを直し履歴書がクシャクシャにならないように気を付けた。
ようは、前をよく見ていなかった。
そんな私を死神は狙ったかのように上手く車と衝突させ私は病院送り。
そして、私は死にはしなかったけど記憶喪失になっていた。
私らしい記憶喪失のなり方だ。 それから一年が経ち、私は近所の公園によく行っては昔の事を思い出そうとボーっとしていた。
ある日、そんな私をじぃっと見つめている人が一人。
青い髪ですごく綺麗な女の人だ。
すごく私を見ている。
ずっと、見ている。
もしかしたら、私を知っている人なのかもしれない・・・。
だから私は自分の名前が穂乃佳と言う事と、私を知っているか?と質問していた所。
彼女・・・海未さんは頷いた。
それから毎日この公園で私と海未さんの私も記憶探しが始まった。 1.
穂乃果「あっ、海未さんこんにちはー!」
いつものように、公園のベンチに座っていると約束していた時間きっかりに海未さんが公園のゲートを通る。
立ち上がりぶんぶんと手を振る私とは対象的に海未さんは大和撫子よろしくそんなに反応を返さず私の横に座る。
私も同じタイミングで腰を下ろす。
海未「こんにちは、穂乃果」
穂乃果「はい、こんにちは!」
敬語使わないでいいですよと一度言われた事がある。
私と穂乃果は友達なんですから、敬語使われると何だか違う感じがするらしかった。
そんなの言われたら海未さんも敬語だし、こんな美人で私より大人っぽい人にタメ口なんて、私はきっと片言のタメ口になってしまう。
それを海未さんに伝えたら慣れたらタメ口でいいですよと言ってくれた。 穂乃果「今日は何の話ですか?」
私は海未さんによく昔話をして貰う。
何か思い出すきっかけになるかもしれないし、私は海未さんから聞く私の話がとても好きだった。
海未「そうですね。見たら絶対泣けるって凄く評判が高い映画を二人で見た事があります」
穂乃果「映画のタイトルは分かりますか?」
海未「あ、いえ・・・。タイトルまでは私もよく覚えていませんが。映画見終わった後に二人共、凄くボロボロ泣いてお互いの号泣する姿を見て指差し合って笑いました」
穂乃果「本当に仲が良かったんですねー私達」
海未「・・・はい。でも、そこで穂乃果は凄く穂乃果らしくない事を言いました」
穂乃果「私らしくない事?」 海未「あなたは、人間って他人の為に涙を流せないと言いました。今こうして映画を見て泣いているのも。その主人公が可哀想な姿を見る自分が可哀想だから泣いている」
穂乃果「感動する映画が台無しですね。何か・・・ごめんなさい」
海未「いえ、でも私も聞いた事がありました。例えば家族が死んでしまって泣いたとしても、死んで可哀想だから泣くのではなく。その家族を失ってしまった自分が可哀想だから泣くらしいんです」
穂乃果「人間ってそう言うふうに出来てるんですかね?」
海未「どうでしょう。良く調べていませんがあなたがこんな事言うなんて当時の私は信じられなくて、テレビで見た知識なんだろうなと思っていました」
穂乃果「あれ?馬鹿にしてます?」
海未「普段元気ハツラツなあなたがこんな詩的な事言うから感心した覚えはあります」 穂乃果「詩的かぁ・・・」
海未「別の話にしましょうか」
穂乃果「あ、はい!」
海未さんと私はもう友達と言っていい仲だと私は勝手に思っている。
毎日、毎日、公園で談笑をして日が暮れたら帰る。
ここ半年はその繰り返しだ。
海未さんからは名前が示す通り、微かに塩の匂いがする。
海の近くに住んでると前に言っていた。
私は思い付いた駄洒落を我慢出来ずに海未さんは海の近くに住んでると言った事がある。
愛想笑いすらされずに、海未さんは私の顔を見つめていた。 海未「バレンタインの日の前日にチョコクッキーを作った話なんですけど」
穂乃果「あ、はい。バレンタインですね」
海未「私の家ハート型の型抜きしか無くて、特に深い意味もなくそのままハートのチョコクッキーを作ったんです」
穂乃果「ほぉーハートですか。誰かにあげる予定だったんですか?」
海未「はい、あなたに」
穂乃果「わ、私にハートのクッキー!!ちょっと恥ずかしいですね」
海未「私も渡す時、恥ずかしかったです。それでお互い交換したんです」
穂乃果「私のチョコはどんなのでした?」
海未「えぇと。私と同じチョコのクッキーでした。ハート型の」
穂乃果「以心伝心ですねー」
海未「はい、今あなたが言った事と全く同じ事言いましたよ」 穂乃果「味はどうでした?」
海未「美味しかったですよ。あなたはどうですか?味は思い出せそうですか?」
穂乃果「うーん。でも、海未さんが作ったんなら美味しいに決まってるはずです!」
海未「ありがとうございます」
穂乃果「そう言えば海未さんの得意料理は何かあります?」
海未「私は・・・餃子とチャーハンですね」
穂乃果「餃子にチャーハンですかー!中華好きなんですか?」
海未「はい。チャーハンなんかは作るの手軽で良く食べてます」
穂乃果「海未さんのチャーハンかー。食べてみたいかも」
海未「いいですよ」 穂乃果「おっ、本当ですか?」
海未「はい、家に来てくれれば何時でも作りますよ」
穂乃果「行きたいです!海未さんの家!」
海未「はい、何も無いですが」
穂乃果「全然、大丈夫ですよ!チャーハンがありますから!」
海未「じゃあ今から来ますか?」
穂乃果「えぇっ!今から!?」
海未「都合が悪いなら後日でも大丈夫ですよ」
穂乃果「いや、今から行きます!お昼あんまり食べてないし!」
海未「じゃあ」
海未さんは腰を上げる。
海未「着いて来て下さい」
穂乃果「はい!」 海未さんの後をトコトコと着いて行く。
公園を抜け、しばらく歩くと駅にたどり着いた。
今はあまり乗る事はないが、昔私が良く利用していた駅だ。
穂乃果「電車に乗って行くんですか?」
海未「いえ・・・」
海未さんはポケットから車の鍵を取り出し私に見せた。
海未「近くにパーキングがあるのでそこに車止めてます」
穂乃果「えっ!?いつも車で来てたんですか?」
海未「はい」
一向に何も思い出す気配のないこんな私の為にわざわざ車で来てガソリンを無駄にしてる海未さんに何だか申し訳なくなる。
穂乃果「何かごめんなさい」
海未「?・・・行きましょうか」 海未さんの車は黒い軽自動車だ。
私の個人的な考えかもしれないが、海未さんに黒色は何だか似合わない気がした。
穂乃果「どうして黒なんですか?」
助手席に乗りながら聞いてみる。
海未「黒の方が目立たないからです」
確かに、海未さんは目立ちたがりではない方だと思う。
でも、どこか引っかかる問いだった。
車が動く。
パーキングを出ると、ラジオが明日は一日中雨だと告げる。
時々、海未さんは何か影を感じさせる事を言う。
きっと昔の私と同じように詩的な人なんだろう。 海未「そう言えば・・・聞いていいかどうか分かりませんが・・・」
穂乃果「?何でも聞いて下さい!」
海未「あの、あなたを轢いた人は捕まりました?」
穂乃果「あー。それがまだ何ですよ」
海未「目撃者もいなかったんですよね?」
穂乃果「はい。だから警察の方々も手掛かり掴めないみたいで・・・」
海未「捕まるといいですね」
穂乃果「そうですね。でも、結果的に記憶喪失になってよかったかなぁって最近思うようになってて・・・実は」
海未「ダメですよそんな事言ったら」
穂乃果「ですよねーハハハ。でも、記憶喪失になっていなかったら海未さんとまた仲良くする事が出来た。それだけで私は嬉しいです!」 私がいい終わると同時に信号が青になり車は静かに止まる。
海未さんは私の顔をじぃっと見つめる。
穂乃果「?」
ただ何も言わず、私の顔をじぃっと見る。
穂乃果「どうかしました?」
私も海未さんの顔を見る。
海未さんの瞳はとても綺麗で吸い込まれそうだ。
その瞳は少しずつ潤いを増して行き、流れ星のように頬に涙が伝う。
穂乃果「え、えぇ!?」
海未「すみません。穂乃果すみません・・・」
後ろの車がクラクションを鳴らす。
いつの間にか信号が変わったようで、海未さんは前を見て車を発進させる。
海未「何でもないです。たださっきの言葉に感動しただけです」
人は誰かの為に涙を流す事が出来ない。
海未さんは自分の為に何の涙を流したんだろう。
涙脆いのかどうなのか。
ただ海未さんは私の言葉に感動したと言っていた。
私はこの言葉は嘘だと、心が確信していた。 私は海未さんの泣いた本当の理由を聞けず。
公園で話しているような昔話を海未さんから聞かされていた。
私が海未さんをいたずらした話だ。
二人で一緒にケーキを食べに行く約束をして、海未さんが予定通りの時刻に待ち合わせ場所に着いたんだけど、私は待ち合わせ時間に来なかったらしい。
5分10分と時間が経ち、海未さんは私に電話をかけた所、遠くで手を振っている私を見つけた。
海未「そこで、私は穂乃果に時間過ぎてると言ったんですが・・・」
穂乃果「言ったんですが???」
海未「遅刻はしていないと言うんです。私が来るよりも早くここにいたと」
穂乃果「どう言う事ですか?」
海未「穂乃果は見たかったんですよ。あなたを待っている私を」
穂乃果「何か・・・ごめんなさい」
窓からは海が見える。
少し開けていたので、塩の香りがする。
海未さんと同じ匂いだ。
海未「あの家です」
海未さんの視線を追うと、年季が入ったアパートが見えた。 何かちょっと意外だった。
海の近くで、海未さんみたいに綺麗な人だからお洒落なマンションかと思っていた。
海未「少し古いですよね?でも、家賃が凄く安いんです」
穂乃果「あっ、いえ。海が近いってだけで凄くいいと思います?」
思っていた事を見抜かれていてしまってたらしい。
海未「住んでみると特に不自由はしないでふよ」
駐車場に車を入れ、エンジンを止める。
海未「何もないですが、どうぞ」
車を降りて、海未さんの後を着いて行き部屋へと入る。 部屋は玄関入ってすぐキッチンと冷蔵庫。
その横にドア、恐らくトイレだろう。
奥にガラス戸があり、海未さんは戸を開く。
ガタガタと音がし、部屋の真ん中には小さなテーブル。
恥に折り畳まれた布団。
それだけだ。
あとは、スマホの充電器やノートパソコンがあるがほんにが言っていた通り本当に何もない。
海未「どうしました?」
穂乃果「あ、いえ!お邪魔します!」
靴を脱いで、中へ入ると床がギィギィと軋んだ。
海未「待ってて下さいすぐにチャーハン作りますね。あ、オレンジジュースとお茶どっちがいいですか?」
穂乃果「お茶で!」 海未「分かりました」
海未さんはすぐにお茶を出してくれた。
穂乃果「あ、ありがとうございます!」
海未「すぐチャーハン食べますか?」
穂乃果「あ、はい!すみませんお願いします!」
海未「分かりました」
すぐに台所へ行くと、海未さんは支度を始める。
トントントントンと心地よい音が聞こえ、私はテーブルに頬杖をつく。
目を閉じ耳を澄ますと、微かに波の音が聞こえる。
私はしばらく、この心地よい空間に身を委ねる事にした。 九色の色がステージの上で揺れる。
輝いて、揺らぐたびに光の群れが波打つ。
色はステージの上で混じり合い離れまた混じり合う。
空気が震え、光の群れの動きは音に合わせゆっくりになる。
私はこの光景を知っている。 海未「穂乃果?穂乃果?出来ましたよ。起きて下さい」
穂乃果「んんっ・・・」
どうやら何時の間にか眠ってしまっていたらしい。
目を擦りながら、いい匂いがしてお腹の虫が鳴く。
穂乃果「ご、ごめんなさい。寝ちゃってました」
海未「いえ、いいんですよ。はい、チャーハン出来ましたよ」
目の前には湯気が立ち、お米一粒一粒が輝いているチャーハン。
レタスと人参玉ねぎが入っているのがわかる。
穂乃果「うわぁ!凄く美味しそう!!!」
海未「すみません。寝てたのにこのまま寝かせてた方がいいかなと思ったんですが、チャーハン冷めてしまいますし・・・」
穂乃果「いえ!いいんですいいんです!」
海未「じゃあ、食べてみて下さい。・・・ずっとあなたに食べて貰いたかった」
穂乃果「はい!いただきます!」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています