若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
老爺は答えなかった。ルビィは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「王様は、マスクを配ります。」
「なぜ配るのだ。」
「悪菌を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪菌を持っては居りませぬ。」
「たくさんのマスクを配ったのか。」
「いえ、はじめは一人あたり10万円を。それから、世帯あたり30万円を。それから、収入の半減した者のいる世帯に限り30万円を。それから、お肉券を。それから、お魚券を。それから、マスク2枚を。」
「おどろいた。国王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、自宅で待機することを命じて居ります。御命令を拒めば悪菌にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」