ルビィ「スターチス」
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曜「……もう、大げさだよ」
理亞(グルグルグルグル、混乱していると)
理亞(倒れていたはずの曜がゆっくりと顔を上げる)
ルビィ「平気なの?」
理亞(ルビィが曜に抱きつく)
曜「ごめんね、ちょっと転んだだけ」
理亞(そんなわけない)
理亞(嘘だということは、すぐに理解できた) 理亞「一度、休んできたほうがいいわよ」
理亞(どう見ても正常ではないもの)
曜「いや、それはちょっと」
理亞「いいから。私もしばらく居られるし」
理亞(誰か見ていればきっと大丈夫)
理亞(そもそも、ルビィもこの状況で、何かをしでかすことはないだろうから)
曜「……じゃあ、お願いしようかな」
理亞(それでも拒否されることを予想していた)
理亞(だけど返ってきたのは肯定)
理亞(彼女の身体には、それほど大きな異常が起こっているの?)
曜「ここの後片付けは自分でしておくから、二人は戻ってて」
ルビィ「う、うん」
曜「悪いけど理亞ちゃん、ルビィちゃんをよろしく」
理亞「え、ええ」 理亞(フラフラとおぼつかない足取りで立ち上がる曜)
曜「少し休んだら回復するだろうから、心配しないでね」
理亞(無茶を言わないでほしい)
理亞(ああそうですか、なんて考えられるわけがないのに)
理亞(だけどこれ以上ここに居るのも、ルビィの精神衛生上よくはないから)
理亞「ルビィ、いこ」
ルビィ「で、でも」
理亞(心配そうなルビィ)
理亞(離れたくないのだと、理解はできるけど)
理亞「曜も一人の方が、落ち着くだろうから」
ルビィ「……分かった」 ―――
――
―
ルビィ「よっぽど、疲れているのかな」
理亞(部屋に戻ると、ルビィはやはり心配そうに漏らす)
理亞「かもしれない」
理亞(あの曜が、ルビィな状況で傍を離れようとするなんて)
理亞(ひとまず小原鞠莉に連絡は入れたら、息のかかった医者が来てくれたから一安心ではあるけど) 理亞「曜の様子によっては、誰か代わりの人がくるらしい」
ルビィ「鞠莉ちゃん、かな」
理亞「……たぶん」
理亞(そうなったらルビィはまた、花丸の後を追おうとするのだろうか)
理亞(駄目、それは嫌だ)
理亞(それを防ぐためには)
理亞「……私、曜が起きるまでここにいる」
ルビィ「ふぇ」
理亞「ずっと起きて、ルビィを見てる」 理亞(ルビィに合わせて器用に生活するなんて真似はできないけど)
理亞(寝なければ問題ない)
ルビィ「だ、駄目だよ、そんなの。おうちの人も心配するし」
理亞「平気。姉様は分かってくれる」
理亞(それとなく、ルビィのことは話してある)
理亞(姉様は私のことを信じてくれるから、この件も認めてくれるはず)
ルビィ「大丈夫だよ。私も、曜ちゃんが寝ている間は何もしないから」
理亞(曜が寝ている間、には)
ルビィ「理亞ちゃんは人から信頼されているんだね。お姉ちゃんや、曜ちゃんに」
理亞(そんなことない。そもそも私のことを信じてくれるのは、その二人だけ)
ルビィ「曜ちゃんはね、ルビィの為に、ルビィを生かすために、絶対に目を離さなかった」
ルビィ「例えどんなに体調が悪くても、なにが起こっても」
ルビィ「抜けているところがあるから、理亞ちゃんと再会した時みたいに、隙ができるときはあったけどね」
理亞(そうやって、曜はルビィをこの世に繋ぎ止めてきた) 理亞「ルビィは、曜のことが好き?」
理亞(答えは、聞くまでもないけど)
ルビィ「……本当にやさしい人なの」
ルビィ「昔、ルビィとマルちゃんの関係を知りながら、真っ先に味方になってくれた」
ルビィ「ルビィの望みを叶えるために、自分の人生をなげうつ覚悟で逃げるのに協力してくれた」
ルビィ「本当はもう、傷つけたくない」
理亞(やっぱりそうだ)
理亞(ルビィを生かす為の鍵は、彼女のやさしさを利用すること)
理亞(その方法だけは、既に考えてある) 理亞「……それなら、死ぬ前に助けてあげれば」
理亞(私がルビィの信頼を得る為に、思い描いていた言葉)
ルビィ「助ける?」
理亞「死ぬのは、渡辺曜を救ってからでも、遅くない」
ルビィ「曜ちゃんを、救ってから……」
理亞(目から鱗、そんな反応をしている)
理亞(それでいい)
理亞(こうすれば、曜のためにルビィは生きようとする)
理亞(この子も曜と同じように、やさしい子だから) 理亞(そもそもルビィが曜という鎖に苦しんでいるなら、こちらからそれを外す方向に誘導してあげればいい)
理亞(少なくともその間、この子は自分の意志で生きようとする)
理亞(前を向いて生きようとする)
理亞(そしてこれは、そう簡単に解決する問題でもない)
理亞(時間はたっぷりできるはず。曜の鎖から解放される前に、私が新しい鎖となる)
理亞(曜を助けた後、今度は私を解放するために生きる)
理亞(そうやって繰り返せば、ルビィは生きられる)
理亞(今のように死を望み、目的を持たずにただ存在する生き方に比べれば、充実した人生が送れる)
理亞(大切な人の死なんてごめんだ)
理亞(だけど苦しんでいるこの子の姿も、私はもう見たくなかった) 【鞠莉】
鞠莉(私はいつも、大切な選択を間違えてきた)
鞠莉(自分勝手な判断で、大切な後輩たちの未来をいくつも壊した)
鞠莉(輝かしい未来が約束されていた子たちから、それを奪い取った)
鞠莉(花丸は死に、ルビィや親友だった果南とダイヤは心を病み、廃人のようになった)
鞠莉(曜はルビィ、善子はダイヤの為にその身を捧げ続ける)
鞠莉(千歌と梨子も大切な幼馴染や仲間を失った) 鞠莉(私はできる限りのことをして、彼女たちに償いをする)
鞠莉(全員が不自由なく生きる為に必要なお金を稼ぐ)
鞠莉(あらゆる手段を講じて、年中動き回っている)
鞠莉(そんな私が、少しでも時間ができればやってくるのがここ、函館)
鞠莉(だけど今日訪れるのは、いつもの屋敷ではない)
鞠莉(坂の上にある、古くから続く喫茶店)
聖良「小原さん、いらっしゃい」
鞠莉(鹿角聖良)
鞠莉(最近できたルビィの友人の姉)
鞠莉(彼女に会うのは初めてではない)
鞠莉(曜に存在聞いたあと、真っ先に挨拶へ行き、事情を説明して)
鞠莉(その時の彼女は、突拍子のない私の話を素直に聞き入れて)
鞠莉(理亞ちゃんがルビィの元に通うのを許可してくれた) 鞠莉(今日の目的は、先日理亞ちゃんに一晩ルビィの面倒をみさせてしまったことのお詫びとお礼)
鞠莉(曜が倒れるという緊急事態、あの子のおかげで乗り切れたから)
聖良「お茶でいいですか?」
鞠莉「あっ、すぐに出るからお構いなく」
鞠莉(人を使って調べさせた鹿角聖良の経歴は素晴らしい)
鞠莉(実績、カリスマ性、学歴、完璧に近い人間)
鞠莉(逆に妹の理亞は、お世辞にも出来がいいとはいえない)
鞠莉(身体能力は高い、頭も悪くはない)
鞠莉(だけど人間としてあまりにも不器用すぎる) 聖良「お忙しいのですね、相変わらず」
鞠莉「私は未熟だから効率が悪いだけよ」
鞠莉「曜や理亞ちゃんに頼ってないで、もっと函館にも来なきゃいけないのに……」
聖良「ふふっ、私たちはまだ若いのですから、未熟なのは当然ですよ」
鞠莉(確かにそのとおり、未熟なのは別段おかしなことではない)
鞠莉(だけど私は、そんな当たり前を主張できる立場ではない)
聖良「曜さんの体調は大丈夫ですか」
鞠莉「ええ。この後自分でも様子は見に行くけど、すぐに回復はしたみたい」
鞠莉(医者が言うにはただの過労)
鞠莉(本当ならもっと休んでいてほしかったのに)
鞠莉(驚異的な回復力で、もう普通に過ごせているとか) 聖良「遠慮なく理亞を使ってあげてくださいね」
聖良「あの子、ルビィさんや曜さんと出会ってから、いつも楽しそうなので」
鞠莉「いいの? 妹を危ない世界に巻き込んで」
鞠莉(冷静さを欠いたルビィがとんでもないことをしでかすかもしれない)
鞠莉(人の死を、忘れられないトラウマを目の当たりにする可能性だってあるのに)
聖良「大丈夫です、私は理亞を信じています」
聖良「あの子は強い子ですから」
鞠莉(それなのに、完璧な姉は不出来な妹を全面的に信頼している)
鞠莉(この奇妙な信頼関係は、どこから来るのだろう)
鞠莉(甘いようでどこか厳しい。私が知っている姉妹と似ているようで、違う関係性)
鞠莉(それを理解するのは、なかなか難しそう) 【理亞5】
理亞(季節は深まり、函館もちらほら白い雪が舞う季節になってきた)
曜「ヘイ理亞ちゃん、ヨ―ソロー!」
理亞(曜は一度倒れて以来、ずっとこんな感じ)
理亞(元気いっぱい、いつも大騒ぎ)
理亞(これが痛々しい空元気ではないことを願わずにはいられない)
ルビィ「理亞ちゃん!」
理亞(いや、だけどそれだけじゃない)
理亞(曜が明るくなったのは、ルビィの変化の影響もある)
理亞(この子は普段から意識をするようになった、曜に出来る限り負担をかけないようにと)
理亞(最近はずっと、いい子のルビィ) 理亞「……お邪魔するわね」
曜「ほいほい、お茶入っているよ〜」
理亞「そういえばお菓子、持ってきたから」
ルビィ「わぁ、ありがとう」
理亞(温かい室内で、三人仲良くくつろぐ)
理亞(最近はトランプみたいな、簡単なゲームをすることも増えた)
理亞(それもきっと、前進の証) 理亞(だけどまだ、ルビィは曜に対して具体的な行動を起こせていない)
理亞(その一歩を踏み出せない理由は、未だに過去と、花丸と向き合えていないから)
理亞(このままだと、元のルビィに戻ってしまうかもしれない)
理亞(曜を助けると決めた前の彼女に)
理亞(そうしないために、状況を変える方法)
理亞(私が、考えたのは)
理亞「ねえ、ルビィ」
理亞(これはリスクの伴う方法)
ルビィ「なに?」
理亞(だけど先へ進むために、必要だから)
理亞「昔、函館で会ったとき、花丸のことを聞かせてほしいって頼んだわよね」 ルビィ「……あったね、そんなこと」
理亞(覚えていたんだ、ルビィも)
理亞「教えてよ、いまから」
曜「理亞ちゃん、それは……」
理亞(口を挟もうとする曜の気持ちもわかる)
理亞(これは触れてはいけない話題、タブーのようなもの)
理亞(だけど、ルビィの今後の為に、避けることはできない) ルビィ「いいよ、花丸ちゃんの話をしよう」
曜「ルビィちゃん、無理しなくても」
ルビィ「曜ちゃん、大丈夫だから」
理亞「ルビィ……」
理亞(これで)
理亞(これで、うまくいけば)
ルビィ「初めて会ったのはね、中学校の図書室」
ルビィ「隅でアイドル雑誌を読んでいたルビィを、花丸ちゃんが発見した時」
ルビィ「見つめ合ったときからね、惹かれあって。すぐに気づいたの、この人は運命の人だって」
理亞(この辺りは、以前簡単に聞いたことがある)
理亞(ルビィが私に、駆け落ちの事情を打ち明けた時) ルビィ「マルちゃんはね、本を読むのが大好きな女の子」
ルビィ「ルビィと一緒に居ても、気づけば本の世界に入り込んじゃったりする、困った子」
ルビィ「あと食べるのが大好き。結構常識知らずで、変わってる」
ルビィ「だけどやさしくて、誰よりもルビィのことを愛してくれた」
ルビィ「隣にいるだけで温かくて、手を繋ぐと胸がドキドキして。抱き合うと顔が真っ赤になって」
ルビィ「キスをして、身体を重ねるだけで、幸せな気持ちになれて――」
理亞(言葉が止まる)
ルビィ「それで、ね」
理亞(ルビィの身体が、震えていくのが分かる)
理亞(カタカタ、カタカタと)
理亞(不規則に上下し、顔がどんどん青くなっていく) 曜「ルビィちゃん――」
ルビィ「寂しがり屋だったの。ルビィから離れるのを凄く嫌がって、ずっと一緒に居ないと嫌だって、二人がいいって、いつも、いつも」
理亞(異変に気づき、止めようとする曜の声も聴こえていない)
ルビィ「だから誓った。永遠に離れないことを。死ぬ時まで、ずっと一緒に、一緒にいると。だから、だから」
曜「ルビィちゃん、止めよう」
理亞(曜が力づくでルビィの口を塞ごうとする)
理亞「ご、ごめん。もういいから」
理亞(ああ、軽率だった)
理亞(まだ早かったんだ)
理亞(ルビィには、早すぎた) ルビィ「花丸ちゃんは、マルちゃんは……」
理亞(二人で止めても、壊れた機械のように花丸の名前を呟き続けるルビィ)
理亞(駄目だ、私はまだ、ルビィの鎖には慣れていない)
ルビィ「あぁ、あぁ。行かないと、マルちゃんの所に、行かないと」
理亞(岬で再会した時のルビィ)
理亞(もう二度と、目にしたくないと思っていた彼女)
曜「ルビィちゃん、ごめん」
理亞(曜が無表情で、ルビィの意識を絶つ)
理亞(こうなったルビィを止める方法は、他にない)
曜「地下に運ぶよ」
理亞(崩れ落ちたルビィの身体をそっと持ち上げる曜)
理亞「……私も行くわ」
理亞(ごめん、ごめんねルビィ)
理亞(私の軽率な行動のせいで苦しませて) ―――
――
―
理亞(いつもの地下)
理亞「ルビィ……」
ルビィ「理亞ちゃん」
理亞(今回は目が覚めた時点で、会話が成立する程度には冷静になっていた) ルビィ「ねえ理亞ちゃん、一緒に死んでよ」
理亞(だけど頭は、以前のルビィに戻ってしまった)
ルビィ「ルビィ、一人だとつらいの。殺してくれるだけでもいいから、お願い」
理亞(いや、それより悪化しているのかもしれない)
理亞(少なくとも、私が再会した後より、彼女の目は暗く濁ってしまっている)
理亞「……嫌よ」
理亞(大きな罪悪感)
理亞(本当は彼女の望みを叶えてあげたい、そう考えてしまうぐらい)
理亞(だけどそれはあり得ない、断るしかない) ルビィ「……理亞ちゃんは、邪魔だよ」
ルビィ「再会した時も、私は死のうとしたんだよ」
ルビィ「せっかくのチャンスだったのに。マルちゃんが、ルビィの事を待っているのにっ」
理亞(非を認めるわけにはいかない)
理亞(彼女の死への渇望を肯定するわけにはいかない)
理亞(だから口には出さず、心の中で必死に謝る、ごめんなさいと)
ルビィ「嫌い、理亞ちゃんなんて、嫌い!」
理亞「……うん」
理亞(辛かった。大切な友達からの罵倒は)
ルビィ「みんな嫌い! 大嫌い!」
理亞(だけど、それから逃れる選択肢は存在せず)
ルビィ「ルビィは! ルビィは――」 ※
曜「ふぅ、やっと休んだね」
理亞「ええ」
理亞(散々叫び続けて、疲れ切ったルビィが休んだのはすっかり夜が深まったころ)
理亞(結局、私は何もできなかった)
理亞(私では、彼女の心の奥に届かなかった) 曜「もう遅いし、送っていこうか? ルビィちゃん、しばらくは寝ているだろうし」
理亞「平気。それよりもルビィの傍に居てあげて」
理亞(きっと一番落ち着くのは、曜の傍だから)
曜「気にしないほうがいいよ。怒らせるなんて私はしょっちゅうだし」
理亞「……うん」
理亞(そうなんだろう。最初の頃は特に)
理亞(曜はこんな気持ちをいつも味わっていたはずなのに、よく折れなかったな)
理亞(強いな、本当に)
曜「また、来てね」
理亞「ええ」
理亞(私だって、一回で折れたりしない)
理亞(ルビィを救い出すことを諦めない)
理亞(例え嫌われても、拒絶されても、あの子の為に動く)
理亞(その意志だけは絶対に曲げない) 【ダイヤ】
ダイヤ(私は昔から、いいお姉ちゃんになれませんでした)
ダイヤ(普通に可愛がろうとすると、過剰に甘やかしてしまう)
ダイヤ(それではよくない、少し厳しく当たろうとすると、今度は傷つけ、泣かせてしまう)
ダイヤ(姉失格、どうしようもない子ども)
ダイヤ(それでもあの子はついてきてくれた)
ダイヤ(私を愛して、信頼してくれた)
ダイヤ(それがただ嬉しく、それに応える為、正しいと思う方向へ妹を導こうとした)
ダイヤ(その為に散々無茶をしてきた、周囲を敵に回すこともあった)
ダイヤ(だけどルビィの為になるなら、一切気にならなかった)
ダイヤ(例えあの子から嫌われることになっても、構わなかった)
ダイヤ(そうしてずっとずっと、妹のことだけを考えて生きてきた) ダイヤ(だけど)
ダイヤ「ルビィ」
ルビィ?「どうしたの、お姉ちゃん」
ダイヤ(僅かに尖った声、同じように黒い髪。似たような鋭い目元)
ダイヤ(姉妹の証、間違いなくルビィのもの)
ダイヤ(だけど幼い日の妹は、こんな子だったのでしょうか)
ダイヤ(ところどころ、一致しない記憶)
ダイヤ(常に頭の中に違和感がつきまとう)
ダイヤ(この妹は、本当に黒澤ルビィ?)
ダイヤ(そんなあり得ない疑念が、時々私の中を渦巻いてしまうのです) ダイヤ(そしてそれは、最近さらに強くなりました)
ダイヤ(きっかけはたまたま、机の裏に落ちていた写真を見つけたこと)
ダイヤ(集合写真、その中の一人は、スクールアイドルの衣装を着ている私)
ダイヤ間違いなく高校時代、気づけば解散していたAqoursのもの」
ダイヤ(だけどそこに、一人だけ知らない人間が写っていました)
ダイヤ(赤い髪を左右に結び、混ざり気のない可愛らしい笑顔を浮かべる小さな少女)
ダイヤ(考えられるのは、記憶にない裏方か、他のスクールアイドルの人間)
ダイヤ(それならば、覚えていない自分の記憶力のなさを責めれば済む話、なのに)
ダイヤ(どうしても気になる、この子から目を離せない)
ダイヤ(浮かんでしまうのです)
ダイヤ(【ルビィ】という名前が、その赤い髪をみるだけで)
ダイヤ(自分でも理解している、今の私が正常ではないことぐらい)
ダイヤ(けれどもどこに異常があるか、それが分かっていない)
ダイヤ(もしも、その異常が違和感の正体だとしたら)
ダイヤ(私は、私は――) 【理亞6】
理亞(私が花丸のことを尋ねたあの日以来、ルビィはずっと地下室に籠っている)
ルビィ「マルちゃんはね、寂しがり屋さんなの。一人でいるのが嫌で、それでも強がって」
理亞(ずっと拘束されたまま、花丸の話ばかりをする。私にも、曜にも。同じような話を、毎日、毎日)
ルビィ「ルビィが一緒にいてあげないと駄目なの。同じ場所へ逝ってあげないといけないの」
理亞(今は珍しい来客(宅配便?)に対応している曜も、すっかり参ってしまったよう)
理亞(それは私も同様)
理亞(ずっと死の世界について語り、自分を解放するように求め、切望してくる)
理亞(心が押しつぶされる)
ルビィ「待ってるんだよ、花丸ちゃんはあの世で、来世で」
ルビィ「早くしないと追いつけない、離れ離れになる。だから――」 ??「ないよ、そんな世界」
理亞「えっ」
理亞(扉の外から、突然聴こえてくる声)
理亞(曜でも、鞠莉でもない、知らない声)
??「いつまで夢をみているの、ルビィ」
理亞(ガチャリという音と共に、扉を開けて入ってきたのは、髪の長い女性)
ルビィ「か、果南ちゃん……」
理亞(その人を見て、ルビィが呟く)
理亞(果南――松浦果南。Aqoursの元メンバーの一人) 果南「死後の世界なんて、ない。花丸は、もう二度と戻らないんだよ」
ルビィ「そんなこと――」
果南「国木田花丸に、黒澤ルビィはもう二度と会う事ができないんだ」
理亞(ルビィの心を刺激する言葉の数々)
理亞(この人は明らかに、意図して煽っている。
理亞「ちょっとあなた、なにを――」
果南「ごめん」
理亞(何かを口に当てられる)
理亞(曜とは違い迷いのない動き)
理亞「ま……」
理亞(薄れる意識の中、カチャカチャと何かが――ルビィの拘束具が外れる音が聞こえる)
理亞「だ、駄目……」
理亞(止めなければいけないのに。尻切れていく声)
理亞(消え入る意識と共に私の意識は深く、深くへ沈んで―――― ※
曜「理亞ちゃん!」
理亞(私を呼ぶ曜の声)
理亞「っ」
理亞(頭が痛い、変な薬を嗅がされたのか、フラフラする)
曜「大丈夫?」
理亞「え、ええ」
理亞(曜も顔をしかめている。もしかして、同じような目に遭った?) 曜「ルビィちゃんは?」
理亞「ルビィは――」
理亞(寝ていたはずのベッドに、彼女の姿はない)
理亞(私が最後に見た光景は、幻じゃなかった。つまり)
理亞「松浦果南にさらわれた」
曜「やっぱり……」
理亞(きっと曜も、彼女に襲われたのだろう)
理亞(来客というのも、宅配便を装った松浦果南?)
理亞「私、どれぐらい寝てた?」
曜「ほんの少し――だけどルビィちゃんは、どこに……」
理亞(私は松浦果南がどんな人間か知らない)
理亞(だけど曜の動揺具合をみる限り、そこまで危険な人間ではないのかもしれないけど)
曜「さっき連絡したから、鞠莉ちゃんが周辺を探してる。私たちも行こう」
理亞「うん」 ※
曜「くそっ、ここでもない」
理亞(曜が運転する車で、ルビィと縁がある場所を回って探す)
理亞(だけど本人の姿どころか、目撃情報さえ出てこない)
曜「理亞ちゃん、どこか思い当たる場所はある?」
理亞「そんなこと言われても……」
理亞(一緒に外出したりはしないから、心当たりなんてほとんどない)
理亞(せいぜい、最初に出会った海沿いと――)
理亞「もしかしたら、だけど」
理亞(一つだけ、思い当たる場所がある) ―――
――
―
曜「本当に、ここ?」
理亞「うん」
理亞(ザクザクと、雪を掻き分けて長い坂を登っていく)
理亞(冬季は車が通れないせいか、深い雪が積もった道)
理亞(私たちはそれを必死に登る)
曜「外れたら、かなりのロスだよ」
理亞「……大丈夫」
理亞(ここはこの時期、ほとんど人が来ないにもかかわらず、新しい足跡が残っている)
理亞(先にルビィがいることを、私はほぼ確信していた) 理亞「曜、走れる?」
曜「……了解!」
理亞(深い雪道を猛スピードで駆け上がる)
理亞(そして一番上へたどり着いたとき)
曜「ルビィちゃん!」
理亞「ルビィ!」
理亞(岬の先に、ルビィと、彼女を抑えつける松浦果南の姿が見えた)
理亞(私と曜は、共に下り坂を駆け下りようとして、雪に足を取られ転ぶ)
理亞(それでも構わず、滑るようにどんどん先へ、ルビィの元へと進んでいく) 果南「来たね、二人とも」
理亞(そしてたどり着いた先、最初に口を開いたのは果南)
曜「果南ちゃん……」
果南「曜、久しぶりだね」
曜「どうして、こんなことを」
果南「理由は色々」
果南「まあ、私が話す前にルビィからその子――鹿角理亞ちゃんに話があるみたいだけど」
理亞「私に?」
理亞(わざわざ、話?) ルビィ「ずっとね、理亞ちゃんに聞きたかったことがあるの」
理亞(ルビィは抑えつけられたまま、だけど私をしっかり見据えている)
ルビィ「どうして、ルビィの傍に居てくれるの」
理亞「傍に居る、理由」
理亞(約束があったから?)
理亞(見捨てられなかったから?)
理亞(そういう、義務感じゃなくて)
理亞「友達を助けたいと思った、ただそれだけ」
理亞(たぶんそれが、素直な気持ち)
ルビィ「……じゃあ殺して」
ルビィ「そうすれば、ルビィは救われる」
理亞「嫌よ」
理亞「私はあなたを殺したくなんかないし、大切な姉様に迷惑はかけられない」
理亞「なにより、ルビィと一緒に生きたいの」
理亞(親友と共に、できる限り長く、長く) ルビィ「……無理だよ、そんなの」
理亞(素直な気持ちを伝えた、説得のつもりだった)
理亞(だけどそれが意味を持たないことは分かっている)
理亞(でもそうすることしか――)
果南「そうかな」
理亞(果南の声)
理亞(止めて、今は刺激しないで――)
果南「マルは最後に残したんだ」
果南「『生きて』という言葉を、ルビィに」
ルビィ「……えっ?」 理亞(耳を疑う。ここで作り話?)
ルビィ「嘘だ」
理亞(そう、そんなことは信じられない)
理亞(ずっとルビィから聞かされていた国木田花丸がそんなことを望むなんて、ありえない)
果南「本当だよ」
理亞(だけどそんな突拍子もない話を肯定したのは)
曜「果南ちゃんの言葉は、たぶん本当」
理亞(松浦果南ではない第三者)
ルビィ「……曜、ちゃん」
理亞(思わぬところからの言葉に、場の空気が変わる) 果南「ずっとね、考え続けてきた」
果南「マルの言葉は真実だったのか。考えて、考えて、その末の結論」
果南「私はもうボロボロだけど、これを伝えるためにここまで来た」
果南「本人に伝えないまま、消えることは許されなかったから」
果南「そしてこれを、ルビィと、ルビィを支えてきた人たちに知ってもらいたかったから」
理亞(そこまで話すと、彼女はルビィを抑え込んでいた手を放す)
果南「これを知った上でルビィが死を選ぶなら私は止めない」
果南「例え二人邪魔をしようとしても、排除する」
ルビィ「……」
果南「ルビィは、どうする?」
理亞(本気だ、この人は)
理亞(私たち二人でかかっても、きっと止められない)
理亞(他人には手出しができない状況を作り出し、全てを打ち明けた上で、選択権をルビィに託した) ルビィ「ルビィは……」
理亞(それでもルビィは動かない)
理亞(整えられた舞台を前にしても、何かに縛られてしまったように、動けない)
理亞(結局)
理亞(彼女を本当の意味で動かせる人間は、一人しかいない)
曜「生きよう。きっと花丸ちゃんも、それを望んでいるから」
理亞(曜がルビィに静かに声をかける)
理亞「私も」
理亞「私もルビィが生きている限り、傍に居るから」
理亞(私も同じように、ルビィに語りかける)
ルビィ「曜ちゃん、理亞ちゃん……」
理亞(少しだけ、ルビィの意識が私たちの方へ、生きる方へと向く)
ルビィ「私は――――」 【梨子】
梨子(曜ちゃんの匂いが染みついた部屋)
梨子「信じていいのかしらね、本当に」
梨子(出会って数ヶ月しか経っていないような子を)
曜「私は、信じるよ」
梨子(本当に甘いわね、曜ちゃんは)
梨子(だからつけこまれる、私みたいな人間に)
梨子(私はあの子たちに対して、責任も義務も感じていない)
梨子(そこに辿りつくまでの過程で、それなりに関わっていたはずなのに)
梨子(ドライな人間)
梨子(だから別に、ルビィちゃんの助けになるつもりは一切なくて)
梨子(ここへ来ていたのも、曜ちゃんを放っておけなかったから)
梨子(曜ちゃんを助けてあげたかったから) 梨子(だけどね、そそられてしまったの)
梨子(弱っていく彼女の姿に、不謹慎にも興奮を覚えた)
梨子(鞠莉さんと一緒のタイミングにこだわったのは、そうしないと曜ちゃんを慰めてあげられないから)
梨子(鞠莉さんがいるときしか、絶対に彼女はルビィちゃんの傍を離れなかったから)
梨子(自分勝手、欲を満たすだけの行為。だけど利害が一致していれば、それは必要な行為)
梨子(そもそも私は、曜ちゃんのことが結構好きだった)
梨子(その危うさが、昔愛した人に似ていたから)
梨子(あと、見た目? 癖毛ぐらいしか似てないかもだけど) 梨子「ねえ」
曜「なーに?」
梨子「ずっと傍に居た子が、ポッと出の子に盗られるのはどんな気持ち?」
曜「うーん……娘を嫁に出すお父さんの気持ちかな?」
梨子(きっと冗談だと思ったんだ。曜ちゃんは笑っている)
梨子(そうだったわね)
梨子(渡辺曜は本来、こんな風に笑う、明るい子だった) 梨子「そういえば、鞠莉さんがね、ここに住んでもいいって」
梨子「もう使わないだろうから、私の曜ちゃんの二人で」
曜「……そうなんだ」
梨子「私は別に、それでも構わないけど」
曜「……ごめんね、梨子ちゃん」
曜「私は帰らなきゃ」
梨子「そう……」
梨子(ルビィちゃんは沼津に戻る)
梨子(だから曜ちゃんもついていく)
梨子(理由はそれだけだと、分かっているけど)
梨子(やっぱり勝てないのね)
梨子(神様は純粋に彼女を支えて続けた子の味方)
梨子(私は曜ちゃんの特別にはなれない)
梨子(都合が良すぎる、弱みにつけこんで手に入れるなんて) 梨子「残念、せっかく立派な家を手に入れるチャンスだったのに」
曜「それなら、梨子ちゃんだけで住めば?」
梨子「私には、そんな資格ないわよ」
梨子(いらないもの、肝心のおまけが付いてない家なんて)
梨子「そろそろ行くわね。また内浦で会いましょう」
梨子(実家に帰るのは気が引けるけど、もう一人、気になっている子がいるから)
梨子(その子を助けてあげるのも悪くない)
曜「梨子ちゃん。今までありがとう」
梨子「ええ」
梨子(私の方こそ)
梨子(楽しかったわよ、曜ちゃん) 【理亞7】
理亞(私のベッドは、普通よりも少し大きい)
理亞(姉様が『友達と一緒に寝られるように』と言いながら選んでくれたもの)
ルビィ「うゅ……」
理亞(目を覚まし、横をみると、もぞもぞと動く赤い髪)
理亞「おはよう、ルビィ」
ルビィ「あ、理亞ちゃん」
理亞(沼津へ戻り、かつての仲間たちを助ける)
理亞(それがルビィの決めた答え)
理亞(通じ合えたと思ったのに)
理亞(結局私たちは、離れ離れになる) 聖良「おはようございます、二人とも」
理亞(だけど鞠莉さんが受け入れる体制が整えるまでの間)
理亞(社会復帰のリハビリも兼ねて、鹿角家で居候することになって)
理亞(短い期間だけど、一緒に暮らしている)
ルビィ「聖良さん、おはようございます」
理亞(姉様は、ルビィの事情をすべて知った上で、快く受け入れてくれた)
理亞(理由は私の親友だから)
理亞(心が広い? それとも姉馬鹿)
聖良「ルビィさん、昨日鞠莉さんから連絡がありました」
聖良「もうすぐ、沼津の方の準備が整うと」
ルビィ「……はい」
理亞(ルビィは、黒澤家には戻れない)
理亞(鞠莉曰く、その理由はなかなか複雑らしいけど、詳しくは知らない)
理亞(必要ならルビィが教えてくれるはずだから) 理亞「もうすぐ、お別れ」
ルビィ「うん」
理亞(同居生活は楽しかった)
理亞(昔から思い描いていた、仲のいい人との幸せな時間をたくさん経験できた)
理亞(色々なルビィに触れ、知ることができた)
理亞(きっと一生、忘れない思い出)
ルビィ「全部終わったら、絶対に理亞ちゃんに会いに来るから」
理亞「うん、約束」
理亞(裏を返せば、終わるまでは会えないかもしれないということ)
理亞(だけど私は、それで構わない)
理亞(私は鎖となった。ルビィをこの世に繋ぎ止める鎖と)
理亞(私がいれば、少なくとも再会するまで、ルビィは生きることができる) 聖良「二人とも、お別れまではまだ少しあります」
聖良「今は顔を洗って、朝ご飯を食べましょう」
りあルビ「「はーい」」
理亞(姉様の言うとおり、まだ時間はある)
理亞(もう少しこの幸せをかみしめる時間は)
理亞(ねえ、ルビィ)
理亞(ありがとう、私と友達になってくれて) 【千歌】
千歌(昔は毎日、顔を合わせていた)
千歌(いつも一緒、仲良し幼馴染)
千歌(離れることなんて想像もできなかったし、あり得ないと思っていた)
千歌(だけどそれが現実になって、何年も顔を合わせない日々が続いて)
千歌(手紙は書いた)
千歌(読んでくれているのはいつも律儀に帰ってくる返事で理解していたけど、やっぱり会えないのは寂しかったな) 千歌(でも今日、ようやく再会)
千歌(私の大好きな幼馴染、曜ちゃんに)
千歌(沼津の駅、こっそり梨子ちゃんから電車の時間を教えてもらって)
千歌(改札前で待ち構える間、私の心はずっとドキドキと高鳴ってる)
千歌(到着時間になり、響く電車が走る音)
千歌(少し間が開いて、改札から出てくる人々)
千歌(その一番後ろに、ゆっくりと歩いて改札へ向かう、見慣れた人)
千歌(ずいぶん痩せた、苦労が一目でわかるほど老けた)
千歌(だけどどんなに見た目が変わっても、見間違えるわけがない)
千歌(昔、家族よりも長く時間を共にした人のことを) 千歌「曜ちゃん!」
千歌(改札を出てきた彼女に飛びつく)
曜「千歌、ちゃん?」
千歌(最初は驚いたように、だけどすぐに表情を緩め、私をやさしく見つめる)
千歌(この目、匂い、感触、ずっと待ちわびていた、本物の曜ちゃん)
曜「どうしてここに?」
千歌「えへへ、企業秘密なのだ」
千歌(残念ながら、情報元を漏らすことは禁じられているから) 曜「わざわざ、迎えに来てくれたの?」
千歌「うん」
千歌(嘘、本当は真っ先に曜ちゃんと会いたかったから)
千歌「曜ちゃんのお父さんやお母さんね、無理やり用事を作ってうちに呼んであるんだ」
千歌「そうすれば、ちゃんと会えるだろうから」
千歌(せっかく帰ってきたのに、大好きな親御さんに会えなかったら寂しいもんね)
曜「……ありがとう、千歌ちゃん」
千歌(あれ、少し泣いてる?)
千歌(相変わらず涙もろい)
千歌(強がってみせるけど、繊細ちゃんなんだから) 千歌「よーし、じゃあ帰ろうか曜ちゃん」
千歌「最近車買ってもらってね、それで来てるんだ」
曜「うん」
千歌(曜ちゃん、千歌が免許を持ってるなんてびっくりするかと思ったけど、特に反応なし)
千歌(そうだよね、私たちはもう大人になったんだもんね)
千歌「ふぅ」
千歌(改めて曜ちゃんを見る)
千歌(歩く足取りもフラフラしている、手足も傷だらけ)
千歌(あのキラキラと輝いて、エネルギーに溢れていた彼女の姿からは、想像もできないほど)
千歌(それだけ苦労していた、頑張っていたことは、私も知っている) 千歌「本当に頑張ったんだね、曜ちゃん」
千歌(ゆっくり休んでほしかった)
千歌(ずっと休んで、元気になって欲しかった)
曜「……まだ、終わりじゃない。私はまだ、やらなきゃいけないことがあるの」
千歌(でもそうだよね、知ってるよ)
千歌(曜ちゃんがそういう子だってことは、私が一番)
曜「善子ちゃん、果南ちゃん、ダイヤさん、助けてあげなきゃいけない人がいる」
千歌「そうだね、それでも」
千歌(細くなった身体を、思い切り抱きしめる)
千歌「それでも今は、休もう。一緒に」
曜「……うん」
千歌(曜ちゃんは自分にはそんな権利はないと考えているのかもしれない)
千歌(だけど今は、今だけは)
千歌(私の腕の中で休むことを許してほしいと、心に浮かんだ子たちの影に願った) 【ルビィ】
ルビィ(東京から沼津へ向かう電車の窓から外を眺める)
ルビィ(昔、Aqoursのみんなで乗った時とほとんど変わらない、懐かしい風景が広がっている)
ルビィ(一人だ)
ルビィ(いつ以来か思い出せないぐらい、久しぶりの一人きり)
ルビィ(小さい頃、ずっとお姉ちゃんが隣にいた)
ルビィ(中学からは花丸ちゃんが)
ルビィ(その後も曜ちゃん、理亞ちゃん、誰かが絶対に傍にいてくれた)
ルビィ(たくさんの人に支えられて、ルビィは生きてきた) 『次は〜』
ルビィ(乗換駅)
ルビィ(ホームに降りる)
ルビィ(ここは理亞ちゃんと出会う前、大会のために東京へ向かった時、花丸ちゃんが美味しそうにパンを食べていた場所だっけ)
ルビィ「マルちゃん……」
ルビィ(思い出す、彼女のこと)
ルビィ(以前ならそれだけで頭が死に支配されていた)
ルビィ(だけどもうそんな思考は微塵も無くなって。溢れてくるのは、ただの悲しみと涙) ルビィ(マルちゃんと違って色々なことは考えられない分、最初から知っていたよ)
ルビィ(来世なんて存在しない、死んでしまえばそれまでだと)
ルビィ(それでも大切な人の為、幻想の世界を望んだ彼女の為に目を逸らしていた)
ルビィ(自分の考えを捻じ曲げていた)
ルビィ(本当は理解していた、生き残ってしまった後、どうするのが最適かなんて)
ルビィ(それでも目を背けようとした理由は、寂しかったから)
ルビィ(ただ耐えられなかった)
ルビィ(花丸ちゃんがいない世界という、現実に)
ルビィ(だから大切な人をダシに、死のうとした)
ルビィ(虚無しかない現実から、無の世界――死後の世界を目指そうとした) ルビィ(函館で過ごした最後の日、夢をみた)
ルビィ(花丸ちゃんが出てくる夢)
ルビィ(だけど悪夢じゃない、幸せな夢)
ルビィ(二人で過ごした図書室)
ルビィ(色々な場所を回ったデート)
ルビィ(繋いだ手や重ねた唇の感触)
ルビィ(思い出が溢れ出した夢) ルビィ(ねえ、花丸ちゃん)
ルビィ(ルビィは生きてみるよ)
ルビィ(酷い人生)
ルビィ(みんな壊れてしまった取り返しのつかない世界)
ルビィ(それを少しだけマシにして、大切な人たちを救う)
ルビィ(そこまでは絶対に頑張る)
ルビィ(それが終わったら、ルビィはいつか死んじゃうとかもしれない)
ルビィ(ずっと生きられるほど強くないから)
ルビィ(それでも、生き残った意味を果たしてから逝くよ) ルビィ(ルビィと花丸ちゃんとは二度と再会できない)
ルビィ(だけどもし別の世界があれば、一緒に居ようね)
ルビィ(どんな関係だとしても、一緒に居続けようね)
ルビィ(きっとルビィたちは、どの世界でも一緒)
ルビィ(国木田花丸と黒澤ルビィがそこに存在する限り、絶対に)
ルビィ(電車がやってきて、扉が開く)
ルビィ(もうすぐ帰るよ)
ルビィ(最後まで見守っていてね、ルビィの心の中に残っている、大切な人) ???
「あなたたちはどうしていつも一緒なの?」
「どうしてかな?」
「気づいたら傍にいた、そんな感じずら」
「そうだね、そんな感じ」
「本に夢中になりすぎちゃったね」
「うぅ、先生に怒られちゃったよぉ」
「もうすぐ小学校卒業なのに、まだまだ子どもなのかな」
「締まらないねぇ」
「締まらないずら」
「これはこれで、楽しいけどね」
「ルビィちゃんとなら、どんな状況でも楽しめるよ」
「そうだね、マルちゃんさえいれば、ルビィも」
「花丸ちゃんとはね、中学校で出会ったの」
「あれはまさに、運命的な出会いだったずら」
「本当に、もっと昔から一緒だったみたいに、あっという間に仲良くなって」
「不思議だったよね」
「うん」
「それぐらい、大切な人なのかな」
「そうだよ、きっと」
「ずっと、一緒だよね」
「そうだね。おばあちゃんになっても、来世でも、違う世界でも」
「マルたちは、絶対に離れないよ」 花丸ちゃんとルビィちゃんの物語はここでおしまいです
約二年越しの後日談、お付き合いいただきありがとうございました。
ここで続きを書くのが遅れてしまったのは申し訳ありませんでした。 乙
ググるまでスターチスが花の名前であることすら知らなかった お疲れさまでした
衝撃を受けたあの話からもうそんなに経っていたんですね
次回作も楽しみにしています 説明を入れ忘れたので少しだけタイトル補足
タイトルの『スターチス』は花の名前です。
主な花言葉は
変わらない心、途絶えない記憶
加えて
きいろ:愛の喜び
ピンク:永久不変
です。 心中から一気に読んできた
決して単純なハッピーエンドではないけれど、
それでもこの結末を迎えたこと、それを読むことができて本当によかった
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