0001名無しで叶える物語(もこりん)2020/03/28(土) 22:13:52.10ID:jyT72+YT
0158名無しで叶える物語(茸)2020/04/08(水) 23:45:02.17ID:kmRhFvFP
ダイヤ(そしてそれは、最近さらに強くなりました)
ダイヤ(きっかけはたまたま、机の裏に落ちていた写真を見つけたこと)
ダイヤ(集合写真、その中の一人は、スクールアイドルの衣装を着ている私)
ダイヤ間違いなく高校時代、気づけば解散していたAqoursのもの」
ダイヤ(だけどそこに、一人だけ知らない人間が写っていました)
ダイヤ(赤い髪を左右に結び、混ざり気のない可愛らしい笑顔を浮かべる小さな少女)
ダイヤ(考えられるのは、記憶にない裏方か、他のスクールアイドルの人間)
ダイヤ(それならば、覚えていない自分の記憶力のなさを責めれば済む話、なのに)
ダイヤ(どうしても気になる、この子から目を離せない)
ダイヤ(浮かんでしまうのです)
ダイヤ(【ルビィ】という名前が、その赤い髪をみるだけで)
ダイヤ(自分でも理解している、今の私が正常ではないことぐらい)
ダイヤ(けれどもどこに異常があるか、それが分かっていない)
ダイヤ(もしも、その異常が違和感の正体だとしたら)
ダイヤ(私は、私は――)
0159名無しで叶える物語(茸)2020/04/08(水) 23:45:21.45ID:kmRhFvFP
次の投稿で完結です
0163名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:23:17.02ID:sLvE/L6C
【理亞6】
理亞(私が花丸のことを尋ねたあの日以来、ルビィはずっと地下室に籠っている)
ルビィ「マルちゃんはね、寂しがり屋さんなの。一人でいるのが嫌で、それでも強がって」
理亞(ずっと拘束されたまま、花丸の話ばかりをする。私にも、曜にも。同じような話を、毎日、毎日)
ルビィ「ルビィが一緒にいてあげないと駄目なの。同じ場所へ逝ってあげないといけないの」
理亞(今は珍しい来客(宅配便?)に対応している曜も、すっかり参ってしまったよう)
理亞(それは私も同様)
理亞(ずっと死の世界について語り、自分を解放するように求め、切望してくる)
理亞(心が押しつぶされる)
ルビィ「待ってるんだよ、花丸ちゃんはあの世で、来世で」
ルビィ「早くしないと追いつけない、離れ離れになる。だから――」
0164名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:24:33.99ID:sLvE/L6C
??「ないよ、そんな世界」
理亞「えっ」
理亞(扉の外から、突然聴こえてくる声)
理亞(曜でも、鞠莉でもない、知らない声)
??「いつまで夢をみているの、ルビィ」
理亞(ガチャリという音と共に、扉を開けて入ってきたのは、髪の長い女性)
ルビィ「か、果南ちゃん……」
理亞(その人を見て、ルビィが呟く)
理亞(果南――松浦果南。Aqoursの元メンバーの一人)
0165名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:25:17.12ID:sLvE/L6C
果南「死後の世界なんて、ない。花丸は、もう二度と戻らないんだよ」
ルビィ「そんなこと――」
果南「国木田花丸に、黒澤ルビィはもう二度と会う事ができないんだ」
理亞(ルビィの心を刺激する言葉の数々)
理亞(この人は明らかに、意図して煽っている。
理亞「ちょっとあなた、なにを――」
果南「ごめん」
理亞(何かを口に当てられる)
理亞(曜とは違い迷いのない動き)
理亞「ま……」
理亞(薄れる意識の中、カチャカチャと何かが――ルビィの拘束具が外れる音が聞こえる)
理亞「だ、駄目……」
理亞(止めなければいけないのに。尻切れていく声)
理亞(消え入る意識と共に私の意識は深く、深くへ沈んで――――
0166名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:25:51.54ID:sLvE/L6C
※
曜「理亞ちゃん!」
理亞(私を呼ぶ曜の声)
理亞「っ」
理亞(頭が痛い、変な薬を嗅がされたのか、フラフラする)
曜「大丈夫?」
理亞「え、ええ」
理亞(曜も顔をしかめている。もしかして、同じような目に遭った?)
0167名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:26:31.41ID:sLvE/L6C
曜「ルビィちゃんは?」
理亞「ルビィは――」
理亞(寝ていたはずのベッドに、彼女の姿はない)
理亞(私が最後に見た光景は、幻じゃなかった。つまり)
理亞「松浦果南にさらわれた」
曜「やっぱり……」
理亞(きっと曜も、彼女に襲われたのだろう)
理亞(来客というのも、宅配便を装った松浦果南?)
理亞「私、どれぐらい寝てた?」
曜「ほんの少し――だけどルビィちゃんは、どこに……」
理亞(私は松浦果南がどんな人間か知らない)
理亞(だけど曜の動揺具合をみる限り、そこまで危険な人間ではないのかもしれないけど)
曜「さっき連絡したから、鞠莉ちゃんが周辺を探してる。私たちも行こう」
理亞「うん」
0168名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:27:00.50ID:sLvE/L6C
※
曜「くそっ、ここでもない」
理亞(曜が運転する車で、ルビィと縁がある場所を回って探す)
理亞(だけど本人の姿どころか、目撃情報さえ出てこない)
曜「理亞ちゃん、どこか思い当たる場所はある?」
理亞「そんなこと言われても……」
理亞(一緒に外出したりはしないから、心当たりなんてほとんどない)
理亞(せいぜい、最初に出会った海沿いと――)
理亞「もしかしたら、だけど」
理亞(一つだけ、思い当たる場所がある)
0169名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:27:38.64ID:sLvE/L6C
―――
――
―
曜「本当に、ここ?」
理亞「うん」
理亞(ザクザクと、雪を掻き分けて長い坂を登っていく)
理亞(冬季は車が通れないせいか、深い雪が積もった道)
理亞(私たちはそれを必死に登る)
曜「外れたら、かなりのロスだよ」
理亞「……大丈夫」
理亞(ここはこの時期、ほとんど人が来ないにもかかわらず、新しい足跡が残っている)
理亞(先にルビィがいることを、私はほぼ確信していた)
0170名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:28:11.50ID:sLvE/L6C
理亞「曜、走れる?」
曜「……了解!」
理亞(深い雪道を猛スピードで駆け上がる)
理亞(そして一番上へたどり着いたとき)
曜「ルビィちゃん!」
理亞「ルビィ!」
理亞(岬の先に、ルビィと、彼女を抑えつける松浦果南の姿が見えた)
理亞(私と曜は、共に下り坂を駆け下りようとして、雪に足を取られ転ぶ)
理亞(それでも構わず、滑るようにどんどん先へ、ルビィの元へと進んでいく)
0171名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:29:02.23ID:sLvE/L6C
果南「来たね、二人とも」
理亞(そしてたどり着いた先、最初に口を開いたのは果南)
曜「果南ちゃん……」
果南「曜、久しぶりだね」
曜「どうして、こんなことを」
果南「理由は色々」
果南「まあ、私が話す前にルビィからその子――鹿角理亞ちゃんに話があるみたいだけど」
理亞「私に?」
理亞(わざわざ、話?)
0172名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:29:48.08ID:sLvE/L6C
ルビィ「ずっとね、理亞ちゃんに聞きたかったことがあるの」
理亞(ルビィは抑えつけられたまま、だけど私をしっかり見据えている)
ルビィ「どうして、ルビィの傍に居てくれるの」
理亞「傍に居る、理由」
理亞(約束があったから?)
理亞(見捨てられなかったから?)
理亞(そういう、義務感じゃなくて)
理亞「友達を助けたいと思った、ただそれだけ」
理亞(たぶんそれが、素直な気持ち)
ルビィ「……じゃあ殺して」
ルビィ「そうすれば、ルビィは救われる」
理亞「嫌よ」
理亞「私はあなたを殺したくなんかないし、大切な姉様に迷惑はかけられない」
理亞「なにより、ルビィと一緒に生きたいの」
理亞(親友と共に、できる限り長く、長く)
0173名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:30:53.95ID:sLvE/L6C
ルビィ「……無理だよ、そんなの」
理亞(素直な気持ちを伝えた、説得のつもりだった)
理亞(だけどそれが意味を持たないことは分かっている)
理亞(でもそうすることしか――)
果南「そうかな」
理亞(果南の声)
理亞(止めて、今は刺激しないで――)
果南「マルは最後に残したんだ」
果南「『生きて』という言葉を、ルビィに」
ルビィ「……えっ?」
0174名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:32:01.71ID:sLvE/L6C
理亞(耳を疑う。ここで作り話?)
ルビィ「嘘だ」
理亞(そう、そんなことは信じられない)
理亞(ずっとルビィから聞かされていた国木田花丸がそんなことを望むなんて、ありえない)
果南「本当だよ」
理亞(だけどそんな突拍子もない話を肯定したのは)
曜「果南ちゃんの言葉は、たぶん本当」
理亞(松浦果南ではない第三者)
ルビィ「……曜、ちゃん」
理亞(思わぬところからの言葉に、場の空気が変わる)
0175名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:32:52.80ID:sLvE/L6C
果南「ずっとね、考え続けてきた」
果南「マルの言葉は真実だったのか。考えて、考えて、その末の結論」
果南「私はもうボロボロだけど、これを伝えるためにここまで来た」
果南「本人に伝えないまま、消えることは許されなかったから」
果南「そしてこれを、ルビィと、ルビィを支えてきた人たちに知ってもらいたかったから」
理亞(そこまで話すと、彼女はルビィを抑え込んでいた手を放す)
果南「これを知った上でルビィが死を選ぶなら私は止めない」
果南「例え二人邪魔をしようとしても、排除する」
ルビィ「……」
果南「ルビィは、どうする?」
理亞(本気だ、この人は)
理亞(私たち二人でかかっても、きっと止められない)
理亞(他人には手出しができない状況を作り出し、全てを打ち明けた上で、選択権をルビィに託した)
0176名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:33:55.63ID:sLvE/L6C
ルビィ「ルビィは……」
理亞(それでもルビィは動かない)
理亞(整えられた舞台を前にしても、何かに縛られてしまったように、動けない)
理亞(結局)
理亞(彼女を本当の意味で動かせる人間は、一人しかいない)
曜「生きよう。きっと花丸ちゃんも、それを望んでいるから」
理亞(曜がルビィに静かに声をかける)
理亞「私も」
理亞「私もルビィが生きている限り、傍に居るから」
理亞(私も同じように、ルビィに語りかける)
ルビィ「曜ちゃん、理亞ちゃん……」
理亞(少しだけ、ルビィの意識が私たちの方へ、生きる方へと向く)
ルビィ「私は――――」
0177名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:34:51.73ID:sLvE/L6C
【梨子】
梨子(曜ちゃんの匂いが染みついた部屋)
梨子「信じていいのかしらね、本当に」
梨子(出会って数ヶ月しか経っていないような子を)
曜「私は、信じるよ」
梨子(本当に甘いわね、曜ちゃんは)
梨子(だからつけこまれる、私みたいな人間に)
梨子(私はあの子たちに対して、責任も義務も感じていない)
梨子(そこに辿りつくまでの過程で、それなりに関わっていたはずなのに)
梨子(ドライな人間)
梨子(だから別に、ルビィちゃんの助けになるつもりは一切なくて)
梨子(ここへ来ていたのも、曜ちゃんを放っておけなかったから)
梨子(曜ちゃんを助けてあげたかったから)
0178名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:35:19.93ID:sLvE/L6C
梨子(だけどね、そそられてしまったの)
梨子(弱っていく彼女の姿に、不謹慎にも興奮を覚えた)
梨子(鞠莉さんと一緒のタイミングにこだわったのは、そうしないと曜ちゃんを慰めてあげられないから)
梨子(鞠莉さんがいるときしか、絶対に彼女はルビィちゃんの傍を離れなかったから)
梨子(自分勝手、欲を満たすだけの行為。だけど利害が一致していれば、それは必要な行為)
梨子(そもそも私は、曜ちゃんのことが結構好きだった)
梨子(その危うさが、昔愛した人に似ていたから)
梨子(あと、見た目? 癖毛ぐらいしか似てないかもだけど)
0179名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:36:09.26ID:sLvE/L6C
梨子「ねえ」
曜「なーに?」
梨子「ずっと傍に居た子が、ポッと出の子に盗られるのはどんな気持ち?」
曜「うーん……娘を嫁に出すお父さんの気持ちかな?」
梨子(きっと冗談だと思ったんだ。曜ちゃんは笑っている)
梨子(そうだったわね)
梨子(渡辺曜は本来、こんな風に笑う、明るい子だった)
0180名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:37:13.89ID:sLvE/L6C
梨子「そういえば、鞠莉さんがね、ここに住んでもいいって」
梨子「もう使わないだろうから、私の曜ちゃんの二人で」
曜「……そうなんだ」
梨子「私は別に、それでも構わないけど」
曜「……ごめんね、梨子ちゃん」
曜「私は帰らなきゃ」
梨子「そう……」
梨子(ルビィちゃんは沼津に戻る)
梨子(だから曜ちゃんもついていく)
梨子(理由はそれだけだと、分かっているけど)
梨子(やっぱり勝てないのね)
梨子(神様は純粋に彼女を支えて続けた子の味方)
梨子(私は曜ちゃんの特別にはなれない)
梨子(都合が良すぎる、弱みにつけこんで手に入れるなんて)
0181名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:38:19.01ID:sLvE/L6C
梨子「残念、せっかく立派な家を手に入れるチャンスだったのに」
曜「それなら、梨子ちゃんだけで住めば?」
梨子「私には、そんな資格ないわよ」
梨子(いらないもの、肝心のおまけが付いてない家なんて)
梨子「そろそろ行くわね。また内浦で会いましょう」
梨子(実家に帰るのは気が引けるけど、もう一人、気になっている子がいるから)
梨子(その子を助けてあげるのも悪くない)
曜「梨子ちゃん。今までありがとう」
梨子「ええ」
梨子(私の方こそ)
梨子(楽しかったわよ、曜ちゃん)
0182名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:38:59.80ID:sLvE/L6C
【理亞7】
理亞(私のベッドは、普通よりも少し大きい)
理亞(姉様が『友達と一緒に寝られるように』と言いながら選んでくれたもの)
ルビィ「うゅ……」
理亞(目を覚まし、横をみると、もぞもぞと動く赤い髪)
理亞「おはよう、ルビィ」
ルビィ「あ、理亞ちゃん」
理亞(沼津へ戻り、かつての仲間たちを助ける)
理亞(それがルビィの決めた答え)
理亞(通じ合えたと思ったのに)
理亞(結局私たちは、離れ離れになる)
0183名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:39:29.46ID:sLvE/L6C
聖良「おはようございます、二人とも」
理亞(だけど鞠莉さんが受け入れる体制が整えるまでの間)
理亞(社会復帰のリハビリも兼ねて、鹿角家で居候することになって)
理亞(短い期間だけど、一緒に暮らしている)
ルビィ「聖良さん、おはようございます」
理亞(姉様は、ルビィの事情をすべて知った上で、快く受け入れてくれた)
理亞(理由は私の親友だから)
理亞(心が広い? それとも姉馬鹿)
聖良「ルビィさん、昨日鞠莉さんから連絡がありました」
聖良「もうすぐ、沼津の方の準備が整うと」
ルビィ「……はい」
理亞(ルビィは、黒澤家には戻れない)
理亞(鞠莉曰く、その理由はなかなか複雑らしいけど、詳しくは知らない)
理亞(必要ならルビィが教えてくれるはずだから)
0184名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:40:34.92ID:sLvE/L6C
理亞「もうすぐ、お別れ」
ルビィ「うん」
理亞(同居生活は楽しかった)
理亞(昔から思い描いていた、仲のいい人との幸せな時間をたくさん経験できた)
理亞(色々なルビィに触れ、知ることができた)
理亞(きっと一生、忘れない思い出)
ルビィ「全部終わったら、絶対に理亞ちゃんに会いに来るから」
理亞「うん、約束」
理亞(裏を返せば、終わるまでは会えないかもしれないということ)
理亞(だけど私は、それで構わない)
理亞(私は鎖となった。ルビィをこの世に繋ぎ止める鎖と)
理亞(私がいれば、少なくとも再会するまで、ルビィは生きることができる)
0185名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:41:21.71ID:sLvE/L6C
聖良「二人とも、お別れまではまだ少しあります」
聖良「今は顔を洗って、朝ご飯を食べましょう」
りあルビ「「はーい」」
理亞(姉様の言うとおり、まだ時間はある)
理亞(もう少しこの幸せをかみしめる時間は)
理亞(ねえ、ルビィ)
理亞(ありがとう、私と友達になってくれて)
0186名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:42:02.17ID:sLvE/L6C
【千歌】
千歌(昔は毎日、顔を合わせていた)
千歌(いつも一緒、仲良し幼馴染)
千歌(離れることなんて想像もできなかったし、あり得ないと思っていた)
千歌(だけどそれが現実になって、何年も顔を合わせない日々が続いて)
千歌(手紙は書いた)
千歌(読んでくれているのはいつも律儀に帰ってくる返事で理解していたけど、やっぱり会えないのは寂しかったな)
0187名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:42:28.54ID:sLvE/L6C
千歌(でも今日、ようやく再会)
千歌(私の大好きな幼馴染、曜ちゃんに)
千歌(沼津の駅、こっそり梨子ちゃんから電車の時間を教えてもらって)
千歌(改札前で待ち構える間、私の心はずっとドキドキと高鳴ってる)
千歌(到着時間になり、響く電車が走る音)
千歌(少し間が開いて、改札から出てくる人々)
千歌(その一番後ろに、ゆっくりと歩いて改札へ向かう、見慣れた人)
千歌(ずいぶん痩せた、苦労が一目でわかるほど老けた)
千歌(だけどどんなに見た目が変わっても、見間違えるわけがない)
千歌(昔、家族よりも長く時間を共にした人のことを)
0188名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:43:16.31ID:sLvE/L6C
千歌「曜ちゃん!」
千歌(改札を出てきた彼女に飛びつく)
曜「千歌、ちゃん?」
千歌(最初は驚いたように、だけどすぐに表情を緩め、私をやさしく見つめる)
千歌(この目、匂い、感触、ずっと待ちわびていた、本物の曜ちゃん)
曜「どうしてここに?」
千歌「えへへ、企業秘密なのだ」
千歌(残念ながら、情報元を漏らすことは禁じられているから)
0189名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:43:53.63ID:sLvE/L6C
曜「わざわざ、迎えに来てくれたの?」
千歌「うん」
千歌(嘘、本当は真っ先に曜ちゃんと会いたかったから)
千歌「曜ちゃんのお父さんやお母さんね、無理やり用事を作ってうちに呼んであるんだ」
千歌「そうすれば、ちゃんと会えるだろうから」
千歌(せっかく帰ってきたのに、大好きな親御さんに会えなかったら寂しいもんね)
曜「……ありがとう、千歌ちゃん」
千歌(あれ、少し泣いてる?)
千歌(相変わらず涙もろい)
千歌(強がってみせるけど、繊細ちゃんなんだから)
0190名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:44:33.24ID:sLvE/L6C
千歌「よーし、じゃあ帰ろうか曜ちゃん」
千歌「最近車買ってもらってね、それで来てるんだ」
曜「うん」
千歌(曜ちゃん、千歌が免許を持ってるなんてびっくりするかと思ったけど、特に反応なし)
千歌(そうだよね、私たちはもう大人になったんだもんね)
千歌「ふぅ」
千歌(改めて曜ちゃんを見る)
千歌(歩く足取りもフラフラしている、手足も傷だらけ)
千歌(あのキラキラと輝いて、エネルギーに溢れていた彼女の姿からは、想像もできないほど)
千歌(それだけ苦労していた、頑張っていたことは、私も知っている)
0191名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:45:29.20ID:sLvE/L6C
千歌「本当に頑張ったんだね、曜ちゃん」
千歌(ゆっくり休んでほしかった)
千歌(ずっと休んで、元気になって欲しかった)
曜「……まだ、終わりじゃない。私はまだ、やらなきゃいけないことがあるの」
千歌(でもそうだよね、知ってるよ)
千歌(曜ちゃんがそういう子だってことは、私が一番)
曜「善子ちゃん、果南ちゃん、ダイヤさん、助けてあげなきゃいけない人がいる」
千歌「そうだね、それでも」
千歌(細くなった身体を、思い切り抱きしめる)
千歌「それでも今は、休もう。一緒に」
曜「……うん」
千歌(曜ちゃんは自分にはそんな権利はないと考えているのかもしれない)
千歌(だけど今は、今だけは)
千歌(私の腕の中で休むことを許してほしいと、心に浮かんだ子たちの影に願った)
0192名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:54:51.01ID:sLvE/L6C
【ルビィ】
ルビィ(東京から沼津へ向かう電車の窓から外を眺める)
ルビィ(昔、Aqoursのみんなで乗った時とほとんど変わらない、懐かしい風景が広がっている)
ルビィ(一人だ)
ルビィ(いつ以来か思い出せないぐらい、久しぶりの一人きり)
ルビィ(小さい頃、ずっとお姉ちゃんが隣にいた)
ルビィ(中学からは花丸ちゃんが)
ルビィ(その後も曜ちゃん、理亞ちゃん、誰かが絶対に傍にいてくれた)
ルビィ(たくさんの人に支えられて、ルビィは生きてきた)
0193名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:55:20.68ID:sLvE/L6C
『次は〜』
ルビィ(乗換駅)
ルビィ(ホームに降りる)
ルビィ(ここは理亞ちゃんと出会う前、大会のために東京へ向かった時、花丸ちゃんが美味しそうにパンを食べていた場所だっけ)
ルビィ「マルちゃん……」
ルビィ(思い出す、彼女のこと)
ルビィ(以前ならそれだけで頭が死に支配されていた)
ルビィ(だけどもうそんな思考は微塵も無くなって。溢れてくるのは、ただの悲しみと涙)
0194名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:55:52.51ID:sLvE/L6C
ルビィ(マルちゃんと違って色々なことは考えられない分、最初から知っていたよ)
ルビィ(来世なんて存在しない、死んでしまえばそれまでだと)
ルビィ(それでも大切な人の為、幻想の世界を望んだ彼女の為に目を逸らしていた)
ルビィ(自分の考えを捻じ曲げていた)
ルビィ(本当は理解していた、生き残ってしまった後、どうするのが最適かなんて)
ルビィ(それでも目を背けようとした理由は、寂しかったから)
ルビィ(ただ耐えられなかった)
ルビィ(花丸ちゃんがいない世界という、現実に)
ルビィ(だから大切な人をダシに、死のうとした)
ルビィ(虚無しかない現実から、無の世界――死後の世界を目指そうとした)
0195名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:56:20.76ID:sLvE/L6C
ルビィ(函館で過ごした最後の日、夢をみた)
ルビィ(花丸ちゃんが出てくる夢)
ルビィ(だけど悪夢じゃない、幸せな夢)
ルビィ(二人で過ごした図書室)
ルビィ(色々な場所を回ったデート)
ルビィ(繋いだ手や重ねた唇の感触)
ルビィ(思い出が溢れ出した夢)
0196名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:56:54.07ID:sLvE/L6C
ルビィ(ねえ、花丸ちゃん)
ルビィ(ルビィは生きてみるよ)
ルビィ(酷い人生)
ルビィ(みんな壊れてしまった取り返しのつかない世界)
ルビィ(それを少しだけマシにして、大切な人たちを救う)
ルビィ(そこまでは絶対に頑張る)
ルビィ(それが終わったら、ルビィはいつか死んじゃうとかもしれない)
ルビィ(ずっと生きられるほど強くないから)
ルビィ(それでも、生き残った意味を果たしてから逝くよ)
0197名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:57:12.53ID:sLvE/L6C
ルビィ(ルビィと花丸ちゃんとは二度と再会できない)
ルビィ(だけどもし別の世界があれば、一緒に居ようね)
ルビィ(どんな関係だとしても、一緒に居続けようね)
ルビィ(きっとルビィたちは、どの世界でも一緒)
ルビィ(国木田花丸と黒澤ルビィがそこに存在する限り、絶対に)
ルビィ(電車がやってきて、扉が開く)
ルビィ(もうすぐ帰るよ)
ルビィ(最後まで見守っていてね、ルビィの心の中に残っている、大切な人)
0198名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 22:58:11.39ID:sLvE/L6C
???
「あなたたちはどうしていつも一緒なの?」
「どうしてかな?」
「気づいたら傍にいた、そんな感じずら」
「そうだね、そんな感じ」
「本に夢中になりすぎちゃったね」
「うぅ、先生に怒られちゃったよぉ」
「もうすぐ小学校卒業なのに、まだまだ子どもなのかな」
「締まらないねぇ」
「締まらないずら」
「これはこれで、楽しいけどね」
「ルビィちゃんとなら、どんな状況でも楽しめるよ」
「そうだね、マルちゃんさえいれば、ルビィも」
「花丸ちゃんとはね、中学校で出会ったの」
「あれはまさに、運命的な出会いだったずら」
「本当に、もっと昔から一緒だったみたいに、あっという間に仲良くなって」
「不思議だったよね」
「うん」
「それぐらい、大切な人なのかな」
「そうだよ、きっと」
「ずっと、一緒だよね」
「そうだね。おばあちゃんになっても、来世でも、違う世界でも」
「マルたちは、絶対に離れないよ」
0199名無しで叶える物語(大酒)2020/04/10(金) 23:02:13.23ID:sLvE/L6C
花丸ちゃんとルビィちゃんの物語はここでおしまいです
約二年越しの後日談、お付き合いいただきありがとうございました。
ここで続きを書くのが遅れてしまったのは申し訳ありませんでした。
0200名無しで叶える物語(SB-iPhone)2020/04/10(金) 23:26:00.51ID:DhdFAupc
乙だった...!
ありがとう
乙
ググるまでスターチスが花の名前であることすら知らなかった
お疲れさまでした
衝撃を受けたあの話からもうそんなに経っていたんですね
次回作も楽しみにしています
0203名無しで叶える物語(大酒)2020/04/11(土) 17:38:47.61ID:tIPDYTeO
説明を入れ忘れたので少しだけタイトル補足
タイトルの『スターチス』は花の名前です。
主な花言葉は
変わらない心、途絶えない記憶
加えて
きいろ:愛の喜び
ピンク:永久不変
です。
心中から一気に読んできた
決して単純なハッピーエンドではないけれど、
それでもこの結末を迎えたこと、それを読むことができて本当によかった
素敵なSSをありがとう