ことり「青の底」
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Chapter1
口の中で薄くなってしまったパインアメを噛み砕く。
このまま舐め続けると刃物みたいになってしまったパインアメで舌を切ってしまうかもしれない。
私は学校の屋上にいる。
空を仰ぎ見ると、雲が徐々に空の青を侵食していく。
もう少しで雨が降りそうだ。
でも、まだここにいたい。
手すりに体を預け、また空を仰ぎ見る。
冷たい風が吹いて、私の髪を撫でる。
髪が顔をくすぐるも今は邪魔だとは思わない。
不意に身体がふわりと浮いた。
いや、身体が屋上から投げ出された。
私が身体を預けていた手すりは私と一緒に空中に投げ出されていた。
小鳥が私の視界から消えていくのが見えた。
クチバシに数本のネジをくわえていた。 ことり(あの鳥がやったの・・・?)
私が空を見ている間、あの小鳥が私を落とす為に手すりのネジを外したんだ。
でも、そんなあり得ない。
現実的じゃないし、何で小鳥が私を殺すの?
疑問が浮かぶが、私の身体が空を切り疑問は落下方向とは逆方向に昇って消える。
私はこのまま死ぬの?
ゆっくりとゆっくりと過ぎる時間の中で死の恐怖が頭を過ぎる。 この感じ前に怪盗モノ書いた人?みんな保守ってたのに23で落ちちゃって悲しかった 怖い。
思わず目をギュッと閉じる。
お母さんやお父さん。
穂乃果ちゃんや海未ちゃん。
μ'sのみんな。
バイト先のみんな。
色々な人が頭に浮かび、消える。
地面に激突するまでの間。
私はまだ生きたい生きたいと神に祈りながら、アスファルトに激突した。
バケツをひっくり返したような音。
どこも痛くない。
どこも・・・。
・・・・・・。
まだ、思考が出来る。
まだ、空が見える。
徐々に視界は暗くなってはいる。
けれど、何かおかしい。 普通、あの高さから落ちたらいの一番に痛みを感じるが感じない。
あ、まだ思考が出来る・・・。
それに、私が激突したときに聞いたバケツをひっくり返したような音。
人間が地面に激突したらもっとドシャとかグッチャとかなるはずなのに・・・。
まるで水をただ高い所から落としたような音だった。
しかも、激突してから未だ考える事が出来ている。
身体を動かそうとするも、全く動かないがどこも痛くない。
あれこれ、試行錯誤していく内に眼球が動く事に気付いた。 固定された頭部で眼球だけを動かし、今この状況を何とか探る。
見えるのは空と私の手。
注意深く見ると、ゆっくりゆっくりと動いているのが分かった。
私の体は何が起きているの?
私の手はゆっくりとゆっくりと動いている。
いや、動いているんじゃなかった。
溶けていっているんだ。
氷のようにロウソクのようにゆっくりとゆっくりと地面に吸い込まれていく。 手が完全に地面に吸い込まれたのを見届けた後、この状況を理解しようにも理解出来ず。
混乱に混乱を重ねた後、私は体が恐らく水になったのだと思った。
人間は60%が水分だと授業で習った事がある。
だったら、私が水になってしまうのも無理矢理、理由は付けられる。
視界がぼやける。
これから私はどうなるんだろう。
混乱と不安の中、視界は暗転し私は完全に地中へと染み込んだ。 視界は暗転したまま私は地中の下へとひたすら進んでいく。
暗闇に目が慣れて来て、土意外にも色んな物が見えるようになって来た。
ミミズが地面を掘り進み。
アンモナイトの化石の横を過ぎる。
モグラが2匹ちゃぶ台を囲みご飯を食べている。
私はこのままどこへ行くんだろうか?
もしかしたら死んだら魂は上へ昇るんじゃなくて下へ落ちるって事なんじゃないのかな。
でも、それだったら地獄って事になるか。
私、地獄に落ちるような事絶対してないんだけどなぁ。
あ、最初に閻魔様に挨拶しに行ってそれから天国か地獄か決まるんだ。 あれこれ考えてる内にいつの間にか眠っていたらしく。
目覚めると真っ白な部屋に私はいた。
ことり「ここはどこ?」
広さは六畳ぐらいだろうか。
天井には野球ボールぐらいの大きさの白い石がぶら下がっており、その石がこの部屋を白く照らしていた。
部屋を見渡すと扉がある事に気付く。
ここにいても特に何もなさそうなので、扉から出ようとしたその瞬間に扉が開く。
絵里「あら?」
扉を開けた人物は私が良く知ってる人物だった。 ことり「え、絵里ちゃん?」
私が良く知る人物は首を傾げる。
絵里「何で私の名前を?」
ことり「え?わ、私だよ!」
絵里「ごめんなさい。見覚えがないわ・・・。それにしても珍しいわね。人間なんて何十年振りかしら」
この絵里ちゃんはまるで自分が人間じゃないみたいな事を言った。
姿形も人間、そのまんま瓜二つなのに。
ことり「絵里ちゃん!ことりだよ!」
絵里「あなたが私の名前を知っている事は・・・想像がつくわね。あなたはことりって言うの?よろしくことり」 ことり「よ、よろしく・・・じゃなくて!わ、私だよっ!」
絵里「ごめんなさい。私達は初対面よ。それよりもあなたこっちに来なさい。お腹減ってるでしょ」
長い間水だったせいか、お腹はペコペコだった。
絵里ちゃんは私に手を差し伸ばしてニコリと微笑んでいる。
ことり「う、うん・・・」
絵里「丁度、シチューが出来たの。こっちにおいで」
ことり「うん・・・」
私は絵里ちゃんと手を繋ぎ、白い部屋を後にした。 謎だらけだけどアリスみたいで面白いぞ
今度は落とすな 絵里「混乱しているでしょう?」
ことり「ここはどこなの?何で絵里ちゃんと私は初対面なの?」
絵里「そうね。ここは地下。あなた達が知るよりもさらに下にある地下世界。私はここで暮らしてるの」
ことり「地底人って事なのかな?」
絵里「まぁ、そうよ。私達はあなた達人間の事を地上人って呼んでいるけどね」
ことり「絵里ちゃんは絵里ちゃんじゃないの?」
絵里「そうね。あなたが知る絵里と今ここにいる絵里は全くの別人なの」
姿はもちろん話し方や頼れるお姉さん感も何もかも一緒なのに別人と言われてもあまりぴんと来ない。
ことり「どう言う事?」
絵里「地上と地下。この世界は対になってるのだから同じ容姿の人がいるって言われてる」
ことり「じゃあ私と同じ姿の人もいるのかなぁ?」
絵里「・・・いるんじゃないかしら」
まだ手を繋いでいる事に気付く。
しばらくはこのままが良かった。 絵里ちゃんの話に気を取られていたけど、真っ白な部屋を出ても真っ白な廊下が続いてるだけだ。
所々ぶら下がっているあの白い石は私達の世界で言うところの電球の役割をしているんだろう。
白い廊下をさらに白く照らしている。
絵里「さぁ、着いたわよ」
長い廊下の行き止まりにまた白い扉。
絵里「ここが私の家。あの・・・手」
ことり「あ、ご、ごめんなさい!」
慌てて手を離す。
絵里「ふふっ。さぁ、おいで」
ことり「うん、おじゃまします!」 中はさっきいた、ただの白い部屋と違い生活感ある部屋だった。
花柄の壁紙にテレビ。
私が見たことのない文字が書かれた本が並んでる本棚。
テーブルには青のランチョンマットの上に青いお皿が置かれている。
絵里「かわいいでしょそれ」
ことり「この、青いお皿?」
絵里「えぇ、青色は沈静の効果があるの。ダイエット中なんかおすすめね。食欲減退の効果あるから」
ことり「そうなんだぁ〜」
絵里「でも、空腹には勝てないわね」
私のお腹がグーと鳴り、慌ててお腹を押さえた。
絵里「ご飯にしましょうか」
ことり「うん!」 絵里「ちょっと待っててね。シチュー温めてくるから」
そう言って、台所へ向かう絵里ちゃん。
しばらくすると部屋中にシチューの匂いが漂う。
「よいしょよいしょ」
ことり「?」
どこからか声が聞こえる。
「よいしょよいしょ。ふぅ・・・こんにちは」
声の主を探してみるも、姿は見えない。
「ここだよ。ここ。下だよ!」
言われた通り視線を下に落とすと白く私の人差しと同じくらいの生き物が私を見上げていた。
ことり「い、芋虫・・・?」
亜里沙「こんにちは人間さん。私は亜里沙!妹だよ!」
白い芋虫は丁寧にお辞儀をして見せた。 ことり「しゃ・・・喋った!?」
絵里「亜里沙、びっくりしてるじゃない。ごめんなさい。地上では私達は喋らないんでしょう?」
亜里沙「ご、ごめんなさい。でも、地上にでたら私達は喋らないって本当?」
絵里「本当よ」
絵里ちゃんは亜里沙ちゃんをひょいと摘み、肩の上に乗せる。
亜里沙「それじゃあお腹減った時はどうやって伝えればいいのかなぁ?」
絵里「うーん考えた事もないわね。何となく人間が察するんじゃないかしら」
ことり「ちょ、ちょっと待って!これがあの亜里沙ちゃん?」
絵里「あなたは亜里沙も知ってるの?」
ことり「うん・・・絵里ちゃんの妹。でも姿形は全然違う」
絵里「そう。人間は産まれた時から人間だもんね」 ことり「ご、ごめん。言ってる事が頭に入ってこないや・・・」
絵里「私は芋虫からこの姿になったの。そうね。あなた達の世界で言うところの蛾よ」
亜里沙「あーぁ。私も早く大きくなりたいなぁ」
ここ数時間であり得ない現象を体験しても尚、有り得ない。
絵里「シチュー出来たわよ」
絵里ちゃんは元々芋虫で蛾になったから今の人間の姿になったの?
芋虫から蛹になってそこから人型になるの?
亜里沙「わーいシチューだ!」
絵里ちゃんは芋虫サイズの食器を亜里沙ちゃんの前に並べる。
カプセルトイの玩具みたいだ。
絵里「どのくらい食べる?」
悪い鳥が私を屋上から落とし、水になって変な世界に来て、芋虫と蛾の絵里ちゃんと食卓を囲む。
ことり「・・・大盛り」
私は夢でも見ているのだろうか?
ことり「いただきます」
シチューを口に運ぶ。熱い。
でも、この熱さがこれは夢見ではないと確信させた。 調べたら繭を作らずに土の中で成虫になる蛾がいるらしいね 絵里「ところで、あなたは何でここに?」
ことり「分かんない・・・。でも鳥が私を落として、屋上から落ちて・・・。それから・・・水になって・・・」
絵里「落ち着いて、あなたがここに来たのは必ず理由がある」
ことり「理由?」
亜里沙ちゃんはもそもそとシチューを食べている。
絵里「えぇ、必ず理由があるはずよ。普通人間はここにはこないもの」
ことり「あ、そう言えば。人間がここに来るのは久しぶりだって言ってたよね?」
絵里「えぇ。あの時はまだ亜里沙はいなかったわね」
亜里沙ちゃんはこくりと頷く。 亜里沙「ふぇおふぁいふぁふぁい」
絵里「ちゃんと飲み込んでから話しなさい」
見た目は普通の真っ白な芋虫なのに、何故だか私はこの姿の亜里沙ちゃんを可愛いと思えて来た。
亜里沙「お姉ちゃん前に来た人間の話よくするよね」
絵里「まぁね。印象深い出来事だったから・・・」
ことり「何かあったんですか?」
絵里「まぁ簡単に言うと死刑にされたの」
ことり「し、死刑・・・?」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています