あなた「追憶売ります…?」
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一面の赤茶けた視界。
何処までも広がる岩だらけの大地。
私は今、火星の丘に立っている。
遥か彼方に虹色の頂を望むこの場所で
感慨に浸る私の手を、彼女がそっと握った。
「――××ちゃん」
分厚い宇宙服の奥で、控え目に悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女の魅力に抗う術を私は知らない。
「やっと会えたね…××ちゃん――」
その言葉で、私たちは何もかも脱ぎ捨ててお互いを求めあう。
唇と唇がふれあい、舌と舌が絡み合って、息もつかない長い接吻が始まる。
呼吸が苦しいのも気にならない。
真空同然のこの場所で、私たちを阻むものは何もないから。
内圧の上昇でパンパンに膨れ上がった思いの丈がみるみる体外に抜け出て、相手の中を満たしてく。
肥大して飛び出す舌が向こうのそれを押し退け遠ざけようとして、二人の抱き合う力が一層強まる。
膨張しきった瞳と瞳がこすれ合うくらいになっても、私たちはお互いを貪るのに夢中だった――。
…………………
…………
……
あなた「はっ――」
あなた「……またこの夢だ」
歩夢「うぅん…どうしたの?」
あなた「あ……何でもないよ」
歩夢「……」
歩夢「火星の夢を見たんだね」 あなた「…分かっちゃう?」
歩夢「このところずっとだもん」
歩夢「昔はお寝坊さんだったのに、近頃は毎日朝方にうなされて起きてるでしょ」
歩夢「流石に心配になるよ。怖い夢なの?」
あなた「うーん、どうだろ」
あなた「私は火星を歩いてるの。人のいるコロニーじゃなくて、未開の荒野を」
あなた「風景は寂しいけど心は躍ってるんだ。初雪が降った朝に外に飛び出す瞬間みたいに」
あなた「それに……」
あなた(いつも隣には、あの子がいるから) 歩夢「ねえ」
歩夢「夢の中で、あなたは一人でいるの?」
歩夢「誰かが一緒だったりしない?」
あなた「……いつも、私一人だよ」
歩夢「本当に?」
あなた「…うん」
歩夢「そっか…うん、わかった」
歩夢「朝ご飯にしよっか。オレンジジュース飲む?」 『朝のニュースです。まずは火星の話題から』
『先週の空気値上げに反発するストと暴動の影響で、現地のマカロン鉱石の採掘作業は再び中断』
『火星総督府の三船栞子長官は、治安ロボ部隊の増員による72時間以内の事態収束を宣言しました』
『先ほど開かれた会見では、暴動を扇動していると思われる火星解放戦線の指導者エマ氏を名指しで非難し――』
あなた「……」
歩夢「よだれ垂れてるよ」フキフキ
歩夢「もう。そんなに火星が気になる?私のご飯より」
あなた「や、そんなつもりじゃ」
歩夢「冗談だよ。ちょっとぼーっとしてたんだよね」
歩夢「ふふっ。さっきのあなた、何だかうちのお父さんみたいだった」
歩夢「お母さんにね、よくこんな感じに怒られてたの。VR見るかご飯食べるかどっちかにしろって」
あなた「あはは……VRって言い方懐かしいね」 あなた「あのさ」
あなた「ちょっと遠くに旅行とか行きたくない?」
歩夢「わぁ、あなたと二人でなんて久しぶりだよね」
歩夢「行先はどこがいいかな。今の時期だと南極でスキーとか? ベネツィアの海底都市も憧れちゃうなぁ」
歩夢「思い切って奮発して月面旅行なんかもいいかも。ほら、幼稚園の時あなたと一緒に見学したスペースブリッジで…」
あなた「……」
歩夢「……あなたは」
歩夢「やっぱり、火星に行きたいの…?」
あなた「…」コクリ 歩夢「私……火星ってちょっと苦手なんだ」
歩夢「ニュースだと毎日物騒なこと言ってるし。宇宙ホウシャセンの影響が強いって話も聞くし」
『ミュータントの方々には同情しますが、だからと言ってその身勝手な要求が認められるわけではありません』
歩夢「それにテレビに出てるあの人…」
あなた「セーブ要員みたいな名前の?」
栞子『彼らの多くは解放戦線のメンバーで大変危険な存在です。見つけ次第拘束もやむを得ない措置とご理解ください』
歩夢「何だか怖いよね。言ってること全部」
栞子『結論として、今やレジスタンス指導者エマの捕縛は急務ですが、現時点ではその人相すら分かっていません』
栞子『彼女について、何か情報をお持ちの方は――』プツン
歩夢「はい、おしまい。こんなのばかり見てるから変な夢見ちゃうんだよ」
歩夢「それよりもっと……こっちの方も向いてほしいな」 歩夢「あなたの気持ちも分かるよ。こんな狭い部屋で二人暮らし」
歩夢「望んでた生活とは違うよね? 刺激とか、色々足りなくて…」
歩夢「私はあなたと一緒なら、他は何もいらないけど」
歩夢「ごめんね……私の気持ちばっかり」
あなた「ううん、ごめんなさいは私の方」
あなた「歩夢ちゃんがこんなにも私のこと想ってくれてるのを蔑ろにして」ギュッ
歩夢「いいの。あなたが居てくれればそれで…」
歩夢「今まで通り二人でコツコツ頑張ろう…? 私たちの夢を叶えるために」
歩夢「……あ、もうこんな時間!そろそろ出ないと、仕事に遅れちゃうよ?」
あなた(歩夢ちゃん……本当にいい子なんだよね)トコトコ
あなた(それなのに毎晩別の女の子の夢を見る私って、最低にも程があるでしょ…)
あなた(――それにしても)
あなた(夢のあの子は一体誰なんだろ…)
『現実に疲れたそこのあなた。“夢”のバカンスへ出かけませんか?』
あなた「うん?」 『現実より鮮明な夢旅行の記憶。一度移植すれば劣化の無い追憶で何度でも楽しめます』
『より強い刺激をお求めの方には、エキサイティングなアドベンチャーコースのご用意も』
『冒険の舞台も思いのまま。金星の天空都市、土星の環状氷路、そして火星のエイリアン遺跡』
『一人旅が苦手な方でも。魅力的なコンパニオンがあなたのお越しをお待ちしております』
『格安・隙間時間で旅の思い出を。記憶旅行は最寄りのリコールセンターへどうぞ』
リコールリコールリコール〜♪
あなた(記憶旅行…そういうのもあるのか) ――
――――
『工員ノ皆サン、今日モ一日元気ヨク無事故デ過ゴシマショウ』
あなた「……」バツン!バツン!
「せーんぱいっ。何ぼけーっとしてるんですかぁ」
あなた「……かすみちゃん」
かすみ「ビス打ちの前に頭のネジ締めてかからないと大ケガしちゃいますよ?」
かすみ「只でさえラインのスピードきつくなってるんですから」 あなた「急にノルマ増えたの、どうしてだろうね」
かすみ「火星の暴動のせいに決まってます!」
かすみ「向こうでうちのロボを改造して警備に使ってるって話、知らないんですか?」
あなた「火星か……かすみちゃんはリコール社に行ったことある?」
かすみ「やめといた方がいいですよ〜偽憶売りなんて。これはかすみんの友達の知り合いの話ですけど」
かすみ「リコールで別人になるのにハマって、大変なことになっちゃったんです」 あなた「別人って……そんなことも出来るの?」
かすみ「自分は異世界生まれの勇者だとか何とか」
かすみ「そんな設定の夢でリコール通いを続けてるうちに、どっちが本当の自分か分からなくなっちゃって」
かすみ「今は病院暮らしだそうです。分裂病になって脳が壊れちゃったんですって」
かすみ「そんなわけでやめといた方が先輩のためです!だってこれ以上頭悪くなったら一大事じゃないですか〜」
あなた「もう、かすみちゃんのイジワル〜」
あなた(現実と区別がつかない…か)
あなた(そんなこと言われると余計気になるよ) ・
・
・
『工員ノ皆サン、今日モ一日ゴ苦労様デシタ』
かすみ「せんぱーい!この後みんなで飲みに行くんですけど〜先輩も」
あなた「ごめんね。今日は行くところあるんだ」
かすみ「つれないですねー。また歩夢さんとの約束ですか」
かすみ「……まさかリコール社とか言わないですよね? そしたら先輩のこと見損なっちゃいますっ」
かすみ「こんなにカワイイかすみんというものがありながら!あんなキモオタと喪女の最終処理場みたいな所にぃ〜!」
あなた「はは……心配しなくても、歩夢ちゃんを悲しませるようなことはしないから」 受付嬢「やんやんっリコールセンターへようこそ♪」
あなた「初めて来たんですけど、今から入れますか?」
受付嬢「そこにお掛けになってお待ちくださいね」
あなた(……緊張してきた。何だか罪悪感も)
あなた(いやいや、これは歩夢ちゃんを大事に思ってるからこそなんだよ、うん)
あなた(ここなら二時間で二週間分の記憶を詰め込めるって言うし)
あなた(さくっと願望を発散させて、また普通の日常に戻るんだ)
あなた(そのためにはどうしても火星に行く必要があるの。たとえ夢の記憶の中だとしても) 受付嬢「あのっ」
あなた「はい?」
受付嬢「このネイル、どっちの色がかわいいと思いますか?」
あなた「えっと……右、かな」
受付嬢「やっぱり?じゃあこっちにしようっと」ピッピッ
受付嬢「あとこの髪、似合ってます? 今日のラッキーカラーなんだけど」
あなた「うーん、ちょっと派手すぎるかも」
受付嬢「そっかー……戻しちゃえ、えいっ」ピッ
シュウウウウン
あなた(わ、いいな一瞬で色変えるやつ)
あなた(興味はあるけど、うちは歩夢ちゃんがなぁ) せつ菜「お待たせしました、お客様を担当する優木せつ菜です!」
せつ菜「ご希望は火星行きの基本パッケージツアーでしたね? 早速オプションについてのご説明を」
あなた「その前に聞いておきたいんですけど」
あなた「ここで売ってるのはあくまで夢の記憶なんですよね? それなのに現実よりリアルって」
せつ菜「脳が区別できないんです!ですから二時間後に目覚めた時、あなたは本当に火星に行ってきたと思うんです」
せつ菜「でもせっかくの夢旅行、思い切って別人になってしまうのはいかがでしょう?」
せつ菜「夢の間は顔も名前も経歴も自分好みにオーダー出来ます。それを不自然に感じることもありません」
あなた「それで廃人になった人がいるとか聞いたけど……」
せつ菜「事実無根のデマですね。夢から覚めた後も別人のままなんてあり得ません」
せつ菜「お客様、折角のチャンスを生かしましょう。これは普段の自分からの休暇を取れるまたと無い機会なんです」 せつ菜「人は誰しも、こうでありたい本当の自分というものがあるものです」
せつ菜「しかし現実では能力や環境がそれを許さない。人は自分でない自分に甘んじつつ、そのまま一生を終えることがほとんどです」
せつ菜「でも悲しいじゃないですか。起きているようで実は眠っている。大多数の人が生きてる間に“自分”にすらなれないなんて」
せつ菜「私はそんな人たちを応援したい……誰もが持っている“こんな自分が好き”の気持ちを殺してほしくないんですっ!」
あなた(本当の自分、かぁ)
せつ菜「さあリストをどうぞ。私のイチオシは火星古代文明の王子です!」
せつ菜「100万年前の火星に生まれたあなたは、王家の争いに巻き込まれつつ生き別れた腹違いの妹を探して冒険の旅に出る王道ド直球のファンタジー!」
せつ菜「おススメは他にもありますよ。例えばこの『エイリアン・バスター』」
せつ菜「あなたは宇宙海賊となってサイキッカーのミュータントを相棒に賞金首のエイリアンたちと血沸き肉躍る一大スペースオペラを繰り広げ――」
あなた「このスパイってやつは?」
せつ菜「シナリオNo.88『マーズ・ブルー』ですね!」 せつ菜「あなたは腕利きの諜報員となって火星に潜入するんです」
せつ菜「襲い来る追跡者、謎多きヒロイン、遺跡の秘密、愛憎と裏切り、徐々に明かされる陰謀とその真相…」
せつ菜「この続きは是非あなたの脳で確かめてください!でもこれだけは保証します」
せつ菜「最後には胸のすくような結末が待っていますから。きっと現実に戻りたくないと思うはずです!」
あなた(体験型のアトラクションみたいなものかな……正直楽しそう)
あなた(近頃は退屈気味だったし……ついでにいいよね?)
あなた「じゃあ、それで」
せつ菜「ありがとうございます!基本ツアーからアドベンチャーコースへの変更で料金は倍額になりますが、絶対に後悔はさせません!」 ――
――――
せつ菜「それではこれよりトリップに出かけてもらうわけですが、その前に免責事項を」
せつ菜「既に現実で体験してることを夢には出来ませんのでご注意ください」
あなた「……火星に行ったことはないよ」
せつ菜「よくいらっしゃるんですよ。愛人がいるのに、夢の中で浮気しようとされる方が」
せつ菜「記憶の重複は脳と装置の両方がエラーを起こして、重大な事故に繋がりかねません」
助手「ちくっとしますね」プシュッ
あなた「……何を打ったの?」
助手「睡眠導入剤です。もちろん人体への影響は――」
あなた(この人おっぱい凄い……胸元がパツンパツン)
あなた(牛みたいに……何個もついてたりして……)トロン せつ菜「おっと、登場するヒロインの設定を忘れてました」
あなた(頭ぼーっとする……)
せつ菜「外見はあなたの理想が反映されますが、性格について何かご希望がありましたら今のうちに」
あなた「せ……性かくっ、は……」
あなた「おとなしぐて…………みだ、らっ」
せつ菜「控え目の淫乱をご希望…と」カタカタッターン
【メモリーインプット開始】
ギュイイイイイイイン―――
あなた(〜〜〜〜!!…―――……・・・・)
せつ菜「ではいってらっしゃいませ」
せつ菜「楽しいご旅行を」クスッ
ビーッ!ビーッ!
「うわあああああああ!!!!!」
助手「!?」
せつ菜「いけない…!すぐ中止を!」
「あああああああっ!!!!あいつらが来る!!」
「正体がバレたんだ!!!これを外してえええっ」
せつ菜「落ち着いてください、あなたはスパイではありません!それは夢で…」
「違う!!!」
「私はあなたじゃない!!私は…!!!」
助手「脳が錯乱を起こしてます!このままだと人格が…」
せつ菜「麻酔の投薬量を七倍に!」
――キュウウウウン
「っ〜〜〜、ふーっ……」
せつ菜「ふぅ、ひとまずはこれで安心です」
助手「どうなってるんですか……夢の途中に目覚めて錯乱を?」
せつ菜「いえ……それはあり得ません」チラッ
【メモリーインプット・エラー】
せつ菜「記憶のインプットは初期段階で失敗してます」
せつ菜「とすると考えられるのは…」
助手「この人は、既に火星に行ったことがある…?」
助手「でも誰がその記憶を……まさか、本物の」
せつ菜「その先は言わないでください」
――――かくこの件は…………密に―――――………
返金…―――からの記憶…して―――クシーに―――
「………」
〜〜
〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
かすみ「先輩!聞いてますか?せんぱぁい」ユサユサ
あなた「……え?」
かすみ「絵じゃないですよぉ〜こんなにキュートな天使の造形物かすみんを無視してふらふら歩いていける神経が理解できませんっ」
かすみ「さっきから何度も呼び止めてるのに、またぼーっとしてたって言い訳ですか?」
あなた「えっと、かすみちゃんごめん……私、さっきまで何を」
かすみ「今から帰りってことは、あの後リコールに寄ったんでしょう?」
あなた「……そうだ、私はリコール社に行くつもりで……でも、あれ?」
あなた(何も思い出せない……どうして?) かすみ「ま、いいです。それより丁度いい所で会いましたね」
かすみ「かすみん達、次のお店に行く途中なんですよ。これはもう運命ですっ」
かすみ「先輩も来てください、火星の土産話を聞かせてくださいよ〜」
あなた「や……今日はもう帰るね……」
かすみ「いいじゃないですかぁ、偶にはかすみんに付き合ってくださいよぉ」
あなた「本当にごめん……でも無理なの」
かすみ「……仕方ないですね」ゴソゴソ
スチャッ
あなた「…え?」
かすみ「今日だけは、どうしても付き合ってもらいますから」チャキッ 同僚1「おら、さっさと歩くにゃ!」ガシッ
同僚2「そこの路地裏に!」
あなた「わっ、わっ、ちょっとみんなどうしたの!?」
かすみ「先輩が悪いんです…かすみんの忠告を聞かないから…」
あなた「どうしてそんな物騒なものを…」
かすみ「知ってるでしょう? さあ、思い出したことを全部話してください」
あなた「待って、これは誤解だよ…!誰か別の人と勘違いしてる」
同僚3「へぇ、あくまでしらを切るんだぁ? ならこっちも…」スッ
あなた「!」
バキョッ
同僚3「ぴぎ!?」
あなた「ッ――!」ドガッ
かすみ「ぐへぇっ」
同僚1「こいつ!」チャカッ
あなた「はぁ!」ゴキャッ
同僚1「ぎゃん!」
同僚2「くっ…」サッ
あなた「」BANG!BANG!
同僚2「ぴゃあ!」
ドサッ
あなた「はぁ…はぁ…」
同僚1「」
同僚2「」
同僚3「」
あなた(今の、私が……?この死体全部……)
あなた(考えなくても勝手に――身体の動かし方も、銃の撃ち方も)
かすみ「ひ、ひぃぃ…」
あなた「!……かすみちゃんっ」
あなた「答えて!これは一体どういうことなの!?」 かすみ「かすみんは何も知りませ「嘘ッ!!」
かすみ「かはっ……か、かすみんが言われたのは、先輩を見張れってことです…!」
あなた「見張る…?どうして私を??」
かすみ「それは聞いてません…っ、とにかく何か動きがあったら報告しろと」
かすみ「でもこの二ヶ月半何の成果もなくて……」
あなた「二ヶ月半って、かすみちゃんとはもう七年も一緒に働いてるのに」
かすみ「それは偽憶でしょうが。10週間前まで会ったこともなかったのに」
あなた「はぁ? だって私は七年前に歩夢ちゃんとこの街へ――」
かすみ「だから、この街での記憶は全部私たちの組織が……」
かすみ「まさか、ホントに何も思い出してないんですか?」 あなた(この街の思い出が、全部偽物?)
あなた(そんなことあり得ない……でも)
あなた(フツーの工員の私が、銃を持った三人を一瞬で…)ワナワナ
あなた(これじゃ工員じゃなくて工作員……いや諜報員?その二つの違いも分からないのに?)
――脳が区別できないんです!
あなた(今の、誰の言葉――? そんなこと言われたら…)
あなた(自分の記憶が、信じられない)
あなた(私は……私じゃない?)
あなた「う、うわあああ!!!!」ダッ
・
・
・
ガチャッ
歩夢「あ、おかえりなさい。食べないで待ってたんだよ」
あなた「歩夢ちゃん!」ダキッ
歩夢「わっ、どうしたの急に?」
あなた「歩夢ちゃん……私怖い」
あなた「今日リコール社に行こうとしたの……どうしても火星に行きたくて」
歩夢「え…」
あなた「でも…そこから記憶が途切れて」
あなた「そしたら突然……かすみちゃん達に襲われて」
あなた「気が付いたら私、人を殺してた…」
歩夢「なにを、言ってるの?」 あなた「私……頭がヘンになっちゃったのかも」
あなた「とっても恐ろしいこと――この街での思い出は」
あなた「仕事も、歩夢ちゃんとの生活も、全部作り物だって言われて」
あなた「さっき人を殺したのだって私の記憶違い……幻覚か妄想だって思いたい」
あなた「でもそうすると何が現実かよく分からなくて…!私たちのこれまでは一体…」
歩夢「落ち着いて?大丈夫だから」ギュッ 歩夢「ねえ、覚えてる?」
歩夢「小さい頃、何か怖いことがあった時はいつも二人でこうしてたよね」
歩夢「私は覚えてるよ。あなたの体温…匂い…心臓の音」
歩夢「何一つ変わってない。あの時のまま」
あなた「うん……私も、思い出した」
あなた「歩夢ちゃんはいつも私のこと、優しく抱き締めてくれて」
歩夢「よしよし。怖い目にあったんだよね」 歩夢「きっと、リコールって所で変なことされたんだよ」
歩夢「脳を弄るなんて……よくないに決まってる」
あなた「ごめん……本当にごめんなさい」
歩夢「安心して。何があっても、私はあなたの側を離れないから」
歩夢「二人で一緒に乗り越えようよ。これからも、ずっと…」
あなた「歩夢ちゃん……ちょっと苦しいかも…」
歩夢「だから今日はもう寝よう? 大丈夫、きっといい夢見れるから」
あなた「歩夢ちゃん、痛いよ…歩夢ちゃんっ」
歩夢「私が見せてあげる……これまでの二人のこと、たくさん想い出させてあげるね」
あなた「けはッ……あっ、歩夢ちゃ…!」
歩夢「………」ギリギリギリ
あなた(こッのままじゃ、絞め、落とされる…っ)
あなた(あの棚に、、、突っ込んで…!)ダッ
歩夢「!」
――ドシャアアアン!!!
歩夢「っ…」
あなた「はっ…なれろぉ…!」ダッ
ガシャアアアン! バリィィン!
歩夢「きゃ…!」ゴロゴロ
あなた「ッ…!」ゼェハァ
あなた(今確信した…!こんなの、私の知ってる歩夢ちゃんじゃない)
あなた「いや……元からいなかったんだ、私の知ってる歩夢ちゃんなんて人間は…!」 歩夢「なに言ってるの…? 私はちゃんとここにいるよ」
歩夢「さっき抱き合った時、あなたも感じたよね?」
あなた「まあね。感じたのは殺意だけど」
歩夢「殺意だなんて……ちょっと怒ってはいたかな」
歩夢「内緒でリコールに行かれたのはショックだけど」
あなた(玄関への道を塞がれてる…)
歩夢「私たちの間には、七年目の浮気も八年目の殺意もあり得ない」
歩夢「だってそれよりずっと、ずーっと前から一緒なんだよ。ね?」
あなた「大嘘吐きっ!!」ダッ バタン
あなた(鍵を――!)ガチャリ
ガチャ…ガチャガチャ
「ねえ、開けて? お風呂なら一緒に入ろう?」
あなた「来ないで!」
あなた(ここからどうしよう。浴室には窓があるけど)
あなた(ここはボロマンションの九階。窓から出て縁に掴まりながら――なんて)
ブーッ!ブーッ!
あなた(――着信? 誰かの電話が鳴って…)
あなた(私の右手……光ってる)
あなた「掌の中に……電話が…?」
ブーッ!ブーッ!ブーッ!
あなた(なにこれ……何これナニコレ)
あなた(ハンズフォン、ってやつ? スパイ映画とかでお馴染みの)
あなた(どうして気付かなかったの――こんなものが掌に埋まってたなんて)
あなた(いやそれよりも……このタイミングでかかってきたのは)
あなた「……もしもし?」
『そこから逃がしてあげる。私の言う通りにして』
あなた「誰なの? どうして私のこと…」
『私は璃奈。それ以外の質問は後にして』
『逃げ切れたら教えてあげる。あなたが何者かのヒントを』
水曜シアター9
Next:#2「To recall離婚PLEASE!!」 ラブライブ!×トータル・リコール トータル・リコールみたことないけどこんな話なんか
面白そう今度見る おっぱい三つあるのは誰?
>>48
リメイクは今一つだったな
「とーびらをたたいて〜」ガツン!ガツン!
あなた(ドアを破られる…!)
『迷ってる時間はないよ。今すぐ決断して』
バキンッ!!
あなた「!!!」
( _ ◉リ)「まだ見ぬ夢が醒めぬようにとおびえてる〜♪」
あなた「っ…!」ガラッ
ヒュウウウウウウ――
あなた「うわ…これ無理ぃ」 あなた「駄目……どっちも恐ろしすぎるよこれ」
『そんなことない』
『あなたならできる。私を信じて』
あなた「………」
あなた「……わかったよ」
ビュウウウウウ
あなた「っ…」ゴクリ
あなた(下を見ないように――)
『そのまま隣のマンションのバルコニーまで跳んで』
あなた「えええっ!? 無茶言わないでよ?」
『追い付かれるよ。早く』
――バッ
あなた「ぅあああ〜っ!!!」ゴロゴロ
あなた「で、できた…!」ハァハァ
『その調子で、さらに隣へ跳び移りながらバルコニー沿いにマンション群を突っ切って』
『一番端の建物はマグレブ式の高架橋に接続されてるから。そこに迎えを待機させてる』
あなた「またさらっと無茶苦茶を…」
歩夢「そこにいるの?」
あなた「……選択肢はないみたいっ」ダッ
歩夢「ええ…こんな所で鬼ごっこ? 懐かしいけど危ないよぅ」
バッ―― シュタッ
タンッ
トンッ
あなた(今でも信じられない。自分にこんな動きが出来るなんて)
あなた(最初は無茶だと思えたことも、こうして何とかこなせてる)
あなた(一体何者だったんだろう…こうなる前の私は)
歩夢「ねえ、待って〜」
あなた「猫かムササビみたいな動きで追っかけて来てるっ」
『まさに鬼嫁だね。いや泥棒猫かな』
あなた「一番端まで来たけど!迎えはどこなの?」
『下を見て』
あなた(言われて顔を出した瞬間、マンション壁面の磁気レーンを垂直に這い上って来たマグレブ車が音も無くバルコニーに横付けされた――)
『そのタクシーに乗って。そこから先は―――プツッ』
あなた「!? もしもしっ?」
あなた(掌の光が消えた――この肝心な時に!)
ガチャッ
あなた「運転手さん!すぐに出してっ」
『コンバンワ。行先ヲドウゾ』ウィーン
あなた(げっ、ロボタクシーだ。しかもうちで作ってるE-07型…) あなた「どこでもいいからとにかく走って!」
E07『行先ノ住所ヲ言ッテクダサイ』
あなた「じゃあネオ神田明神前!」
E07『モウ一度、ユックリト発音ヲ』
あなた「っ〜〜〜、このポンコツ!」
E07『ポンコツ、トイウ住所ハアリマセン』
歩夢「はぁ、やっとだよぅ」ハァハァ
あなた(き、来た…!)
あなた「ホ・テ・ル・オ・ハ・ラ!急いで!」
E07『了解シマシタ』
キィィィィィィン――
歩夢「あっ……おいてかなくてもいいのに」
ブーッ!ブーッ! ピッ
歩夢「もしもし、あなた?」
『……三船です。眠り姫のことですが』 歩夢「これから一緒に帰ります」
『その必要はありません。彼女の位置はこちらで追跡出来ています』
歩夢「ごめんなさい、もう切りますね。遅くなるとお夕飯が冷めちゃうから」
『待ちなさい、まだ話は――プツッ』
歩夢「もう、世話が焼けるな」
歩夢「そういうところが可愛いんだけど」
キィィィィィィン――
室内モニタ『そうだ 火星、行こう』
ドアガラス『記憶旅行で満足してるそこのあなた。本物に勝る感動はありません』
リアガラス『47分後に最寄りのスペースブリッジから本日の最終便が――』
あなた(窓のホロ広告が煩すぎて外がよく見えないけど)
あなた(追いかけて来てないみたいだ……今のところは) あなた「ねえ、もっとスピード出せないの?」
E07『コノ先混雑中ニツキ最適ナ速度デ走行中』
あなた「じゃあ車のいない所走ってよ」
E07『磁気レーン外デノマグレブ走行ハ出来マセン』
あなた「あーはいはい、一番近い高速に乗って」
ブーッ!ブーッ!
あなた(!またかかって…) あなた(……もしかすると追手からかも)
あなた(そうだ――このタイプの電話はホロガラスに押し付けるとテレビ通話になったはず)ピトッ
パッ
璃奈『……賢いね』
璃奈『顔を確認するのは大事。今は声とか簡単に偽装できるから』
あなた「……ボードで隠されちゃお手上げだけどね」
璃奈『もっと大事なのは外見じゃなく中身。私という人間をあなたが信じるかどうかだよ』
あなた「正直まだ半信半疑かな。私は自分の中身すらよく分かってないし」
璃奈『そうだと思って、あなたがもっと信用しやすい人からのプレゼントを用意したの』 璃奈『助手席の足元にあるケースがそれ』
璃奈『中身はこれから必要になる物と、あなた宛ての重要なメッセージ』
璃奈『そしてナイフ。それを使ってすぐにこの電話を取り出して』
あなた「はい?」
璃奈『さっき通話が途切れたのは、遠隔で電源を落とされて再起動させられたから』
璃奈『あなたを追ってる組織が捕捉した電波の位置を探知してる。すぐに捨てて』
あなた「……そんな、急に言われても」
璃奈『忘れないで。私の言ったことを』
璃奈『じゃあ、頑張って』プツッ
あなた「あっ」 ガチャ
あなた(このケース、蓋の裏がモニターになってる)
シャキン
あなた(これで……掌を抉って)
あなた「くっ…」プルプル
あなた(って無理に決まってるじゃん!いくらなんでもこんなのっ)
E07『規定値以上ノストレスを検知。最寄リノ病院ヘルート変更ヲ?』
あなた「…うるさい」
――ピコンッ
『やぁ、おはよ〜』 『あは、驚いてる?このモニターは、私の声に反応して電源が入る仕組みなんだ〜』
『おっと…この場合は“あなた”の声って言った方が正しいかなぁ』
あなた「なっ…」
『改めてご挨拶するよ、やっほー未来の私♪ これ、ちゃんと録れてるよねぇ?』
『突然のことで混乱してるだろうけど、どうか落ち着いて聞いてくれたまえ』
『あなたは“あなた”じゃなくてこの私、近江彼方ちゃんなの〜』
あなた「これが……本当の、私?」
あなた(確かに、今画面の中で喋ってるのは私だ――)
あなた(ここまで眠そうな話し方はしないし、こんなものを録画した記憶も無いのに)
彼方『ふふふ…彼方っていう字は“あなた”とも読めるのだ…彼方ちゃん渾身の一発ギャグ〜』
彼方『そんなわけで…今の“あなた”は、私が寝てる間に見る夢みたいなものなんだ〜』
あなた「っ…」ドクン 彼方『そもそも、どうしてこんなメンドーなことになったかというと』
彼方『彼方ちゃん、火星のレジスタンスに協力してるスパイなんだよね〜』
彼方『元々は栞子長官の下で働いてたんだけど。あの人全然眠らせてくれないし、言ってることも独裁者っぽいしで嫌になっちゃってさー』
彼方『それですやぁってレジスタンス側に寝返ったんだけど〜、長官の所にいた時、予想外にとんでもない秘密を知っちゃっててね』
彼方『本気で消されそうになったからぁ…ひとまず記憶を消して身を潜めることにしたってわけ』
彼方『このメッセージを聞いてるってことは、上手くいかなかったみたいだけどね〜』
彼方『どんまい』 彼方『そこで〜…力及ばずおねむな彼方ちゃんの代わりを、あなたにやってほしいんだ〜』
彼方『具体的にはぁ…今すぐ火星に飛んで、エマちゃんを探すのだ〜♪』
彼方『エマちゃんは火星レジスタンスのリーダーで、私たちの失われた記憶を元に戻せるはずだよ』
彼方『そのために必要な道具は、全部そこに入ってるからー』
彼方『旅券とパスポートに偽造の身分証、火星の紙幣もたぁくさん』
彼方『あとはぁ…スパイの七つ道具…たとえばこのホロカムは』
彼方『自分の姿と声を…ふわぁ…近くに投射して…』 彼方『電池はぁ……三分しかもたないから……むにゃむにゃ』
あなた「ちょっと、途中でどうしたの?」
彼方『ごめんねぇ……いっぱい喋ったから』
彼方『彼方ちゃんの方も……電池切れぇ…』
彼方『とにかく火星へ飛んだら……M地区にあるトチマンって宿に……あとは任せた…』
彼方『ぜんぶ終わったら起こして……すやぴー』
プツン
あなた(……大凡の事情は分かったけど)
あなた(私は想像以上に只ならない事態の中心にいるみたいだ)
あなた(記憶を取り戻すためには、追手にバレないよう火星に――)
あなた「そうなると、右手のこれはやっぱりマズいよね…」
あなた「……やるしかない」
シャキン
あなた「フーッ…はーっ…」ガクガク
あなた「………えぐッッ」ブスッ!
あなた「ッ〜〜〜!んぎっ!ぅ〜〜〜」
あなた「ぁぎ……ふッ…ううっ…ヒック…」
あなた「………やだやだやだもうやだぁ」 あなた「ひぐ…ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!!」
あなた「ぁぁ〜……ひっ、ひっ、ぃ」
あなた「っはぁ……はーっ……はっ」
あなた「………だせた……」
E07『シートノクリーニング代ハ運賃ニ加算サレマス』
あなた「ぐすっ、うっさいバァカ!早くこの窓開けて!」
ヴィーン
あなた(こんなもの…!)ポイッ
あなた「………あっ」
ダンッ ププーッ ダンッ
あなた(誰かが車の上を走り跳んでこっちに…!)
歩夢「迎えに来ちゃった」タンッ!
あなた「う、運転手さん飛ばして!」
E07『法定速度ニ則ッテ走行中』
あなた「もうっ…」
ドンッ
あなた「!」
【メ*◉ _ ◉リ】
あなた「うわああああ!!」
ゴォォォォォォゥ――
歩夢「ええっ、そんなにびっくりしなくてもいいのに」
歩夢「そういえば小学生の時、二人で観に行った映画に似たような場面があったよね」
歩夢「あの時私が言ったこと、覚えてる?」
歩夢「別れたくないって言うくせに、どうしてすぐタクシーを追いかけるのをやめちゃうんだろうって」
歩夢「追いつけないってことはないはずなのに。きっと本気じゃなかったんだと思うんだ、あの主人公は」
あなた(本気でヤバい…!)
E07『間モナク高速四面磁路デス』
E07『左面レーンニ侵入シマス。安全バーニ捕マッテ、車体ノ傾キニゴ注意ヲ』 キ
イ
ィ
ィ
ン
あなた「うわっ!」ドサッ
あなた「いたた……バー下ろし忘れて…」
あなた(車体が90度傾いたんだ――流石の歩夢ちゃんも)
バリィィン!
あなた(ひゃぁ!股下から手がっ)
「想い出すよね。中学校の修学旅行の時、二人で乗った観覧車のこと」
「退屈したあなたがこんな風にゴンドラを揺らし始めて怖かったんだから」
あなた「脳がひっくり返ってもそんな記憶出てこないよ!」 あなた(もう一度車体を傾けて振り落とそう――!)
あなた「行先変更、Y.G.国際学園前!」
E07『ルート変更ヲ受ケ付ケマシタ』
E07『下面レーンニ侵入シマス。座席ノ回転ニゴ注意ヲ』
ク
ク
ク ゥ ン
歩夢「わっ…」
あなた(まだぶら下がってる…!)
あなた「オトノキザカ跡地へ!」
E07『ルート変更、左面レーンニ侵入』
キィィィィン――
【@cメ*◉ _ ◉リ】 あなた「―――どうだっ」
あなた(!――カエルみたく屋根にへばり付いて…)
歩夢「かえろーかえろーおうちへかえろ〜♪」
あなた「一番最初に戻して!」
キィィィィ――
歩夢「でん」
歩夢「でん」
歩夢「でんぐり返って」
E07『姿勢ガ回復シマシタ』
歩夢「入るよ?」バキン!
あなた「バイバイバーイ!!」ガチャ
歩夢「!」
あなた「うあああああああっ」ガシッ
歩夢「対向車線の車に――?」
あなた「これがホントの飛び乗り乗車ってね」
ガチャ
あなた「運転手さん、驚かせてごめんなさ…」
E07『コンワバンワ。行先ヲドウゾ』
あなた「またぁ!?」 歩夢「もー、どうして待ってくれないのかな」
歩夢「運転手さん、あのタクシーに近付けて…」
E07『警告、システムエラー、初期化失敗』
E07『緊キュウ停車SiマsU』
歩夢「え…?どうして…」
プァァァァァァァン――
歩夢「!!!」
ドシャァァァァァァン!
あなた「…回路を遮断したの」
あなた「E-07型の胸部にある制御パネルは尖ったものがあれば簡単に開いちゃうんだ」
あなた「企業秘密だけどね」
あなた「歩夢ちゃんともこれで絶縁だよ」
E07『行先ハ?』
あなた「レインボースペースブリッジへ」
キィィィィィン――
木曜洋画劇場
Next:#3「ミューズ・アタック!」 ラブライブ!×トータル・リコール 乙
ぽむがt-1000みたいに無表情で全力疾走してきてる絵面が浮かんできてちびりそうだった トータル・リコールってフィリップ・K・ディックのか
読めてなかったけどこれは面白い ・
・
・
『ようこそ火星連邦植民地へ。ご入場の際はゆっくりとゲートを潜ってください』
『みなさまを真空からお守りするドームの窓を叩いたり、寄りかかったりしないよう――』
ザワザワ ガヤガヤ
係官「――では、よいご滞在を」
係官「次の方」
係官「桜色の髪に金眼の貴女、どうぞ」
璃奈「……」トコトコ 係官「パスポートを拝見」
璃奈「……」スッ
係官「滞在日数は」
璃奈「二週間」 係官「……」ジー
璃奈「なに?」
係官「いえ…先程からお顔が引き攣っているように見えましたので」
係官「何かの持病でも?」
璃奈「これは生まれつき。ほっといて」
係官「…失礼しました」タンッ
【入国許可印:|c||^.- ^||】
係官「野菜や果物、ナマモノ系に姉妹レズ本等の禁制品の持ち込みはございませんね?」
璃奈「二週間」
係官「…はい?」 璃奈「あ――ザザッ」
璃!?「ああああのののこここれは」ブブッ
係官「…貴女、顔が」
璃nAタ「にっににににににNIいいいい異臭姦?!!??」ブーーッ
観光客「顔にモザイクかかってる…」
係官「至急7番ゲートに警備ロボを!」
リ奈ta「Tiっ…」パカッ
ウィーンカシャカシャカシャン
あなた「ぷはっ、何さこれ!不良品じゃん!」
係官2「ホロボードだ!」
観光客「未来ずら…」
E07部隊『』ザッザッザッ…
あなた「うわわっ、ヤバい」
E07『手配犯ヲ確認。排除スル』ウィーン
係官「お待ちなさい!ここで銃は――」
E07部隊『』DoDoDoDoDo!!!!
パリィン!――ミシミシッ
係員2「き、気密ガラスが…」
ミシミシミシ―――バリィィィィィィン!!!
ビュオオオオオオオオ―――!!!
あなた「うわあああああ!!?」
あなた(外に吸い出される――ッ)
係官「みなさん何かに掴まってええええ」
キャー!!! ダレカタスケテー!
係官2「だっ誰か緊急閉鎖ボタンを…!」
あなた(あれか…!)
ゴォオオオオオオウウウウ―――
あなた「ふっ…くっ…、はぁ…」
あなた(あと……もうちょい、で…)
あなた「手が……とど」ツルッ
あなた「!――きゃああああああ」
「危ないっ」ガシッ
あなた(っ――た、助かった…!?)
「手を放さないでね!!!」
あなた「う…うん」
あなた「!?」
あなた(う、嘘――)
あなた(私を助けてくれたこの子――間違いない)
あなた(何度も夢に出てきた―――私のヒロイン!)
「そこでじっとしてて、お姉ちゃん!」
「えいっ」ポチリー
『緊急隔壁が閉鎖します。ご注意ください』
――ゴウンゴウンゴウン
観光客「きゃん!」ドサッ
係官「……助かりましたの…?」
あなた「はぁはぁ…」
「ぼんやりしてられないよ、起きてお姉ちゃん!」
ゴウンゴウンゴウン
「あの隔壁の隙間に滑り込むよっ」
あなた「…合点!」
――
――――
コォォォォォォォ
『マーズライナーをご利用のお客さまへ。次の停車駅は――』
あなた「間一髪だったね。お陰で助かったよ」
「気にしないで。お姉ちゃんを支えるのが私の役目だから!」
あなた「……あなたは私の妹なの…?」
「へ? 何言ってるの?」
「私、遥だよっ。お姉ちゃんまた寝ぼけてるんでしょ」
遥「記憶――喪失?」
遥「それじゃあ、私のことも忘れちゃったの…?」
あなた「ううん、顔だけは覚えてた」
あなた(夢の中で、毎日逢ってたから)
あなた「あなたが大切な存在だってことは忘れようにも忘れられなかったみたい」
遥「そっか……えへへ、照れちゃうな」 あなた(記憶を失った私の中で唯一確かなのは、この子への想いだけ)
あなた(それが……まさか妹だったなんて)
あなた(だって私たち、夢の中で毎晩あんなことやそんなことを…///)
あなた(うああああ……ひょっとしなくても前の私って相当アレなやつだったんじゃ…)
あなた(これだけゴニョゴニョな想いなら、脳に強烈に焼き付いてたのも納得だけどさぁ!) 遥「さっきから顔が信号機みたいだよ? どうかしたの?」
あなた「べ、別に何でも!」プィ
あなた「――あっ」
あなた(窓の外――なんて殺風景なんだろう、火星って)
あなた(今日び地球の田舎でもここまで何もないってのは珍しいような)
あなた(こんな所に私はずっと来たがって………でも、不思議と失望感はないんだよね)
あなた(なんだか里帰りしたような安心感というか、座りの良さみたいな…)
あなた(―――遠くに見える虹色の山、あれも夢に出てきた……)
あなた「あの山は何なの?」
遥「ああ、あれは「レインボー鉱山を知らないの? ひょっとして火星は初めてかなん?」ヒック あなた「多分初めてじゃないはずなんだけど……はは」
乗客「この星で一番のマカロン鉱石の産出地だったんだよ。私も働いてたんだ〜」
乗客「キミら地球の人たちがドカドカ使うのに合わせてこっちは毎日さぁ……それを突然閉鎖とか酷い話だと思わない?」
乗客「今ある鉱脈は掘り尽したとか言ってるけど嘘っぱちもいいところだよ。私、もっと深くまで潜ったことあるもん」
乗客「マカロンはまだまだ残ってる。けどそれ以上に凄いものが埋もれてるんだ。なんだと思う?」
あなた「さあ?」
乗客「ミイラだよ。とにかくデタラメな形してて、目が多かったり変なところに手がついてたり気色悪いやつ」
乗客「きっと大昔、まだこの星に海があった頃に住んでたエイリアンのものに違いないよ!」
乗客「もしかすると地球に逃げ延びたそいつらが今の深海魚のご先祖様なのかも……うん、間違いないねこれは」エック
あなた「…はあ」 乗客「逃げたくなる気持ちも分かるなー。ここは本当に酷い所だもん」
乗客「水は無いしお金がなきゃ空気も吸えない。無銭呼吸には厳罰」
乗客「ドームの外で、それこそ陸揚げされた深海魚みたいになって死んでいくんだ…」
乗客「……マシなことといえば、あのうざったいリコールの広告を見ずに済むことかな」
乗客「火星に住んでて、惑星植民地の夢を見ようなんて人はいないからね」
乗客「みんな最初は言われるがまま、ここを夢の黄金郷と信じて入植したけど」
乗客「結局騙されてこのザマ……飲まなきゃやってられないよ……」フラフラ
あなた「……」
遥「あの人の言ったこと、真に受けないでね」
遥「まず鉱山は女の人雇われないし」
あなた「へ?」
遥「いつもこの列車でフィッシュストーリー(ホラ話)吹いてる頭さかなかな人なんだ…」
乗客「さっかなさっかな肴〜♪」ヒック 遥「あの人みたいに、この星の体制に不満を感じてる人は多いんだ」
遥「今の三船って人が総督になってからは特にね」
遥「お姉ちゃんがそれを変えるんだよ。お姉ちゃんが火星の救世主になるの!」
遥「そうお姉ちゃんが決めたから……今までずっと、離れ離れになることも耐えられた」
遥「耐えられたからって、寂しくなかったわけじゃないけど…」
遥「私は裏切り者の妹だから、どうせ人目を忍ばなきゃいけなかったし」 遥「スラムで特訓しながら、お姉ちゃんが用意してた火星行の旅券が使われたらすぐ分かるようにしてたんだ」
遥「ここに戻って来た時、すぐにも飛んでいきたいと思ったから」
遥「私、またお姉ちゃんの側にいてもいいよね?」
あなた「うんっ……私のせいで辛い思いをさせてごめんね…」ナデナデ
遥「平気だよ。お姉ちゃんのいる所が私の居場所だもん」 ・
・
・
遥「ここがトチマンだよ!」
女将「いらっしゃいませー」
あなた「あの、今から部屋って…」
女将「鬼頭さま!ご来訪お待ちしておりました〜」
あなた「あ、はい…(鬼頭、はケースに入ってた偽の身分証にあった名前だけど)」
女将「ご予約頂いたお部屋にご案内しますね」
あなた(予約っていつの間に? これもあのボードの人が…?)
女将「それと、前回ご利用時にお預かりしたものがございますけど」
あなた「!…出してください」
あなた(やっぱり手掛かりを残してたんだ、私) 女将「どうぞ、こちらの金庫の中です」
あなた「……」
女将「…?」ニコニコ
遥「お姉ちゃん、網膜認証しなきゃ」ヒソヒソ
あなた「あ、そうだったねっ」ノゾキ
ジー…ガチャ
あなた(さて鬼が出るか蛇が出るか)
あなた「…………紙切れ?」カサッ
『〜女神たちの花園〜 クラブ“エバーグリーン” 16:00〜終日営業』 あなた「…これで全部ですか?」
女将「ご本人様か宿の者以外では開けられませんので」
あなた(ここへ行けってことなのかな)ペラッ
(裏面)『果林を指名して』
あなた(私の字じゃない。この果林って人が書いたのか、それとも別の…)
あなた「遥ちゃん、このお店への行き方分かる?」
遥「表でタクシー拾おっか」
ガヤガヤ
「ねえ君たちタクシー探してる?それならわたくしーめにお任せを!」
あなた「あ、今のってひょっとしてタクシーとわたくしをかけた…」
「なははっ。愛さんとお客さんはウマがアイそうだね!」
あなた「遥ちゃん、この面白い人のに乗ろうよ」
遥「アッハイ」
愛「それで、どこに連れてけばいいのかな?」
あなた「エバーグリーンって店まで――」
――BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!!!!
あなた「!? この爆発は?」
遥「レジスタンスのテロ攻撃だよ!」
愛「火星へようこそ!マ〜ズい時に来ちゃったねーアハハ!」 ――
――――
ブロロロロロロロ…
愛「ガタガタ揺れてごめんねー」
愛「火星の道ってロクに舗装されてないし、マグレブとか百年早いってレベルでさぁ」
遥「峡谷を掘削してその中に生活空間を作ってるんだもん、仕方ないですよ。宇宙放射線を避けるためだとか」
愛「実際避けきれてないんだけどねーこれが」
愛「手抜き工事の安物ドームのせいでミュータントに生まれた子たちが体制側を恨むのも無理ないかなーって」
あなた「さっきみたいなこと、よくあるの?」
愛「もー毎日が花火大会ってカンジ? でもこの辺はいい所だよ」
愛「ちょっと狭くてボロいけど下町って風情があって」
愛「住んでる人みんな温かくて家族みたいなものだしアタシは大好き!」 あなた「家族かぁ」
遥「もう、さっきからお姉ちゃんくっつきすぎ」
あなた「遥ちゃん、もう一回それ言って」
遥「――お姉ちゃん?」
あなた(いい響きだぁ)
遥「……お姉ちゃんてば、記憶喪失になってから雰囲気変わったよね」
遥「相変わらず垂れ目だけど、そこはかとなくきりりとしててちょっとカッコいいかも…」
あなた(うっ、純真な瞳が眩しい…)
遥「女子力の方も三割増で――これは錯覚だね、うん」
あなた(中身は夢で妹に欲情する変態力53万の残姉でごめんね……)
愛「うんうん、仲良きことは美しきかな!姉妹っていいよね」
愛「ちなみにアタシにもおねーちゃんいるんだよ?血は繋がってないけど」
愛「それでもおねーちゃんはおねーちゃん、そーいうものだよね!てところで姉妹の話はおしまい!」 愛「とうちゃーく!ムーサ街一丁目だよ」
愛「ここから先は車で入れないから歩いて案内するね」
ザワザワガヤガヤ
「お姉さん達〜遊んでかなーい?」
「いっぱいサービスしてア・ゲ・ル」
「愛ちゃーん、うちで飲んでってよー」
愛「アハハ、また後でねー」
あなた「女神(ムーサ)街…ね」
「ふぁ○くだんさー」
「私たちがニコイチで相手しちゃうよー「にっこにっこにーです!」」
あなた(小人の客引きにシャムソーセージの嬢まで、無法地帯かここは…)
遥「私、こういう所ダメかも…」
あなた「よしよし、お姉ちゃんの側においで」
遥「うん…」
「もし、そこのお姉さん」
遥「っ!」ギョ ミューたん「ああ、ウチの見た目でドン引きしないで?」
ミューたん「この姿と引き換えにウチらは生まれつきスピリチュアルなパワーを授かったんよ」
ミューたん「ズバリ、お姉さんの星座はしし座でしょ?」
遥「違いますけど…」
ミューたん「今のは練習よ」
あなた「遥ちゃん行こう」
遥「これ……少ないですけどあげます!」チャリン
ミューたん「あちょっと!手相も見るよ?夢占いに興味は?未来を知りたくない!?」
あなた「知りたいのは過去です」スタスタ 愛「折角だから見てもらえばよかったのに。みんな面白い子たちだよ?」
あなた「ああいう人が他にも?」
愛「たっくさん! なんてったって“ムーサ”だもん」
愛「ミュータント達の街だからミューズでムーサ! 誰が呼び始めたか知らないけどセンスあるよね」
あなた(皮肉の間違いじゃ…)
愛「んでー、ここが“エバーグリーン”!」
愛「愛さんも顔なじみだし、ついでに君らのこと紹介したげるよ」 愛「たのもー」
店員「あら、愛……と、後ろのは?」
愛「アタシのお客」
店員「ふーん。ちょっとそこ動かないで」
店員「悪いけど入店前に一応チェックさせてもらうわ」
あなた「何を…」
店員「ホロアバター被ってないかの確認よ。すぐ済むから」
店員「うちは体制側のネズミはお断りでね。よくここらで嗅ぎまわってるのがいるのよ」
店員「うし、三人ともオッケーよ。で、ご注文は?」
あなた「果林って人を指名できる?」
店員「出来ないことはないけど……コレ次第かしら」
遥「むっ、ここぼったくりだよ!騙されないで」
店員「ち、違うわよ、声を落として」
店員「こっちも生活かかってんの。養わなきゃいけないチビが三人もいて」
あなた「これでどう?」パサッ
店員「ひょー即金ダイ札サイコー!すぐ呼んでくるわ!」
あなた「火星じゃこの橙色のお札が喜ばれるんだよね」
遥「両替の手間が無いし、今どき現金払いって思うかもだけど、みんなその日の空気代稼ぐのに必死だからね…」
愛「そーそー、働かざる者吸うべからずってね。ここじゃ食い気より空気だよ、なんつって」
愛「さてと、アタシももうひと稼ぎしてこよっと。またどこか行く時は愛さんタクシーをよろしくねー!」 〜♪〜♪
ワイワイ ガヤガヤ
キャハハハ…
あなた(ホントだ。愛ちゃんの言ってた通り)
あなた(ミュータントもそうでない人も一緒になって楽しそう――)
あなた(ここが辛い所だなんて、微塵も思わせないくらいに)
「ハーイ♪ あなたが私を指名してくれた子?」
あなた「果林さん、だよね。私は近江彼方……らしいです」
果林「ふふ、らしいって何よ? 面白い自己紹介ね」
遥「でっか…」 果林「ふーん…記憶がねぇ」
果林「あなたのことは覚えてるわ。前にここで一度見かけただけだけど」
果林「エマに言われて気になってはいたのよ。私に会いに来るかもしれないって。でも何の音沙汰もないから」
果林「てっきり死んだのかと思ってた。それで、やっと現れたアムネジアさんが何の御用かしら」
あなた「私がここに来た目的はひとつ。エマさんに会うことです」
果林「急に言われても。私の一存じゃね」
果林「それに、あなたが本当に私たちの味方って保証も…」
「近江、彼方…?」 客「あなた、近江彼方じゃない!」ガシッ
あなた「ちょ、なに?」
客「この裏切り者!あなたのせいで…あなたのせいで…チカァ!」
果林「エリちゃん、やめて」
果林「証拠もないし、第一この子記憶喪失で何も覚えてないそうよ」
あなた「昔の私が、何かしたんですか…」
果林「さあね」
果林「本当のこと言うと私たちも、あなたのことよく知らないのよ」
客「ふん、覚えておくチカ。私たちはあなたのこと、仲間だなんて思ってないから」 あなた「何なのそれ…!身に覚えのないことでそこまで言われるなんて!」
あなた「エマさんに会わせてよ!そうすれば全部わかるから!」
あなた「私の頭には体制側の重大な秘密が眠ってるの!記憶と一緒にそれを掘り出せれば…」
遥「お姉ちゃんストップ!」
遥「周り見て」
チャキン ガチャガチャ ジャキン あなた「……」
遥「今さらだけどここ、レジスタンスの溜まり場みたい…」
あなた「だから何? もうちょいでエマさんに会えるかもなんだよ? そうすれば私の記憶も」
遥「その前にミンチにされてリサイクルフードカーに投げ込まれるよ!」
遥「みなさん大変お騒がせしました、一旦出直します!」グィ
あなた「あっ、ちょっとぉ!」
璃奈「……」
―――――
―――
― ・
・
・
あなた(結局、何の成果もなく宿に戻ってきた私は、しばらく一人にしてと部屋に閉じこもったものの)
あなた(不貞寝しつつテレビを眺めるくらいしかやることなしで)
栞子『火星の空気は限りある資源です。暴動の収束まで、みなさんには節制へのご協力を……――』
あなた「こんなことばかり言ってるんじゃ、反乱も起こしたくなるよね」
あなた「はぁ……こうしててもちっとも眠くならないし」
あなた(遥ちゃん探しに行こっかな……せっかく同じ部屋にしてもらえたのにこれじゃあ…)
あなた「……」ゴソゴソ
あなた(録画の眠そうな私が説明途中だったこの腕時計みたいな――ホロカムだっけ?)
あなた「どうやって使うんだろ…」カチカチ
ブンッ
あなた「わっ?」
あなた「わっ?」
あなた「え?どうなってるの?」
あなた「え?どうなってるの?」
あなた「……あー、これもしかして」フリフリ
あなた「……あー、これもしかして」フリフリ
あなた「ホログラムの鏡像を映し出せるんだ!」
あなた「ホログラムの鏡像を映し出せるんだ!」 あなた「じっもっあい!じーもっあい♪」イエー
あなた「じっもっあい!じーもっあい♪」イエー
あなた「はは、ぼっちでもユニット組めジジッ」
あなた「はは、ぼっちでもユニット組めジジッ」
あなた「……やばっ、そういえば電池は三分だって…!」カチカチ
あなた「……やばっ、そういえば電池は三分だって…!」カチカチ
シュウウン…
あなた「これはいざって時までとっておこう」
コンコン
あなた「あ、遥ちゃん?」
「すみませーん、ちょっとお話が…」
ガラッ
「わっ?」
あなた「来い!」チャキッ
「わ、わ、ちょっと待ってくださいよぉ」
あなた「黙って!どうしてあなたがここにいるの?」
あなた「かすみちゃん!」
かすみ「わ、私は先輩のことを助けに来たんです!」 あなた「助けに? ふんっ」
あなた「笑わせるよ、地球で私のこと襲ったクセに」
かすみ「それは先輩の見てる夢に出てきた私です!本物のかすみんはそんな悪い子じゃありません!」
あなた「……話が見えないよ。何を言いたいの?」
かすみ「つまりですねー」
かすみ「こうしてる今も先輩は夢を見続けてるんですよ。リコール社の椅子に座って」 金曜
ロードショー
Next:#4「同期のサクラ」 ラブライブ!×トータル・リコール あなた「じっもっあい!じーもっあい♪」イエー
あなた「じっもっあい!じーもっあい♪」イエー
あなた「はは、ぼっちでもユニット組めるね」
あなた「はは、ぼっちでもユニット組めジジッ」
あなた「……やばっ、そういえば電池は三分だって…!」カチカチ
あなた「……やばっ、そういえば電池は三分だって…!」カチカチ
シュウウン…
あなた「これはいざって時までとっておこう」
コンコン
あなた「あ、遥ちゃん?」
「すみませーん、ちょっとお話が…」 かすみ「本当の私たちは今ここにいないんです」
かすみ「先輩はリコールのドリームチェアの上。かすみんもその隣で同じ装置に繋がれてます」
かすみ「全部夢の中なんですよ。水曜の仕事終わりにリコールに行ったんですよね?」
あなた「そのはずだよ……だけど記憶が途切れてて。多分、記憶の移植に失敗した影響で…」
かすみ「失敗してません。実際にはそのままずーっと今まで夢を見続けています」
かすみ「でも問題が起きちゃいました。装置が故障して夢が暴走を始めたんです!」 かすみ「大体おかしなことが多すぎですよね? これまで不自然だと思わなかったんですか?」
あなた「……」
かすみ「このままだと先輩の脳みそは取り返しのつかないことになっちゃいます。だからその前に…」
あなた「かすみちゃんが、私のことを説得しに来たってわけ?」
かすみ「その通りです! 突然呼び出された時はびっくりしましたけど、これも先輩のためですっ」
かすみ「ささ、このカプセルを飲んで。一緒に夢から目覚めましょう!」 あなた「……罠だ」
あなた「私のこと混乱させて、その隙に捕まえようって腹なんでしょ」
かすみ「夢と現実を混同しちゃダメです!」
かすみ「よく見てください、かすみんはこんなに必死に……どうして信じてくれないんですかぁ」ウルウル
あなた「今の話が本当なら、何故リコールの人じゃなくかすみちゃんが来たの?」
かすみ「それは……かすみんが先輩の大切な人だからです!」
かすみ「その方が説得しやすいだろうという判断ですよ!ですよね?かすみんのお願い、聞いてくれますよね?」
あなた「……」
「それならもっと適役がいるんじゃないかな」
あなた(今の声、まさか)
かすみ「あ、歩夢さん? どうしてここに…?」
歩夢「私もあなたのことを聞いてリコールに駆け付けたんだよ」
歩夢「今、あなたの手を握りながら同じ装置に繋いでもらってるの」
歩夢「お願い、帰ってきて…また一緒にうちで暮らそう?」
かすみ「そ、そうですよ先輩!歩夢さんもこう言ってるんですよ?」
あなた(歩夢ちゃんはあの高速で車ごと――やっぱりこれは夢なの? いや、夢だからこそ歩夢ちゃんはまた出てきた――?)
あなた(ああ――こんがらがってきた) 歩夢「ねえ、帰ろう?」
かすみ「お願いです、せんぱぁい!」
あなた(落ち着け――この状況で、どっちに転んでも最善の一手は)
あなた「……」チャキッ
あゆかす「!!」
あなた「これが本当に夢なら、ここで私に撃たれても問題はないよね」
かすみ「っ……もちろん現実のかすみん達は痛くも痒くもありませんけどっ」
かすみ「ですがここで先輩を夢から連れ出すガイド役の私たちがいなくなったら同じことです!先輩は夢から抜け出せません!」
あなた「カプセルを飲むだけでいいんじゃないの?」
かすみ「これはあくまで象徴的なものです!ここは夢の中ですよ?」 あなた「なら、どちらか片方だけを撃とう」チャッ
あなた「それで分かるよ。これが夢か現実か」
かすみ「……そんな」
かすみ「おかしいですよ……そんなこと言い出すなんて、かすみんの知ってる先輩じゃありません…」
かすみ「先輩は……分裂病になりかけてるんだ……かすみんの知り合いの友達みたいに…!」
あなた「友達の知り合いじゃないの?」
かすみ「どっちだって同じことです!!!」
かすみ「ホントに…目を覚ましてよぉ……歩夢さんも何とか言ってください!」 歩夢「ええっと、そこまで言うなら撃ってみたらいいんじゃないかな……それであなたが納得するなら」
かすみ「!?」
歩夢「どういう結果になっても私は受け止め……られるか自信ないけど、あなたのことは責任をもって連れて帰るから安心して?」
歩夢「本当は火星になんか来たくなかったけど……あなたの為なら頑張れちゃった」
歩夢「こんな星、嫌な所だって分かったよね? 早くうちに帰ろうよ」
かすみ「こっ…この歩夢さんは偽物ですっ!」
かすみ「いえ、最初は本物だったかも知れませんけど!だとしても今はもう夢の歩夢さんに乗っ取られてます!」
かすみ「さっきからこの人、現実じゃなくうちに帰るとしか言ってません!」
かすみ「今の記憶を封じ込めて、先輩を醒めない夢の中に閉じ込めようとしてます!!」 歩夢「かすみちゃん…さっきから大丈夫? 変なことばかり言ってるけど…」
かすみ「先輩!早くカプセルを飲むか、さもなきゃこの人を撃ってください!」
かすみ「この人は危険です!先輩を夢に縛り付けようとする象徴です!」
あなた「……」
かすみ「撃ってください!そしてかす…現実を選んでください!」
歩夢「ねえ、覚えてる?」
かすみ「知りませんよ!撃って!」
あなた「っ……」
――BANG!!!
あなた「……っ」
かすみ「………ぁ」
かすみ「……よく、も…」ポタポタ
かすみ「かすみ…んの……こっ」
ドサッ
あなた「あ……あぁ…」シュウウウウウ
あなた(ハッタリのつもりだったのに……引き金を)
あなた(気が付いたら引いて―――違う私じゃない、だって歩夢ちゃんが)
歩夢「びっくりした……銃に触ろうとしたら、あなたいきなり撃つんだもん…」
歩夢「私、やっぱりあなたに銃を下ろして、話を聞いてもらいたくて……」
あなた「……!」
歩夢「でも、あなたが私を選んでくれたのは、嬉しい…」
あなた「さ、触らないで!」バチン
あなた(目まいがする……視界の境界がぐわんぐわんして、見知った世界の形が歪んでいく感覚)
あなた(私は、とんでもないことをしてしまったんじゃ――)
『説得ノ失敗ヲ確認。突入スル』
――BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!!!!
あなた「ふわっ!?」
ガラガラ…
E07『20秒ヤル。武器ヲ捨テテ投降シロ。残リ5秒』
あなた(壁に空いた穴からE-07が)
あなた「やっぱり罠か!」ダッ
E07『』DoDoDoDoDoDoDo!!!!!
歩夢「わっ、わっ、」
あなた(しめたっ、あのポンコツ歩夢ちゃんまで攻撃してる)
あなた(今のうちに…!)
『眠り姫はM地区内を逃走中。エージェントD.W.が後を追っています』
栞子「何をやっているんですか。彼女は必ず捕縛か処分をと厳命したはずですが」
栞子「この作戦には些細な綻びも許されない。彼女の計画にない行動をこれ以上看過は出来ません」
栞子「――我々の最重要目標エマが、依然として網にかすりもしないのは何故だと思います?」
『……彼女はミュータントの超能力者だという噂が』
栞子「事実、これまでに試みた諜報活動はすべて看破され失敗。彼女には何か特別な力があると考える他ありません」
栞子「そんな者の手に眠り姫が落ちれば――その頭の中にあるこちらの秘密を引き出される恐れがあります」
栞子「そうなれば反乱はますます拡大し、やがては現体制の崩壊を招くことでしょう」
栞子「最悪のシナリオを防ぐために、やることは分かっていますね?」
『お任せを』 ドドドドドドドッ!!! キャー!
あなた「そこどいて!」
E07『ターゲット発見』ウィーン
あなた(しまった、挟み撃ちに…!)
――DoDoDoDoDoDoDo!!!!!
E07『ガガッ――』キンキンキンガキィン
遥「お姉ちゃんこっち!」シュウウウウ
あなた「遥ちゃん!」
遥「探したよ!さ、安全な所へ行こう!」
あなた(やっぱりあなたは私のヒロインだよ…!) あなた「ヘイタクシー!」
キキィ!――ガチャ
愛「また会ったね〜。今度はどちらまで?」
遥「もう一度ムーサ街へ!」
愛「アハハ、気に入っちゃった? やっぱいい所でしょあそこ」
――DoDoDoDoDoDoDo!!!! バリィィン!
愛「おわわっ? 追われてんの君たち?」
あなた「ダジャレはいいから早く出しなしゃれ!」
愛「よしきた、何だか知らないけど愛さん燃えてきたよ〜!」
ブォォォォォン――ダラララララッ!!!
あなた「ロボが追いかけてくる、スピード上げて!」
ドドドドドド!!! ガシャァァァン!
遥「伏せて!リア窓が無くなっちゃった!」DoDoDoDo!!!
愛「まー、どないしよー! 窓無い仕様〜」
愛「これマイカーなんだけどな〜ま、いっかー!」
あなた「あははッ」BANG!BANG!
愛「お♪ いー顔してるね君! 実はこーいうの好きっしょ?」
愛「愛さんもお祭り好きだから分かる〜。こーいうのは楽しんだもん勝ちだよね!」 ブォォォォォン
愛「見えてきたっ、ムーサ街入口でござ……あ、あれ?」
愛「どうしよブレーキきかない」
あなた「えぇー!?」
愛「しゃーない、このまま突っ込むよ!掴まってぇー!」
遥「え?え?ちょっと」
――ドシャァァァァァァァン!!
キャー!!! ナニアレ!
愛「どいてどいてー!!」プップッーーー
あなた「まだ止まんないの!?」
愛「止まれないのーーーー!!!」
店員「いらっしゃいま……ん?」
――ブォォォォォォォォォ
愛「うわーーーーーー!!!!」
店員「ちょ…」
ドガシャァァァァァァァァン!!!
遥「……と、止まったぁ」
あなた(何でタクシーに乗るといつもこう…)
店員「ぬわ、ぬわんなのよ突然アンタたちぃ…」
愛「車で来ちゃった♪」
店員「停車位置ィ!」 愛「それよりピンチなの!この二人追われてて!」
店員「体制のやつらね!?奥に来て!」
客「三人とも、この隠し通路に入って!向こうで私たちの仲間が待ってるわ」
遥「あなた達は…」
客「ここで追手を食い止めるのが役割よ」ガチャコン
店員「心配しなくても私には養わなきゃいけないチビが二人いるのよ、簡単にくたばるもんですか!さあ行くわよっ語尾が奇形」
客「火星平原がよく言うチカ」
あなた「色々ありがとうございますっ」
店員「いいのよ、エマによろしくね」ニヤッ
ギィィ…バタン ――
――――
ザワザワ…
果林「ようこそ。火星解放戦線のアジトへ」
遥「地下墓地の奥にこんな基地が…」
あなた「一度追い払った私たちをすんなり歓迎する気になった訳は?」
果林「私たちもあなたに目をつけてはいたのよ。なんせ一度仲間になったかと思えばすぐに姿を消した謎の女よ、あなた」
果林「でもあの時点では受け入れていいものか、確証が持てなかった。そこであのあと愛にあなた達を尾けさせたの」
果林「結果、敵の敵は味方だと分かったってわけ」
あなた「愛ちゃんもレジスタンスだったの?」
愛「普段は前髪で隠してるんだけどさ」パサッ
あなた「額に、瞳……」
遥「ミュータントだったんですか…」
愛「愛さん第三の“アイ”ってね。けっこーイカすでしょこれ」パチクリ 果林「さてと、歓迎パーティはこのくらいにしておきましょう」
果林「戦況はかなり厳しいわ。何か月も続く執拗な掃討作戦でこっちの戦力はズタズタ」
果林「対して私たちの反攻作戦は尽く裏目に出て傷穴を広げるばかり」
果林「……もしかすると、この中にも裏切り者が」
遥「エマさんやミュータントの人たちには、そういうのを見分ける特別な力があるって専らの噂ですけど…」
果林「それだって万能じゃないのよ。体調や諸々の条件に大きく作用されるし、個人差も激しいわ」
果林「さっきも言ったけど、もう何人も仲間が倒れてる。超能力って言う防御の要は失われつつあるの」
果林「私たちには一刻も早くこの状況を打開できる切り札が必要なのよ。あなたが」
あなた「……」
果林「エマはあなたと一対一でなら会ってもいいと言ってる」
果林「奥の部屋よ。着いてきて」
遥「お姉ちゃん…」
あなた「平気だよ。そこで待ってて」
ギィィ…ガチャン
あなた「それで、私が火星を解放できると思ってるの?」
果林「そのための鍵があなたの失われた記憶に隠されてるんでしょ」
果林「エマはそれが閉鎖されたレインボー鉱山に関わりがあることだと睨んでるわ」
あなた「エマさんって何者なんですか」
果林「この言い方は好きじゃないけど――ミュータントよ」
果林「そのお陰で授かった強いESP能力を私たちのために活かしてくれてるの」
果林「あなたの記憶もエマなら掘り出してくれるわ」 あなた「なら早く会わせてよ」
果林「もうこの部屋にいるって言ったら?」
あなた「…あなたがエマなんだね」
果林「それはちょっと違うかも」シュルッ
あなた「なっ…///どうして急に脱ぎ出すのっ?」
果林「エマに会いたいんでしょう?」パサッ
果林「私の同居人の姿を見てもあまり驚かないであげてね」ハラリ
あなた「……?」
「ア……アンマー……」
あなた「!?」
果林「ふふ、おはようエマ」
エマぱい「んー!気持ちの良い朝だよー!」 果林「くすっ、今は真夜中よ?」サスサス
エマぱい「そうだった!一緒に起きてられないからつい勘違いしちゃうんだよねー」
エマぱい「そうだ、明日は何時に目覚ましすればいいかな。私考えたんだけど、果林ちゃんって右の方が弱いから」
果林「ちょ、ちょっと!余計なことは言わなくていいのっ///」
あなた(三つのホクロに、喋るトリプルおっぱい???)
あなた(違うよく見て……左右の二つはノーマルおっぱいで)
あなた(その真ん中に人の頭があるんだ……大きさが揃い過ぎてて勘違いしちゃった)
あなた(これっていわゆる人面瘡……いや、文字通りの乳頭…?)
果林「じゃあ……主導権をエマに渡すから……」
果林「後は……頼んだわ………」ガクリ エマぱい「初めましてだね!彼方ちゃん……でいいのかな?」
あなた「私もそれを知りたいの」
エマぱい「なるほどー」
エマぱい「じゃあ訊くね。“あなた”を形作ってるのは何だと思う?」
あなた「記憶です。それを弄られた私は本当の自分を忘れて別人になっちゃってるわけだし」
エマぱい「ううん、その人が何者かを決めるのは行動だよ」
エマぱい「私やあなたはバトミントンの羽みたいに“これ!”っていう用途を決められて産まれてきたわけじゃないよね」
エマぱい「生まれてから何をするかでその人が形作られるんだよ。当たり前のことだけど」 エマぱい「今のあなたは産まれたての赤ちゃんみたいなもの」
エマぱい「過去を気にするより、今何をやりたいかが大事なの」
エマぱい「そうすれば自ずと自分が何者か分かってくるはずだよ」
エマぱい「さ、こっちに来て?あなたの知ってる秘密を見せてもらおうかな」
あなた「……どうすれば」
エマぱい「私とおでこをくっつけるの。おいで?」
あなた「……」ムニュッ
エマぱい「リラックスして……私に身を任せて……心を開いて……」
キィィィィィィィィィン
あなた(〜〜〜〜〜――――☆※○△―――×……・・・・) ――
――――
あなた「……はっ」
あなた(意識が飛んでた…?)
エマぱい「……」
あなた「見えたんですか!? 私の記憶!」
エマぱい「……レインボー鉱山の噂は本当だったんだよ」
エマぱい「あそこの地下深くには古代文明を築いたエイリアンの遺跡と一緒に」
エマぱい「彼らが残したテラフォーミングマシンのリアクターとその制御盤が埋まってるんだって」
エマぱい「リアクターは火星中に埋まってて、マカロン鉱石はそれを作動させるための燃料」
エマぱい「総督府の人たちが隠したがるわけだよ…」 エマぱい「遺跡を残した存在にとって、この銀河は広大な牧草地だったんだね」
エマぱい「目的は、自力で進化する意思のある種族にそのタネを――」
あなた「それはどうでもいいよ!他にも見たんでしょ?昔の私のこととか…!」
エマぱい「…」ブルン
エマぱい「ある意味こっちの方が驚いたかも」
エマぱい「あなたは……」
パラパラ…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
あなた「!? この振動は…」
グラグラグラ…!!
――ドシャァァァァァァァン!!!
ドリルE07部隊『』ギュイイイイイイイン
あなた(掘削仕様のE-07型!?)
あなた「果林さん起きて、逃げるよ!」ユサユサ
果林「ぅぅん……あと五分……」
あなた「その頃にはここが無くなってるよ!」
レジスタンス「くっ…常闇に溶け込みし我らの居所がなぜ――ひゃあっ!?」
E07部隊『』ZuDoDoDoDoDoDoDo!!!!!!!!
E07(フレイムアタッチメント)『』ゴォォォォォォォウ!!!
ダララララララッ!!!! キャー! ワー BOOOOM!!
あなた「ここを完全に制圧する気だ…!」
果林「みんなこっちへ!エアロックから外へ出るわよ!」
遥「お姉ちゃん…!」
あなた「遥ちゃん!よかった、他のみんなは…」
遥「……」チャキッ
あなた「遥ちゃん…?」
――DoDoDoDoDoDo!!!! 果林「あ゛あ゛う゛っ!?」
あなた「果林さ…!」
遥「動かないで」チャッ
あなた「一体何を…」
遥「……」クスッ
あなた「……体制側に寝返ったの?」
遥「寝返るも何も、私は最初からこっち側だもん」
あなた「どうして…!」
「ち……か……りあく、たぁを……」
あなた「!…エマさん無理に喋らないでっ」
エマぱい「……おねがい……あなただけ」
――BANG!
遥「へえ、地下遺跡の秘密に気付いたんだ」シュウウウウ
遥「でも手遅れだよ。エマはたった今伝説に還ったの」
あなた「くっ…!」
遥「総督府に行くよ。長官からお話があるって」 ――火星総督府長官室(和風様式)
栞子(着物)「見えますか。ここからの眺めが」
栞子「眼下のレインボー鉱山はまだまだ莫大な価値を生み出します」
栞子「地球の人々もそれを欲し、今やそれは人類の生活と発展に必要不可欠な存在となりました」
栞子「世界のため、私にはこの体制を存続させる義務があります」
栞子「それを100万年前のカビだらけの遺跡などに邪魔されぬよう、徹底した統制と管理のために総督府をここへ移し」
栞子「そして今、私の積み上げてきたものがようやく結果となって現れようとしている……」
あなた「……」
栞子「全てあなたのお陰です。あなたの存在なしにこの計画は成し得ませんでした」
あなた「私はエマさんを釣るための餌だったってこと……」 栞子「彼女の正体を聞いて納得しました。道理で見つからないわけです」
栞子「そうでなくとも、他のミュータント達の妨害もありましたし」
栞子「どんな諜報作戦を仕掛けても、彼らの異能でこちらの敵意や害意を感知されてはお手上げです」
栞子「そこで“あなた”という無垢の存在を作り上げることにしたんです」
栞子「有能な諜報員である彼方さんの記憶を奪い、地球で普通の暮らしを送らせれば」
栞子「記憶は眠っていても身体の方は必ず違和感を覚えるはず。模造記憶に不安の種らしきものを仕込んでおけば尚更」
栞子「段々と違和感に耐えきれなくなったあなたは行動を起こす。今回の場合はリコールに行くという形で引き金が引かれた」
栞子「あとは適度に危機感とヒントを与えれば、あなたなら必ずここに舞い戻ってくると踏んだんです。計画の肝心な部分には気付かないままで」
栞子「エマが自分の記憶を取り戻す鍵だと煽ればあなたは勝手にエマ探しを始める。それを成し遂げる能力も十分にありますし」
栞子「レジスタンス側としても、記憶喪失の元敵方の諜報員が握る体制側の秘密という餌の誘惑には抗えず、結局は接触せざるを得ない」
栞子「目論見は成功しあなたは見事エマを見つけ出しました。あなたは私たちが送り込んだ無自覚のモグラ、究極の二重スパイです」 あなた「……辻褄が合わないよ」
あなた「監視役の歩夢ちゃんは、本気で私を元の生活に戻そうと追いかけてきたんだよ」
栞子「それにはこちらも頭を抱えました」
栞子「一体何を考えているのか、彼女の暴走で立案から二年越しの計画は破綻しかけました。正直なところ上手くいったのが何かの間違いのような気分ですらあります」
栞子「筋書きの狂った舞台がそれでも当初の予定通りに進行していったのは、無論私たちが陰から手助けしていたからです」
栞子「例えば不良品のホロボードや旅券などが詰まったケースはこちらが誂えたもの」
栞子「追手のロボ部隊には威嚇射撃と鬼ごっこを演じさせ」
栞子「発信機も、エージェントD.W.(ドリームウォーカー)は随分すぎる数を仕込んでくれていました。ナイフでは届かない場所にも」
あなた「……っ」
栞子「そして火星に着いてからの監視役。この計画のもう一人の立役者」
遥「……」ペコリ あなた「遥ちゃんっ……お姉ちゃんを助けたいんじゃなかったの…!?」
遥「二つ、間違ってるよ」
遥「まず、私はあなたの妹じゃない」ベリベリ
あなた(顔の皮が剥がれ――!?)
しずく「お初にお目にかかります。近江遥役を演じさせて頂きました、桜坂しずくです」 ベチョッ
あなた「ラバー、マスク……?」
しずく「どちらかと言えば特殊メイクですね。実際の人肌の質感に近く表情だって作れるんですよ」
しずく「ホロアバター全盛の今では古風な手法になりましたけど」
栞子「それも使い方次第です。現にホロばかり警戒する相手の虚をつくには効果的でした」
栞子「技術の進歩は一長一短。思わぬ盲点を生むこともあれば、これまでにない大胆な作戦を可能にもします」
しずく「記憶の大半を失ったあなただからこそ引っかかる作戦」
栞子「事実、それまでの過去と絆を否定され、たった一人で敵だらけの世界に放り出されたあなたは」
栞子「降って湧いた肉親という繋がりにいとも簡単にすがりました。こちらの思惑通りに」
しずく「ですがそのためにはもう一人、“あなた”と同じような、実在と非実在の中間的存在を作り上げる必要があったんです」 栞子「彼方さんに遥という実妹がいたのは事実です」
栞子「しかし生まれてすぐに諸種の事情で生き別れた。元の彼方さんは妹さんのことをほとんど覚えていません」
――それじゃあ、私のことも忘れちゃったの…?
あなた(出会った時のあれは私の記憶が戻ってないことを確認するための探りだったんだ…!妹がいないことを覚えてるかどうかの…)
あなた(………待ってよ。それじゃあ)
あなた「……成長してからの近江遥が、元の私の記憶に存在しないのなら」
あなた「そのマスクのモデルになったのは一体誰なの」 しずく「さあ? 私は存じませんね」
しずく「出会ってすぐにあなたが心を許す人物の顔です。きっと、元の彼方さんにとっての大切な存在か」
しずく「或いは……この作戦のために“そういう人物の記憶”を作ったのかもしれませんね」
あなた「……!」
あなた(何度も夢で恋い焦がれたあの子は、私を騙すために作られたサクラ? そんなバカな…)
しずく「どちらにせよ、それは行方知れずの妹さんの顔として採用するには都合がいいと判断されたのでしょう」
しずく「私はただ、彼方さんから送られた顔データを元にマスクを製作しただけなので。これ以上は分かりかねます」
しずく「そうそう、二つ目の間違いですけど」
しずく「私は嘘は言ってません。最初から最後までずっとあなたを助けていましたよ?」
しずく「だって、あなたもこちら側の人間じゃないですか」 あなた「……言ってる意味が分からない」
栞子「彼方さんは私の部下です」
あなた「そうだよ、でもあなたに嫌気がさして裏切ったんだ」
栞子「そう思わせたのがポイントです」
栞子「実際、彼方さんは裏切ってなどいません。記憶を消されたのも、自ら作戦に志願してのことです」
あなた「…!?」
栞子「彼女は最初から最後までこちらの諜報員として、実に見事な働きぶりでした」
しずく「私も、彼方さんには色々と教わることばかりです」 栞子「しかしその彼方さんでも正攻法ではエマに近付けなかった」
栞子「だからこの茶番が計画された。単純な話でしょう?」
しずく「記憶移植で作り上げた舞台仮面(ペルソナ)で、周囲のみならず自分自身までもを欺き操るなんて、流石としか言い様がありません!」
あなた「デタラメだ……私の記憶がないからって、またみんなで騙そうとしてるんだ…」
栞子「そう言うと思ったので、あなたが最も信用するであろう人物からのメッセージを用意しました」ピッ パッ
彼方『やっほー未来の私、そしてお疲れ様〜♪』
彼方『これを観てるってことは…無事エマちゃんを始末できたってことだよね』
あなた「……嘘だ」
彼方『ごめんねぇ…彼方ちゃん嘘吐きで。栞子長官が私のこと眠らせてくれないのはホントだけど』
彼方『流石に裏切るまではいかないかな〜…彼方ちゃんにはお金がたぁくさん必要だし』
彼方『ちなみにー…これを撮ってるのは、長官さんの広ーい寝室だよ〜』
彼方『ほら栞子ちゃんも、こっちおいで〜…お姉ちゃんが可愛がってあげるから♪』
『お構いなく。仕事があるので』
彼方『ありゃりゃ、相変わらずサバサバだぁ…』
あなた「そんな……」
彼方『まあいいや…とにかく、あなたには感謝しかないんだ』
彼方『彼方ちゃんがすやってる間に、お仕事頑張ってくれてありがとね〜』 彼方『できれば今後ともよろしくと言いたいけど…そういう訳にもいかないんだよね〜』
彼方『はぁ…本気で寝てる間だけお仕事代行してくれないかな…』
しずく「寝技は彼方さんの得意とするところですものね」クスッ
しずく「記憶を消して地球で快適な生活をさせたら、ひょっとしてそのまま戻ってこないんじゃないかなんて思いもしましたが」
栞子「彼方さんは誰より真面目です。だから寝てる暇がないんですよ」
彼方『そんなわけで、そろそろ彼方ちゃんの起きる時間みたい…』
彼方『あなたには申し訳ないけど…その顔も身体も、元々彼方ちゃんのものなんだからさぁ」
彼方『そうだ…もしかしたら、夢の中でまた会えるかもね〜…』
彼方『それじゃ、おやすみ〜』 栞子「さて、まだ何かご質問はありますか?」
あなた「……」
栞子「マスクの顔が誰かについてはすぐに思い出せるでしょう」
栞子「あなたの脳を再処置して、彼方さんが戻ってくれば直ぐに」
しずく「あの、その前に今の率直な心境を教えてもらえませんか?」
しずく「自分に裏切られるというのはどんな心地なんでしょう」
しずく「是非、今後の表現の参考にしたいので!」 日曜洋画劇場
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あなた「やだっ、放して!放せええええ!」
ガチャンガチャン
E07A『固定確認』
E07B『長官、通信デス』
栞子「何でしょう」
『――M地区への空気供給を止めて一時間です。そろそろ酸素残量が底を突きますが』
あなた(ムーサ街のみんなが…!)
栞子「現地に繋いでください」 ・
・
・
客「はぁ...」グッタリ
店員「...酷い顔よあんた」
客「そっちこそ...売れ残りの出目金みたい...」
店員「ざけんじゃないわよ...」
店員「うちには食べさせなきゃいけないチビが三人もいんの...こんな所で...」
ミューたん「......二人だったり三人だったりどっちなん...」
店員「...たまに間違えちゃうの」
店員「ニコイチの妹たちをうっかり...」
『M地区のみなさん、聞こえますか。長官の三船です』
『そちらの空気はもってあと三十分というところでしょう』
『直ちに武装解除に応じ、危険分子であるミュータントの方々をこちらに引き渡してください』
『この条件を飲んでもらえれば、空気供給の再開を約束します。以上です』
ミューたん「......」
レジスタンス「天は我らを見捨てたのね...」
あなた「あそこの人たちは関係ないでしょ、空気を送ってあげてよ!」
栞子「あの地区が不穏分子の温床と判明した今、貴重な空気を送り続ける道理こそありませんが」
栞子「その特性を適切に管理し運用できる存在の元でなら、彼らの能力はこの星の輝かしい未来作りに貢献できると思いませんか?」
あなた「……なるほどね。結局ムーサの力が狙いなんだ」
栞子「彼らの感知・予知能力はこれから起きる犯罪の防止に有用です。ゆくゆくは25時間体制の犯罪予防局を立ち上げ、火星から犯罪を一掃します」
あなた「絶対ロクなことにならない未来が視えるよ。過労死寸前のムーサと何もしてないのにお巡りさんされる人たちの姿が!」 栞子「何事にも適切な管理と指導いうものは必要なのです。特に、私が来る前から堕落した環境に甘んじていた人々には」
栞子「杜撰な前任者や怠け者の住民に代わってドームを補修したように、空気の統制も、最高の生産効率実現に向けた労働環境作りの一環に過ぎません」
栞子「当初は住民毎の適性を考慮し、最も当人のポテンシャルを生かせる環境に配置することでそれを実現しようとしたのですが」
あなた「……上手くいかなかったでしょ」
栞子「ええ。認めたくはありませんが、私は個人の可能性というものを過大評価しすぎていたようです。一部の人々は、もはや怠惰が彼らの特性と言うほか…」
あなた「当然だよ!いくら向いてるからって、人から押し付けられたことで誰もかれもが上手くいきっこないの、分からない? そこには“自分”がないもの!」
栞子「自己実現に必要なのは本来の自分を見つけること。本来の自分とはつまり性に合っていることです。それが適性であり、本当の自分なんです」
栞子「みなさんがそれを自力で見つけられず、代わりに導こうとしても反発を招くばかりの現状が歯痒かった」
栞子「けれど、これからは違います。あなたのお陰で打開策へのヒントを得られましたから」 あなた「……まさか」
栞子「今回のデータを元に調整を加え、いずれは住民全体への記憶処理を実施するつもりです」
栞子「なにも当人の意識まで弄ろうというわけではありません。ただ一点、本人の適性に応じた成功体験の記憶を刷り込むだけです」
栞子「どうして適切な環境や指針を与えているのに大成できないのか。それは当人にそのビジョンと実感がないから」
栞子「そのためにあった準備期間を十二分に活かすことができなかったからだと私は考えます」
栞子「ならば、その過去を与えればいい。そう思いませんか?」
あなた「……初めて見た時から独裁者みたいな骨格と歯並びしてるって思ってた」
あなた「クレ○ん映画の悪役みたいなセンスの部屋にふんぞり返ってすまし顔で正論ディベートきめても、やってることは自我のホロコーストじゃん!」
あなた「このナチ!再生ヒトラー!女装ジャイアン!帰ってくれお台場ななマンヒムラーッ!!!」卐
栞子「……」
栞子「あなたもすぐそうなるわ」 あなた「……!」
栞子「舌を噛み切られないように。また彼方さんに戻ってもらわないと」
あなた「ふぐっ…? むーっ、むーっ!?」
E07C『メモリーインプラント、起動』
キュイイイイイイイイン
あなた(嫌だ……!“私”が消えちゃう……!)
あなた(あんな自分に戻りたくない……!汚い仕事を人に押し付けて眠りこけてるような裏切り者に……!)
あなた(くそおおおお、こんな拘束具なんて―――――!!!!)ミシッ…
しずく「でも――今の自分に縋りついたところで、所詮“私”は偽物なんだよね……」 しずく「存在自体が欺瞞で――関わる人たちを騙すためだけに生み出された」
あなた「………やめへ」
しずく「私のことを信じたせいで、レジスタンスの皆はあそこで苦しんで死ぬ」
しずく「大量殺人犯の動機は自分探し――こんなはた迷惑の空っぽなエセ器に守る価値なんて……」
あなた「もうひゃめへよぅ……」ポロポロ
栞子「流石ですね、桜坂さ「嗚呼…!同棲していた幼なじみとは捏愛発覚!」
しずく「愛妹と信じた桜髪金眼の彼女も夢幻の彼方へと消え失せ、もはや私には何も残ら「桜さ…あなたさんもう十分です」え、アッハイ」 E07C『睡眠導入開始』
栞子「では只今をもって“あなた”を解任します。お疲れ様でした」
あなた(……いっそ、このまま消えてしまった方が楽なのかも)
しずく「目覚めたらティファニーで朝食をご一緒しましょう。これも記憶させてください」
E07B『了解。メモリーインプラント、レディ』
あなた「こんな最低の思いも何もかも……綺麗さっぱり忘れて」
歩夢「忘れないよ」 しずく「歩夢さん!?」
歩夢「」ヒュンッ
E07Aの頭『』ゴトッ
栞子「ッ…警備は何を」
歩夢「私は全部覚えてる」DoDoDoDoDo!!!!
E07B『妄執的錯乱ノ兆候ヲ検知』ガガガガッ
歩夢「あなたと一緒に歩んだ昨日までのこと」BANG!BANG!BANG!
E07C『メモリーハザードノ疑イアリ』ガキンガキンガキン
歩夢「あんなに輝いてた夢の日々を」POM!POM!POM!
しずく「吸着グレネード――」
――BOM!BOM!BOOM!!
E07C『至急、専門機関デノ診療ヲ』ギギギ…
歩夢「二人で分かち合ったんだもん」
栞子「誰か早くあのパラノイアを止めてください!」
E07B『対象ノメンタル、チェック――清浄』ガガガッ
E07C『サイこぽリグラフ、クリあ。声もン、呼キ、脈ハク、全テ平ジョう』ピーガーピーピー
歩夢「私たちの想い出は……誰にも奪わせない」
E07B『大正ノ――記億NO緑ニ、異状ナ死』プスプス…
E07C『トーたL・りコーる(完璧な追憶)、DEATH…』BOM!! しずく「素晴らしいです……」
しずく「役柄上のエピソード記憶を深層レベルで自分のものにされるなんて!是非メンタル的な秘訣を…!」
栞子「言ってる場合ですか、一旦退きますよ!」
歩夢「……秘訣なんてないよ」
歩夢「二人の過ごした時間とその想いは、全部本物だから」
あなた「歩夢ちゃん…」
歩夢「立てる? ここから出よう」 Bi――!Bi――!
『全ガードロボは至急このフロアに集結を』
『………彼方さんには悪いけれどやむを得ない』
『叛逆者二名を、排除して』
『――さようなら、私の『桜坂さん不愉快です』
――DoDoDoDoDoDoDo!!!!!
歩夢「……階段の方は塞がれちゃった」
歩夢「あっちにエレベーターがあったはず。そこまで頑張れる?」
あなた「………どうして来たの」
歩夢「あなたを起こすのは私の役目だもん」
歩夢「目、覚めた? はいこれ、あなたの銃だよ」チャキン
あなた「……もういいよ」 あなた「本当の私は最低なやつで……それを助けるために生まれた私は、今や用済みのガラクタで」
あなた「何の価値もない空っぽの器が、このまま生きてたって……」
歩夢「そんなことない」
歩夢「空っぽだったのは私の方。ついこの間まで」
歩夢「私には何もなかったの。生まれてからずっと」
歩夢「生きてる実感が薄かったとか、そういうのじゃなくて」
歩夢「むしろ私なりに頑張って色々やってきたつもりだったけど」
歩夢「他の人から見たらそれは何もしてなかったのと同じだったみたい」
歩夢「適性判定でこのお仕事への適性を見た時気付いたんだ」
歩夢「私は幽霊だったんだって」 歩夢「生まれつき、人より薄くて軽かったのかな」
歩夢「今どき、私一人の質量じゃ、毎日のあれこれを受け止め切るには足りなくて」
歩夢「どんどん軽くなっていく私に誰かが気付いてくれるわけもないし」
歩夢「そのうち足元からふわふわ浮かび上がって、誰もいないソラへ飛んでっちゃうんじゃないかって、本気で怖かった」
歩夢「無重力の海で溺れる夢をよく見たなあ」
E07『ターゲット発見』DoDoDoDoDo!!!!
歩夢「そんな私を繋ぎとめてくれたのはあなた」BANG!BANG!BANG!
歩夢「あなたがくれた想い出で、私はやっとこの世界に根を張れたの」カシュンカチャッ
歩夢「今までそれが無かったのは、私が地味で退屈な子だからだと思ってた」POM!POM!
歩夢「地味で退屈な毎日の何でもないことが、隣に誰かがいるだけでかけがえのない記憶に変わるなんて、知らなかったから」
――BOOOOOOOOM!!!!
歩夢「振り返ってもまるで夢みたいにおぼろげで、本当にあったかどうか、どっちでもいいくらいの」
歩夢「根無し草みたいな記憶で出来てた私の人生にも、小さな花が咲いてくれたの」 ポーン
『リニアベーターが参ります。しばらくお待ちください』
歩夢「んしょっと……扉を開けるの手伝ってもらえる?」
あなた「……何するの」
歩夢「このエレベーター、横にも動くから来るのが遅いでしょ?」
歩夢「追い詰められる前にシャフトの点検用通路に入って、直接乗れるのを探そうかなって」
あなた「……無茶だよ」ギィィ…
ビュオオオオオォォォ ―――ヒュン
ヒュン――
あなた「中はカゴが縦横に行き交ってる……轢き潰されるのがオチだって」
歩夢「昨日の高速でのこと、忘れてない? 結構身軽だったよね。知らなかったな」
歩夢「でも気を付けて。今のあなたは、ちゃんと地に足が付くんだから」
ヒュオオオオオオオ……
あなた(地下鉄のホームみたい……いや、私たちがいるのはレール上か…)
歩夢「あなたが私に重さをくれたように」
歩夢「私にもあなたのことを想わせて」
――ゴォォォォォォ
あなた「(この風、後ろからカゴが――)走って…!」
歩夢「誰かと一緒の想い出がその人に重さをくれるのは、きっとその誰かが自分のことを繋ぎとめてくれるから」
歩夢「たとえ遥か雲の上、ソラの彼方でも、そのどこかに同じ想い出を共有した人がいるって想うだけで」
歩夢「重力の弱いこの星でも、私たちはこうして一歩一歩を踏みしめられるんだよね」
あなた「……」タッタッタッ
歩夢「だから、あなたは大丈夫だよ」 歩夢「あなたが教えてくれた。普通でもいいんだって、自信もって頑張れーって」
歩夢「あなたが気付かせてくれた。こんな私でも、見てくれる人がちゃんといるんだって」
歩夢「だから……私も大丈夫」
あなた「――!」
あなた(もう道がない…!行き止まりの崖っぷちだ) 歩夢「ね、今度はちゃんとどこかに出かけよう」
歩夢「あなたと私……他の人たちとでもいい」
歩夢「そうして帰ったら……一緒だった人との想い出を話し合うの」
歩夢「私たちは……一人でだって、どこにでも歩いていける……」
歩夢「不安になることもあるかもしれないけど……隣にいない時でも」
歩夢「想い出で繋がってるんだって、ちゃんと分かってるから…」
ゴォォォォォォォ
あなた(下から別のカゴが昇ってくる!)
あなた「あれに飛び乗ろうっ」 歩夢「忘れないで……」ヨロッ
あなた「……歩夢ちゃんっ?」
歩夢「また、離れ離れになっても……」ジワァ
あなた(撃たれてる――この怪我で今まで…)
歩夢「遠いようで……近くにいるから」
歩夢「あなたみたいに……」
あなた「何言ってるの、一緒に連れていくよ!」
あなた「せぇのっ」バッ ゴォォォォォォ――ダンッ
あなた「あぁぁ!」
歩夢「ぅ……っ」ゴロゴロ
あなた「歩夢ちゃん――!」
ガシッ
歩夢「……っ」ブラーン
あなた「まっ、てて……っ……いま、ひっぱり、あげ……っっ」 ――ォォォォオオオオ
あなた(斜め上からもう一基降りて来る…)
あなた(この状態ですれ違ったら歩夢ちゃんが――)
あなた「あゆむちゃっ……、、がんばって…っっ」
歩夢「……どこにいても、あなたのこと……」
――ォォォォオオオオオオオオ
あなた「うああああああああっ」
ブチブチィ…! あなた「あぁッ!!!」バキンッ
あなた(突然何かがすっぽ抜けたような感触――)
――ドスン!
あなた「かはっ…!」
あなた(反動でついた尻もちで勢いあまって天井プレートを叩き外してカゴ内に落下していた)
あなた「ぐっ……歩夢ちゃ―――!!」
歩夢の腕「」
あなた「ぁ……あああ……」 あなた「くっ……!」カチカチカチ
『下へ参ります』
――コォォォォォォォォォ
あなた「………ぐすっ…ひぐっ…」
あなた(もう手遅れだって分かってた……重力に連れ去られたあの子に追い付くには) あなた(……また足場を外された)
あなた(夢を追ってここに来て、知らなきゃよかった本当の自分を知らされて)
あなた(ただ一人、偽物の私を肯定してくれた人とも手が切れた)
あなた(夢のあの子も幻で、どこにもいない……)
あなた(全ての繋がりを失って、後はもう落ちていくだけ)
あなた(どこまでも――)
ポーン
『地階、最深部です。ドアが開きます』
ゴゴゴゴゴ
あなた「……坑道だ」
あなた「もしかして……ここからレインボー鉱山まで」
ザッザッザッ
あなた(……まっくら)
あなた(道も入り組んでて、見通しが)
あなた「はは……今の私じゃんか」
あなた「もう分かんないよ……どこへ進めばいいのか…」
「迷子だけにオーマイゴッド!ってカンジ?」
あなた「愛、ちゃん……?」
愛「そんな時はゴーマイウェイ、自分の道を行っちゃえ!」
あなた「どうしてここに……」
愛「人が進んだ後に道は出来る。だからどこにだって行けるんだよ、アタシたちは」
あなた「別に……私は新しい道を進みたいわけじゃ…」
愛「ふんふん、そーいえば君は自分目指して記憶の迷路を逆戻りしたかったんだっけ?」 愛「愛さんイマイチ納得いかないんだけどさ」
愛「そんなことしなくても、最初からあなたはあなた以外にはなれなくない?」
愛「他人の記憶を移植されたからって、ハイ今日から完璧にアカの別人ちゃんですってなるかなぁ」
愛「仮に愛さんが同じことされても、ダジャレ言うのだけは止めないと思うんだよね。身体に染みついちゃってる的な?」
愛「そしてそれこそが愛さんという“I”のアイデンティティーなわけで」
愛「その人が何者かを決めるのは行動ってね!これ、エマっちにも言われたっしょ?」 あなた「そのことなら、さっき思い知ったばかりだよ……」
あなた「裏切りが私の本質……そのせいでエマちゃんは」
愛「まーまー、も少しこの畸形の話を聞けい、なんつって」
あなた「ふざけないで……ちっとも笑えないよ」
あなた「さっきからそれ、面白いと思ってるの……?」 愛「あらら、君からはダジャレ好きの波動を感じたんだけどな」
愛「仕方ないか。今は記憶のことで頭がいっぱいみたいだし」
愛「よっしゃ、ここは愛さんのミュータントパワーの出番だね!」
あなた「は……?」
愛「迷える子羊を目的地へ連れてくのも愛さんタクシーの役目!」
愛「エマっちほどじゃないけど、アタシもスピリチュアルなパワーってやつが使えるんだ」
愛「君の無くした記憶、くれて進ぜよう。これ以上気後れしないよーに!」 あなた「やっ……やめて……!」
あなた「これ以上知りたくない!本当の自分のことなんて……!」
愛「そうはいかんざき」ガシッ
愛「愛さんが思うに、その“本当の自分”とやらを直接その目で見たわけじゃないんでしょ?」
愛「だからいつまでもぐじゅぐじゅ迷走してるんだよ、実感ないわけだし」
愛「それに君、ホントは知りたがってるよね。だからこんな深い所まで潜って来た」
愛「記憶の地下、イドの底で前の自分に会って、それからどう進むか決めなよ。そこからが本番なんだからさっ」
愛「んじゃ、愛さんのアイを見て。額の方ね」パチクリ
あなた「っ……!」
キィィィィィィィィィン
あなた(〜〜〜〜〜――――☆※○△―――×……・・・・) ―――――――
――――
――
近江(おうみ)
現在のシガ・エリアに相当する地域。
古事記には「近淡海(ちかつあはうみ)」とも記される。
当時の都である奈良との位置関係に由来。
関連して、現在のシズオカ・エリアの一部に相当する地域は
彼方の淡海、すなわち「遠江(とおとうみ)」と呼ばれた。
なに――? 何で今こんな知識が突然―――
――オレンジジュース飲む?
――ご本人様か宿の者以外では開けられませんので
――ズバリ、お姉さんの星座はしし座でしょ?
――あなたのせいで…あなたのせいで…チカァ!
――ち……か……りあく、たぁを……
『エマの捕縛は急務ですが、現時点ではその人相すら分かっていません』
――あなたが教えてくれた。普通でもいいんだって
あっ………あああああああああああああ――――――
―――――――――――――――――――――
――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
・
・
愛「どうやら目的地は見つかったみたいだね」
愛「それじゃ愛さんはこのへんで。またのご利用お待ちしてるよ」
「………思い出した」
「私は………、」
「チカは、何者にもなりたくない……」
チカ「……普通になりたかったんだ」 月曜ロードショー
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それにしても虹メンバーとシリアスなSF展開との親和性の高さよ 小さい頃、私はお母さんと一緒にこの星に来た。
火星はすぐにもう一つの故郷になった。
大好きなこの場所とみんなの生活を守るんだって
秘密基地ごっこの延長で始めた反体制クラブは
気が付けば本格的なレジスタンス組織になっていて
先の見えない抵抗の日々が始まった。 “火星のエマ”は抵抗の象徴になった。
今日の今日まで、敵に正体を勘付かれたことは一度もない。
そりゃそうだ、せいぜい火星のエマ・ワトソンがいいところな
一見地味でザ・普通の私がリーダーだなんて、誰も思わないよね。 ・
・
・
『走行中の輸送列車を脱線させる? あらかじめレールを爆破するんじゃ駄目なの?』
『それだと意味がないんだよ。狙いは貨物を完全に使えなくすることなんだから』
『でも、この列車には非武装の輸送員も』
『甘ーい!激甘だよエリさん!そんなんじゃいつまで経ってもこの穴ぐらにいる時と同じ、息がつまる思いを…』
『チカ、ちょっといい?』
『明日の作戦の決起集会の途中なんだけど、みんなの士気が見るからに低くて…』
『あなたからも一言お願いできるかしら』
『……………わかった、すぐ行くね』
『……………』ハァ
『…………』スゥ
『みんなー!起こそう奇跡を!!――……』 戦いは日に日に激しさを増していき
見通しはますます暗くなるばかり。
やがてリーダーとしての責務に疲れ切った私は
やりたかったことも、この先何をやりたいのかも
自分のことが何も分からなくなっていった。
それでも、“火星のエマ”をやめることは出来ない。
状況はとっくに後戻りできないところまで来ていた。 そんなある日、実家の旅館に預け物ついでにのこのこ現れたのが
以前エマ探しをしていた素振りのあった近江彼方だったのは
思いがけない巡り合わせというやつで。
そしてそれがあの人の運の尽き。
私のホームグラウンドで、自分でも引くくらいに
苛烈であることを強いられていたあの時の私に出会ってしまったのは。 厄日の近江彼方から長官の“あなた”計画を聞き出した時
私はこのみかん色の惑星に心底愛想を尽かしていた。
レインボー鉱山の秘密について知ってもそれは変わらない。
あそこには空気を作る装置が埋まってる――だからなんだっていうの?
それを動かしたところでまた別の――おそらくは地球相手の――戦いが始まるだけ。
ハッピーエンドの後も物語は続いてく。
その先もずっと“火星のエマ”で居続けることに
私は耐えられそうもなかった。 私は“あなた”計画を逆に利用してやることにした。
継ぎ接ぎだらけのパチモノ神輿から飛び降りて
“普通”に戻れるチャンスだと思ったから。
総督府は、私たちみたいなフツー住民には厳格な出国条件を設けている。
その点、基本的に生体情報を残さない、認証の義務もない
特権的職種に就いてるこの人はうってつけだ。
私は近江彼方になることを決めた。 みんなが自分でない誰かになろうとしてるこの時代
顔はもちろん整形するとして、記憶を消した新しい私にも
気付かれない生体偽装を施さなきゃ。
身長はほぼ同じ。
瞳は虹彩に差し込んだ38本の極細針で染め替える。
声は歯の整形と本人の波形をサンプリングした変声チップを喉に埋め込み調整。
体型はお互いの3Dモデルから割り出した近似点に脂肪注入等で極力近付けた。
すっかりくたびれて輝きを失った自分の髪色が彼女のそれと一緒だったのには苦笑い。
レチノイン酸の濃縮液で処理した指の表皮に新しい指紋を彫り込んで張り付け直すのも難しくない。
どうにもならないのは血液型くらいだった。 レジスタンスの仲間には、近江彼方はこちらに寝返ったと言っておく。
そうして全ての後始末を終え、偽装の痕跡を隠滅した私は
近江彼方としてみんなの元を去り、地球へ向かった。
敵もこれから“あなた”になろうとしている“彼方”が
自分たちの探している“エマ”本人だなんて夢にも思わないはず。
これは私なりの皮肉だ。おマヌケさんたちめ、ざまーみろ。
バレた時にはせいぜいあっかんべぇして大笑いしてやる。 本物の近江彼方は火星で記憶のバックアップを済ませていたから
後は地球の監視員が私の脳に“あなた”の記憶を上書きするだけ。
“チカ”としての自我が消えるのは半ば自殺めいていたけど
これは火星のみんなを裏切ったことへのせめてもの落とし前。
エマが消えてもなお戦い続けなきゃいけないみんなへの。
それにこれは自殺じゃない、私は生まれ変わるんだ。 こうして“あなた”となった私は、敵と味方の両方を欺いて
地球での平穏な暮らしを手に入れた。
ずっと昔に手放した“普通”をようやく取り戻すことが出来た
……はずだったのに
チカ「何でまたここに戻ってきちゃってるの…? 私……」
チカ「……いつか終わりが来るのは分かってた……でもこんなに早く……まさか自分から…」
チカ(栞子長官の“あなた”計画)
チカ(長官は“あなた”になった近江彼方が自分を取り戻しに帰ってくることに賭けた)
チカ(私は“あなた”になった私がそのまま普通に甘んじることに賭けた)
チカ「でも“あなた”になった私は普通であることに耐えられなかった……」
チカ「何かに打ち込むこともなく、代わり映えのしない毎日に内心飽き飽きして、毎晩火星の夢を見るくらい特別なことに憧れて、もう一度何者かになろうとした…」
チカ「そうして、結局は一周回って長官の計画通りに………こんな、こんなことって……!」
チカ「………ほんと、バカチカ……」
チカ「でも……だって、しょうがないじゃん……」
チカ「顔も仲間も記憶も全部捨てて」
チカ「そうまでして取り戻そうとした“普通”でいるセカイが、こんなにも不確かで心許ないものだったなんて……」
チカ「私……忘れてた」
「でも」 チカ「だ、誰っ!?」
「それが人生、なんじゃないかな?」
チカ「(桜色の髪に顔面ボード――)璃奈、ちゃん……?」
「確かにそう名乗ったよ。でも本当の私は……」パカッ
チカ「っ――!その顔……」
チカ(そうだった、私のもう一つの計算違い)
チカ(毎晩夢に見るくらいあなたを求めてたなんて、自分でも気付かなかった)
チカ「――リコちゃん」
リコ「お帰りなさい、チカちゃん」
私が火星に来たのは16の時。
居住エリアは都心の近くだったから、チカちゃんとの出会いは本当にたまたま。
趣味のイメージを膨らまそうとドームの外へ散策に出てた日
何故か自殺志願者と勘違いされて一緒に崖から転がり落ちそうになったのがあの子。
あの時は本当にドキドキしたなぁ……。
それから私たちはよく通信したり、休日に会ったりするようになりました。 チカちゃんは明るくて人懐っこくて押しが強くて
地味で控え目で人見知りな私はもうタジタジ。
けど、レジスタンスに誘われたことはなかったな。
都市住まいの私に遠慮してたのか、私の方も誘われたって
自分には無理って断っちゃってたとは思うけど……。 反体制活動なんて危ないことだとは思ったけど
何かにのめり込んでいるチカちゃんは輝いて見えたし
そんなあの子を静かに見守っていたかった。
でも体制との戦いはどんどん過激になっていって……
それは日に日にチカちゃんから輝きを奪っていくようでした。 友人として、無理にでも止めてあげるべきだったのかも。
でも私は、あくまで本人のしたいようにしてほしかった。
だからチカちゃんが“あなた”になり替わる計画を
私にだけ打ち明けてくれた時、惜しみない協力を申し出ました。
たとえそれが限界まで追い詰められたチカちゃんなりの
遠回しで手の込んだ自分殺しにしか思えないものだとしても。
計画の肝となる生体偽装の為に、趣味を通じて知り合った闇医者の人を紹介して。
その人なら一般には難しい手術でも完璧にこなしてくれる上に、
そのことを誰かに他言しない確信もあったから。 ・
・
・
『じゃあ、これでお別れだね…』
『うん……元気でね…』
『………色々助けてくれてありがとね』
『リコちゃんだけだよ……チカのこと…』
『………』
『……………あのさ』
『…………ううん、なんでもない…』
『………バイバイ』 こうして生まれ変わったチカちゃんは火星から飛び出していきました。
でも話はこれでおしまいじゃありません。
こうなったらとことんまで彼女の行く末を見届けようと決めたんです。
チカちゃんの本当にやりたいことは何なのかを、そっと見守る……
“あなた”を見張っていたのは長官の部下の人たちだけじゃなかったの。 ――
――――
チカ「リコちゃんが、チカをこの星に導いたんだね……」
リコ「ううん。私がしたのはちょっとした手助け」
リコ「本物の近江さんが持っていた例のケースが、あなたの手に渡るようにしただけ」
リコ「ここに戻ってきたのはチカちゃんの意思だよ」 リコ「チカちゃんだって、心の底では迷ってたんじゃないの?」
リコ「近江さんから取り上げた例のケース、使い道もないのに保管してたよね」
リコ「トチマンに預けられたメッセージだって、いつでも処分できたはずなのに」
リコ「そうそう、ここに戻ってきてから一緒にいたあの人は何なの?」
リコ「本当にびっくりしたよ、私の顔が盗まれてるって」
リコ「どういう事情でそうなったか知らないけど、ひょっとしてそれもチカちゃんが……」
リコ「……チカちゃんは、きっと怖かったんだよ」
リコ「もしかしたら“あなた”が意地でもここに戻ってきちゃうかもって考えを捨てきれなくて、そうなった時の保険をかけてたんじゃないの?」
リコ「第一、あんな状態での“普通”が長続きするなんて、最初から思ってな「そういうことじゃなくて!」 ギュッ
チカ「リコちゃんに会いたくて、チカはここに戻ってきちゃったみたい……」
チカ「私、バカだから……今の自分も、あなたのことも」
チカ「身近にある時はその大切さに気付けなかった……」
リコ「いいんだよ………そうやって遠回りするの、チカちゃんらしい…」
チカ「私……っ、今度こそ、リコちゃんのいるセカイで輝きたい…!」
チカ「色んなもの、散々裏切ってきた私だけど……自分の気持ちだけは、裏切れないから……」
リコ「……それが、チカちゃんの答えなんだね?」
チカ「うんっ……私は」 ゴゴゴゴゴゴ……
チカ「!?」
リコ「この揺れ……」
ドドドドドド!!! ガラガラガラ…
ドリルE07部隊『』ギュイイイイイイン
チカ「しまった、リコちゃん逃げよう!」 ――ギュイイイイイイイイイン
リコ「はぁ、はぁ…」
チカ「こっち!」
タッタッタッ――
リコ「ねえ……さっきから道が細くなってるよね?」
チカ「うん、トンネルっていうより建物の中みたいな…」
チカ「遺跡だコレ……エイリアンの古代遺跡、本当にあったんだ!」
チカ「って、行き止まりぃぃ!?」
リコ「リコ、サンド、挟まれちゃった…」 ドリルE07部隊『』ギュイイイイイイン E07『ターゲット捕捉』ガチャコン
リコ「これ、逃げ場ないよね?」
チカ「いや、もう逃げない!」チャカッ
――BANG!BANG! バキンッ
E07『警告、胸部制御パネル開ホウhO――ガガッ』
チカ「いっちょあがりっと」ポイッ
E07『―――・・・・』ガクン
チカ(制御系をむしり取っちゃえば味方信号を出すだけのデクノボーなのだ) チカ「リコちゃん、こいつの後ろに隠れてて!」
リコ「そっか…!ロボは絶対に味方を狙わないようプログラムされてるんだっけ」
チカ「にしし。さてと、チカ用の盾も確保せねば」
CZ9「ターゲット発見」
チカ「キミに決めた!」
チカ(ってアレ? この子胸部パネルがない――)
CZ9「かかりましたね!」ヒュッ
チカ「のわぁ!?」 チカ「痛ったぁ…」ポタポタ
CZ9「……浅かったですね」
チカ「その声、しずくちゃん…」
チカ「ロボのコスプレまでして、ここまでくるとイジョーだよ」
CZ9「誉め言葉と受け取っておきますね」
CZ9「私の思い描く理想のスパイ像、それは究極の演者」
CZ9「私は日夜それを追求するのをやめません!」ギュイイイイイン!!! チカ「うわぁ!」バッ
CZ9「今の私はロボ部隊の指揮官機……冷酷無比に容赦なく決めさせてもらいます!」
チカ(ひとまず柱の影に――)
CZ9「無駄です!」ヒュン
――BOOOOOOM!!!! ガラガラ…
チカ「う、げほげほっ」ヨロヨロ
CZ9「それにしても、先程のお二人のやり取りは聞くに堪えませんでした」
CZ9「自分たちだけで盛り上がって、感情の推移に場の空気が追い付けていません!」ドギャギャギャギャ!!!
チカ「ひええええっ」
CZ9「常に第三者の目線を意識すべきです。それらが一体となってこそ、真に観客の心を動かすステージが完成するんです!」
チカ「ここには感情の無いロボ部隊と演技に心を奪われた舞台サイボーグしかいないじゃ〜ん!」 CZ9「さあ、そろそろフィナーレといきましょう」
チカ「くぅ……」
CZ9「後ろは壁、遺跡の出口は私たちが塞ぎました」
ドリルE07部隊『』ギュイイイイイイン
チカ「こ、こないでっ」
リコ「チカちゃん!」
CZ9「そこ、舞台袖から動かないように。一歩でも飛び出せば即退場ですよ?」
CZ9「さて…あなたには正直がっかりさせられました」
CZ9「一度演じ始めたのなら最後まで。“本当の自分”に惑わされて途中で役を降りるなんて、あってはならないことです」
チカ「そっちこそおかしいよ!演技ばかりで、本当の自分はないの?」
CZ9「演じることが“私”ですから――攻撃」サッ ――ギュイイイイイイイン
チカ「ひっ」
――ドルルルルルルルルルルルル!!!!
チカ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」
リコ「チカちゃああああん!!!」
CZ9「……」
ギャリギャリギャリギャリ!!!!
チカ「あああああああああ―――……っ」
ギュイイイイイイイン――――!!!
チカ「うぎゃああああああああっ」
チカ「ぃぎゃあああああああああッ」 チカ「んぎゃああああああああーーー!!!」
CZ9「い、いつまで叫んでるんですか!」
CZ9「なぜ身体の方は裂けないんですか!?」
チカ「あああ……ふくく、あっははははは!!!」
チカ「あーおっかし。こんな大根演技に騙されるなんて」
チカ「しずくちゃんも案外見る目なかったりして――ザザッ」
CZ9「!――ホロ……アバターにしては実体がない……まさか、ホロカムですか!?」
チカ「やーい引っかかったーザザザッずくちゃんには見せてなかったもんね、これ」
チカ「にっしっし、これで桜サクラウチ詐欺の借りは返したのだ」 チカ「へいへーい、鬼さんこちら!」
E07X『ターゲット、確認』DoDoDoDoDo!!!! E07Y『ガガッ――』BOM!!
CZ9「発砲をやめて! 弾が射線上の味方に当たっています!」
CZ9「敵の本体は近くに潜んでいるはずです、そちらを見つけて――ああもう、やめてと言ってるでしょう!」
チカ「こっちザザッよー」
ドリルE07『』ギュイイイイイン――ドガガガガガ……
CZ9「なんという手を……ロボは同士討ちだけは絶対にしないはずなのに…」 パラパラ…――ミシミシミシミシ
CZ9「!?――地震…?」
チカ「ぶっぶー、正解は」
チカ「これだけ撃ちまくってドリルドリルすれば、100万年前のオンボロ遺跡なんて限界ジェンガ秒読みに決まってるじゃん」
チカ「でした!」
CZ9「最初からそれが狙いで――」
チカ「そうそう、ティファニーの件は遠慮しとくね?」
チカ「あなたがオードリー・ヘプバーンなら、チカはせいぜいエマ・ストーンが関の山だし……落石だけにザザザーーー」プンッ
CZ9「……大した、女優です……エmドスン――!!
ガラガラガラガラ―――ズシャアアン!!! エ豆知識
从/*^ヮ^§「英国に住んでる方のエマ・ワトソンといえば、2018年に往年のヘプバーンを意識した髪型にイメチェンしたことが話題に」
从/*^ヮ^§「歴代人気女優ランキングでもTOP3に名を連ねることの多い両者をそのスタイルや活動姿勢から同一視するファンが増えてるらしくて照れるのだ」
从/*^ヮ^§「オードリーの語源を辿ると水の女神って意味があるらしいし、ますますチカにピッタリだよね?」
从c*;ヮ;§「ちなみにこの間発表された『ローマの休日』新吹替版でヘプバーンの声を担当したのは、チカはチカでもエリーチカの中の人だったのだ…」
从c*;ヮ;§「イタリアに行ったのはチカの方なのに…」 パラ…パラ…
チカ「100万年後くらいに掘り出してもらえるかもね……無個性なロボの一体として」
リコ「……チカちゃん? なんか因縁のある人みたいだったけど、これはやりすぎ……」
チカ「へ?」
リコ「この先は行き止まりだったのに、帰り道まで塞がっちゃったんだよ?」
チカ「……てへっ」
リコ「てへっ、じゃなーい!」
――ピチョンッ チカ「! リコちゃんしっー」
リコ「なに…?」
チカ「こっちからしずくが落ちた音がしたような」
リコ「こんな時にまたダジャレ?」
チカ「違うよー!ホントに……ほらね」
リコ「壁に穴が――ああ、さっきホロのチカちゃんを狙ったドリルが…」
チカ「音はここから聞こえたんだよ!この中を進もう!」 ――ピチョンッ
リコ「ひっ――……つめた」
リコ「……火星の土の下って氷だらけなんだっけ。それが溶けて染み出して……近くに熱源でもあるの?」
チカ(多分、きっと、これは影武者のエマちゃんが話してたやつ――しずくちゃんを倒して道が開けるなんて)
チカ(変テコな感じ、上手い具合にピースが繋がってく)
チカ(そういえば愛ちゃんも言ってたっけ。ここは記憶の地下、イドの底って)
チカ(地下はチカ、イドには井戸って意味もかかってたんだ)
チカ(愛ちゃんって言えば――あの時も)
――アタシにもおねーちゃんいるんだよ?血は繋がってないけど
――それでもおねーちゃんはおねーちゃん、そーいうものだよね
チカ(愛ちゃんは、最初から全部知っててあんなことを…?)
チカ(……どっちでもいいやもう)
チカ(私にはアイが必要だった、そしてそれはもうここにあるんだから) ・
・
・
コォォォォォォォォ
チカ「……やっと見つけた」ハァハァ
リコ「これが……チカちゃんの言うエイリアンの、テラフォーミングマシン…?」
チカ「この空間が丸ごと一つのリアクターみたいなものなんだよ」
チカ(これを動かせば、火星に空気が――!) 火星
ロードショー
Final:#7「えまんちゅ!」 ラブライブ!×トータル・リコール チカ「リコちゃん下!穴の中見て!」
リコ「……氷河だ。どうりで寒いと思った……」ブルッ
リコ「この氷のさらに下の方に地下水や地底湖があるって、どこかで聞いた気がする」
チカ「それ、私も知ってた。ウチにあった古いマンガだと未来の火星は水の惑星って感じに描かれててさ」
リコ「昔はそう信じられてたんだよ。火星の地下には水資源が豊富だから、それを使って惑星改造をって」
チカ「実際出来るんじゃない? 材料ならこの広ーい井戸の底にたっぷりあるし」 チカ「ところで上の方にたくさんぶら下がってるのはなんだろ」
リコ「あの形は……燃料棒、かな? マカロン鉱石の」
チカ「そっかわかった!」
チカ「リアクターを動かせば、あれが下の氷に落っこちていい感じに反応して空気が出来るんだよ!」
リコ「えぇ……そんな単純なものじゃないと思うけど…」
チカ「安心して!替え玉のエマちゃんが言うには、全部これを用意した人たちがお膳立てしてくれてるはずだから!」 チカ「エイリアンは私たちに空気かマカロン鉱石か選ばせようとしてるんだよ。ほら究極の選択とか言って、よくあるやつ」
チカ「空気を作るために必要な素材は全部この氷の下に用意されてるはず。じゃないとフェアな選択にならないじゃん」
リコ「またチカちゃんロジックで話進めてる……」
チカ「リコちゃん、なるったらなるの。リコちゃんにはエイリアン・テクノロジーの何が分かるんですか?」
リコ「まあ、氷から水素と酸素……二酸化炭素はドライアイスから出来るとして、窒素はどこから来るの?」
チカ「それは……アジ化水素とかチッ化水素とか用意してくれてるんだよ、地下だけに」
リコ「只でさえ寒いんだから、普通にアンモニアって言えばいいのに…」
チカ「フツーはもういいよ、これが私だもん!」
リコ「……そうだね」フッ
チカ「さあ行こう! 向こうのリフトで上に登れば、制御盤のある所にいけるはず!」 リコ「それにしても……チカちゃん頭良くなった?』
チカ「“あなた”だった時の記憶と知識がうまく混ざってる感じなんだよね」
チカ「栞子長官って几帳面だったみたいで、色んな事インプットされててさー」
リコ「なんか得した感じだね」
ナニソレ クスクス…
ビーーーーーーーッ
チカ「あれ、リコちゃんってば太った?」
リコ「ち、違います! これ、きっと一人しか乗れないんだよ」
チカ「そゆことか。じゃ先に上がって待ってるね」 リコ「それにしても……チカちゃん頭良くなった?」
チカ「“あなた”だった時の記憶と知識がうまく混ざってる感じなんだよね」
チカ「栞子長官って几帳面だったみたいで、色んな事インプットされててさー」
リコ「なんか得した感じだね」
ナニソレ クスクス…
ビーーーーーーーッ
チカ「あれ、リコちゃんってば太った?」
リコ「ち、違います! これ、きっと一人しか乗れないんだよ」
チカ「そゆことか。じゃ先に上がって待ってるね」 ・
・
・
ゴウンゴウン――ガシャン
チカ(とうとうここまで来た)
チカ(中央に、あやしー宗教の祭壇みたいなのがある…)
チカ(ピラミッド…?っぽいののてっぺんに目が――)
チカ(この中にあるのが制御盤かな)
チカ「…………これって」
https://i.imgur.com/NSfVA00.jpg
チカ「エイリアンの、手形……?」
「本当に――戻る気は無いんですね」
――BANG!
チカ「!」 チュィン!
栞子「それに触らないでください」シュウウウウ
チカ「……意外と現場主義なんだ」
チカ「その慌てよう、これを押せばホントに空気が出来ちゃうんだね」 栞子「それがどういうことか、あなたは分かっていません」
栞子「一度それを動かせば、空気を生成するための複雑な反応の数々が爆発的な速度で連鎖的に開始されます」
栞子「それだけではありません。極寒の地表の温暖化に、大気層を維持するための強い磁気圏の形成」
栞子「私たちの技術では何百何千年とかかる惑星改造の工程を短時間のうちに完了させようとするんです」
栞子「そのために火星中のマカロン鉱石が一斉に反応に使われれば……もうお分かりですね」
チカ「長官は、この星が溶けちゃうかもとか思ってる?」 チカ「ダイジョブだよ、これはテストなんだから」
チカ「この装置もマカロン鉱石も、エイリアンが後から来る人たちのために埋めた……」
栞子「そんなことは察しがつきます。問題はそれ以前のことだと分かりませんか?」
栞子「空気があってもマカロン鉱石が無くなれば今の人類にとっては致命的なんです。停滞の余波は数世紀先にまで及ぶでしょう」
チカ「……だから、この星の人たちが犠牲になってもいいってわけ?」
栞子「……」ハァ
栞子「あなたも、いくら諭しても最初から聞く耳をもたないタイプのようですね」
栞子「いいでしょう、今回はこちらも問答無用です。一分後にはこの爆弾で制御盤を破壊し、それで全てお終いです」ゴトッ 栞子「まったく……莫迦なことをしてくれましたね」
栞子「大人しく元の彼方さんに戻ればいいものを……私たちが作り上げた夢想の存在を選ぶなんて」
チカ「私はもう“あなた”じゃな―――ううん、“あなた”はチカっていう現実の一部になったんだよ」
チカ「そしてこの現実で夢を叶えることにしたの!マカロンなんて無くても、みんなと一緒にこの星を…」
栞子「ですからそれが夢物語にすぎないと言ってるんです!」
栞子「そして、ここが夢の終わりですよ」チャキッ
――BANG! 栞子「がう゛――っ!?」ヨロッ
リコ「チカちゃん平気!?」シュウウウウ
チカ「リコちゃんナイス!」
栞子「ぐっ……くぅ、」カチッ
ピピピッ!ピピピッ!
リコ「爆弾が――」
チカ「任せて!」
チカ「こいつ、目覚ましみたいな音出しちゃってうるさーい!」ピピピピ
チカ「もう目は覚めてるんだってばぁあああああ」ブンッ
――――BOOOM!!!! 栞子「愚、かな……自らこの星の特性を捨て去る選択を……」
チカ「チカが選ぶ現実はリコちゃんがいる所――そう決めたの」
チカ「それに私、やっぱりあなたのやり口には賛成できない」
チカ「特性とか適性って言うけど、それは自分自身であがいて探してくうちに見つけるものなんだよ」
チカ「誰かの指図で普通以上になれてもちっとも嬉しくない!」
チカ「チカはねーリコはリコでも塩っ辛いのって大っ嫌いなのーーっ!!!」
――ヒュオオオオオオオオオオオ
リコ「……なに、この風」
栞子「………何てことを……」
ベリベリベリ……ゴォオオオオオオオウウウウ―――!!!!
チカ(爆発で、地上行きのトンネルに穴が開いちゃったんだ!)
チカ「何かにしがみ付けーー!!!」 ビュオオオオオオオオオオオ
リコ「きゃあああああっ」
チカ「リコちゃん堪えてええぇ」
栞子「くっ……ぅぅ」
ゴオオオオオオオオオオオオオ
チカ「ふっぬぬぬぬおおぎぃ」
チカ(入管ゲートの時みたいに下ろせるシャッターもないっ)
チカ(こーなったら――) チカ「栞子長かああああああん」
チカ「火星住民の、普通もっ、普通じゃない人もっ、みんなを代表してええぇ」
栞子「や、やめなさい…!」
チカ「只今をもって、あなたを解任(リコール)しまああああす!!!!!」
栞子「その手形を押し込んでは……!全員が死んで――」
チカ「おっつかれさまでしたああああああああああああ」カチッ
ビィィィィィン――
バジ…バジバジ……バ゙ジバジバジバジバジバジ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
リコ「地鳴り……!?」
チカ(マカロン棒が動き始めたんだ――!)
栞子「……っ、」
ズルッ
栞子「!!あああああああああぁぁ―――――― 〜〜〜〜〜
グラグラグラグラグラグラ
客「…………な、なに……?」
店員「どーしたっていうのよ…? 火星人でも攻め込んできたの…!?」
ミューたん「みんな、窓の方を見て……!! 鉱山が……!!」 ゴォオオオオウウウォォ
リコ「くっ、ぅぅぅぅ…」
チカ「リコちゃん頑張ってぇ! 揺れが収まるまで――」
リコ「……ダメっ……もぅ限界ぃ…」ツルッ
リコ「きゃああああああああああ―――――
チカ「リコちゃああああああああああ」
ビュオオオオオオオオオオオオオオオ
チカ「わっ、わっ、わあああああああああああ――――― シュオオオオオオオオオオオ――――
チカ「わぁああああああぁぁぁああ」
フワッ
ドサッ
チカ「わぁ!!!」ゴロゴロ
チカ「…………ったぁ………かッ」
チカ(――――息が、吸えな)
栞子「―――っ――……ゎ――」
リコ「……!………!!」パクパク
チカ(外に放り出されて―――まだ、酸素が行き渡ってな……っ) プシューーーーーーーーーー!!!
店員「鉱山が煙吐いて……!?」
客「……おん、せん……?」
店員「バカっ……!酸欠っ…!あれは、あ、あれよっ、噴火よ……!」
ミューたん「でも、地面のあちこちからも何か噴き出してるよ…!?」
ボシュ! ボシュ! ボシュ!! ブシュウウ!!
レジスタンス「同時多発間欠泉――!?」
ミューたん「いや…こんなのもう惑星規模の地殻変動やん…!!」
レシタスタン「も、黙示録なう!?」
ミューたん「火星のトランスリフォームが始まったんよ!!」 チカ「ぃ――……ぁ――」
チカ(はいからくうきぬけて―――)
チカ(ゆ――めでみた―――と――びだし)
チカ(―――――し、ぬっ)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
チカ(―――――――ぁ)
チカ(――――く―――も) 客「ああッ空が! 空が危ないチカ!」
バジ…バジバジ―――!!!
ミューたん「か……雷さん…??」
レジスタンス「ねえ!なんか白い塊がこっち向かって来るんですけど!?」
モワァァァァァァァァァァァァァァァ
ミシ……ミシミシミシ……―――バリィィィィィン!!!!
ミューたん「きゃあああ!?!!?」
客「危ない!!」
店員「みんな窓から離れなさぁい!」
――ガシャァァァン!!! バリィィィィン!!!
キャーーーー!!! ナニヨコレェ!
レジスタンス「―――空気よっ、空気が攻めてきたんだわ!」 モクモクモクモクモクモクモクモクモク
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・ ――
――――
チカ「…………ぁ」
チカ「………あったかい」
リコ「はぁ……はぁはぁ……」
チカ(いきが……出来る!)
リコ「チカちゃん…!」
チカ「やったよリコちゃん!空気だよ!」
チカ「空を見て!」
客「ハレショー…」
店員「驚いたわ…」
店員「この星で、こんなに明るくて抜けるような青空が拝めるなんて――」
レジスタンス「これぞ青天の霹靂!」
ミューたん「順番逆やったけどね」
ミューたん「居住エリアが峡谷の高いとこに作られててラッキーだったかも」
店員「はぁ?」
ミューたん「だって、サプライズはこれだけじゃないみたいだし♪」 チカ「すぅーーーはぁーーー」
チカ「すっごくひんやりしてる……足元は温かいのに」
リコ「どれだけの水蒸気が噴き出したんだろ……」
チラ… チラ…
チカ「なんか白いの降ってきた……雪?」
リコ「………綿毛だ」
リコ「タンポポみたいに種子が……これもエイリアンの?」
チカ「ウチの旅館よりサービスいいなぁ」
リコ「見て。丘のところに虹が――」
リコ「……ねえ、チカちゃんあれ…!」
チカ「………ウソ……」 タッタッタッ
チカ「ところでっ……火星は今日何曜日だっけ…!?」
リコ「水曜のっ…朝だけどっ……ねえ、待ってよぅ〜」
チカ(丘の上からなら、よく見えるはず…!)
チカ「はぁ……はぁ……」
ザザーン…
チカ「…………海だ……」
チカ「うーーみーーだーーーよーーーー!!!!!」 リコ「埋まってた氷の量が…とてつもなく多かったんだね…っ」ハァハァ
リコ「マカロン全部使っても分解しきれなくて……溶けて残った水とか元々の地下水とか全部一緒に噴き出しちゃって……」
チカ「近水海国(ちかつみずうみ)か…」
チカ(これなら鉱石が無くったって、みんなで力を合わせれば)
チカ(……あの子が見たら、なんて言うだろう)
チカ(気に入ってくれるといいんだけど)
栞子「あの…」 チカ「のわっ、長官!?」
栞子「……チョウ、カン?」
栞子「私、そんな名前なんですか?」
チカ「……へ?」
栞子「ここはどこなんですか…? 私は誰なんでしょうか…?」
チカ「……どしたのこれ」
リコ「多分、私たちより長く酸欠だったから…」
チカ(自分のセーブデータを読み出せなくなっちゃった…? セーブ要員みたいな名前なのに…)
栞子「教えてください…! 自分ではどうしても思い出せなくて」
チカ「こ、ここの新鮮な空気を吸ってれば思い出すんじゃないかなー…」
チカ「散歩は……無理だから、船でも浮かべて……うん」
栞子「?……??」
ザザーン…
チカ(虹のかかった丘の上で、生命の水と息吹に満ちた眺めをリコちゃんと一緒に見下ろして)
チカ(なんだか全部が都合よすぎて現実感がないや)
チカ「……英語のレインボーって、叶わない夢って意味があるんだってね」
チカ「こうして虹の根元に行くと消えちゃうみたいに」
チカ「だとしたら、その向こう側には一体何があるって言うのかな…」 リコ「虹の彼方に……か」
リコ「チカちゃんは、これが夢だと思ってるの?」
チカ「さあ……どうだろ」
リコ「一つだけ、確かめる方法があるかも……」
ギュッ
リコ「チカちゃん……大好きだよ」
チカ「………リコちゃん」
チカ「私もっ…!」 火星の青空の下で、私たちはお互いの存在を確かめ合う。
眩い太陽の輝きが二人を祝福するように包み込んで、真っ白で何も見えない。
チカとリコちゃん。私とあなた。
胡蝶の白昼夢を見た男の人は、どういう結論を出したんだっけ。
蝶の夢を見た人か、人の夢を見る蝶か。
どっちにしろ、同じ自分ってことに変わりはないんだけどね。 私は、本当の自分を取り戻せた。
本当のアイでいられる場所が、私の現生(ライブ)ってことで。
だって今なら自信をもって、“自分”は起きてるぞーって言えるから。
あーあ、それにしてもクタクタだよ〜。
なんせ火星を救ったんだもんね。
もうこのまま寝ちゃおっか?
それでいい夢見れるといいな。
あなたと私で――。
…………………
…………
……
CAST
彼方(あなた)/チカ…クエイド/ハウザー
璃奈/リコ…メリーナ
歩夢…ローリー(リメイク版の鬼嫁)
エマ…クワトー
果林…トリプルおっぱいの人
愛…ベニー
しずく…ベニー(愛さんと分割)
かすみ…ハリー
せつ菜…マクレーン
栞子…コーヘイゲン長官
ED:AQUA/火星からミカン・バック(https://youtube.com/watch?v=CJRkOFJKyqg) ・
・
・
ザザーン
ホロ看板【】プカプカ
ホロ看板【ボードで顔を隠したモデル『“あなた”からの休暇をとろう。』】
ホロ看板【『記憶旅行は最寄りのリコールセンターへどうぞ』】
〜〜〜〜〜
Fin #1:あなたっぽいどは火星の夢を見るか? >>1
#2:To リcall離婚PLEASE!! >>52
#3:記憶にございま千! >>88
#4:凶偽の桜 >>131 #5:切れたよHand in Hand >>177
#6:そしてチ○になる >>212
#7:A・Q・U・A >>252 元ネタの鼻から卓球玉を取り出すシーンのインパクトが強すぎてこんな展開にしてしまいました。
今だとオリジナル版、リメイクともにアマプラで見れます。
読んでくれた人ありがとうございました。 二転三転する展開で面白かったわ! 乙
原作見るのはリメイクの方で良いのかな 一気読みしてしまった
あなたちゃんの正体に驚いたし展開やネーミングとかめちゃくちゃ凝ってるな
原作も観てみるよ、面白かった ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています