三夜連続こばりる「沼津の捜査官」読むことはできても見ることはできないものってな〜んだ?正解はSSの最後に発表しますんw[字][解][デ]
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第一夜「広域捜査官 小林愛香」
道路・車内
善子「…………」
梨子「…………」
鞠莉「……スネ夫の前髪ってあるじゃない?」
善子「あの3つとんがってるあれ?」
鞠莉「ええ。あれっていったいどういう構造になってるのかしら? どこから見ても3つとんがってるの」
善子「ああ、『スネ夫の前髪、下から見るか? 横から見るか?』ってやつね」
鞠莉「そうそう! ミステリアスよねぇ……」
善子「リリーはどう思う? あの前髪」
梨子「さあ? 絵なんだし、あんまり気にしてもしょうがないと思うけど……」
鞠莉「もうっ、梨子は夢がないわね〜」
梨子「そんな話をするために私を呼んだんですか? 鞠莉さん」
善子「ちょっと梨子っ」
鞠莉「……どこか静かな場所に行きましょ。本題はそこでゆっくり、ね?」
梨子「わかりました」
ブーン…… 坂道
キキーッ!
梨子「キャッ!」ガタッ
善子「ど、どうしたのよ鞠莉」
鞠莉「うちっちーが倒れてた……」
善子「はぁ?」
鞠莉「ほら、あそこに」
梨子「……ただの着ぐるみじゃないですか」
鞠莉「中に誰かいるかも。ちょっと見てくるから待ってて」ギッ
ガチャッバタン
鞠莉「…………」スタスタ
鞠莉「ねぇ、中に誰かいるの? そんなところで寝てたら危ないわよ」スタスタ
うちっちー「…………」
鞠莉「お願いだから誰もいないでよね……」スッ
パカッ
鞠莉「……空? もう、誰がこんなところに着ぐるみなんか――」クルッ
鞠莉「えっ、どうして車が動いて……待って! 善子!! 梨子っ!!」タッタッタッ……
ブーン…… 浦の星女学院・理事長室
ダイヤ「――で、目を離しているうちに車が動き出していたと」
鞠莉「うん……ねえダイヤ、私どうしたら……」
ダイヤ「今すぐ警察に通報すべきですわ」
鞠莉「警察……」
ダイヤ「わたくしたちだけでどうにかできる問題とは思えませんから」
鞠莉「……そうね」
果南「サイドブレーキは?」
鞠莉「えっ?」
果南「車を停めたのって坂道でしょ? サイドブレーキを引き忘れてたら――」
鞠莉「ううん、それはないはず。引いた記憶がちゃんとあるもの」
果南「そっか……」
ダイヤ「警察へはわたくしが連絡しておきますわ」
鞠莉「…………」
ダイヤ「心配いりませんわ、鞠莉さん。きっと車も二人もすぐに見つかります」
鞠莉「だといいけど……」 三日後
千歌「ほんとに!? 車が見つかったの!?」
ダイヤ「ええ、先程警察から車と善子さんを発見したと連絡が」
花丸「ダイヤさん、その……善子ちゃんは無事なの?」
ダイヤ「まだ意識不明のようですが、命に別状はないそうですわ」
ルビィ「よかったぁ……」
曜「梨子ちゃんは? 一緒に見つかったんですよね?」
ダイヤ「それが……梨子さんはまだ……」
千歌「えっ……」
ダイヤ「善子さんは発見した車の中で倒れていたらしいのですが――」
ダイヤ「梨子さんの姿はなく、周辺を捜索しても見つからなかったと……」
曜「そんな……どうしてっ!」
鞠莉「ごめんなさい……私のせいで……」
果南「鞠莉……」
曜「あ……その、鞠莉ちゃんを責めてるわけじゃなくて……」
………………
…………
…… 三週間後 駅前
小林「もしもしそらまるさん? はい、たった今到着したところです」
小林「大丈夫ですよ、すぐに解決してそっちに戻りますから」
小林「じゃあ、また連絡しますね。失礼しまーす」ピッ
小林「……で、まずはどこ行くの?」
ともりる「ええ? 学校ですよ、なんで覚えてないんですか」
小林「覚えてるってば。確認しただけでしょ」
ともりる「どうだか」
小林「じゃ、早速行こっか。えっと……どっちだっけ?」
ともりる「あっちです」
小林「よーしっ」スタスタ
ともりる「なにやってんですか、学校はこっちですよ」
小林「え」
ともりる「やっぱり全然まったく覚えてないんじゃないですか。あーあ、これだから小林は」
小林「ぐっ。こ、このぉ……!」
ともりる「ぼけっとしてないで行きますよ、小林」スタスタ 浦の星女学院
ともりる「広域捜査官の楠木ともりです」
小林「同じく小林です」
ダイヤ「わたくしは黒澤ダイヤと申します。そしてこちらが松浦果南さん、こちらが小原鞠莉さんですわ」
果南「どうも」
鞠莉「…………」
ダイヤ「わたくしたちにできることならなんでも協力します。ですからどうか梨子さんを……」
小林「任せてダイヤちゃん。絶対に梨子ちゃんを見つけて事件を解決してみせるから!」
ダイヤ「よろしくお願いいたします」
ともりる「まあ私は優秀な捜査官なので事件は迅速に解決すると思いますよ」
小林「私“たち”は、でしょ?」
ともりる「いやいや、小林は東京の事件から外されたんじゃないですか、意味不明なことばっかりしてるから」
小林「なにそれ私が飛ばされたって言いたいの? だったら楠木だってそうじゃん!」
ともりる「私は違います。上から小林がヘマしないようにお守りをしろって言われたんですよ」
小林「あっ、楠木おもり……ぷぷっ」
ともりる「ちょっと! なんで私が馬鹿にされてるんですかっ!」 果南「……ねえダイヤ、この人たち大丈夫なのかな?」
ダイヤ「どうでしょう……」
ともりる「小林のまな板! 胸が平らホテル! 貧乳ポーク! とんでもねぇ薄さだぜ!」
小林「なにをぉー!」
ともりる「悔しかったらなにか言い返してくださいよ」
小林「ぐぬぬ……!」
ともりる「ほーら言い返せない。やっぱ小林は大したことないですね〜」
ダイヤ「あのっ! 事件について話を聞きにきたんですわよね?」
小林「あ、そうだった」
ともりる「えっと、被害者を乗せた車を運転してたのは小原鞠莉さん?」
鞠莉「はい……」
ともりる「事件が起きた時のことを詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
ダイヤ「あっ、立ち話もなんですから場所を変えませんか?」
ともりる「ああ、そうですね」
ダイヤ「ではどうぞこちらへ」 小林「――じゃあ犯人はその隙に車を奪って二人を拐ったってこと?」
ダイヤ「そうとしか考えられませんわね」
小林「ふぅむ……道路にあったうちっちーは今どこにあるの?」
ダイヤ「おそらく警察が保管しているのではないかと」
小林「そっかぁ……」
ともりる「そりゃ証拠品ですからね。普通それくらい考えなくてもわかりますよ」
小林「楠木うっさい。ねえ鞠莉ちゃん、車に乗ってた二人とはどういう関係なの?」
鞠莉「……三人ともAqoursのメンバーです」
小林「うん、それは知ってる。他にはどんな関係があるの?」
鞠莉「私と善子と梨子は“Guilty Kiss”ってユニットを組んでいて――」
小林「そうじゃなくて、もっとこうプライベートな関係というか……」
鞠莉「えっ……?」 小林「あっ、答えづらいなら無理に聞かないけど」
鞠莉「ごめんなさい……」
小林「気にしないで。じゃあ事件があった日、三人が一緒に車に乗っていた理由は?」
鞠莉「…………」
小林「それも言えないか……なら質問はこれくらいにしておいて、事件現場に連れてってもらってもいい?」
果南「……今から?」
小林「うん。例の車を用意してあるから鞠莉ちゃん運転よろしく」
道路・車内
ともりる「なんでわざわざこの車で行くんですか」
小林「そのほうがなにか気付くことがあるかもしれないでしょ?」
ともりる「ふーん……」 事件現場
小林「うちっちーが倒れてたのがこの場所、でいいんだよね?」
ダイヤ「ええ」
小林「それから車を停めたのがあの位置……あそこからここまで歩いてくる間に犯人は車を奪って逃げた」
ともりる「で、なにか気付いたんですか?」
小林「うーん……果南ちゃん、ちょっと車役やってもらっていい? 私は鞠莉ちゃん」
果南「わかった」
小林「えー、鞠莉ちゃんが着ぐるみを見ている間に車が動き出す!」
果南「っ!」タッタッタッ……
小林「そして鞠莉ちゃんがそれに気付いて追いかける!」タッタッタッ……
ダイヤ「ともりさん、いったいこれにはどんな意味が?」
ともりる「馬鹿みたいに見えるけど、事件解決のために必要なことなんです……たぶん」
………………
…………
…… 病院
ともりる「ここが津島善子の病室ですね」
小林「よしっ……」コンコン
善子『……どうぞ』
ガラガラ
小林「こんにちは……あなたが津島善子ちゃん?」
善子「違うわ」
小林「えっ、でも――」
善子「我が名は……堕天使ヨハネ」
ともりる「ぷっ、堕天使って……」
小林「じゃあヨハネちゃん、少し話を聞かせてもらっていいかな」
善子「構わないわ」 ともりる「いやいや小林、この子はヨハネじゃなくて善子ですよ」
小林「楠木はちょっと黙ってて! 私は広域捜査官の小林。よろしくね」
善子「で……聞きたい話っていうのは事件のことよね?」
小林「うん、そうそう。あの日なにがあったのか私に教えて?」
善子「悪いわね、小林。あいにく事件が起きた日のことはなにも覚えていないの」
小林「うーん、覚えてないかぁ……あれ?」
ともりる「どうかしました?」
小林「私前にもヨハネちゃんに会ったことない?」
ともりる「なーに言ってるんですか、そんなわけ――」
善子「そうね……小林の言う通りよ」
ともりる「ええっ!?」
善子「私たちは遠い昔、エリュシオンにて――」
バンッ! ともりる「いい加減にしてください! ふざけたことばかり言ってると怒りますよ!」
善子「ふ、ふざけてなんていないわ。私はただ――」
ともりる「あなたは津島善子! ヨハネじゃありません! 善子善子善子!!」
善子「善子言うな! 私はヨハネよ! ヨハネヨハネヨハネ!!」
ともりる「こっちは仕事で来てるんですよ! どうせ記憶喪失だってただのフリなんでしょ!?」
小林「ちょっと楠木! やめてよ可哀想でしょ! この子だって被害者なんだから……」
ともりる「むぅ……わかりましたよ。怒鳴ったりしてすみませんでした」
善子「あ……その、私も悪かったわ。でも……記憶がないのは本当よ」
小林「最後にもう一つ聞いておきたいんだけど……鞠莉ちゃんと梨子ちゃんとはなにか特別な関係があったりする?」
善子「……いいえ」
小林「そっか。じゃあもしなにか思い出したことがあったらここに連絡して」スッ
善子「わかったわ」 道路
ともりる「小林はどう思いますか? あの善子って子」
小林「んまあ、可愛い子だなーって」
ともりる「うーわ、あの子いくつだと思ってるんですか?」
小林「いや、可愛いって別にそういう意味じゃ――」
ともりる「あっ、前に会ったとか言ってたのもそういう――」
小林「だから違うってば! ほんとにそんな気がしただけで……」
ともりる「ま、私には関係ないですけどね。小林が誰を好きになろうと」
小林「……それはさておき、あの子嘘をついてた」
ともりる「一緒に車に乗ってた二人との関係ですか」
小林「うん。鞠莉ちゃんの様子を見る限りあの三人には何らかの関係がある」
ともりる「それが事件の原因だったりするんですかね?」
小林「わからないけど調べる必要はあるでしょ」
ともりる「とりあえず明日は学校をつついてみますか」
小林「そうしよう。あー、お腹減ったぁ〜」 十千万旅館
ガラガラ
ともりる「ごめんくださーい」
志満「はーい。あら、お客さん?」
ともりる「はい、広域捜査庁の者です。予約入ってますよね?」
志満「ああ〜、いらっしゃいませ……」ジー
ともりる「……なにか?」
志満「いえ、なんでもないわ。宿帳書いてもらっていいかしら?」
ともりる「あっ、はい」
千歌「…………」
小林「ん? あ、こんばんは」
千歌「こんばんは……あの、事件のことを調べに来たのって……」
小林「それなら私たちだけど、なにか用事?」
千歌「はい。えっと……あとで部屋に行ってもいい?」
小林「うん、いいよ。じゃあ待ってるね」
ともりる「小林ー、行きますよー」 客室
小林「――とまあ、初日の収穫はこんなもんです」
小林「いえ、さすがにまだそこまでは……はい、それはわかってます」
小林「これから先いろいろと頼らせてもらうことになると思うんで、よろしくお願いします」
小林「もちろんお礼はしますよ。楽しみにしててください」
コンコンッ
小林「はいっ」
千歌『私です。さっき玄関で話した……』
小林「あー、ちょっと待ってて。すみませんそらまるさん、もう切らないと。失礼しまーす」ピッ
小林「どうぞー」
スーッ
千歌「こんばんはー……」
小林「こんばんは。その辺適当に座って」
千歌「…………」スッ 小林「そうだ、自己紹介がまだだったね。私、広域捜査官の小林」
千歌「こーいきそー……?」
小林「あー、つまり広域捜査庁の刑事っていうか……」
千歌「……?」
小林「わかりやすく言うと、FBIの日本版みたいな感じ」
千歌「えふびー……?」
小林「あ、うん。いいや。とにかく私は小林だから」
千歌「わかった。よろしくね、小林!」
小林「こちらこそよろしく。えっと……」
千歌「あっ、私は高海千歌。ここに住んでて高校2年生で、似てる有名人はエ――」
小林「千歌ちゃんね。それで……私になにか話したいことがあるのかな?」
千歌「うん……その、梨子ちゃんのことなんだけど……」
千歌「事件が起きる何日か前から、なんだか様子がおかしかったの」
千歌「なんていうか……すごくそわそわしてて。でもなんにも話してくれなくて……」
小林「ふーむ……」 千歌「もしかしたら事件と関係あるかもって思ったんだけど、違ってたらごめんね」
小林「いや、今はどんな情報でもありがたいよ。それについても調べてみるね」
千歌「うん。あ、そうだ! 小林はなにかチカに聞きたいことない?」
小林「あるある!」
千歌「じゃあなんでも聞いて!」
小林「えっと、梨子ちゃんと鞠莉ちゃんとヨハネちゃんって仲いいの?」
千歌「うーん、たぶんいいんじゃないかな。仲が悪いようには見えなかったし……」
小林「そうなんだ」
千歌「特に梨子ちゃんと善子ちゃんは仲良しだったと思うよ。時々梨子ちゃんちに遊びに来てたから」
小林「へー、よく知ってるね」
千歌「だって梨子ちゃんうちの隣に引っ越してきたんだもん。誰か遊びに来たらすぐわかるよ」
小林「引っ越してきたって?」
千歌「春に転校してきたんだよ。東京の音ノ木坂学院から」
小林「そっかぁ、なるほどなるほど……だいたいわかったよ」 スーッ
ともりる「小林〜、遊びに来てあげましたよー……ゲッ、もう女連れ込んでるし」
小林「ちょっと楠木! いきなり入ってきて人聞きの悪いこと言わないでよっ」
ともりる「気をつけたほうがいいですよ、この人年下の女の子が大好物なんで」
千歌「ええっ!? そうなの……?」
小林「いやいや違うってば! 私は別にそういうんじゃ――」
ともりる「ふーん、否定するんですね……4年前、6つ下の未成年に手を出したのはどこの誰でしたっけ?」
小林「あ、あれはそっちからっ……!」
千歌「ん……? あ! もしかしてこの人、小林の彼女?」
ともりる「あっ、やっぱりそう見えます?」
千歌「うんっ!」
小林「違うからね千歌ちゃん! こいつとはもうとっくに別れてるの!!」
千歌「え、そうなの?」
志満「あら、じゃあ私の読みは半分当たりってことね」
ともりる「うわっ、いつの間に……というか読みって?」 志満「てっきり二人はお付き合いしていると思ったんだけど、お部屋が別々だから変だなぁって」
ともりる「ああ、だからあの時私たちのことじっと見てたんですね」
志満「うふふ……」
美渡「志満姉、ちょっと」
志満「……では、ごゆっくり」スタスタ……
小林「っていうかなにしにきたのさ」
ともりる「小林が退屈してると思って来てあげたんですよ。感謝してください」
小林「なんで私が楠木なんかに感謝しなきゃいけないの? だいたいさぁ――」
別室
美渡「あの二人、泊めても大丈夫なのか?」
志満「あら、どうして?」
美渡「志満姉だってわかってるだろ? あいつらは――」
志満「美渡は心配しすぎよ。全部私にまかせて」
美渡「……わかった。じゃああとはよろしく頼むわ」
志満「はい、頼まれました」 翌日 浦の星女学院
ともりる「事件が起きる前、善子ちゃんの様子がおかしかったりしませんでしたか?」
ルビィ「う〜ん……どうだったかなぁ?」
花丸「善子ちゃんはいつも変ずら」
ともりる「えっ?」
花丸「堕天とかリトルデーモンとか、いつも変なことばっかり言ってて……」
ともりる「あぁ……あの子自分のことヨハネとか言ってましたね」
小林「それ以外ではなにかなかった?」
花丸「さあ? 普通だったと思うずら」
ルビィ「ルビィもおかしいところはなかったと思います……」
ともりる「ん〜、そうですか」 小林「じゃあ……ヨハネちゃんって付き合ってる子とかはいたのかな?」
ルビィ「ピギッ!? つ、付き合うって……」
花丸「たぶんいたんじゃないかな」
ルビィ「ええっ!?」
小林「なにか心当たりがあるの?」
花丸「うん。オラ、見ちゃったんだ……善子ちゃんが校舎裏でキスしてるの」
ルビィ「ぅゅ……あの善子ちゃんが……」
花丸「そして、そのキスの相手は――」
小林「梨子ちゃんでしょ?」
花丸「どうしてわかったずら!?」 廊下
小林「この町は普通の町じゃないね」
ともりる「……急になんですか」
小林「さっきずらずら言ってた子いたでしょ?」
ともりる「あぁ、花丸ちゃん……でしたっけ」
小林「うん。なにか変だと思わなかった?」
ともりる「……強いて言うなら、高1なのに小林よりも胸がお――」
小林「“ずら”だよ」
ともりる「……? どこかおかしかったですか?」
小林「“ずら”っていうのは、静岡とか山梨とか長野とかで使われてる方言で――」
小林「“だろう”とか“でしょ”っていう意味なのね。つまりなんでもかんでも語尾につければいいものじゃないわけ」
ともりる「はあ」 小林「たとえば『今でしょ!』は『今ずら!』、『ワイルドだろぉ?』は『ワイルドずらぁ?』で――」
小林「『なんでだろう』は『なんでずら〜なんでずら〜なんでだなんでずら〜♪』ってこと」
ともりる「それ全部古いですよ小林」
小林「……とにかくこの町のことが少しずつわかってきたよ」
ピリリリリ……ピリリリリ……
小林「おっ」ピッ
小林「もしもしヨハネちゃん? うん、小林小林」
小林「あ〜、じゃあ今から行くよ。いや全然大丈夫。それじゃ」ピッ
小林「楠木、悪いんだけど急用ができたからあとは一人でよろしく」タッタッタッ
ともりる「は? ちょっと待ってください!……まったくもう」 道
果南「事件が起きる前?……特に変わった様子はなかったと思うけど」
ともりる「ふむ……つまり様子がおかしかったのは梨子ちゃんだけってことか」
果南「それより事件の後の鞠莉のほうがよっぽどおかしいよ」
ともりる「と言うと?」
果南「もともと鞠莉はあんな暗い子じゃないからね。もちろんいつでも能天気ってわけでもないけどさ」
ともりる「へえ、そうなんですね」
果南「なんていうか……シャイニー☆って感じかな」
ともりる「シャイニー?」
果南「ああ、シャイニーっていうのは鞠莉の口癖ね」
ともりる「なるほど。じゃあ今は言わばクラウディ……って感じですかね?」
果南「え?」 ともりる「いえ、忘れてください……」
果南「そういえば小林は? 一緒じゃないの?」
ともりる「それが急用とか言ってどっか行っちゃったんですよ。まあどうせ病院でしょうけど」
果南「病院ってことは、善子ちゃん?」
ともりる「はい。どうも小林のお気に入りみたいで……勝手なことしないでほしいですよね」
果南「……かまってもらえなくて寂しい?」
ともりる「べ、別に寂しくなんかないです! あんなのいても鬱陶しいだけですから……」
果南「ほんとかな〜ん?」
ともりる「ほんとですっ! それよりスクールアイドルの活動はいいんですか?」
果南「あー、今は梨子ちゃんも善子ちゃんも参加できないから休止中なんだよね」
ともりる「あぁ……」
せつ菜「こんにちは」 ともりる「えっ、あ、こんにちは……」
果南「おっ、せつ菜ちゃん。こんにちは」
せつ菜「そちらの方は……?」
果南「この人は広域捜査官の楠木ともりさん。失踪事件の捜査で東京からこっちに」
せつ菜「そうでしたか……お仕事、頑張ってくださいねっ」
ともりる「あっ、はい」
せつ菜「では私はこれで」スタスタ……
ともりる「……今の子は?」
果南「あの子は優木せつ菜ちゃん。“青空と海未と虹の会”っていうなんかの団体の代表だよ」
ともりる「なんかって……というかあの格好はなんですか? ステージ衣装ですよね?」
果南「……そういえばせつ菜ちゃん、普通の服着てるとこ見たことないような」 十千万旅館
ともりる「で、小林は仕事サボってなにしてたんですか?」
小林「サボってないよちゃんと仕事してたよ」
ともりる「では具体的にどんなことをしていたのか私に報告してください」
小林「えーなんで?」
ともりる「私があなたの上司だからです」
小林「わかったよ……ヨハちゃんがね――」
ともりる「ヨハちゃん?」
小林「うん、親しみを込めてヨハちゃん。ヨハネちゃんより語呂いいし」
ともりる「どうでもいいですよそんなの!」
小林「自分から聞いたくせに……」
ともりる「なんですか?」ギロッ
小林「いや……だからヨハちゃんがね? 病院から出られなくて買い物できないって言うから私が代わりに」
ともりる「女子高生にパシられたんですか小林……」
小林「違うもん。パシリじゃないもん、おつかいだもん」 ともりる「どっちでも同じことですよっ! 結局それ仕事じゃないし」
小林「まだ続きがあるの! そのヨハちゃんのおつかいのあと、ついでに警察署に寄ったんだよ」
ともりる「今“ついで”って言いましたよね? 普通そっちがメインですよね?」
小林「細っかいなぁ楠木は……いいから黙って聞いててよ」
ともりる「はいはい……」
小林「警察署でね、例のうちっちーの着ぐるみについて聞いたんだけどさ――」
小林「保管してないって言うんだよ。現場についたときにはもう着ぐるみはなかったって」
ともりる「ええ? じゃあ着ぐるみはどこに行ったんですか」
小林「さあねぇ……水族館から盗難届は出てるみたいだけど」
コンコンッ
志満『お食事をお持ちしました』
ともりる「えっ、ここで食べるんですか?」
小林「うん、そう。どうぞー」
スーッ
志満「あら、ともりさんも一緒だったのね」 ともりる「ええまあ、仕事の話があったので……」
志満「よかったらともりさんのお食事もここに持ってきましょうか?」
小林「いや、こいつは――」
ともりる「ぜひ、お願いします」
小林「は?」
志満「かしこまりました」スタスタ
小林「ちょっと楠木! どういうつもり?」
ともりる「志満さんの厚意に甘えただけです。小林は私と食事するの、嫌なんですか?」
小林「…………」
………………
…………
……
小林「――ああ、やっぱりそらまるさんもそう思いますか」
小林「はい、もちろんそれについても調べますよ。えっ? まあそうですね……」
小林「わかりました、じゃあまた。おやすみなさい」ピッ 翌日 駐車場・車内
小林「ねえヨハちゃん、なにか思い出した?」
善子「いいえ、なにも」
小林「なんでもいいからさ、思い浮かんだことがあったら教えてね」
ともりる「この車……というかバス? また地元警察から借りたんですか?」
小林「うん。しばらくはここに置かせてもらうことにしたよ」
ともりる「ふーん……」
小林「どうかなヨハちゃん」
善子「……ライン」
小林「ん? “ライン”? ラインってなに?」
善子「わからないわ。ただ、急にその言葉が浮かんで……」
ともりる「ラインって言ったらあのアプリじゃないんですか?」
小林「いや違うでしょ」
善子「違うわね」
ともりる「今わからないって言ってましたよね!?」
善子「言ったけどそれが違うっていうのはわかるの!」
ともりる「え〜……」
小林「うーん、ラインか……」 浦の星女学院
ともりる「広域捜査官の楠木ともりです」
小林「私は小林だよー」
曜「あっ、千歌ちゃんとこに泊まってる……」
小林「そうそう。で、あなたはたしか……曜ちゃんだったかな?」
曜「はいっ! 私が渡辺曜であります!」
小林「さっそく本題なんだけど……事件が起きる前、梨子ちゃんの様子おかしかったのは知ってるよね?」
曜「うん。見るからに変だったから」
小林「その原因についてなにか心当たりはない? たとえばヨハちゃんのこととか」
曜「……? どうして善子ちゃんが出てくるの?」
小林「あ、知らない? 梨子ちゃんとヨハちゃんが付き合ってるの」
曜「あれ、小林こそ知らないの? 善子ちゃんは鞠莉ちゃんと付き合ってるんだよ?」
こばりる「ええっ!?」 曜「え……私なにか変なこと言った?」
ともりる「……小林はどう思います?」ヒソヒソ
小林「いやぁ……ヨハちゃんやるなぁって」ヒソヒソ
ともりる「そうじゃなくって!」
小林「うっさ! 耳元で叫ばないでよ!」
ともりる「小林が寝ぼけたこと抜かすのが悪いんですよ!」
小林「だってさぁ……」
ともりる「きっと事件の原因は善子ちゃんの浮気です」ヒソヒソ
小林「そうかなあ?」ヒソヒソ
ともりる「間違いないですよ。それに気付いた鞠莉ちゃんがキレて事件を起こしたんです」ヒソヒソ
小林「……だとしたら、楠木はどうする?」ヒソヒソ ともりる「あのバスを徹底的に調べます。なにか証拠が残ってるかもしれないですし」ヒソヒソ
小林「わかった。じゃあそうしてみよう」ヒソヒソ
曜「ねえ、さっきからひそひそなに話してるの?」
小林「いやっ、大したことは話してないよ?」
曜「もしかして私のおかげでなにかわかったとか?」
小林「あの、その、えっと……」
ともりる「着ぐるみが行方不明なんですよ」
曜「着ぐるみ?」
ともりる「事件のあった日、現場に落ちてたうちっちーの着ぐるみです」
小林「そ、そうそう! 犯人はその着ぐるみを持ってる可能性が高いって話」
曜「へ、へぇ……そうなんだ」
小林「そうなの! あはは……」 駐車場・車内
ともりる「さーて、証拠を探しますよー!」
小林「ねえ楠木」
ともりる「なんですか?」ゴソゴソ
小林「さっきなんで曜ちゃんに着ぐるみの話したの?」
ともりる「それは……とっさに出てきたのが着ぐるみだったんですよ」ゴソゴソ
ともりる「嘘を教えてごまかすよりは納得してくれると思って」ゴソゴソ
小林「ふーん」
ともりる「それより小林も探してくださいよ! なんで私一人でやらなきゃいけないんですか!」
小林「だって言い出しっぺは楠木じゃん」
ともりる「だからって手伝わない理由にはならないでしょう? 探してください」
小林「はーいはい……」ゴソゴソ ともりる「まったく……おや? これなんだろう……?」スッ
小林「ん? あー、カセットテープだよ。楠木は知らないでしょ〜?」
ともりる「いや知ってますけど。録音内容はなんなのかって話です」
小林「ああそう……じゃあ宿に戻ったら確認しよう」
浦の星女学院
ルビィ「善子ちゃん、もうすぐ学校来るんだって」
花丸「えっ、本当ずら?」
ルビィ「うん。さっき先生が話してるの聞いたから」
花丸「そっか……善子ちゃん、戻ってくるんだ」
ルビィ「よかったね、花丸ちゃん」
花丸「……うん」 事件現場
小林「着ぐるみを持ち去った人がいるとしたら、それは誰だと思う?」
ダイヤ「さあ……? わたくしにはわかりかねます」
小林「楠木はどう?」
ともりる「犯人じゃないんですか? 小林もそう言ってましたよね?」
小林「あれは適当に言っただけだよ。犯人が持ち去った可能性は低いと思う」
ともりる「ならいったい誰が?」
小林「さあね。でもそのうちわかると思うよ」
ともりる「また適当な……ん? ねえダイヤちゃん、あの建物は?」
ダイヤ「あれは青空と海未と虹の会の建物ですわね」
ともりる「ああ、あのせつ菜ちゃんの」
ダイヤ「ご存知なのですか?」
ともりる「あー、まあちょっとだけ……一応話を聞きに行ってみようかな」
小林「それじゃ私は病院行こっかな〜」
ともりる「またですか? 愛しのヨハちゃん」
小林「うっさい」 十千万旅館
千歌「はい、お水」スッ
曜「ありがと千歌ちゃん」ゴクッ
千歌「でもどうしてリヤカーなんか引いてたの?」
曜「あ〜……昨夜体重量ったら少し増えちゃってて、ちょっと運動をねー」
千歌「あれ? 曜ちゃん一回家帰ったよね? なんでわざわざこっちに戻ってきたの?」
曜「それはほら、こうやって千歌ちゃんに会えるんじゃないかなあって思ったから」
千歌「そうなんだ〜。でも体重増えたなんて見た目じゃ全然わからないよ?」
曜「いやいや、こういうのは見た目に出る前になんとかしないと」
千歌「そっかぁ〜」 青空と海未と虹の会
ともりる「こんにちは〜」
せつ菜「あっ、昨日お会いした広域捜査官の……ともりさん、ですよね?」
ともりる「覚えてくれてたんですか?」
せつ菜「はいっ、私のことも覚えていてくれて嬉しいです! どうぞ中へ」
………………
…………
……
ともりる「すごい数の本ですね……」
せつ菜「まあ、全部漫画やライトノベルなんですけどね」
ともりる「ほんとだ……これだけあったらここにこもっても退屈しませんね」
せつ菜「あはは……でもなんだか緊張しちゃいます。刑事さんとお話なんて」
ともりる「大丈夫ですよ、私は怖い人じゃないですから。小林はどうか知りませんけど」
せつ菜「小林?」
ともりる「あ、小林は私と一緒にここに派遣された……まあ“仕事の”パートナーですかね」
せつ菜「なるほど……ところで今日はどうしてここへ来たんですか?」
ともりる「事件現場からこの建物が見えたので」 せつ菜「へえ、なんだか不思議な理由ですね」
ともりる「まあ……不思議な事件の捜査ですから」
せつ菜「ふふっ、なるほど。なんだかともりさんとは仲良くなれそうな気がします」
ともりる「そう……ですか?」
せつ菜「はい。それはさておき、話があるなら遠慮なくどうぞ」
ともりる「ああ、えっと……事件のあった日、なにか変わったことはありませんでしたか?」
せつ菜「うーん……特になかったと思います」
ともりる「ふぅむ……ではもしなにか気付いたことがあれば連絡してください」
せつ菜「わかりました」
病院
小林「ヨ〜ハちゃんっ!」ピョンッ
善子「あら? また来たのね、小林」
小林「さっき先生から聞いたんだけど、もうすぐ退院するんだって?」
善子「ええ、明日の予定よ。ようやくここともおさらばね」
小林「明日かぁ……来てもいいよね?」
善子「いいけど……あんまりはしゃいじゃダメよ?」
小林「わかってるよ〜」 夜 十千万旅館
志満「これで大丈夫かしら?」
ともりる「はい、ありがとうございます」
小林「ちゃんと動くかな……?」
千歌「試してみよう」チカッ
カセットデッキ〈DJミトのミットナイトラジオ〜!〉
千歌「ん?」
カセットデッキ〈こんばんはー、DJミトで――〉
美渡「うわあああー!」カチッ!
千歌「あっ、ちょっと美渡姉! なんで止めちゃうの!?」
美渡「う、動くってわかったんだからいいだろ! 早くそっちのテープ入れろって!」
小林「じゃあ聞いてみよっか」ガチャガチャ
小林「よし……いくよ?」カチッ
カセットデッキ〈…………〉 千歌「…………」
美渡「…………」
志満「…………」
小林「……なにも聞こえないね」
ともりる「もう少し先を聞いてみましょう」
千歌「早送りっ」チカッ
キュルキュルキュル……
千歌「再生!」チカッチカッ
カセットデッキ〈…………〉
小林「……うーん」
ともりる「裏はどうですか?」
小林「裏じゃなくてB面ね」
ともりる「どっちでもいいでしょう!?」
千歌「えっとぉ……」ガチャガチャ 千歌「これで再生っと」チカッ
カセットデッキ〈…………〉
千歌「……あのさぁ、ミットナイトって――」
美渡「それはもう忘れろ」
小林「……やっぱり無音」
志満「ちょっと待って。このテープ、空じゃないわ。よく聞くとかすかにノイズが……」
ともりる「ノイズ?……ほんとだ」
カセットデッキ〈ジー……〉
翌朝 十千万旅館・客室
小林「おはようございます、そらまるさん。はい、事件は確実に動いてます」
小林「……もちろん順調ですよ。新たな手がかりも見つかったので」
ピピッピピッ
小林「あっ、すみません警察署から着信が……また連絡します」ピッ
小林「もしもし小林です」 警察署
鞠莉「……ええ、間違いないと思うわ」
ともりる「へぇ、じゃあこれが例の着ぐるみなんですね……」
小林「水族館の裏に置いてあるのを職員が発見したんだって」
ともりる「なんでそんなところに置いてったんですかね?」
小林「返そうと思ったんじゃないの?」
ともりる「だとしたらずいぶんと律儀な犯人ですね……探しますか?」
小林「いや、それは地元警察に任せるよ。もうだいたいの見当はついてるし」
ともりる「えっ、誰なんですか?」
小林「楠木わかんないの? 怪しいのは一人しかいないでしょ」
ともりる「うーん……もしかして、曜ちゃん?」
小林「うん、あの子に着ぐるみの話をした直後にこれだからね。わかりやすすぎるよ」
鞠莉「曜が、犯人なの……?」
小林「まあ一応犯人ではあるよ。現場から着ぐるみを持ち去ったのは曜ちゃん」
小林「ただバスを消した犯人ではない……私はそう考えてるよ」
鞠莉「ならあれは誰がやったの? 教えてよ、小林……」
小林「ごめん、それはまだわからない。でも必ず犯人は見つけるから、ね?」
鞠莉「…………」 道
小林「なんかさぁ、みんな私のこと“小林”って呼ぶよね」
ともりる「なんですか急に……いつも“小林”って名乗ってるからでしょう?」
小林「あっ、そっかだからか……今度から気をつけよっと」
ともりる「小林も私のこと“楠木”って呼ぶのやめたらどうですか?」
小林「は? なんで?」
ともりる「普通上司を呼び捨てにしないですよ? “さん”ぐらいつけてもいいと思いますけど」
小林「でも私のほうが先輩だもん……さん付けとか絶対嫌」
ともりる「なら前みたいに“ともり”って呼びます?」
小林「……呼ぶわけないでしょ」
ともりる「そうですか」 病院
小林「ヨハちゃん退院おめでとう!」
善子「フッ……出迎えご苦労、リトルデーモン小林」
小林「あっ、荷物持ってあげるね」
善子「助かるわ。それにしてもあなたまで来るとはね。たしか……楠木だったかしら?」
ともりる「ともりでいいですよ」
小林「じゃあ私は愛香で!」
善子「小林、ともり。出迎えの褒美に今日は一つだけ望みを叶えてあげるわ。なんでも言ってみなさい」
ともりる「小林ともり……」ボソッ
小林「はいはい! 私ヨハちゃんの家に行きたい!」
善子「家? まあ今なら誰もいないからいいけど……」
小林「よっし! じゃあすぐ行こう! ダッシュで行こう!」
善子「慌てなくても家は逃げたりしないわよ」
小林「ちょっと楠木! なにぼーっとしてるの? 行くよっ」
ともりる「あ、すみません」
小林「ヨッハちゃんのおーうちっ! レッツラゴ〜!」 津島家・善子自室
小林「おっ、これ黒魔術の道具?」
善子「ええ、よくわかったわね」
小林「私もちょっとかじってるからねー。友達に教えてもらったんだけどさ……あれ?」
善子「どうしたのよ?」
小林「いや……その友達の名前も顔も思い出せなくて。誰だったっけ……」
ともりる「あの! 黒魔術よりも事件の話をしましょうよ」
小林「……楠木ってつまんないでしょ?」
善子「そうねぇ……たしかに面白くはないわね」
ともりる「むっ……」
小林「でもまあ一応仕事っぽいこともしとかないといけないかぁ」
ともりる「ぽいことじゃなくてちゃんと仕事してくださいよ」
小林「えっと〜、ヨハちゃんって梨子ちゃんと鞠莉ちゃん、どっちが本命なの?」
善子「えっ、どうしてそのこと……」
小林「ふふふ、ヨハちゃんは隠してたつもりみたいだけど、意外と周りには気づかれてるもんだよ?」
善子「そう……ちなみに誰から聞いたの?」 小林「それは言えないかなー。それより私の質問に答えてよ」
善子「……先に付き合ってたのは鞠莉よ。でも私は梨子のことも本気で好きだったわ」
ともりる「よく聞くセリフですね……」
小林「あの日三人がバスに乗ってたのは、ヨハちゃんの二股に関係があるんじゃないかな?」
善子「わからないわ……覚えていないの」
小林「例えば鞠莉ちゃんか梨子ちゃんに二股がバレたとか」
善子「……事件が起きたのは、私のせいなの?」
小林「そうは言ってないよ。ただバスに乗っていた理由が事件解決の手がかりになるかもしれないから」
善子「あのさ、小林」
小林「ん?」
善子「いえ……なんでもないわ」
小林「そう?」
ともりる「あの、そろそろ行きませんか? あんまり長居しても善子ちゃんに迷惑ですし」
善子「ヨハネっ!」
小林「そうだねぇ……じゃ、今日のところはこのへんで勘弁してあげよう。またね、ヨハちゃん」
善子「ええ、気をつけて帰りなさいよ」 十千万旅館
千歌「もし漫画とかアニメの世界に行けるとしたら、小林はなんの世界に行きたい?」
小林「えー? そうだなぁ……私が行くなら〜……うーん、悩むなぁ……」
ともりる「そんな真剣に考えることですか?」
小林「じゃあ楠木はなんの世界に行きたい?」
ともりる「私は……ん〜、なにがいいですかね……」
小林「ほーら、そっちだって悩んでる」
ともりる「う……」
千歌「やっぱり悩んじゃうよね〜」
ともりる「あっ、でも小林はもう半分二次元みたいなもんですよね」
小林「楠木さ、それどーいう意味?」
ともりる「胸に手を当てて、ぶふっ!……考えてみたらどうですか? くすくす……楠木だけに」
小林「笑うな!」
千歌「待って待って、私もわかんない。半分二次元ってどういうこと?」
小林「千歌ちゃん……」
ともりる「純粋さって、時に残酷ですよね……」
千歌「?」
第二夜へつづく 死んだおばあちゃんも言っていましたがこのSSはフィクションです。
明日もよろしくお願いします。 みものやつは完全に終幕したんだっけ
新シリーズも期待 第二夜「楠木ともりと邪悪な者たち」
翌日
小林「ふんふんふーん」ゴソゴソ
ともりる「なにやってるんですか?」
小林「うわびっくりした……勝手に入ってこないでよ」
ともりる「ノックしたのに気づかない小林が悪いんですよ」
小林「だからって普通入ってこないよね」
ともりる「で、さっきからゴソゴソなにしてるんですか?」
小林「ちょっと黒魔術の道具を見てるんだよ。ヨハちゃんに自慢できるようなレア物持ってきてないかなぁと思って」
ともりる「捜査に関係ないもの持ってこないでくださいよ……」
小林「関係なくないよ、使うよ捜査に」
ともりる「そんな怪しいもの捜査に使わないでください」
小林「いやいや黒魔術は馬鹿にできないよ?」 ともりる「そんなこと言ってるから東京の事件から外されるんですよ」
小林「うるさい楠木」
ともりる「はぁ、小林はそうやってすぐ私を邪険にしますよね……」
小林「そっちがそういう態度とってるからでしょ」
ともりる「……それは小林のせいですよ」ボソッ
小林「なんか言った?」
ともり「いえ別に」
小林「あっそう……用がないなら出てってくれる?」
ともりる「はいはい……あれ? この可愛いのなんですか?」ヒョイ
小林「それは魔法のお守り。肌身離さず持ってると守ってくれるの」
ともりる「ふーん……」 小林「なに? 欲しいの?」
ともりる「いえ……」
小林「まあ欲しいって言ってもあげないけど」
ともりる「じゃあください」
小林「は? なんで?」
ともりる「こんな可愛い人形小林には似合いませんからね。私が持ってます」
小林「ムッカー……返して」
ともりる「嫌です」
小林「楠木っ!」
ともりる「仕方ないですね……なら代わりにこの胸が大きくなるミラクルドリンクをあげますよ。どーぞ」スッ
小林「マジ!? これ飲むと成長するの!? Amazonで箱買いしなきゃ――」
小林「って、これスポロンじゃん! おい楠木! あれっ、いない!?」 青空と海未と虹の会
せつ菜「あっ、ともりさん。こんにちは」
ともりる「こんにちは。お出かけですか?」
せつ菜「レレレのレー……なーんて」
ともりる「……あ、はい」
せつ菜「よかったら一緒に行きませんか?」
ともりる「あ〜、じゃあそうしようかな……」
夕方 三津海水浴場
ともりる「戻ってきてるし!」
せつ菜「えっ?」
ともりる「いえその……私そこの宿に泊まっているので」
せつ菜「そうだったんですか……なら別の場所にしたほうがよかったですね」
ともりる「あっ、大丈夫です! 気にしないでください。ところでここでなにを?」 せつ菜「撮影です」
ともりる「撮影?」
せつ菜「町の風景をカメラに記録しているんです」
ともりる「……なんのために?」
せつ菜「今見えている景色が明日もまた見られるとは限らないじゃないですか」
せつ菜「町だけじゃなく、誰かの笑顔だっていつ見られなくなるかわからない……」
せつ菜「だから残しておくんです。忘れてしまわないように」
ともりる「そう、ですか……でも、綺麗な景色ですね」
せつ菜「……戦争や災害があると夕焼けが赤くなります」
せつ菜「爆発や火災で大気中の塵が増えると赤さが増すそうです」
ともりる「へぇ……東京の事件と関係があるんですかね?」
せつ菜「そんなにひどい状況なんですか? 東京は……」
ともりる「はい……広域捜査庁はもちろん、警視庁公安部の秘密部署まで動いているらしいんですが――」
ともりる「未だに犯人は捕まっていなくて……3年前にあったテロ事件を覚えていますか?」 せつ菜「あのスポーツ大会で起きた事件のことですよね。大会も中止になって……」
ともりる「はい。今起きている事件も元を辿ればあのテロが始まりなんです」
ともりる「もともと問題だらけの大会だったから、なにが起きてもおかしくない状況だったんですけど――」
ともりる「あんな大事件が起きるとは誰も思っていなくて……まあ関係者は大会の失敗をテロで誤魔化せてラッキー――」
ともりる「なんて思ってたみたいですが。今の状況を見ても、あの人たちは同じことが言えるんですかね」
せつ菜「…………」
道
小林「バスに乗っていた三人の共通点は、まあいわゆる三角関係でした」
小林「だけどあの三人、あるいは二人にはなにか別に共通点があると思うんです」
小林「……やっぱりそらまるさんもそう思いますか……ん?」
ルビィ「あっ……こ、こんにちは……」
小林「すみません、また連絡します……はい」ピッ
小林「こんにちは、ルビィちゃん」 カフェ
小林「ルビィちゃんって好きな子とかいるの?」
ルビィ「うーん……お姉ちゃん、かなぁ」
小林「いやそうじゃなくてさ、恋愛的な感じのね?」
ルビィ「そ、そういうのはまだルビィには早いと思います……」
小林「でもヨハちゃんもルビィちゃんと同じ1年生だよね?」
ルビィ「そうだけど……」
小林「だから別に早いってことはないと思うよ?」
ルビィ「でも……ぅゅ……」
小林「あー……ルビィちゃんはこういう話苦手なんだ」
ルビィ「ごめんなさい……」
小林「じゃあもっと面白い話をしてあげる」
ルビィ「?」 小林「住居侵入罪ってあるでしょ? あれを“重度貧乳罪”って言い間違えた人がいてさ」
小林「たぶん胸が小さすぎると逮捕されちゃうのね」
小林「もし本当にそんな犯罪があったら私もルビィちゃんも確実に捕まるでしょ?」
小林「で、胸が大きくならない限り何度も何度も逮捕されるの。おかしいよね」
ルビィ「へー……」
小林「うん、あんまり面白くなかったかな。ならもっととっておきのを――」
ピリリリリ……ピリリリリ……
ルビィ「あっ、お姉ちゃんからだ」
小林「どうぞ出て出て」
ピッ
ルビィ「もしもしお姉ちゃん?……今はカフェにいるよ。ううん、小林も一緒」
ルビィ「……うん、じゃあ今から帰るね。はーい」ピッ
ルビィ「えっと……ルビィ、もう帰らなきゃ」
小林「送ってくよ。行こっか」 深夜 十千万旅館・廊下
小林「ふわぁ〜……ん?」
コンコンッ
小林「楠木? 起きてるの?」
ともりる『……小林ですか。入ってもいいですよ』
スーッ
小林「なにしてんの? 今2時半だよ?」
ともりる「テレビ見てるんですよ。『異世界、いい世界』ってドラマなんですけどね」
小林「なにそれ……聞いたことないんだけど」 ともりる「たまたまテレビつけたらやってて、見てみたらこれが意外と面白いんですよ」
小林「嘘だぁ、異世界モノなんてほとんど地雷じゃん。しかも実写って」
ともりる「いやいや、ほんとに面白いんですって。というか小林はなんでこんな時間に起きてるんですか?」
小林「ん〜、なんか急に目が覚めちゃってさ」
ともりる「えっ、小林もなんですか?」
小林「私もって、楠木もそうなの? うわぁ、気持ち悪ーい」
ともりる「気持ち悪いってなんですか失敬な」
小林「じゃ、私はもう部屋に戻るから楠木もちゃんと寝なよ。おやすみ」
ともりる「あ……おやすみなさい」 翌日 浦の星女学院
善子「…………」スタスタ
鞠莉「善子」
善子「……ヨハネよ。久しぶりじゃない」
鞠莉「ごめんなさい……お見舞い、行かなくて」
善子「別に気にしてないけど」
鞠莉「その……二人きりで話がしたいの」
善子「……いいわよ。場所を変えましょ」 空き教室
善子「で? 話ってなによ」
鞠莉「……梨子は今どこにいるの?」
善子「そんなの私が知るわけないじゃない」
鞠莉「あの日あなたは梨子と一緒に消えたのよ? なにか知ってるんでしょ?」
善子「なにも覚えてないの。あの日の記憶は、残ってないのよ」
鞠莉「……そう。でもあなたが無事でよかった……んっ」
善子「んぅ……ちょっ、鞠莉やめっ……んんっ」
鞠莉「善子……ん……」
廊下
花丸「っ……」タッタッタッ…… 十千万旅館
ともりる「ここで一度事件を整理してみませんか?」
小林「あー、いいんじゃない?」
ともりる「まず現時点でいくつかやりっ放しになってることがありますよね」
小林「バスにあったカセットテープとか?」
ともりる「そうですね。他には?」
小林「ん〜、あの三人がバスに乗っていた理由」
ともりる「それから?」
千歌「はい!」
ともりる「おっ、なんですか?」
千歌「DJミトのミットナイトラジオ!」
ともりる「それは却下です」 千歌「えっ、なんで!? ねぇ小林〜」
小林「ごめん、さすがにこれは楠木に賛成かなぁ」
千歌「そんなぁ〜……」
小林「あとはヨハちゃんが思い出した言葉、“ライン”」
ともりる「ふむ……こんなもんですかね?」
小林「そうだね」
ともりる「あ、私ひとつ気になってることがあるんですけど……」
小林「なに?」
ともりる「鞠莉ちゃんです。あの子、必要以上に落ち込んでると思いませんか?」
小林「う〜ん……まあたしかにね」
ともりる「逆になんで他のみんなは平常運転なんでしょう? 事件からまだ一ヶ月程度しか経ってないのに」 小林「疲れるからじゃないの?」
ともりる「はい?」
小林「落ち込んでる時ってさ、一日中横になってても疲れるでしょ?」
ともりる「そういうものなのかな……どうなんですか? 千歌ちゃん」
千歌「私っ!? ええっと……よくわかんない」
ともりる「えぇ……まあいいです。ひとまず今挙がったものをメモしておきますか」
ともりる「カセットテープ、バスに乗った理由、ライン、クラウディ鞠莉、っと……」
小林「クラウディ鞠莉って……」
ともりる「なにか文句でも?」
小林「いや……あっ、ブラッディ・マリーっていう都市伝説あったよね」
ともりる「それがどうかしたんですか?」
小林「別にどうも……言ってみただけ」 浦の星女学院
小林「そろそろ話してくれてもいいんじゃないかな。あの日二人をバスに乗せた理由」
鞠莉「…………」
小林「言っておくけど私たちはもう三人の関係がわかってるからね?」
鞠莉「えっ?」
小林「これ以上隠してても意味ないんじゃないかな」
鞠莉「……その手には乗らないわよ」
小林「あっ、はったりだと思ってる? でも残念、三角関係はとっくにバレてるよ」
鞠莉「はぁ……わかった、話すわ」
小林「聞かせてもらおっか」
鞠莉「事件が起きる少し前に、善子が浮気してるって気付いたの」
小林「ふむ……ちなみにどうやってそれを知ったの?」
鞠莉「この目で見たのよ……学校で善子と梨子がキスしているのを」
鞠莉「そういうこと、私とは家でしかしてくれなかったのに……」
鞠莉「あの時梨子と目が合ったんだけど、すごく動揺してたわ。きっと私と善子の関係を知っていたのよ」
鞠莉「だから三人で話し合うためにあの日二人を車に乗せたの。そしたら――」
小林「ヨハちゃんと梨子ちゃんがバスごと消失した」
鞠莉「……ええ」 青空と海未と虹の会
ともりる「うっ……お、美味しいですね、この……カレー?」
せつ菜「本当ですかっ!? よかったです!」
ともりる「その……すみません、食事まで頂いちゃって……ごちそうさまでした」
せつ菜「あっ、よかったらおかわりしませんか? たくさんあるのでっ」
ともりる「えっ……いや、あの……」
せつ菜「スタッフのために多めに作るんですけど、みんなあんまり食べてくれなくていつも余っちゃうんです」
ともりる「でしょうね……」ボソッ
せつ菜「だからともりさん、遠慮しないで好きなだけ食べてくださいねっ!」
ともりる「あ、ありがとうございます……うぷっ」
ブー ブー
せつ菜「お客さんかな……はーい」スタスタ
ガチャッ
小林「どうも」
ともりる「あ……」
せつ菜「こんにちは」
小林「…………」
ともりる「…………」 道
ともりる「せつ菜ちゃんの料理、すっごく美味しいんですよ。小林も今度食べたらどうですか?」
小林「いや、私はいい」
ともりる「むぅ……」
小林「で、あそこでなにしてたの? 事件の捜査?」
ともりる「も、もちろんそうですよ」
小林「なにか収穫はあった?」
ともりる「いえ……すみません」
小林「別に空振りだったのはいいんだけどさ、ひとつ確認してもいい?」
ともりる「どうぞ」
小林「楠木はさ、せつ菜ちゃんのことどう思ってるの?」
ともりる「……それはどういう意味ですか?」
小林「んまあ一応は優秀な楠木が余計なものに惑わされたら困るかなって」
ともりる「それなら小林のヨハちゃんLOVEのほうがよっぽど問題だと思いますけど」
小林「へぇ?」
ともりる「私のことより、まずは自分を省みたらどうなんですか?」
小林「…………」 三津海水浴場
小林「鞠莉ちゃんが話してくれたよ。あの日三人でバスに乗った理由」
ともりる「なんだったんですか?」
小林「ヨハちゃんの浮気について話すつもりだったみたい」
ともりる「鞠莉ちゃんが犯人の可能性は?」
小林「どうかなぁ……鞠莉ちゃんだといまいちしっくりこない感じ」
ともりる「ふむ……鞠莉ちゃん以外の学校関係者はどうでしょう?」
小林「今の所なんとも言えないけど、可能性はあるね」
ともりる「そうですか……その、さっきはすみませんでした。少し言いすぎました」
小林「……ううん、私のほうこそちょっと無神経だったと思う」
ともりる「じゃあ……お互い様ということで、お茶でも奢ってください」
小林「なんで私が!? 上司なんだからそっちが奢ってよ」
ともりる「いいえダメです。今日は小林の誕生日なんですから」
小林「だったらなおさらそっちが奢れっての!」
ともりる「なら公平にじゃんけんで決めましょう。じゃけぽんっ!」パー
小林「ぬぁっ! ちょっと!」グー
ともりる「私の勝ちですね。行きますよ、小林」
小林「このぉ〜……!」 浦の星女学院
ダイヤ「あら? こんなところにサイコロキャラメルが……」
ガサガサッ
ダイヤ「ん……? 誰かいるのですか?」
シーン……
ダイヤ「あのっ……誰もいないのでしょうか」ガサガサ
バッ!
ダイヤ「ひっ――!」
バタッ
廊下
ルビィ「あっ、曜ちゃん。お姉ちゃん見なかった?」
曜「ダイヤさん? 見てないけど……」
ルビィ「そっか……どこに行っちゃったのかなぁ」
曜「探してるなら私も手伝おっか?」
ルビィ「えっ、いいの……?」
曜「もちろん! 見つけたら連絡するね!」 カフェ
小林「長野で一番多い名字って“小林”なんだって」
ともりる「へー……えっ、もしかして小林って長野出身なんですか?」
小林「いや違うけど」
ともりる「ああそう……にしても、人のお金で飲み食いするものはやっぱり美味しいですね」
小林「楠木ぃ……」
ともりる「お誕生日おめでとうございます。あむっ」モグモグ
浦の星女学院
ルビィ「お姉ちゃんっ、お姉ちゃん起きて!」ユサユサ
ダイヤ「っ!」
曜「あ、起き――」
ダイヤ「ピイィイイィイギャァ〜〜!!」
ルビィ「ピギッ!?」
曜「ど、どうしたの!?」
ダイヤ「み、見たんです……」
ルビィ「見たって、なにを……?」
ダイヤ「邪悪な者です! 邪悪な……」ブクブク 夜 十千万旅館
ともりる「鑑識の結果、カセットには音声もパソコンのデータも入っていない上、指紋すら残っていないとは……」
小林「まあ想定の範囲内だけどね」
ともりる「でも変ですよね? そんなものバスに隠すなんて……どうします? 次はラインかクラウディを調べますか?」
小林「うーん……調べるって言ってもねぇ、どう調べるかだよねぇ」
ともりる「小林……やる気あるんですか?」
小林「あるよ。あるからどうするか考えてるんだって」
ともりる「ふーん……」
小林「とりあえず明日はヨハちゃんに会いに行って脳をリフレッシュしよっかな〜」
ともりる「……ま、好きにしたらいいんじゃないですか」
津島家・善子自室
ピコン
善子「あら?」
PC画面〈メッセージが届いています〉
善子「…………」カチッ
PC画面〈ヨハネさん、あなたを探していました。〉
善子「……フッ」 翌日 浦の星女学院
小林「ヨハちゃんどこかなー。1年の教室かな……」
ドンッ……ドンッ……
小林「ん? なんの音だろ……この教室から聞こえるな」
ガラッ
小林「こんにちはー……」
生徒たち「!」ガタッ
小林「あの、ちょっと話を――」
タッタッタッ……
小林「え、ちょっ、どこ行くの?……なんなのあの子たち。あっ、なにか落ちてる……」ヒョイッ
小林「これは……?」
十千万旅館
志満「ともりさん、今日は小林と一緒じゃないの?」
ともりる「……私と小林ってそんなに一緒にいるイメージあります?」
志満「ええ、お二人ともすごく仲良しだから」
ともりる「別に仲良くはないですし、捜査では別行動も多いですよ」
志満「あらそうなの? 意外だわ……ふふっ」 浦の星女学院
善子「部活ね」
花丸「うん、部活で使ってるカードずら」
小林「へぇ……なんの部活?」
花丸「この学校には非公認の“壁ドン部”っていうのがあって……」
花丸「詳しくはオラも知らないんだけど、それは“壁のカード”ずら」
善子「他にも“ドンのカード”と“キュンのカード”があるらしいわ」
小林「なるほど……」
花丸「たぶん部員もかなり多いんじゃないかなぁ。いんたーねっとには部員だけが入れる部屋があるんだって」
小林「そうなんだ。部長は誰かわかる?」
花丸「ううん、オラは知らないよ」
善子「……桜内梨子」
小林「えっ?」
善子「私と一緒に鞠莉の車に乗っていた、今も行方不明の梨子よ」
小林「ヨハちゃん、もう少し詳しく教えてほしいんだけど」
善子「ごめんなさい、私もそれ以上は知らないわ。ただ……」
小林「ただ?」
善子「梨子はもうすぐ帰ってくる……部員たちはそう思っているみたいよ」 十千万旅館
ともりる「あっ、小林おかえりなさい」
小林「楠木さ、紙持ってない?」
ともりる「紙ですか? 一応バッグに入ってますけど……」
小林「じゃあそれ持って外で待ってて」
ともりる「はあ……」
数分後 十千万旅館前
小林「おまたせ〜」
ともりる「うわなんですかそのきったない箱」
小林「汚いとは失礼な……これは黒魔術の道具!」 ともりる「それでなにしようってんですか」
小林「キーワードを掴み出すんだよ。事件の本質に繋がる犯人の無意識にあるキーワード」
ともりる「へー……で?」
小林「その紙一枚ずつに事件に関係するものをこのペンで書いてって」
ともりる「関係するものって?」
小林「人とか物とか場所とか、とにかく思いつくものを片っ端から書いていこう」
ともりる「じゃあまずは被害者から。津島善子と桜内――」
小林「待って待って一枚ずつって言ったじゃん! 一枚に書くのは一個だけ!」
ともりる「なんでそんな贅沢な使い方するんですか……」
小林「いいから言う通りにやって」
ともりる「はいはい……」 十分後
ともりる「……こんなもんでいいですかね?」
小林「うん。そしたら箱の中に火をつけて一枚ずつ燃やす」
ともりる「いいんですか? こんな宿の真ん前で……志満さんに怒られません?」
小林「大丈夫、ちゃんと許可とってるから」
ともりる「それじゃとっとと燃やしちゃいましょう」ボッ
………………
…………
……
小林「よーし、燃え尽きたね。次は燃やした灰をこの板に撒く!」バッ
ともりる「ねえ小林、出てくるキーワードってなんだと思います?」
小林「さあねぇ、わかんないよ」
ともりる「私は数字の“2”と予想しました。当たってたらなんか奢ってください」 小林「またぁ? 外れてたら私に奢ってくれるって言うなら賭けに乗るよ」
ともりる「それ圧倒的にそっちが有利じゃないですか……まあいいでしょう、今回は特別に――」
小林「フッ!!」ボワッ!
ともりる「ゲッホ! ゴホッ! ちょっと小林! なんでいきなり灰吹き飛ばすんですか!」
小林「あ、ごめん……風向きが悪かったね。でもほら見てよ」
ともりる「あっ、これ“二”ですよ漢数字の! 私すごくないですか!? ほぼ正解ですよこれ!」
小林「まだ全部吹き飛ばしてないじゃん……フッ!」ボワッ
ともりる「あれ? ニ……ジ?」
小林「うん、キーワードは“ニジ”」
ともりる「……で、これがなんだっていうんですか?」
小林「ものすごいヒントだよ。“ニジ”を追っていけば事件は解決する……」
ともりる「ニジかぁ……ニジってなんですかね? 空にかかる虹?」 夕方 浦の星女学院
ダイヤ「事件の捜査は進んでいるのでしょうか……」
果南「どうかなぁ……小林のほうはちょくちょく学校に来てるみたいだけど」
ダイヤ「でしたら小林にも昨日の不審者のことを伝えたほうがいいかもしれませんわね」
果南「その不審者ってのも事件に関係あったりするのかな?」
ダイヤ「それはわかりませんが、果南さんも邪悪な者には用心してください」
果南「うん、わかったよ。あれ? あそこにいるのって……」
ダイヤ「あれは……鞠莉さんと小林?」
小林「壁ドン部って知ってる?」
鞠莉「……ええ。噂はよく聞くわ」
小林「噂……どんな?」
鞠莉「壁ドン部に入部すると部長からパソコンにメッセージが届くようになるらしいの」
鞠莉「三日くらい前に、“梨子が帰ってくる”って予言が届いたとか……」 夜 十千万旅館
美渡「……小林帰ってこないなー」
ともりる「ですね……先にご飯食べちゃおっかなぁ」ピッ
プルルルル……プルルルル……
ともりる「話し中だし……どうせそらまるさんでしょ」
美渡「そらまるさんって?」
ともりる「私たちの上司で、それはもうできる人だったんですよ」
美渡「……美人?」
ともりる「……ええ」
道
小林「そらまるさん、“ニジ”ってなんだと思いますか?」
小林「はい……やっぱりそうですよね。私も同じこと考えてました。あ、それから――」 翌朝 十千万旅館
ともりる「へー、壁ドン部ですか」
小林「うん。でもなー、壁ドンって言ったらうるさい隣人に対して壁をドン! って叩くやつじゃないの?」
ともりる「そっちの使い方してる人今日日いませんよ……」
小林「まあそうなんだけどさ」
ともりる「それはさておき気になりますね、その部活」
小林「なんとかして部長からのメッセージとやらを受け取れないかなぁ」
ともりる「じゃあ手分けして方法を探しましょうか」
小林「そうだね」
ともりる「しかしこの小林のカードってどう使うんですかね?」
小林「ん?」
ともりる「あっ、間違えた。壁のカードだ」
小林「……おい楠木」
ともりる「ちょっとぉ、怒んないでくださいよっ」
小林「そっちが喧嘩売ってくるからでしょ!?」
ともりる「いや違うんですって、ほんとにうっかり言い間違えちゃったんですよ」
小林「そのほうがもっとムカつくわ!!」 昼 浦の星女学院
小林「こんにちは、鞠莉ちゃん。私に話があるんだよね?」
鞠莉「ええ……場所を変えてもいいかしら? 二人きりで話がしたいの……」
小林「いいよ。行こっか」
駐車場
鞠莉「小林……梨子は生きていると思う?」
小林「うん。確実に」
鞠莉「どうして?」
小林「死ぬ必然がないからだよ。例えば今回の事件を一つの物語として考えると――」
小林「梨子ちゃんが死んでいるストーリーが成り立たない……」
鞠莉「面白いことを考えてるのね……」 小林「事件っていうのはそういうものだからね。それで、話ってなにかな?」
鞠莉「小林……これ以上この事件に関わらないでほしいの」
小林「それは?」
鞠莉「……あなたたちはラインを越えているわ」
小林「えっ……ライン?」
鞠莉「踏み込んではいけないところに足を踏み入れてるってこと……」
鞠莉「人には越えちゃいけないラインがある……そのことをわかってほしいの」
小林「でもそれは……」
ポツ……ポツ……
鞠莉「一ヶ月前のあの日、私はそのラインを越えてしまったかもしれない……」
鞠莉「だから……だから、踏み越えるなってことよ!」
ザーッ…… 青空と海未と虹の会
ザーッ!
ともりる「あーもうっ! なんで急に降り出すの!?」タッタッタッ
せつ菜「ともりさん!」
ともりる「あっ、せつ菜ちゃん!」
せつ菜「こっちへどうぞ!」
道
ピリリリリ……ピリリリリ……ピッ
小林「……もしもし?」
曜〈あ、えっと……小林?〉
小林「そうだけど……誰?」
曜〈渡辺曜であります!〉
小林「なんだ曜ちゃんか。どうしたの?」
曜〈その……今から会いたいんだけど、いいかな?〉
小林「いいけど……」
曜〈じゃあ待ち合わせしよっか。場所は――〉 カフェ
曜「ごめんなさいっ!」
小林「えっ、なになに? いきなりなんの謝罪?」
曜「実は……うちっちーを盗んだのって、私なんだよねー……」
小林「あ〜そのことね」
曜「あれっ、もしかして知ってた……?」
小林「まあ……」
曜「そっか……あっ、でも失踪事件は私がやったんじゃ――」
小林「それもわかってるよ」
曜「本当? よかったぁ……」
小林「話はそれだけ?」
曜「いや、これを返し忘れてて……」スッ
小林「鍵?」
曜「うん。それがうちっちーの中にあったんだ」
小林「ふむ……なんの鍵だろうね?」
曜「わからないけど、捜査の役に立つかな?」
小林「もちろん。重要な手がかりだよ、これは」 夜 青空と海未と虹の会
ともりる「…………」ゴクッゴクッ
せつ菜「雨、すっかり止みましたね」
ともりる「ですね。これ、あったかくてとっても美味しいです」
せつ菜「市販のものをただ温めただけの手抜きなんですけどね」
ともりる「全然いいですよ、そのほうが助かりますから」
せつ菜「えっ?」
ともりる「あ、いや……今日は鞠莉ちゃんについて聞きたくて」
せつ菜「鞠莉さんですか? 浦の星の理事長の?」
ともりる「はい。お知り合いだったりしますか?」 せつ菜「いえ……時々お話することもありますけど、それほど親しいわけでは」
ともりる「……どう思います? 犯人ってことはありませんかね?」
せつ菜「どうでしょう……ひとつ言えるのは、鞠莉さんは何らかのラインを越えてしまっていますね」
ともりる「ライン?」
せつ菜「それがなんなのかはわかりません。でも彼女はラインを越えている目をしているんです」
ともりる「なるほど……もし、私がラインを越えてしまったら?」
せつ菜「それは、どういう意味ですか……?」
ともりる「せつ菜と……私の間にあるラインってこと」
せつ菜「…………」 十千万旅館
コンコンッ
ともりる『私です、入っていいですか?』
小林「んー、どうぞー」
スーッ
ともりる「これ、見てください」
小林「あれっ、これって壁ドン部のメッセージ? どうしたの?」
ともりる「せつ菜……ちゃんにやり方を聞いたんです。あそこのメンバーにも部員がいるらしくて」
小林「そうなんだ……メッセージの中身は?」
ともりる「これです」カチッ
小林「これは……」 津島家・善子自室
ピコン
善子「…………」カチッ
PC画面〈今夜、聖地にてMs.Rainbowの声を聞け〉
善子「今夜、聖地にてMs.Rainbowの声を聞け……今夜、聖地にてMs.Rainbowの声を聞け……」
山中
部員たち「Ms.Rainbowの声を聞け……Ms.Rainbowの声を聞け……」
ともりる「えぇ……」
部員「みんな聞いて。今日はMs.Rainbowが私たちに啓示を与えてくださいます」
部員たち「…………」 部員「Ms.Rainbow、あなたの声をお聞かせください」
部員たち「Ms.Rainbow、あなたの声をお聞かせください……Ms.Rainbow、あなたの声をお聞かせください……」
??「…………」スタスタ……
部員「Ms.Rainbow、あなたの声を!」
バサッ!
鞠莉「…………」
ともりる「鞠莉ちゃん……!」
鞠莉「私たちはラインを越えようとしている。解けなかった謎の答えが、導き出されるわ」
部員たち「Ms.Rainbowの声を聞け……Ms.Rainbowの声を聞け……」
ともりる「…………」
………………
…………
…… 翌朝 津島家付近
ともりる「どうして……」
小林「どうやらその建物から転落したみたいだね。かわいそうに……」
ともりる「私、許せません……」
小林「許せないって?」
ともりる「鞠莉ちゃんを殺した犯人に決まってるでしょう!?」
小林「犯人って……これは事故だと思うよ?」
ともりる「そんなわけありません! 誰かに突き落とされたんですよっ!」
小林「……なんのために?」
ともりる「鞠莉ちゃんはMs.Rainbowでした。壁ドン部を調べれば動機がわかるはずです」
小林「でもさぁ、鞠莉ちゃん布かぶって死んでるでしょ?」
ともりる「それは犯人が遺体を隠すためにかぶせたんですよ」
小林「いやいやよく見てよ、これ布掴んでるよね? 掴んだまま落ちたから遺体に布がかかったんだよ」
小林「それに遺体を隠そうとしたんならいくらなんでも杜撰すぎない? 足とか思いっきりはみ出してるし」
ともりる「じゃあなんで鞠莉ちゃんはあんなところから落ちたっていうんですか?」
小林「多分ヨハちゃんの部屋の中を覗いてたんじゃないかな。それで身を乗り出しすぎて落ちちゃった……」
小林「ここってヨハちゃん家のすぐそばだし、二人はおおっぴらに付き合ってなかったから鞠莉ちゃんもいろいろ溜まってたんだよ」 浦の星女学院
タッタッタッ……
果南「ダイヤっ!」
ダイヤ「ど、どうしたのですか? 血相を変えて……」
果南「ちょっと来て! 急いで!!」
ダイヤ「……?」
校舎裏
果南「ほら見て」
ダイヤ「これはっ……邪悪な者!」
果南「見回りしてたら見つけてさ、ちょっと眠らせたんだけど……」
ダイヤ「眠っているだけですわよね? 死んでいる、なんてことは……」
果南「うーん、たぶん大丈夫だと思う。で、どうしよっか?」
ダイヤ「……小林に連絡しましょう」 三十分後
小林「うわキモッ! どうしたのこれ?」
ダイヤ「校内に出没した不審者を果南さんが……」
小林「殺っちゃったんだ……」
果南「だから生きてるってば!」
小林「……よし楠木、その仮面外してみて」
ともりる「えっ、なんで私なんですか!?」
小林「いいからほら早く!」
ともりる「うぇ〜……えいっ!」ヒョイ
理亞「…………」
果南「理亞ちゃん!?」 保健室
理亞「……ん」
ルビィ「あっ、理亞ちゃん起きた!」
理亞「んん……? えっ、るる、ルビィ!?」
千歌「よかったぁ〜、ちゃんと生きてたんだね」
曜「全然目を覚まさないから心配したよー」
善子「っていうかアンタいったいなにしに来たのよ?」
理亞「……善子には関係ない」
善子「だからヨハ――」
ダイヤ「いいえ理亞さん、ここはしっかり説明しないといけませんわ」
果南「そうだよ。あんな不気味な格好してなにするつもりだったの?」
理亞「……サプライズ」
花丸「サプライズ?」
理亞「ルビィをびっくりさせようと思って……」
果南「あんな格好で脅かしたらルビィちゃんショック死するよ……」
花丸「あれっ? そういえば鞠莉ちゃんは?」
小林「あぁ……それは……」
ともりる「その、鞠莉ちゃんは――」 廊下
小林「どうして本当のこと教えなかったの? すぐわかることなのに」
ともりる「だってあの場でみんなに言えますか? 鞠莉ちゃんが死んじゃったなんて……」
小林「まあ言いづらいとは思うけどさ」
果南「どういうこと? 鞠莉が死んだって……」
ともりる「あっ、果南ちゃん……」
小林「ほら〜もうバレた」
果南「誰が鞠莉を殺したの!?」ガシッ
ともりる「いやっ、あの、それはまだ……」
小林「果南ちゃん、少し落ち着こっか」
果南「落ち着いてなんて――」
小林「鞠莉ちゃんの死の真相は私が必ず突き止めるから。だから、少し待っててくれないかな」
果南「……犯人、絶対に見つけてよ」
スタスタ……
小林「犯人、か……」
ともりる「これからどうします?」
小林「……たしか楠木は壁ドン部絡みじゃないかって言ってたよね?」 桜内家・梨子自室
ともりる「なんとしても手がかりを見つけないと……」ゴソゴソ
小林「ふむ……このベッドでヨハちゃんは梨子ちゃんとムッフッフ」
ともりる「小林……ふざけるのもいい加減にしてください」
小林「ふざけてないよ、なにか隠すならベッドの下かなって思っただけ」
ともりる「今どきそんなわかりやすいとこに隠しますかね……」
小林「でもほら、なんかあるよ」ゴソゴソ
ともりる「これは……同人誌?」
小林「おおすごい、壁の本がいっぱいある」ゴソッ
ともりる「えぇ……」
小林「ん? これはなんだ……?」 ともりる「箱……ですね。鍵かかってますよ、これ」
小林「鍵か……あっ! もしかして……」スッ
ともりる「その鍵は?」
小林「うちっちーの中にあった鍵」カチャッ
小林「おっ、開いちゃった」
ともりる「早く中身を!」
小林「うん」パカッ
小林「……また同人誌だ。『シン・カヴェクヰ』だって」
ともりる「これだけ厳重に隠してあるってことはきっと相当エグいやつですね……」
小林「これ、さっきの壁同人の二次創作みたい……ああ、小説なんだ……」ペラッペラッ
小林「うーん……これはなかなか、なに書いてあるかさっぱりわかんないな」 ともりる「えー? 小林読解力なさすぎですよ、貸してください。どれ……あー、うん……?」
小林「楠木だってわかんないんじゃん」
ともりる「うるさいなぁ……もっとゆっくりじっくり読めばわかりますよっ」
小林「作者は誰かわかる?」
ともりる「ええっと……桜内梨子?」
小林「えっ? これ梨子ちゃんが書いたの!?」
ともりる「みたいですね……」
夜 警察署
ともりる「筆跡鑑定の結果によると、やっぱりこの同人誌は梨子ちゃんが書いたものに間違いありませんね」
小林「そっか……この同人誌にはいったいどんな意味があるんだろう……」
………………
…………
…… 翌日 浦の星女学院・中庭
小林「この同人誌に心当たりはある?」
善子「……いえ、ないわね。これは?」
ともりる「梨子ちゃんが書いた同人誌です」
善子「リリーが……」
小林「ヨハちゃん、ちょっとこれ読んでみてくれないかな?」
善子「わかったわ。ふむ……」
小林「どう?」
善子「……なんなのよこれ? 意味不明じゃない」
ともりる「ですよね、わけがわかりませんよね?」
善子「どうしてこれを私に?」
小林「いやぁ、梨子ちゃんの恋人のヨハちゃんなら理解できるかなって思ったんだけど……」
善子「どうやら小林の役には立てなかったみたいね」
ともりる「やっぱり作者の梨子ちゃんにしかわからないのかな……」
善子「ずら丸ならわかるかも」
小林「ずら丸……? あっ、花丸ちゃん?」
善子「ええ。あの子読書好きだし、もしかしたら……」
第三夜へつづく このSSはダブルナインフィクーションです。
明日で終わるのでどうか見捨てないでください……。 どうなるのかさっぱり読めん
明日必ず更新してくれよな 第三夜「予測不能な最悪の結末」
廊下
花丸「どうしてオラに?」
小林「ヨハちゃんに文学なら花丸ちゃんだって聞いて」
花丸「じゃあ……少し見るだけなら」
小林「どうぞ」スッ
ともりる「……どうですかね?」
花丸「これを梨子ちゃんが……?」
ともりる「はい。書いたのは梨子ちゃんです」
花丸「そうなんだ……この本、少し借りてもいいかな?」
小林「なにかわかりそうなの?」
花丸「……三日後にまた来てほしいずら」 道
ともりる「同人誌って文学の範疇なんですか?」
小林「もちろん立派な文学だよ。もっと言えばネットの匿名掲示板にあるSSだって文学」
ともりる「それはさすがに言いすぎじゃないですかぁ?」
小林「言いすぎじゃないよ、これはともかく」
ともりる「え? これって?」
夕方 黒澤家・ダイヤ自室
ダイヤ「ルビィ、どこへ出かけたのでしょうか……」
ダイヤ「はぁ……鞠莉さん……ぐすっ、どうして……」
十千万旅館
ルビィ「…………」
志満「あらルビィちゃん。千歌ちゃんに用事?」
ルビィ「いえっ、その……小林とともりさんいますか?」 客室
小林「話ってなにかな?」
ルビィ「えっと……これはルビィの勘違いかもしれないけど、善子ちゃんの記憶が戻ってるかも……」
ともりる「えっ、本当ですか?」
ルビィ「…………」コクッ
小林「そっか……ひとつ聞きたいんだけど、理亞ちゃんがルビィちゃんに会いに来たのって今回が初めて?」
ルビィ「ううん、理亞ちゃんはよくルビィに会いにきてくれるから……」
ともりる「よく来るんですか!? あの子函館に住んでるんですよね!?」
小林「まあそういうこともあるよねぇ」
ともりる「えぇ〜……」 翌日 警察署
小林「やっぱり鞠莉ちゃんは事故死だね」
ともりる「どうしてそう言い切れるんですか?」
小林「鞠莉ちゃんのビデオカメラが見つかったからだよ」
ともりる「ビデオカメラ?」
小林「現場にあった街路樹に引っかかってたんだって。転落したとき一緒に落としたみたい」
小林「ま、百聞は一見に如かずって言うし、とりあえず見てみよっか。再生!」ポチッ
ともりる「あっ、この写ってるのって善子ちゃん?」
小林「うん。鞠莉ちゃんはこのカメラでヨハちゃんを盗撮していた。重要なのはこの後ね」
ともりる「……あっ、落ちた!」
小林「今のところをコマ送りでもう一度」ピッ
小林「見て、ここで一瞬鞠莉ちゃんがいた部屋の中が映るんだけどね」
ともりる「誰も、写ってない……」
小林「そう、つまり鞠莉ちゃんが突き落とされたとは考えにくい」
ともりる「じゃあ小林の言う通り鞠莉ちゃんは事故死……?」
小林「そういうことになるね」
ともりる「まさかそんな……」
小林「あとは梨子ちゃんの同人誌の謎が解ければ、事件解決にぐっと近づくはず」 翌々日 浦の星女学院
小林「ねぇ、花丸ちゃん知らない?」
善子「いいえ、今日はまだ見てないわね」
ともりる「えっ、学校に来てないってことですか?」
ルビィ「……これって鞠莉ちゃんのときと同じじゃ――」
善子「ちょっとルビィ! 馬鹿なこと言わないでよっ!」
小林「……花丸ちゃんの家の場所、教えてくれる?」
国木田家・花丸自室前
コンコンッ
小林「花丸ちゃん? いるの?」
シーン……
ともりる「……人の気配はしますね」
小林「開けるよ?」スーッ
花丸「…………」 ともりる「花丸ちゃん……?」
花丸「……これ、本当に梨子ちゃんが?」
小林「それは間違いないよ。花丸ちゃん、その同人誌の意味は?」
花丸「……わからない。オラの頭脳ではとても手に負えるものじゃないよ……」
小林「だいたい――」
バンッ!
花丸「わからないものはわからないずらっ!!」
小林「…………」
花丸「これは未来なんてもんじゃないずら……人が足を踏み入れていいことじゃ……!」
ともりる「…………」
境内
ともりる「桜内梨子……ただの壁オタクじゃなかったんだ」
小林「見たことのない世界を、梨子ちゃんは見ちゃったんだろうね……」
小林「ラインを越える……だいたい犯人がわかったよ」 浦の星女学院
小林「さてと……」
果南「小林、ちょっといい?」
小林「あ、うん」
空き教室
果南「私、やっぱり鞠莉は事故死じゃないと思うんだ」
小林「いやでも……」
果南「だってこのタイミングで転落死なんておかしいと思わない!?」
小林「まあ……そういう偶然が起こることもあるからさ」
果南「単なる事故だなんてありえない! 絶対誰かに殺されたんだって!!」
果南「お願い小林! 犯人を……犯人を殺してっ!!」
小林「…………」 道
ともりる「ふんふんふーん……あっ」
せつ菜「こんにちは。あの……少し時間ありますか?」
ともりる「はい、大丈夫ですよ」
カフェ
せつ菜「あなたに、謝らないと……」
ともりる「なんですか?」
せつ菜「この間の夜のこと」
ともりる「……どうして?」
せつ菜「私はともりさんに応えられなかったと思うので……」
ともりる「はは……いいんですよ、忘れてください」
せつ菜「いつも大切なことを見逃すタイプなんです……いろんな偶然が必然になるってことかもしれません」
ともりる「……よく、わからないですけど」
せつ菜「……そうですか」 夜 十千万旅館・客室
小林「少しわかってきたよ……ヨハちゃんと梨子ちゃんのつながりが」
ともりる「聞かせてください」
小林「別世界への憧れ、とでも言うのかな」
ともりる「別世界?」
小林「ヨハちゃんは自分のことを堕天使だって言ってるけど、実際はそうじゃないよね」
ともりる「そんなの当たり前じゃないですか」
小林「でも別の世界では天界からこの腐敗した世界に堕とされた本物の堕天使だった……」
ともりる「ちょっとなに言ってるかわかんないです」
小林「人間誰しも理想ってあるでしょ? もしその理想通りの世界があるとしたら、楠木は行ってみたい?」
ともりる「どうでしょう……行ってみたいような、今のままでもいいような……」
小林「たぶんあの二人は行ってみたいって気持ちが人よりも強いんだと思う」 小林「だからヨハちゃんは自分のことを“ヨハネ”って周りに呼ばせたがってるし――」
小林「梨子ちゃんは自分の理想を部活にしたり同人誌に書き記した……常人には理解できないほど綿密に」
小林「もしかしたら犯人も同じような人間なのかもしれない……」
………………
…………
……
小林「そらまるさん、ひとつ頼みたいことがあるんです。桜内梨子の過去を調べてくれませんか?」
小林「はい……普通に調べても出てこないような、そういうものです」
小林「もちろん大変なのはわかってます。ただでやってもらうつもりはありませんよ」
小林「……わかりました、ではそういうことでよろしくお願いします」
別室
ともりる「うーん……ってことだとすると……」
ともりる「いや、考えすぎかな。お風呂入ろっと」スクッ 翌朝
コンコンッ
小林「んぅ……楠木? 眠いから後にして……」
善子『私よ、小林』
シュバッ!
小林「ヨハちゃんおはよう!! よく来たねっ!」
善子「またひとつ思い出したことあるの」
小林「おっ、なになに?」
善子「星よ」
小林「星?」
善子「ええ、犯人は“星”に関係するはずだわ」
小林「星……」 駐車場 バス前
小林「いよいよ事件が解決するかもしれないよ」
ともりる「なんですか急に」
小林「さっきそらまるさんから電話があって……梨子ちゃんは東京である研究に関わっていたみたい」
ともりる「どんな研究ですか?」
小林「こことは別の世界を垣間見る研究だよ」
ともりる「それはどういう……?」
小林「つまりアニメとかゲームの世界を体験するってこと」
ともりる「へ〜……え?」
小林「その研究はお台場にある虹ヶ咲学園の中川研究室ってとこで秘密裏に行われてたんだけどね――」
小林「梨子ちゃんがこっちへ引っ越してきてから研究チームは解散状態らしくて」
ともりる「じゃあ梨子ちゃんがその研究を主導していたと?」
小林「いや、中川研究室って名前の通り中川菜々っていう生徒が中心になってたんだって」
小林「次期生徒会長間違いなしと言われるくらいの優等生だったんだけど――」
小林「梨子ちゃんの引っ越しの直後に行方をくらましてるんだよ」
ともりる「なるほど、その子を探すんですね。なにか手がかりはあるんですか?」
小林「……ひとつだけね」 夜 十千万旅館・客室
タッタッタッ……バーン!
千歌「小林小林! すごいよ大発見!」
小林「どしたの千歌ちゃん?」
千歌「いいから来て来て! ともりるも一緒にね!」
ラウンジ
千歌「見ててね……」チカッ
テレビ〈ザザッ……〉
ともりる「んん……?」 小林「なにこのビデオ……白黒だし画質も悪い」
千歌「これ、“SANPIX 1000”っていうビデオカメラで、こないだカセットデッキ探したでしょ?」
千歌「そのとき一緒に出てきたんだけど、実はこのカメラ普通のビデオテープに録画するんじゃなくて……」カチャッ
千歌「音楽用のカセットテープに録画するんだよ」
小林「……!」
ともりる「もしかしてあのカセットテープ……」
小林「楠木、急いでテープを持ってきて!」
………………
…………
…… 小林「再生するよ……」カチッ
テレビ〈ザザッ……〉
千歌「あっ! 梨子ちゃんだ!!」
ともりる「これ、なんの映像ですか?」
小林「たぶん中川研究室の実験の様子だね」
志満「一緒に写っている女の子たちは?」
小林「研究員じゃないかな。ねぇ、これを見て気付いたことはない?」
美渡「えっと、あー、えっと……」
ともりる「これを撮っている人間がいる!」
小林「ピンポーン。たぶん撮影者は中川菜々だと思う……ここで止めて!」
千歌「はいっ!」チカッ
小林「手のひらに星型の傷……ヨハちゃんが言ってたのはこのことかぁ」 翌日 道
小林「今からそらまるさんに調べてもらった宮下愛のところに行ってみます」
小林「どうしてこの町にいるのか……中川菜々と研究をしていた愛ちゃんがこの町にいるってことは――」
小林「事件と中川菜々がなんらかの関係があるかもしれないってことだと思うんです」
小林「はい……すみませんそらまるさん、中川の写真は?……そうですか、引き続きお願いします」ピッ
アパート
愛「お客さんなんて珍しいなあ」
小林「そうなの? あっ、私広域捜査官の小林愛香ね。愛香、愛香愛香」
愛「それで……聞きたいことがあるんだよね? 小林」
小林「4回も言ったのにぃ……まあいいや、愛ちゃんって虹ヶ咲学園の中川研究室にいたんだよね?」
愛「うん、そうだけど……それが?」
小林「中川菜々って子知ってるよね? 彼女について知ってることを話してほしいんだ」
小林「愛ちゃんの情報で一人の女の子が救えるかもしれないの」
愛「…………」 小林「教えてほしいのは中川研究室でしていた研究の内容。別世界に関する研究、だよね?」
愛「……うん。中川研究室では二次元の世界を体験する研究をしてたんだ」
愛「最初はその世界を覗くだけだったんだよ。あることが起きるまではね」
小林「あること?」
愛「アタシたちがやっていたのは、一時的に別世界へ移動する実験だったんだけど――」
愛「菜々はある日、人間を永久に別世界に閉じ込める実験に成功したんだよ」
小林「その実験の被験者は?」
愛「……菜々の両親」
小林「えっ……」
愛「あの子が親に対してどういう感情を持っていたのかはわからないけど――」
愛「菜々の両親が菜々の手によってこの世界から姿を消したのは間違いないよ」
小林「……それで菜々ちゃんは、また新たな実験を?」
愛「うん。今度は被験者が望む世界に送ってあげたいって言って――」
愛「りなりー……天王寺璃奈って子が被験者として名乗り出たんだ」
小林「実験の結果は?」
愛「……りなりーは、別世界には行けなかった。それだけじゃなく、ある障害が残って――」
愛「感情を顔に出すことができなくなったんだよ。それでも菜々は実験を続けようとして……」 小林「新たに被験者として選ばれたのが桜内梨子だった」
愛「そう。当然アタシもりなりーも実験には反対したよ。ラインを越えてほしくなかったから」
愛「でも……菜々は止まらなかった」
愛「だからアタシとりなりーはどうにか実験を中断させて、それからこっそり梨子を浦の星へ送ったんだけど……」
小林「その直後、菜々ちゃんも愛ちゃんたちの前から姿を消してしまった……」
愛「うん……」
小林「愛ちゃんはどうしてこの町に来たの?」
愛「菜々はきっと梨子がいるこの町に来てると思ったから」
小林「菜々ちゃんには会えた?」
愛「ううん……」
小林「そっか……菜々ちゃんと璃奈ちゃんのこと、愛してたんだね」
愛「……愛、だけにね」
夕方 海沿い
ともりる「やっぱり、ちゃんと確かめないといけないよね……」
ともりる「手のひらの傷、か……」 夜 十千万旅館・客室
小林「そらまるさん、犯人は中川菜々で間違いないと思います」
小林「はい……はい、はい。じゃあその子が中川だって可能性が高いんですね?」
小林「その子の写真って手に入りますか?……さすが、早いですね」
小林「今データベースにアクセスします」カタカタ……
PC画面〈nana_nakagawa.jpg〉
カチッ
小林「…………」
ジジ……パッ
小林「あぁ……そういうことか……」
青空と海未と虹の会
ブー
ともりる「…………」
ガチャッ
ともりる「こんばんは」
せつ菜「どうぞ」
バタンッ ともりる「そろそろこの町を離れることになりそうです」
せつ菜「ということは……事件が解決しそうなんですね」
ともりる「はい。小林はわかってるみたいです」
せつ菜「……そうですか」
ともりる「……せつ菜。私、不安なんで――」コツッ
バシャッ!
ともりる「ああっ! すみません、こぼしちゃいました……」
せつ菜「大丈夫ですよ。拭くもの持ってきますね」スタスタ……
ともりる「……っ」ゴソゴソ
スタスタ
せつ菜「ふう……」ゴシゴシ
せつ菜「あぁ、手袋もびしょびしょ……」シュルッ
ともりる「…………」ジー
せつ菜「…………」シュルッ
ともりる「……!」ジー
ともりる(手のひらに星型の傷……!) せつ菜「……どうかしました?」
ともりる「ぁ……」
せつ菜「コーヒーでも入れましょうか?」
ともりる「あ、はい。手伝いますよ」
せつ菜「いえ、座って待っててください」スタスタ……
ともりる「…………」
せつ菜「……小林と一緒に行動しないんですか?」
ともりる「あの人胸も心も貧しいんで、なるべく一人で行動するようにしてるんですよ」
せつ菜「そうなんですね……おまたせしました」
スチャッ
ともりる「動かないで!」
せつ菜「……どうしたんですか?」
ともりる「あなただったんだね……バスを消したのは」
せつ菜「いいえ……知りませんね……」ポイッ
ガシャンッ! せつ菜「っ!」サッ
ともりる「せつ菜っ!」
せつ菜「…………」カチッ
ウィーン! ボチャッ!
バチバチッ!!
ともりる(ブレーカーが……!)
ピリリリリ……ピリリリリ……
ともりる「っ……」スッ
スマホ〈着信:小林愛香〉
パシュ! プスッ!
ともりる「え……」
ともりる(麻酔針……?)
ドクンッ!
ともりる「はあ……はあっ……!」ゴトッ
ピリリリリ……ピリリリリ……ピリリリリ……! ともりる「っ!」スチャッ
パァン!
ともりる「…………」サッ
ともりる(……あれ? 麻酔が効いてない……?)バッ
小林『それは魔法のお守り。肌身離さず持ってると守ってくれるの』
ともりる(小林に貰ったお守りに当たったんだ……)
ともりる「……ありがとう」
せつ菜「…………」カチッカチャッ
ともりる「ねえ! こんなことしてもなんにもならないでしょ?」
ともりる「頭のいいあなたならわかるはずだよ……中川菜々ちゃん! 残念だけど、これがあなたの本名です!」スチャッ
せつ菜「っ!」サッ
ともりる「…………」
せつ菜「…………」スッ
パシュ! タンッ!
ともりる「っ……」 せつ菜「…………」ソー……パキッ
ともりる「!」スチャッ
パァン! パリン! パァン! ガシャン!
せつ菜「…………」サッ
せつ菜「……っ」カチッ
ラジオ〈ドーキドキトキドキトキメキッス!!!!〉
ともりる(ラジオの音楽? これじゃ足音が……)
せつ菜「…………」ノソ……ノソ……
ともりる(どうしよう。どうすれば……そうだ、窓を開けよう)
ともりる「…………」ソーッ
ともりる「っ……」ガタッガタッ
ともりる(お願い、開いて……!)
スーッ
ともりる(よしっ!)
ピリリリリ! ピリリリリ! ともりる「……!」
スマホ〈着信:優木せつ菜〉
せつ菜「…………」スッ
ともりる(まずい……このままじゃ……!)
ガチャッ パァン!
せつ菜「――!」
バタンッ
小林「…………」
ともりる「あ……」
タッタッタッ
小林「…………」スチャッ
せつ菜「…………」ビクッ……ビクッ……
ともりる「小林……来るのが遅いですよ」
小林「ふざけないでよっ!」
ともりる「っ……」 小林「いくら上司だからって勝手なことしないでっ!!」
ギュッ
小林「ともりになにかあったらどうするの……? ともりを、そらまるさんと同じ目に遭わせたくないのっ!」
ともりる「……ごめんなさい」
………………
…………
……
ともりる「どうですか?」
小林「全然ダメ。なーんにも見つかんない」
ともりる「……ん? こっちは?」
小林「いや……」
ともりる「あれ……なにか聞こえませんか? ピアノ?」
小林「この中からだね……開けるよ」ギィ
ともりる「なにかありますか?」
小林「ううん、なにも」 ともりる「……その床、外れるんじゃ?」
小林「え? どれ……」ガタッ
小林「おっ、開いたね」
ともりる「じゃあ、私から入ります」
小林「わかった」
地下
小林「…………」スタ……スタ……
ともりる「…………」スタ……スタ……
小林「あっ……」
ともりる「これって……桜内梨子?」
小林「だね……間違いないよ」
ともりる「……生きてるんですよね?」
小林「うん、生きてる」
梨子「…………」
………………
…………
…… 病院
ピッピッピッピッ……
ともりる「ねぇ、あなたはなにを見たの?」
せつ菜「…………」
ともりる「いったいなにを伝えたかったの? 私になにをしてほしかったの?」
ともりる「いつか……教えてくれるよね」
ヘリポート
キィィィィン……
小林「お別れは済んだの?」
ともりる「えっ?」
小林「いや、なんでもない」
バタバタバタバタ……
………………
…………
…… 翌朝 十千万旅館
小林「いや〜、まいったまいった」
ともりる「遅かったですね」
小林「寝坊しちゃってさぁ……なに食べてんの?」
美渡「見てわかるだろ、ラーメンだよ」
小林「えぇ、朝から?」
ともりる「美味しいですよ、朝ラーメン」
千歌「小林も食べなよ〜」
志満「すぐに用意するわよ」
小林「いや私はいいよ……朝からラーメン〜食べるぜハイウェイ〜♪」
一同「…………」
小林「なんか言ってよ……」 夕方 浦の星女学院
花丸「梨子ちゃんが帰ってきてよかったね」
善子「そうね……うん」
花丸「あれ、そうでもないずら?」
善子「そんなことないけど、ただ……」
花丸「ただ?」
善子「いえ、言い間違えただけよ」
花丸「……梨子ちゃんの意識が戻ったら、またAqoursで活動できるかなぁ。でも鞠莉ちゃんが――」
善子「ずら丸、あなたたちとはもう一緒にいられないわ」
花丸「どうしてずら?」
善子「…………」 善子「……っ」スタスタ
花丸「待って!」ギュッ
善子「ずら丸……」
花丸「善子ちゃんがいなくなることはずっと前からわかってたんだ。あの日、善子ちゃんが学校に来たときから」
善子「……さよなら」スタスタ……
花丸「…………」
夜 理事長室
ピコン
PC画面〈二次ステージに向かいましょう。〉
果南「…………」 翌日 三津海水浴場
小林「あれっ、花丸ちゃん?」
花丸「善子ちゃ――なんだ小林ずらか」
小林「こんなところで読書?」
花丸「うん、ちょっと気分転換に」
小林「隣、座っていいかな」
花丸「どうぞ……」
小林「へへ……よっこいしょっと」
花丸「……変なこと聞いてもいいかな?」
小林「なに?」
花丸「小林は大切な人を失ったことってあるずら?」
小林「……あるよ。何度も失ってる」
花丸「そうなんだ……オラも、大切な人をなくしそうなんだ」
小林「なくすことも必要だよ」
花丸「どうして?」
小林「なくすことでその人がどれだけ大切だったかわかるから……そういうもんだよ」
花丸「そっか……」 夜 十千万旅館
小林「…………」ソッ……
小林「おおお……できたぁ」
ともりる「小林〜、ちょっといいですかー?」スタスタ
小林「ちょっ、楠木静かに!」
ともりる「えっ……なにしてるんですか?」
小林「6段トランプタワー作ったの。すごいでしょ?」
ともりる「はあ。暇なんですね……」
小林「それだけ? もっとなんか言うことないの?」
ともりる「ないですよ……あれ? そのタワー、トランプ一組しか使ってないんですか?」
小林「うん」
ともりる「だとすると6段にするには枚数が足りないんじゃ……」
小林「そうなんだよ。どうやって作ったか気になるでしょ?」
ともりる「ええ、まあ……」
小林「実はさ……私トランプなんだよね」
ともりる「……は?」
小林「気を抜くとバラバラになっちゃうの。こんなふうに」フッ
バラバラバラバラ……
ともりる「ひいぃぃぃぃ……!」 ともりる「うわあっ!」ガタッ
千歌「っ!」ビクッ
ともりる「あれ……なんだ夢か。びっくりしたぁ……」
千歌「びっくりしたのはこっちだよ!」
ともりる「あ……すみません」
千歌「怖い夢でも見たの?」
ともりる「いや……ちょっとごめん」
千歌「ああ、小林なら出かけたよ?」
ともりる「えっ、こんな時間に?」 浦の星女学院
ともりる「もうっ、全然電話でないし……」
ダイヤ「あら? ともりさん、どうしたのですか? こんな遅くに……」
ともりる「小林は?」
ダイヤ「いえ……」
ともりる「来てないんですか?」
ダイヤ「来るのですか?」
ともりる「来る予定はないんですけど……」
ダイヤ「なら来ませんわ」
ともりる「ですよね……」
ダイヤ「来るかもしれないのですか?」
ともりる「いや……」
ダイヤ「でしたら来ないですわ」
ともりる「そう、ですよね……」
警察署前
ともりる「ここでもない……どこ行っちゃったの?」
タッタッタッ…… 桜内家・梨子の部屋
小林「…………」
小林「ん? これは……」スッ
小林「事件はまだ解決してないってことか……」
ガチャッ
ともりる「小林っ!!」
小林「どしたの?」
ともりる「どしたのじゃないですよ! 心配したんだからっ……ぐすっ、ずっと探してたんだからあっ!」
ともりる「うわあぁぁぁぁん……」
小林「えぇ……なに? ほんとどうしたの……?」
ともりる「事件が終わったら、愛香が消えちゃうっ」ギュッ
ともりる「急にそんな気がして……」
小林「いや、大丈夫だよ……」
ともりる「ううっ……」
小林「それに、事件はまだ終わってないよ」
………………
…………
…… 翌朝 十千万旅館・客室
ともりる「おはようございます、小林」
小林「ん、おはよう。楠木もそろそろ帰り支度したほうがいいんじゃない?」
ともりる「あ、それなんですけど帰るのは明後日になりました」
小林「えっ、なんで?」
ともりる「せっかく来たんですから観光していきましょうよ」
小林「二日間も? っていうか楠木と?」
ともりる「私とじゃ不満ですか?」
小林「いや……」
ともりる「上にはもう許可貰ってますし……ね?」
小林「う〜ん、でもさぁ……」
ともりる「むっ……これは上司命令です。今日と明日の二日間、私と観光すること! いいですねっ!」
小林「えぇ〜……」
ともりる「返事は?」
小林「わかったよしょうがないなぁ……」
ともりる「ふふんっ、じゃあすぐに出かける準備をしてください」
小林「はいはい……」 伊豆・三津シーパラダイス
ともりる「小林小林! イルカですよ! 可愛いなぁ〜」
小林「まあアシカには見えないよねぇ」
ともりる「……もっとマシなこと言ったらどうなんですか」
小林「マシなことって?」
ともりる「いえ、いいです……」
………………
…………
……
ともりる「いろんな魚がいますね、小林」
小林「当たり前じゃん水族館なんだから」
ともりる「……あのっ! なんでそう会話がすぐ終わるようなことばっかり言うんですか?」
小林「え?」 ともりる「そりゃ小林は楽しくないかもしれないですけど、だからってそういう態度をとられるのは……」
小林「あ……ごめん。その……楽しくないとかじゃなくて、なんていうか――」
小林「楠木といると気が抜けるというか、落ち着くというか……安心、みたいな? あれ、なに言ってんだ私……」
ともりる「ふ、ふーん……まあそういうことなら今回は大目に見てあげますよ」
小林「ん? 楠木なんか顔赤くない? 風邪?」
ともりる「赤くなんてなってませんっ! それよりほら、あっちのほうも見に行きますよ!」グイッ
小林「ちょっと、そんな引っ張んないでよ!」
夜 十千万旅館
小林「楠木さぁ、本当に明日も観光するの?」
ともりる「ええ、もちろん」
小林「だけど今日一日で結構いろいろ見て回ったよ?」
ともりる「私はまだ行きたいところがあるんです。小林には最後まで付き合ってもらいますからねっ」 翌日 あわしまマリンパーク
小林「楠木……昨日も水族館行ったよね?」
ともりる「そうですね。昨日はみとしーに行ったので、今日はこっちです」
小林「…………」
ともりる「あっ、知ってますか? ここって貧乳が主人公の映画でロケに使われたんですよ」
小林「へー……」
ともりる「あれ? 小林、体調でも悪いんですか?」
小林「ううん、大丈夫」
ともりる「ならいいんですけど……」
………………
…………
…… 夜 びゅうお・展望回廊
ともりる「綺麗な夜景ですねぇ……」
小林「そうだね」
ともりる「なんだかこうしてるとデートみたいですよね」
小林「いやデートじゃないし」
ともりる「……こんなふうに小林と仕事じゃなく出かけることなんて、もうないと思ってました」
小林「楠木……?」
ともりる「ねぇ、小林……」スッ
小林「ちょっ、ダメだって……!」
ともりる「どうして? どうしてダメなんですか?」 小林「だって、私たちはもう……」
ともりる「そんなの関係ありません! 私はっ、ずっと小林のこと――」
小林「ありがとう。気持ちは嬉しいよ」
ともりる「……小林のバカ」
小林「ごめん……」
ともりる「じゃあキスは我慢します。その代わり今夜は小林の部屋で寝てもいいですか?」
小林「部屋を交換しろってこと?」
ともりる「違います! 一緒の部屋で眠りたいって言ってるんですっ!」
小林「えぇ……」
ともりる「心配しなくてもなにもしませんよ」 深夜 十千万旅館・客室
ともりる「小林、まだ起きてますか?」
小林「……なに?」
ともりる「もう少しだけそっちに寄ってもいいですか?」
小林「ダメ」
ともりる「むぅ……ひとつ聞きたいことがあるんですけど」
小林「んー?」
ともりる「どうして私のこと振ったんですか?」
小林「さあ……もう忘れちゃった」
ともりる「……そうですか」
小林「あっ、そういえば楠木私になにか奢るって言ってたよね? キーワード当てられなかったから」
ともりる「なんでそういうことは覚えてるんですか……」
小林「東京戻ったら絶対奢ってよ?」
ともりる「はいはい、わかりましたよ」
小林「なに奢ってもらおっかなー……」
………………
…………
…… 翌朝 十千万旅館・玄関
小林「お世話になりました」
志満「いいえ、こちらこそ。また泊まりに来てくださいね」
ともりる「はいっ、ぜひ!」
美渡「今度は仕事じゃなく旅行で来なよ?」
ともりる「もちろんそのつもりです。ね、小林?」
小林「えっ? ああ、うん」
千歌「二人とも学校行くんだよね? 一緒に行こ!」
浦の星女学院・生徒会室
ダイヤ「この度は本当にありがとうございました」
果南「噂通り梨子ちゃんが戻ってきたのは、小林たちのおかげだよ」
小林「でも、鞠莉ちゃんが……」
ダイヤ「ええ……たしかに鞠莉さんのことは残念ですが、いつまでも下を向いているわけにはいきませんわ」
果南「あれは小林たちのせいじゃないって、ちゃんとわかってるから」
ともりる「……これからAqoursの活動はどうするんですか?」
ダイヤ「それについてはこれから話し合うつもりですわ」
ともりる「その……頑張ってください!」
果南「うん。二人もね」
小林「じゃあ……またどこかで」 2年教室
曜「そっかぁ、小林たち帰っちゃうんだ」
小林「寂しくなったらいつでも電話していいからね!」
曜「うーん……気が向いたらね」
小林「あれっ」
ともりる「振られちゃいましたね、小林」
小林「別にいいもん。私にはヨハちゃんがいるし」
曜「……そういえば今日は善子ちゃん見てないなぁ」
ともりる「えっ、学校来てないんですか?」
曜「どうかな……1年の教室にいるかもしれないけど」
小林「っ!」タッタッタッ……
ともりる「小林? ちょっと……」タッタッタッ……
1年教室
ルビィ「あっ、ともりさん!」
ともりる「ルビィちゃん、善子ちゃん見ませんでした?」
ルビィ「うーん、今日は見てないかなぁ……善子ちゃんがどうかしたんですか?」
ともりる「いえ、ありがとうございます」 廊下
小林「っ……」タッタッタッ……
花丸「小林……?」
小林「あっ、花丸ちゃん! ヨハちゃんは?」
花丸「見てないけど……」
小林「どこに行ったか知らない?」
花丸「わからないずら……ただオラには『さよなら』って言ってたよ」
小林「ああ……! そっかそういうことか!!」
タッタッタッ……
花丸「……?」
………………
…………
…… 小林「そらまるさん、この事件には共犯者がいます……はい、ヨハちゃんです」スタスタ
小林「そうです……はい、わかりました。また後で連絡します」ピッ
ともりる「いました?」
小林「いや……それより私は大変なことを忘れてたよ」
ともりる「なんですか?」
小林「ヨハちゃんだよ。あの子がこの事件の共犯者なの。そう考えるとすべての疑問が解ける……」
小林「ああそういうことか、やっとわかったよ! 楠木は引き続き学校を!」タッタッタッ
ともりる「ちょっと、どこに行くんですか!?」
小林「ヨハちゃんに会えるところ!」
タッタッタッ……
ともりる「私を、置いていかないで……」 病室
ピー ピー ピー ピー……
せつ菜「…………」
看護師「…………」グタッ
せつ菜「…………」スクッ
事件現場
小林「…………」
ブーン……キィッ
小林「…………」スタスタ
ガチャッ……バタン
善子「ふふっ……」
鞠莉「…………」ガチャッ
ブーン…… トンネル・車内
善子「小林は、今どこにいるかわかってるの?」
小林「まあ、たぶんね」
善子「じゃあ……私との関係は?」
小林「…………」ヒソヒソ
善子「……そうね」
ブーン……
小林「……!」
善子「今、ラインを越えたわ」
小林「…………」
――
――――
――――――
終 なぞなぞの答えは“空気”なんですがこのSSはフィクションです。
お粗末さまでした。 先頭から読み直したんだが真相が掴めんな…。擬音が表してる動作が正しくわかれば理解できるんだろうか 些細な描写が真相に繋がったりしてそうで不思議な話だ 150レスも投下して何一つ面白くないのって逆に凄いな 三十路探偵みもりんの人か
読んだけどわからん……真相は何だったんだ ラストシーンで鞠莉が生きてるんだよな……
ラインっていうのは生死の境とか2次元と3次元の壁のことかな
何か元ネタあったりするんだろうか、真相が気になる なぜかまだスレが残っているので答えを言ってしまう前にいくつかヒントを。
#1 小林が思い出そうとしている欠落した記憶はなにか?
#2 美渡はなぜこばりるを泊めることに不安を感じていたのか?
#3 ともりるが第一夜の最後に言う冗談は本当にただの冗談なのか?
#4 鞠莉が曇っていたのは、理亞がよく函館からやってくるのはなぜか?
#5 登場人物の中で別世界に憧れているのは善子・梨子・せつ菜の三人だけなのか?
#6 バスの中で小林は善子の質問になんと答えたのか?
以上です。真相は明日(もう今日ですが)の夜にでも……。 イライラとかモヤモヤさせて申し訳なかったんですが、
答えを言っちゃいますと「熱海の捜査官」というドラマを見ればこのSSのことはだいたいわかりますよ。
テシテシテシ。 おつおつ
カルトとかそういう話が大好きなので楽しく読ませていただきました
映像も音声もないからこその面白さに引き込まれます
この板のイメージだけで読み進めても何となく結末は察せるけれど
最後のヒントを見て何度か読み直してやっと全体像が分かった気がします
所々にあるちょいと不自然な点は作者からのヒントでしたか
納得が行ったときは気持ちよかったです
感謝感謝 >>177
こんなドラマあったんだな
wiki見たがネタバレ回避してあってなんとなくしか分からん なるほど元ネタがあったのね
でも分かったような分からないような ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています