高坂穂乃果は真姫がスキスキ
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――真姫の別荘 夜11時
くるくると髪をいじる。
真姫「で、リクエストは?」
穂乃果「穂乃果と真姫ちゃんのほろ甘えっちな曲!」
真姫「おばか」
最後に真姫ちゃんのピアノが聴きたい、だなんてこと言うものだから
一曲くらいなら、とつい答えてしまったのだ。
だけどこんな冗談が言えるなら、穂乃果はもうきっと大丈夫なのだろう。
今日は穂乃果たち3年生の卒業式。
なんとエリーたちもやってきて、式後は私の別荘で壮大な卒業パーティーが開かれた。 穂乃果「じゃあ、ジムノペディ第一番」
真姫「はいはい」
私はゆっくりと鍵盤に指を触れる。
パーティーは夜遅くまで続き、みんなでわいわいと騒がしかったものだ。
それがそのうち、すっと波が引くように――まるでみんなで示し合わせたかのように、
穂乃果と私を残していなくなってしまった。少し気まずい静寂だけを残して。
まぁ示し合わせたのでしょうけれども。
真姫(ジムノペディ、ね)
かつて穂乃果から鬼のような質問攻めにあったとき、面倒くさげな私の口からでてきた曲名だ。
ゆっくりと苦しみをもって(Lent et douloureux)。
サティの指示通り、わたしは指を動かす。
質問は確か……かなしい夜に聴く曲、だったかしら。
甘い苦悩のような旋律に、私の思考も飲まれていく。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
〜〜〜 あの本戦で優勝し、μ'sがナンバーワンスクールアイドルとなったあとの穂乃果は
やっぱり穂乃果でありながらも、確実にカリスマが増幅していった。
圧倒的なオーラで観客を、ステージを熱狂させ、そして次々と旋風を巻き起こした。
その影響は内部にも及び、凛と花陽はすっかり魅了されてしまったようだった。
私はというと、一歩下がってひとり冷めた目線で周りを見渡し、
その高坂穂乃果様が巻き起こした旋風とやらの事後処理をこそこそと行っていた。
最初のうちは海未が穂乃果のストッパーになってくれるんじゃないかと期待したこともあったけど、
気づいたらことりと二人揃って親馬鹿みたいに神輿を担いでいた。嗚呼、愚かなのは私だったのだ。
損な役回りだ、とも言えるだろうけれども、どっちにしろ誰かがやらなくちゃいけないことだ。
彼女らが騒ぎを起こしては代わりに頭を下げ、陰ながら場のフォローとアフターケアに徹し続けた。 事態を冷静に眺めていた私は、この穂乃果はそんなに長くは続かないだろうと見積もっていた。
そして案の定、ある日ぱたりと、憑き物が落ちたように穂乃果は普通の女の子へと戻っていった。
きっかけは知らない。
ただし迷惑極まりないことに、次の日から私は穂乃果から質問攻めに遭うようになった。
私服の趣味だとか使っているシャンプーだとか好きな作曲家だとか果ては子供時代のことだとか。
最初はさっぱり意味不明だったのだが、そうしないうちに判明することになる。
穂乃果からの猛烈なアプローチが始まったのだ。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
〜〜〜
穂乃果「うん。素敵だったよ。ありがとう」
神妙に聴いていたらしい穂乃果が、うっとりと礼を口にした。
真姫「それはどうも」
私はそっけなく言葉を返した。他にどうすればいい?
熱烈な交際の誘いを事実上毎日のようにバッサバッサとオコトワリし続けてきたのだ。
それも半年間か、あるいはもっと長くの間か……
穂乃果の卒業が見えてきた頃ようやくそれは止んだものの、彼女が私を諦めたのかどうかは知らない。
正直に言えばこの「最後」になにかをやらかすつもりではなかろうかと今もヒヤヒヤしている。
くるくると髪をいじる。 穂乃果「ねぇ、真姫ちゃん……最後にお願いがあるんだけど」
ほら来た。
真姫「最後のお願いならさっききいたわよ」
弾き終わったピアノの音。
不思議なことに、まだ頭の中に渦を巻くようにメロディが流れている。
穂乃果「そうじゃなくて、別のお願い」
真姫「はぁ……言ってみなさいよ」
聞くとは言っていない。
「今晩泊めて」だとか言い出したら本気で叩き出すつもりでいた。
穂乃果「最後に真姫ちゃんに、膝枕してほしいの」 ――――――――――
――――――
私は今、ソファーに腰掛けて、太ももに穂乃果の横顔をのせている。
穂乃果「……、……っ、……」
穂乃果は静かに震えて泣いていた。
やたら熱い液体が私の太ももを伝って流れ落ちる。
最後、ね。
くるくると自分の髪をいじっていた手を下ろし、
穂乃果の髪を、優しく、ゆっくりと指で梳いた。
――――――
―――― ――――時計の鐘が鳴る。
真姫「……帰りの車を外で待たせてるわ」
穂乃果「真姫ちゃんも一緒に乗るでしょ?」
真姫「いや……私は乗らない。今夜はここで……」
穂乃果「……そう」
穂乃果はそっと立ち上がると、手荷物をまとめた。
穂乃果「ねぇ、真姫ちゃん」
真姫「なによ」
穂乃果「なんかちょうだい」
真姫「いいわよ」
私の返事にあっけにとられた顔の穂乃果をよそに、私は数枚のCDをとりだして渡す。
どうせそんなことを言い出すだろうと思って用意しておいたのだ。
穂乃果「なにこれ?」
真姫「私が作曲したμ'sの曲の……編曲前のピアノ演奏盤よ。」
真姫「どれも私にとって大切な曲。あなたに、預ける」
穂乃果「……ありが…と……うれ………し……」
真姫「泣かないでよ、もう」
くるくると自分の髪をいじる。 ――エントランス
真姫「さようなら、穂乃果」
穂乃果「じゃあね真姫ちゃん。今日はありがとう」
そう言って彼女は、名残惜しそうにドアを閉じた。 こうして彼女はここを去って、ようやく私はひとりになった。
彼女は期待の新入生となり、私は医学部の受験生となる。
よろよろと横に歩き、壁に背中を預ける。
そして、ずるずる、ずるずると重力に引かれて、床にへたり込む。
もうしばらくは、起き上がれそうもない。
そこに残ったメロディは、ゆっくりと苦しみをもって、私の心を締め付けた。 くるくると地球は回る。
それでもやっぱり、太陽は沈むべきなのだ。
次なる新しい朝を迎えるために。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています