絵里「ただ、ありふれた夜」 海未「第二夜」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
https://youtu.be/gX6TrHWKKZQ
絵里「ふぁ〜あ・・・今日も疲れたわ・・・」ノビー
絵里「ま、明日から三連休だし、ゆっくりしましょ」
サービス残業をしたたかにやらされ、久方ぶりに空いた休日ではあったが
私はと言うと、さしあたって予定も無く、惰眠を貪ると言う予定を手帳にしたためる所だった
絵里「・・・こんな時は」
友人の力だーーー 絵里「・・・あっ、ここよー」フリフリ
海未「お待たせしました、絵里」
絵里「突然ごめんなさいね、無理言っちゃって」
海未「いえ、私も丁度晩酌をと思っていた所でしたので」
今は仕事の同僚であり、そして盟友とも言えるこの大和撫子の彼女は、園田海未
彼女とは部署が違う為、同じ会社と言えど中々会う事は叶わない
しかしながら、2人は予定さえ合えば何度も、アフターファイブを共にする程の仲であった
絵里「さて、いい時間だし、まずは軽く1杯行きましょうか」
海未「ええ、いいですね」
ざわざわと、ギラギラと、眩いネオンの光に歩き出す2人は、これから始まるつましい宴に胸を躍らせるのだったーーー 絵里「(笑)」
海未「まだ笑っているのですか・・・忘れて下さい」
絵里「だって・・・ふふふっ」
絵里は、先程の赤提灯で半ば強制的に海未にやらせた"枝豆のつかみ取り"で、有り得ないほど少ない量の枝豆しか取れなかった事を未だ引きずっている
海未「もう・・・ふふっ、絵里ってそんなに笑いの沸点低かったでしたっけ?」
絵里「まあ、確かに昔は全然笑ってなかったわね、今は結構大笑いするわよ?」
海未「いい事です。笑う門には福来る、ですから」
絵里「ええ、少しでも沢山笑って福を呼ばなきゃね」 海未「ーーーさて、割と先程の赤提灯で飲みましたが・・・もう一軒行きますか?」
絵里「その言葉を待ってたわ。締めに相応しいお店を最近見つけたのよ」
絵里「そこに行きましょう、海未」
海未「お供します、絵里」
何だか、サムライの部下みたいねと言おうとしたが(言って膨れる顔を見たいが)ぐっと飲み込み、彼女達は光溢れるネオンの街から、暗い影の路地へと歩みを進めるーーー コツコツ・・・
海未「随分入り組んだ所にあるんですね」
絵里「ええ、少し前、会社帰りに道に迷ってしまって、その時偶然見つけたの」
海未「道に・・・?よく通る道なのでは?」
絵里「恥ずかしながら、缶チューハイを飲んでたら少し酔ってたらしくてね・・・」
海未「千鳥足だったという事ですね・・・」
絵里「ええ・・・あ、ここよ」
指を指した先には、淡い光に包まれた小さな看板
あの時と変わらぬ、シンプルな文字
〜BAR Nine〜は、変わらずそこにあったーーー カランカラン・・・
ダイヤ「いらっしゃいませ・・・あ、絵里さん」
絵里「こんばんは、今日は2人なんだけど、いいかしら?」
ダイヤ「勿論です、カウンターへどうぞ」
海未「こんばんは、お世話になります」
絵里「固いわね・・・」
ダイヤ「ふふ、こちらこそ、本日は御来店頂き誠にありがとうございますわ」
絵里「ダイヤさんまで・・・」
そう言えば・・・私、前に来た時名乗ってたかしら・・・?
ダイヤ「?」
絵里「・・・まあいいか、失礼するわね」ストン
海未「私も失礼します」ストン ダイヤ「どうぞ、何を飲まれますか?」
絵里「そうね・・・私はマティーニを」
海未「私は・・・どうしましょう」
絵里「ああ、海未はあまりBARとか来ないんだっけ?」
海未「そうですね、絵里に誘われない限り、お酒を飲む時は大体家で嗜みます」
絵里「成程・・・まあでも海未はそこまでお酒に弱い訳でも無いわよね?」
海未「父の晩酌によくお付き合いしますから」
海未「しかし、カクテルはあまり飲んだ事無いですね・・・」
絵里「そういう時は?」
マスターに目配せをすると一言
ダイヤ「かしこまりました」
ここは、バーテンダーの面目躍如と言った所だ ダイヤ「お待たせ致しました、絵里さんにはマティーニです」コトッ
絵里「ありがとう」
ダイヤ「そして、こちらが海未さんです」コトッ
海未「ありがとうございます」
絵里「じゃあ、乾杯♪」
海未「乾杯です」
チン・・・
絵里「・・・うん、変わらぬ美味しさね」コクッ
ダイヤ「恐縮ですわ」
海未「これは・・・見たところ絵里のカクテルと変わりがないように見えますが・・・」
ダイヤ「お飲みになれば、分かりますわ」
含みのある目付きに海未は促されーーー
コクッ
海未「・・・っ!日本酒、ですか!」 絵里「ああ・・・"サケティーニ"ね」
ダイヤ「ご明察です、そのサケティーニですわ」
海未「日本酒の甘みとジンの苦味が、調和をなしています・・・美味しいです!」
絵里「ふふ、まるでリポーターじゃない」
ダイヤ「そう言われると、店主としても身が引き締まる思いです」
絵里「最近は、マティーニもウィットに富んだバリエーションが多いわよね」
ダイヤ「はい、カクテルの王様と言えど、言ってしまえば1カクテルに過ぎませんから」
ダイヤ「既存の物をどれだけの物に昇華出来るか、それを模索し続けるのがバーテンですわね」
海未「成程、昇華・・・素晴らしい考えです・・・」コクッ
絵里「挑戦し続けるバーテンダー、良いわね・・・」コクッ
ダイヤ「ありがとうございますわ」ニコッ 絵里「さてと、次は何にしようかしら」
海未「あ、私も頼みたいです」
絵里「じゃあ、私は・・・最近また"老人と海"を読み直したから、ダイキリを」
海未「私は最近友人に教えられた、雪国、をお願いします」
ダイヤ「はい、かしこまりました」 用意されたホワイト・ラム、ライム
この店はシンプルに、しかし確実なダイキリを作るらしい
メジャーカップに注がれたラムをシェーカーに切り
そこに手早くカットされたライムを絞り入れる
徐に掴み、振る
バーテンダー、という理想の形はそこにあった
「お待たせしました」
なみなみと、しかし一滴も零さず、これがさも当然と言うようにグラスに注ぐ
あの文豪の言葉を借りて、私なりに言うなら、今この場は
「この世は素晴らしい、カクテルを飲む価値がある」
そんな世界なのだーーー そして、同時に準備されていたウオツカと、ホワイトキュラソー、そしてライム
甘い甘い砂糖の上を、ライムで湿らせたカクテルグラスが、バレエの様に回る
さながら、それはPirouette(ピルエット)
このカクテルはたった今、バーカウンターという舞台でPrima(プリマ)へと昇華したのだ
そして、シェーカーに注がれた生命の水はプリマを彩る為、振られ、完成する
「雪国です、お待たせ致しました」
そして終演、いや、これは開演かーーー? 絵里「頂くわね」
海未「頂きます」
コクッ
絵里「・・・うん、ヘミングウェイならずとも1ダース飲みたくなるわ」
ダイヤ「ふふ、この時期には辛いですわね」
海未「これが雪国なのですね・・・本当に雪景色のように、溶けていくような・・・」
絵里「トンネルは抜けたかしら?」クスッ
海未「ここは雪国でしたね、ふふっ」
ダイヤ「あら、暖房でも入れましょうか」
アハハ・・・ 絵里「うん、今日も美味しいお酒だったわ」
海未「ええ、これからは度々BARにも足を運びたいものです」
ダイヤ「そう言って頂けると、バーテン冥利に尽きますわ」
絵里「・・・さてと、じゃあまた来ます、ご馳走様」
海未「美味しいカクテルでした、またよろしくお願いします」
ダイヤ「はい、お待ちしておりますわ」
カラン・・・
ダイヤ「・・・海未さんも、お元気そうで何よりですわね・・・」 コツコツと、二人の足音のみが響き渡る暗い路地
絵里「良い店だったでしょ?」
海未「はい、また行きたいですね」
絵里「あそこはいい所よ・・・」
海未「店の名前も、nine、ですものね」
絵里「・・・」
海未「・・・絵里?」
絵里「・・・さ、来週も忙しくなるわ、そっちの部署には無理言うけど、お願いね?」
海未「ええっ!?勘弁して下さい!ただでさえ上の方から無理難題を押し付けられた所なのに・・・」
小さく膨れる、雪の結晶の様な笑顔は
例えこんな暗い路地でも、そして街灯なんて無くとも
絵里「・・・ふふ、また行きましょうね」
海未「・・・はいっ」クスッ
それはそれは、光り輝いていたのだーーー 終演
過去作もいくつか宜しければ
絵里「雨の日のコーヒー」
穂乃果「第一次音ノ木坂抗争」
絵里 「ゲームセンターに行きましょう!」 にこ 「拒否」 希 「話を聞こう」
にこ 「絵里って」 希 「映画の影響」 ことり 「受け過ぎだよね」
絵里 「真夜中に」 にこ 「愚痴を肴に」 希「姦しく」
穂乃果&ツバサ「聖♡おねえさん」
絵里「ノッキン・オン」 にこ「ヘブンズ・ドア」
絵里「青き」 海未「サムライ」
孤独のエレナ
絵里「ただ、ありふれた夜」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています