花丸「前日譚」ルビィ「後日譚」
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遅れましたがルビィちゃん誕生日短編
以前書いた
花丸「心中」https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1529492968/l50
というSSの外伝的な要素がありますが、未読でも特に問題はありません。 花丸(いつもの待ち合わせ場所)
花丸(少し雨が心配になる、曇り空の下)
花丸(のんびりと本を読んで、相手を待つ)
花丸(九月二十一日)
花丸(今日は、ルビィちゃんの誕生日)
花丸(運命的な出会いの後)
花丸(初めての、特別な日) 花丸(こっそり、心に決めていることがある)
花丸(今日ここで)
花丸(ルビィちゃんに、告白するということ)
花丸(悩んだ)
花丸(関係を壊してしまいたくなかったから)
花丸(断られたときの想像をしたくなかったから)
花丸(だけどそれ以上に――) ルビィ「マルちゃん!」
花丸(いつもと同じように、オラの顔を見ると小走りで駆け寄ってくる女の子)
花丸「ルビィちゃん」
ルビィ「ごめんね、遅れちゃって」
花丸「ううん、マルが早く来ちゃっただけだよ」
花丸「ルビィちゃんに会うのが、待ちきれなくて」
ルビィ「えへへ」 ルビィ「じゃあ行こうか」
花丸「あっ、その前に」
ルビィ「うゅ?」
花丸「お誕生日おめでとう」
ルビィ「ありがとう!」
花丸「はー、緊張したずら」
ルビィ「お祝いを言うのに?」
花丸「うん、ドキドキだったよ」 ルビィ「それならルビィも、マルちゃんの誕生日の時はドキドキなのかな」
花丸「そうだと嬉しいかな」
ルビィ「じゃあドキドキしておくね」
花丸「だけど、意識してできるものかな?」
ルビィ「できるよ、きっと」
花丸「そうなのかな」
ルビィ「うん!」 花丸「そういえば」
花丸「今日はいつもと違うリボンだね」
ルビィ「うん、お姉ちゃんがくれたの。誕生日プレゼントに」
花丸「へえー」
花丸(ルビィちゃんのお話の中にしょっちゅう登場する『お姉ちゃん』)
花丸(顔も知らないけど、やさしい人だってことは分かる)
花丸(いつか会ってみたいな、なんて思っているけど) ルビィ「ちなみに」
花丸「ちなみに?」
ルビィ「……マルちゃんは何かくれたり、するのかな?」
花丸「もちろん」
花丸「だけど、放課後になってからだよ」
ルビィ「えー、そんなぁ」
花丸「お楽しみずら〜」
ルビィ「気になるよぉ」 花丸(実は内心、焦ってる)
花丸(理由は単純)
花丸(用意したプレゼントは、髪留め)
花丸(ルビィちゃんのお姉さんと、被っちゃったんだよね)
花丸(今さら、変えるなんて無理だし)
花丸(どうしようかな、これ……) ※
花丸(だけど代替案なんて思い浮かぶわけもなく)
花丸(気づけば放課後)
花丸(遊びに行こうか、なんて話もしたけど)
花丸(『いつもどおりがいいな』と)
花丸(ルビィちゃんが希望したから、普段と変わらない図書室で過ごす時間)
花丸(二人きりの空間で、過ごす時間) 花丸(ああ)
花丸(今はまだ、静かに本を読んでいるからいいけど)
花丸(帰るまでには、考えないと)
花丸(【お楽しみ】は失敗だったかな)
花丸(いっそ、プレゼントは忘れたことにしておいた方が、よかったかも)
花丸(だけど、大切な人の大切な日を忘れる人間だと思われるのは嫌だし)
花丸(もう、素直に渡しちゃった方がいいかな) 花丸「ルビィちゃん」
ルビィ「ん?」
花丸「プレゼント、なんだけどね」
ルビィ「あっ、ついにお楽しみの」
花丸(嬉しそうな笑顔)
花丸(少し、罪悪感) 花丸「これ」
花丸(鞄から小さな袋を取り出し、渡す)
ルビィ「これは?」
花丸「髪留め、なんだけど」
ルビィ「髪留め――わっ、可愛い」
花丸「その、お姉さんと被っちゃって、ごめんね」
ルビィ「そんなの気にならないよ」
ルビィ「ありがとう、マルちゃん」 花丸(よかった)
花丸(ちゃんと喜んでくれている)
花丸(ルビィちゃん、マルの前では素直で分かりやすいから)
花丸(分かる、心の中も)
ルビィ「ねえねえ」
花丸「ずら?」
花丸(ルビィちゃんは突然、自分の頭に付いていたリボンを解く) ルビィ「これ、マルちゃんがルビィに付けてみてくれない」
花丸「えっ、あっ、うん」
花丸(手元に戻ってきた、あげたばかりの髪留め)
花丸(マルがやる意味、あるのかな)
花丸(自分では髪型とかいじらないし、不安というか)
花丸(ルビィちゃんの髪に触れるなんて、緊張するし)
花丸(だけどルビィちゃんの希望なら、断るのももう分けないかな) 花丸(後ろからそっと、髪に触れる)
花丸(柔らかい)
ルビィ「うーん、なんか違う」
花丸「えっ?」
ルビィ「マルちゃん、正面から付けてくれない?」
花丸「で、でも」
花丸(それじゃあ、やりにくい)
ルビィ「いいから、お願い」
花丸「う、うん」 >>17修正
ルビィ「これ、マルちゃんがルビィに付けてみてくれない」
花丸「えっ、あっ、うん」
花丸(手元に戻ってきた、あげたばかりの髪留め)
花丸(マルがやる意味、あるのかな)
花丸(自分では髪型とかいじらないし、不安というか)
花丸(ルビィちゃんの髪に触れるなんて、緊張するし)
花丸(だけどルビィちゃんの希望なら、断るのも申し訳ないかな) 花丸(椅子ごと身体をこちら側に向けるルビィちゃん)
花丸(髪おろした姿)
花丸(いつもの幼い可愛らしさとは違う)
花丸(どこか、煽情的な姿)
花丸(心が揺れる)
花丸(お祝いの言葉を伝えた時とは比べ物にならないほど)
花丸(胸がドキドキと、弾んでいる) 花丸(髪の毛に触れる)
花丸(顔が近づく)
花丸(不自然なほどに)
花丸(顔が近づく)
花丸(不器用に鼻がぶつかる)
花丸(目の前に、互いの瞳)
花丸(少しだけ)
花丸(少しだけ、顔をずらした) 花丸(触れ合う)
花丸(たどたどしい)
花丸(キス)
花丸(どちらからともなく)
花丸(自然に)
花丸(ごく自然に) ルビィ「マル、ちゃん」
花丸「ルビィ、ちゃん」
花丸(上気した表情)
花丸(スイッチが、入った)
花丸(何かが溢れ出して)
花丸(止められなくなる)
花丸(止まらなくなる) 花丸(最初に比べて荒々しく)
花丸(唇を重ねる)
花丸(互いの服に手をかけ)
花丸(大切な部分に触れて)
花丸(無知で無垢な二人の)
花丸(たどたどしい行為)
花丸(二人きりの図書室を)
花丸(自分たちの荒い息遣いだけが支配していた) ※
花丸(気づいたときには)
花丸(下校時刻なんて、とっくに過ぎていて)
花丸(外は真っ暗)
花丸(マルとルビィちゃんは横たわりながら)
花丸(一緒に、暗闇を眺める) 花丸「……凄かったね」
ルビィ「……うん」
花丸(薄暗い部屋だから確認できないけど)
花丸(たぶん二人とも、顔が真っ赤)
花丸(恥ずかしい)
花丸(獣のような自分の姿)
花丸(思い出すと、本当に) ルビィ「いけないこと、だよね」
ルビィ「こんなの」
花丸「そうかな」
ルビィ「だって」
ルビィ「友達同士ですることじゃないよね」
ルビィ「本当は」
花丸(そうだね)
花丸(友達同士じゃ、変だよね) 花丸「ルビィちゃん」
ルビィ「うん」
花丸(タイミングは、ここしかない)
花丸「今さら、かもしれないけどね」
花丸「マルの恋人になって、ほしいの」
花丸(口に出した)
花丸(もう引き返せない) ルビィ「……酷いよ」
花丸「えっ」
花丸(頭が、身体が、凍り付く)
ルビィ「ルビィから告白、するつもりだったのに」
花丸(だけど一瞬で、溶けて)
花丸(心が、温かくなっていく)
花丸(満たされていく) 花丸「駄目だよ、ルビィちゃんはお姫さまなんだから」
花丸「求愛される側なんだから」
ルビィ「それなら、マルちゃんは王子様かな」
花丸「そんなの、ガラじゃないよ」
ルビィ「ううん」
ルビィ「ルビィにとって、マルちゃんは王子様」
ルビィ「格好いいもん、今も」
花丸「王子様……」
花丸(お姫様を守る、王子様) ルビィ「ルビィね」
花丸「うん」
ルビィ「花丸ちゃんのこと、好きだよ」
花丸「マルも、ルビィちゃんが好き」
ルビィ「お揃いだね」
花丸「お揃いずら」 ルビィ「ずっと」
ルビィ「ずっと、一緒に居ようね」
花丸「うん」
花丸「ずっと、一緒」
花丸(幸せだな)
花丸(きっとマルたちは)
花丸(ずっと互いのことを愛して)
花丸(最後まで一緒に生きていける)
花丸(不思議とそんな確信が)
花丸(心の中に、宿っていた) ――――――――――――
時は流れる。
これは一人になった後のお話。 ルビィ「朝……」
ルビィ(鳥の鳴き声)
ルビィ(ちょっとうるさい?)
ルビィ(だけどちょうどいい目覚まし時計かな)
ルビィ(時間、ピッタリだもんね) ルビィ(窓からは日差しが差し込む)
ルビィ(身体を起こし、ベッドから立ち上がる)
ルビィ(何となく、近くに会ったクッションを抱きしめながら、部屋のドアを開ける)
??「ルビィちゃん、お誕生日おめでとう!」
ルビィ「ピギッ!?」
ルビィ(それと同時に耳をつんざく、静かな朝には相応しくない声)
ルビィ(思わず、昔のような悲鳴を上げてしまう) 千歌「おー、驚いたね。サプライズ成功だ!」
ルビィ「千歌ちゃん……」
ルビィ(いつの間に来たんだろう)
ルビィ(内浦の実家の旅館で働いていて)
ルビィ(朝だって、忙しいっていつも愚痴ってて)
ルビィ(沼津に来る余裕なんて、そうそうないはずなのに)
曜「ごめんね、朝から急に押しかけてきちゃって」
ルビィ「曜ちゃんも」 千歌「えー、その言い方だと迷惑かけたみたいじゃない?」
曜「実際そうだよ、千歌ちゃん」
曜「ルビィちゃん、まだ目をパチクリさせてるもん」
千歌「あっ、本当だ。ごめん」
ルビィ「う、うん」
千歌「一応サプライズのお祝いのつもりでさ」
曜「そうそう、悪気はなかったんだよ」
ルビィ(知ってる)
ルビィ(空回りしているところまで、千歌ちゃんらしい) 千歌「待ちきれないじゃん、ルビィちゃんの誕生日なんだから!」
ルビィ「そんな大層な日じゃないよ」
曜「そんなことないって」
曜「パパとママもさ、ルビィちゃんが起きるのを待ってたんだよ」
ルビィ「そうなの?」
曜「うん、夜にお祝いの予定でしょ」
ルビィ「うん」
曜「だけど朝からもう、パーティーできそうな状態だったよ」
ルビィ「そ、そうなの?」 ルビィ(沼津に、内浦に戻ってから)
ルビィ(私は曜ちゃんの実家でお世話になっている)
ルビィ(寝泊まりしているのも、曜ちゃんの部屋)
ルビィ(曜ちゃんは沼津に部屋を借りて、善子ちゃんの面倒を見るようになったから空いた)
ルビィ(曜ちゃんのお父さんとお母さんは)
ルビィ(娘の大切な時間を奪い、長い間苦しめ続ける原因となった私のことを)
ルビィ(一人娘の代わりだって、笑顔で受け入れてくれて)
ルビィ(心の底から可愛がってくれる) ルビィ「だけど朝は、黒澤家の予定だよ」
曜「あ、そうか」
曜「誕生日でも行くんだね」
ルビィ「うん」
ルビィ「お姉ちゃんにとって、今日は普通の日」
ルビィ「私の誕生日じゃ、ないから」
曜「……そうだね」 ―黒澤家―
ルビィ「お邪魔します」
黒澤母「……ルビィ」
ルビィ「お母さん、おはよう」
黒澤母「ダイヤなら、いつもどおり部屋にいるわ」
ルビィ「うん、分かった」
ルビィ(時間がある日は毎日)
ルビィ(曜ちゃんに運転してもらって)
ルビィ(黒澤家、お姉ちゃんに会いに行っている) ルビィ(襖を開けて入る)
ルビィ(お姉ちゃんの部屋)
ルビィ「ダイヤさん」
ルビィ(最初は違和感しかなかったこの呼び方)
ルビィ(今はすっかり、慣れてしまった)
ダイヤ「……ああ、花丸さん」
ルビィ「うん、そうだよ」 ルビィ(お姉ちゃんの中のルビィは)
ルビィ(もう善子ちゃんのものだから)
ルビィ(元々いた私の存在は、もう消えちゃったから)
ルビィ(空いた部分は)
ルビィ(もう花丸ちゃんの場所しか残っていなくて)
ルビィ(だからルビィは、花丸ちゃん)
ルビィ(お姉ちゃんの前だけ、昔の恋人になる) ダイヤ「今日も遊びに来たのですか?」
ルビィ「うん」
ルビィ「相変わらず、暇なんだよね」
ダイヤ「駄目ですよ、あなたはしっかり者なんですから」
ダイヤ「私に構わず、ちゃんと働かないと」
ルビィ(髪を)
ルビィ(花丸ちゃんと同じように、伸ばした髪を撫でられる)
ルビィ「平気だよ、生活できる程度には仕事もしているから」
ダイヤ「それなら、いいのですが」 ダイヤ「私自身、偉そうなことを言える立場ではありませんし」
ダイヤ「ルビィが家を出てから、あまり連絡がなくて」
ダイヤ「情けないことに寂しいのです」
ダイヤ「花丸さんが来てくれるおかげで、ずいぶん助けられています」
ルビィ「マルも、ダイヤさんとお話できて楽しいよ」
ルビィ「嫌ならわざわざ来ないし」
ダイヤ「そうですか……」 ダイヤ「ルビィは、元気ですか?」
ルビィ「うん、結構充実した生活を送れているみたいだよ」
ルビィ(曜ちゃん二人、沼津に暮らしている)
ルビィ(今は善子ちゃんに戻る為の、リハビリ中)
ルビィ「メールやメッセージのやり取りは、しているんだよね」
ルビィ(それだけは続けてくれる約束だから)
ダイヤ「ええ」
ダイヤ「私も早く外に出て、あの子に会いたいですね……」 ルビィ(まだ虚構の世界にいて)
ルビィ(強い刺激を与えることを避けなければならないお姉ちゃんは)
ルビィ(外出さえ許されていない)
ルビィ(症状は改善に向かっているはず、だけど)
ルビィ(私やお母さんでさえ、共に過ごせる時間は限られている)
ルビィ(腕時計を眺めるとほら、もう時間) ルビィ「ごめんね、ダイヤさん」
ルビィ「マル、そろそろ帰らないと」
ダイヤ「あら、今日は早いのですね」
ルビィ「うん、忙しいんだ」
ダイヤ「そうなのですか」
ルビィ「またすぐに来るから」
ルビィ「今度は、もう少し長くいられる予定だし」
ダイヤ「ええ……」
ルビィ(寂しそうな顔)
ルビィ(昔は知らなかった、お姉ちゃんの弱い部分)
ルビィ(この関係になってから、まざまざと見せつけられる部分) ルビィ「じゃあね、また――」
ダイヤ「待って」
ルビィ(いたたまれなくなって部屋を出ようとすると、いつもより少し、強い言葉で引き留められる)
ダイヤ「お誕生日、おめでとう」
ルビィ「えっ?」
ルビィ(今、なんて)
ダイヤ「……なんでも、ありません」
ダイヤ「ただ、今日はルビィの誕生日ですので」
ルビィ「……そうだね」
ルビィ「今日は、ルビィちゃんの誕生日、だもんね」 ※
曜「おかえり」
ルビィ「うん」
ルビィ(私がお姉ちゃんと話している間)
ルビィ(曜ちゃんはいつも家の前、車の中で待っていてくれる) 曜「ダイヤさん、どうだった」
ルビィ「いつもどおりだよ」
曜「そっか」
曜「周りの人に言わせればずいぶん良くなったみたいだけどね」
ルビィ「そうかな」
曜「うん」
曜「ルビィちゃんのおかげだって」
ルビィ「……」 曜「それは?」
ルビィ(曜ちゃんが目ざとく指摘したのは)
ルビィ(帰り際、渡された小さな包み紙)
ルビィ「お母さんから」
ルビィ「誕生日プレゼント、だって」
曜「……そっか」 曜「ルビィちゃん」
ルビィ「うん」
曜「今年も生きたね」
ルビィ「だね」
曜「私はさ、嬉しいんだよ」
曜「こうやって地元に帰って」
曜「君と昔みたいに、一緒に居られることが」
ルビィ「……」 曜「そろそろ行こうか」
ルビィ「うん」
曜「今日は天気がいいから、海も綺麗だね」
ルビィ「だねぇ」
曜「せっかくだし、どこか寄っていこうか」
曜「学生気分に戻って、寄り道とか」
ルビィ「寄り道……」 ルビィ「ねえ、曜ちゃん」
ルビィ「それならちょうど、行きたい場所があるの」
ルビィ(ひとつ)
ルビィ(一つだけ)
ルビィ(誕生日)
ルビィ(思い出の場所) ―某中学校跡・図書室―
ルビィ(曜ちゃんには少し経ったら迎えに来てくれるように頼んで)
ルビィ(やってきたのは、既に廃校になってしまったという母校)
ルビィ(あれから、ずいぶんと時間が経過して)
ルビィ(あらゆる場所が姿を変えている)
ルビィ(だけどその中でも変わらない)
ルビィ(誰にも利用されない図書室) ルビィ(本はほとんど無くなってしまっていたけど)
ルビィ(懐かしい)
ルビィ(本棚)
ルビィ(椅子)
ルビィ(机)
ルビィ(そのまま放置されている) ルビィ(取り残されてしまった僅かな本は、隅に積み重ねられている)
ルビィ(その中に懐かしい)
ルビィ(二人で一緒に読んだ本を見つけた)
ルビィ(ページをパラパラめくり、一番後ろ)
ルビィ(貸出カード)
ルビィ(ほとんど意味を持たないそれに書いた、二人の名前)
ルビィ(『国木田花丸』と『黒澤ルビィ』の文字) ルビィ(ここには、色々な思い出が詰まっている)
ルビィ(出会ったのも)
ルビィ(運命に気づいたのも)
ルビィ(初めてキスをしたのも)
ルビィ(身体を重ねたのも)
ルビィ(恋人になったのも)
ルビィ(全部、この場所) ルビィ「……マルちゃん」
ルビィ(彼女の定位置だった椅子に座る)
ルビィ(彼女がよく本を乗せていた机に突っ伏す)
ルビィ「私ね、頑張ってるよ」
ルビィ(頑張っている)
ルビィ(あの日、心の中のあなたに誓ったように)
ルビィ(だけどやっぱり)
ルビィ「寂しいよ……」 ※
ルビィ「あ……」
ルビィ(気づいたころには、眠っていたのかな)
ルビィ(外はもう、真っ暗)
??「……おはよう」
ルビィ(だけどその中に、ぼんやりとした人影)
ルビィ(この声は、そう)
ルビィ「理亞ちゃん」 理亞「久しぶり」
ルビィ「……どうして、こんな場所に」
理亞「お祝いしようと思って、沼津まで来たんだけど」
理亞「家に居ないから困っていたら」
理亞「曜が、連れてきてくれたの」
ルビィ「……サプライズ失敗?」
理亞「うん、そうかも」 ルビィ「曜ちゃんは?」
理亞「外で待ってる」
理亞「お腹ペコペコだって、少し不機嫌だった」
ルビィ「ありゃ、悪いことしちゃったかな」
理亞「千歌も待ちきれなくなって、曜の家で暴れてるらしい」
ルビィ「あはは、それは大変だね」
理亞「お酒が入って、曜への愛を、曜のご両親の前で語り始めてるとか」
ルビィ「それは、本当に止めてあげないとかな」 理亞「うん、早く戻らないと」
理亞「だから帰ろう、ルビィ」
ルビィ(差し伸べられた手は)
ルビィ(私の手より小さい)
ルビィ(だけど、力強い)
ルビィ(そんな、手)
ルビィ(……バイバイ、マルちゃん)
ルビィ(また、いつかね) 梨子(夏も終わって、だいぶ涼しくなってきた)
梨子(今日は私の誕生日)
梨子(もういい年になるのに)
梨子(周囲に人の影はなく)
梨子(一人、自分の部屋にこもって)
梨子(適当なワインを空けて、ピアノを弾いてみたりするだけ) 梨子「あーあ、寂しい奴」
梨子(子どもが存在しない未来も)
梨子(結婚できない未来も想像できたけど)
梨子(ひとりぼっちの未来は、想像していなかったな)
梨子(まだ純粋だったあの頃は)
梨子(ずっと、傍に居続けると信じていた)
梨子(あの人の傍に)
梨子(永遠に) 梨子(一応、元同級生の友達二人は、お祝いのメッセージを送ってくれた)
梨子(だけど、直接来てはくれないのよね)
梨子(仕方ない)
梨子(曜ちゃんは善子ちゃんやルビィちゃん)
梨子(千歌ちゃんも果南ちゃんの面倒をみるのに忙しいから)
ピーンポーン
梨子「あら」
梨子(愚痴の効果かしら)
梨子(来客、ただの宅配便かもしれないけど) 梨子「はーい、どなた――」
善子「リリー」
梨子「……何の用、ルビィちゃん」
善子「皮肉?」
梨子「リリーって呼んだ罰よ、ヨハネちゃん」
善子「ああ、禁止だっけ」
梨子「ええ」 梨子「久しぶりね」
善子「そうね、本当に」
梨子「来てくれた理由は?」
善子「誕生のお祝いよ、それ以外ないでしょ」
梨子「どうしたの、珍しい」
梨子「そんなこと今までなかったのに」
善子「仕方ないでしょ、私にはそんな余裕なんてなかったんだから」
梨子(ごもっとも)
善子「それに曜と千歌から頼まれたのよ、代理で祝ってきてほしいって」
梨子「ああ」 梨子「最近は、マシな生活を送れているわけね」
善子「それなりにね」
善子「少なくとも、梨子よりは」
梨子「……」
善子「久しぶりの再会なのに、変わっていないのね」
善子「相変わらず、冷たい瞳をしている」
梨子「元々よ、それは」 善子「そうね」
善子「出会った頃から、どこか狂っていた」
梨子「そう」
梨子「初めて内浦へ降りたった時の私は」
梨子「もう壊れてしまった後だった」
善子「だけど、そこからさらに変わったのも確か」
善子「悪い方向へ、傾いてしまった」 善子「責任を感じているんでしょう」
善子「自分が、あんなことをしなければ」
善子「そんな風に考えて」
梨子「……皮肉?」
善子「さあ」
善子「ただ、あなたの顔を見たらそう感じただけよ」
梨子「ずいぶん、生意気になったのね」 梨子「まあいいわ」
梨子「せっかく来てくれたんだから、上がって」
善子「あら、いいの?」
梨子「もちろん」
梨子「代わりに、少し付き合ってもらうけどね」
善子「なにに?」
梨子「昔話に」 ※
梨子「昔、少しだけ話したよね」
梨子「東京で私と、愛し合っていた人の話」
善子「……ええ」
梨子「その人と出会ったのは、当時私が住んでいた場所の近くに会った商業施設の中」
梨子「その中に入っている楽器店の外には、ストリートピアノが置いてあって」
梨子「私はよく、度胸試しみたいにそれを弾いていた」 梨子「まだ中学生」
梨子「拙い私のピアノを聴いてくれる人なんて、ほとんどいなかった」
梨子「だけどね、一人だけ耳を傾けてくれる人がいたの」
梨子「静かに演奏に耳を傾けて」
梨子「終わったら拍手をしてくれて」
梨子「褒めてくれて」
梨子「私は純粋に、それが嬉しかった」
梨子「その人に聴いてもらう為だけに、その場所に通っていたのかもしれないぐらい」 梨子「そんな生活が続いたある日」
梨子「私がいつもみたいにそのピアノの前に行くと」
梨子「唯一の観客であるはずの人が、先に演奏をしていたの」
梨子「その人が奏でるピアノの音はね」
梨子「今まで聴いたどんな音よりも美しくて」
梨子「あっという間に引き込まれて」
梨子「その音色に、それを奏でる奏者に、心を奪われていた」 梨子「弾き終わってから観客の存在に気づいて」
梨子「私の大きすぎる拍手と称賛を受けると」
梨子「顔を髪の色と同じぐらい真っ赤にして」
梨子「その場を立ち去ろうとしちゃって」
梨子「必死に引き留めて」
梨子「名前を尋ねて」
梨子「連絡先を交換して」
梨子「無理やり、縁を繋げた」 梨子「最初は年の離れた友だちから」
梨子「だけど共通の趣味がある分、すぐに仲良くなって」
梨子「なにより、私たちは」
梨子「私とその人は、惹かれあっていた」
梨子「互いの音に」
梨子「互いの指使いに」
梨子「互いの魂に」 梨子「特に私の心は」
梨子「愛情、憧れ、尊敬」
梨子「完全に支配されて」
梨子「もうメロメロだったのよね」
梨子「その人とピアノ以外、全てが見えなくなるぐらい」
梨子「だからね、関係が深まるのに、そう時間はかからなかった」 梨子「気づけば常に二人で過ごして」
梨子「ピアノを弾いて、好きな演奏家のCDを聴いて」
梨子「セックスとかは、ほとんどしなかったかな」
梨子「そこは少し、恋人らしくなかったかも」
梨子「私が音ノ木坂を選んだのも、その人の母校だったから」
梨子「同じ道を歩んで」
梨子「いつか同じようになりたい」
梨子「同じような音を、並んで奏でたい」
梨子「そんな風に、考えていた」 梨子「だけどね」
梨子「その人は、大きなおうちの一人娘」
梨子「決められた相手と結婚しなければならない」
梨子「後継者を生んで、家を繁栄させて」
梨子「その為に同性愛なんてもってのほか」
梨子「息苦しい世界を、生きていたんだって」
梨子「大好きなピアノを、あれだけの才能を、親に否定されて」
梨子「高校に入ってまた大好きな音楽に触れられるようになったのに」
梨子「二年生になったら、受験を理由にまた音楽から切り離されて」 梨子「そうやって生きていたせいかな」
梨子「破滅的な思考を持っていた」
梨子「その後の人生に、絶望していたんだよね」
梨子「耐え続けなければならない、人生に」
梨子「私はずっと、一緒に居たかった」
梨子「その人と離れるなんて、考えられなかった」
梨子「だから」
梨子「彼女が世界に絶望して」
梨子「終わりを選択したとき」
梨子「それを、否定できなかった」 善子「……」
梨子(背中に、そっと置かれた手)
梨子「なに、この手」
善子「私なりの、慰めのつもり」
梨子「私からの求愛を否定した人に、慰められてもね」
善子「恋人になる必要はないでしょ」
善子「例え恋愛感情を抱かなくても、梨子は私にとって」
善子「この世界の中で、最も大切な人の一人」
善子「そんな相手が悲しんでいるのを慰めるのに、理由なんて必要かしら」 梨子「……格好いいよね、善子ちゃんは」
梨子「普段は変な子だし、ドジで、抜けてて、可哀想な子なのに」
善子「……えらい言われようね」
梨子「好きだよ」
梨子「私は善子ちゃんが、好き」
善子「……そう、ありがとう」
梨子「今夜は、付き合ってくれるのよね」
善子「ええ、満足が行くまでね」
善子「一年に一度の、特別な日だもの」 今度こそ以上です
一応大遅刻の梨子ちゃんの誕生日記念ということで 梨子ちゃんの元恋人はやっぱりあの方かな?
物悲しいけどこう言う話好きだわ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています