SS 小泉花陽はお腹がすいた -第二幕 魔法大国UDX編
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前回の、ラブライブ!!…の、SS小泉花陽はお腹がすいた
みなさんこんにちは。おひさしぶりです。小泉花陽です
音ノ木坂学院の一年生……だった私ですが、ある日気がついたら異世界に!?
私は戦争が原因で何もかもを失ったセト村の魔術師さん達によって勇者として召喚されたのです!驚き!
とはいえただの高校生である私に出来る事なんてありません
そこで私は現地で知り合った女の子、ユリカちゃんから勇者の素質がある者にだけ継承できるスキルを習得しました!
しかし中身が普通の女の子でしかない私にはそのスキルを上手く扱うなんてこともできず、状況に流されるままに……
花陽「この子……これからどうなるんですか?」
エミ「………ハナヨちゃん……」
「どうなるってもなぁ…他に身よりがいるなんて話は聞いた事ないし……」
「戦後の統制がまだ落ち着いてないから、どこも大変なのよねぇ…」
「物資の流通も滞ってばかりだしなぁ…」
「余裕あるとこなんてどこもねー……」
「戦争やったばかりなんだしどこもないだろ、余裕なんて…」
花陽「……………」
また戦争……。ここでもやっぱり戦争です。その影響でこんな状況になってもみんな心に余裕がありません
手を取り合うなんて考えもない……
自分や家族を守るのに精一杯なのは理解できます
でも、こんな小さな子供一人どうにもならない……しようという考えもない……
花陽「…………」
-宿場町のはずれ
フワ「あなたねぇ…………」
花陽「……………」
エミ「…………」
チセ「ちっこい〜」ツンツン
町の人に聞いて、身寄りのない子供を受け入れてくれる施設があるとすれば王都にしかないという話だったので……
「つつかないでー…」
連れてきちゃいました、女の子
この子自身、まだお母さんが亡くなった事を知りません。むしろ人の死を理解できません
そんな中あの家で一人で生きていくなんてきっと無理です
フワ「だからって……王都には確かに立ち寄るけど……その施設とやらはあるの?」
花陽「………無いです」
施設の可能性を考えて見たけど、スキルは反応しませんでした
王都にこの子を預かってくれるところはありません
エミ「え、でもこの子を責任もって王都に連れて行くという理由で預かったのでは……?」
花陽「……………」
フワ「自分で預かろうっていうのね……」
花陽「だって……誰もこの子を助けてあげられそうになかったですし……」
どの可能性を考えてもあの町でこの子を保護できる存在はいませんでした
だったらしょうがないじゃないですか……
フワ「花陽ちゃんのする事に、きっと誰も文句は言わないわ。言える立場でもないし」
花陽「そうかもしれません……けど……」
フワ「でもいい?花陽ちゃん。あなたのその優しさは、いつかきっとあなた自身を動けなくさせてしまうわよ」
エミ「………………」
花陽「ど、どういう意味……ですか?」
フワ「そのままの意味。花陽ちゃんは元の世界に帰りたいのでしょ?」
花陽「それは勿論……そうですけど……」
フワ「だったらその事を第一に考えて注力すべきなの。でもあなたはこの世界で色々なものを背負いすぎてるわ」
花陽「助けるなってことですか?」
フワ「ユリカちゃん達のためにすること、アイドル活動も良いと思う。あの子達との約束もある。でも、それ以外に花陽ちゃんは何人助けるつもりなの?」
花陽「そんなの……」
フワ「あの盗賊達を助けて、あの騎士の……名前忘れたけどアイツもほっとけない……そして今度は身寄りのない子を引き取る……」
花陽「何が言いたいのフワちゃん」
フワ「人を助けるって、簡単じゃないのよ?」
花陽「わ、わかってます……私は私にできる事があるならやりたいだけです」
フワ「……その子の人生、今日がとても大きな分岐点になるのよ。その道の先へあなたが連れて行くのに、あなたは元の世界に帰れるの?」
花陽「…………」
フワ「生きていける環境だけ用意すればいいなんて考えてないわよね?」
エミ「フワちゃん……それは……」
フワ「その子の人生に、関わろうとしているのよ、あなたは…。もしかしたらこの先もっと増えるかもしれない」
花陽「ダメ………なんですか?」
フワ「そうは言わないわ。私だってあなたのする事を否定はしない。でも、その先にあるものもちゃんと見て、考えて欲しいの」
花陽「……………」
フワ「花陽ちゃん。あなたはその子にとっての希望になるかもしれないのよ?」
花陽「希望………」
フワ「事情をある程度知っている私達だけならともかく、あなたが手を差し伸べる人達に、あなたはどう映るのか……一度考えてみて」
花陽「……………」
チセ「ケンカしてるのー?」
エミ「大丈夫ですよ」
「…………おうまさん……」
フワ「馬じゃないわよー」
-クレスタリア領内 王都への道中
エミ「どうするんですか?」
フワ「ちょっとタイミングを間違えちゃったかもしれないわねー……」カッポカッポ…
花陽「……………」トボトボ…
私達は今チセさんを王都へ送り届けるために街道を移動中です
フワちゃんの背中は三人までが限界なので、エミちゃん達が乗り、私がその横を歩いて移動です
私が宿場町から連れてきた子はカナちゃんという6歳の女の子
両親を亡くし、頼るべき親族も友人もいない境遇の子……
いくら私達が王都へ寄るといっても、普通通りすがりの人に子供を託すのをなかなか了承はしません
それでも私達がカナちゃんを連れて行くのを誰も止めることはありませんでした
花陽「………………」
私は私で、それができるならと選んだ方法です
でも、その先にあるものをちゃんと意識した事は確かに無かったかもしれません……
エミ「ずっとあの調子ですよ?」
フワ「悩むときはいっぱい悩むものよ」
チセ「ふにふに〜」ムニムニ
カナ「やめて……」
エミ「チセさん、カナちゃんのほっぺたばかり触らないでください、嫌がってます」
チセ「だって気持ちいいんだもん、触ってみる?」
エミ「私はいいです」
フワ「暴れて落ちないでよー?」トトッ…
花陽「……………」
カナちゃんにはお母さんが病気で遠いところで治療するからその間私達と暮らしましょうと言いました
ありのままを説明するのにはまだ理解しきれない事が多いですし、一人で受け止めきれるはずもありません
カナちゃんのお母さんは町の人達が丁重に埋葬すると言ってくれました
いつかすべてを理解して、受け止めきれるようになってから…会いに行って欲しいです
それまで……私が………
花陽「……………」
エミ「ハナヨちゃん、前!」
フワ「気づいてないわねー」カポカポ…
私が………どこまで一緒に居てあげられるの……?
ゴツンッ!
花陽「ぴゃふっ!?」
フワ「ちゃんと前見て歩かないから……」
エミ「だ、大丈夫ですか?」
花陽「うぅ……いたた……」ジーン…
チセ「あはは、なにやってんのー?」
いつのまにか目の前に木があったようです……ぅぅ……
フワ「考えるのはいいけど、注意はしなさいね」
花陽「はい……」
エミ「ハナヨちゃん、歩くの交代しましょう」
花陽「いえ、大丈夫です。むしろ今ので少しスッキリしましたし……」
これからの事、フワちゃんの言う通りちゃんと考えないといけません
それでも私は手が届く範囲で助けを求めている人がいるならきっと手を伸ばすと思います
少し前にも思った事です
私が元の世界に帰る時は、いつもの私…小泉花陽としてちゃんと帰るんだと
そのために無くしちゃいけないのが、自分自身……
花陽「フワちゃん、この辺りで少し休憩しませんか?」
フワ「そうね、この辺りなら見晴らしもいいし平気かしら」
エミ「それでは簡単ですがお昼の用意をしますね」サッ
チセ「わーい、ご飯だー」
カナ「……………」
花陽「カナちゃん?」
カナ「どこまで………いくの?」
花陽「えっと……私達のお家です」
カナ「カナ……おかあさんとこ行きたい……」
エミ「……………」
チセ「え、でもお母さんって…フゴッ」
フワ「やめなさい」ググ…
花陽「…………」
エミ「お母さまはどこにいても、カナちゃんの事を想ってくれています。だから……」
カナ「ん………ぅぅ」
エミ「どうか……元気な笑顔を……見せて………あげて……っ」
エミちゃんが言葉を詰まらせます
この子を連れだしたのは私で、一方的にしたことではあるけど正しいと思いました…でも……
今のこの子を元気にしてあげられるのは、きっとお母さんしかいません……
フワ「さ、まずは食べましょう。お腹がすいてちゃ気分も下がる一方よ」
チセ「その通りー!」
エミ「そ、そうですね、すぐに用意します!」ガサッ
カナ「………………」
花陽「………ありがとう、フワちゃん」
フワ「とりあえず、花陽ちゃんが元気だして笑顔でいなきゃダメでしょ?」
花陽「ん……そうですね、ハイ!」
気持ちは……笑顔は伝染するものだって、にこちゃんもよく言ってました
元気になってもらいたいのなら、まずは自分も元気をださなくちゃ、ですねっ
その後、道中は問題なく進みました
チセさんが特に明るく色んなおしゃべりをしてくれたおかげで、雰囲気は悪くなかったと思います
そして夕方頃、目的のクレスタリア王都が見えてきました
フワ「あそこね」
チセ「んー……なんでだろう、すごく久しぶりな感じ」
エミ「チセさんはずっと王都で暮らしているんですか?」
チセ「そうだよー。あんまり遠くへは行ったりしないかな。だから今も小旅行って感じで楽しいよ」
フワ「お家へは一人でいける距離なの?」
チセ「あそこは私にとっては庭みたいなものだもん、余裕だよ」
エミ「それなら大丈夫そうですね」
もうじきチセさんとはお別れです
正直チセさん本人は呑気にしていますが、1年近くも不在……おそらく行方不明だったのは平気なのかな?
チセ「え、無断外泊はいいのかって?」
エミ「一応しばらくいなかったわけですけど……」
チセ「その辺よく覚えてないんだけど、でもまぁお兄ちゃんが家に帰れっていうんなら問題ないでしょ」
花陽「そういえばそこは特に問題視していませんでしたね」
エミ「色々と手をまわしてあるという事でしょうか?」
生き返るという望みに賭けていたのか、それとも別の可能性を考慮していたのでしょうか?
チセ「なんにせよ、ここまでありがとねっ」サッ
フワ「あら、中まで送っていくわよ?」
チセ「ん、大丈夫。それにフワちゃん珍しいから、きっと見世物小屋に捕まっちゃうよ?」
冗談ぽく笑うチセさんですが、見世物小屋なんてあるんですね
本当に希少動物として狙われないかな……
チセ「あ、そうだ……」クルッ
エミ「ん?」
タタタ… ムニュッ
エミ「ひゃいっ!?」
チセ「まだまだね…」ムニムニ
エミ「なな、なんですかいきなり!」バッ
チセ「お兄ちゃんはね、胸はおっきいほうが好きなのよ」
エミ「か、関係ありませんっ!」
チセ「ふふ、がんばってね〜」タッタッタ…
こうしてライさんの妹、チセさんは王都へと帰っていきました
フワ「賑やかな子だったわね」
エミ「………むぅ」
花陽「あはは、そうですね」
なんとなくですがリホちゃんとすごく気が合いそうだなーと思いました
…………ん?
エミ「…………」ジー
花陽「エ、エミちゃんなに?」
エミ「いえ、なんでもないです……ハァ」
フワ「うふふ、若いっていいわね〜♪」
このSS読んでると塩のおにぎりが食べたくなって困る -東の国境沿い 街道外れの川辺
フワ「ついたわよー」カポッ
エミ「ん……ふぁ……」
花陽「カナちゃんはまだこのまま寝かせておいてあげてね」トンッ
フワ「いい感じの揺れ具合をだしておいたから、ぐっすり眠ってるわよ」
途中から私達三人を乗せたフワちゃんが程よい速度で街道を駆け抜けてくれたおかげで何とか夜には帰ってこれました
出発時と変わらずすぐそこに女子寮と男子寮があります
フワ「さっきギンに連絡入れておいたから、もう出迎えがくるはずよ」
花陽「連絡……そんな事ができるの?」
フワ「同種族間の念波みたいなものよ」
私の知らない便利な特技を持っているようです
ユリカ「ハナヨちゃんっ!」ダッ
花陽「ユリカちゃん、ただいま」
ユリカ「おかえりなさい。みなさんよくご無事で…」ササッ
ギン「戻ったか…」ザッ
エミ「ギンさん、ただいま戻りました」
フワ「お留守番ご苦労様」
ギン「ん、問題ない」
女子寮からユリカちゃん、男子寮からはギンさんが出迎えてくれました
細かい事以外には大きな問題はなかったという事です……
細かい問題はあったんだ
ユリカ「………ハナヨちゃん、そちらの子は?」
花陽「あ、今は寝てるから起こさないであげて」
エミ「ハナヨちゃんが保護した戦災孤児です」
ユリカ「まぁ……」
フワ「二階のベッドに運んであげて」
ユリカ「わかりました。あ、みなさんの晩ご飯の用意はしてありますので…」
花陽「ありがとう」
ユリカちゃんにカナちゃんを託し、私はギンさんに男子寮の様子を聞いてみました
いちおう仕事は頼んでおいたけど、丸1日ずっとそれをやっていたわけでもないでしょうし…
花陽「え……みんな潰れてる?」
ギン「正確には1人残して他、全員だな…」
エミ「なにやってるんですか…もぅ」
昨日からお金の洗浄と買い出しを頼んであったと思うのですが、どうやらみなさん欲望にストレートだったようです
ギン「ひさしぶりの酒だったのだろうな」
エミ「買い出しついでに大量のお酒を買いこむなんて……」
花陽「それで、今日はずっと1日宴会のように騒いでいたと……」
確かに金銭的余裕はありますが……いいのかなぁ?
ギン「ユリカの奴がそれを許可していたんで、俺からは何も言うことは無い」
花陽「ユリカちゃんが?」
ユリカ「はい。私にいいのかどうか聞かれたので、許可はだしました」
と、ユリカちゃんがシチューを温めなおしながら答えてくれました
しかしそれにも考えがあってのことだそうです
アイナ「やるべき仕事はきっちりやってくれたし、私達…ってかハナヨちゃんにつく利点も体感したほうがいいって事じゃない?」
エミ「なるほど……流れるようにハナヨちゃんに従う道を選んだ事を良いものと感じて頂くために」
ユリカ「……私としてはお仕事がんばってくれたお礼のようなものだったんだけど、そういう認識でもいいのかな?」
アヤ「それでも連中、働いたあとの酒は最高だって、喜んでたし、いいんじゃない?」
トトトッ
スズ「あの子の着替えはすんだよ。起きたら一度お風呂に入れてあげた方がいい」
リホ「髪ボサボサだったー」
パイ「細かったー」
ヨシノ「あの子もここに住むの?」
花陽「うん、カナちゃんて言うの。事情があってね……仲良くしてあげてね」
ユリカ「戦災孤児というと、あの子のご両親はもう……」
アヤ「今のこの国じゃ珍しい事じゃないからね…」
みんなカナちゃんの境遇と自分達の境遇を重ねているのか、少し空気は重く感じる
それでもここにいるみんなとなら、カナちゃんもきっと笑顔になれると信じています
パイ「ハナヨちゃんがあの子を助けてあげたのね」
リホ「さすがハナヨちゃん」
花陽「あはは、ありがと」
みんなが私に思う感情はとてもありがたいもので、私達はお互いを必要とする存在です
私だってみんなのおかげでたくさんの元気を貰いました
カナちゃんがこの先どういう生き方を選ぶかはわかりませんが、私は出来る限り手助けしてあげたいと思います
サササッ
ヨシノ「ん………」
花陽「どうしたの?」
ヨシノ「優しいハナヨちゃんに、ご褒美〜」スッ
花陽「あはは、ありがと。何かくれるのかな?」
チュッ
花陽「……………え?」
ヨシノ「ん……いい子いい子」ナデナデ…
リホ「あ、チューした!いいな、わたしもやるっ」サッ
パイ「ぱいもー」バッ
気が付くと、リホちゃんパイちゃんに左右から挟まれ、膝の上にはヨシノちゃんが……って、今!
花陽「ああ…あの……」
ユリカ「もう、みんなハナヨちゃんが大好きなのはわかるけど、お食事の邪魔はしちゃダメよー?」
ヨシノ「食べさせてあげるの」スッ
花陽「い、いえ…それくらいは自分で……」
リホ「遠慮しないのー」グイ
パイ「ハナヨちゃん、柔らかい」プニプニ…
え、ちょ…急にどうしちゃったの!?
ユリカ「あらあら、みんな甘えちゃって…」
スズ「ほどほどにな」
ユリカさんが言うには、私がカナちゃんにしたことが本当に嬉しく思った子供達なりの愛情表現なんだとか
さりげなくキスされちゃいましたけど、まぁ……可愛いものでしたし、いいか……
……と、油断していた時でした
ガラッ トタタタタ…
花陽「へ?」
リホ「ハナヨちゃん、体洗ったげるっ!」バッ
ヨシノ「あたまワシャワシャするの」スッ
パイ「せなかゴシゴシする!」ババッ
花陽「お、お風呂くらい一人ではいれます〜〜!」
-夜 女子寮1階 居間
花陽「ふぅ……違う意味で疲れました……」
ユリカ「ふふ、お疲れ様です」
エミ「大人気でしたね」
スズ「それでハナヨちゃん、あらためて話というのはなんでしょう?」
アヤ「アイドルのライブの話?」
アイナ「ライブ映像っていうのならけっこう見たよ」
花陽「その話もしたいのですけど、今は別の話です」
みんなとライブをするための本格的な活動計画もしないといけません
しかし今は、みんなが抱える一つの重要事項をどうにかしないと……
花陽「えっと……最初に、感情的にならず落ち着いて話をするって事だけ、お願いします」
ユリカ「それは……まぁ」
スズ「…………」
それでもきっと……無理かもしれないけど……
花陽「まずはユリカちゃんにこれを……」ス…
ユリカ「これは、ハンカチですか?」
花陽「それに包んであるものを…」
エミ「………?」
ユリカ「これは……髪の毛………えっ!?」ドキッ
スズ「まさかそれ……奴らの?」カタッ
アイナ「見つけたの!?」
アヤ「っ!」
エミ「………え?」
花陽「落ち着いてください。まずは私の話を聞いてください」
ユリカ「これをどこで……?」
エミ「ハナヨちゃん、それってライ様の……?」
花陽「……………」
私はエミちゃんのために魔導兵器の研究施設に訪れた時の事を詳しく話しました
みんなにとっての仇……元王国騎士団に所属するライさんの事を……
エミ「そんな………う、嘘ですっ!」ガタッ
花陽「エミちゃん、さっきも言った通り、感情的にならず落ち着いて……」
エミ「これが落ち着けますかっ! だってライ様がそのような非道なまね、するはずがありません!」
アヤ「なんなのそのライ様って。エミちゃん、あいつらと知り合いなの?」
ユリカ「アヤ……あなたも少し落ち着きなさい」
アヤ「…………フン」
アイナ「ほら、お茶でも飲みな」スッ
エミ「すみません、ありがとうございます」
ライさんがどういう経緯で村にいたのか、エミちゃんもわかっていると思います
それでも起こった事は事実であり、ライさん自身がそれを認めています
この問題はユリカちゃん達自身が納得のいく答えを出さないといけないと思います
だからすべて話しました。その先にあるものを私は見届けないといけません
花陽「……………」
ユリカ「では今そのライという方がエミちゃんの死亡という偽装工作のために動いてくれているのですね」
エミ「そうです。あの方は信用できます!」
アヤ「どういう関係なの?」
アイナ「何年も会ってなかったんでしょ? どうしてそこまで…」
エミ「…………」
エミ「ライ様は………政略的のものですが………私の婚約者だった方です」
花陽「えっ……」
ユリカ「こ、婚約者……ですか」
エミ「ライ様の家は元々名高い騎士の家系で、私は王族といっても末端の役目なんてほとんどない位置でしたので都合のいい話だったのでしょう」
スズ「だからって、まだ子供にそのような……」
エミちゃんにとってはその話は形式的なものでしかなくても、ライさんと知り合えた事として良い記憶となっていました
エミ「10以上も歳の離れた私に、あの方はとてもよくしてくださいました」
アヤ「10って……そんなに……」
ライさんの事を話すエミちゃんは、とても穏やかな顔をしています
エミ「当時から型にはまった生活ばかりの私に、あの方は唯一普通の女の子として扱ってくれました…」
花陽「同じ年頃の妹さんがいたおかげで接しやすかったのかもしれないね」
エミ「そうですね。当時の私はそれがとても嬉しくて、会える日を心待ちにしていました」
アヤ「好きだったの?」
エミ「……………はい」
アイナ「それって、今もって事?」
エミ「それは……。自分でもよくわかりません……」
アヤ「ふーん……でもさ、もう今はそういう話じゃないんだよね」
エミ「アヤさん……」
アヤ「私はあの時の連中を一人も許すつもりはないよ、絶対に!」
ユリカ「それは私もです」
アイナ「そうだね、そこは私も同意見」
スズ「同じく」
エミ「……………」
アヤ「エミちゃんはあいつらを許すって事?」
エミ「いいえ、私もそれは通らない事を理解しています……」
ユリカ「ライ……さんが私達に対してすべてを委ねるとおっしゃっているなら話は早いです」
スズ「他の仲間の所在を教えてもらえるかもしれません」
アヤ「そうだよ、そうしたらあいつら全員殺してやれるっ!」
花陽「……………」
ユリカ「…………」
アイナ「…………」
スズ「…………」
アヤ「ど、どうしたのみんな……まさかみんなもあいつらを許すつもりなの!?」
ユリカ「そんなワケないよ。でも……その方法はアヤちゃんとは別……」
アヤ「何言って……」
アイナ「アヤは、アイツら全員殺してやりたいって、思ってるんでしょ?」
アヤ「当たり前じゃない!」
ユリカ「それじゃ……同じになっちゃうよ……」
エミ「…………」
アヤ「同じって……何よそれ…そんな綺麗事……ユリカちゃんがそれを言うの?」
ユリカ「アヤちゃん……あのね…」
アヤ「私の気持ち知ってるくせに! 見てたくせに! ユリカちゃんだけには言われたくないっ!!」ダッ
アイナ「アヤっ!」
スズ「私がっ……」
花陽「待ってください。アヤちゃんには私が。みなさんは話し合いを続けてください」サッ
エミ「ハナヨちゃんっ」
ユリカ「お願いします、ハナヨちゃん」
やっぱりこうなっちゃいましたけど……ここにいるみんなの気持ちがどれ一つ否定できません
抱える問題は同じだけど、その重みはみんな少しづつ違っていて、求める答えはたくさんあります
それでも選ぶべき答えを出さないといけない
-女子寮外
花陽「えっと……」キョロキョロ
家を飛び出したアヤちゃんを探しに出ましたが、アヤちゃんはすぐに見つけられました
花陽「アヤちゃん………」ザッ
アヤ「……………」
アヤちゃんは家のすぐ近くにある川辺に座り込んでいました
蹲り、水面に映る月をじっと見つめているよう……
川の流れる音と玄関付近で寝ているフワちゃんの寝息だけが辺りをつつみます……
花陽「………隣、お邪魔しますね」スッ
アヤ「………ハナヨちゃん」
同じように私も座り、なんとなく視線を夜空に向ける
私が本当の意味でアヤちゃんに寄り添うなんて事はできないけど、少しでも想いを感じられれば……
花陽「あの、アヤちゃん……」
アヤ「ハナヨちゃんも、復讐なんてやめるべきだって思う?」
花陽「え……ん、どうかな……それは私にはわかりません」
アヤ「そうよね。あんな目に遭わない限り、人ってそういうものよね…」
花陽「ん……………」
アヤ「連中にはきっちりと責任、落とし前はつけてもらう。この考えはみんな同じ……でも私は…」
花陽「どうして……その……アヤちゃんは…」
アヤ「…………」
どうしてもこの部分だけがひっかかる……恨むのは当然の事かもしれません
けれどここまでの生活の中で少しづつ変化するものはみんな多かったと思います
だけどアヤちゃんのこの芯の部分……ここだけはずっと揺るぎません
アヤ「わからないって顔してる」
花陽「えっ……うん……」
アヤ「しょうがない……それじゃ…」スッ
花陽「ん?」
アヤちゃんは立ち上がると私に背を向けます
そして着ていた上着に手をかけると、ゆっくりと脱ぎ始めました…
花陽「アヤ………ちゃ……」
アヤ「みんなは知ってるんだけどね、ハナヨちゃんにも見せてあげる……」スル…
月明りの中……アヤちゃんの背中に……それはありました……
花陽「それ………」
アヤ「これがある限り、私は絶対に諦めることはないんだよ…」
アヤちゃんの背中……肩から腰にかけて斜めに大きく、刃物で切り裂かれた傷跡があります
その周りには無数の細かい切り傷……背中全体を覆いつくすほど広がっていました……
そのあまりの衝撃に私は言葉を失います
花陽「…………」
アヤ「ごめんね、さすがにきつくて…前は見せたくないんだ」
花陽「………っ」
アヤちゃんがこの状況で私に見せてくるのなら、疑う余地はありません
これは村が襲撃されたときにつけられた傷……
アヤ「酷いもんでしょ……」スッ
花陽「ん………」
言葉だけで想像していた惨状よりも、そこにある現実は違う衝撃を私にもたらします
以前に一度、本気で殺されそうになった時に感じた深く、冷たいものが背筋を伝う……
彼女は本気で殺されそうになった経験がある
花陽「…………それ…」
アヤ「ん…今日は少しだけ冷えるね……」バッ
そういってアヤちゃんは服を着なおすと、私の隣に腰を下ろす
私はまだ感じたものを言葉にすることができません
何も言えなくなります……何を言っても絶対に気持ちが同じになるなんて事が無いから……
私じゃアヤちゃんに寄り添う事は出来ないと思いました
アヤ「……………」
花陽「……………」
アヤ「ハナヨちゃんも気づいていると思うけどさ、私ソラの事が好きなのよね」
花陽「へっ? あ、ああ……はい、それは……」
アヤ「ま、わかるよね。別に隠してないし」
アヤちゃんのソラくんに対する接し方は可愛い弟とかそういう部類ではないのはわかります
ちゃんと女の子として、アヤちゃんはソラくんの事が好きなんだと思います
でも、どうして今それを……?
アヤ「小さい頃からね、友達の弟ってだけじゃなく、好きだった。可愛いとこも生意気なとこも全部」
花陽「ん……」
アヤ「ソラは見ての通り私の事はたくさんいるお姉ちゃんの一人って意識だけどね」
花陽「年上のお姉ちゃん多いですもんね」
アヤ「私も冗談まじりに将来はソラのお嫁さんになる〜なんてあちこち言いまわっててね、若かったわ」
花陽「あ、はは……」
アヤ「周りのみんなも、将来私達はそうなるんだろうなって、思ってくれてたみたいでね……」
花陽「公認なんですね、いいな……あっ」
口にしてすぐに間違った事を言ってしまったと思いました
今の状況はこれが叶わなかったからあるものなのに……
アヤ「いいよ、そんなに気を使わなくても。終わった事だし」
花陽「……………」
アヤ「そう……終わっちゃったんだよ」
アヤちゃんは淡々と話します
あの日、突然村にやってきた野盗の集団によってすべてが奪われた事……
アヤ「ホントに突然で、何もかもあっという間だった。村に火がつけられ、みんな殺された…」
花陽「…………ぅぅ」
アヤ「父さんも母さんも、目の前で殺されたの」
村の大人達もほとんどが殺されたと聞きました
聞いているだけでも心が痛い……
アヤ「あちこちで人の悲鳴や野盗の笑い声が飛び交う中、必死に逃げて、逃げ回って……」
花陽「………」
アヤ「そんな中ですぐ頭に浮かんだのはソラの事だった。無事なんだろうかって」
アヤ「ソラの家のドアを開けた時に、野盗の奴らに見つかってね……」
花陽「…………」
アヤ「振り向く前にもうバッサリよ……よく即死しなかったものね。あ、さっきの傷ね」
花陽「う………ん…」
アヤちゃんなりの気遣いなのか、淡々と話す中にも軽めの口調がまじる
アヤ「そのまま家の中に倒れこんで、あぁ…私ここで死ぬんだって、そう思った……」
花陽「酷い……」
アヤ「ホントよ……でも、私は死ななかった……」
アヤ「痛いってより熱いって感じで、私が苦しんでるのを野盗の奴が見てた……それでね…」
花陽「え………」
アヤ「突然私の着ている服を強引に引き裂いたの」
花陽「……………」
アヤちゃんの言葉を理解する
考えたくない事なのに、光景を想像させる……アヤちゃんは……
アヤ「私もね、何をされるかすぐに理解したから必死で抵抗したの。そうしたら暴れるたびにナイフで……ね」
花陽「っ………く……ぅ」
こんな事すらも淡々と口にするアヤちゃんの辛さがあまりにも大きすぎて、考えるのも嫌になるくらい……痛い……
アヤ「でもねハナヨちゃん。そんなのは別にいいのよ……いや、良くはないけど、やっぱり大きな問題じゃないの」
花陽「そんな……だって……」
アヤ「私にとって一番きつかったのは……体を汚された事じゃない……もっとも大切にしたい未来を潰された事なんだよ」
花陽「未来……一番大事な……」
アヤ「私が抵抗しなくなって、野盗の奴が事をはじめた頃にはね、もうどうせこのまま死ぬんだろうって、諦めた…」
花陽「……………」
アヤ「そうしたらね、目が合ったの……」
花陽「目……?」
アヤ「家にある大きなソファの下にね、ユリカちゃんとソラが隠れてたの……」
花陽「……………」
体中の感覚が痺れ、震えあがっていく……
私の陳腐な想像力でさえ、そんなの……嫌です…考えたくありません
それでもアヤちゃんは話を止めることなく、変わらない口調で続けます
アヤ「ユリカちゃんが必死にソラを抑えつけていたのを覚えてるよ……すごい顔してた」
花陽「アヤちゃん、もういいよ……」
アヤ「ん、私の言いたい事はその後の事なんだよ」
花陽「後……?」
地獄のような出来事、惨状さえもアヤちゃんはまだ違うと言います
アヤ「いつどのあたりで自分が気を失ったのかわからないけど、気が付いた時はベッドの上だった」
花陽「………」
アヤ「後で聞いたら、スズが助けてくれたらしいんだよね」
花陽「そ、そうなんだ……」
アヤ「もう全身包帯グルグル巻きにされてた。視界も悪いし最悪だったよ……」
花陽「よく無事だったね……」
アヤ「ん……みんなが必死に手当てしてくれてね、命を繋ぎとめてくれたの」
花陽「そう……」
アヤ「動けない私の手をね、ずっとソラが握ってくれてたの」
花陽「ん、ああ……」
アヤ「そうしてね、あの子が言うの……助けてあげられなくてゴメンって……」
花陽「…………」
アヤ「ホント生意気よね、ソラがでてきても何かできたわけでもないのに……ね」
花陽「…………」
アヤ「でも………嬉しかった。ソラの気持ちが伝わってきて。ただ手を握り返す事しかできなかったけど」
アヤ「でも私はそこである事に気がついて、嬉しかった気持ちが一瞬で消し飛んだ…」
花陽「……え?」
アヤ「ソラがね、泣きながら言うの……絶対に仇を取ってやるって……」
花陽「ソラくんが……」
アヤ「わかる……ハナヨちゃん?」
花陽「え……?」
アヤ「私はソラにそういう負い目を感じさせて、トラウマにしちゃったの……私とソラの間にはあの時の出来事が一番強烈に焼き付いてる」
そしてアヤちゃんは、もっとも大切にしていた気持ちさえも淡々と口にして続けました…
アヤ「もう私の'好き’は絶対にソラには届かない……私の生きる目的はそこで途絶えたの」
花陽「そんなこと、ないんじゃ……」
アヤ「ううん。ソラの事よくわかるもん。あの子は優しいから、きっと私の気持ちに応えようとしてくれる……でもね、それって違うのよ…」
ソラくんがアヤちゃんに対して生涯消える事のない負い目を感じている事で、アヤちゃんの純粋な気持ちは届かない……
それは二人の間に決定的な壁として残り続ける
アヤちゃんが復讐を絶対に止めない理由としてこの部分がもっとも大きく影響しているのだと思いました
アヤ「私が思い描く未来はもう絶対に来ない……だったら私って何のために生きてるんだろうって考えてね」
花陽「そんなの他に……あ、いえ……」
アヤ「いくらでもあるって言いたいんだよね? みんなも言ってた」
花陽「ぅぅ………」
アヤ「でも私にとってソラ以外に生きる理由なんてないの。ハナヨちゃんを元の世界に送り届ける過程で死んじゃっても、それはそれでいいと思ってた…」
花陽「え、でも…将来はソラくんのお嫁さんだって……まだ諦めてないってことじゃ」
アヤ「無理に決まってるでしょ。ハナヨちゃんにはわかんないよ」
花陽「ぅぅ………」
アヤ「だからね、私に残された出来る事を考えたの。そうして出した答えたが復讐……」
花陽「それは、自分のため?」
アヤ「ううん。ソラに仇を取るっていう誓いを叶えさせてあげるの。そうしたらソラの中で一つの悲願は達成できるでしょ」
花陽「そうかもしれないけど……」
アヤ「それとね、勇者のスキルっていうのが私にはよく理解できてなかったから深く考えてなかったけど…今は少し後悔してる」
花陽「えっ!?」ドキ
アヤ「どうせなら死なない身体より、私かソラの記憶を消して欲しかったっていうのが本音っ」
花陽「それは………ごめんなさい」
アヤ「ハナヨちゃんは悪くないよ。現実的な問題としても今みんなが笑顔でいられるのってハナヨちゃんのおかげだし」
花陽「それでも……ちゃんと話を聞いていれば違う道も……」
アヤ「それは今だから言えるだけで、きっとこれが正しかったって、いつか言えるよ」
花陽「アヤちゃん……」
アヤ「私も感謝してるよ。私だって他のみんなは好きだし大切だからさ……でもね」
ずっとここまで自分の感情を押し殺すように淡々としていたアヤちゃんの感情がここにきて揺らぎました
それはずっと主張してきたアヤちゃんの生きる目的……
アヤ「例えハナヨちゃん達が反対しても、私はあいつらを殺す事はやめないよ。一人になってもね!」
花陽「アヤちゃん……」
アヤ「それでもまだ、私を止める? ハナヨちゃん……」
正直、同情や哀れみなんて簡単な言葉では決してアヤちゃんの気持ちは理解できないし、寄り添う事も出来ない
その固い決意を打ち破るには、同じくらい固い決意がないと不可能です
花陽「私と一緒にアイドルのライブをやってくれる話は、嘘ですか?」
アヤ「ん、嘘じゃないよ。みんなが楽しそうにしてるならそれに協力するのは嫌じゃないし。ただ、優先順位が違うんだよ」
花陽「そうですか。でも私はみんなとアイドルをやりたいです。そしてアイドルは誰かに夢や希望を与える存在です」
アヤ「ハナヨちゃんにピッタリだね」
花陽「ありがとうございます。でもそれは、他のみんなも一緒です。勿論アヤちゃんも必要なんです」
アヤ「……………」
私がみんなを心から助けたいと思って考えた唯一の方法であり、そのために必要ならなんだってやります
エミちゃんの問題だってなんとかなったんです。だから私だって諦めません
花陽「ハッキリ言います。アヤちゃんに誰かを殺して欲しくありません。復讐は諦めてもらいます」
アヤ「私もハッキリ言うわ。それなら私は私で好きにやるから、ここを出ていく、この傷に誓ってね」
花陽「それもダメです。アヤちゃんの行動は違う誰かを悲しませる事になりますから……だからアヤちゃん…」
アヤ「…………なによ」
花陽「私と……ケンカしましょうっ!」
このかよちんどんな問題も真剣に考えてるし、色んな価値観を尊重した上で自分の信じる善意を貫こうとしてるから安心して読める
頑張れかよちん…… アヤ「ケンカって……殴り合うの?」
花陽「そうですっ!」
凛ちゃん達が読んでいた漫画にもありました
お互い譲れない意見があるときは拳で語り合うのだそうです!
そしてそれが終わるころには二人の間に芽生える友情……!
打ち解け合い、心が通うのです!
アヤ「え…無理……やる意味がわかんないし、勇者に勝てる気なんてしないし……」
花陽「あれ………」
アヤ「どうせあれでしょ、勝ったら言う事聞けとか、そういう事いうんでしょ?」
花陽「え……あ……まぁ…はい」
アヤ「やるわけないじゃん、そんなの」
花陽「で、ですよね……」
普通に考えてもこのノリが通じる相手じゃないのはわかるのに…ぅぅ……
正直どうやってアヤちゃんの意識を変えられるのか、いい考えが思い浮かびません
花陽「ぬー……ぅぅー…」
アヤ「……………」
気持ちとしてはみんなの事は好きでいてくれているのに、その感情はすごくドライ……
すべてはソラくんとの事、たった1つ……それだけでアヤちゃんの優しさや愛情が塞き止められています
それはとっても哀しい事なんです……やっぱりダメ……
花陽「んん……」
アヤ「ぷふっ……もう、なんて顔してんの」
花陽「……えっ?」
アヤ「私の事でそんな顔しないでよ」
花陽「……だって」
アヤ「ハナヨちゃんが真剣に考えてくれてるのはわかってるよ。ただ譲れないだけ」
花陽「それはわかります……でもそれは…」
アヤ「私も同じって言いたいんでしょ?」
花陽「……はい」
だからお互い引けないのに、アヤちゃんの主張はみんなを悲しませる事になってしまう
アヤちゃんもそれをわかっているのに、少しだけ自棄になっているような印象も受ける……
まぁその原因が……
花陽「…………っ?」ハッ
アヤ「ん、どうしたの?」
花陽「………………んん?」
アヤ「私の顔になにかついてる?」
花陽「……………」
ちょっと引っかかった部分があるので、それを組み込んで一度予想します
もしかしたらこれでアヤちゃんとケンカできるかもしれません
いやまぁ……ケンカしたいってわけじゃないんですけど、これしか方法がないのなら……
花陽「……………」ジー
アヤ「……ちょっとホントになんなの?」
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
花陽「あっ……いけた」
アヤ「え、いまのってなんかヤバイスキルなんじゃ?」
花陽「ヤバくはないですよ、ただ自分の考えがうまくいくよって、背中を後押ししてくれるのですっ」
ということは……ふむ
アヤ「うまくいくって……今の状況だと私は嫌な予感しかしないんですけど?」
花陽「ふふ、もう怖いものなしですよっ」サッ
アヤ「あ、そんな嫌らしい顔もできるんだね」
花陽「アヤちゃんにとってもきっとプラスになるはずですっ」
アヤちゃんの考える理想というのが、ソラくんとの関係です
村での出来事がトラウマになっていて、それがずっと心にひっかかっていると……
でも、スキルのおかげで分かりました
トラウマになっているのはアヤちゃんのほうです
花陽「どんなに強い言葉で言いきっても、根っこの部分…心がずっと沈んだまま。だからアヤちゃんっ!」ガッ
アヤ「は、はいっ!?」
花陽「ソラくんにちゃんと告白しましょう!」
アヤ「えっ………は、はぁ!?」
花陽「あ、いやでも…アイドルになるなら恋愛はダメなんでしたっけ?」
アヤ「な、何言ってのよバカじゃない!?」
花陽「顔が赤くなってますよ」
アヤ「うるさいっ! しないわよ絶対!」
花陽「どうしてしないんですか?」
アヤ「どうしてって……さっきの話聞いてなかったの!?」
花陽「周囲にもバレバレなくらいソラくん大好きアピールしてたことですか?」
アヤ「違うわよっ!」
花陽「わかってますよ。あえて明るく話すようにしてたんですよね」スッ
アヤ「そんなわけっ……」
ギュッ
花陽「ごめんなさい、意地悪な事いって…」
アヤ「だからそんな……」
花陽「いいんです……ちょっとズルイ方法でしたけど、気づいてあげられたから……」
アヤ「……っ!」
さっきだってそうです。私がアヤちゃんの事を本気で悩んでいるのを知ったから、あえて明るく見せてくれました
みんなの前でもそう……。誰もが心の奥底で悩み苦しんでいる事を最初に口に出して、意識させてくれます
本当は、あの中で誰よりも復讐なんて望んでいないのに
花陽「ホント……私よりよっぽど優しいんですから……」ギュゥ
アヤ「ぅ………言わ………ないで……っ」グッ
ソラくんが大好き……そして同じくらい、みんなの事が大好きなアヤちゃん
みんなを悲しませないために、自身の苦しい部分を飲み込み続けたアヤちゃん
ソラくんに意識させているなんて嘘…。ホントはそうなる現実が怖くて仕方ないんだよね
花陽「でもねアヤちゃん。友達や家族……どれも大切な人達だからこそ、アヤちゃんが辛いのを助けてあげたいんだよ、みんな」
アヤ「ぇぅっ……だって……私、そんなキャラじゃないし……私が泣いたら……みんな……」
花陽「一人で苦しみ続けるキャラなんて、もうやめちゃいましょう。そんなの誰も嬉しくありません」
たった1つ……スキルのおかげで知る事ができたものがあります
それはソラくんとアヤちゃんの関係が今より良いものとなるかどうかです
本当にソラくんにとってあの時の出来事はトラウマになるほど重いものなのか
もちろそんな軽い出来事だったわけじゃありません。それでも若いソラくんにとって憤りを感じるには十分でも重荷になっていたのでしょうか?
答えはノーです
ソラくんだって悔しくて辛い体験だったでしょう
でも、それでアヤちゃんに対して壁を作るなんてことはないんです。なんか話だけ聞いてるとすごい鈍感さんなようですし
そしてそれをアヤちゃんもよくわかっています
じゃあどうしてこういう態度を取るのか……それが答え
すべて、アヤちゃんがみんなのために作ってくれたキャラクターなのです
もしかしたら昔からそうあろうとしてきたのかもしれません
花陽「さあアヤちゃん、さっきも言いましたけど、ケンカしますよ!」
アヤ「………ふぇっ?」
だったら私が助けてあげられる方法は、やっぱりこれしかありません!
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